6.3 BCS基底状態
前節に引き続きBCS理論のハミルトニアン
H=∑k2ϵkβ2k−V0∑kk′αk′βk′αkβk+∑k[−ϵk(α2k−β2k)+2V0∑k′αk′βk′αkβk](Nk+˜Nk)+⋯
を考える。ただし、省略した項はボゴリューボフ変換
Ak=αkc−k−βkb†kB−k=αkbk+βkc†−kA†k=αkc†−k−βkbkB†−k=αkb†k+βkc−k
で定義した新しい生成・消滅演算子について4次のオーダーの項を表す。変数αk,βkは
αk=sinθk,βk=cosθk
で与えられ、数演算子Nk,˜Nkは
Nk=A†kAk,˜Nk=B†−kB−k
で定義される。以下では、ハミルトニアン(6.61)をさらに変形してしていく。前節でギャップ方程式を導出した(6.58)-(6.60)と同じ近似を用いると、
∑k2ϵkβ2k−V0∑kk′αk′βk′αkβk=∑k(2ϵkcos2θk−Δ2sin2θk)=∫dϵ G(ϵ) [ϵ−ϵ2√ϵ2+Δ2−12Δ2√ϵ2+Δ2]=−G0[12ϵ√ϵ2+Δ2]ωD−ωD=−G0ωD√ω2D+Δ2
と表せる。ただし、
sin2θk=Δ√ϵ2k+Δ2,cos2θk=−ϵk√ϵ2k+Δ2
Δ=V0∑k′αk′βk′
を用いた。また、
−ϵk(α2k−β2k)+2V0∑k′αk′βk′αkβk=√ϵ2k+Δ2
と書ける。よって、ハミルトニアン(6.61)は
H = −G0ωD√ω2D+Δ2 + ∑k√ϵ2k+Δ2 (Nk+˜Nk) +⋯
と表せる。4次の項を無視する近似で、基底状態|G⟩は
Ak |G⟩=B−k |G⟩=0
と定義できる。よって、基底状態|G⟩のエネルギーは
EΔ=−G0ωD√ω2D+Δ2
と求まる。これをΔ=0でのエネルギーと比較すると、その差分は
EΔ−EΔ=0=−G0ωD[√ω2D+Δ2−ωD]≈−12G0Δ2
となる。よって、確かにギャップ方程式の非自明な解のほうが(自明な解Δ=0に比べて)基底エネルギーを極小化する点から好ましい。
また、(6.64)から理論のエネルギー・スペクトルはエネルギー量子√ϵ2k+Δ2で構成されることが分かる。Δ=0となる通常の相では、エネルギー固有値は任意の微小量をとる。つまり、フェルミエネルギー近傍に自由に近づくことができる。しかし、Δがゼロでなければ、1粒子エネルギーはΔに等しいエネルギーギャップをもつ。(これが前節の式(6.58)がギャップ方程式と呼ばれる所以である。)
ギャップΔについての関係式
Δ = ωD 1sinh(1/V0G0) ≈ 2 ωD exp(−1V0G0)
とエネルギー増加の関係式(6.67)は超伝導における「同位体効果」を示している。デバイ振動数は原子核の質量とM−12nucの関係で比例している。これは、超伝導物質が同じ化学組成ではあるが異なる同位体を原子核に持つ場合、電子のエネルギーギャップがわずかながら変化することを意味する。この同位体効果は転移温度にも同様に適用される。
基底状態|G⟩をより明示的に決定することもできる。まず、|0⟩を bk|0⟩=c−k|0⟩=0 に従う通常の基底状態とする。AkとB−kはフェルミオン演算子なので、A2k=B2−k=0 となる。もし|0⟩が bk|0⟩=c−k|0⟩=0 に従う通常の基底状態であるなら、(6.65)の解は
|G⟩∼∏kfkB−kAk|0⟩∼−∏kfk(αkβk+β2kc†−kb†k)|0⟩
で与えられる。因子fkは規格化条件 ⟨G|G⟩=1 から決まる。これより、fk=1/βkとなるので、規格化状態は
|G⟩=∏k(αk+βkc†−kb†k)|0⟩
で与えられる。
この新しい基底状態|G⟩と標準的な通常の基底状態|0⟩の内積を計算すると、
⟨0|G⟩=∏kαk=∏ksinθk
を得る。sinθk≤1 なので、状態の重なり合いは非常に小さい。物理系のモード数が無限の場合、重なり合いは実際にはゼロになる。有限個のb†kとc†−kが|0⟩に作用した通常の多粒子状態と有限個のA†ksとB†−kが|G⟩に作用した新しい多粒子状態との重なり合い(内積)を考えることもできる。交換関係を用いて内積を変形すると、各状態に応じた因子と⟨0|G⟩の因子の積となる。これは系のモード数が無限である極限でゼロとなる。例えば、状態A†k|G⟩を考えると、|0⟩との重ね合わせは
⟨0|A†k|G⟩=⟨0|αkc−k−βkb†k|G⟩=αk∏l⟨0|c−k(αl+βlc†−lb†l)|0⟩=(∏l≠kαl) αk ⟨0|c−kc†−kb†k|0⟩=0
となる。ただし、⟨0|b†k=0 を用いた。これは系のモード数Nに関わりなくゼロとなるが、Nに依存する例として、2粒子状態 |1k1−k⟩=c†−kb†k|0⟩ と |G⟩ の重ね合わせを考えると、この内積は
⟨1k1−k|G⟩=∏l⟨0|bkc−k(αl+βlc†−lb†l)|0⟩=(∏l≠kαl)βk→0(N→∞)
と計算できる。
以上より、|0⟩に有限個のb†k,c†−kを作用させて構成されたヒルベルト空間と|G⟩に有限個のA†k, B†−kを作用させて構成されたヒルベルト空間はN→∞の極限で互いに素であり、重なり合いを持たない。特に、新しい基底状態はこの極限で通常の状態へユニタリー変換で連結できない。よって、|G⟩は形式的には演算子 U=∏k(αk+βkc†−kb†k) を|0⟩に作用させることで得られるが、Uはユニタリーではない。なぜなら、|G⟩はフォック空間の基底状態|0⟩上で構成されるどのような状態とも重ね合わせを持たないためである。つまり、これら2つの状態は互いにユニタリー変換で関係付けられない。
2つの演算子集合{bk,b†k,c−k,c†−k} と {Ak,A†k,B−k,B†−k} は同じ反交換関係の代数に従うが、互いに交わらないヒルベルト空間を生成するので、対応する2つの基底状態|0⟩, |G⟩を選ぶことは反交換関係の異なる2つの既約表現を選ぶことであると分かる。
[ˆx(α)i,ˆx(β)j]=0[ˆx(α)i,ˆp(β)j]=iδijδαβ[ˆp(α)i,ˆp(β)j]=0
で表せる。ただし、α,β=1,2,⋯,Nであり、i,jは空間座標の添え字を表す。ストーン-フォン・ノイマンの定理によると、このハイゼンベルク対数は (a) Nが有限であるか (b) 定義空間が単連結であれば、ユニタリー既約表現を唯一つだけもつ。分数量子ホール効果を扱った第4章では、(b) の前提条件が崩れる際に、ストーン-フォン・ノイマン定理で保証されるユニタリー既約表現の唯一性がどのように回避されるのかを考察した。
今の場合、考えている代数はハイゼンベルク代数ではなく、反交換関係のN次元フェルミオン代数である。しかしながら、BCS理論の基底状態に関するこれまでの解析は、モード数が無限になる場合に正準交換関係の代数が異なる表現を持ちうることを明らかに示している。ボソンの代数(つまり、ハイゼンベルク代数)の場合にストーン-フォン・ノイマン定理の前提条件 (a) が崩れるより具体的な例は自発的な対称性の破れで与えられる。これについては第14章で議論する。
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