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2024-08-06

11. 共形対称性 vol.5

前回に引き続いてビラソロ代数
[Lm,Ln]=(mn)Lm+n+c12(m3m)δm+n,0
について議論する。

ビラソロ代数のユニタリー既約表現

 11.3節で言及したように、2次元の臨界指数 \al
    \bra \phi (z ) \phi (w ) \ket  \, = \, \frac{1}{(z - w )^\al}    \tag{11.77}
と表せる。ただし、z , w \in {\bf C} である。これは演算子 L_0 = - z \frac{\d}{\d z} の固有値が臨界指数 \al を与えることを意味する。実際、
    L_0 \frac{1}{z^\al} = \al z \frac{1}{z^{\al + 1 }} = \al \frac{1}{z^\al}     \tag{11.78}
と計算できる。L_0 の固有値は共形ウェイト(あるいは共形次元)と呼ばれる。前節で紹介したように2次元の臨界現象はビラソロ代数の表現で分類できる。よって、2次元上で可能な全ての臨界指数は共形ウェイトで与えられることが分かる。以下では、ビラソロ代数のユニタリー既約表現を考えることでそのような共形ウェイトが決定されることを見ていく。

 まず、SL( 2 , {\bf C} )部分代数あるいは2次元の広域共形代数を考える。ビラソロ代数(11.76)において、m = 0 , \pm 1 とすると
    \left[ L_{1} , L_{-1} \right] = 2 L_0 \, , ~~~    \left[ L_{0} , L_{1} \right] = - L_{1} \, , ~~~    \left[ L_{0} , L_{-1} \right] =  L_{-1}    \tag{11.79}
を得る。これは閉じた代数であるが、|m| が大きい場合、代数は閉じない。例えば、m = 0, \pm 1, \pm 2 のとき、次のような交換関係が現れる。
    \left[ L_{2} , L_{-2} \right] = 4 L_0 + \frac{c}{2} \, , ~~    \left[ L_{0} , L_{2} \right] = -2 L_{2} \, , ~~    \left[ L_{1} , L_{2} \right] =  - L_{3} \, , ~ \cdots    \tag{11.80}
よって、|m| が大きい場合、閉じた部分代数は存在せず、ビラソロ代数(11.76)全体を含める必要がある。(11.76)に m = 0 を代入すると
    \left[ L_0 , L_n \right] \, = \, - n L_n     \tag{11.81}
を得る。ここで、ある状態 | \psi \ket が共形ウェイト h_0 を持つとすると、上の交換関係から関係式 L_0 ( L_n | \psi \ket ) = ( h_0 - n ) L_n | \psi \ket が求まる。これは、演算子 L_n  (n \ge 0 ) の作用によって L_0 の固有値が n だけ減少することを意味する。言い換えると、L_n は下降演算子として振る舞う。よって、角運動量代数との類推から、ビラソロ代数の表現を最高ウェイト状態 |h \ket によって構成することができる。ただし、|h \ket は条件式
    L_0 | h \ket = h | h \ket \, , ~~~~    L_n | h \ket = 0  ~~ ( n \ge 1 )    \tag{11.82}
をみたす。規格化条件は \bra h | h \ket = 1 とする。|h \ket 以外の全ての状態は L_{-m} ( m  \ge 1)| h \ket に施すことによって求まる。具体的に書き出すと次のようになる。
    \begin{array}{l|l|l}    N & p(N) & \mbox{共形ウェイト}(h+N)\mbox{のディセンダント状態} \\ \hline    1 & 1 & L_{-1}|h \ket \, , \\    2 & 2 & L_{-2}|h \ket \, , ~ L^{2}_{-1}|h \ket  \\    3 & 3 & L_{-3}|h \ket \, , ~ L_{-1} L_{-2}|h \ket \, , ~ L^{3}_{-1}|h \ket  \\    4 & 5 & L_{-4}|h \ket \, , ~ L_{-1} L_{-3}  |h \ket \, , ~ L_{-2}^{2} |h \ket \, , ~  L_{-1}^{2} L_{-2} |h \ket \, , ~      L^{4}_{-1}|h \ket  \\    5 & 7 & L_{-5}|h \ket \, , ~ L_{-1} L_{-4} |h \ket \, , ~ L_{-2} L_{-3}  |h \ket \, , ~  L_{-1}^{2} L_{-3} |h \ket \, , \\    &&   L_{-1} L_{-2}^{2}  |h \ket \, , ~  L_{-1}^{3} L_{-2}|h \ket \, , ~ L^{5}_{-1}|h \ket  \\    6 & 11 & L_{-6}|h \ket \, , ~ L_{-1} L_{-5} |h \ket \, , ~  L_{-2} L_{-4}|h \ket \, , ~ L_{-1}^{2}  L_{-4}|h \ket \, , \\    &&    L_{-3}^{2} |h \ket \, , ~ L_{-2} L_{-1} L_{-3} |h \ket \, , ~ L_{-1}^{3}  L_{-3} |h \ket \, ,   \\    &&    L^{3}_{-2}|h \ket \, ~ L_{-1}^{2} L_{-2}^{2} |h \ket \, , ~  L_{-1}^{4} L_{-2}|h \ket \, , ~ L^{6}_{-1}|h \ket  \\    7 & 15 & \cdots    \\    \vdots & \vdots & \ddots    \\    \end{array}    \tag{11.83}
これらの状態はディセンダント状態と呼ばれる。一般にディセンダント状態は
    L_{-n_1} L_{-n_2} \cdots L_{-n_r} | h \ket    \, , ~~~  (1 \le n_1 \le n_2 \le \cdots \le n_r)     \tag{11.84}
と表せる。ただし、
    \sum_{i=1}^{r} n_i = N     \tag{11.85}
である。最高ウェイト状態 | h \ket を含むディセンダント状態(11.83)で張られる無限次元のベクトル空間はビラソロ代数の無限次元の表現を与える。表現論の用語でより正確に表すとこれらの状態はバーマ加群と呼ばれる加群(モジュール)を成す。自然数 N はバーマ加群をなすディセンダント状態のレベル数と呼ばれる。

 構成によりレベル N ディセンダント状態の縮退度は分割数 p (N) で与えられる。これは N を自然数の和として表せる場合の数である。ただし、N = 0 の場合は p (0 ) = 1 と定義される。分割数 p (N) の母関数は
    \sum_{N = 0}^{ \infty} p (N ) x^N = \prod_{r = 1}^{\infty} \frac{1}{ 1 - x^r}     \tag{11.86}
で与えられる。


ユニタリー性、既約性、特異ベクトル

ビラソロ代数のユニタリー性は任意の物理状態の内積が正であることで保証される。状態 L_{-m} | h \ketL_{-n} | h \ket ( m,n > 0 ) の内積は
\begin{eqnarray}    \bra h | L_{m} L_{-n} | h \ket    &=& \bra h |\left( [ L_{m} , L_{-n} ] + L_{-n} L_{m} \right) | h \ket    \nonumber \\    &=& \bra h | \left( (m+ n) L_{m-n} + \frac{c}{12}m(m^2 - 1 ) \del_{m,n} \right) | h \ket    \nonumber \\    &=&    \left( (m+n) h + \frac{c}{12} m (m^2 - 1 ) \right) \del_{m,n}      \tag{11.87} \end{eqnarray}
と計算できる。ただし、随伴関係 L^{\dagger}_{-n} = L_n と規格化 \bra h | h \ket = 1 を用いた。非自明となる最もシンプルな場合は m = n = 1 で与えられ、このとき上式は
    \bra h | L_{1} L_{-1} | h \ket = 2 h     \tag{11.88}
となる。よって、ユニタリー条件から h > 0 が分かる。また、(11.87)からレベル n ディセンダント状態 L_{-n} | h \ket (n > 1 ) の内積は
    \bra h | L_{n} L_{-n} | h \ket =    2 n h + \frac{c}{12} n (n^2 - 1 )     \tag{11.89}
で与えられる。レベル数 n が充分に大きいとき、この内積が正となるには c \ge 0 が必要である。これらの簡単な場合から、ビラソロ代数のユニタリー性を課すと hc が非負となることが分かる。つまり、
    h > 0 \, , ~~ c \ge 0     \tag{11.90}
であることが要請される。

 関係式(11.87)はレベル m 状態 L_{-m} | h \ket とレベル n 状態 L_{-n} | h \ketm=n でない限り互いに直交することを意味する。この関係はレベル m, n の他のディセンダント状態にも当てはまる。よって、ビラソロ代数のユニタリー性はレベル N の部分ベクトル空間を用いて考えることができる。ただし、この部分ベクトル空間の次元は p(N) となる。(11.83)のリストよりレベル N 部分空間の基底は
     L^{N}_{-1}|h \ket\, , ~ L_{-1}^{N-2} L_{-2} |h \ket \, , \cdots \, , ~ L_{-1} L_{-N+1} |h \ket \, ,  ~ L_{-N}|h \ket     \tag{11.91}
で与えられることが分かる。レベル N 部分空間において内積が正であるかどうかは以下のグラム行列 M^{(N)} を用いて判定できる。
     \left(      \begin{array}{cccc}        \bra h | L_{1}^{N} L_{-1}^{N} | h \ket & \bra h | L_{1}^{N} L_{-1}^{N-2} L_{-2} |h \ket  & \cdots         &  \bra h | L_{1}^{N} L_{-N}|h \ket \\        \bra h | L_{2} L_{1}^{N-2} L_{-1}^{N} | h \ket & \bra h | L_{2} L_{1}^{N-2} L_{-1}^{N-2} L_{-2}  |h \ket  & \cdots        &  \bra h | L_{2} L_{1}^{N-2} L_{-N} |h \ket \\        \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\        \bra h | L_{N} L_{-1}^{N} | h \ket & \bra h | L_{N} L_{-1}^{N-2} L_{-2}|h \ket  & \cdots        &  \bra h | L_{N} L_{-N} |h \ket \\      \end{array}    \right)     \tag{11.92}
グラム行列 M^{(N)} はエルミート行列なのでユニタリー行列を用いて実数の固有値をもつ成分で対角化できる。よって、バーマ加群のユニタリー性を得るには任意の N > 0 について全ての固有値が正であることを要請すればよい。言い換えると、グラム行列が正定値であればビラソロ代数の表現はユニタリーである

 グラム行列 M^{(N)} の固有値の1つがゼロのとき、\det M^{(N)} = 0 となる。これは、レベル N の部分ベクトル空間が線形従属であることを意味し、レベル N ディセンダント状態の線形結合として次の関係式を満たすある特定のベクトル | \chi \ket を構成できることを示す。
    L_0 | \chi \ket = (h + N ) | \chi \ket \, , ~~~~ L_{n} | \chi \ket = 0 ~~~ ( n > 0 )    \tag{11.93}
このベクトルはレベル N特異ベクトルあるいはヌル・ベクトルと呼ばれる。このとき、つまり特異ベクトルが含まれる場合、ビラソロ代数の表現は可約となる。特異ベクトルと任意のディセンダント状態(11.84)の内積はゼロとなる。
    \bra \chi | L_{-n_1} L_{-n_2} \cdots L_{-n_r} | h \ket     = \bra h | L_{n_r} L_{n_{r-1}} \cdots L_{n_1} | \chi \ket = 0     \tag{11.94}
また、その構成から特異ベクトルのノルムはゼロとなる。
    \bra \chi | \chi \ket = 0     \tag{11.95}
よって、元々のバーマ加群で
    | \chi \ket = 0     \tag{11.96}
とおくことにより、特異ベクトルと特異ベクトルから生成されるディセンダント状態を取り除くことができる。これにより、可約なバーマ加群は既約表現を持つことになる。このような既約表現はビラソロ代数の縮退表現と呼ばれる。

 特異ベクトルは定義式(11.93)から直接求めるられる。N = 1 の場合、| \chi \ket \sim L_{-1} | h \ket であり、条件式(11.93)は
    L_n L_{-1} | h \ket = [ L_n , L_{-1} ] | h \ket = (n+1) L_{n-1} | h \ket = 0     \tag{11.97}
と書ける。最高ウェイト状態の定義(11.82)からこれは n > 1 で自明である。n= 1 の場合は 2 h | h \ket = 0 となるので、h = 0 とすると中心電荷 c の値に関係なくバーマ加群はレベル 1 の特異ベクトルをもつ。この場合、バーマ加群のユニタリー条件 h > 0 は破れる。しかし、縮退表現ではレベル 1 の特異ベクトル、つまり h=0 の場合、は問題なく除外されるのでビラソロ代数はユニタリー既約表現をもつ。

 つぎに、N = 2 の場合、特異ベクトルは | \chi \ket = ( L_{-2} + a L_{-1}^{2} ) | h \ket とパラメータ表示できる。よって、条件式(11.93)は
\begin{eqnarray}    L_n | \chi \ket &=& \left( [ L_n , L_{-2} ] + a [ L_n , L_{-1}^{2}] \right) | h \ket    \nonumber \\    &=& \Bigl[ (n+2 ) L_{n-2} + \frac{c}{12} n (n^2 -1 ) \del_{n, 2}  \nonumber \\    && ~~~~~~~~~~  + a ( n+1) ( n L_{n-2} + 2 L_{-1} L_{n-1} ) \Bigr] | h \ket    \nonumber \\    &=& 0     \tag{11.98} \end{eqnarray}
と書ける。n=1 のとき上式は ( 3 + 2 a (1 + 2 h ) ) L_{-1} | h \ket = 0 となり、
    a = \frac{-3}{2 ( 2h + 1)}     \tag{11.99}
を得る。ただし、h > 0を仮定した。n=2 場合、この条件式は ( 4 h + \frac{c}{2} + 6 a h) | h \ket = 0 となり、
    ( 4 + 6 a ) h + \frac{c}{2} = 0     \tag{11.100}
を得る。n \ge 3 の場合、(11.98)は定義式 L_{n-2} | h \ket = L_{n-1} | h \ket = 0 から自明である。(11.99), (11.100)より
    h = \frac{- (c-5) \pm \sqrt{(c-1)(c-25)}}{16}     \tag{11.101}
と解ける。共形ウェイト h は臨界指数に対応するので h \in {\bf R} とおける。さらに、表現のユニタリー性から h > 0 が必要であった。したがって、物理的に意味のあるモデルでは中心電荷 c は 0 と 1 の範囲
    0 < c \le 1     \tag{11.102}
で指定されなければならない。

 同様に、N = 3 の場合、特異ベクトルは
    | \chi \ket = ( L_{-3} + a L_{-2} L_{-1} + b L_{-1}^{3} ) | h \ket     \tag{11.103}  
とパラメータ表示できる。ここで、L_{-1} L_{-2} = L_{-3} + L_{-2} L_{-1} の関係式を用いると、レベル 3 の部分空間(11.83)の基底は \{ L_{-3}, L_{-2} L_{-1} , L_{-1}^{3} \} とおけることに注意しよう。このとき条件式(11.93)は
\begin{eqnarray}    L_n | \chi \ket &=& \left( [ L_n , L_{-3} ] + a [ L_n , L_{-2} L_{-1} ] + b [ L_n , L_{-1}^{3}] \right) | h \ket    \nonumber \\    &=& \Bigl[ (n+3 ) L_{n-3} + \frac{c}{12} n (n^2 -1 ) \del_{n, 3}  \nonumber \\     \nonumber \\    &&  ~~ + a \Bigl( (n+2)(n-1) L_{n-3} + (n+2) L_{-1}  L_{n-2}  \nonumber \\    && ~~~~~~~~~~    + (n+1) L_{-2} L_{n-1}  + \frac{c}{12} n (n^2 -1 ) \del_{n, 2} L_{-1}  \Bigr) \nonumber \\    &&  ~~ + b ( n+1) \left( n (n-1)  L_{n-3} + 3 n L_{-1} L_{n-2} + 3 L_{-1}^{2} L_{n-1} \right) \Bigr] | h \ket    \nonumber \\    &=& 0     \tag{11.104} \end{eqnarray}
と表せる。n=1 の場合、上式は
    \Bigl[ ( 4 + 2 ah )L_{-2} + ( 3a + 2b ( 3 + 3 h ) ) L_{-1}^{2}  \Bigr] | h \ket = 0     \tag{11.105}
となり、
     a = - \frac{2}{h} \, , ~~~~~  b = \frac{1}{h(h+1)}     \tag{11.106}
を得る。ただし、h > 0 とする。n=2 の場合、(11.104)は
    5 + a \left( 4 + 4 h + \frac{c}{2} \right) + 3 b ( 2 + 6h ) = 0     \tag{11.107}
と書ける。(11.106)と(11.107)から
    h = \frac{- (c-7) \pm \sqrt{(c-1)(c-25)}}{6}     \tag{11.108}
と解ける。n=3 場合、(11.104)は
    6h + 2c + 10 a h + 24 bh = 0     \tag{11.109}
となる。(11.106)を上式に代入すると、上式も(11.108)と同じ解を導く。n \ge 4 の場合は、N=2 で見たように、定義式 L_{n-3} | h \ket = L_{n-2} | h \ket = L_{n-1} | h \ket = 0 から(11.104)は自動的に満たされる。(11.108)で h が正の実数であることを課すと - \frac{1}{2} < c \le 1 となる。(11.90), (11.102)と合わせると、共形ウェイトが正の実数であるためには、(11.102)と同様に中心電荷は 0 < c \le 1 の範囲に制限される必要がある。

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