11.3 共形代数と臨界現象の普遍性
この節ではまず共形アイソメトリーの代数、つまり共形代数を導出する。この代数は10.2節で導いたアイソメトリーに対するポアンカレ代数の自然な拡張と見做せる。ポアンカレ代数
\[\begin{eqnarray} \left[ P_\mu , P_\nu \right] &=& 0 \nonumber \\ \left[ M_{\mu \nu} , P_{\al} \right] &=& i \left( \eta_{\mu\al} P_{\nu} - \eta_{\nu\al} P_{\mu} \right) \tag{10.29}\\ \left[ M_{\mu \nu} , M_{\al\bt} \right] &=& i ( \eta_{\mu\al} M_{\nu\bt} - \eta_{\nu\al} M_{\mu\bt} - \eta_{\mu\bt} M_{\nu\al} + \eta_{\nu\bt} M_{\mu\al} ) \nonumber \end{eqnarray}\]
との類推から、共形対称性の代数は11.1節で導いた共形変換
\[ \xi_\mu \, = \, \left\{ \begin{array}{ll} a_\mu + \om_{\mu \al} \, x^\al & \mbox{: ポアンカレ変換} \\ \ep \, x_\mu & \mbox{: スケール変換} \\ b^\al ( x^2 \eta_{\mu \al} - 2 x_\mu x_\al ) & \mbox{: 特殊共形変換} \end{array} \right. \tag{11.6} \]
の生成子を用いて構成できる。一般に、場の演算子の変換の生成子 ${\cal O}$ は
\[\begin{eqnarray} \phi (x) ~ \longrightarrow ~ \phi (x + \xi ) & = & \phi (x) + \xi^\mu \frac{\d \phi}{\d x^\mu} \nonumber \\ & \equiv & \phi (x) + i \O \cdot \phi \tag{10.27} \end{eqnarray}\]
で定義された。よって、共形変換の生成子は演算子
\[\begin{eqnarray} \O &=& a^\mu \left( - i \frac{\d}{\d x^\mu} \right) + \om^{\mu\nu} x_\nu \left( - i \frac{\d}{\d x^\mu} \right) \nonumber \\ && + \,\ep \, x^\mu \left( - i \frac{\d}{\d x^\mu} \right) + \, b_\al \left( x^2 \eta^{\mu \al} - 2 x^\mu x^\al \right) \left( - i \frac{\d}{\d x^\mu} \right) \nonumber \\ & \equiv & a^\mu P_\mu - \frac{\om^{\mu\nu}}{2} M_{\mu\nu} + \ep \, D - b^\mu K_\mu \tag{11.42} \end{eqnarray}\]
から読み取れる。これより、共形変換の生成子は
\[ \begin{array}{ll} P_\mu = - i \d_\mu & \mbox{: 並進変換} \\ M_{\mu \nu} = x_\mu P_\nu - x_\nu P_\mu & \mbox{: 回転変換} \\ D = - i x^\mu \d_\mu & \mbox{: スケール変換} \\ K_\mu = - i ( 2 x_\mu x^\nu \d_\nu - x^2 \d_\mu ) & \mbox{: 特殊共形変換} \end{array} \tag{11.43} \]
で与えられることが分かる。したがって、共形代数はポアンカレ代数(10.29)と以下の交換関係の組み合わせで構成される。
\[\begin{eqnarray} \left[ D , P_\mu \right] &=& i P_\mu \, , ~~~~ \left[ D , M_{\mu\nu} \right] \, = \, 0 \nonumber \\ \left[ D , K_\mu \right] &=& - i K_\mu \, , ~~~~ \left[ K_{\mu} , K_{\nu} \right] \, = \, 0 \nonumber \\ \left[ K_\mu , P_\nu \right] &=& i2 ( \eta_{\mu\nu} D + M_{\mu\nu} ) \nonumber \\ \left[ M_{\mu\nu} , K_\al \right] &=& i ( \eta_{\mu \al} K_\nu - \eta_{\nu \al} K_\mu ) \tag{11.44} \end{eqnarray}\]
共形代数は任意の次元 $d$ で成り立つ。$d$ 次元の共形代数は $(d+2)$ 次元ローレンツ代数、あるいは $SO(1, d+1)$ 代数と見做せる。これは次のように理解できる。
まず、$A, B$ を複合添え字として $A, B = 0, 1,2, \cdots, d-1 , d ,d+1$ とおく。一方、$d$ 次元の添え字はこれまで同様、$\mu ,\nu = 0, 1, 2 ,\cdots d-1$ とする。生成子の集合 $( P_\mu , M_{\mu \nu} , D , K_\mu )$ を表す複合生成子 $J_{AB}$ を
\[\begin{eqnarray} J_{AB} &=& - J_{BA} \tag{11.45} \\ J_{\mu \nu} &=& M_{\mu \nu} \tag{11.46} \\ J_{\mu d} &=& \frac{ P_\mu + K_\mu}{2} \tag{11.47} \\ J_{\mu \, d+1} &=& \frac{P_\mu - K_\mu }{2} \tag{11.48} \\ J_{d \, d+1} &=& D \tag{11.49} \end{eqnarray}\]
と定義する。このとき、共形代数(10.29), (11.44)を用いると複合生成子は交換関係
\[ [ J_{AB} , J_{CD} ] = i \left( \eta_{AC} J_{BD} - \eta_{BC} J_{AD} - \eta_{AD} J_{BC} + \eta_{BD} J_{AC} \right) \tag{11.50} \]
を満たすことが確認できる。ただし、ミンコフスキー符号は $\eta_{AB} = (+ -- \cdots - )$ とした。これらの交換関係は $SO(1, d+ 1) $ 代数を成す。言い換えると、$J_{AB}$ は $SO(1, d+1)$ 対称性変換の生成子である。よって、d 次元共形代数は SO(1, d+1) 代数で与えられることが分かる。
$SO(1, d+ 1) $ 代数の生成子の数は $\frac{1}{2} (d+2)(d+1)$ である。一方、$d$ 次元の共形代数には並進変換が $d$ 個、回転変換が $\frac{1}{2} d(d-1)$ 個、スケール変換が1つ、特殊共形変換が $d$ 個ある。よって、生成子の数の合計は確かに
\[ d + \frac{d(d-1)}{2} + 1 + d = \frac{(d+2)(d+1)}{2} \tag{11.51} \]
となる。
臨界点と共形対称性
統計力学において臨界点での2次相転移は長距離の相関関係で特徴付けられる。質量ゼロ・スカラー粒子の $d$ 次元自由理論を考える。この理論の2点相関関数は長距離極限 $| x - y | \rightarrow \infty$ で
\[ \bra \phi (x) \phi (y) \ket \, \sim \, \frac{1}{|x-y|^{d-2+\eta} } \tag{11.52} \]
と表せる。ここで、$\eta$ は臨界指数と呼ばれる。この長距離相関は物質の局所的な構造とは無関係であり、大域的な幾何学に関係する。平坦なミンコフスキー空間において質量ゼロの点粒子の(大域的な)対称性は共形アイソメトリーで与えられる。よって、2次転移(あるいは臨界点)の物理は共形不変な理論で記述されると考えられる。
臨界指数 $\eta$ は普遍的な量である。すなわち、その値は物質の詳細に依らない。これは臨界現象の普遍性(ユニバーサリティ)として知られている。別の臨界指数として $\nu$ があり、これは関係式
\[\begin{eqnarray} \bra \phi (x) \phi (y) \ket & \sim & e^{ - \frac{|x-y|}{\xi} } \tag{11.53} \\ \xi & \sim & ( T - T_c )^{-\nu} \tag{11.54} \end{eqnarray}\]
で定義される。ただし、$T_c$ は臨界温度であり、$\xi$ は相関長 (correlation length) と呼ばれる。臨界現象はこれらの臨界指数で特徴付けられる。上の考察から、これらの指数の理論的な基礎づけは共形アイソメトリーよって与えられると推測できる。言い換えると、臨界点のタイプは共形変換(と何かしら追加の演算)の表現によって分類されると考えられる。
臨界点についてのこの理論的な枠組みは2次元では厳密に適用され、1980年代には2次元の臨界点は2次元共形理論によりすべて分類された。最近の研究によるとこの枠組みは3次元にも適用される。特に、2010年代に共形ブートストラップと呼ばれる計算手法が開発され、共形理論による3次元イジング模型の臨界点についての研究、分類が発展した。この分野について詳しくは以前紹介した教科書
を参考にされたい。
0 件のコメント:
コメントを投稿