2024-02-06

4. 分数量子ホール効果 vol.2

4.2 分数量子ホール効果の有効理論


前節では分数量子ホール効果のラフリン波動関数と正孔励起 (hole excitation) 状態を考えた。今節では、つぎの作用をもちいて分数量子ホール効果の有効理論を考える。
\[ S = \int d^3 x \left[ \frac{k}{4\pi} \ep^{\mu \nu \al} a_\mu \d_\nu a_\al + a_\mu \left( j^\mu - \frac{e}{2 \pi} B^\mu \right) \right] \tag{4.11} \]
ただし、$a^\mu$ ($\mu = 0,1,2$) は新しい補助場であり、$j^\mu$は正孔の3元電流密度(カレント)を表す。$k$はあとで決定される定数である。場の強さ$B^\mu$は
\[ B^\mu = \ep^{\mu \nu \al} \d_{\nu} A_\al \]
で定義される。ここでは3次元共変表示を用いているので、$B^0$は磁場を表し、$B^i$ ($i=1,2$) は電場に対応する。作用(4.11)の電磁相互作用をより明示的に書くと
\[\begin{eqnarray} - \frac{e}{2\pi} \int d^3 x~ a_\mu \ep^{\mu \nu \al} \d_\nu A_\al &=& \frac{e}{2\pi} \int d^3 x~ \d_\nu a_\mu \ep^{\mu \nu \al} A_\al \nonumber \\ &=& - \frac{e}{2\pi} \int d^3 x~ \ep^{\al \mu \nu} \d_\mu a_\nu A_\al \nonumber \\ & \equiv & \int d^3 x ~A_\al J^\al \tag{4.12} \\ J^\al &=& - \frac{e}{2 \pi} \ep^{\al \mu \nu} \d_\mu a_\nu \tag{4.13} \end{eqnarray}\]
となる。ただし、$J^\mu$は電磁カレントである。

 作用(4.11)で$a_\mu$の変分をとると運動方程式
\[ \frac{k}{2\pi} \ep^{\mu\nu\al} \d_\nu a_\al + j^\mu - \frac{e}{2 \pi} B^\mu = 0   \tag{4.14} \]
が導かれる。(4.13)と(4.14)から
\[\begin{eqnarray} J^\mu &=& \frac{e}{k} \left( j^\mu - \frac{e}{2\pi} B^\mu  \right) \nonumber \\ &=& \frac{e}{k} j^\mu - \frac{e^2}{2 \pi k} \ep^{\mu\nu\al} \d_\nu A^\al \tag{4.15} \end{eqnarray}\]
が分かる。第1項は単位正孔あたりの電荷が$e/k$であることを示している。よって、前節の最後に触れた議論から、分数量子ホールの場合には
\[ k = 2p + 1 ~~ (p = 1,2,\cdots ) \tag{4.16} \]
と決めることが出来る。

正孔の動力学

 正孔の動力学(ダイナミクス)を議論するには正孔の位置に時間依存性を導入すればよい。つまり、$w^\mu =w^\mu (t)$ ($\mu = 0,1,2$, $t=x_0$) と置く。正孔カレントは
\[ j^\mu = \dot{w}^\mu \del^{(2)} ( \vec{x} - \vec{w}(t) ) \tag{4.17} \]
と表せる。ただし、$\vec{x}$, $\vec{w}$は2次元ベクトル$\vec{x} = (x_1 , x_2 )$, $\vec{w} = ( w_1 , w_2 )$である。以下では、ベクトルであることが明らかな場合は矢印を省略する。この正孔カレントを(4.11)に用いると、1-正孔動力学の有効作用は
\[ S_{hole} = \int d^3 x \frac{k}{4\pi} \ep^{\mu\nu\al} a_\mu \d_\nu a_\al + \int a_\mu (w) \dot{w}^\mu dt + \int  \frac{m \dot{w}^2}{2} dt  \tag{4.18} \]
と表せる。ただし、正孔の運動エネルギーを追加した。この有効作用で$a_\mu$の変分を取ると運動方程式
\[ \frac{k}{2\pi} \ep^{\mu\nu\al} \d_\nu a_\al + \dot{x}^\mu \del^{(2)} (x - w ) = 0 \tag{4.19} \]
が求まる。$\mu = 0$のとき、これは
\[ \frac{k}{2\pi} (\d_1 a_2 - \d_2 a_1 ) + \del^{(2)} (x - w ) = 0 \tag{4.20} \]
と書ける。ここで、便宜上、つぎの複素座標を導入する。
\[\begin{eqnarray} && z= x_1 + i x_2 \, , ~~ \bz = x_1 - i x_2 \tag{4.21}\\ &&  \d_z =  {\half} ({\d_1 - i \d_2} ) ~~ \d_\bz = {\half} ({\d_1 + i \d_2} ) \tag{4.22}\\ && a_z = {\half} ({a_1 - i a_2} )\, , ~~ a_\bz = {\half} ({a_1 + i a_2})  \tag{4.23} \end{eqnarray}\]
これらの組み合わせを用いると、$( \d_1 a_2 - \d_2 a_1  )$は
\[\begin{eqnarray} \d_1 a_2 - \d_2 a_1  &=& ( \d_z + \d_\bz ) \left( \frac{a_\bz - a_z }{i} \right) - \frac{\d_\bz - \d_z }{i} ( a_z + a_\bz ) \nonumber \\ &=& \frac{2}{i} ( \d_z a_\bz - \d_\bz a_z ) \tag{4.24} \end{eqnarray}\]
と表せる。よって、運動方程式(4.20)はつぎの形になる。
\[ \d_z a_\bz - \d_\bz a_z =  - i \frac{\pi}{k} \del^{(2)} (x - w ) \tag{4.25} \]

 ここで、複素座標とデルタ関数$\del^{(2)} (x)$について調べよう。$\d_z \frac{1}{\bz} = 0$ ($\bz \ne 0$) であり、
\[ \int \frac{\d}{\d z } \left( \frac{1}{\bz} \right) dz d \bz = \int \frac{d \bz}{\bz} = -2 \pi  i \]
となることに注意すると
\[ \frac{\d}{\d z } \left( \frac{1}{\bz} \right) \, = \, C \,  \del^{(2)} (x) \]
と置ける。定数$C$は$dz d\bz = -i2 dx_1 dx_2$の関係式を用いて上式の$x$積分を考えると$C=\pi$と決まる。$\d_\bz \frac{1}{z} $の場合も同様の結果が得られる。よって、
\[ \frac{\d}{\d z } \left( \frac{1}{\bz} \right) \, =  \, \pi \, \del^{(2)} (x) ~,~~~~~~ \frac{\d}{\d \bz } \left( \frac{1}{z} \right) \, =  \, \pi \, \del^{(2)} (x) \]
が求まる。2つ目の式は1つ目の複素共役である。これより、関係式
\[ \d_z \frac{1}{\bz - \bw} = \pi \del^{(2)} (x -w ) \, , ~~ \d_\bz \frac{1}{z - w} = \pi \del^{(2)} (x -w ) \tag{4.26} \]
が分かる。これらを用いると、(4.25)の解は
\[ a_\bz = - \frac{i}{2k} \frac{1}{\bz - \bw} \, , ~~ a_z = \frac{i}{2k}\frac{1}{z-w}  \tag{4.27} \]
で与えられることが簡単に分かる。

 つぎに、正孔の有効作用(4.18)に戻り、$a_0 = 0$のゲージで座標$z (\ne w)$にある正孔の動力学を考える。このとき、有効作用は
\[\begin{eqnarray} S_{hole}  &=& \int dt \left( \frac{1}{2} m \dot{\bz} \dot{z} + a_z \dot{z} + a_\bz \dot{\bz} \right) \nonumber\\ &=&\int dt ~ \left( \hf m {\dot x}^2 + a_1 {\dot x}_1 + a_2 {\dot x}_2 \right)  \tag{4.28} \end{eqnarray}\]
と表せる。この作用の正準運動量は
\[    p_i = m {\dot x}_i + a_i \equiv - i {\d \over \d x_i}    \tag{4.29} \]
で与えられる。複素座標(4.21)-(4.23)で表すと、これは
\[\begin{eqnarray} m \dot{z} &=&  \frac{2}{i} \left( \d_\bz - i a_\bz \right) \nonumber\\ m \dot{\bz} &=& \frac{2}{i} \left( \d_z - i a_z \right) \end{eqnarray} \tag{4.30} \]
と書ける。これは、通常のシュレーディンガー表現とは異なるハイゼンベルク代数の表現と解釈できる。次節ではこの解釈について詳しく見ていく。

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