4.3 ハイゼンベルク代数と分数スピン
[ˆx(α)i,ˆx(β)j]=0[ˆx(α)i,ˆp(β)j]=iδijδαβ[ˆp(α)i,ˆp(β)j]=0
で表せる。ただし、α,β=1,2,⋯,Nであり、i,jは空間座標の添え字を示す。1.2節で言及したように、この代数に関してストーン-フォン・ノイマンの定理がある。この定理によると、ハイゼンベルク代数の表現はNが有限かつ(x,p)で定義されたすべての相空間が単連結であるならば(ユニタリー等価を除いて)唯一の表現をもつ。ここで、Nが有限であることと相空間が単連結であるという2つの前提条件が重要となる。例えば、もしNが有限でないと互いに区別できる代数の表現が存在可能であり、それらは異なる相に対応すると考えられる。よって、N→∞の極限では相転移が起こる。(この極限はしばしば熱力学極限と言及される。)これは超伝導のBCS理論で起きていることであり、この場合については別の章で取り上げる。(詳しくはBCS理論の基底状態を議論した6.3節を参照のこと。)
一方、定義空間に穴が開いていると単連結の前提が崩れる。これは、以下に示すように、分数量子ホール効果の正孔励起状態の場合に起きる。
まず、座標xの空間が単連結であるならば、代数(4.31)は唯一の表現しか持たないとはどういうことかを見ていく。xはそれ自身と可換なのでx-演算子がすべて同時に対角化される表現を求めることができる。当然ながら、これは量子力学の標準的な表現
ˆxi→xi, ˆpi→−i∂∂xi
を導く。これは代数(4.31)に従うシュレーディンガー表現である。代数(4.31)の別の解は
ˆxi→xi, ˆpi→−i∂∂xi+ai(x)
で与えられる。ただし、ai(x)は[ˆpi,ˆpj]=0を満たさなければならない。つまり、
[−i∂∂xi+ai(x),−i∂∂xj+aj(x)]=−i(∂aj∂xi−∂ai∂xj)=0
となる。もしxiが単連結空間で定義されているなら、aiは
ai=∂iΛ
とパラメータ表示できる。ただし、Λはxiの任意関数である。このとき、表現(4.33)は
ˆxi=U−1xiU, ˆpi=U−1(−i∂∂xi)UU=exp(iΛ)
と表せる。したがって、表現(4.33)はユニタリー変換のもとでシュレーディンガー表現(4.32)と同等である。この意味で、ハイゼンベルク代数は唯一のユニタリー表現をもつ。言い換えると、xiが単連結空間である場合、ハイゼンベルク代数はユニタリー等価を除いて唯一の(ユニークな)表現をもつ。
もし定義空間が単連結でなければ、つまり、もし定義空間が非可縮なループをもつなら、条件式(4.34)は(4.35)以外の非自明な解をもつ。より正確に述べると、「∂iaj−∂jai=0は空間が非可縮なループをもつ場合に限り非自明な解をもつ」ことを示せる。例えば、前節のように複素座標を導入して、
az=ic1z−w, aˉz=−ic1ˉz−ˉw
と選ぶ。ただし、cは定数である。前節で導出した通り、これは分数量子ホール効果の有効理論において正孔が従う運動方程式の解
aˉz=−i2k1ˉz−ˉw, az=i2k1z−w
に対応する。ただし、c=12k=12(2p+1) (p=1,2,⋯) と置ける。関係式
∂z1ˉz−ˉw=πδ(2)(x−w), ∂ˉz1ˉz−ˉw=πδ(2)(x−w)
を用いると、R2−{w}で定義される空間上で∂zaˉz−∂ˉzaz=0が成り立つことが分かる。この空間は分数量子ホール効果の1-正孔ダイナミクスの配位空間に対応する。2次元空間から点w除外されるが、これはこの点に他の粒子が接近できないという意味である。例えば、任意の電子の位置ziがwに等しい場合には対応する波動関数はゼロとなる。解(4.38)は
az=∂zΛ, aˉz=∂ˉzΛΛ(z,w)=ic[log(z−w)−log(ˉz−ˉw)]
と書き換えられる。変換(4.36)と同様に、ユニタリー変換を施された演算子ˆxi=U−1xiU, ˆpi=U−1(−i∂/∂xi)Uを定義してみよう。ここで、Uは
U(z,w)=eiΛ(z,w)
と置ける。しかし、ここで重要なのはU(z,w)は定義空間上で一価関数でないことである。下図に示したように点wのまわりの曲線Cに沿った軌跡を考える。
複素曲線Cに沿ったユニタリー変換Uを考える |
(4.39)の因子log(z−w)は2πiだけシフトするので、曲線を一周するとU→e−4πicUと変換する。言い換えると、
U(e2πiz,e2πiw)=e−4πicU(z,w)
となる。これは、c=n2 (n∈Z) でない限り、Uは一価関数とならないことを意味する。分数量子ホール効果の正孔ダイナミクスの場合、 c=12(2p+1)となるのでこの条件は一般に満たされない。例外は、p=0のときであり、これは整数量子ホール効果に対応する。
いま考えている空間上で∂iaj−∂jai=0が成り立つことを示した。よって、Uの位相変化は曲線Cの連続的な変形によって変わらない。これはトポロジカル不変量である。ここで、もし空間が単連結であるとすると、微小変形を繰り返すことで曲線を一点に収縮させることができる。このとき、Uに変化がないことは明らかである。よって、単連結空間において許容されるUは一価関数でなければならない。一方、単連結性がなければ、Uは一価関数である必要はない。ここに矛盾はない。ただし、多価関数のUはユニタリー変換として利用することはできない。というのも、Uは定義空間の各点において唯一つの(ユニークな)値をもつ関数でなければならないからである。つまり、Uは一価関数でなければならない。
まとめると、定義空間が単連結の場合、ハイゼンベルク代数は(ユニタリー等価を除いて)唯一の表現をもち、その表現はシュレーディンガー表現で与えられる。分数量子ホール効果の正孔ダイナミクスにおいては、定義空間は非単連結となり、前節の正準運動量
pi=m˙xi+ai≡−i∂∂xi
で与えられる表現はシュレーディンガー表現とユニタリー等価とならない。
2正孔の動力学
−ikπ(∂zaˉz−∂ˉzaz)+j0=0
に従う。ここで、j0は
j0=δ(2)(x−w)
である。2正孔系の場合、j0は
j0=δ(2)(x−w1)+δ(2)(x−w2)
で与えられる。式(4.42)はaz, aˉzについて線形なので、この場合の解は
aˉz=−i2k(1ˉz−ˉw1+1ˉz−ˉw2)az=i2k(1z−w1+1z−w2)
で与えられる。位置w1とw2にある2つの正孔の動力学は作用
S=∫dt[m2˙ˉw1˙w1+m2˙ˉw2˙w2+aw1˙w1+aˉw1˙ˉw1+aw2˙w2+aˉw2˙ˉw2]
で表せる。ただし、2つの極での特異点を除いている。つまり、
aw1=i2k1w1−w2, aw2=i2k1w2−w1aˉw1=−i2k1ˉw1−ˉw2, aˉw2=−i2k1ˉw2−ˉw1
と置いた。この特異点はクーロン自己相互作用のようなものとして解釈できるので、これらの特異点を除くのは物理的に妥当である。1-正孔ダイナミクスの場合、正孔の運動量演算子は
m˙z=2i(∂ˉz−iaˉz)m˙ˉz=2i(∂z−iaz)
と書けた。複素座標への変換で関係式
z=x1+ix2, ˉz=x1−ix2∂z=12(∂1−i∂2) ∂ˉz=12(∂1+i∂2)az=12(a1−ia2), aˉz=12(a1+ia2)
を用いたので、(4.30)に因子2が現れることに注意しよう。2-正孔の場合も同様に、
m˙w1=2i(∂∂ˉw1−iaˉw1)≡2i¯D1m˙ˉw1=2i(∂∂w1−iaw1)≡2iD1
と表せる。ここで、¯D1, D1は
¯D1=∂∂ˉw1−∂∂ˉw1[12klog(ˉw1−ˉw2)−12klog(w1−w2)]D1=∂∂w1−∂∂w1[12klog(ˉw1−ˉw2)−12klog(w1−w2)]
と書ける。同様に、もう1つの正孔に対して
¯D2=∂∂ˉw2−∂∂ˉw2[12klog(ˉw2−ˉw1)−12klog(w2−w1)]D2=∂∂w2−∂∂w2[12klog(ˉw2−ˉw1)−12klog(w2−w1)]
が成り立つ。
2-正孔系のハミルトニアンは
H=m2˙ˉw1˙w1+m2˙ˉw2˙w2
で与えられる。¯Di, Di (i=1,2) で表すと、これは
H=−2m(D1¯D1+D2¯D2)≡HD1+HD2
と書ける。ただし、運動量演算子(4.49), (4.50)に因子2があるのでハミルトニアンの係数が変化することに注意しよう。
つぎに、HD1に関するシュレーディンガー方程式を考える。波動関数をΨ=eFΦの形で試行すると、Ψへの微分演算子¯D1の作用は
¯D1Ψ=(∂∂ˉw1−∂∂ˉw1[12klog(ˉw1−ˉw2)−12klog(w1−w2)])eFΦ=eF(∂∂ˉw1Φ+∂F∂ˉw1Φ −∂∂ˉw1[12klog(ˉw1−ˉw2)−12klog(w1−w2)]Φ)
と表せる。これより、Fを
F(w1,w2)=12k[log(ˉw1−ˉw2)−log(w1−w2)]
と同定すると、シュレーディンガー方程式HD1Ψ=E1ΨはH∂1Φ=E1Φと簡素化される。ただし、H∂1は通常の自由粒子のハミルトニアン
H∂1=−2m∂∂w1∂∂ˉw1
であり、Φは正孔のシュレーディンガー波動関数を表す。HD2からも同様の寄与があるので、2-正孔系の波動関数Ψは
Ψ(w1,w2)=exp(12k[log(ˉw1−ˉw2)−log(w1−w2)]) Φ
と表せる。
正孔の位置の入れ替えは2点をラジアン単位でπだけ回転させて、元の位置w1, w2に並進移動させればよい。図示すると次のようになる。
並進移動は波動関数Ψの形に影響を与えないことに注意する。また、Φの構成からΦはw1とw2の関数の変数分離形で表せるのでΦ(w1,w2)=Φ(w2,w1)となる。よって、π-回転のもとで波動関数Ψ(w1,w2)は
Ψ(w2,w1)=exp(12k(−iπ−iπ)) Ψ(w1,w2)=exp(−iπk) Ψ(w1,w2)
と変換する。ただし、前述の通り、分数量子ホール効果の場合、k=2p+1 (p=1,2,⋯) となる。整数量子ホール効果の場合は、p=0となり、k=1に対応する。このとき、関係式(4.61)は正孔がスピン12のフェルミ粒子である事実と矛盾しない。しかしながら、k>1の場合は分数量子ホール効果の正孔が「分数統計」に従うことを示している。
2次元空間では、粒子が分数の値のスピンをもつことが可能である。通常の量子化ではスピンが整数か半奇数の値をとるが、その理由は角運動量演算子が可換でないことと量子化に当たり角運動量の成す代数のユニタリー表現が必要になることである。2次元空間では1回転しかないので、演算子の非可換性の問題は生じない。よって、スピンが分数の値をとることが可能となる。これは、ローレンツ不変な理論にも当てはまる。この場合、回転生成子とローレンツ変換の2つの生成子は交換しない。これは、ローレンツ群(及び並進移動を含めたポアンカレ群)が非コンパクトな性質をもつためであり、その帰着として分数スピンをもつユニタリー表現が許される。
2次元空間におけるスピン統計の関係性も知られており、それによると上で示した結果は、分数量子ホール効果の正孔は分数スピンをもつこと、つまり正孔は「エニオン」であることを意味する。これらの結果は、ハイゼンベルク代数がシュレーディンガー表現とは異なる表現をもつことの帰結とみなせるが、そのような表現が生じる理由はそもそも定義空間が非単連結な性質をもつことであった。
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