2024-12-23

13. ウィグナーの $\D$ 関数とその応用 vol.3

13.2 ウィグナー-エッカルトの定理


リー群 $G$ で対称性が記述される物理系において、あるテンソル演算子 $Q^A$ に注目しよう。前節で解説したように状態は $G$ の表現 $R$ とその表現に属す特定のベクトル、例えば $\al$ で指定できる。対称性のもとで状態 $| R ,\al \ket$ の変換は群の要素 $U(\th ) \in G$ を作用させることにより実行できる。ただし、$\th$ は群のパラメータを表す。今節では、任意の階数をもつテンソル演算子 $Q^A$ の行列要素を考える。一般にそのような行列要素は
\[    \bra R^\prime , \al | Q^A | R , m \ket    \, = \,    \bra R^\prime , \al | U  U^{-1}   Q^{A} U U^{-1}| R , m \ket     \tag{13.58} \]
と表せる。対称性のもとで $Q^A$ の変換は $Q^{\prime A } = U^{-1} Q^{A} U $ で与えられる。状態 $U^{-1}| R , m \ket$ は同じ表現に属する状態の線形結合で表せることに注意する。定義より、これはウィグナー $\D$ 関数を用いて
\[    U^{-1} | R , m \ket    \, = \,    \sum_n  \D^{(R)}_{mn} ( g ) | R, n \ket     \tag{13.59} \]
と展開できる。

 簡単な例として、回転のもとでの位置演算子 $x^a$ $(a = 1,2,3)$ を考えよう。対応する群は $G = SO(3)$ であり、群の要素は $U (\th ) = \exp ( i L^a \th^a )$ で与えられる。ただし、$L^a = \ep^{abc} x^b p^c $ は角運動量演算子である。2.1節で解説したように、$L^a$ と $x^b$ は交換関係
\[    \left[ L^{a} , x^{b} \right] \, = \, i \ep^{abc} x^c     \tag{13.60} \]
を満たす。これは、位置演算子 $x^a$ が回転のもとでベクトルとして変換することを示す。実際、微小な $\th^a$ において $x^a$ は
\[\begin{eqnarray}    U^{-1} (\th ) x^{a} U (\th ) & \approx &    ( 1- i L^b \th^b ) x^a ( 1 + i L^c \th^c )    \nonumber \\    & \approx &    x^a - i [ L^b , x^a ] \th^b    \nonumber \\    &=&    x^a + \ep^{bac} x^c \th^b    \nonumber \\    &=&    \left( \del^{ab}  + i (-i \ep^{abc} )\th^c  \right) x^b    \nonumber \\    &=&     \left( {\bf 1} + i T^c \th^c  \right)^{ab} x^b    \tag{13.61} \end{eqnarray}\]
と変換する。ただし、$( T^c )^{ab} = - i \ep^{abc}$ である。よって、$x^{\prime a } = U^{-1}  x^{a} U $ は
\[    x^{\prime a }   \, = \, \D^{ab} ( g ) \, x^b     \tag{13.62} \]
と表せる。ここで、$\D^{ab} ( g)$ は随伴表現に属す $SO(3)$ 群の要素である。
\[    \D^{ab} ( g) \, = \, \exp \left[ i ( T^c )^{ab} \th^{c} \right]     \tag{13.63} \]
これは $3 \times 3$ 行列で表せる $SO(3)$ 群のスピン1表現でもある。

 極座標を用いると座標 $x^a$ は
\[    (x^1, x^2 ,x^3 ) \, = \,     ( r \sin \vartheta \cos \varphi , \, r \sin \vartheta \sin \varphi , \, r \cos \varphi )     \tag{13.64} \]
と書ける。位置演算子の球面基底 (spherical basis)
\[    x^{\pm } = \frac{1}{\sqrt{2}} ( \mp x^1 - i x^2 ) \, , ~~ x^3     \tag{13.65} \]
で与えられる。これらは球面調和関数 $Y_l^m ( \vartheta , \varphi) $ で $l = 1$ を固定し $m = 0, \pm 1$ としたものに比例する。回転のもとで動径距離 $r$ は不変なので、変換(13.62)は
\[    x^m \, = \, r \, Y_1^m ( \vartheta , \varphi) \, \longrightarrow \,     x^{m^\prime  } \,= \, r \, \D^{m^\prime m} ( g ) \,  Y_1^m ( \vartheta , \varphi )     \tag{13.66} \]
と表せる。ただし、$\D^{m^\prime m} ( g )$ は $SO(3)$ 随伴表現の行列要素である。これは $SO(3)$ スピン1表現のウィグナー $\D$ 関数
\[    \D^{m^\prime m} ( g ) \, = \,  \D_{m^\prime m}^{(l = 1)} ( g )      \tag{13.67} \]
と同じである。

 同様に、階数2の対称テンソル
\[    T^{ab} = x^a x^b - \frac{1}{3} \del^{ab} x^2     \tag{13.68} \]
も球面調和関数 $Y_l^m ( \vartheta , \varphi) $ で $l = 2$ と固定し、$m = 0, \pm 1 , \pm 2$ とおいたものに比例する。回転のもとで $T^m = r^2 Y_2^m ( \vartheta , \varphi) $ の変換は
\[    T^m \, = \, r^2 \, Y_2^m ( \vartheta , \varphi) \, \longrightarrow \,    T^{m^\prime  } \,= \, r^2 \, \D_{m^\prime m}^{(l = 2)} ( g ) \,  Y_2^m ( \vartheta , \varphi )    \tag{13.69} \]
と表せる。ただし、$\D_{m^\prime m}^{(l = 2)} ( g ) $ は $SO(3)$ スピン2表現のウィグナー $\D$ 関数である。

 これらの例から、対称性のもとでテンソル QA は群 G の表現 R として変換することが分かる。具体的には、リー群 $G$ のユニタリー既約表現を $R$ とすると、$R$ に属すテンソル演算子 $Q^A$ の変換は
\[    U^{-1} (\th ) \, Q^{A} \, U  (\th )    \, = \,    \D^{(R)}_{AB} ( g ) \, Q^B    \tag{13.70} \]
と表せる。ただし、$\D^{(R)}_{AB} ( g )$ は群 $G$ の表現 $R$ に属すウィグナー $\D$ 関数である。

 ここで、冒頭(13.58)の行列要素 $\bra R^\prime , \al | Q^A | R , m \ket $ に戻り、これをウィグナー $\D$ 関数で表すことを考えよう。すでに(13.59)で状態 $U^{-1}| R , m \ket$ はウィグナー $\D$ 関数で展開できることを見た。この複素共役は
\[    \bra R^\prime , \al | U (\th )    \, = \,    \sum_{\bt} \bra R^\prime , \bt |  \D^{(R^\prime )*}_{\al \bt} ( g )     \tag{13.71} \]
と表せる。 式(13.59), (13.70), (13.71)から行列要素(13.58)は
\[    \bra R^\prime , \al | Q^A | R , m \ket \, = \,    \sum_{\bt ,n }     \D^{(R^\prime )*}_{\al \bt} (g ) \,  \D^{(R^{\prime\prime})}_{AB} ( g ) \, \D^{(R)}_{mn} (g )    \, \bra R^\prime , \bt | Q^B | R , n \ket     \tag{13.72} \]
と書ける。ただし、テンソル演算子 $Q^A$ は表現 $R^{\prime \prime}$ に属し、これは必ずしも $R$ あるいは $R^\prime$ に一致しないことに注意する。関係式(13.72)は全ての $\th$ つまり任意の群の要素について成り立つので、
\[\begin{eqnarray}    && \bra R^\prime , \al | Q^A | R , m \ket \nonumber \\    &=&  \int   d V (g) \sum_{\bt , n}    \frac{\D^{(R^\prime )*}_{\al \bt}(g) \, \D^{(R^{\prime\prime})}_{AB} (g) \, \D^{(R)}_{mn} (g) }{(\mbox{$G$ の体積} )}    \bra R^\prime , \bt | Q^B | R , n \ket    \tag{13.73} \end{eqnarray}\]
と書き換えることができる。ここで、 $\D^{(R^{\prime\prime})}_{AB} (g) \, \D^{(R)}_{mn} (g)$ の因子は
\[\begin{eqnarray}    \D_{AB}^{(R^{\prime\prime})} (g) \, \D_{mn}^{(R)} (g)    & = &  \bra R^{\prime\prime} , A | \hat{g} | R^{\prime\prime} , B \ket     \bra R , m | \hat{g} | R , n \ket     \nonumber \\    &=&      \sum_{\widetilde{R}, \la, \si}    {C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si}}^*    C^{R^{\prime\prime}R \widetilde{R}}_{Bn \la} \,    \bra \widetilde{R} , \si |    \hat{g}    | \widetilde{R} , \la \ket    \nonumber \\    &=&    \sum_{\widetilde{R}, \la, \si}    {C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si}}^*    C^{R^{\prime\prime}R \widetilde{R}}_{Bn \la} \,    \D_{\si\la}^{(\widetilde{R})} (g)    \tag{13.74} \end{eqnarray}\]
と計算できる。ただし、$C^{R^{\prime\prime}R \widetilde{R}}_{Bn \la}$ と $C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si}$ はクレブシュ-ゴルダン係数であり、2状態の合成に関するクレブシュ-ゴルダンの定理(13.5)から次のように定義される。
\[\begin{eqnarray}    | R^{\prime\prime} , B \ket \otimes | R ,n \ket    &=&    \sum_{\widetilde{R} , \la}    C^{R^{\prime\prime}R \widetilde{R}}_{Bn \la}    | \widetilde{R} , \la \ket    \tag{13.75}\\    \bra R^{\prime \prime} , A | \otimes \bra R , m |    &=&    \sum_{\widetilde{R} , \si}    {C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si}}^*    \bra \widetilde{R} , \si |     \tag{13.76} \end{eqnarray}\]
${C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si}}^* = \left( C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si} \right)^* = C^{R^{\prime\prime *} R^* \widetilde{R}^* }_{A m \si}$ は係数 $C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si}$ の共役表現である。また、式(13.74)内の群の要素 $\hat{g}$ は同じ表現 $\widetilde{R}$ に属し、これらの合成も定義から同じ表現に属す。

2024-12-16

13. ウィグナーの $\D$ 関数とその応用 vol.2

ピーター-ワイルの定理

 前回のエントリーではリー群 $G$ 上で定義されるウィグナーの $\D$ 関数
\[\begin{eqnarray}    \D_{\al\bt}^{(R)} (g )    &=&    \left[ e^{i (T^a ) \th^a} \right]_{\al \bt}    \nonumber \\    &=&    \bra R , \al | e^{i \hat{T}^a \th^a } | R , \bt \ket    \tag{13.36} \end{eqnarray}\]
を導入した。リー群上の関数について、ピーター-ワイルの定理と呼ばれる重要な定理が存在する。その主張は以下の通り。
コンパクトなリー群 $G$ 上で定義される任意の関数 $f(g)$ はウィグナー $\D$ 関数 $\D_{\al\bt}^{(R)} (g)$ を用いて展開できる。ただし、$R$ は $G$ のユニタリー既約表現を表す。展開式は具体的に\[    f(g) \, = \, \sum_{R} \sum_{\al , \bt} b_{\al\bt}^{(R)} \,    \D_{\al\bt}^{(R)} (g)    \tag{13.38} \]と表せる。ただし、$b^{(R)}_{\al\bt}$ は展開係数である。
最も簡単な例は $U(1)$ 群で与えられる。群の要素は $g = e^{i \th}$ $( 0 \le \th \le 2 \pi )$ で与えられる。任意の表現に対して、この要素は $g_n = e^{in \th}$ $( n \in \mathbb{Z} )$ とパラメータ表示できる。これは $g_n ( \th = 0 ) = g_n ( \th = 2 \pi )$ が満たされることから分かる。ピーター-ワイルの定理を適用すると、$\th$ についての任意の周期関数は
\[    f (\th ) \, = \, \sum_{n = -\infty}^{\infty} b_n e^{in \th}     \tag{13.39} \]
と展開できることが分かる。これは $f (\th )$ のフーリエ展開に他ならない。よって、ピーター-ワイル展開(13.38)はフーリエ展開(13.39)の群論的な一般化と見做せる。フーリエ逆変換の存在から、(13.38)の逆変換を定義するには群の要素 $g$ に関する積分が必要であることが分かる。

リー群要素の積分

 12.2節で解説したように、フレーム場1形式は
\[    g^{-1} d g \, = \, i t^a E^a_\al d \th^\al      \tag{13.40} \]
で定義される。フレーム場 $E^a_\al$ を用いると、カルタン-キリング計量は
\[    g_{\al \bt} \, = \, E^a_\al E^a_\bt     \tag{13.41} \]
と表せる。これらについて詳細は12.2節の(12.25)-(12.28)を参照されたい。正の行列式 $\det E > 0$ を仮定すると、(13.41)から $\sqrt{| \det g |} = \det E$ が分かる。よって、リー群 $G$ の体積要素は
\[    d V (g) \, = \,  \det E \, d \th^1 d \th^2 \cdots d \th^{{\rm dim}G}     \tag{13.42} \]
で与えられる。

 ここで、ある固定された群の要素 $h \in G$ を用いて $g$ の代わりに $gh$ を変数として扱う。つまり、
\[\begin{eqnarray}    ( gh )^{-1} d (gh) &=& i t^a E^{\prime a}_{\al} d \th^\al     \tag{13.43}\\    d V (gh ) &=& \det E^\prime \, d \th^1 d \th^2 \cdots d \th^{{\rm dim}G}     \tag{13.44} \end{eqnarray}\]
とする。(13.43)の左辺は
\[    h^{-1} ( g^{-1} d g  ) h \, = \, h^{-1} ( i t^a E^a_\al d \th^\al ) h    \, = \, \D^{ab} (h) ( i t^b E^a_\al d \th^\al )    \tag{13.45} \]
と計算できる。ただし、随伴表現
\[    h^{-1} t^a h \, = \, \D^{ab} (h ) t^b     \tag{13.46} \]
を導入した。(13.43)と(13.45)から
\[    E^{\prime b}_{\al} \, = \, \D^{ab} (h ) E^a_\al     \tag{13.47} \]
が分かる。これを行列方程式 $E^{\prime}_{\al b} = E_{\al a} \D_{ab}(h)$ と解釈して、行列式を取ると
\[    \det E^\prime \, = \, \det E \, \det \D (h)    \tag{13.48} \]
を得る。ただし、$\D (h) = \exp ( i T^c \th^c )$ である。前回冒頭で解説したように、随伴表現の生成子は $(T^c )_{ab} = - i f^{c}_{ab}$ と構造定数で与えられる。これは添え字について反対称なので、$\Tr T^c = 0$ となる。つまり、任意のコンパクトなリー群の随伴表現に対して $\det \D (h ) = 1$ が常に成り立つ。したがって、$\det E^\prime = \det E$ であり、体積要素の不変性
\[    d V ( gh ) \, = \, d V (g )     \tag{13.49} \]
が導かれる。これは、実変数の積分測度が、例えば $d (x+ h) = dx$ と書けるように、並進不変であることの群論的な類推であると解釈できる。

 別のフレーム場を $\widetilde{E}^a_\al$ で表し、
\[    dg \, g^{-1} \, = \,  i t^b \widetilde{E}^b_\al \th^\al     \tag{13.50} \]
と定義する。このとき、フレーム場1形式
\[    g^{-1} d g \, = \, i t^a E^a_\al d \th^\al      \tag{13.40} \]
は次のように変形できる。
\[\begin{eqnarray}    g^{-1} d g  \, = \,  g^{-1} ( dg \, g^{-1} ) g    &=& i (g^{-1} t^b  g ) \, \widetilde{E}^b_\al \th^\al    \nonumber \\    &=& i \D^{ba} (g) t^a \, \widetilde{E}^b_\al \th^\al     \tag{13.51} \end{eqnarray}\]
これより関係式
\[    E_\al^a \, = \, \D^{ba} (g) \, \widetilde{E}^b_\al   \tag{13.52} \]
を得る。よって、上と同様に $\det E = \det \widetilde{E}$ が求まる。これは、$g^{-1} d g$ で定義された(13.42)の体積要素 $d V (g)$ が $dg \, g^{-1}$ で定義された体積要素と同じであることを意味する。言い換えると、体積要素は右作用、左作用に関わらず同じである。

大直交性定理

 体積要素 $d V (g)$ を用いると、群の要素 $g$ についての積分を定義できる。この積分が定義されれば、群の要素の様々な関数についての積分を考えられる。例えば、ウィグナー $\D$ 関数の直交関係は
\[    \int d V (g) ~ \D^{(R)*}_{\al \bt } (g )    \D^{(R^\prime )}_{mn} ( g)    \, = \,    \frac{1}{ ({\rm dim} R) } \del_{\al m} \del_{\bt n} \del^{R R^\prime}     \tag{13.53} \]
と表せる。ただし、${\rm dim} R$ は表現 $R$ の次元である。この関係式はコンパクトなリー群の行列表現一般に成り立ち、大直交性定理として知られている。この直交関係は次のように示される。
\[\begin{eqnarray}    && \int dV (gh)~ \D_{\al \bt}^{(R)*} (gh ) \D_{mn}^{( R^\prime ) } ( gh ) \nonumber \\    &=& \int d V (g) ~\D_{\al \ga}^{(R)*} (g) \D_{\ga \bt}^{(R)*} (h) \D_{mk}^{( R^\prime )}(g) \D_{kn}^{(R^\prime )}(h)    \nonumber \\    &=& \left[ \int d V(g)~\D_{\al \ga}^{(R)*} (g)  \D_{mk}^{( R^\prime ) } ( g ) \right] \, \D_{\ga \bt}^{(R)*} (h) \D_{kn}^{(R^\prime )}(h)  \nonumber \\    &=& \left[ \int d V(g) ~ \D_{\al \ga}^{(R)*} (g)  \D_{mk}^{( R^\prime ) } ( g ) \right] \, \D_{ \bt \ga}^{(R)} (h^\dag ) \D_{kn}^{(R^\prime )}(h)  \tag{13.54} \end{eqnarray}\]
この方程式は $h$ と独立に成り立つことに注意する。表現 $R$, $R^\prime$ がユニタリーで既約なので、(13.54)から $h$ 因子を除くには、角括弧の中の積分に $\del_{\ga k}$ と $\del^{R R^\prime}$ が含まれることが要請される。同様に、$gh$ を $hg$ に置き換えると
\[\begin{eqnarray}    && \int dV (hg )~ \D_{\al \bt}^{(R)*} (hg ) \D_{mn}^{( R^\prime ) } ( hg ) \nonumber \\    &=& \int d V (g) ~ \D_{\al \ga}^{(R)*}(h) \D_{\ga \bt}^{(R)*} (g) \D_{mk}^{( R^\prime )}(h) \D_{kn}^{(R^\prime )}(g)    \nonumber \\    &=& \left[ \int d V(g) ~ \D_{\ga \bt}^{(R)*} (g)  \D_{kn}^{(R^\prime )}(g) \right] \, \D_{\ga \al }^{(R)}(h^\dag) \D_{mk}^{( R^\prime )}(h)   \tag{13.55} \end{eqnarray}\]
となるので、上式の角括弧の中の積分は $\del_{\ga k}$ に比例することが分かる。以上から、規格化を考慮するとウィグナー $\D$ 関数の大直交性定理(13.53)が得られる。

2024-12-12

13. ウィグナーの $\D$ 関数とその応用 vol.1

 13.1 ウィグナーの $\D$ 関数


随伴表現

 まず最初に $SU(N)$ 群の随伴表現を考える。12.2節と同様に群の要素は $g = \exp ( i t^a \th^a )$ $(a = 1,2, \cdots , N^2 -1 )$ と表せる。ただし、$t^a$ は $SU(N)$ 代数の生成子であり、$N \times N$ トレース・ゼロのエルミート行列で与えられる。規格化は(慣例として) $\Tr ( t^a t^b ) = \hf \del^{ab}$ と取る。生成子 $t^a$ を用いると $SU(N)$ 代数は
\[    [ t^a , t^b ] \, =  \, i f^{abc} t^c \tag{13.1} \]
と定義される。ここで、$f^{abc}$ は代数の構造定数 である。任意の $N \times N$ 行列 $\Phi$ は生成子 $t^a$ と $N \times N$ 恒等行列 ${\bf 1}$ で $\Phi = \phi^a t^a + \phi^0 {\bf 1}$ と展開できる。$\phi^a$ と $\phi^0$ は $N^2$ 個の係数を表す。

 つぎに、随伴表現を導入するに当たり、行列 $g^{-1} t^a g$ を考えよう。関係式 $\Tr (g^{-1} t^a g ) = \Tr ( t^a ) = 0$ から、この行列は
\[    g^{-1} t^a g \, = \, \D^{ab} (g ) \, t^b    \tag{13.2} \]
とパラメータ表示できる。ただし、$\D^{ab} (g)$ は展開係数を表す。この表示形式を用いると群の要素の合成 $g_1 g_2 = g_3$ に対して、
\[    \D^{ab} ( g_1 ) \, \D^{bc} ( g_2 ) \, = \, \D^{ac} (g_3 )    \tag{13.3} \]
が成り立つ。よって、$\D^{ab} (g )$ をある行列の行列成分 $(a, b)$ と解釈すると $\D^{ab} (g )$ は$SU(N)$ 群の表現を成す。この表現を随伴表現を呼ぶ。

 群の要素 $g$ の無限小展開は微小の $\th^a$ に対して $g = \exp ( i t^a \th^a ) \approx 1 + i t^a \th^a$ と表せる。同様に、$\D^{ab} (g ) \approx \del^{ab} + i (T^c )^{ab} \th^c$ と書ける。ただし、$(T^c )^{ab}$ はリー代数の要素の随伴表現である。式(13.2)の無限小展開は
\[\begin{eqnarray}    ( 1 - i t^b \th^b ) t^a ( 1 + i t^c \th^c )    & = &    t^a + i [ t^a , t^c ] \th^c + \cdots    \nonumber \\    & \approx &    \del^{ab} t^b + i \left( -i f^{cab} \right) \th^c t^b    \tag{13.4} \end{eqnarray}\]
と計算できるので、$(T^c )^{ab} = - i f^{cab}$ が分かる。従って、リー代数の随伴表現は構造定数で与えられる。なお、構造定数のヤコビ律
\[ f^{abd} f^{cde} + f^{bcd} f^{ade} +f^{cad} f^{bde} \, = \, 0 \tag{12.13} \]
から $(T^c )^{ab}$ が $SU(N)$ 代数に従うことが確認できる。

クレブシュ-ゴルダンの定理

 行列演算子が作用する状態はヒルベルト空間上で定義され、これは内積の定義される一種のベクトル空間である。それぞれの状態は $| R, \al \ket $ と表示される。ただし、$R$ は群の既約表現であり、$\al$ は表現 $R$ に属すベクトルを指定する。これらの状態の直積は
\[    | R , \al \ket \otimes | R^{\prime} , \bt \ket \, = \, \sum_{R^{\prime\prime} , \ga}   C^{RR^{\prime} R^{\prime\prime}}_{\al \bt \ga}    | R^{\prime \prime} , \ga \ket    \tag{13.5} \]
と表せる。ここで、$C^{RR^{\prime} R^{\prime \prime}}_{\al \bt \ga}$ は展開係数であり、クレブシュ-ゴルダン係数と呼ばれる。クレブシュ-ゴルダンの定理によるとクレブシュ-ゴルダン係数は群の性質から完全に決定される。

SU(3) 群のクレブシュ-ゴルダン係数

 簡単な例として、$SU(3)$ 群の ${\bf 3}$ 表現の直積を考えると12.3節で議論したように
\[    {\bf 3} \otimes {\bf 3} \, = \, {\bf 6} \oplus {\bf 3}^*      \tag{13.6} \]
であった。${\bf 3}$ 表現のテンソルをそれぞれ $\phi_i$ と $\chi_j$ $(i,j = 1,2,3)$ とすると、これらの積は階数2のテンソル $V_{ij} = \phi_i \chi_j$ で表せる。以前同様、この合成テンソルは対称成分と反対称成分に分離できる。
\[\begin{eqnarray}    V_{ij} & = & V_{(ij)} +  V_{[ij]}    \nonumber \\    &=& \frac{1}{2} \left( \del_i^k \del_j^l + \del_i^l \del_j^k  \right)  V_{kl}      + \frac{1}{2} \left( \del_i^k \del_j^l  - \del_i^l \del_j^k  \right)  V_{kl}      \nonumber \\    &=&  \frac{1}{2} \left( \del_k^i \del_l^j + \del_l^i \del_k^j \right)  \Psi_{kl}     + \frac{1}{2} \ep_{ijm}  \Psi^m    \tag{13.7}\end{eqnarray}\]
ただし、関係式 $\del_i^k \del_j^l  - \del_i^l \del_j^k = \ep_{ijm} \ep^{klm}$ と定義式 $\Psi^m \equiv \ep^{klm} V_{kl}$ を用いた。$\Psi_{ij}$ は表現 ${\bf 6}$ に属す階数 $(2,0)$ のテンソル、$\Psi^m$ は表現 ${\bf 3}^*$ に属す階数 $(0,1)$ のテンソルをそれぞれ表す。$SU(3)$ 群の既約表現とそのテンソル表示の一例は以下の通り。(12.3節から再掲)
\[ \begin{array}{cclcccl} \hline (p, q) & {\rm 次元}& &~~& (p, q) &{\rm 次元} & \\ \hline  (1, 0) & {\bf 3}&  \Psi_i &~~& (3, 0) & {\bf 10}& \Psi_{ijk} \\ (0, 1) & \,\,{\bf 3}^* & \Psi^i &~~& (0, 3) & \,\,{\bf 10}^*  & \Psi^{ijk} \\ (2, 0) & {\bf 6} & \Psi_{ij} &~~& (2, 1) & {\bf 15} & \Psi_{ij}^{k} \\ (0, 2) & \,\,{\bf 6}^*  & \Psi^{ij} &~~& (1, 2) & \,\,{\bf 15}^*  & \Psi_{i}^{jk} \\ (1, 1) & {\bf 8} & \Psi_{i}^{j}  &~~& (2, 2) & {\bf 27} & \Psi_{ij}^{kl} \\ \hline \end{array} \]
今の場合、還元公式(13.5)は具体的に
\[\begin{eqnarray}    | {\bf 3}, i \ket \otimes | {\bf 3} , j \ket &=&    C_{ij(kl)}^{\bf 336} | {\bf 6} , kl \ket \oplus C_{ijm}^{{\bf 33}{\bf 3}^*} | {\bf 3}^* , m \ket     \tag{13.8} \\    C_{ij(kl)}^{\bf 336} &=& \frac{1}{2} \left( \del_k^i \del_l^j + \del_l^i \del_k^j \right)     \tag{13.9} \\    C_{ijm}^{{\bf 33}{\bf 3}^*} &=& \frac{1}{2} \ep_{ijm}     \tag{13.10} \end{eqnarray}\]
と書ける。これらの共役表現は
\[\begin{eqnarray}    {\bf 3}^* \otimes {\bf 3}^* &=& {\bf 6}^* \oplus {\bf 3}      \tag{13.11} \\    | {\bf 3}^*, i \ket \otimes | {\bf 3}^* , j \ket &=&    C_{ij(kl)}^{{\bf 3}^* {\bf 3}^* {\bf 6}^*} | {\bf 6}^* , kl \ket \oplus     C_{ijm}^{{\bf 3}^* {\bf 3}^* {\bf 3} } | {\bf 3} , m \ket     \tag{13.12} \\    C_{ij(kl)}^{{\bf 3}^* {\bf 3}^* {\bf 6}^*} &=& \frac{1}{2} \left( \del^k_i \del^l_j + \del^l_i \del^k_j \right)     \tag{13.13} \\    C_{ijm}^{{\bf 3}^* {\bf 3}^* {\bf 3}} &=& \frac{1}{2} \ep^{ijm}     \tag{13.14} \end{eqnarray}\]
と表せる。

 同様に、表現 ${\bf 3}$ のテンソルと表現 ${\bf 3}^*$ のテンソルの直積は
\[\begin{eqnarray}    V_i^j & = & \Psi_i^j  \, + \, \frac{1}{3} \del_i^j \Tr (V)    \nonumber \\    &=& \del_i^k \del_l^j \, \Psi_k^l \, + \, \frac{1}{3} \del_i^j \, V_k^k    \tag{13.15} \end{eqnarray}\]
で与えられる。ただし、$\Psi_i^j$ は $V_i^j$ のトレース・ゼロ成分 ($\Psi_i^i = 0$) であり、上の表の随伴表現 ${\bf 8}$ に対応する。因子 $\frac{1}{3}$ は $\del_i^i = 3$ のため必要となる。この式は5.3節の関係式
\[ T^{i}_{j} = (T_{{\rm traceless}})^{i}_{j} + \frac{1}{3} \, \del^{i}_{j} \, T^{k}_{k} \tag{5.29} \]
と同じである。$SU(3)$ 群の既約表現を用いるとこれは
\[   {\bf 3} \otimes {\bf 3}^* \, = \, {\bf 8} \oplus {\bf 1}      \tag{13.16} \]
と表せる。このとき、還元公式(13.5)は
\[\begin{eqnarray}    | {\bf 3}, i \ket \otimes | {\bf 3}^* , j \ket &=&    C_{ij(kl)}^{{\bf 3} {\bf 3}^* {\bf 8}} | {\bf 8} , kl \ket \oplus    C_{ij(kk)}^{{\bf 3} {\bf 3}^* {\bf 1} } | {\bf 1} , kk \ket   \tag{13.17} \\   C_{ij(kl)}^{{\bf 3} {\bf 3}^* {\bf 8}} &=& \del_i^k  \del_l^j     \tag{13.18} \\    C_{ij(kk)}^{{\bf 3} {\bf 3}^* {\bf 1} } &=& \frac{1}{3} \del_i^j     \tag{13.19} \end{eqnarray}\]
と書き下せる。

 つぎに、${\bf 3}$ テンソルと ${\bf 6}$ テンソルの直積も対称成分・反対称成分に分離して、
\[\begin{eqnarray}    V_{i(jk)} &=& V_{(i (jk))} \, +\, V_{[i(jk)]}    \nonumber \\    &=& \frac{1}{4} \left( V_{ijk} + V_{ikj} + V_{jki}+ V_{kji} \right) +     \frac{1}{4} \left( \ep_{ijm} \Psi_k^m + ( j \leftrightarrow k ) \right)    \nonumber \\    &=& \frac{1}{4} \left( \del_i^m \del_j^n \del_k^p + \del_i^m \del_k^n \del_j^p +    \del_j^m \del_k^n \del_i^p + \del_k^m \del_j^n \del_i^p  \right) \Psi_{mnp}    \nonumber \\    && + \frac{1}{4} \left( \ep_{ijm} \del_k^l + \ep_{ikm} \del_j^l  \right) \Psi_l^m     \tag{13.20} \end{eqnarray}\]
と表せる。ただし、$\Psi_{mnp}$ と $\Psi_l^m$ はそれぞれ ${\bf 10}$ 表現と${\bf 8}$ 表現のテンソル表示である。対応する還元公式(13.5)とクレブシュ-ゴルダン係数は次のように表せる。
\[\begin{eqnarray}    {\bf 3} \otimes {\bf 6} &=& {\bf 10} \oplus {\bf 8}    \tag{13.21} \\    | {\bf 3}, i \ket \otimes | {\bf 6} , jk \ket &=&    C_{i(jk)(mnp)}^{{\bf 3 6} \, {\bf 10}} | {\bf 10} , mnp \ket \oplus    C_{i(jk)(lm)}^{{\bf 3 6 8} } | {\bf 8} , lm \ket     \tag{13.22} \\    C_{i(jk)(mnp)}^{{\bf 3 6} \, {\bf 10}} &=& \frac{1}{4} \left( \del_i^m \del_j^n \del_k^p + \del_i^m \del_k^n \del_j^p +    \del_j^m \del_k^n \del_i^p + \del_k^m \del_j^n \del_i^p  \right)      \tag{13.23} \\    C_{i(jk)(lm)}^{{\bf 3 6 8} }  &=& \frac{1}{4} \left( \ep_{ijm} \del_k^l + \ep_{ikm} \del_j^l  \right)      \tag{13.24} \end{eqnarray}\]

 最後に、随伴表現 ${\bf 8}$ のテンソル、例えば $\Psi_i^j$ と $\Phi_k^l$ の直積を考える。定義からこれらはトレース・ゼロなので、その直積 $V_{ik}^{jl} = \Psi_i^j  \Phi_k^l$ は
\[    V_{ik}^{jl} \, = \, T_{ik}^{jl} + \frac{1}{3} \del_i^l T_{ak}^{ja} +  \frac{1}{3} \del_k^j T_{ib}^{bl}     +  \frac{1}{9} \del_i^l \del_k^j T_{ab}^{ba}     \tag{13.25} \]
と分解できる。ただし、$T_{ik}^{jl}$ はテンソル $V_{ik}^{jl}$ のトレース・ゼロ成分である。$SU(3)$ 既約表現のテンソル表示 $\Psi_{i_1 i_2 \cdots i_p}^{j_1 j_2 \cdots j_q}$ はトレース・ゼロであり、上下の添え字について完全対称なので、テンソル $V_{ik}^{jl}$ は次のように変形できる。
\[\begin{eqnarray}    V_{ik}^{jl} &=& V_{(ik)}^{(jl)} + V_{(ik)}^{[jl]} + V_{[ik]}^{(jl)} + V_{[ik]}^{[jl]}    \nonumber \\    &=& \Psi_{ik}^{jl} + \frac{1}{2} \ep^{jlm} \Psi_{ikm} + \frac{1}{2} \ep_{ikm} \Psi^{jlm}    + \frac{1}{4} \ep^{jlm} \ep_{ikn} \Psi_m^n    \nonumber \\    &&    + \frac{1}{3} \del_i^l \frac{1}{4} \ep^{jam} \ep_{akn} \Psi_m^n    + \frac{1}{3} \del_k^j \frac{1}{4} \ep^{blm} \ep_{ibn} \Psi_m^n     + \frac{1}{9} \del_i^l \del_k^j \frac{1}{4} \ep^{bam} \ep_{abn} \Psi_m^n    \nonumber \\    &=& \Psi_{ik}^{jl} + \frac{1}{2} \ep^{jlm} \Psi_{ikm} + \frac{1}{2} \ep_{ikm} \Psi^{jlm}    + \frac{1}{4} \ep^{jlm} \ep_{ikn} \Psi_m^n     \nonumber \\    &&     + \frac{1}{12} \del_i^l \Psi_k^j + \frac{1}{12} \del_k^j  \Psi_i^l - \frac{2}{9} \del_i^l \del_k^j \Psi_m^m    \tag{13.26} \end{eqnarray}\]
ただし、関係式 $\ep^{jam} \ep_{akn} = - ( \del_k^j \del_n^m - \del_n^j \del_k^m )$ と $\ep^{bam} \ep_{abn} = - 2 \del_n^m$ を用いた。随伴テンソル成分は
\[\begin{eqnarray}    && \frac{1}{4} \ep^{jlm} \ep_{ikn} \Psi_m^n    + \frac{1}{12} \del_i^l \Psi_k^j + \frac{1}{12} \del_k^j  \Psi_i^l     \nonumber \\    &=& \frac{1}{4} \left( \frac{1}{2} \ep^{jlm} \ep_{ikn} + \frac{1}{3} \del_i^l \del_k^m \del_n^j \right)    \Psi_m^n + \frac{1}{4} \left(  \left( \begin{array}{c}\! j \! \\ \! k \! \\  \end{array} \right)      \! \leftrightarrow \! \left( \begin{array}{c} \! l \! \\ \! i \! \\  \end{array} \right)        \right) \Psi_m^n     \tag{13.27} \end{eqnarray}\]
と書けることに注意しよう。以上より、対応する還元公式(13.5)とクレブシュ-ゴルダン係数は次のように表せる。
\[\begin{eqnarray}    {\bf 8} \otimes {\bf 8} &=& {\bf 27} \oplus {\bf 10} \oplus {\bf 10}^* \oplus {\bf 8} \oplus {\bf 8} \oplus {\bf 1}      \tag{13.28} \\    | {\bf 8}, ij \ket \otimes | {\bf 8} , kl \ket &=&    C_{(ij)(kl)(mnrs)}^{{\bf 88} \, {\bf 27}} | {\bf 27} , mnrs \ket \oplus    C_{(ij)(kl)(mrs)}^{{\bf 88} \, {\bf 10}} | {\bf 10} , mrs \ket     \nonumber \\    && \oplus \,    C_{(ij)(kl)(mrs)}^{{\bf 88} \, {\bf 10}^* } | {\bf 10}^* , mrs \ket  \oplus    C_{(ij)(kl)(mn)}^{{\bf 888} } | {\bf 8} , mn \ket     \nonumber \\    && \oplus \,    C_{(kl)(ij)(mn)}^{{\bf 888} } | {\bf 8} , mn \ket  \oplus    C_{(kl)(ij)(mm)}^{{\bf 881} } | {\bf 1} , mm \ket     \tag{13.29} \\    C_{(ij)(kl)(mnrs)}^{{\bf 88} \, {\bf 27}} &=& \frac{1}{4} \left( \del_i^m \del_k^n \del_r^j \del_s^l +     \del_k^m \del_i^n \del_r^j \del_s^l  \right.     \nonumber \\    && ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ \left.  + \, \del_i^m \del_k^n \del_r^l \del_s^j +    \del_k^m \del_i^n \del_r^l \del_s^j  \right)      \tag{13.30} \\    C_{(ij)(kl)(mrs)}^{{\bf 88} \, {\bf 10}} &=& \frac{1}{2} \, \ep^{jlm} \del_i^r \del_k^s       \tag{13.31} \\    C_{(ij)(kl)(mrs)}^{{\bf 88} \, {\bf 10}^*} &=& \frac{1}{2} \, \ep_{ikm} \del_r^j \del_s^l       \tag{13.32} \\    C_{(ij)(kl)(mn)}^{{\bf 888}} &=& \frac{1}{4} \left( \frac{1}{2} \ep^{jlm} \ep_{ikn} +     \frac{1}{3} \del_i^l \del_k^m \del_n^j  \right)     \tag{13.33} \\    C_{(kl)(ij)(mn)}^{{\bf 888} } &=& \frac{1}{4} \left( \frac{1}{2} \ep^{ljm} \ep_{kin} +    \frac{1}{3} \del_k^j \del_i^m \del_n^l  \right)     \tag{13.34} \\    C_{(kl)(ij)(mm)}^{{\bf 881} } &=& - \frac{9}{2} \,  \del_i^l \del_k^j      \tag{13.35} \end{eqnarray}\]

2024-12-04

12. リー群の幾何学的側面 vol.5

コンパクト群

 前回のエントリーでは $SU(N)$ 群の既約表現を求めるテンソル解析について解説した。既約表現を構成するこのテンソル解析はコンパクト群一般にも適用される。実際、ワイル (Weyl) による次の定理が存在する。
  1. コンパクト群の全てのユニタリー既約表現は有限次元である。これらの既約表現は定義表現のテンソル積を適切に還元して得られる。
  2. 非コンパクト群の全ての有限次元の表現は非ユニタリーである。また、非コンパクト群の全てのユニタリー表現は無限次元である。
ここで、コンパクト群は有限体積をもつリー群 $G$ で定義される。12.2節で定義したカルタン-キリング計量は
\[\begin{eqnarray}     ds^2 & = & - 2 \Tr ( g^{-1} d g \, g^{-1} dg ) \nonumber \\    & = &  E^a_\mu E^a_\nu \, d \th^\mu d \th^\nu \, = \, g_{\mu \nu} \, d \th^\mu d \th^\nu    \tag{12.58} \end{eqnarray}\]
であった。ただし、$g^{-1} d g = i t^a E_\mu^a \, d \th^\mu $ は $G$ のフレーム場1形式である。$t^a$ ($a = 1,2, \cdots, \dim G$) はリー代数 G の基底(生成子)を成す行列で代数  $[ t^a , t^b ]  =  i C^{abc} t^c$ を満たす。$C^{abc}$ は G の構造定数であり、規格化は $\Tr (t^a t^b ) = \hf \del^{ab}$ で与えられる。ことのき、リー群 $G$ の体積要素は
\[    dV \, = \, \sqrt{|\det g |} \, d \th^1 d \th^2 \cdots d \th^{\dim G}    \tag{12.59} \]
で与えられる。ただし、$\det g$ は計量テンソル $g_{\mu \nu} = E^a_\mu E^a_\nu $ を行列表示した際の行列式を表す。以上より、コンパクト群は有限体積の条件式
\[    \int_{G} d V \, < \, \infty     \tag{12.60} \]
で定義される。12.1節の最後に紹介したように、カルタン-キリングによる半単純リー代数の分類で現れたリー群は、パラメータが実数のとき全てコンパクト群となる。一方、非コンパクト群の典型的な例はローレンツ群 $SO(1,3)$ で与えられる。一般のローレンツ代数、すなわち $SO(1, d+1)$ 代数の定義については11.3節を参照されたい。

リー代数のランクに関するワイルの定理

 リー代数 G のランク(階数)はその基底行列 $t^a$ のなかで同時対角化可能な行列の最大数で定義される。例えば、パウリ行列は唯一つの対角行列を持つので $SU(2)$ 代数のランクは1である。同様に、1.5節で紹介したゲルマン行列(1.49)は2つの同時対角行列を持つので $SU(3)$ 代数のランクは2である。

 リー代数 G の基底行列 $t^a$ で構成されるより大きな集合 $\{ t^a , t^a t^b , t^a t^b t^c , \cdots \}$ を考える。これには $t^2 = \del^{ab} t^a t^b$ など添え字が縮約された要素も含まれる。行列 $t^a$ についての特性方程式(あるいはケイリー・ハミルトンの定理)を用いるとこれらの次数を下げることができる。しかし、一般にこれらの集合要素は元々の代数 G とは異なる代数を成す。というのも、$t^2$ などの縮約された要素は必ずしも元の代数の要素に属さないためである。このように構成された(大きな)代数は G の包絡代数 (enveloping algebra) と呼ばれる。包絡代数には元となるリー代数の全ての要素と交換する要素が含まれる。例えば、角運動量代数において2次の演算子 $J^2$ は $[ J^2 , J^a ] = 0$ を満たすので角運動量代数の全ての要素 $J^a$ $(a = 1,2,3)$ と交換する。このように元となるリー代数 G の全ての要素と交換する演算子をカシミール演算子と呼ぶ。この演算子は包絡代数の中心 (center) を成す。リー代数のランクに関してもワイルによる次の定理が存在する。
  1. リー代数 G において独立なカシミール演算子の数はそのリー代数のランクに等しい。
  2. リー群 $G$ において独立な不変テンソルの数は対応するリー代数 G のランクに等しい。
$SU(2)$ 代数のランクは1なので、カシミール演算子は $J^2$ の1つだけであり、不変テンソルは唯一 $\ep^{ij}$ で与えられる。前回で見たように、これらの事実から $SU(2)$ 群の既約表現が求まる。

カシミール演算子: SU(3) とそれ以外

 以上より、コンパクト・リー群の既約表現を求めるにあたりカシミール演算子と不変テンソルが重要であることが分かった。以下では、$SU(3)$ 代数のカシミール演算子を考えることでこの点の理解をさらに深める。$SU(3)$ 代数のランクは2であるので、2つの不変テンソルと2つのカシミール演算子が存在する。不変テンソルは生成子 $t^a$ ($a = 1,2, \cdots , 8$) の多重項のトレースから得られる。というのも、そのようなトレースは変換 $t^a \rightarrow h^{-1} t^a h$ のもとで不変なためである。ただし、$h \in G=SU(3)$ である。ここで、$SU(3)$ 群の要素 $g = \exp ( i t^a \th^a )$ は $g \rightarrow h^{-1} g h = \exp ( i h^{-1} t^a h \th^a )$ と変換することに注意しよう。トレース $ \Tr (t^a t^b )$ の不変性は次のように直接確認できる。
\[    \Tr (t^a t^b ) \longrightarrow \Tr (h^{-1} t^a h h^{-1} t^b h )    \, = \, \Tr (t^a t^b ) \, = \, \frac{1}{2} \, \del^{ab}    \tag{12.61} \]
不変テンソル $\del^{ab}$ に対応するカシミール演算子は $\del^{ab} t^a t^b  =  t^a t^a = t^2$ で与えられる。

 もう一方のカシミール演算子は3次のオーダーのトレース $ \Tr (t^a t^b t^c)$ から計算できる。このトレースは次にように対称成分と反対称成分に分離できる。
\[\begin{eqnarray}    \Tr ( t^a t^b t^c ) &=& \Tr \left[ t^a \left( \frac{1}{2} [ t^b , t^c ] + \frac{1}{2}    \{ t^b , t^c \} \right) \right]    \nonumber \\    &=& \frac{1}{2} \Tr \left[ t^a \left( i C^{bck} t^k \right) \right]     + \frac{1}{2} \Tr \left[ t^a \{ t^b , t^c \}  \right]    \nonumber \\    &=& \frac{i}{4} C^{abc} + \frac{1}{4} d^{abc}    \tag{12.62} \end{eqnarray}\]
ただし、添え字について対称な記号
\[    d^{abc} \, \equiv \, 2 \Tr \left[ t^a (t^b t^c + t^c t^b ) \right]      \tag{12.63} \]
を導入した。リー代数 $[ t^a , t^b ] = i C^{abk} t^k$ を用いると、(12.62)の反対称成分は2次のトレース $\Tr ( t^a t^k )$ に還元される。よって、(12.62)から新しいカシミール演算子を求めるにはこの反対称部分は必要ない。言い換えると、2次のトレースと独立な3次のトレースは対称化されたトレース(12.63)で与えられる。この不変な対称テンソルに対応するカシミール演算子は $d^{abc} t^a t^b t^c$ と表せる。$SU(2)$ の場合は、$t^a = \frac{\si^a}{2}$ となり $(t^b t^c + t^c t^b) = \hf \del^{bc} {\bf 1}$ が成り立つので、対称記号 $d^{abc}$ はゼロとなることに注意しよう。

 同様に、$SU(N)$ $( N \ge 4) $ のカシミール演算子も高次の対称化されたトレースから計算できる。上記の $\frac{1}{4} d^{abc} = \frac{1}{2} \Tr (t^a t^b t^c + t^a  t^c t^b ) $ に対応する $N$ 次の対称記号を $\ka^{a_1  a_2 \cdots a_N}$ とすると、これは対称化されたトレースを用いて
\[    \ka^{a_1  a_2 \cdots a_N} \, = \, \frac{1}{(N-1)!} \sum_{\si \in \S_{N-1}}     \Tr ( t^{a_1} t^{a_{\si_2}} t^{a_{\si_3}} \cdots t^{a_{\si_N}} )    \tag{12.64} \]
と定義できる。ただし、$\si \in \S_{N-1}$ についての和は添え字 $\{ 2, 3, \cdots , N \}$ の置換 $\si$ について取る。ここで、$\si$ は $\si =\left( \begin{array}{c} 2 ~ 3 ~ \cdots ~ N  \\ \si_2 \si_3 \cdots \si_N \\ \end{array} \right)$ とラベルされる。不変な対称テンソル $\ka^{a_1  a_2 \cdots a_N}$ に対応するカシミール演算子は $\ka^{a_1  a_2 \cdots a_N} t^{a_1} t^{a_2} \cdots t^{a_N}$ で与えられる。

2024-12-03

12. リー群の幾何学的側面 vol.4

12.3 既約表現



この節ではリー群要素 $g \in G$ の既約表現について考える。12.1節の初めに紹介した群の公理(合成則、結合則、単位元・逆元の存在)は群の要素を(可逆な)正則行列と見做しても成立する。実際、群の要素と行列の集合は準同型 (homomorphic) であることが知られている。12.2節の(12.16)で $SU(2)$ 群の $2 \times 2$ 行列表現 $g (\th ) = \exp \left( i \frac{\si^a}{2} \th^a \right)$ を導入した。これは $SU(2)$ の定義表現と呼ばれる。この表現からさらに高次元の行列表現を構成できる。例えば、行列のブロック対角化
\[    \left(      \begin{array}{cc}        g_1 (\th ) & 0 \\        0 & g_1 (\th ) \\      \end{array}    \right)    \left(      \begin{array}{cc}        g_2 (\th ) & 0 \\        0 & g_2 (\th ) \\      \end{array}    \right)    =    \left(      \begin{array}{cc}        g_1 g_2 & 0 \\        0 & g_1 g_2 \\      \end{array}    \right) .    \tag{12.51} \]
を用いると、$4 \times 4$ 行列による可約表現を得る。一方、既約表現は行列の相似変換 (similarity transformation) によってブロック対角化されない表現で定義される。ここで、相似変換は一般に正則行列を変換行列として定義される。例えば、(12.51)の相似変換は $4 \times 4$ 特殊ユニタリー行列 $U$ を用いて
\[    U^\dagger    \left(      \begin{array}{cc}        g_1 (\th ) & 0 \\        0 & g_1 (\th ) \\      \end{array}    \right)    U \,    U^\dagger    \left(      \begin{array}{cc}        g_2 (\th ) & 0 \\        0 & g_2 (\th ) \\      \end{array}    \right)    U    \, = \,    U^\dagger    \left(      \begin{array}{cc}        g_1 g_2 & 0 \\        0 & g_1 g_2 \\      \end{array}    \right)    U \, .    \tag{12.52} \]
と表せる。

復習:テンソル解析

 5.3節で解説したように $SU(3)$ 群の既約表現はテンソル解析によって構成できる。以下では一般のリー群についてテンソル解析を用いてどのように既約表現が構成できるかを見る。まず、$N \times N$ 行列はベクトル空間 $V$ の線形変換を定義することに注意する。$V$ の基底を $\phi_i$ $(i = 1,2, \cdots N)$ とおく。このとき $\phi_i$ の変換は
\[    \phi^\prime_i  \, = \, g_{ij} \, \phi_i    \tag{12.53} \]
と表せる。ただし、$g_{ij}$ は対象となる群 $G$ の要素 $g (\th ) = \exp \left( i t^a \th^a \right)$ の行列成分である。ここで、$g$ は $N \times N$ 行列表現であり、$t^a$ $(a = 1, 2, \cdots , N = \dim G )$ はリー代数 G の生成子を表す。

 つぎに、2つの基底の直積 $\Psi_{ij} \equiv \phi_i \chi_j \in V \otimes V$ を考える。$\chi_j$ は2つ目のベクトル空間 $V$ の基底を表す。$\Psi_{ij}$ の変換は上と同様に
\[   \Psi^{\prime}_{ij} \, = \, g_{ik} \, g_{jl} \, \Psi_{kl}    \, \equiv \, G_{ij,kl} \,  \Psi_{kl}     \tag{12.54} \]
と書ける。このとき、$G_{ij,kl}$ は群の合成則 $g^{(1)} \cdot g^{(2)} = g^{(3)}$ を保存する。
\[    G^{(1)}_{ij,kl} G^{(2)}_{kl,mn}    \, = \,    g^{(1)}_{ik} g^{(2)}_{km} \, g^{(1)}_{jl} g^{(2)}_{ln}    \, = \,    g^{(3)}_{im} g^{(3)}_{jn}    \, = \,    G^{(3)}_{ij,mn}   \tag{12.55} \]
この関係式は $G_{ij,kl}$ が2つの表現の合成表現であることを示している。一般に、このような合成表現は既約であり、対称成分と反対称成分を含む。任意の階数の合成表現から既約表現を得るには、次の還元則を適用する必要がある。
  1.  対称成分と反対称成分を分離する。5.3節の(5.21), (5.22)で見たように対称成分と反対称成分はそれぞれ独立に変換する。\[     \frac{1}{2} ( \Psi^{\prime}_{ij}  \pm \Psi^{\prime}_{ji} ) \,=\,   \frac{1}{2} ( g_{ik} \, g_{jl} \Psi_{kl} \pm g_{jk}\, g_{il} \Psi_{kl} )   \,  = \, g_{ik} \, g_{jl} \frac{1}{2}( \Psi_{kl} \pm \Psi_{lk} ) \tag{12.56} \]この関係は群の構造に依らない。
  2. それぞれの群に応じて不変なテンソルが存在する。これらの不変テンソルを用いてテンソルの添え字を縮約できる。
定義表現 $g (\th ) = \exp \left( i t^a \th^a \right)$ の複素共役は $g^* (\th ) = \exp \left( i t^a \th^a \right)^*$ で与えられる。よって、変換(12.53)の複素共役は
\[   \chi^i \, = \, g^{* ij} \chi^j    \tag{12.57} \]
と表せる。この共役表現は明らかに(12.53)と同じ合成則に従う。慣例として、共役表現の添え字は上付き添え字で表示される。つまり、テンソルの一般形は
\[    \Psi^{j_1 j_2 \cdots j_q}_{i_1 i_2 \cdots i_p}     \tag{12.58} \]
と表せる。ただし、$p$, $q$ は自然数である。注意として、$SU(2)$ 群の場合、
\[\begin{eqnarray}    g^* &=& \exp \left( i \frac{\si^a}{2} \th^a \right)     = e^{- i \frac{\si^1}{2} \th^1 + i \frac{\si^2}{2} \th^2 - i \frac{\si^3}{2} \th^3}    \tag{12.59} \\    \si^2 g^* \si^2 &=& \si^2 \exp \left( i \frac{\si^a}{2} \th^a \right)  \si^2    =  e^{ i \frac{\si^1}{2} \th^1 + i \frac{\si^2}{2} \th^2 + i \frac{\si^3}{2} \th^3} \, = \, g    \tag{12.60} \end{eqnarray}\]
が成り立つ。ただし、パウリ行列の関係式 $( \si^1 )^2 \, = \,  ( \si^2 )^2 = ( \si^3 )^2 = {\bf 1}$ と $\si^i \si^j = - \si^j \si^i$ $( i \ne j )$ を用いた。$SU(2)$ 群の要素の1つとして $ \tilde{g} = \exp \left( i \frac{\si^2}{2} \pi \right) = i \si^2 $ と表せるので、関係式(12.60)は $\tilde{g} g^* \tilde{g}^\dag = g $ と書ける。すなわち、SU(2) 群では共役表現を考える必要がない。この意味で関係式(12.60)は $SU(2)$ 群の擬実数性と言及されることがある。

 ユニタリー表現の場合、$g^{* ij} = ( g^\dag )^{ji } = ( g^{-1} )^{ji } $ となるので、5.3節の(5.27)で解説したようにユニタリー性から $\del^{i}_{j}$ が不変であることが導ける。
\[ {\del^{i}_{j}}^\prime \, = \, g^{*ik} g_{jl} \, \del^{k}_{l} \, = \, g^{* ik} g_{jk} \, = \, g_{jk} ( g^\dag )^{ki} \, = \, ( g \, g^\dag )^{i}_{j} \, = \, \del^{i}_{j} \tag{12.61} \]
また、特殊群の場合、群の要素を行列と見做すとその行列式は1となる。
\[    \det g \, = \, \sum_{\si \in S_N} {\rm sgn} ( \si ) g_{1 \si_1 } g_{2 \si_2 } \cdots g_{N \si_N}    \, = \, 1    \tag{12.62} \]
ただし、$\si$ は添え字$\{ 1, 2, \cdots, N \}$ あるいは対称群 $S_N$ の要素の置換を表す。置換の符号記号は階数 $N$ のレビ-チビタ記号に他ならない。
\[     {\rm sgn} ( \si ) \, = \, \ep_{\si_1 \si_2 \cdots \si_N} \tag{12.63} \]
つぎに、群の要素の行列表現において行のシャッフル $g =( g_{i j }) \rightarrow g_\tau = ( g_{\tau_i j } )$ を考える。ただし、$\tau$ は要素 $\{ 1,2, \cdots, N \}$ の別の置換を表す。このとき、$g_\tau$ の行列式は
\[\begin{eqnarray}    \det g_\tau &=& \sum_{\si \in S_N} {\rm sgn} (\si )     g_{ \tau_1 \si_1} g_{\tau_2 \si_2 } \cdots g_{\tau_N \si_N}    \nonumber \\   &=& \sum_{\si \in S_N} {\rm sgn} ( \si )     g_{ 1 (\tau^{-1} \si)_1} g_{2 (\tau^{-1} \si)_2} \cdots g_{N (\tau^{-1} \si)_N}   \nonumber \\   &=& {\rm sgn} ( \tau ) \sum_{\rho \in S_N}  {\rm sgn} ( \rho )   g_{ 1 \rho_1} g_{2 \rho_2} \cdots g_{N \rho_N}   \nonumber \\   &=& {\rm sgn} ( \tau ) \, \det g = {\rm sgn} ( \tau )   \tag{12.64} \end{eqnarray}\]
と表せる。ただし、$\rho = \tau^{-1} \si$ であり、関係式 ${\rm sgn} ( \si ) = {\rm sgn} (\tau) \, {\rm sgn} (\tau^{-1} \si )$ を用いた。ここで、$\si \in S_N$ についての総和は $\rho \in S_N$ についての総和と等しくなることに注意しよう。式(12.63)と(12.64)からレビ-チビタ記号の不変性が直ちに導かれる。
\[    \ep_{i_1 i_2 \cdots i_N }^\prime \,= \, g_{i_1 \si_1} g_{i_2 \si_2} \cdots g_{i_N \si_N} \,   \ep_{\si_1 \si_2 \cdots \si_N}     \,= \, \ep_{i_1 i_2 \cdots i_N } \, \det g \, = \,  \ep_{i_1 i_2 \cdots i_N }     \tag{12.65} \]
これは5.3節で示した $SU(3)$ の場合
\[ \ep_{ijk}^{\prime} = U_{ia} U_{jb} U_{kc} \ep_{abc} = \ep_{ijk} \det U = \ep_{ijk} \tag{5.30} \]
の一般形である。反対称テンソル $\ep_{i_1 i_2 \cdots i_N }$ あるいは $\ep^{i_1 i_2 \cdots i_N }$ との縮約をとると、テンソル(12.58)の上付き添え字 (jj2 ... jqと下付き添え字 (i1 i... ipはそれぞれ完全対称であることが保証される。さらに、クロネッカーのデルタ $\del^i_j$ との縮約からトレース・ゼロのテンソルのみが有効であることが分かる。

 $SU(2)$ 群の場合、上述の通り、下付き添え字だけのテンソル $\Psi_{i_1 i_2 \cdots i_p}$ から既約表現を分類できる。ただし、添え字は1か2の値をとる。反対称テンソル $\ep^{ij}$ との縮約を考えると、添え字は完全対称に取れる。よって、既約表現の次元は $p+1$ で与えられる。通常、既約表現は $j = p/2$ で特徴付けられるが、この値は $SU(2)$ 代数の生成子 $J^3$ の最大の固有値(スピン)に対応する。

2024-11-08

12. リー群の幾何学的側面 vol.3

前回のエントリーではリー群についてカルタン-キリング計量を導入し、計量を定義するフレーム場が満たすモーレー-カルタン恒等式を求めた。この恒等式とトーション・ゼロの条件式との類推から、リー群をリーマン多様体と解釈できることが分かった。リー群の幾何学を考察するにあたり重要となる量はフレーム場1形式である。今回も引き続きこの視点からリー群の幾何学的な側面について考える。具体的にはリー群のコセット空間(商空間)として表せる2次元球面 $S^2 = SU(2) / U(1)$ の計量を導出する。

コセット空間 S2 = SU(2)/U(1) の計量

 ここで $SU(2)$ 群の場合に戻ると、$SU(2)$ 群の要素の一般形は
\[    g \, = \, \frac{1}{\sqrt{1 + z \bz }}    \left(    \begin{array}{cc}                  1 & z \\    - \bz & 1 \\    \end{array}  \right)     \left(    \begin{array}{cc}   e^{i \th /2} & 0 \\   0 & e^{-i \th /2} \\   \end{array}  \right)    \tag{12.40}\]
と表せる。ただし、$z = x + i y$ は複素変数である。実際、微小な $\th$, $|z|$ に対して、$g$ は恒等行列とパウリ行列 $\si_i$ で展開できる。
\[    g \, \approx \,  \left(  \begin{array}{cc}   1 + i \th /2  & x + i y \\   - x + iy & 1 - i \th /2 \\   \end{array}  \right)    \, = \,    {\bf 1} +  i \frac{\th}{2} \si_3  + i x \si_2  + i y \si_1   \tag{12.41} \]
つぎに、
\[ g (z, \th ) = v (z) h( \th ) \tag{12.42} \]
として変数分離を考える。
\[    v (z) = \frac{1}{\sqrt{1 + z \bz }}   \left(  \begin{array}{cc}    1 & z \\  - \bz & 1 \\    \end{array}   \right) , ~~~    h (\th ) =  \left(  \begin{array}{cc}      e^{i \th / 2} & 0 \\  0 & e^{-i \th / 2} \\   \end{array} \right)    \tag{12.43} \]
このとき、群の要素の規格化  $g^\dagger g = 1$ は $v^\dagger v = 1$ から簡単に確認できる。フレーム場1形式は
\[    g^{-1} d g \, = \, h^{-1} ( v^{-1} d v ) h +  h^{-1} d h    \tag{12.44} \]
と表せる。ただし、右辺の各項は次のように計算できる。
\[\begin{eqnarray}    v^{-1} d v &=&   \frac{1}{\sqrt{1 + z \bz }}  \left(            \begin{array}{cc}    1 & -z \\     \bz & 1 \\    \end{array}   \right)    \nonumber \\    && ~~~~~    \cdot  \left[   \frac{1}{\sqrt{1 + z \bz }}     \left(                \begin{array}{cc}   0 & d z \\    - d \bz & 0 \\    \end{array}  \right)   -              \left(  \begin{array}{cc}  1 & z \\  - \bz & 1 \\    \end{array}   \right)  \frac{\bz dz + z d \bz }{2(1 + z \bz )^{3/2}}    \right]    \nonumber \\    &=&    \frac{1}{1+ z \bz}  \left(  \begin{array}{cc}  z d \bz & d z \\   - d \bz & \bz d z \\            \end{array}  \right)  -  \frac{\bz dz + z d \bz }{2(1 + z \bz )}  {\bf 1}   \nonumber \\    &=&   \frac{1}{1+ z \bz}   \left(  \begin{array}{cc}                  (z d \bz - \bz dz )/2 & d z \\   - d \bz & - (z d \bz - \bz dz ) /2 \\                \end{array}  \right)   \nonumber \\    &=&    \frac{\si_1}{2}  \frac{d z -  d \bz }{1+ z\bz}  +  i \frac{\si_2}{2} \frac{ d z +  d \bz }{1+ z\bz}    +    \frac{\si_3}{2}  \frac{ z d \bz - \bz dz}{1+ z\bz}    \tag{12.45}\\    h^{-1} ( v^{-1} d v ) h    &=&    \left(  \begin{array}{cc}  ( z d \bz - \bz dz ) /2 & e^{-i \th} d z \\     - e^{i \th} d \bz & - ( z d \bz - \bz dz ) /2 \\   \end{array}    \right)     \frac{1}{1+ z \bz}    \nonumber \\    &=&    \frac{\si_1}{2} \frac{ e^{-i \th}  d z - e^{i \th} d \bz }{1+ z\bz}    +    i \frac{\si_2}{2} \frac{ e^{-i \th}  d z + e^{i \th} d \bz }{1+ z\bz}    +    \frac{\si_3}{2}  \frac{ z d \bz - \bz dz}{1+ z\bz}    \tag{12.46}\\    h^{-1} d h &=& \left(  \begin{array}{cc}    \frac{i}{2} d \th  & 0 \\   0 & - \frac{i}{2} d \th \\   \end{array}    \right) = \, i \frac{\si_3}{2} d \th     \tag{12.47} \end{eqnarray}\]

 式(12.45)-(12.47)を用いると、カルタン-キリング計量(12.44)は
\[\begin{eqnarray}    ds^2 &=& - 2 \Tr ( g^{-1} dg \, g^{-1} dg )    \nonumber \\    &=&    -2 \Tr \left[    (v^{-1} d v )^2 + 2 v^{-1} dv dh h^{-1} + ( h^{-1} dh)^2    \right]    \nonumber \\    &=&    - \left( \frac{ dz - d \bz }{1 + z \bz} \right)^2    + \left( \frac{ dz + d \bz }{1 + z \bz} \right)^2    - \left( \frac{ z d \bz - \bz d z }{1 + z \bz} \right)^2    \nonumber \\    && ~~    - i 2 \left( \frac{ z d \bz - \bz d z }{1 + z \bz} \right) d \th    + d \th^2    \nonumber \\    &=&    4 \frac{ dz d \bz}{(1+ z \bz )^2}    - \left( \frac{ z d \bz - \bz d z }{1 + z \bz} + i d \th \right)^2    \tag{12.48} \end{eqnarray}\]
と計算できる。上式の第1項は2次元球面 $S^2$ の計量に対応する。これはフビニ-スタディ計量と呼ばれる。実際、2次元球面のステレオ射影(立体射影)による座標
\[    x_1 = \frac{z + \bz }{1 + z\bz} \, , ~~~    x_2 = i \frac{z - \bz }{1 + z\bz} \, , ~~~    x_3 = \frac{1 - z \bz }{1 + z\bz}    \tag{12.49} \]
を用いると、これらは $x_1^2 + x_2^2 + x_3^2 = 1$ を満たし、その計量は
\[ ds^2 \, = \, dx_1^2 + dx_2^2 + dx_3^2 \, = \, 4 \frac{ dz d \bz}{(1+ z \bz )^2}   \tag{12.50} \]
と計算できる。よって、カルタン-キリング計量(12.48)は計量レベルでコセット関係 $S^2 = SU(2)/U(1)$ を明示していることが分かった。この計量は $SU(2)$ 対称性の自発的破れの解析に有用である。この自発的対称性の破れは、物理において強磁性体スピン波の動力学を記述する。第14章ではこのような現象についてより詳しく解説する。

2024-11-07

伊吹山ドライブウェイ値上がり直前に駆け込み登山

登山道の一部閉鎖で車でしかアクセスできなくなってしまった伊吹山山頂。ドライブウェイが値上がりする直前の文化の日に遥々都内から遠征しました。8時開門と同時にゲートに到着。ただ、すでに駐車場で待機している車がいたので順番待ちをして9時前に山頂到着。広々とした駐車場です。ドライブウェイは歩行禁止とのこと。途中、側溝にタイヤがハマっている初心者マークの車があったので注意してください。駐車場から山頂までは1時間ほどで往復できます。ヤマトタケル終焉の地。ほぼ独立峰で遠くからでも目立つその山容。関東の筑波山のように昔から信仰の対象となっていたようです。伊吹山固有の高山植物も多く貴重な植生が保全されているとのこと。駐車場につくと何かのオフ会があるらしく危うく誘導に従うところでした。






2024-11-06

12. リー群の幾何学的側面 vol.2

12.2 リー群の幾何学的側面



前節ではリー群の概要について復習した。今節ではリー群を幾何学的な視点から考察する。まず、$SU(2)$ 群について調べ、その一般化を考える。結論として、リー群は一般にリーマン多様体と解釈できることを示す。

SU(2) 群

 $SU(2)$ 群の要素は $2 \times 2$ 特殊ユニタリー行列
\[    u = e^{iH} \, ,  ~~~ {\rm det}u = 1    \tag{12.14} \]
で与えられる。ここで、$H$ は $2 \times 2$ トレースレス・エルミート行列である。一般に、$H$ はパウリ行列を用いて
\[    H = \frac{\si_i}{2} \th^i    ~~~~ (i = 1,2,3) \tag{12.15} \]
と表せる。よって、$SU(2)$ 群の要素は
\[    g ( \th ) = u = \exp \left( i \frac{\si_i}{2} \th^i \right)     \tag{12.16} \]
とパラメータ表示できる。これは1.2節の(1.38)と同じである。要素 $u$ の変分は(線形のオーダーで)次のように計算できる。
\[\begin{eqnarray}    u + du &=& \exp \left( i \frac{\si_k}{2} ( \th^k + d \th^k ) \right)    \nonumber \\    &=& 1 + i \frac{\si_k}{2} ( \th^k + d \th^k )    + \frac{i^2}{2!} \frac{\si_k}{2} \frac{\si_l}{2}    ( \th^k + d \th^k )( \th^l + d \th^l ) + \cdots    \nonumber \\    &=&    u + i \frac{\si_k}{2} d \th^k + \frac{i^2}{2!}    \left(    \frac{\si_k}{2} \frac{\si_l}{2} + \frac{\si_l}{2} \frac{\si_k}{2}    \right)    \th^k d \th^l + \cdots    \nonumber \\    &=&    u + i \frac{\si_k}{2} d \th^k + i \frac{\si_k}{2} \th^k  \, i \frac{\si_l}{2} d \th^l    + \frac{i^2}{2} \underbrace{ \left[ \frac{\si_l}{2} ,    \frac{\si_k}{2} \right]}_{ = \,  i \ep_{lkm} \frac{\si_m}{2} } \th^k d \th^l    + \cdots    \nonumber \\    &=&    u + \left( 1 + i \frac{\si_k}{2} \th^k \right)    \left[    i \frac{\si_l}{2} d \th^l - \frac{i}{2} \ep_{lkm} \frac{\si_m}{2} \th^k d \th^l    \right] + \cdots    \nonumber \\    & \equiv &    u + i u \frac{\si_m}{2} E^m_l (\th ) d \th^l    \tag{12.17} \end{eqnarray}\]
ただし、$E^m_l ( \th )$ は
\[    E^m_l ( \th ) \, \simeq \, \del^m_l - \hf  \ep^{m}_{~ \, lk} \, \th^k     \tag{12.18} \]
と表せる。すなわち、
\[    u^{-1} d u   \, = \, i \frac{\si_m}{2} E^m_l (\th ) \, d \th^l     \tag{12.19} \]
を得る。上式は前回求めた関係式
\[     g^{-1} d g \, = \, i T_k d \, \th^k      \tag{12.11} \]
の具体的な形を与える。リーの第1定理から$\exp \left( i \frac{\si_k}{2} ( \th^k + d \th^k ) \right)$ の級数展開とその収束が保証されていることに注意しよう。

 前節で議論したように $E^m_l ( \th )$ は微分演算子 $X_i = i ( E^{-1} )^k_i \frac{\d}{\d \th^k}$ の定義に必要な量であり、この微分演算子は対応するリー代数を成す。よって、 $E^m_l ( \th )$ はリー群の解析に非常に重要な量である。以下で見るように、$u$ の行列成分から $E^m_l ( \th )$ を直接計算することもできる。$u$ は $2\times 2$ ユニタリー行列で表せるので
\[    u \, = \, a {\bf 1} + b_i \si_i \, = \,    \left(      \begin{array}{cc}        a+ib_3 & ib_1 + b_2 \\        ib_1 - b_2 & a - i b_3 \\      \end{array}    \right)    \tag{12.20} \]
とパラメータ表示できる。ただし、$a$, $b_i$ $(i=1,2,3)$ は実数である。条件 ${\rm det} u = 1$ から
\[    a^2 + b_1^2 + b_2^2 + b_3^2 = 1     \tag{12.21} \]
が分かる。これより、簡単に $u^\dag u = {\bf 1}$ を確認できる。ただし、$u^\dag = u^{-1} = a {\bf 1} - i b_i \si_i$ である。関係式(12.21)は $SU(2)$ 群を3次元球面 $S^3$ と解釈できることを意味する。ここで、$a = \sqrt{ 1 - b \cdot b}$ を用いると、
\[    d u \, = \, d a + i d b \cdot \si    \, = \, - \frac{b \cdot d b}{a} + i db \cdot \si     \tag{12.22} \]
と書ける。ただし、恒等行列 ${\bf 1}$ を省略した(以下同様)。このとき、$u^{-1} d u $ は次のように計算できる。
\[\begin{eqnarray}    u^{-1} d u   &=&    ( a - i b \cdot \si )    \left[ - \frac{b \cdot d b}{a} + i db \cdot \si \right]    \nonumber \\    &=&     - b_i \, d b_i + i a \, db_i \, \si_i + i \frac{b_i b_j}{a} \si_i \, d b_j     +  b_i \, db_j \,  \si_i \si_j  \nonumber \\    &=&    i \si_i \left[ a \, d b_i + \frac{b_i b_k }{a} \, d b_k + \ep_{ijk} \, b_j \,  db_k \right] \nonumber \\  &\equiv&   i \frac{\si_i}{2} E^i_k (a, b) \,  d b_k  \tag{12.23}  \end{eqnarray}\] 
ただし、関係式 $\si_i \si_j =  \del_{ij} + i \ep_{ijk} \si_k$ を用いた。これより、興味ある量 $E^i_k (a, b) $ は
\[  E^i_k (a, b) \, = \, 2 \left(   \del^i_k \, a + \frac{b^i b_k }{a} + \ep^{i}_{\, jk} \, b_k     \right) \tag{12.24} \]
と求まる。

SU(2)群のカルタン-キリング計量

 $SU(2)$ 群の計量はカルタン-キリング計量
\[    ds^2 \, = \, -2 \Tr ( u^{-1} d u \, u^{-1} du )     \tag{12.25} \]
で定義される。この計量は多くのアイソメトリーを持つ。実際、そのようなアイソメトリーの集合は $SU(2)$ 代数を成す。関係式(12.23)を用いると、カルタン-キリング計量は
\[\begin{eqnarray}    ds^2 &=& -2 \Tr \left( i \frac{\si^a}{2} \right) \left( i \frac{\si^b}{2} \right)    E^a_\al E^b_\bt \, db^\al d b^\bt    \nonumber \\    &=&    E^a_\al  E^a_\bt \, db^\al d b^\bt    \tag{12.26}  \end{eqnarray}\]
と表せる。8.2節の(8.13)で議論したように曲がった多様体上の計量 $ds^2$ はフレーム場 $e_\mu^a$ を用いて $ds^2 = g_{\mu \nu} dx^\mu dx^\nu  = e_\mu^a e_\nu^a dx^\mu dx^\nu$ と定義される。したがって、$SU(2)$ 群を計量(12.26)をもつ曲がった多様体とみなすと、上式は $E^a_\al$ が $SU(2)$ 群のフレーム場を与えることを示す。この意味で $u^{-1} d u$ はフレーム場1形式と呼べる。

一般化とモーレー-カルタン恒等式

 以上 $SU(2)$ の場合を扱ったがこれらの結果はスムーズに一般化できる。リー群 $G$ の要素を $g ( \th )$ とすると、$G$ のカルタン-キリング計量 $ds^2$ はフレーム場1形式
\[   g^{-1} d g \, = \,  i t^a E^a_\al (\th ) \, d \th^\al     \tag{12.27} \]
を用いて
\[  ds^2 \, = \, -2 \Tr (  g^{-1} d g \, g^{-1} d g ) \, = \, E^a_\al \, E^a_\bt \, d \th^\al d \th^\bt    \tag{12.28}  \]
と定義される。ただし、$t^a$ ($a = 1,2, \cdots , {\rm dim}G$) はリー代数 G の生成子の行列表現であり、規格化 $\Tr (t^a t^b ) = \hf \del^{ab}$ のもと、
\[    \left[ t^a , t^b \right] \, = \, i C^{abc} t^c    \tag{12.29} \]
を満たす。$C^{abc}$ はリー代数の構造定数である。(12.27)から次の量を定義できる。
\[    A_\al \, \equiv \, g^{-1} \frac{\d g}{\d \th^\al} \, = \, i t^a E^a_\al     \tag{12.30} \]
パラメータ $\th^\al$ による $A_\bt$ の微分は
\[\begin{eqnarray}    \frac{\d}{\d \th^\al} A_\bt    &=& \left( -g^{-1} \frac{\d g}{\d \th^\al} g^{-1} \right) \frac{\d g}{\d \th^\bt}    + g^{-1} \frac{\d^2 g}{\d \th^\al \d \th^\bt}    \nonumber \\    &=& - A_\al A_\bt +  g^{-1} \frac{\d^2 g}{\d \th^\al \d \th^\bt}    \tag{12.31} \end{eqnarray}\]
と計算できる。ただし、関係式 $\frac{\d g^{-1}}{\d \th^\al} = - g^{-1} \frac{\d g}{\d \th^\al} g^{-1}$ を用いた。この関係式は $\frac{\d}{\d \th^\al} (g g^{-1}) = 0$ から自明である。微分を反対称化させると恒等式
\[    \d_\al A_\bt - \d_\bt A_\al + [ A_\al , A_\bt ] \, = \, 0     \tag{12.32} \]
を得る。これはモーレー-カルタン恒等式と呼ばれる。フレーム場で表すとこの恒等式は
\[    \d_\al E^a_\bt - \d_\bt E^a_\al - C^{abc} E^b_\al E^c_\bt    \, = \, 0     \tag{12.33} \]
と書ける。$E^b_\al E^c_\bt$ の因子を反対称化させると、上式は
\[    \d_\al E_\bt^a - \d_\bt E_\al^a - \hf C^{abc} \left(    E^b_\al E^c_\bt - E^b_\bt E^c_\al    \right) \, = \, 0     \tag{12.34} \]
とも表せる。

 上式の左辺は8.2節の(8.22)で定義されたトーション $T^{a}_{\mu\nu}$ と類似していることに注意しよう。このトーション $T^{a}_{\mu\nu}$ を書き下すと
\[    T^{a}_{\mu\nu} \, = \,    \d_\mu e^a_\nu - \d_\nu e^a_\mu + \om^{ab}_{\mu} e^b_\nu - \om^{ab}_{\nu} e^b_\mu    \tag{12.35} \]
となる。ただし、$\om^{ab}_{\mu}$ はスピン接続である。モーレー-カルタン恒等式(12.34)とトーション・ゼロの条件式 $T^{a}_{\mu\nu} = 0$ には構造上の類似性がある。そこで、モーレー-カルタン恒等式(12.34)の解あるいは解釈を関係式(12.35)との比較で考えてみよう。

2024-11-02

WinEdt 11 で index 作成

長年 WinEdt を利用していますが、索引作成で戸惑ったので記録しておきます。

\usepackage{makeidx} 
\makeindex  
\printindex

で作成されるはずなのになぜか更新されません。WinShell で日本語の LaTeX を作成したときは索引も更新されていたはずなのに。LaTeX を走らせると idx ファイルは更新されるのだけど ind ファイルは古いままだったので色々試してみると、idx ファイル作成後にツールバーから 

TeX --> Make Index 

で ind ファイルが更新されました! そういえばそうだったか。完全に忘れていました。分かれば単純なことなのに1時間ぐらい Execution Modes などをいじって混乱してしまいました。今後は定期的にツールバーから make index しないとな。

2024-10-30

12. リー群の幾何学的側面 vol.1

リー群には2つの側面がある。1つは当然ながら代数的側面、もう1つは幾何学的側面である。この章ではリー群の基本について簡単に紹介した後、主に後者の側面について考察する。また、リー群の既約表現とその物理問題への応用についてもレビューする。

12.1 リー群入門


群の定義

 まず一般の群について考える。群 $G$ の要素の集合を $\{ a_i \}$ ($i = 1,2, \cdots , {\rm dim} G$) で表すと、群 $G$ は次の公理で定義される。
1. 合成則のもとで集合は閉じている: $a_i \cdot a_j \in G$
2. 単位元 ${\bf 1}$ の存在: $a_i \cdot {\bf 1} = {\bf 1} \cdot a_i = a_i$
3. 結合則が成り立つ: $a_i \cdot ( a_j \cdot a_k ) = ( a_i \cdot a_j ) \cdot a_k$
4. 逆元の存在: $a_i \cdot (a_{i}^{-1}) = {\bf 1} = (a_{i}^{-1}) \cdot a_i $
要素の数 ${\rm dim} G$ が有限の場合、$G$ は有限群と呼ばれる。また、要素が無限にある場合、群は無限群と呼ばれる。

 一般に、群は離散群と連続群(あるいは位相群)の2つに分類される。離散群の典型例は加法のもとでの整数の集合である。一方、連続群は群の要素をラベルするパラメターの連続的な集合で特徴付けられる。(例えば、加法のもとでの実数全体は連続群を成す。)そのようなパラメターがさらに微分可能である場合、連続群はリー群となる。

リー群の定義

 リー群 $G$ の要素を $g (\th ) \in G$ とする。$g (\th )$ はパラメータ $\th$ の関数であり、そのようなパラメータの数はリー群の要素の数 ${\rm dim}G$ に対応する。このとき合成則は
\[    g (\th ) \cdot g (\th^\prime ) \, = \, g \left( \bt( \th , \th^\prime ) \right)   \tag{12.1} \]
と表せる。この合成則のもとでリー群は次のように定義される。
1. $\bt ( \th , \th^\prime )$ は $\th$ と $\th^\prime$ の解析関数である。
2. $g (\th ) \cdot g (\al ) = {\bf 1}$ となるパラメータ $\al$ が存在する。このとき、パラメータ $\al$ も $\th$ の解析関数 $\al = \al (\th )$ で与えられる。

微分演算子

 ここで、群の要素の解析性を議論するために微分の概念を導入する。群の要素 $g = g(\th)$ の関数を $f(g)$ とおく。パラメータ $\th$ による $f$ の微分は $\frac{\d f}{ \d \th } = \frac{\d f}{\d g } \frac{\d g }{\d \th}$ と書ける。よって、解析性の要請から $g( \th + d \th)$ を考える必要がある。ただし、$d \th$ はパラメータ $\th$ の無限小変位を表す。群の合成則のもとで、これは無限小の合成則 
\[ g (\th ) \cdot g ( d \th ) = g \left( \bt (\th , d \th ) \right) \tag{12.2} \]
を用いて考察できる。ただし、$g( 0) = {\bf 1}$ とする。$\bt ( \th , d \th )$ を $d \th$ で展開すると
\[    \bt ( \th , d \th ) \, \simeq \,    \bt ( \th , 0 ) + \frac{\d \bt (\th , 0 )}{ \d \th} d \th    \, = \, \th + \frac{\d \bt}{\d \th} d \th    \tag{12.3} \]
を得る。パラメータの数を $N$ と仮定しすると、パラメータは $\th^i$ ($i = 1,2,\cdots , N$) とラベルできる。このとき、(12.3)は
\[    \bt^i \, \simeq \, \th^i + \frac{\d \bt^i}{\d \th^k} d \th^k     \tag{12.4} \]
と表せる。よって、無限小の合成則(12.2)のもとでパラメータ $\th^i$ の変位は(単に $\th^i \rightarrow \th^i + d \th^i $ ではなく)$\bt^i ( \th , 0) = \th^i \rightarrow \bt^i ( \th , d \th ) \simeq \th^i + E^{i}_{k} d \th^k$ で与えられる。ただし、
\[    E^i_k \, \equiv \, \frac{\d \bt^i}{\d \th^k}     \tag{12.5} \]
である。以上の考察から、微分演算子
\[    X_{i} \, = \, (E^{-1})^k_i \frac{\d}{\d \th^k}    \tag{12.6} \]
は群の要素の任意の関数上で無限小の合成則を生成することが分かる。これはリー群においてカギとなる概念である。微分演算子 $X_i$ の交換関係は次のように計算できる。
\[\begin{eqnarray}    \left[ X_i , X_j \right] &=&    \left[ (E^{-1})^k_i \frac{\d}{\d \th^k} , \, (E^{-1})^l_j \frac{\d}{\d \th^l}    \right]    \nonumber \\    &=&    \left[    (E^{-1})^k_i \frac{\d (E^{-1})^l_j }{\d \th^k}    - (E^{-1})^j_k \frac{\d (E^{-1})^l_i }{\d \th^k}    \right] \frac{\d}{\d \th^l}    \nonumber \\    &=&    \left[    (E^{-1})^k_i \frac{\d (E^{-1})^l_j }{\d \th^k}    - (E^{-1})^j_k \frac{\d (E^{-1})^l_i }{\d \th^k}    \right] E^m_l    \underbrace{(E^{-1})^n_m \frac{\d}{\d \th^n}}_{= \, X_m}    \nonumber \\    & \equiv &    C_{ij}^{m} \, X_m    \tag{12.7} \end{eqnarray}\]
ただし、$C_{ij}^{m}$ は
\[    C_{ij}^{m} \, = \, E^m_l \left(    (E^{-1})^k_i \frac{\d (E^{-1})^l_j}{\d \th^k} -    (E^{-1})^k_j \frac{\d (E^{-1})^l_i}{\d \th^k}    \right)    \tag{12.8} \]
と定義される。一般に、$C_{ij}^{m}$ はパラメータ $\th^i$ の関数である。

リーの第1定理

 リーの第1定理の主張は以下の通り。
リー群において $C_{ij}^{m}$ は定数であり、パラメータ $\th^i$ に依らない。
これは $C_{ij}^{m}$ の値を評価するに当たり、$\th = 0$ の近傍を考えるだけでよいことを意味する。言い換えると、リー群の広域的な構造を局所的な解析から求めることができる。この意味で、リーの第1定理は複素解析のコーシーの積分定理と類似している。定数 $C_{ij}^{m}$ は構造定数と呼ばれる。

 リー群の解析の多くは原点 $\th = 0$ 近傍の展開式を用いて実行できる。例えば、単位元近傍の群の要素は $g (d \th) \simeq 1 + i T_k d \th^k$ とパラメータ表示できる。ただし、$T_k = T_k (\th) $ は一般に $\th^i$ の関数である。このとき、無限小の合成則(12.2)は
\[     g (\th ) \cdot g ( d \th ) \, \simeq \, g ( \th ) \left( 1 + i T_k d \th^k \right)     \tag{12.9} \]
と表せる。これを関係式
\[     g (\th ) \cdot g ( d \th ) \, = \, g \left( \bt (\th , d \th ) \right) \, \simeq \, g ( \th^i + E_k^i d \th^k ) \, = \, g + d g     \tag{12.10} \]
と比較すると、
\[     g^{-1} d g \, = \, i T_k d \, \th^k      \tag{12.11} \]
を得る。これより $T_k = - i E_k^i \frac{\d}{\d \bt^i} = - i \frac{\d}{\d \th^k}$ が分かるので微分演算子は $X_k = i (E^{-1} )_k^l T_l$ と表せる。次節では $SU(2)$ 群における $T_k (\th) $ の形を具体的に導出する。

リー代数

 一般に、代数はベクトル空間 $V$ を成す要素の集合 $\{ t_a \}$ で定義される。すなわち、$\{ t_a \} \in V$ $(a = 1,2, \cdots, \dim V )$, $\al t_a + \bt t_b \in V$ とおける。($\al$, $\bt$ は体の係数。)  そのような要素に対してブラケット演算子  $\{ t_a , t_b \}$ を考える。その典型例として、ポアソン括弧 $\{ t_a , t_b \} = C_{ab}^{c} t_c$ がある。ただし、$C_{ab}^{c}$ は定数。ブラケット演算子は一般に写像 $V \times V \rightarrow V$ を与える。リー代数はこの演算子に対して 
  (i) 反対称性 $\{ t_a , t_b \} = - \{ t_b , t_a \}$ と 
  (ii) ヤコビ律 $\{ t_a , \{ t_b , t_c \} \} + \{ t_b , \{ t_c , t_a \} \} + \{ t_c , \{ t_a , t_b \} \} = 0$ 
を課すことによって定義される。ポアソン括弧の定数 $C_{ab}^{c}$ を用いて言い換えると、リー代数は条件式
\[\begin{eqnarray}    C_{ab}^{c} + C_{ba}^{c} &=& 0     \tag{12.12} \\    C_{ab}^{d} C_{cd}^{e} + C_{bc}^{d} C_{ad}^{e} +C_{ca}^{d} C_{bd}^{e}    &=& 0     \tag{12.13} \end{eqnarray}\]
で定義される。ヤコビ律(12.13)は添え字 $(a, b, c)$ についての巡回和で表せることに注意しよう。

リーの第2定理

 リーの第2定理の主張は以下の通り。
微分演算子 $X_i = (E^{-1})^k_i \frac{\d}{\d \th^k}$ はリー代数の(基底)要素を成す。任意のリー群 $G$ に対して、対応するリー代数 G が存在する。
言い換えると、微分演算子 $X_i$ と要素 $t_a$ の間に対応関係がある。この主張の逆は次のようになる。
任意のリー代数 G に対して、対応するリー群 $\widetilde{G}$ を構成できる。(群の要素を $\widetilde{g} = \exp ( i t_a \th^a )$ とすればよい。)ただし、この $\widetilde{G}$ はユニークには決まらない。より正確には、$\widetilde{G}$ は単連結型の $G$($G$ は上記のリー群)であり、単連結普遍被覆群と呼ばれる。


2024-10-24

11. 共形対称性 vol.6

11.5 カッツ行列式とユニタリー・ミニマル模型


前回はビラソロ代数のユニタリー性の議論から特異ベクトルが存在する条件について解説した。これらの結果で重要なのは特異ベクトルが存在する場合、共形ウェイト $h$ が中心電荷 $c$ の関数として表される点にある。グラム行列 $M^{(N)}$ を用いるとレベル $N$ の特異ベクトルは固有値ゼロの固有ベクトルに相当する。よって、この $h$ と $c$ の関係は $\det M^{(N)} = 0$ を課すことでより簡単に導ける。行列式 $\det M^{(N)}$ はカッツ行列式と呼ばれる。

 $N = 1$ の場合、関係式
\[    \bra h | L_{1} L_{-1} | h \ket = 2 h     \tag{11.88} \]
から $\det M^{(1)} = 2h $ となる。$N= 2$ の場合、グラム行列は
\[    M^{(2)} =    \left(      \begin{array}{cc}        \bra h| L^{2}_{1}  L^{2}_{-1} | h \ket & \bra h| L^{2}_{1} L_{-2}| h  \ket \\        \bra h| L_{2}  L^{2}_{-1}  | h \ket  & \bra h| L_{2} L_{-2} | h \ket  \\      \end{array}    \right)    =    \left(      \begin{array}{cc}        4h ( 1 + 2h ) & 6h \\        6h  & 4h + \frac{c}{2} \\      \end{array}    \right)     \tag{11.110} \]
と書ける。ただし、ビラソロ代数
\[    \left[ L_m , L_n \right] \, = \, ( m - n ) L_{m+n} +    \frac{c}{12} ( m^3 - m ) \del_{m+n, 0}    \tag{11.76} \]
と最高ウェイト状態の条件式
\[    L_0 | h \ket = h | h \ket \, , ~~~~    L_n | h \ket = 0  ~~ ( n \ge 1 )    \tag{11.82} \]
を用いて、行列の各成分を導いた。
\[\begin{eqnarray}    \bra h | L_1^2 L_{-1}^{2} | h \ket &=& 2 \bra h | L_1 ( L_{-1} + 2 L_{-1} L_0 ) | h \ket = 4h (2 h+ 1)   \nonumber \\    \bra h| L^{2}_{1} L_{-2}| h  \ket &=& \bra h | L_1 [ L_1 , L_{-2} ] | h \ket = 6 h    \tag{11.111} \\    \bra h| L_{2} L_{-2} | h \ket &=& \bra h| [ L_{2} ,  L_{-2} ] | h \ket = 4h + \frac{c}{2}   \nonumber \end{eqnarray}\]
以上より、
\[    \det M^{(2)} = 4h \left[ 8h^2 + (c-5 ) h + \frac{c}{2} \right]     \tag{11.112} \]
が分かる。よって、$\det M^{(2)} = 0$ $(\det M^{(1)} \ne 0)$ はレベル2特異ベクトルが存在する条件式
\[    h = \frac{- (c-5) \pm \sqrt{(c-1)(c-25)}}{16}     \tag{11.101} \]
に帰着できる。

2024-10-20

柴又散策

今日は次女と一緒に初めて柴又に行きました。京成金町線で柴又駅から参道を通り帝釈天へ。以前、「土曜は寅さん」で男はつらいよ!シリーズをいくつか観ていたので子供も楽しめたようです。


2024-10-18

レベル3カッツ行列式の計算

2次元共形場理論で出てくるカッツ行列式の計算。2次元までは自明でどの教科書にも載っているのですが、3次元(正確にはレベル3)の場合は急に計算量が増えてややこしくなってしまいます。調べたけど出てこないので自分で計算することにしました。一般の場合の公式は既に証明されているのでレベル3の場合だけやって自分を納得させたいだけの話です。

 まず、レベル3カッツ行列式は
\[ |M^{(3)} | = \left|      \begin{array}{ccc}        \bra h| L^{3}_{1}  L^{3}_{-1} | h \ket & \bra h| L^{3}_{1} L_{-1} L_{-2}| h  \ket & \bra h| L^{3}_{1} L_{-3}| h  \ket  \\       \bra h| L_{2} L_{1} L^{3}_{-1}  | h \ket  & \bra h| L_{2}L_{1} L_{-1}L_{-2} | h \ket  & \bra h| L_{2}L_{1} L_{-3} | h \ket  \\     \bra h| L_{3} L^{3}_{-1}  | h \ket  & \bra h| L_{3} L_{-1}L_{-2} | h \ket  & \bra h| L_{3} L_{-3} | h \ket  \\      \end{array}  \right|  \tag{1} \]
で与えられる。ここで、演算子 $L_{n}$ $(n \in \mathbb{Z} )$ はビラソロ代数
\[    \left[ L_m , L_n \right] \, = \, ( m - n ) L_{m+n} +    \frac{c}{12} ( m^3 - m ) \del_{m+n, 0}    \tag{2} \]
に従う。$c$ は中心電荷と呼ばれる定数である。状態 $| h \ket$ は最高ウェイト状態を表し条件式
\[   L_0 | h \ket = h | h \ket \, , ~~~~    L_n | h \ket = 0  ~~ ( n \ge 1 )   \tag{3} \]
を満たす。以上から行列の各成分を計算すると以下の結果を得る。

2024-10-12

ノーベル平和賞に日本被団協

これはビッグニュース。ノーベル平和賞はこれまでも核廃絶の運動に対して贈られてきました。2009年のオバマ大統領(当時)、2017年のICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)。オバマ大統領の時は核廃絶を口約束しただけの印象でしたが、2017年ではヒバクシャという言葉が国際的に浸透する良い契機になりました。今回、長年に渡り反核平和活動を展開してきた日本の団体(日本原水爆被害者団体協議会)が受賞したのは当然の流れとは言え、驚きました。これまで日本からの核廃絶イニシアチブは国際的に影響力がなかった印象なので今後はこれを契機にもっと自信と勇気をもって反核平和のメッセージを発信し続けることが日本外交に期待されているということでしょうか。現実的には難しそうですが。


2024-10-06

東京都美術館 田中一村 展

以前こちらで紹介した田中一村の大回顧展が東京都美術館で開催中。先日訪問しました。上野駅の公園口前の横断歩道がなくなったので公園施設へのアクセスが断然良くなりました。


東京で個展を開いて絵の決着をつけたいという一村の悲願成就。決着をつけるまでもないことは本人も分かっていたでしょうけど。でも、こうして多くの人々に素晴らしい作品が披露されることはありがたい。実物を観てただただ感動しました。途中で休憩を挟みながらマイペースで観覧。絵画作品だけでなく手紙や写真など貴重な資料、新出の作品も展示されていました。奄美大島まで行かないと再び観ることは叶わないだろうからと思い切ってカタログ購入。


解説文も丁寧で理解が深まりました。久しぶりに手元にある伝記と作品集を読み直しました。

2024-09-21

2024年9月 焼岳


久しぶりの上高地。マイカーでアクセスできる新中の湯登山口から焼岳までピストン。登山口にはトイレがないため道の駅「風穴の里」を利用しました。火山ということで念のためヘルメット持参。山頂付近では硫黄臭のする噴煙が絶え間なく湧いていました。山頂ではガスの切れ間から何度か絶景を望むことができました。

2024-09-09

カローラフィールダーのヘッドライト塗装

ヘッドライトの黄ばみが気になってきたのでDIYでキレイにしてみました。

1.中性洗剤で洗う
2.マスキング
3.耐水ペーパー800番で研磨
4.再度中性洗剤で洗ってから乾かす
5.前面のマスキング
6.ウレタンクリアで4から5度塗装

最後のところ本来は3度塗装で良かったみたいなのですが、せっかくのスプレー缶が余ってしまったので余計に塗装してしまいました。4度目でまた曇ってしまった(ゆず肌?)のでもう一度厚塗りして終わりにしました。

施工前


2024-09-08

2024年9月 火打山

 

今回は火打山。妙高高原ICで降りて笹ヶ峰登山口からアクセス。妙高に来たのは高校の林間学校ぶり。1990年の夏だからもう34年前! 評判の中華で腹ごしらえして登山口へ。

2024-08-21

2024年8月 苗場山


小赤沢の登山口は都内からだとアクセスが大変!前日の昼に出発、暗くなってから知らない山道行くのが怖かったので夕暮れ前に登山口の駐車場到着して車中泊。といっても、座席を寝かして横になるだけですが。夜間ずっと雨だったので不安でしたが、明け方には止んでくれました。4時前に目が覚めたのでヘッドライトを点けて荷物確認してから4時半に出発。以前、武尊山地蔵岳に登ったときのことを思い出しました。

2024-08-06

11. 共形対称性 vol.5

前回に引き続いてビラソロ代数
\[    \left[ L_m , L_n \right] \, = \, ( m - n ) L_{m+n} +    \frac{c}{12} ( m^3 - m ) \del_{m+n, 0}    \tag{11.76} \]
について議論する。

ビラソロ代数のユニタリー既約表現

 11.3節で言及したように、2次元の臨界指数 $\al$ は
\[    \bra \phi (z ) \phi (w ) \ket  \, = \, \frac{1}{(z - w )^\al}    \tag{11.77} \]
と表せる。ただし、$z , w \in {\bf C}$ である。これは演算子 $L_0 = - z \frac{\d}{\d z} $ の固有値が臨界指数 $\al$ を与えることを意味する。実際、
\[    L_0 \frac{1}{z^\al} = \al z \frac{1}{z^{\al + 1 }} = \al \frac{1}{z^\al}     \tag{11.78} \]
と計算できる。$L_0$ の固有値は共形ウェイト(あるいは共形次元)と呼ばれる。前節で紹介したように2次元の臨界現象はビラソロ代数の表現で分類できる。よって、2次元上で可能な全ての臨界指数は共形ウェイトで与えられることが分かる。以下では、ビラソロ代数のユニタリー既約表現を考えることでそのような共形ウェイトが決定されることを見ていく。

 まず、$SL( 2 , {\bf C} )$部分代数あるいは2次元の広域共形代数を考える。ビラソロ代数(11.76)において、$m = 0 , \pm 1$ とすると
\[    \left[ L_{1} , L_{-1} \right] = 2 L_0 \, , ~~~    \left[ L_{0} , L_{1} \right] = - L_{1} \, , ~~~    \left[ L_{0} , L_{-1} \right] =  L_{-1}    \tag{11.79} \]
を得る。これは閉じた代数であるが、$|m|$ が大きい場合、代数は閉じない。例えば、$m = 0, \pm 1, \pm 2$ のとき、次のような交換関係が現れる。
\[    \left[ L_{2} , L_{-2} \right] = 4 L_0 + \frac{c}{2} \, , ~~    \left[ L_{0} , L_{2} \right] = -2 L_{2} \, , ~~    \left[ L_{1} , L_{2} \right] =  - L_{3} \, , ~ \cdots    \tag{11.80} \]
よって、$|m|$ が大きい場合、閉じた部分代数は存在せず、ビラソロ代数(11.76)全体を含める必要がある。(11.76)に $m = 0$ を代入すると
\[    \left[ L_0 , L_n \right] \, = \, - n L_n     \tag{11.81} \]
を得る。ここで、ある状態 $| \psi \ket$ が共形ウェイト $h_0$ を持つとすると、上の交換関係から関係式 $L_0 ( L_n | \psi \ket ) = ( h_0 - n ) L_n | \psi \ket $ が求まる。これは、演算子 $L_n$  $(n \ge 0 )$ の作用によって $L_0$ の固有値が $n$ だけ減少することを意味する。言い換えると、$L_n$ は下降演算子として振る舞う。よって、角運動量代数との類推から、ビラソロ代数の表現を最高ウェイト状態 $|h \ket$ によって構成することができる。ただし、$|h \ket$ は条件式
\[    L_0 | h \ket = h | h \ket \, , ~~~~    L_n | h \ket = 0  ~~ ( n \ge 1 )    \tag{11.82} \]
をみたす。規格化条件は $\bra h | h \ket = 1$ とする。$|h \ket$ 以外の全ての状態は $L_{-m}$ $( m  \ge 1)$ を $| h \ket$ に施すことによって求まる。具体的に書き出すと次のようになる。
\[    \begin{array}{l|l|l}    N & p(N) & \mbox{共形ウェイト}(h+N)\mbox{のディセンダント状態} \\ \hline    1 & 1 & L_{-1}|h \ket \, , \\    2 & 2 & L_{-2}|h \ket \, , ~ L^{2}_{-1}|h \ket  \\    3 & 3 & L_{-3}|h \ket \, , ~ L_{-1} L_{-2}|h \ket \, , ~ L^{3}_{-1}|h \ket  \\    4 & 5 & L_{-4}|h \ket \, , ~ L_{-1} L_{-3}  |h \ket \, , ~ L_{-2}^{2} |h \ket \, , ~  L_{-1}^{2} L_{-2} |h \ket \, , ~      L^{4}_{-1}|h \ket  \\    5 & 7 & L_{-5}|h \ket \, , ~ L_{-1} L_{-4} |h \ket \, , ~ L_{-2} L_{-3}  |h \ket \, , ~  L_{-1}^{2} L_{-3} |h \ket \, , \\    &&   L_{-1} L_{-2}^{2}  |h \ket \, , ~  L_{-1}^{3} L_{-2}|h \ket \, , ~ L^{5}_{-1}|h \ket  \\    6 & 11 & L_{-6}|h \ket \, , ~ L_{-1} L_{-5} |h \ket \, , ~  L_{-2} L_{-4}|h \ket \, , ~ L_{-1}^{2}  L_{-4}|h \ket \, , \\    &&    L_{-3}^{2} |h \ket \, , ~ L_{-2} L_{-1} L_{-3} |h \ket \, , ~ L_{-1}^{3}  L_{-3} |h \ket \, ,   \\    &&    L^{3}_{-2}|h \ket \, ~ L_{-1}^{2} L_{-2}^{2} |h \ket \, , ~  L_{-1}^{4} L_{-2}|h \ket \, , ~ L^{6}_{-1}|h \ket  \\    7 & 15 & \cdots    \\    \vdots & \vdots & \ddots    \\    \end{array}    \tag{11.83} \]
これらの状態はディセンダント状態と呼ばれる。一般にディセンダント状態は
\[    L_{-n_1} L_{-n_2} \cdots L_{-n_r} | h \ket    \, , ~~~  (1 \le n_1 \le n_2 \le \cdots \le n_r)     \tag{11.84} \]
と表せる。ただし、
\[    \sum_{i=1}^{r} n_i = N     \tag{11.85} \]
である。最高ウェイト状態 $| h \ket $ を含むディセンダント状態(11.83)で張られる無限次元のベクトル空間はビラソロ代数の無限次元の表現を与える。表現論の用語でより正確に表すとこれらの状態はバーマ加群と呼ばれる加群(モジュール)を成す。自然数 $N$ はバーマ加群をなすディセンダント状態のレベル数と呼ばれる。

 構成によりレベル $N$ ディセンダント状態の縮退度は分割数 $p (N)$ で与えられる。これは $N$ を自然数の和として表せる場合の数である。ただし、$N = 0$ の場合は $p (0 ) = 1$ と定義される。分割数 $p (N)$ の母関数は
\[    \sum_{N = 0}^{ \infty} p (N ) x^N = \prod_{r = 1}^{\infty} \frac{1}{ 1 - x^r}     \tag{11.86} \]
で与えられる。


ユニタリー性、既約性、特異ベクトル

ビラソロ代数のユニタリー性は任意の物理状態の内積が正であることで保証される。状態 $L_{-m} | h \ket$ と $L_{-n} | h \ket$ $( m,n > 0 )$ の内積は
\[\begin{eqnarray}    \bra h | L_{m} L_{-n} | h \ket    &=& \bra h |\left( [ L_{m} , L_{-n} ] + L_{-n} L_{m} \right) | h \ket    \nonumber \\    &=& \bra h | \left( (m+ n) L_{m-n} + \frac{c}{12}m(m^2 - 1 ) \del_{m,n} \right) | h \ket    \nonumber \\    &=&    \left( (m+n) h + \frac{c}{12} m (m^2 - 1 ) \right) \del_{m,n}      \tag{11.87} \end{eqnarray}\]
と計算できる。ただし、随伴関係 $L^{\dagger}_{-n} = L_n$ と規格化 $\bra h | h \ket = 1$ を用いた。非自明となる最もシンプルな場合は $m = n = 1$ で与えられ、このとき上式は
\[    \bra h | L_{1} L_{-1} | h \ket = 2 h     \tag{11.88} \]
となる。よって、ユニタリー条件から $h > 0$ が分かる。また、(11.87)からレベル $n$ ディセンダント状態 $L_{-n} | h \ket$ $(n > 1 )$ の内積は
\[    \bra h | L_{n} L_{-n} | h \ket =    2 n h + \frac{c}{12} n (n^2 - 1 )     \tag{11.89} \]
で与えられる。レベル数 $n$ が充分に大きいとき、この内積が正となるには $c \ge 0$ が必要である。これらの簡単な場合から、ビラソロ代数のユニタリー性を課すと $h$ と $c$ が非負となることが分かる。つまり、
\[    h > 0 \, , ~~ c \ge 0     \tag{11.90} \]
であることが要請される。

 関係式(11.87)はレベル $m$ 状態 $L_{-m} | h \ket$ とレベル $n$ 状態 $L_{-n} | h \ket$ が $m=n$ でない限り互いに直交することを意味する。この関係はレベル $m, n$ の他のディセンダント状態にも当てはまる。よって、ビラソロ代数のユニタリー性はレベル $N$ の部分ベクトル空間を用いて考えることができる。ただし、この部分ベクトル空間の次元は $p(N)$ となる。(11.83)のリストよりレベル $N$ 部分空間の基底は
\[     L^{N}_{-1}|h \ket\, , ~ L_{-1}^{N-2} L_{-2} |h \ket \, , \cdots \, , ~ L_{-1} L_{-N+1} |h \ket \, ,  ~ L_{-N}|h \ket     \tag{11.91} \]
で与えられることが分かる。レベル $N$ 部分空間において内積が正であるかどうかは以下のグラム行列 $M^{(N)}$ を用いて判定できる。
\[     \left(      \begin{array}{cccc}        \bra h | L_{1}^{N} L_{-1}^{N} | h \ket & \bra h | L_{1}^{N} L_{-1}^{N-2} L_{-2} |h \ket  & \cdots         &  \bra h | L_{1}^{N} L_{-N}|h \ket \\        \bra h | L_{2} L_{1}^{N-2} L_{-1}^{N} | h \ket & \bra h | L_{2} L_{1}^{N-2} L_{-1}^{N-2} L_{-2}  |h \ket  & \cdots        &  \bra h | L_{2} L_{1}^{N-2} L_{-N} |h \ket \\        \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\        \bra h | L_{N} L_{-1}^{N} | h \ket & \bra h | L_{N} L_{-1}^{N-2} L_{-2}|h \ket  & \cdots        &  \bra h | L_{N} L_{-N} |h \ket \\      \end{array}    \right)     \tag{11.92} \]
グラム行列 $M^{(N)}$ はエルミート行列なのでユニタリー行列を用いて実数の固有値をもつ成分で対角化できる。よって、バーマ加群のユニタリー性を得るには任意の $N > 0$ について全ての固有値が正であることを要請すればよい。言い換えると、グラム行列が正定値であればビラソロ代数の表現はユニタリーである

 グラム行列 $M^{(N)}$ の固有値の1つがゼロのとき、$\det M^{(N)} = 0$ となる。これは、レベル $N$ の部分ベクトル空間が線形従属であることを意味し、レベル $N$ ディセンダント状態の線形結合として次の関係式を満たすある特定のベクトル $| \chi \ket$ を構成できることを示す。
\[    L_0 | \chi \ket = (h + N ) | \chi \ket \, , ~~~~ L_{n} | \chi \ket = 0 ~~~ ( n > 0 )    \tag{11.93} \]
このベクトルはレベル $N$ の特異ベクトルあるいはヌル・ベクトルと呼ばれる。このとき、つまり特異ベクトルが含まれる場合、ビラソロ代数の表現は可約となる。特異ベクトルと任意のディセンダント状態(11.84)の内積はゼロとなる。
\[    \bra \chi | L_{-n_1} L_{-n_2} \cdots L_{-n_r} | h \ket     = \bra h | L_{n_r} L_{n_{r-1}} \cdots L_{n_1} | \chi \ket = 0     \tag{11.94} \]
また、その構成から特異ベクトルのノルムはゼロとなる。
\[    \bra \chi | \chi \ket = 0     \tag{11.95} \]
よって、元々のバーマ加群で
\[    | \chi \ket = 0     \tag{11.96} \]
とおくことにより、特異ベクトルと特異ベクトルから生成されるディセンダント状態を取り除くことができる。これにより、可約なバーマ加群は既約表現を持つことになる。このような既約表現はビラソロ代数の縮退表現と呼ばれる。

2024-08-05

11. 共形対称性 vol.4

11.4 2次元共形変換とビラソロ代数


2次元平面では計量テンソルを $g_{\mu\nu} = \del_{\mu\nu}$ $(\mu, \nu = 1,2)$ とおける。この時、共形キリング方程式
\[    \nabla_\mu \xi_\nu + \nabla_\nu \xi_\mu    \, = \, \la g_{\mu\nu}    \tag{11.2} \]
は次式で与えられる。
\[    \d_\mu \xi_\nu + \d_\nu \xi_\mu \, = \, \la \del_{\mu\nu}    \tag{11.55} \]
計量 $g_{\mu\nu} = \del_{\mu\nu}$ で縮約を取ると $ 2 \d_\mu \xi_\nu = 2 \la$ を得る。よって、共形キリング方程式は
\[    \d_\mu \xi_\nu + \d_\nu \xi_\mu - (\d \cdot \xi ) \del_{\mu\nu}    \, = \, 0  \tag{11.56} \]
と書ける。添え字を明示するとこれは3つの式で表せる。
\[\begin{eqnarray}   2 \d_1 \xi_1 - ( \d_1 \xi_1 + \d_2 \xi_2 ) &=& 0     \nonumber \\    2 \d_2 \xi_2 - ( \d_1 \xi_1 + \d_2 \xi_2 ) &=& 0     \nonumber \\    \d_1 \xi_2  + \d_2 \xi_1  &=& 0     \nonumber \end{eqnarray}\]
つまり、
\[\begin{eqnarray}    \d_1 \xi_1 - \d_2 \xi_2 &=& 0  \nonumber \\    \d_1 \xi_2 + \d_2 \xi_1 &=& 0 \nonumber \end{eqnarray} \tag{11.57}\]
と求まる。これらは正則関数のコーシー・リーマン方程式に他ならない。そこで、4.2節にならって、次のような複素変数表示を導入する。
\[\begin{eqnarray}    && \xi_1 + i \xi_2 = f  \,  , ~~~ \xi_1 - i \xi_2 = \bar{f}  \, ,    \nonumber \\    && x_1 + i x_2 = z \, , ~~~ x_1 - i x_2 = \bar{z}     \nonumber \\    && \d_\bz = \frac{\d_1 + i \d_2}{2} \, , ~~~ \d_z = \frac{\d_1 - i \d_2}{2}   \tag{11.58}  \end{eqnarray}\]
計量は $ds^2 = \del_{\mu\nu} d x^\mu d x^\nu = d z d \bz$ とおけるので、複素座標においてゼロにならない計量テンソルとその逆テンソルは
\[    g_{z \bz} = g_{ \bz z} = \frac{1}{2} \, , ~~~    g^{z \bz} = g^{ \bz z} = 2     \tag{11.59} \]
で与えられる。よって、(11.57)は
\[    \d_\bz f \, =  \, \frac{1}{2}( \d_1 + i \d_2 ) ( \xi_1 + i \xi_2 ) \, = \, 0     \tag{11.60} \]
と表せる。この一般解は $f = f (z)$ となることが確かに分かる。つまり、$f$ は $z$ の解析関数である。従って、2次元共形変換は、3次元以上の共形キリング方程式の一般解(11.6)が拡張され、任意の正則関数で定義される。演算子代数の視点から見ると2次元の共形代数 $SO(1,3)$ は無限次元のリー代数に拡張される。この代数はビラソロ代数と呼ばれる。以下では、ビラソロ代数を導入しそのユニタリー表現を考えるので議論は専ら代数的になる。なお、次章では一般のリー代数について幾何学的な考察を行う。

 特異点を $z=0, \infty$ にとり、$f(z)$ のローラン展開を書き出すと
\[    f (z) \, = \, - \sum_{n = - \infty}^{\infty}   \ep_n \, z^{n+1}    \tag{11.61} \]
となる。ただし、$\ep_n$ は展開係数である。もし $f(z)$ が特異点を持たなければ解は $f = \mbox{(定数)}$ で与えられることに注意しよう。複素パラメータ表示(11.58)から共形変換 $x_i \rightarrow x_i + \xi_i$ は
\[    z \, \rightarrow \, z + f (z)     \tag{11.62} \]
で実現されることが分かる。パラメータ $\ep_n$ に対応する共形変換の生成子は
\[    l_n \, = \, - z^{n+1} \d_z     \tag{11.63} \]
で与えられる。この生成子は交換関係
\[   \left[ l_m , l_n \right] \, = \, ( m - n ) l_{m+n}    \tag{11.64} \]
を満たす。これはヴィット代数と呼ばれる。部分代数 $l_n$ $(n = -1 , 0, 1)$ とその反正則部分 $\bar{l}_n$ は $SL(2, {\bf C} )$ 代数を成す。これは2次元の広域共形代数に対応している。定義(11.62)より2次元共形変換は次の演算子で生成されることが分かる。
\[\begin{eqnarray}    \O &=& \ep_{-1} \left( - \frac{\d}{\d z} \right) + \ep_{0} \, z \left( - \frac{\d}{\d z} \right)    + \ep_{1} \, z^2 \left( - \frac{\d}{\d z} \right) \nonumber \\    &=& \bar{\ep}_{-1} \left( - \frac{\d}{\d \bz} \right) + \bar{\ep}_{0} \, \bz \left( - \frac{\d}{\d \bz} \right)    + \bar{\ep}_{1} \, \bz^2 \left( - \frac{\d}{\d \bz} \right)    \nonumber \\    &=& a P_z + \bar{a} P_\bz + c M + d D + b K_z + \bar{b} K_\bz    \tag{11.65} \end{eqnarray}\]
ただし、共形変換の生成子は
\[    \begin{array}{ll}    P_z = - \d_z = l_{-1} \, , ~  P_\bz = - \d_\bz = \bar{l}_{-1}  & \mbox{: 並進変換}    \\    M = - z \d_z + \bz \d_\bz = ( l_0 - \bar{l}_{0} ) & \mbox{: 回転変換}    \\    D = -  z \d_z - \bz \d_\bz  =  ( l_0 + \bar{l}_{0} ) & \mbox{: スケール変換}    \\    K_z = - z^2 \d_z  = l_1 \, , ~ K_\bz = - \bz^2 \d_\bz = \bar{l}_1 &    \mbox{: 特殊共形変換}  \end{array} \tag{11.66} \] 
と定義される。(11.65)のパラメータは $\ep_n$ $(n = -1 , 0, 1)$ を用いて
\[    a = \ep_{-1} \, , ~~ \bar{a} = \bar{\ep}_{-1} \, , ~~  b = \ep_1 \, , ~~ \bar{b}= \bar{\ep}_{1} \, ,    ~~ c = \frac{1}{2}( \ep_0 - \bar{\ep}_{0} ) \, , ~~ d = \frac{1}{2} ( \ep_0 + \bar{\ep}_{0} )      \tag{11.67}\]
と同定される。(11.65),(11.66)は前節で求めた一般次元の結果
\[\begin{eqnarray}    \O &=& a^\mu \left( - i \frac{\d}{\d x^\mu} \right)    + \om^{\mu\nu} x_\nu \left( - i \frac{\d}{\d x^\mu} \right)    \nonumber \\    &&     + \,\ep \, x^\mu \left( - i \frac{\d}{\d x^\mu} \right)    + \, b_\al \left( x^2 \eta^{\mu \al} - 2 x^\mu x^\al \right)  \left( - i \frac{\d}{\d x^\mu} \right)    \nonumber \\    & \equiv & a^\mu P_\mu    - \frac{\om^{\mu\nu}}{2} M_{\mu\nu} + \ep \, D - b^\mu K_\mu     \tag{11.42} \end{eqnarray}\]
\[    \begin{array}{ll}    P_\mu = - i \d_\mu   & \mbox{: 並進変換}    \\    M_{\mu \nu} = x_\mu P_\nu - x_\nu P_\mu  & \mbox{: 回転変換}    \\    D = - i x^\mu \d_\mu & \mbox{: スケール変換}    \\    K_\mu = - i ( 2 x_\mu x^\nu \d_\nu - x^2 \d_\mu ) &    \mbox{: 特殊共形変換}    \end{array}     \tag{11.43} \]
の2次元版である。

2024-07-24

2024年夏 金時山

母をゴルフ場に送迎する間を利用して金時山へ。御殿場からアクセスも良くトンネルで乙女峠を越えるとすぐに金時神社の登山口に。8時過ぎでしたが神社の無料パーキングは既に満車。近くの有料駐車場を利用しました。



2024-07-03

都知事選 2024

わけわからん立候補者が乱立している都知事選、都民として看過できない事態です。とはいえ、一都民としてできるのはまともな候補者に投票することだけなので、今回もフラットな視点で候補者を選ぶことにしました。4年前の前回、こちらで報告したように小野さん、山本さん、小池さんで迷った挙句、結局、無電柱化を唯一公約に掲げていた小池さんに入れました。しかし、未だ公約は実現されず地元の道路もずっと工事中のままです。公約を守らず、守る気もなく、守れなかった理由の説明もない人を再選するのはさすがにバカなので今回はほかの人に入れる予定です。前回出てた小野さんはどうなったのかと調べてみるとなんと日本維新の会から比例で衆議院議員になっていました。山本さんは2022年に参院選で再選されたみたいです。

 今回の候補者でまず目を引いたのがドクター中松候補。以前から挑戦されていて私も毎回投票していましたが、今回はさすがにご高齢なので難しいのではないかと。ただ、そのご健在ぶりには感服するばかりです。つぎに気になったのがエンジニアの安野さん。起業家、AIエンジニア、SF作家という経歴の人が政治にチャレンジしてくれるというのはありがたい。ぜひ応援したいのですが、いきなり東京のトップになって大丈夫なのか少し不安があります。むしろ、トップのブレインとして才能を活かせるのではないか?その点、安芸高田市長だった石丸さんは首長の経験もあり、政策も明確なので安心です。バンカーとして約束された地位を投げ打って政治の世界に挑戦された意志の強さに世襲議員に代表される旧来の政治家にはない可能性を感じます。石丸さんと安野さんが組んで都政を改革してくれれば若い世代もより政治に関心を持ちわけわからん立候補者の数も減るのではと期待します。

2024-07-02

新訳で読む「赤毛のアン」

次女(10歳)がネットで「赤毛のアン」のアニメを見始めたので、一緒に見ることにしました。構成、キャラクターデザイン、背景、音楽、演出など全ての要素が素晴らしく、引き込まれて原作を読むことにしました。


「赤毛のアン」のアニメと言えば、小学5年生頃、登校すると友達の何人かが「マシューが死んだ~」と大騒ぎになっていたので「なにそれ~」と聞いたのが印象に残っていますが、子供が同じ歳になってようやくその感慨が分かりました。以前、NHKの「100分de名著」で茂木健一郎さんが取り上げていたのを興味深く観ましたが、その時は、女の子の作品だからなぁと、原作を手にすることはありませんでした。


その印象は今でも変わりませんが、二人の娘を持つ父親として読んでみるとその内容の深さに新鮮な驚きがあり、楽しく読めました。アニメとの相乗効果で理解が深まりました。折角なので、英語の勉強もしてみようということでこちら


を購入。舞台となったプリンス・エドワード島の様子がカラー写真でふんだんに紹介されておりとても参考になりました。イギリス古来のケルト系文化に由来する自然崇拝とスコットランド国教会を中心としたコミュニティの温かさに何故か懐かしさを感じました。そして主人公の素直な感情表現には、ツッコミどころはあるものの共感せずにはいられない筆力にさすが名著と呼ばれるだけあるなあ、むしろ何故いままで敬遠したのかと反省し、最近時間を持て余している感のある母に一冊送ることにしました。

2024-07-01

11. 共形対称性 vol.3

 11.3 共形代数と臨界現象の普遍性


この節ではまず共形アイソメトリーの代数、つまり共形代数を導出する。この代数は10.2節で導いたアイソメトリーに対するポアンカレ代数の自然な拡張と見做せる。ポアンカレ代数
\[\begin{eqnarray}    \left[ P_\mu , P_\nu \right] &=& 0     \nonumber \\    \left[ M_{\mu \nu} , P_{\al} \right] &=&    i \left( \eta_{\mu\al} P_{\nu} - \eta_{\nu\al} P_{\mu} \right)     \tag{10.29}\\    \left[ M_{\mu \nu} , M_{\al\bt} \right] &=&    i ( \eta_{\mu\al} M_{\nu\bt} - \eta_{\nu\al} M_{\mu\bt}    - \eta_{\mu\bt} M_{\nu\al} + \eta_{\nu\bt} M_{\mu\al} )     \nonumber \end{eqnarray}\]
との類推から、共形対称性の代数は11.1節で導いた共形変換
\[    \xi_\mu  \, = \,    \left\{    \begin{array}{ll}    a_\mu + \om_{\mu \al} \, x^\al    & \mbox{: ポアンカレ変換} \\   \ep \, x_\mu    & \mbox{: スケール変換} \\    b^\al ( x^2 \eta_{\mu \al} - 2 x_\mu x_\al )    & \mbox{: 特殊共形変換}    \end{array}    \right.    \tag{11.6} \]
の生成子を用いて構成できる。一般に、場の演算子の変換の生成子 ${\cal O}$ は
\[\begin{eqnarray}    \phi (x)  ~ \longrightarrow ~ \phi (x + \xi ) & = & \phi (x) +    \xi^\mu \frac{\d \phi}{\d x^\mu}    \nonumber \\    & \equiv &  \phi (x) + i \O \cdot \phi    \tag{10.27} \end{eqnarray}\]
で定義された。よって、共形変換の生成子は演算子
\[\begin{eqnarray}    \O &=& a^\mu \left( - i \frac{\d}{\d x^\mu} \right)    + \om^{\mu\nu} x_\nu \left( - i \frac{\d}{\d x^\mu} \right)    \nonumber \\    &&     + \,\ep \, x^\mu \left( - i \frac{\d}{\d x^\mu} \right)    + \, b_\al \left( x^2 \eta^{\mu \al} - 2 x^\mu x^\al \right)  \left( - i \frac{\d}{\d x^\mu} \right)    \nonumber \\    & \equiv & a^\mu P_\mu    - \frac{\om^{\mu\nu}}{2} M_{\mu\nu} + \ep \, D - b^\mu K_\mu     \tag{11.42} \end{eqnarray}\]
から読み取れる。これより、共形変換の生成子は
\[    \begin{array}{ll}    P_\mu = - i \d_\mu   & \mbox{: 並進変換}    \\    M_{\mu \nu} = x_\mu P_\nu - x_\nu P_\mu  & \mbox{: 回転変換}    \\    D = - i x^\mu \d_\mu & \mbox{: スケール変換}    \\    K_\mu = - i ( 2 x_\mu x^\nu \d_\nu - x^2 \d_\mu ) &    \mbox{: 特殊共形変換}    \end{array}     \tag{11.43} \]
で与えられることが分かる。したがって、共形代数はポアンカレ代数(10.29)と以下の交換関係の組み合わせで構成される。
\[\begin{eqnarray}    \left[ D , P_\mu \right] &=& i P_\mu \, , ~~~~ \left[ D , M_{\mu\nu} \right] \, = \, 0     \nonumber \\    \left[ D , K_\mu \right] &=& - i K_\mu \, , ~~~~ \left[ K_{\mu} , K_{\nu} \right] \, = \, 0     \nonumber \\    \left[ K_\mu , P_\nu \right] &=& i2 ( \eta_{\mu\nu} D + M_{\mu\nu} )     \nonumber \\    \left[ M_{\mu\nu} , K_\al \right] &=& i ( \eta_{\mu \al} K_\nu - \eta_{\nu \al} K_\mu )     \tag{11.44} \end{eqnarray}\]
共形代数は任意の次元 $d$ で成り立つ。$d$ 次元の共形代数は $(d+2)$ 次元ローレンツ代数、あるいは $SO(1, d+1)$ 代数と見做せる。これは次のように理解できる。

 まず、$A, B$ を複合添え字として $A, B = 0, 1,2, \cdots, d-1 , d ,d+1$ とおく。一方、$d$ 次元の添え字はこれまで同様、$\mu ,\nu = 0, 1, 2 ,\cdots d-1$ とする。生成子の集合 $( P_\mu , M_{\mu \nu} , D , K_\mu )$ を表す複合生成子 $J_{AB}$ を
\[\begin{eqnarray}    J_{AB} &=& - J_{BA}  \tag{11.45} \\    J_{\mu \nu} &=& M_{\mu \nu}  \tag{11.46} \\    J_{\mu  d} &=& \frac{ P_\mu + K_\mu}{2}  \tag{11.47} \\    J_{\mu \, d+1} &=& \frac{P_\mu - K_\mu }{2}   \tag{11.48} \\    J_{d \, d+1} &=& D \tag{11.49} \end{eqnarray}\]
と定義する。このとき、共形代数(10.29), (11.44)を用いると複合生成子は交換関係
\[    [ J_{AB} , J_{CD} ] =    i \left( \eta_{AC} J_{BD} - \eta_{BC} J_{AD} - \eta_{AD} J_{BC} + \eta_{BD} J_{AC} \right)    \tag{11.50} \]
を満たすことが確認できる。ただし、ミンコフスキー符号は $\eta_{AB} = (+ -- \cdots - )$ とした。これらの交換関係は $SO(1, d+ 1) $ 代数を成す。言い換えると、$J_{AB}$ は $SO(1, d+1)$ 対称性変換の生成子である。よって、d 次元共形代数は SO(1, d+1) 代数で与えられることが分かる。

 $SO(1, d+ 1) $ 代数の生成子の数は $\frac{1}{2} (d+2)(d+1)$ である。一方、$d$ 次元の共形代数には並進変換が $d$ 個、回転変換が $\frac{1}{2} d(d-1)$ 個、スケール変換が1つ、特殊共形変換が $d$ 個ある。よって、生成子の数の合計は確かに
\[    d + \frac{d(d-1)}{2} + 1 + d = \frac{(d+2)(d+1)}{2}     \tag{11.51} \]
となる。


臨界点と共形対称性

 統計力学において臨界点での2次相転移は長距離の相関関係で特徴付けられる。質量ゼロ・スカラー粒子の $d$ 次元自由理論を考える。この理論の2点相関関数は長距離極限 $| x - y | \rightarrow \infty$ で
\[    \bra \phi (x) \phi (y) \ket \, \sim \, \frac{1}{|x-y|^{d-2+\eta} }    \tag{11.52} \]
と表せる。ここで、$\eta$ は臨界指数と呼ばれる。この長距離相関は物質の局所的な構造とは無関係であり、大域的な幾何学に関係する。平坦なミンコフスキー空間において質量ゼロの点粒子の(大域的な)対称性は共形アイソメトリーで与えられる。よって、2次転移(あるいは臨界点)の物理は共形不変な理論で記述されると考えられる。

 臨界指数 $\eta$ は普遍的な量である。すなわち、その値は物質の詳細に依らない。これは臨界現象の普遍性(ユニバーサリティ)として知られている。別の臨界指数として $\nu$ があり、これは関係式
\[\begin{eqnarray}    \bra \phi (x) \phi (y) \ket & \sim & e^{ - \frac{|x-y|}{\xi}  }    \tag{11.53} \\    \xi & \sim & ( T - T_c )^{-\nu}    \tag{11.54} \end{eqnarray}\]
で定義される。ただし、$T_c$ は臨界温度であり、$\xi$ は相関長 (correlation length) と呼ばれる。臨界現象はこれらの臨界指数で特徴付けられる。上の考察から、これらの指数の理論的な基礎づけは共形アイソメトリーよって与えられると推測できる。言い換えると、臨界点のタイプは共形変換(と何かしら追加の演算)の表現によって分類されると考えられる。