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2024-12-23

13. ウィグナーの D 関数とその応用 vol.3

13.2 ウィグナー-エッカルトの定理


リー群 G で対称性が記述される物理系において、あるテンソル演算子 QA に注目しよう。前節で解説したように状態は G の表現 R とその表現に属す特定のベクトル、例えば α で指定できる。対称性のもとで状態 |R,α の変換は群の要素 U(θ)G を作用させることにより実行できる。ただし、θ は群のパラメータを表す。今節では、任意の階数をもつテンソル演算子 QA の行列要素を考える。一般にそのような行列要素は
R,α|QA|R,m=R,α|UU1QAUU1|R,m
と表せる。対称性のもとで QA の変換は QA=U1QAU で与えられる。状態 U1|R,m は同じ表現に属する状態の線形結合で表せることに注意する。定義より、これはウィグナー D 関数を用いて
U1|R,m=nD(R)mn(g)|R,n
と展開できる。

 簡単な例として、回転のもとでの位置演算子 xa (a=1,2,3) を考えよう。対応する群は G=SO(3) であり、群の要素は U(θ)=exp(iLaθa) で与えられる。ただし、La=ϵabcxbpc は角運動量演算子である。2.1節で解説したように、Laxb は交換関係
[La,xb]=iϵabcxc
を満たす。これは、位置演算子 xa が回転のもとでベクトルとして変換することを示す。実際、微小な θa において xa は
U1(θ)xaU(θ)(1iLbθb)xa(1+iLcθc)xai[Lb,xa]θb=xa+ϵbacxcθb=(δab+i(iϵabc)θc)xb=(1+iTcθc)abxb
と変換する。ただし、(Tc)ab=iϵabc である。よって、xa=U1xaU は
xa=Dab(g)xb
と表せる。ここで、Dab(g) は随伴表現に属す SO(3) 群の要素である。
Dab(g)=exp[i(Tc)abθc]
これは 3×3 行列で表せる SO(3) 群のスピン1表現でもある。

 極座標を用いると座標 xa は
(x1,x2,x3)=(rsinϑcosφ,rsinϑsinφ,rcosφ)
と書ける。位置演算子の球面基底 (spherical basis)
x±=12(x1ix2),  x3
で与えられる。これらは球面調和関数 Yml(ϑ,φ)l=1 を固定し m=0,±1 としたものに比例する。回転のもとで動径距離 r は不変なので、変換(13.62)は
xm=rYm1(ϑ,φ)xm=rDmm(g)Ym1(ϑ,φ)
と表せる。ただし、Dmm(g)SO(3) 随伴表現の行列要素である。これは SO(3) スピン1表現のウィグナー D 関数
Dmm(g)=D(l=1)mm(g)
と同じである。

 同様に、階数2の対称テンソル
Tab=xaxb13δabx2
も球面調和関数 Yml(ϑ,φ)l=2 と固定し、m=0,±1,±2 とおいたものに比例する。回転のもとで Tm=r2Ym2(ϑ,φ) の変換は
Tm=r2Ym2(ϑ,φ)Tm=r2D(l=2)mm(g)Ym2(ϑ,φ)
と表せる。ただし、D(l=2)mm(g)SO(3) スピン2表現のウィグナー D 関数である。

 これらの例から、対称性のもとでテンソル QA は群 G の表現 R として変換することが分かる。具体的には、リー群 G のユニタリー既約表現を R とすると、R に属すテンソル演算子 QA の変換は
U1(θ)QAU(θ)=D(R)AB(g)QB
と表せる。ただし、D(R)AB(g) は群 G の表現 R に属すウィグナー D 関数である。

 ここで、冒頭(13.58)の行列要素 R,α|QA|R,m に戻り、これをウィグナー D 関数で表すことを考えよう。すでに(13.59)で状態 U1|R,m はウィグナー D 関数で展開できることを見た。この複素共役は
R,α|U(θ)=βR,β|D(R)αβ(g)
と表せる。 式(13.59), (13.70), (13.71)から行列要素(13.58)は
R,α|QA|R,m=β,nD(R)αβ(g)D(R)AB(g)D(R)mn(g)R,β|QB|R,n
と書ける。ただし、テンソル演算子 QA は表現 R に属し、これは必ずしも R あるいは R に一致しないことに注意する。関係式(13.72)は全ての θ つまり任意の群の要素について成り立つので、
R,α|QA|R,m=dV(g)β,nD(R)αβ(g)D(R)AB(g)D(R)mn(g)(G の体積)R,β|QB|R,n
と書き換えることができる。ここで、 D(R)AB(g)D(R)mn(g) の因子は
D(R)AB(g)D(R)mn(g)=R,A|ˆg|R,BR,m|ˆg|R,n=˜R,λ,σCRR˜RAmσCRR˜RBnλ˜R,σ|ˆg|˜R,λ=˜R,λ,σCRR˜RAmσCRR˜RBnλD(˜R)σλ(g)
と計算できる。ただし、CRR˜RBnλCRR˜RAmσ はクレブシュ-ゴルダン係数であり、2状態の合成に関するクレブシュ-ゴルダンの定理(13.5)から次のように定義される。
|R,B|R,n=˜R,λCRR˜RBnλ|˜R,λR,A|R,m|=˜R,σCRR˜RAmσ˜R,σ|
CRR˜RAmσ=(CRR˜RAmσ)=CRR˜RAmσ は係数 CRR˜RAmσ の共役表現である。また、式(13.74)内の群の要素 ˆg は同じ表現 ˜R に属し、これらの合成も定義から同じ表現に属す。

 前節で導いたウィグナー D 関数の大直交性定理
dV(g) D(R)αβ(g)D(R)mn(g)=1(dimR)δαmδβnδRR
を関係式(13.73)に適用すると、テンソル演算子 QA の行列要素は
R,α|QA|R,m=β,n˜R,λ,σCRR˜RAmσCRR˜RBnλδασδβλδR˜R(dimR)(G の体積)R,β|QB|R,n=CRRRAmα[β,nCRRRBnβR,β|QB|R,n(dimR)(G の体積)]CRRRAmαR||QR||R
と変形できることが分かる。ここで、R||QR||R還元行列要素と呼ばれる。この還元行列要素
R||QR||R=β,nCRRRBnβR,β|QB|R,n(dimR)(G の体積)
は始状態のベクトル α, m とは独立に決まることに注意しよう。(13.77)の結果はウィグナー-エッカルトの定理として知られている。この定理は物理の問題で有用である。例えば、状態間の遷移の選択則はクレブシュ-ゴルダン係数 CRRRAmα の有無によって体系的に決定できる。前節で示したように、クレブシュ-ゴルダン係数は対称性を記述する群 G の性質から完全に決まる。状態間の遷移に関するその他の詳細は還元行列要素から導かれる。次節ではウィグナー-エッカルトの定理の物理問題への応用例をいくつか紹介する。

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