2024-02-29

Mathematical Review 120: 重力子散乱振幅 最近の話題

 ツイスター空間を使ったゲージ粒子や重力子の散乱振幅の計算についての研究は以前ほどではありませんが今でもホットなトピックです。先日、関連論文のレビュー依頼が来たので久しぶりに重力子散乱について見直してみました。論文ではツイスター空間での解析がしやすい状況で曲がった空間の効果がどうなるかを調べていましたが、背景知識がかなり要求されるのでモチベーションがないと読み進めるのが大変です。(最近の高エネルギー理論の論文は大抵そうですが。)詳細は追っていませんが当然ながら背景場の曲率の寄与が無視できなくなりいわゆるテイル効果(重力子と曲率の相互作用による効果)が出てくるとのことでした。
 論文を読んでいて自分が昔書いた話は全く知られていないのだなあと少し残念に思いました。あの時の話、重力子散乱と組紐群の関係やMHVルール(CSWルールともいう)から重力子散乱のS行列を導出できること、あるいはグラスマン多様体との関係などについては特に触れられていなかったので読みながら、そういうのじゃないんだけどなぁなんて何度も詰まってしまいました。なら、考えていたことを自分で書けばいいじゃないかと自問自答しながら昔のノートを引っ張り出したりしてレビューどころでありませんでした。埒が明かないのでやっつけ的にレビュー出しました。なんだかんだで4,5日掛かりました。その間、BCS理論のノートのほうは一時中止。これから再開します。

2024-02-26

6. 超伝導とBCS理論 vol.1

6.1 超伝導入門


超伝導は超低温下において多くの物質で観測される現象である。これは、1911年に初めて観測されて以来、実験・理論の双方で広範囲に研究されている分野である。超伝導理論の基本的な枠組みはバーディーン(Bardeen)、クーパー(Cooper)、シュリーファー(Schrieffer)によって1957年に与えられた。この章ではBCS理論の代数的な側面について考える。その導入として、まず超伝導の基本事項を以下に示す。
  1. 電気伝導性物質を冷却すると、ある温度$T_c$に達すると突然に電気抵抗がゼロとなりそれ以下の温度でゼロであり続ける。
  2. 超伝導は多様な物質で観測される。これは物質各々のバンド構造の詳細がそれほど重要でないことを示唆している。
  3. 励起電子のエネルギー・スペクトルにはギャップが存在する。
  4. 転移温度$T_c$と原子核の質量$M_{\rm nuc}$の間には関係式 $T_c  \propto {M_{{\rm nuc}}}^{- \hf}$ が成り立つ。これは超伝導が単に電子だけの現象ではなく本質的に原子核が関わる現象であることを示す。また、以下で議論するように、この関係式は格子振動、つまりフォノンあるいは量子化された音波が重要であることを意味する。
 原子核の格子内にある多電子系において、2種類の電子間相互作用が重要となる。1つはもちろんクーロン斥力であり、もう1つは格子振動あるいはフォノンによって媒介される相互作用である。いま考えている状況、つまり原子核格子が背景となる多電子系ではクーロン相互作用は遮蔽されることが知られている。この遮蔽効果は湯川ポテンシャル$V_{ \rm Yuk} \sim (e^{-ar})/{r}$で記述される。ただし、$a^{-1}$はクーロン相互作用が有効となる距離を表す。運動量空間表示では湯川ポテンシャルは$(k^2 + a^2)^{-1}$に比例する。ただし、$\vec{k}$ $( k= \sqrt{|\vec{k}|^2} )$ は3次元空間の運動量ベクトルである。この関係はフーリエ変換
\[ \int \frac{d^3 k}{(2 \pi )^3} \frac{1}{k^2 + a^2} e^{i \vec{k} \cdot \vec{r}}    \, = \,    \frac{e^{-ar}}{ 4 \pi r} \sim  V_{\rm Yuk} (r) \tag{6.1} \]
から簡単に確認できる。よって、$V_{\rm Yuk}$が比較的小さいエネルギー準位では電子-フォノン相互作用が引力として優勢になり、この引力によって電子のペア(電子対)が生成される。電子対はボース粒子として振る舞うため、超伝導はボース-アインシュタイン凝縮の帰結として解釈できる。これがBCS理論の主要なアイデアである。この電子対はクーパー対と呼ばれる。ここで、ばね振動との類推から$k_{\rm vib}$を原子核振動の「ばね定数」とみなすと、大まかに言って、電子フォノン相互作用の典型的なエネルギー準位は $\om_{\rm vib} \sim \sqrt{k_{\rm vib} / M_{\rm nuc}}$ で与えられる。よって、電子がフォノンとの相互作用を通してペアリングされるという描像から関係式 $T_c  \propto {M_{{\rm nuc}}}^{- \hf}$ を理解することは可能である。


フェルミオン演算子

 最初に多電子系における電子の生成・消滅演算子について復習しよう。運動量が$\vec{k}$の1電子状態は $| \cdots 1_k \cdots \ket \equiv | 1_k \ket$ と表せる。ただし、ここでは電子のスピンを無視する。この電子の消滅演算子$C_k$をとする。つまり、
\[ C_k | 1_k  \ket = | 0_k \ket \tag{6.2} \]
と定義する。これは、$\bra 0_k \vert C_k \vert 1_k \ket= 1$ と同じことである。この関係は $\bra \psi \vert 1_k\ket =1$ と書き換えられる。ただし、$\vert \psi \ket = C^\dagger_k \vert 0_k \ket$ であるが、これは基本的に$C_k$の随伴の定義を与える。よって、
\[ C^{\dag}_{k} | 0_k  \ket = | 1_k  \ket \tag{6.3} \]
が分かる。つまり、$C_k^\dag$は運動量が$\vec{k}$の電子の生成演算子である。電子はフェルミ粒子(フェルミオン)なのでパウリの排他律から状態が2重に占有されることは許されない。したがって、関係式
\[ C^{\dag}_{k}C^{\dag}_{k} | \cdots 0_k \cdots \ket = 0 \tag{6.4} \]
が成り立つ。(ここではスピンの自由度を無視していることに注意。)任意の状態から始めても同様の結果が得られるので、一般に排他律は
\[ C^{\dag}_{k}C^{\dag}_{k}  = C_{k} C_{k} = 0 \tag{6.5} \]
と表せる。以上より、関係式
\[ \begin{array}{l} C_k C_k^\dag | 0_k \ket = C_k | 1_k \ket = | 0_k \ket  \\ C_k^\dag C_k | 0_k \ket = C_k^\dag C_k C_k | 1_k \ket = 0 \\ C_k C_k^\dag | 1_k \ket = C_k C_k^\dag C_k^\dag | 0_k \ket = 0 \\ C_k^\dag C_k | 1_k \ket = C_k^\dag | 0_k \ket = | 1_k \ket \\ \end{array} \tag{6.6} \]
が成り立つ。よって、$C_k$と$C_k^\dag$は反交換関係
\[ C_k C^{\dag}_{k} + C^{\dag}_{k} C_k = 1 \tag{6.7} \]
に従うことが確認できる。

 これらの関係式は多電子系にも簡単に拡張できる。例えば、異なる運動量$\vec{k}$, $\vec{l}$でラベルされる状態を考える。2電子状態は粒子の交換について反対称なので $C_k^\dag C_l^\dag | 0_k 0_l \ket = | 1_k 1_l \ket = - | 1_l 1_k \ket$ とおける。これより、関係式 $C_k^\dag C_l^\dag = - C_l^\dag C_k^\dag$ が得られる。この共役も考えると
\[\begin{eqnarray} C_k^\dag C_l^\dag + C_l^\dag C_k^\dag &=& 0 \tag{6.8} \\ C_k C_l + C_l C_k &=& 0  \tag{6.9} \end{eqnarray} \]
が成り立つ。反交換関係(6.7)は
\[ C_k C_l^\dag + C_l^\dag C_k = \del_{kl} \tag{6.10} \]
と一般化される。関係式(6.8)-(6.10)はフェルミオンの生成・消滅についての代数を与える。また、(6.6)からフェルミオンの数演算子は$C_{k}^{\dag} C_{k}$で与えられることが分かる。

 より一般的に、1粒子状態ラベル$\alpha$, $\beta$などで表示できる。これらは運動量やスピンのラベルを表す複合的な添え字であり、例えば、$\vert \alpha \ket = \vert \vk, \uparrow\ket$ と書ける。そのような状態にあるフェルミオンの消滅演算子を$C_{\alpha}$で表すと、フェルミオン全体の代数は
\[\begin{eqnarray}   C_\alpha \, C_\beta +   C_\beta \, C_\alpha  &=& 0 \\   C^\dagger_\alpha \, C^\dagger_\beta +    C^\dagger_\beta \, C^\dagger_\alpha  &=& 0 \\    C_\alpha \, C^\dagger_\beta +   C^\dagger_\beta \, C_\alpha  &=& \delta_{\alpha \beta}   \end{eqnarray}  \tag{6.11}  \]
で与えられる。


電子-フォノン相互作用

 つぎに、超伝導、少なくとも標準的なBCS型の超伝導体にとって重要となる電子-フォノン相互作用について考える。この相互作用は結晶格子の振動イオン場を背景とする電子の静電エネルギーに起因する。まず、格子振動の振幅が格子間隔に比べて小さいという近似を用いてこの相互作用の解析を始めよう。

2024-02-21

5. クォークとハドロン・スペクトル vol.5

前回はハドロンのメソンとバリオンについて解説し、バリオンの質量公式を導いた。今回はメソンの質量公式について紹介し、メソンとバリオンの相互作用について議論する。

メソンの質量公式
 
スピン-0とスピン-1の最軽量メソン(中間子)の一覧
\[ \begin{array}{|c | c | c|  c|  c|  c |} \hline &\mbox{スピン-0}&\mbox{質量}& \mbox{スピン-1}& \mbox{質量} & \mbox{クォーク構成}\\ && \mbox{(MeV)} && \mbox{(MeV)} &\\ \hline \mbox{1重項}& \eta^\prime & 958& \omega &783&  (u {\bar u} + d {\bar d} + s {\bar s})/\sqrt{3} \\ \hline & \pi^0 & 135& \rho^0 &775& (u {\bar u} - d {\bar d} )/\sqrt{2} \\ & \pi^+ &140& \rho^+ &775& u {\bar d} \\ & \pi^- &140& \rho^- &775& d {\bar u} \\ \mbox{8重項} & K^+ &494& K^{*+} &892& u {\bar s} \\ & K^- &494& K^{*-} &892& s {\bar u} \\ & K^0 &498& K^{*0} &896& d {\bar s} \\ & {\bar K}^0 &498& {\bar K}^{*0} &896& s {\bar d} \\ & \eta &548& \varphi &1019& ( u {\bar u} + d {\bar d} - 2 \,s {\bar s})/\sqrt{6} \\ \hline \end{array} \]

 これまで考えてきたメソンは上の表に示すように8重項の表現に属した。スピン-0の擬スカラー中間子の場合、その行列表現は8重項バリオンと同じように
\[   {\mathbf M} = \left( \begin{matrix}    {\pi^0\over \sqrt{2}}+ {\eta\over \sqrt{6}}& \pi^+ & K^+\\    \pi^-& -{\pi^0\over \sqrt{2}}+ {\eta\over \sqrt{6}}& K^0\\    K^-& {\bar K}^0& -{2 \over \sqrt{6}} \eta\\    \end{matrix}\right) = \sum_{a=1}^{8} \phi^a \frac{\la^a}{\sqrt{2}}    \tag{5.53} \]
と表せる。ただし、$\la^a$ ($a= 1,2, \cdots , 8$) は1.5節で紹介したゲルマン行列
\[\begin{eqnarray}    &&    \la^1 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 1 & 0 \\        1 & 0 & 0 \\        0 & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^2 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & -i & 0 \\        i & 0 & 0 \\        0 & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^3 =    \left(      \begin{array}{ccc}        1 & 0 & 0 \\        0 & -1 & 0 \\        0 & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)    \nonumber \\    &&    \la^4 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 0 & 1 \\        0 & 0 & 0 \\        1 & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^5 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 0 & -i \\        0 & 0 & 0 \\        i & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^6 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 0 & 0 \\        0 & 0 & 1 \\        0 & 1 & 0 \\      \end{array}    \right)    \nonumber \\    &&    \la^7 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 0 & 0 \\        0 & 0 & -i \\        0 & i & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^8 = \frac{1}{\sqrt{3}}    \left(      \begin{array}{ccc}        1 & 0 & 0 \\        0 & 1 & 0 \\        0 & 0 & -2 \\      \end{array}    \right)   \end{eqnarray} \tag{1.49} \]
である。擬スカラー中間子も8重項を成すので、8重項バリオンと類似した質量公式に従うと予想できる。擬スカラー中間子の有効ラグランジアンを考えると、質量項は質量に比例するのではなく質量の2乗に比例する。(これは複素スカラー粒子の自由ラグランジアンから類推できる。なお、擬スカラー中間子の有効ラグランジアンの詳細については、場の量子論の教科書(基礎編)12.10節を参照されたい。)よって、前回導出した8重項バリオンの質量公式
\[ 2 ( M_{p} + M_{\Xi^0} ) = M_{\Si^0} + 3 M_\La \tag{5.47} \]
の質量をメソンの(質量)$^2$としたものが擬スカラー中間子の質量公式として成り立つことが期待できる。つまり、
\[\begin{eqnarray}   2\, (M^2_K + M^2_{K^0}) &=& M^2_{\pi^0} + 3\, M^2_{\eta} \\   2\, (M^2_{K^*} + M^2_{K^{0*}}) &=& M^2_{\rho^0} + 3\, M^2_{\varphi}   \end{eqnarray} \tag{5.54} \]
と予想できる。ただし、対応する8重項ベクター中間子の関係式も追記した。質量の観測値と比べると、これらの公式は妥当な精度で成り立つことが確認できる。

 ここで紹介した以外にも対称性による物理量の予測は数多くある。例えば、1961年には8重項バリオンの磁気モーメントを予測する関係式が導かれた。これは、コールマン-グラショウ関係式として知られている。

2024-02-20

5. クォークとハドロン・スペクトル vol.4

5.4 メソンとバリオンと質量公式


この節では前節の結果($SU(3)$群の既約表現についての結果)をハドロン・スペクトルの解析に応用する。5.1節で解説したように軽いクォークで構成されるハドロンはフレーバー$SU(3)$対称性をもつ。ただし、この対称性はクォーク間の質量差により明示的に破れる。フレーバー$SU(3)$対称性はウィグナー表示で実現されるので、$SU(3)$のユニタリー既約表現を用いればかなり簡単にハドロン・スペクトルを解析できる。まず、軽いクォーク$Q$とその反クォーク$\overline{Q}$の束縛状態であるメソンを考えよう。メソンのクォーク構成は$M^{i}_{j} = Q^{i} \overline{Q}_j$で与えられる。クォークは$SU(3)$の基本表現${\bf 3}$として変換するので、メソンは直積${\bf 3} \otimes {\bf 3}^*$に属す。随伴表現の次元分解
\[ {\bf 3} \otimes {\bf 3}^* = {\bf 1} \oplus {\bf 8} \tag{5.35} \]
を用いると、メソンは1重項(トレース成分)と8重項(トレースレス成分)に分解できる。よって、だいたい同じ質量をもつ8個のメソンと明らかに異なる質量をもつ1つのメソンの存在が期待できる。さらに、クォークはスピン-$\half$粒子であるので、束縛クォークの軌道角運動量がゼロの状態にあるとして、少なくともスピン-0とスピン-1のメソンのセットが期待できる。ただし、束縛クォークの角運動量がゼロでない場合はより高いスピンのメソンも存在できる。また、パリティは強い相互作用で保存するので、それぞれのスピンと$SU(3)$既約表現に対してパリティが偶・奇の状態が期待できる。典型的なスピン-0、パリティが奇のメソン(擬スカラー中間子)の質量、クォーク構成の一覧は以下のようになる。

スピン-0とスピン-1の最軽量メソン(中間子)の一覧
\[ \begin{array}{|c | c | c|  c|  c|  c |} \hline &\mbox{スピン-0}&\mbox{質量}& \mbox{スピン-1}& \mbox{質量} & \mbox{クォーク構成}\\ && \mbox{(MeV)} && \mbox{(MeV)} &\\ \hline \mbox{1重項}& \eta^\prime & 958& \omega &783&  (u {\bar u} + d {\bar d} + s {\bar s})/\sqrt{3} \\ \hline & \pi^0 & 135& \rho^0 &775& (u {\bar u} - d {\bar d} )/\sqrt{2} \\ & \pi^+ &140& \rho^+ &775& u {\bar d} \\ & \pi^- &140& \rho^- &775& d {\bar u} \\ \mbox{8重項} & K^+ &494& K^{*+} &892& u {\bar s} \\ & K^- &494& K^{*-} &892& s {\bar u} \\ & K^0 &498& K^{*0} &896& d {\bar s} \\ & {\bar K}^0 &498& {\bar K}^{*0} &896& s {\bar d} \\ & \eta &548& \varphi &1019& ( u {\bar u} + d {\bar d} - 2 \,s {\bar s})/\sqrt{6} \\ \hline \end{array} \]

上付きの添え字はメソンの電荷を表し、これは軽クォーク$(u, d, s)$の電荷$(+ 2/3 , - 1/3 , -1/3)$から計算できる。一覧には最も軽いスピン-1でパリティが奇のメソン(ベクター中間子)の8重項も示した。

 バリオンは3つのクォークの束縛状態($QQQ$)である。テンソル表現を用いると、これは$T_{ijk}$と表せる。これは、$T_{ijk} \ep^{jkl} = T^{l}_{i}$ などと縮約を取れるので、可約である。よって、バリオンは10重項(decuplets) $B_{ijk}$ と8重項(octets) $B^{i}_{j}$ に分類される。実際、$SU(3)$の次元を用いると、これは
\[\begin{eqnarray} {\bf 3} \otimes {\bf 3} \otimes {\bf 3} &=& ( {\bf 6} \oplus {\bf 3}^*  ) \otimes {\bf 3}\nonumber \\ &=& {\bf 10} \oplus {\bf 8} \oplus {\bf 8} \oplus {\bf 1} \tag{5.36} \end{eqnarray}\]
と分解できる。クォークはスピン$\frac{1}{2}$をもつので、バリオンはスピン$\frac{1}{2}$と$\frac{3}{2}$をもつ。最初に、10重項のバリオンを考える。これらは$(3,0)$表現に対応し、フレーバーの添え字について完全対称である。また、これらはカラーの添え字について反対称である。なぜなら、粒子は必ずカラー1重項でなければならず、3つのクォークからカラー1重項を作る唯一の方法はカラーの組み合わせを完全反対称にしなければならないからである。よって、パウリの排他律からこれらはスピンについて完全対称でなければならないことが分かる。つまり、10重項バリオンはスピン-${3\over 2}$粒子である。同様の理由から、8重項バリオンはスピン-$\half$粒子であると分かる。8重項バリオンの例はバリオンの集合$\{ \Si^{\pm} , \, \Si^{0}, \, p , \, n , \, \La , \, \Xi^{-}, \, \Xi^{0} \}$で与えられる。ここで、$p$は陽子、$n$は中性子であり、その他の粒子はストレンジ・クォークを含むバリオンである。行列表現を用いると、この8重項バリオンは
\[ B = \left( \begin{array}{ccc} \frac{\Si^0}{\sqrt{2}} + \frac{\La}{\sqrt{6}} & \Si^{+} & p \\ \Si^{-} & - \frac{\Si^0}{\sqrt{2}} + \frac{\La}{\sqrt{6}} & n \\ \Xi^{-} & \Xi^{0} & - \sqrt{\frac{2}{3}} \La \end{array} \right) = \sum_{a = 1}^{8} \psi^{a} \frac{\la^a}{\sqrt{2}} \tag{5.37} \]
と表せる。ただし、$\la^a$ ($a= 1,2, \cdots , 8$) は1.5節で紹介したゲルマン行列
\[\begin{eqnarray}    &&    \la^1 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 1 & 0 \\        1 & 0 & 0 \\        0 & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^2 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & -i & 0 \\        i & 0 & 0 \\        0 & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^3 =    \left(      \begin{array}{ccc}        1 & 0 & 0 \\        0 & -1 & 0 \\        0 & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)    \nonumber \\    &&    \la^4 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 0 & 1 \\        0 & 0 & 0 \\        1 & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^5 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 0 & -i \\        0 & 0 & 0 \\        i & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^6 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 0 & 0 \\        0 & 0 & 1 \\        0 & 1 & 0 \\      \end{array}    \right)    \nonumber \\    &&    \la^7 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 0 & 0 \\        0 & 0 & -i \\        0 & i & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^8 = \frac{1}{\sqrt{3}}    \left(      \begin{array}{ccc}        1 & 0 & 0 \\        0 & 1 & 0 \\        0 & 0 & -2 \\      \end{array}    \right)   \end{eqnarray} \tag{1.49} \]
である。$\psi^a$は対応する粒子の場(あるいは演算子)であり、例えば、$\psi^3 = \Sigma^0$, $(\psi^4 - i \psi^5)/\sqrt{2} = p$ などと対応する。(5.37)の係数は$\Tr (\overline{B} B )$の規格化から決まる。
\[ \Tr (\overline{B} B ) = \bar{p} p + \bar{n} n + \overline{\Si^{-}} \Si^{-} + \overline{\Si^{0}} \Si^{0} + \overline{\Si^{-}} \Si^{-} + \overline{\Xi^{-}} \Xi^{-} + \overline{\Xi^{0}} \Xi^{0} + \overline{\La} \La \tag{5.38} \]
ただし、$\overline{B}$は
\[ \overline{B} = \left( \begin{array}{ccc} \frac{\overline{\Si^0}}{\sqrt{2}} + \frac{\overline{\La}}{\sqrt{6}} & \overline{\Si^{-}} & \overline{\Xi^{-}} \\ \overline{\Si^{+}} & - \frac{\overline{\Si^0}}{\sqrt{2}} + \frac{\overline{\La}}{\sqrt{6}} & \overline{\Xi^{0}}\\ \bar{p} & \bar{n}  & - \sqrt{\frac{2}{3}} \overline{\La} \end{array} \right) \tag{5.39} \]
で与えられる。行列表示する利点は、フレーバー$SU(3)$の変換で $B \rightarrow U\, B \, U^\dagger$ と表せることである。ただし、$U$は$SU(3)$群の要素である$3\times 3$行列を表す。行列(5.37)からそれぞれのバリオンのクォーク構成が分かることに注意しよう。例えば、$p$, $n$, $\Si^{+}$は
\[\begin{eqnarray} p &\rightarrow & B_{1}^{~3} \sim \ep^{3ij} B_{1ij} \sim B_{112} \sim uud \nonumber \\ n &\rightarrow & B_{2}^{~3} \sim B_{212} \sim udd \tag{5.40} \\ \Si^{+} &\rightarrow & B_{1}^{~2} \sim B_{131} \sim uus \nonumber \end{eqnarray}\]
と表せる。こららのバリオンはスピン-$\hf$でパリティが偶の粒子である。その質量とクォーク構成は以下の通りである。

8重項バリオンとその質量
\[ \begin{array}{|r|c|r|r|} \hline\hline & \mbox{バリオン} & \mbox{質量(MeV)} & \mbox{クォーク構成} \\ \hline & p & 938 & uud \\ & n & 940 & udd \\ & \La & 1116 & uds \\ \mbox{8重項} & {\Si}^{+} & 1189 & uus \\ & {\Si}^{0} & 1193 & uds \\ & {\Si}^{-} & 1197 & dds \\ & \Xi^{0} & 1315 & uss \\ & \Xi^{-} & 1322 & dss \\ \hline\hline \end{array} \]

同様に、10重項バリオンとその質量の一覧は次のようになる。

10重項バリオンとその質量
\[ \begin{array}{|r|c|r|r|} \hline\hline & \mbox{バリオン} & \mbox{質量(MeV)} & \mbox{クォーク構成} \\ \hline & \Delta^{++} & 1232 & uuu \\ & \Delta^{+} & 1232 & uud \\ & \Delta^{0} & 1232 & udd \\ & \Delta^{-} & 1232 & ddd \\ \mbox{10重項} & {\Si^{*}}^{+} & 1383 & uus \\ & {\Si^{*}}^{0} & 1384 & uds \\ & {\Si^{*}}^{-} & 1387 & dds \\ & {\Xi^{*}}^{0} & 1532 & uss \\ & {\Xi^{*}}^{-} & 1535 & dss \\ & \Om^{-} & 1672 & sss \\ \hline\hline \end{array} \]

2024-02-17

5. クォークとハドロン・スペクトル vol.3

5.3 $SU(3)$の既約表現


$SU(3)$群はその名の通り、行列式が1となる全ての$3 \times 3$ユニタリー行列$U$ ($\det\, U = 1$) の集合で定義される。$SU(3)$群は、ユニタリー行列$U$がベクトル空間の線形変換として働くとみなすと理解しやすい。このために、まず複素3成分の列ベクトル
\[ \phi_i = \left( \begin{array}{ccc} \phi_1 \\ \phi_2 \\ \phi_3 \\ \end{array} \right) \tag{5.18} \]
($i=1,2,3$) を考える。この列ベクトルの$U$の作用による線形変換は $\phi^{\prime} = U \phi$ で与えられる。成分表示で表すと
\[ \phi_{i}^{\prime} = \sum_{k=1}^{3} U_{ik} \phi_k \tag{5.19} \]
となる。この$3\times 3$行列$U$は$SU(3)$群の定義表現を与える。(リー群の定義表現について詳しくは1.2節を参照のこと。)しばしば、用語の乱用から変換が作用する空間も表現と言及されることもある。よって、(5.18)の形の列ベクトルで張られる空間も$SU(3)$の定義表現(あるいは基本表現)と呼ばれる。

 つぎに、変換のテンソル版 $T_{ij}^{\prime} = U_{ik} U_{jl} T_{kl}$ を考える。群の合成則を確認すれば分かるように、これは群の表現を与える。実際、行列成分の直積$U_{ik} U_{jl} $を(添え字に注目して)${\bf U}_{ij, kl}$と指定すると、群の2つの要素$U_1$, $U_2$の合成が要素$U_3$となれば、${\bf U}$についても同様に合成則が成り立つ。
\[  U_1 U_2 = U_3 ~~\Longrightarrow ~~ {\bf U}_1 \, {\bf U}_2 = {\bf U}_3    \tag{5.20} \]
直積の表現${\bf U}$は一般に可約である。つまり、この表現が作用するベクトル空間は群の作用によって不変な部分空間へ分解できる。これはテンソルを対称化すれば分かる。テンソルの対称成分と反対称成分は独立に変換するからである。対称テンソルの変換は
\[\begin{eqnarray} \left( \frac{T_{ij} + T_{ji} }{2} \right)^{\prime} &=&  \frac{1}{2} ( U_{ij} U_{jl} T_{kl} + \underbrace{U_{jk} U_{il} T_{kl} }_{U_{jl} U_{ik} T_{lk} } ) \nonumber \\ &=&  U_{ij} U_{jl} \left( \frac{T_{kl} + T_{lk} }{2} \right) \tag{5.21} \end{eqnarray}\]
で与えられる。これは対称成分の集合はそれ自体に変換することを示している。つまり、対称成分は不変な部分空間を成す。これは既約な1成分であり、更に分解することはできない。同様に、反対称成分もそれ自体に変換し、別の不変な部分空間を成す。
\[ \left( \frac{T_{ij} - T_{ji} }{2} \right)^{\prime} \, = \, U_{ij} U_{jl} \left( \frac{T_{kl} - T_{lk} }{2} \right) \tag{5.22} \]
これもまた既約である。よって、$T_{ij}$の9つの要素は6次元と3次元の2つの既約表現に分解する。

 テンソルを用いた直積の分解から、$SU(3)$の既約表現を得るには以下に示す3つの規則を課せばよいことが分かる。最初の規則はこれまでの議論から次のようになる。

規則1:対称成分と反対称成分を分離する


列ベクトル$\phi_i$の複素共役
\[ \phi_{i}^{*} = \left( \begin{array}{ccc} \phi_{1}^{*} \\ \phi_{2}^{*} \\ \phi_{3}^{*} \\ \end{array} \right) \tag{5.23} \]
を考える。(5.19)の共役は ${\phi_{i}^{*}}^{\prime} = U_{ik}^{*} \phi_{k}^{*}$ と書ける。ただし、$k$の和については縮約表記した。これは ${\phi_{i}^{*}}^{\prime}= U_{ik}^{*} \phi_{k}^{*} = \phi_{k}^{\dag} ( U^\dag )_{ki} = ( \phi^\dag U^{\dag} )_i$ とも表せる。つまり、
\[ {\phi^\dag}^{\prime} = \phi^\dag U^\dag \tag{5.24} \]
である。共役関係は線形変換ではないので、$\phi$と$\phi^*$は線形独立であることに注意しよう。よって、明らかに$U^\dag$は別の表現を定義する。この表現は基本表現の共役あるいは反基本表現と呼ばれる。混乱を避けるため、共役な表現の添え字を上付きにして追跡できるようにする。
\[ {\phi^i}^{*} = {U^{ik}}^{*} {\phi^k}^{*} \tag{5.25} \]
よって、$T^{i}_{j}$の形のテンソルは
\[ {T^{i}_{j}}^\prime = {U^{ik}}^{*} U_{jl} T^{k}_{l} \tag{5.26} \]
と変換する。この変換にクロネッカー・デルタを当てはめると
\[ {\del^{i}_{j}}^\prime = {U^{ik}}^{*} U_{jl} \del^{k}_{l} = {U^{ik}}^{*} U_{jk} = U_{jk} ( U^\dag )^{ki} = ( U U^\dag )^{i}_{j} = \del^{i}_{j} \tag{5.27} \]
となることが分かる。ただし、$U$のユニタリー性を用いた。したがって、$\del^{i}_{j}$は不変なテンソルであり、上下の添え字を縮約するのに利用できる。クロネッカー・デルタの作用によって得られる量は群の変換のもとで正しく変換するという意味で、この上下の添え字を縮約する演算は不変である。さらに、関係式
\[ {T^{i}_{i}}^\prime = {U^{ik}}^{*} U_{il} T^{k}_{l} = ( U^\dag U )^{k}_{l} T^{k}_{l} = \del^{k}_{l} T^{k}_{l} = T^{k}_{k} \tag{5.28} \]
が成り立つ。よって、$T^{i}_{i}$ (つまり、$T$のトレース) は$U$の変換のもとで不変である。言い換えると、これは恒等変換である。これらの結果から、テンソル$T^{i}_{j}$は
\[ T^{i}_{j} = (T_{{\rm traceless}})^{i}_{j} + \frac{1}{3} \, \del^{i}_{j} \, T^{k}_{k} \tag{5.29} \]
と分解できる。トレースレス成分とトレース成分は2つの異なる不変部分空間(つまり、2つの既約表現)を成す。このことから2つ目の規則が導かれる。

規則2:上下の添え字の縮約はすべて分離する


添え字の縮約は不変テンソル$\del^{i}_{j}$を作用させることで実行できることをみたが、もう1つの不変テンソルが存在する。これはレビ-チビタ反対称テンソル$\ep_{ijk}$であり、条件$\det \, U = 1$に起因する。実際、
\[ \ep_{ijk}^{\prime} = U_{ia} U_{jb} U_{kc} \ep_{abc} = \ep_{ijk} \det U = \ep_{ijk} \tag{5.30} \]
と確認できる。ただし、行列式の定義式
\[   \ep_{ijk} U_{ia} U_{jb} U_{kc} = \ep_{abc} \, (\det\, U ) \tag{5.31} \]
を用いた。よって、テンソルの添え字の縮約に$\ep_{ijk}$または$\ep^{ijk}$を利用することができる。例えば、$T_{ij}$の添え字が反対称であるとすると、これらの成分は $T^k = T_{ij} \ep^{ijk} $ と書き換えることができる。$\ep^{ijk}$は不変テンソルなので、これは$T_{ij}$(つまり、$T^k$)は$SU(3)$の反基本表現として変換することを示している。同様に、$T^{ij} \ep_{ijk} = T_k$ のような縮約も実行できる。$\ep$-テンソルを繰り返し用いると、テンソルの階数に関わりなく反対称の添え字を消すことができる。これより、3つ目の規則が導かれる。

規則3:反対称の添え字のペアは不変テンソル$\ep_{ijk}$あるいは$\ep^{ijk}$で縮約されなければならない


2024-02-15

5. クォークとハドロン・スペクトル vol.2

5.2 量子論の対称性表示


この節では量子論の対称性について再考する。量子論の対称性については既に1.4節で取り上げた。その際に出てきた定理1.3を再掲する。

定理1.3 量子系ハミルトニアンの固有状態は対称性変換の既約表現に分類される。それぞれの既約表現に含まれる(複数の)状態は縮退している。

ここではこの定理の理解をさらに深めていく。まず、ハミルトニアンを$H$とし、$U(\theta )$をユニタリー変換とする。このユニタリー変換のもとで理論が対称性をもつ場合、
\[  U^\dagger (\theta )\, H \, U(\theta ) = H ~~~~~\mbox{すなわち}~[ H, U(\theta ) ] = 0    \tag{5.6} \]
が成り立つ。パラメータ$\theta$は各変換をラベルする変数であり、連続的な対称性(回転変換や前節の軽クォークの有効ラグランジアンで議論した$SU(3)$変換など)では連続パラメータになり、パリティなど離散的な対称性の場合、パラメータは離散的になる。(パリティの場合、$U$は$U^2 =1$ ($U \ne 1$)を満たすので、$U$は1つしかない。)このような2つの変換$U (\theta )$, $U(\theta ')$を考えると、その積$U (\theta )\, U(\theta ')$も明らかに対称性変換を与える。
\[   \left[ U ( \theta )\, U( \theta ')\right]^\dagger \, H \, U ( \theta )\, U( \theta ')   = U^\dagger ( \theta ')\, U^\dagger (\theta )\, H \, U ( \theta )\, U( \theta ')   = U^\dagger ( \theta ')\, H \, U(\theta ') = H    \tag{5.7} \]
つまり、2つの対称性の合成も対称性である。(ただし、対称性の合成は演算子の積で与えられる。)よって、いくつかの$U$の集合を考え、その積をとることで、最終的に積のもとで閉じた$U$の集合を得ることができる。この集合の全ての要素は$H$と交換する。恒等変換は恒等演算子として存在する。また、$U(\theta )$はユニタリーであるので、その逆元は$U^\dagger (\theta )$で与えられる。最後に、演算子の積は結合則に従う。よって、群を定義するすべての条件が満たされるので、$H$と可換なすべての$U$の集合は群を成す。物理系の対称性変換群$G$はこの群で指定される。

 つぎに、ハミルトニアンの基底状態$\vert \psi_0\ket$に対称性変換群を作用させることを考える。この作用にはつぎの2つの可能性がある。
\[ \begin{array}{cl}        1. & U( \theta ) \, \vert  \psi_0 \ket = 0 ~~~~ \mbox{ウィグナー表示} \\        2. & U( \theta ) \, \vert  \psi_0 \ket\ne 0 ~~~~ \mbox{ゴールドストン表示}   \end{array} \tag{5.8} \]

 まず、ウィグナー表示について考える。基底状態は対称性変換のもとで不変なので、励起状態について見ていく。ハミルトニアン$H$の固有状態を$\vert \alpha \ket$で表し、その固有値を$E_\alpha$とする。
\[    H \, \vert \alpha \ket = E_\alpha \, \vert \alpha \ket    \tag{5.9} \]
$U(\theta )$は$H$と可換なので
\[ H\, U(\theta ) \vert \alpha \ket = E_\alpha \, U(\theta ) \vert \alpha \ket \tag{5.10} \]
となる。よって、$U(\theta ) \vert \alpha \ket$も同じ固有値を持つ$H$の固有状態である。つまり、$U(\theta ) \vert \alpha \ket$は$\vert \alpha \ket$と縮退している。対称性変換群$G$のすべての要素$U(\theta )$を考えると、対称性変換によって連結される多数の縮退状態が得られる。これらの状態$U(\theta ) \vert \alpha \ket$($U = 1$に対応する$\vert \alpha \ket$も含む)で張られたヒルベルト空間の部分空間$V$は、その構成より、$U(\theta )$の作用のもとで不変である。(それぞれの状態は変化するが、部分空間$V$内の状態に変換されるだけである。)また、$G$のもとで不変となるさらに小さい部分空間$V' \subset V$は存在しない。なぜなら、$V$は$G$の変換によって互いに関係する全ての状態を含むように構成されたからである。よって、部分空間$V$上に$G$のユニタリー既約表現が得られた。$\{ \vert i \ket \}$を$V$の正規直交基底とすると、群の合成則は行列$\bra i \vert U \vert j \ket$の積として表せる。

 この議論は$H$の全ての固有状態にも拡張できるので、固有状態は多重項に分類できる。それぞれの多重項に属す状態は同じエネルギー固有値をもつ。異なる既約表現は異なるエネルギー固有値を持ちうる。これまでの対称性の議論は、これらが同じ固有値をもつことを保証するものではないので、この解釈は汎用性が高い。しかし、異なる既約多重項が偶然同じエネルギー固有値をもつ場合もある。そのような偶発的な縮退については1.4節で解説した通りである。偶発的な縮退は非自明な対称性に起因する。その一例として、水素原子の励起状態の既約多重項が挙げられる。(第2章で解説したように水素原子のハミルトニアンはルンゲ-レンツ・ベクトルを保存する非自明な対称性がある。)

 つぎに、(5.8)のゴールドストン表示について考える。この場合、$U (\theta ) \vert \psi_0 \ket \ne 0$となる性質について調査する必要がある。最初の問題は、この状態が規格化可能かどうかである。もし規格化可能であればこの状態はヒルベルト空間の要素となる。そこで、まず、$U (\theta ) \vert \psi_0 \ket $が規格化可能であると仮定する。この場合、$U (\theta ) \vert \psi_0 \ket $は$\vert \psi_0 \ket$と同じエネルギー固有値をもつ。よって、状態
\[   \vert \Psi_0 \ket = \sum_\theta \, U(\theta ) \, \vert \psi_0 \ket    \tag{5.11} \]
を構成することができる。ただし、和(あるいは積分)は$\theta $の全ての値に渡る。この状態は$G$の変換のもとで不変である。実際、
\[     U(\theta' )\, \vert \Psi_0 \ket = \sum_\theta \, U(\theta' )\, U(\theta ) \, \vert \psi_0 \ket    = \sum_\theta \, U({\tilde \theta} ) \, \vert \psi_0 \ket    = \sum_{\tilde \theta} \, U({\tilde \theta}) \, \vert \psi_0 \ket    = \vert \Psi_0 \ket     \tag{5.12} \]
となる。よって、対称性変換のもとで不変な基底状態が構成され、状況はウィグナー表示の場合に回帰する。(状態$\vert \Psi_0 \ket $と直交する$U(\theta ) \vert \psi_0\ket$の組み合わせが存在するが、そのような組み合わせは一般により高いエネルギーをもつ。)したがって、本質的に異なる場合は$U(\theta )\, \vert \psi_0\ket$が規格化できないときに起きる。この場合、$U(\theta )\, \vert \psi_0\ket$はヒルベルト空間の要素ではない。また、対称性変換群のユニタリー表示を状態レベルで求めることはできない。対称性を持たない基底状態を選び、その基底状態に適当な演算子を作用させることで励起状態を構成しなければならないが、これらの励起状態も対称性を持たない。$H$は$U$と可換なので演算子の交換関係レベルでは対称性は保たれるが、状態レベルでは対称性は実現されない。したがって、対称性の破れは単純に基底状態が対称性を保たないことに由来する。この状況は自発的対称性の破れとして知られる。

 より一般的な状況は、基底状態の対称性が対称性変換群の部分群によって部分的に保たれる場合である。このとき部分群の要素を例えば $h \in H \subset G$ と置くと、$U (h) \vert \psi_0 \ket = 0$ が成り立つ。この場合、部分群$H$に対してウィグナー表示が成立し、状態は$H$の既約表現で分類される。しかし、$H$に含まれない$G$の対称性変換はユニタリーに表示されない。この場合、対称性は$G$から$H$へ自発的に破れると言う。

2024-02-12

プーチンの話を2時間聞いてみる

ロシアがウクライナに侵攻しておよそ2年が経ちました。当初予想した通り、残念ながら戦争は長期化して終わりそうにありません。戦争を続けたい人たちがいるとしか考えられません。先日、アメリカのジャーナリストがプーチン大統領と2時間にわたる独占インタビューを行ったそうです。


とても興味深く観ました。要するに、西側がウクライナ支援(軍事・経済支援)をやめればいつでも戦争は終わるとのことです。交渉の窓口は空いているとのこと。2年前はプーチンがバカだから戦争が始まったという風潮がありましたが、話を聞く限り欧米のリーダーよりバカではないことは明白です。ロシアにはロシアの考え方があるのだからそれを理解して交渉しないと。アメリカの the best and the brightest の人たちが(歴史認識や現在の世界情勢についてプーチン大統領と対等に交渉できそうにない)バイデン大統領やトランプ前大統領しかリーダーに選べないなら、いつまでたってもウクライナの人たちが犠牲になるばかりです。

5. クォークとハドロン・スペクトル vol.1

5.1 ハドロンの対称性


今日我々が知っている基本粒子にはクォークレプトンゲージ粒子ヒッグス粒子の4つのタイプがある。クォークとレプトンはフェルミ粒子であり、すべての物質の素(もと)となる基本的な構成要素とみなせる。ゲージ粒子は力(相互作用)を伝達する素粒子である。これらの粒子はクォークやレプトンを結合させる力を供給するのに必要であり、そのおかげで複合粒子や束縛状態が構成される。最後に、ヒッグス粒子はいくつかのゲージ粒子とクォーク、レプトンに質量を与えるのに必要となる。これまでの所6つの種類(フレーバーとも呼ばれる)のクォークと6種類のレプトンが存在することが知られている。クォークの6フレーバーはアップ($u$)、ダウン($d$)、ストレンジ($s$)、チャーム($c$)、トップ($t$)、ボトム($b$)と呼ばれる。クォークの束縛状態をハドロンと呼ぶ。これらは、強い核力(色力学の力とも言う)の影響下にあり、強い力で相互作用しあう粒子である。我々が実際に実験室で観測するのはこれらのハドロンである。この章ではハドロンのスペクトルを解析する。ハドロンには2つのタイプがある。1つはメソン(中間子)と呼ばれ、クォークと反クォークで構成される($Q \overline{Q}$)。もう一方は、バリオンと呼ばれ、3つのクォークで構成される($QQQ$)。陽子($uud$の束縛状態)と中性子($udd$)はバリオンの例である。Particle Data Group2023年のデータによるとクォークの質量は$MeV$の単位で $m_u \approx 2.16$, $m_d \approx 4.67$, $m_s \approx 93.4$, $m_c \approx 1270$, $m_b \approx 4180$, $m_t \approx 173000$ と測定されている。

 重いクォーク($c$, $b$, $t$)による束縛状態の構成において非相対論的な取り扱いは良い第一近似となる。(補正項は適宜追加されるとする。)これは、メソン質量で測定されるように、そのような束縛状態の結合エネルギーは重いクォークの質量に比べて小さいためである。よって、重クォークで構成されるハドロンのスペクトルは簡単なシュレーディンガー方程式で解析できる。また、クォーク間の相互作用も非相対論的なポテンシャルで近似できる。

一方、軽いクォーク($u$, $d$, $s$)で構成されるハドロンでは非相対論的な手法は適用できない。陽子の質量($938~MeV$)と陽子を構成するアップ、ダウン・クォークの質量を比べれば明らかなように、結合エネルギーは軽クォークの質量よりも十分に大きい。つまり、これらのクォークは極度に相対論的な運動をする。相対論的な動力学が重要であると同時に、古典的で非相対論的なポテンシャルの概念も崩れる。実際、軽クォークの実粒子と仮想粒子の海を生成するのに十分なエネルギーがあるので、1粒子のみの動力学を考えるのは適切でない。よって、軽クォークで構成されるハドロンのスペクトルを解析するには何か別の手法が必要となる。1つの有望な手法として高速計算機を利用した数値シミュレーションがある。また別の手法として、ハドロンの対称性を利用するものがある。この章では後者の手法について議論する。

 素粒子物理学の標準模型によると、クォークは電弱対称性の自発的な対称性の破れによって質量を獲得する。場の理論によって記述されるこの枠組みはヒッグス機構と呼ばれる。対称性を用いたハドロンのスペクトル解析では、ヒッグス機構の詳細は必要ない。ここで重要となるのは、電弱対称性が破れる電弱スケール$246~GeV$よりも十分に低いエネルギー・レベルにおいて、クォークの有効ラグランジアンを(質量項を含めて)書き出すことができることである。このとき、軽いクォークの有効ラグランジアンは
\[ \L (Q) = \overline{Q} \,  i \ga \cdot ( \d - i g A ) \, Q + \overline{Q} \left( \begin{array}{c c c} m_u & 0 & 0  \\ 0 & m_d & 0  \\ 0 & 0 & m_s \\ \end{array} \right) Q \tag{5.1} \]
と表せる。ただし、$Q$, $\overline{Q}$は
\[ Q = \left( \begin{array}{c} u \\ d \\ s \\ \end{array} \right)  , ~~ \overline{Q} = \left( \, \bar{u} ~~ \bar{d} ~~ \bar{s} \, \right) \tag{5.2} \]
と定義される。式(5.1)の因子$\ga \cdot ( \d - i g A)$を明示的に書くと $\ga^\mu (\d_\mu - ig t^a A^{a}_{\mu})$ となる。ただし、$\mu = 0,1,2,3$は時空間の添え字であり、$t^a$ ($a = 1,2, \cdots , 8$) はカラー行列($SU(3)$群の生成子)である。(各種のクォークは3つの値(例えば、1, 2, 3)をとるカラーの添え字をもつが、ここでは省略した。実際には、$u$は$u^i$ ($i= 1, 2, 3$) などと表せる。また、$\{t^a\}$は8つの$3\times 3$行列を表し、これらはリー代数である$SU(3)$代数の基底を成す。これらの行列はクォークのカラーの添え字に作用する。この$SU(3)$はカラーの対称群であり、保存される。ここでは、このカラーの添え字を省略する。以下に導入する$SU(3)$はフレーバーに関する$SU(3)$対称性であり、このカラー対称群とは全く別物であることに注意しよう。)式(5.1)で$\ga^\mu$, $g$, $A_{\mu}^{a} $はそれぞれガンマ行列、強い相互作用の結合定数、グルーオンの場を表す。ラグランジアンにはグルーオンに関わる項や電弱相互作用が含まれるが、それらの項はここでの対称性の議論には関与しない。

 つぎに、異なるフレーバーの$u$, $d$, $s$を混合させる$Q$のユニタリー変換について考える。これは、$(3 \times 3)$ユニタリー行列を$Q$に作用させることで実現できる。
\[ Q \rightarrow Q^{\prime} = U Q \, , ~~~ \overline{Q} \rightarrow \overline{Q}^{\prime} = \overline{Q} U^\dag  \tag{5.3} \]
$U^\dag U = 1$であるので、(5.1)の第一項はこの変換のもとで不変である。変換はフレーバーを区別するものではない。つまり、この変換はフレーバーの添え字に関して恒等行列に比例する形で表せる。一方、第二項では、クォーク質量がそれぞれ異なるためこのフレーバーの$U(3)$対称性は破れる。前述の通り、これらの質量の大小関係は $m_s \gg m_u \approx m_d$ で与えられる。したがって、メソンとバリオンの質量分裂はこの対称性の破れを用いて解析できる。この考え方は1920年後半にベーテによって形式化された結晶場分裂にも認められる。

2024-02-08

4. 分数量子ホール効果 vol.3

4.3 ハイゼンベルク代数と分数スピン


前節に引き続いて分数量子ホール効果の正孔動力学(ダイナミクス)について代数的な考察を行う。ハイゼンベルク代数については既に1.2節で取り上げた。一般にハイゼンベルク代数は交換関係
\[ \begin{eqnarray} [ \hat{x}^{(\al )}_{i} , \hat{x}^{(\bt )}_{j} ] &=& 0 \\ [ \hat{x}^{(\al )}_{i} , \hat{p}^{(\bt )}_{j} ] &=& i\, \del_{ij}\, \del^{\al \bt} \\ [ \hat{p}^{(\al )}_{i} , \hat{p}^{(\bt )}_{j} ] &=& 0 \end{eqnarray} \tag{4.31} \]
で表せる。ただし、$\al, \bt = 1,2, \cdots , N $であり、$i , j$は空間座標の添え字を示す。1.2節で言及したように、この代数に関してストーン-フォン・ノイマンの定理がある。この定理によると、ハイゼンベルク代数の表現は$N$が有限かつ$(x,p)$で定義されたすべての相空間が単連結であるならば(ユニタリー等価を除いて)唯一の表現をもつ。ここで、$N$が有限であることと相空間が単連結であるという2つの前提条件が重要となる。例えば、もし$N$が有限でないと互いに区別できる代数の表現が存在可能であり、それらは異なる相に対応すると考えられる。よって、$N \rightarrow \infty$の極限では相転移が起こる。(この極限はしばしば熱力学極限と言及される。)これは超伝導のBCS理論で起きていることであり、この場合については別の章で取り上げる。(詳しくはBCS理論の基底状態を議論した6.3節を参照のこと。)

 一方、定義空間に穴が開いていると単連結の前提が崩れる。これは、以下に示すように、分数量子ホール効果の正孔励起状態の場合に起きる。

 まず、座標$x$の空間が単連結であるならば、代数(4.31)は唯一の表現しか持たないとはどういうことかを見ていく。$x$はそれ自身と可換なので$x$-演算子がすべて同時に対角化される表現を求めることができる。当然ながら、これは量子力学の標準的な表現
\[ \hat{x}^i \rightarrow x^i \, , ~~ \hat{p}_i \rightarrow - i \frac{\d}{\d x^i} \tag{4.32} \]
を導く。これは代数(4.31)に従うシュレーディンガー表現である。代数(4.31)の別の解は
\[ \hat{x}^i \rightarrow x^i \, , ~~ \hat{p}_i \rightarrow - i \frac{\d}{\d x^i} + a_i (x) \tag{4.33} \]
で与えられる。ただし、$a_i (x)$は$[ \hat{p}_i , \hat{p}_j ] = 0$を満たさなければならない。つまり、
\[ \left[ -i\frac{\d}{\d x^i} + a_i (x) \,  ,  \, -i \frac{\d}{\d x^j } + a_j (x) \right] = - i \left( \frac{\d a_j}{\d x^i} - \frac{\d a_i}{\d x^j} \right) =0 \tag{4.34} \]
となる。もし$x^i$が単連結空間で定義されているなら、$a_i$は
\[ a_i = \d_i \La \tag{4.35} \]
とパラメータ表示できる。ただし、$\La$は$x^i$の任意関数である。このとき、表現(4.33)は
\[\begin{eqnarray} && \hat{x}^i  = U^{-1} x^i U \, , ~~ \hat{p}_i = U^{-1} \left( -i \frac{\d}{\d x^i} \right) U \tag{4.36} \\ && U = \exp ( i \La ) \tag{4.37} \end{eqnarray}\]
と表せる。したがって、表現(4.33)はユニタリー変換のもとでシュレーディンガー表現(4.32)と同等である。この意味で、ハイゼンベルク代数は唯一のユニタリー表現をもつ。言い換えると、$x^i$が単連結空間である場合、ハイゼンベルク代数はユニタリー等価を除いて唯一の(ユニークな)表現をもつ。

 もし定義空間が単連結でなければ、つまり、もし定義空間が非可縮なループをもつなら、条件式(4.34)は(4.35)以外の非自明な解をもつ。より正確に述べると、「$\d_i a_j - \d_j a_i = 0$は空間が非可縮なループをもつ場合に限り非自明な解をもつ」ことを示せる。例えば、前節のように複素座標を導入して、
\[ a_z = ic \frac{1}{z-w} \, , ~~ a_\bz =  -ic \frac{1}{\bz - \bw} \tag{4.38} \]
と選ぶ。ただし、$c$は定数である。前節で導出した通り、これは分数量子ホール効果の有効理論において正孔が従う運動方程式の解
\[ a_\bz = - \frac{i}{2k} \frac{1}{\bz - \bw} \, , ~~ a_z = \frac{i}{2k}\frac{1}{z-w}  \tag{4.27} \]
に対応する。ただし、$c= \frac{1}{2k} = \frac{1}{2 (2p+1) }$ ($p = 1,2, \cdots $) と置ける。関係式
\[ \d_z \frac{1}{\bz - \bw} = \pi \del^{(2)} (x -w ) \, , ~~ \d_\bz \frac{1}{\bz - \bw} = \pi \del^{(2)} (x -w ) \tag{4.26} \]
を用いると、${\mathbb R}^2 - \{ w \}$で定義される空間上で$\d_z a_\bz - \d_\bz a_z = 0$が成り立つことが分かる。この空間は分数量子ホール効果の1-正孔ダイナミクスの配位空間に対応する。2次元空間から点$w$除外されるが、これはこの点に他の粒子が接近できないという意味である。例えば、任意の電子の位置$z_i$が$w$に等しい場合には対応する波動関数はゼロとなる。解(4.38)は
\[\begin{eqnarray} && a_z = \d_z \La \, , ~~ a_\bz = \d_\bz \La  \nonumber \\ && \La (z, w) = ic \left[ \log ( z- w ) - \log ( \bz - \bw ) \right] \tag{4.39} \end{eqnarray}\]
と書き換えられる。変換(4.36)と同様に、ユニタリー変換を施された演算子${\hat x}^i = U^{-1} x^i U$, $ {\hat p}_i = U^{-1} (-i \d/\d x^i) U$を定義してみよう。ここで、$U$は
\[ U (z, w) = e^{ i \La (z, w) } \tag{4.40} \]
と置ける。しかし、ここで重要なのは$U (z, w)$は定義空間上で一価関数でないことである。下図に示したように点$w$のまわりの曲線$C$に沿った軌跡を考える。

複素曲線$C$に沿ったユニタリー変換$U$を考える

(4.39)の因子$\log (z-w)$は$2\pi i$だけシフトするので、曲線を一周すると$U \rightarrow e^{-4 \pi i c} U$と変換する。言い換えると、
\[ U ( e^{2 \pi i}z , e^{2 \pi i} w ) = e^{-4 \pi i c} U(z, w) \tag{4.41} \]
となる。これは、$c= \frac{n}{2}$ ($n \in \Z $) でない限り、$U$は一価関数とならないことを意味する。分数量子ホール効果の正孔ダイナミクスの場合、 $c= \frac{1}{2 (2p+1)}$となるのでこの条件は一般に満たされない。例外は、$p =0$のときであり、これは整数量子ホール効果に対応する。

 いま考えている空間上で$\d_i a_j - \d_j a_i =0$が成り立つことを示した。よって、$U$の位相変化は曲線$C$の連続的な変形によって変わらない。これはトポロジカル不変量である。ここで、もし空間が単連結であるとすると、微小変形を繰り返すことで曲線を一点に収縮させることができる。このとき、$U$に変化がないことは明らかである。よって、単連結空間において許容される$U$は一価関数でなければならない。一方、単連結性がなければ、$U$は一価関数である必要はない。ここに矛盾はない。ただし、多価関数の$U$はユニタリー変換として利用することはできない。というのも、$U$は定義空間の各点において唯一つの(ユニークな)値をもつ関数でなければならないからである。つまり、$U$は一価関数でなければならない。

 まとめると、定義空間が単連結の場合、ハイゼンベルク代数は(ユニタリー等価を除いて)唯一の表現をもち、その表現はシュレーディンガー表現で与えられる。分数量子ホール効果の正孔ダイナミクスにおいては、定義空間は非単連結となり、前節の正準運動量
\[    p_i = m {\dot x}_i + a_i \equiv - i {\d \over \d x_i}    \tag{4.29} \]
で与えられる表現はシュレーディンガー表現とユニタリー等価とならない。

2024-02-06

4. 分数量子ホール効果 vol.2

4.2 分数量子ホール効果の有効理論


前節では分数量子ホール効果のラフリン波動関数と正孔励起 (hole excitation) 状態を考えた。今節では、つぎの作用をもちいて分数量子ホール効果の有効理論を考える。
\[ S = \int d^3 x \left[ \frac{k}{4\pi} \ep^{\mu \nu \al} a_\mu \d_\nu a_\al + a_\mu \left( j^\mu - \frac{e}{2 \pi} B^\mu \right) \right] \tag{4.11} \]
ただし、$a^\mu$ ($\mu = 0,1,2$) は新しい補助場であり、$j^\mu$は正孔の3元電流密度(カレント)を表す。$k$はあとで決定される定数である。場の強さ$B^\mu$は
\[ B^\mu = \ep^{\mu \nu \al} \d_{\nu} A_\al \]
で定義される。ここでは3次元共変表示を用いているので、$B^0$は磁場を表し、$B^i$ ($i=1,2$) は電場に対応する。作用(4.11)の電磁相互作用をより明示的に書くと
\[\begin{eqnarray} - \frac{e}{2\pi} \int d^3 x~ a_\mu \ep^{\mu \nu \al} \d_\nu A_\al &=& \frac{e}{2\pi} \int d^3 x~ \d_\nu a_\mu \ep^{\mu \nu \al} A_\al \nonumber \\ &=& - \frac{e}{2\pi} \int d^3 x~ \ep^{\al \mu \nu} \d_\mu a_\nu A_\al \nonumber \\ & \equiv & \int d^3 x ~A_\al J^\al \tag{4.12} \\ J^\al &=& - \frac{e}{2 \pi} \ep^{\al \mu \nu} \d_\mu a_\nu \tag{4.13} \end{eqnarray}\]
となる。ただし、$J^\mu$は電磁カレントである。

 作用(4.11)で$a_\mu$の変分をとると運動方程式
\[ \frac{k}{2\pi} \ep^{\mu\nu\al} \d_\nu a_\al + j^\mu - \frac{e}{2 \pi} B^\mu = 0   \tag{4.14} \]
が導かれる。(4.13)と(4.14)から
\[\begin{eqnarray} J^\mu &=& \frac{e}{k} \left( j^\mu - \frac{e}{2\pi} B^\mu  \right) \nonumber \\ &=& \frac{e}{k} j^\mu - \frac{e^2}{2 \pi k} \ep^{\mu\nu\al} \d_\nu A^\al \tag{4.15} \end{eqnarray}\]
が分かる。第1項は単位正孔あたりの電荷が$e/k$であることを示している。よって、前節の最後に触れた議論から、分数量子ホールの場合には
\[ k = 2p + 1 ~~ (p = 1,2,\cdots ) \tag{4.16} \]
と決めることが出来る。

2024-02-05

4. 分数量子ホール効果 vol.1

この章では分数量子ホール効果を考える。前章で述べたように分数量子ホール効果では電子同士のクーロン相互作用が重要になる。定性的には、物理系はクーロン・エネルギーを極小化させる傾向をもつので、電子同士は互いに距離を取り合うと予想できる。整数量子ホール効果の場合、例えば、充填率$\nu =1$のとき最低ランダウ準位のすべての状態は電子で充填されている。一方、分数量子ホール効果の場合はクーロン相互作用の影響のため、これと比較すると充填率$\nu$は$1$より小さくなると予想できる。しかしながら、これまでのところ、理論的な視点から分数量子ホール効果の状態について十分に満足のいく導出は得られていない。

 分数量子ホール効果の問題は至ってシンプルである。外部磁場と電子同士の静電斥力の影響下で2次元の多電子系を考えるだけである。その際、(前章で導入した振動子ポテンシャルに代表される)閉じ込めのポテンシャルを追加し、電子を伝導体内に留めればよい。この物理系のハミルトニアンから始めて、分数量子ホール効果の状態を基底状態として導けば、「第一原理」から分数量子ホール効果を構成することができるはずである。しかし、そのような導出は未だ知られていないためこの問題の分析は基本的にラフリン (Laughlin) によって提案された波動関数を用いて専ら行われる。数値シミュレーションにおいてラフリンはそのような状態がクーロン・エネルギーを極小化することを示した。この章では、このラフリン波動関数について議論し、さらに量子ホール効果における正孔 (hole) の動力学について調べ、その動力学に関する代数的な考察を行う。ラフリン波動関数を用いると充填率$\mu$が$(\mbox{奇数})^{-1}$の形をとる状態について議論できる。以下では、主にそのような状態を扱い、その代数的な特徴について議論する。しかしながら、これらが分数量子ホール効果のすべての状態を表すわけではないことに注意する必要がある。ここでは取り上げないが、多体系量子ホール効果の状態にはこれ以外にも例えば、Jain状態やMoore-Read状態があることが知られている。(詳しくはこちらを参照されたい。)

4.1 分数量子ホール効果のラフリン波動関数


整数量子効果のラフリン波動関数を導いた3.3節の分析に沿うと、分数量子ホール効果はラフリンによって提案された次の形の波動関数を用いて最もよく理解できる。
\[\Psi =  \mbox{(ベキ因子)} \prod_{1 \le i<j \le N} (z_i - z_j )^{2p+1} \tag{4.1} \]
ただし、$p = 0,1,2, \cdots $である。前述の通りこの形は「第一原理」から導かれていないが、いくつか重要な特徴を満たしている。電子はフェルミ粒子なので波動関数は2つの電子の交換に関して反対称でなければならない。これは、$(z_i - z_j)$因子の指数が奇数$2 p +1$であることから保証されている。さらに、クーロン相互作用により電子同士の距離はより長く保たれるはずなので、2つの電子が互いに接近することに強い消失条件が課されると予想できる。よって、$(z_i - z_j )$因子の指数は大きくなると期待される。この状況は充填率$\nu$にも反映されるはずである。次にこの点について考えよう。

 整数量子ホール効果の場合と同様に、系の最高準位の1粒子状態は$z^{(N-1)(2p+1)}$に比例する。ポテンシャルの効果を無視するとベキ因子は$\exp( {-\frac{\bz z}{2}})$で与えられる。よって、1粒子波動関数の極大値は
\[- \bz z + (N-1)(2p+1) = 0 \tag{4.2} \]
のときに得られる。これより、関係式
\[ N-1 = \frac{eB}{2 \pi} \frac{1}{2p+1} \mbox{(面積)} \tag{4.3} \]
が求まる。これらは3.3節で導いた整数量子ホール効果の結果(3.68), (3.69)と類似している。ラージ$N$極限では$N$個の電子で充填されたランダウ準位の電荷密度は
\[\begin{eqnarray} \bra J_0 \ket = \frac{N e}{\mbox{(面積)}} & \approx & \nu \frac{e^2 B}{2 \pi} \tag{4.4}\\ \nu &=& \frac{1}{2 p + 1} \tag{4.5} \end{eqnarray}\]
$( p=0,1,2,\cdots )$ と表せる。また、3.2節と同じ議論から、(4.5)に対応する電流は
\[ \bra J_i \ket = - \nu \frac{e^2}{2 \pi} \ep_{ij} E_j \tag{4.6} \]
で与えられる。ただし、$i$, $j$は$1$, $2$の値をとる。$\nu = 1$の場合を除くと$\nu = \frac{1}{3}, \frac{1}{5}, \frac{1}{7} , \cdots $となるので、この結果はホール伝導率が分数で量子化されていることを示す。実際には、そのほかの値、例えば$\nu = \frac{2}{5}$での量子化も観測されている。また、分母が偶数となる場合、例えば$\nu = \half$となるケースもある。これらについてはここでは議論しない。この分野についてのより広範な文献を参考されたい。

 つぎに励起状態について考えるが、その前に充填状態の描像を考察しよう。古典的には、電子はある半径を持つランダウ軌道に従う。一方、量子力学的には、はっきりと定義された軌道は存在せず、それぞれの状態は古典的な半径と同じぐらいの広がりを持つ領域に存在する。よって、各状態は$2 \pi / eB$に等しい面積を占める。そのため、面積$A$に含まれる状態数は$A/ (2\pi/eB) = (eB /2\pi) A$で表せる。この描像は上述した状態数の数え上げと一致する。(3.1節で行った準古典的な議論とも一致する。)さらに、排他律により各状態には1つの電子しか入らない。そして、たとえ微小量のポテンシャルが追加されたとしても、充填状態はポテンシャルの値を最小にする傾向があるので、充填状態は1状態につき1電子の割合で連続的な領域を占める。これが、電子の量子ホール・ドロップレットである。排他律はこのドロップレットの圧縮を妨げるので、これは非圧縮性ドロップレットである。

 これらの描像により、量子ホール・ドロップレットには2つのタイプの励起状態が可能であることが分かる。1つ目はドロップレットの境界の変形によって引き起こされるものである。ただし、電子の数は変わらないのでドロップレット自体の面積は不変となる。これらはエッジ励起 (edge excitation) と呼ばれる。エッジ励起は非圧縮性流体のドロップレット(液滴)の境界変形を考慮した流体力学の簡易モデルで研究できる。

 もう1つの励起状態はドロップレットの中央付近から電子を1つドロップレットの外側に取り出すことによって引き起こされる。これによりドロップレットの内側に正孔 (hole) が1つ出来る。これは正孔励起 (hole excitation) と呼ばれる。これら2つの励起状態を図示すると以下のようになる。


2024-02-02

3. ランダウ問題と量子ホール効果 vol.3

3.3 整数量子ホール効果のラフリン波動関数


前節ではハミルトニアンの調和振動子ポテンシャルの効果を無視した。この節では調和振動子ポテンシャルを回復させて、最低ランダウ準位 (LLL) の波動関数$\Psi_{LLL}$の具体的な形を求める。さらに、$\Psi_{LLL}$を用いて整数量子ホール効果の多電子波動関数を求めることを目指す。

 3.1節で導いた量子ホール効果の1粒子ハミルトニアンは
\[\begin{eqnarray} H &=& \frac{1}{2m} ( \Pi_{1}^{2} + \Pi_{2}^{2} ) + \frac{m \om^2}{2} ( x_{1}^{2} + x_{2}^{2} ) \nonumber \\ &=& \underbrace{\frac{eB}{m} \left( \A^\dag \A + \hf \right)}_{\equiv H_0} + \frac{m \om^2}{2} ( x_{1}^{2} + x_{2}^{2} ) \tag{3.11} \end{eqnarray}\]
であった。ただし、$\A$, $\A^\dag$は演算子
\[ \A = \frac{\Pi_1 + i \Pi_2}{\sqrt{2eB}} \, , ~~ \A^\dag = \frac{\Pi_1 - i \Pi_2}{\sqrt{2eB}} \tag{3.8} \]
で与えられる。ここでは、まずハミルトニアン(3.11)を複素変数
\[ z = \sqrt{\frac{eB}{2}} ( x_1 + i x_2) \, , ~~ \bz = \sqrt{\frac{eB}{2}} ( x_1 - i x_2) \tag{3.40} \]
で書き換えることを考える。演算子$\A$は
\[\begin{eqnarray} \A &=& \frac{ \Pi_1 + i \Pi_2 }{ \sqrt{2eB}} = \frac{ \left( p_1 + \frac{eB}{2} x_2 \right) +i \left( p_2 - \frac{eB}{2} x_1 \right)}{\sqrt{2eB}} \nonumber \\ &=& \frac{-i}{\sqrt{2eB}} \left( \frac{\d}{\d x_1} + i \frac{\d}{\d x_2} \right) - \frac{i}{2}\sqrt{\frac{eB}{2}} ( x_1 + ix_2 ) \nonumber \\ &=& -i \left( \frac{\d}{\d \bz} + \frac{z}{2} \right) \tag{3.41} \end{eqnarray}\]
と表せる。ただし、関係式
\[ \left( \frac{\d}{\d x_1} + i \frac{\d}{\d x_2} \right) \bz = \left( \frac{\d}{\d x_1} + i \frac{\d}{\d x_2} \right) (x_1 - i x_2 ) \sqrt{\frac{eB}{2}} = \sqrt{2eB} \tag{3.42} \]
から微分$\frac{\d}{\d \bz}$を定義した。同様に、共役演算子$\A^\dag$は
\[ \A^\dag = -i \left( \frac{\d}{\d z} - \frac{\bz}{2} \right) \tag{3.43} \]
と表せる。

 つぎに、調和振動子ポテンシャルの効果を解析するために4つの新しい演算子を定義する。
\[\begin{eqnarray} C &=& \A - \frac{i \al}{2} z = -i \left( \frac{\d}{\d \bz} + \frac{1+\al}{2} z \right) \tag{3.44}\\ C^\dag &=& \A^\dag + \frac{i \al}{2} \bz  = -i \left( \frac{\d}{\d z} - \frac{1+\al}{2} \bz \right) \tag{3.45}\\ T &=& \A + i z + \frac{i \al}{2} z = -i \left( \frac{\d}{\d \bz} - \frac{1+\al}{2} z \right) \tag{3.46}\\ T^\dag &=& \A^\dag - i \bz - \frac{i \al}{2} \bz  = -i \left( \frac{\d}{\d z} + \frac{1+\al}{2} \bz \right) \tag{3.47} \end{eqnarray}\]
ただし、$\al$は定数である。演算子$T$, $T^\dag$は3.1節で導入した磁気並進演算子と類似していることに注意しよう。演算子$C$, $C^\dag$でハミルトニアンを表すと
\[\begin{eqnarray} H &=& 2 \om_L \left[ \left( C^\dag - \frac{i \al}{2} \bz \right) \left( C + \frac{i \al}{2} z \right)+ \frac{1}{2} \right] + \frac{\om^2}{2 \om_L} \bz z \nonumber \\ &=& 2 \om_L \left[ C^\dag C - i \frac{\al \bz}{2} C + i \frac{\al}{2} C^\dag z + \frac{\al^2}{4} \bz z + \frac{1}{2} \right] + \frac{\om^2}{2 \om_L} \bz z \tag{3.48} \end{eqnarray}\]
となる。ただし、$\om_L$はラーモア振動数$\om_L = \frac{eB}{2 m}$である。式(3.45)と式(3.47)から、$i C^\dag z$の因子は次のように変形できる。
\[\begin{eqnarray} i C^\dag z &=& \left( \frac{\d}{\d z } - \frac{\bz}{2} - \frac{\al}{2} \bz \right) z \nonumber \\ &=& 1+ z \frac{\d}{\d z} - \frac{ 1+ \al}{2} \bz z \nonumber \\ &=& 1+ z \left( \frac{\d}{\d z} + \frac{ 1+ \al}{2} \bz - (1+ \al ) \bz \right) \nonumber \\ &=& 1 + i z T^\dag - (1 + \al ) \bz z \tag{3.49} \end{eqnarray}\]
よって、ハミルトニアン(3.48)は
\[ H = 2 \om_L \left[\left( C^\dag C - \frac{i \al \bz}{2} C  \right) + \frac{\al}{2} ( 1 + i z T^\dag - (1+ \al ) \bz z )+ \frac{\al^2}{4} \bz z + \frac{1}{2} \right] + \frac{\om^2}{2 \om_L} \bz z \tag{3.50} \]
と書ける。上式で$\bz z$に比例する項がゼロとなる条件は
\[\begin{eqnarray} && - \om_L \al ( 1+ \al ) + \frac{\al^2}{2} \om_L + \frac{\om^2}{2 \om_L} = 0 \nonumber \\ && ~~ \Longrightarrow ~~ \al = \frac{- \om_L \pm \sqrt{\om_{L}^{2} + \om^2 }}{\om_L} \tag{3.51} \end{eqnarray}\]
である。調和振動子ポテンシャルがない極限$\om \rightarrow 0$で$\al \rightarrow 0$と要請できるので、$\al$の値は一意に決められる。
\[ \al = \frac{ - \om_L + \sqrt{\om_{L}^{2} + \om^2 }}{\om_L} \tag{3.52} \]
この場合、ハミルトニアン(3.50)は
\[ H = 2 \om_L \left( C^\dag C - \frac{i \al \bz}{2} C  \right) + (1+ \al ) \om_L +  \al \om_L z \left( \frac{\d}{\d z} + \frac{1+ \al }{2} \bz \right) \tag{3.53} \]
となる。最後の項は磁化並進タイプの演算子$T^\dag$で表せる。上式より最低ランダウ準位の状態$| LLL \ket$を
\[ C | LLL \ket = 0 \tag{3.54} \]
で定義できる。よって、最低ランダウ準位の波動関数$\Psi_{LLL}$は
\[ \left( \frac{\d}{\d \bz} + \frac{1 + \al}{2} z \right) \Psi_{LLL} = 0 \tag{3.55} \]
を満たす。これより、$\Psi_{LLL}$は
\[ \Psi_{LLL} = \exp \left( - \frac{1+\al}{2} \bz z \right) f(z) \tag{3.56} \]
と解ける。ここで、$f(z)$は任意の正則関数である。上式より関係式
\[ \left( \frac{\d}{\d z } + \frac{1+\al}{2} \bz \right) \Psi_{LLL} = \exp \left( - \frac{1+\al}{2} \bz z \right) \frac{ \d f (z)}{\d z} \tag{3.57} \]
が得られる。よって、シュレーディンガー方程式$H \Psi_{LLL} = E \Psi_{LLL}$は
\[ H \Psi_{LLL} = e^{- \frac{1+\al}{2}\bz z} \left[ (1+ \al ) \om_L + \al \om_L z \frac{\d}{\d z} \right] f(z) = e^{- \frac{1+\al}{2}\bz z}  E f(z) \tag{3.58} \]
と表せる。これより、$f(z)$の方程式
\[  (1 + \al ) \om_L f (z) + \al \om_L z \frac{\d}{\d z} f (z) = E f (z)  \tag{3.59} \]
が得られる。この方程式はつぎの解をもつ。
\[   f(z) = z^k , \hskip .3in    E = E_{k} = ( 1+ \al ) \om_L + k \al \om_{L} ~~ (k = 0,1,2, \cdots )  \tag{3.60} \]
パラメータ$\al$は
\[ \al = \frac{ - \om_L + \sqrt{\om_{L}^{2} + \om^2 }}{\om_L} \tag{3.52} \]
で与えられるので、エネルギー固有値$E_k$は$\om$の大小によって次のようの振る舞う。
\[\begin{eqnarray} E_{k} \rightarrow \om_L &~~~~& ( \om \rightarrow 0 ) \nonumber \\ E_{k} \approx ( k + 1 ) \om &~~~~&  (\om \ge \om_L ) \nonumber \end{eqnarray}\]
振動子ポテンシャル$\om$が無視できるほど小さいとき、すべての固有状態は縮退状態となる。一方、$\om$がラーモア振動数$\om_L$に比べて十分大きいとき、固有状態は2次元調和振動子の固有状態に近似できる。よって、この解は整合性をもつ。振動子のポテンシャルによって期待通り縮退状態の固有エネルギーが持ち上げられた。これは電子が伝導体内に閉じ込められている描像と合っている。ここで重要なのは、波動関数がベキ因子を除いて$z$の正則関数$f(z)$で表せることである。以下では、このことを用いて多電子の波動関数を構成する。