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2024-03-07

6. 超伝導とBCS理論 vol.4

6.3 BCS基底状態


前節に引き続きBCS理論のハミルトニアン
H=k2ϵkβ2kV0kkαkβkαkβk+k[ϵk(α2kβ2k)+2V0kαkβkαkβk](Nk+˜Nk)+
を考える。ただし、省略した項はボゴリューボフ変換
Ak=αkckβkbkBk=αkbk+βkckAk=αkckβkbkBk=αkbk+βkck
で定義した新しい生成・消滅演算子について4次のオーダーの項を表す。変数αk,βk
αk=sinθk,βk=cosθk
で与えられ、数演算子Nk,˜Nk
Nk=AkAk,˜Nk=BkBk
で定義される。以下では、ハミルトニアン(6.61)をさらに変形してしていく。前節でギャップ方程式を導出した(6.58)-(6.60)と同じ近似を用いると、
k2ϵkβ2kV0kkαkβkαkβk=k(2ϵkcos2θkΔ2sin2θk)=dϵ G(ϵ) [ϵϵ2ϵ2+Δ212Δ2ϵ2+Δ2]=G0[12ϵϵ2+Δ2]ωDωD=G0ωDω2D+Δ2
と表せる。ただし、
sin2θk=Δϵ2k+Δ2,cos2θk=ϵkϵ2k+Δ2
Δ=V0kαkβk
を用いた。また、
ϵk(α2kβ2k)+2V0kαkβkαkβk=ϵ2k+Δ2
と書ける。よって、ハミルトニアン(6.61)は
H = G0ωDω2D+Δ2 + kϵ2k+Δ2 (Nk+˜Nk) +
と表せる。4次の項を無視する近似で、基底状態|G
Ak |G=Bk |G=0
と定義できる。よって、基底状態|Gのエネルギーは
EΔ=G0ωDω2D+Δ2
と求まる。これをΔ=0でのエネルギーと比較すると、その差分は
EΔEΔ=0=G0ωD[ω2D+Δ2ωD]12G0Δ2
となる。よって、確かにギャップ方程式の非自明な解のほうが(自明な解Δ=0に比べて)基底エネルギーを極小化する点から好ましい。

 また、(6.64)から理論のエネルギー・スペクトルはエネルギー量子ϵ2k+Δ2で構成されることが分かる。Δ=0となる通常の相では、エネルギー固有値は任意の微小量をとる。つまり、フェルミエネルギー近傍に自由に近づくことができる。しかし、Δがゼロでなければ、1粒子エネルギーはΔに等しいエネルギーギャップをもつ。(これが前節の式(6.58)がギャップ方程式と呼ばれる所以である。)

ギャップΔについての関係式
Δ = ωD 1sinh(1/V0G0)  2 ωD exp(1V0G0)
とエネルギー増加の関係式(6.67)は超伝導における「同位体効果」を示している。デバイ振動数は原子核の質量とM12nucの関係で比例している。これは、超伝導物質が同じ化学組成ではあるが異なる同位体を原子核に持つ場合、電子のエネルギーギャップがわずかながら変化することを意味する。この同位体効果は転移温度にも同様に適用される。

 基底状態|Gをより明示的に決定することもできる。まず、|0bk|0=ck|0=0 に従う通常の基底状態とする。AkBkはフェルミオン演算子なので、A2k=B2k=0 となる。もし|0bk|0=ck|0=0 に従う通常の基底状態であるなら、(6.65)の解は
|GkfkBkAk|0kfk(αkβk+β2kckbk)|0
で与えられる。因子fkは規格化条件 G|G=1 から決まる。これより、fk=1/βkとなるので、規格化状態は
|G=k(αk+βkckbk)|0
で与えられる。

 この新しい基底状態|Gと標準的な通常の基底状態|0の内積を計算すると、
0|G=kαk=ksinθk
を得る。sinθk1 なので、状態の重なり合いは非常に小さい。物理系のモード数が無限の場合、重なり合いは実際にはゼロになる。有限個のbkck|0に作用した通常の多粒子状態と有限個のAksとBk|Gに作用した新しい多粒子状態との重なり合い(内積)を考えることもできる。交換関係を用いて内積を変形すると、各状態に応じた因子と0|Gの因子の積となる。これは系のモード数が無限である極限でゼロとなる。例えば、状態Ak|Gを考えると、|0との重ね合わせは
0|Ak|G=0|αkckβkbk|G=αkl0|ck(αl+βlclbl)|0=(lkαl) αk 0|ckckbk|0=0
となる。ただし、0|bk=0 を用いた。これは系のモード数Nに関わりなくゼロとなるが、Nに依存する例として、2粒子状態 |1k1k=ckbk|0|G の重ね合わせを考えると、この内積は
1k1k|G=l0|bkck(αl+βlclbl)|0=(lkαl)βk0(N)
と計算できる。

 以上より、|0に有限個のbk,ckを作用させて構成されたヒルベルト空間と|Gに有限個のAk, Bkを作用させて構成されたヒルベルト空間はNの極限で互いに素であり、重なり合いを持たない。特に、新しい基底状態はこの極限で通常の状態へユニタリー変換で連結できない。よって、|Gは形式的には演算子 U=k(αk+βkckbk)|0に作用させることで得られるが、Uはユニタリーではない。なぜなら、|Gはフォック空間の基底状態|0上で構成されるどのような状態とも重ね合わせを持たないためである。つまり、これら2つの状態は互いにユニタリー変換で関係付けられない。

 2つの演算子集合{bk,bk,ck,ck}{Ak,Ak,Bk,Bk} は同じ反交換関係の代数に従うが、互いに交わらないヒルベルト空間を生成するので、対応する2つの基底状態|0, |Gを選ぶことは反交換関係の異なる2つの既約表現を選ぶことであると分かる。

1.2節4.3節で議論したように、ハイゼンベルク代数に関してストーン-フォン・ノイマンの定理が存在する。一般にハイゼンベルク代数は交換関係
[ˆx(α)i,ˆx(β)j]=0[ˆx(α)i,ˆp(β)j]=iδijδαβ[ˆp(α)i,ˆp(β)j]=0
で表せる。ただし、α,β=1,2,,Nであり、i,jは空間座標の添え字を表す。ストーン-フォン・ノイマンの定理によると、このハイゼンベルク対数は (a) Nが有限であるか (b) 定義空間が単連結であれば、ユニタリー既約表現を唯一つだけもつ。分数量子ホール効果を扱った第4章では、(b) の前提条件が崩れる際に、ストーン-フォン・ノイマン定理で保証されるユニタリー既約表現の唯一性がどのように回避されるのかを考察した。

 今の場合、考えている代数はハイゼンベルク代数ではなく、反交換関係のN次元フェルミオン代数である。しかしながら、BCS理論の基底状態に関するこれまでの解析は、モード数が無限になる場合に正準交換関係の代数が異なる表現を持ちうることを明らかに示している。ボソンの代数(つまり、ハイゼンベルク代数)の場合にストーン-フォン・ノイマン定理の前提条件 (a) が崩れるより具体的な例は自発的な対称性の破れで与えられる。これについては第14章で議論する。

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