11.5 カッツ行列式とユニタリー・ミニマル模型
前回はビラソロ代数のユニタリー性の議論から特異ベクトルが存在する条件について解説した。これらの結果で重要なのは特異ベクトルが存在する場合、共形ウェイト h が中心電荷 c の関数として表される点にある。グラム行列 M(N) を用いるとレベル N の特異ベクトルは固有値ゼロの固有ベクトルに相当する。よって、この h と c の関係は detM(N)=0 を課すことでより簡単に導ける。行列式 detM(N) はカッツ行列式と呼ばれる。
N=1 の場合、関係式
⟨h|L1L−1|h⟩=2h
から detM(1)=2h となる。N=2 の場合、グラム行列は
M(2)=(⟨h|L21L2−1|h⟩⟨h|L21L−2|h⟩⟨h|L2L2−1|h⟩⟨h|L2L−2|h⟩)=(4h(1+2h)6h6h4h+c2)
と書ける。ただし、ビラソロ代数
[Lm,Ln]=(m−n)Lm+n+c12(m3−m)δm+n,0
と最高ウェイト状態の条件式
L0|h⟩=h|h⟩, Ln|h⟩=0 (n≥1)
を用いて、行列の各成分を導いた。
⟨h|L21L2−1|h⟩=2⟨h|L1(L−1+2L−1L0)|h⟩=4h(2h+1)⟨h|L21L−2|h⟩=⟨h|L1[L1,L−2]|h⟩=6h⟨h|L2L−2|h⟩=⟨h|[L2,L−2]|h⟩=4h+c2
以上より、
detM(2)=4h[8h2+(c−5)h+c2]
が分かる。よって、detM(2)=0 (detM(1)≠0) はレベル2特異ベクトルが存在する条件式
h=−(c−5)±√(c−1)(c−25)16
に帰着できる。
|M(3)|=|⟨h|L31L3−1|h⟩⟨h|L31L−1L−2|h⟩⟨h|L31L−3|h⟩⟨h|L2L1L3−1|h⟩⟨h|L2L1L−1L−2|h⟩⟨h|L2L1L−3|h⟩⟨h|L3L3−1|h⟩⟨h|L3L−1L−2|h⟩⟨h|L3L−3|h⟩|=|24h(h+1)(2h+1)36h(h+1)24h36h(h+1)2(h+2)(4h+c2)+18h4(4h+c2)24h4(4h+c2)2(3h+c)|=96h (h+1)(2h+1)9h(h+1)6h3(h+1)(h+2)(4h+c2)+9h2(4h+c2)22(4h+c2)3h+c↑−1=96h (h+1)(2h+1)9h(h+1)6h3h+1h(4h+c2+9)5h22(4h+c2)3h+c ⟵−1=96h (h+1)(2h+1)3h(3h+1)6h3h+1h(4h+c2+4)5h25h3h+c=96h2 (h+1)(2h+1)3(3h+1)6h3h+14h+c2+45h253h+c ⟶−5/2=96h2 (h+1)(2h+1)−5h2+32h+126h3h+1−72h+c2+325h203h+c=96h2 |˜M(3)|
ここで、|˜M(3)| は次のように展開できる。
|˜M(3)|=−(−5h2+32h+12) 3h+15h23h+c +(−72h+c2+32) (h+1)(2h+1)6h23h+c=24h4+(11c−71)h3+(c2−52c+51)h2 +(32c2−132c−10)h+c22+c=[3h2+(c−7)h+c+2][8h2+(c−5)h+c2]
式(11.112)-(11.114)から、レベル3カッツ行列式は
detM(3)=24h[3h2+(c−7)h+c+2]detM(2)
と表せる。これより、detM(3)=0 の解は確かにレベル3特異ベクトルが存在する条件
h=−(c−7)±√(c−1)(c−25)6
を与えることが分かる。ただし、detM(i)≠0 (i=1,2) を仮定した。
一般に、レベル N カッツ行列式は
detM(N)=αN∏r,s≥1,rs≤N(h−hr,s(c))p(N−rs)
αN=∏r,s≥1,rs≤N[(2r)ss!]p(N−rs)−p(N−r(s+1))
と定義される。また、hr,s(c) は
hr,s(c)=c−124+196[(r+s)√1−c+(r−s)√25−c]2
で与えられる。公式(11.116)は1979年にカッツ (Kac) により予想され、1982年にフェイギン (Feigin) とフックス (Fuchs) により証明された。カッツ行列のゼロ点 hr,s(c) (カッツ・スペクトルとも呼ばれる)は
hr,s(c)=[(μ+1)r−μs]2−14μ(μ+1)
とも表せる。ただし、中心電荷 c を
c=1−6μ(μ+1)
とパラメータ表示した。パラメータ μ∈C を c で明示すると
μ=−12±12√25−c1−c
となる。公式(11.116)から次の2つが分かる。
- c>1, h>0 のときカッツ行列式は正となる。
- h=hr,s, N=rs のときカッツ行列式はゼロとなる。
1つ目は c>1, h>0 の場合にビラソロ代数の表現がユニタリー表現になることを意味する。ビラソロ代数(あるいはバーマ加群)が特異ベクトルを含まないのでこれはユニタリー既約表現である。一方、2つ目の結果から、h=hr,s, N=rs が満たされるときビラソロ代数は特異ベクトルを含み、そのためビラソロ代数は縮退表現を持つことが分かる。前節の最後に議論したように、これらの縮退表現がユニタリーであるためには 0<c≤1 が必要となる。
ユニタリー・ミニマル模型
この縮退表現のユニタリー性に関して以下の定理が存在する。
中心電荷が 0<c<1 の範囲にある場合、ビラソロ代数のユニタリー表現は中心電荷 c と共形ウェイト h が次の値をもつときにのみ存在する。
c=1−6m(m+1) (m=3,4,⋯)h=hr,s=[(m+1)r−ms]2−14m(m+1)
ここで、r, s の範囲は 1≤r≤m−1, 1≤s≤m で指定される。
このユニタリー条件式(11.122), (11.123)はそれぞれ関係式(11.120), (11.119)で μ=m とおいたものに対応する。このユニタリー条件が必要条件であることは1984年に Friedan, Qiu, Shenker によって示された。さらに、これらが十分条件であることは1986年に Goddard, Kent, Olive により示された。条件式(11.122), (11.123)で特徴付けられる2次元共形場理論はユニタリー・ミニマル模型と呼ばれる。
前節(11.96)で議論したように、縮退表現は特異ベクトルのディセンダント状態をすべて取り除くことで構成される。これにより、縮退表現を系の状態数が有限な既約表現にとれる。また、そのような系では相関関数について厳密で可解な微分方程式を構成できる。よって、ユニタリー・ミニマル模型は2次元共形場理論の興味深い物理モデルを提供する。実際、中心電荷が 0<c<1 の領域において2次元臨界現象のユニバーサリティ・クラスはユニタリー・ミニマル模型により完全に分類されることが知られている。すなわち、2次元共形場理論のユニタリー・ミニマル模型は2次元臨界現象の「周期表」を与える。統計力学の研究からそのような臨界現象を記述する可解モデルが数多く存在するが、これらのモデルの臨界指数を比較することによりユニタリー・ミニマル模型と対応付けることができる。その例のいくつかを以下に挙げる。
mc2次元臨界モデル31/2イジング模型47/103重臨界イジング模型54/53状態ポッツ模型66/73重臨界3状態ポッツ模型⋮⋮⋮
一般に、任意の m についてのユニタリー・ミニマル模型は Andrews, Baxter, Forrester による RSOS (Restricted Solid-On-Solid) 模型と呼ばれる可解格子模型に一対一に対応していることが知られている。このことはRSOS模型が提唱された1984年に Huse により示された。
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