13.1 ウィグナーの D 関数
随伴表現
まず最初に SU(N) 群の随伴表現を考える。12.2節と同様に群の要素は g=exp(itaθa) (a=1,2,⋯,N2−1) と表せる。ただし、ta は SU(N) 代数の生成子であり、N×N トレース・ゼロのエルミート行列で与えられる。規格化は(慣例として) Tr(tatb)=12δab と取る。生成子 ta を用いると SU(N) 代数は
[ta,tb]=ifabctc
と定義される。ここで、fabc は代数の構造定数 である。任意の N×N 行列 Φ は生成子 ta と N×N 恒等行列 1 で Φ=ϕata+ϕ01 と展開できる。ϕa と ϕ0 は N2 個の係数を表す。
つぎに、随伴表現を導入するに当たり、行列 g−1tag を考えよう。関係式 Tr(g−1tag)=Tr(ta)=0 から、この行列は
g−1tag=Dab(g)tb
とパラメータ表示できる。ただし、Dab(g) は展開係数を表す。この表示形式を用いると群の要素の合成 g1g2=g3 に対して、
Dab(g1)Dbc(g2)=Dac(g3)
が成り立つ。よって、Dab(g) をある行列の行列成分 (a,b) と解釈すると Dab(g) はSU(N) 群の表現を成す。この表現を随伴表現を呼ぶ。
群の要素 g の無限小展開は微小の θa に対して g=exp(itaθa)≈1+itaθa と表せる。同様に、Dab(g)≈δab+i(Tc)abθc と書ける。ただし、(Tc)ab はリー代数の要素の随伴表現である。式(13.2)の無限小展開は
(1−itbθb)ta(1+itcθc)=ta+i[ta,tc]θc+⋯≈δabtb+i(−ifcab)θctb
と計算できるので、(Tc)ab=−ifcab が分かる。従って、リー代数の随伴表現は構造定数で与えられる。なお、構造定数のヤコビ律
fabdfcde+fbcdfade+fcadfbde=0
から (Tc)ab が SU(N) 代数に従うことが確認できる。
クレブシュ-ゴルダンの定理
行列演算子が作用する状態はヒルベルト空間上で定義され、これは内積の定義される一種のベクトル空間である。それぞれの状態は |R,α⟩ と表示される。ただし、R は群の既約表現であり、α は表現 R に属すベクトルを指定する。これらの状態の直積は
|R,α⟩⊗|R′,β⟩=∑R′′,γCRR′R′′αβγ|R′′,γ⟩
と表せる。ここで、CRR′R′′αβγ は展開係数であり、クレブシュ-ゴルダン係数と呼ばれる。クレブシュ-ゴルダンの定理によるとクレブシュ-ゴルダン係数は群の性質から完全に決定される。
SU(3) 群のクレブシュ-ゴルダン係数
3⊗3=6⊕3∗
であった。3 表現のテンソルをそれぞれ ϕi と χj (i,j=1,2,3) とすると、これらの積は階数2のテンソル Vij=ϕiχj で表せる。以前同様、この合成テンソルは対称成分と反対称成分に分離できる。
Vij=V(ij)+V[ij]=12(δkiδlj+δliδkj)Vkl+12(δkiδlj−δliδkj)Vkl=12(δikδjl+δilδjk)Ψkl+12ϵijmΨm
ただし、関係式 δkiδlj−δliδkj=ϵijmϵklm と定義式 Ψm≡ϵklmVkl を用いた。Ψij は表現 6 に属す階数 (2,0) のテンソル、Ψm は表現 3∗ に属す階数 (0,1) のテンソルをそれぞれ表す。SU(3) 群の既約表現とそのテンソル表示の一例は以下の通り。(12.3節から再掲)
(p,q)次元 (p,q)次元(1,0)3Ψi (3,0)10Ψijk(0,1)3∗Ψi (0,3)10∗Ψijk(2,0)6Ψij (2,1)15Ψkij(0,2)6∗Ψij (1,2)15∗Ψjki(1,1)8Ψji (2,2)27Ψklij
今の場合、還元公式(13.5)は具体的に
|3,i⟩⊗|3,j⟩=C336ij(kl)|6,kl⟩⊕C333∗ijm|3∗,m⟩C336ij(kl)=12(δikδjl+δilδjk)C333∗ijm=12ϵijm
と書ける。これらの共役表現は
3∗⊗3∗=6∗⊕3|3∗,i⟩⊗|3∗,j⟩=C3∗3∗6∗ij(kl)|6∗,kl⟩⊕C3∗3∗3ijm|3,m⟩C3∗3∗6∗ij(kl)=12(δkiδlj+δliδkj)C3∗3∗3ijm=12ϵijm
と表せる。
同様に、表現 3 のテンソルと表現 3∗ のテンソルの直積は
Vji=Ψji+13δjiTr(V)=δkiδjlΨlk+13δjiVkk
Tij=(Ttraceless)ij+13δijTkk
と同じである。SU(3) 群の既約表現を用いるとこれは
3⊗3∗=8⊕1
と表せる。このとき、還元公式(13.5)は
|3,i⟩⊗|3∗,j⟩=C33∗8ij(kl)|8,kl⟩⊕C33∗1ij(kk)|1,kk⟩C33∗8ij(kl)=δkiδjlC33∗1ij(kk)=13δji
と書き下せる。
つぎに、3 テンソルと 6 テンソルの直積も対称成分・反対称成分に分離して、
Vi(jk)=V(i(jk))+V[i(jk)]=14(Vijk+Vikj+Vjki+Vkji)+14(ϵijmΨmk+(j↔k))=14(δmiδnjδpk+δmiδnkδpj+δmjδnkδpi+δmkδnjδpi)Ψmnp+14(ϵijmδlk+ϵikmδlj)Ψml
と表せる。ただし、Ψmnp と Ψml はそれぞれ 10 表現と8 表現のテンソル表示である。対応する還元公式(13.5)とクレブシュ-ゴルダン係数は次のように表せる。
3⊗6=10⊕8|3,i⟩⊗|6,jk⟩=C3610i(jk)(mnp)|10,mnp⟩⊕C368i(jk)(lm)|8,lm⟩C3610i(jk)(mnp)=14(δmiδnjδpk+δmiδnkδpj+δmjδnkδpi+δmkδnjδpi)C368i(jk)(lm)=14(ϵijmδlk+ϵikmδlj)
最後に、随伴表現 8 のテンソル、例えば Ψji と Φlk の直積を考える。定義からこれらはトレース・ゼロなので、その直積 Vjlik=ΨjiΦlk は
Vjlik=Tjlik+13δliTjaak+13δjkTblib+19δliδjkTbaab
と分解できる。ただし、Tjlik はテンソル Vjlik のトレース・ゼロ成分である。SU(3) 既約表現のテンソル表示 Ψj1j2⋯jqi1i2⋯ip はトレース・ゼロであり、上下の添え字について完全対称なので、テンソル Vjlik は次のように変形できる。
Vjlik=V(jl)(ik)+V[jl](ik)+V(jl)[ik]+V[jl][ik]=Ψjlik+12ϵjlmΨikm+12ϵikmΨjlm+14ϵjlmϵiknΨnm+13δli14ϵjamϵaknΨnm+13δjk14ϵblmϵibnΨnm+19δliδjk14ϵbamϵabnΨnm=Ψjlik+12ϵjlmΨikm+12ϵikmΨjlm+14ϵjlmϵiknΨnm+112δliΨjk+112δjkΨli−29δliδjkΨmm
ただし、関係式 ϵjamϵakn=−(δjkδmn−δjnδmk) と ϵbamϵabn=−2δmn を用いた。随伴テンソル成分は
14ϵjlmϵiknΨnm+112δliΨjk+112δjkΨli=14(12ϵjlmϵikn+13δliδmkδjn)Ψnm+14((jk)↔(li))Ψnm
と書けることに注意しよう。以上より、対応する還元公式(13.5)とクレブシュ-ゴルダン係数は次のように表せる。
8⊗8=27⊕10⊕10∗⊕8⊕8⊕1|8,ij⟩⊗|8,kl⟩=C8827(ij)(kl)(mnrs)|27,mnrs⟩⊕C8810(ij)(kl)(mrs)|10,mrs⟩⊕C8810∗(ij)(kl)(mrs)|10∗,mrs⟩⊕C888(ij)(kl)(mn)|8,mn⟩⊕C888(kl)(ij)(mn)|8,mn⟩⊕C881(kl)(ij)(mm)|1,mm⟩C8827(ij)(kl)(mnrs)=14(δmiδnkδjrδls+δmkδniδjrδls +δmiδnkδlrδjs+δmkδniδlrδjs)C8810(ij)(kl)(mrs)=12ϵjlmδriδskC8810∗(ij)(kl)(mrs)=12ϵikmδjrδlsC888(ij)(kl)(mn)=14(12ϵjlmϵikn+13δliδmkδjn)C888(kl)(ij)(mn)=14(12ϵljmϵkin+13δjkδmiδln)C881(kl)(ij)(mm)=−92δliδjk
これまで群の要素 g=exp(itaθa)∈G の行列表現を主に扱ってきた。ta (a=1,2,⋯dimG) はリー代数 G の定義表現に属す要素(生成子)であった。ここでは、ある任意の既約表現 R に属す群の要素 g∈G の行列表現について考えよう。Ta を代数 G の表現 R に属す要素であるとする。このとき、対応する群の要素の行列表現は
D(R)αβ(g)=[ei(Ta)θa]αβ=⟨R,α|eiˆTaθa|R,β⟩
と表せる。ただし、α, β は表現 R に属す特定の状態を表す。状態 α, β が固定されているとき、D(R)αβ(g) は θa の関数と見做せる。すなわち、D(R)αβ(g) はリー群 G 上で定義される複素数を値に持つ関数であり、写像
D(R)αβ(g):G→C
を与える。この関数 D(R)αβ(g) をウィグナーの D 関数と呼ばれる。
0 件のコメント:
コメントを投稿