2024-01-20

1. 調和振動子と$SU(N)$代数 vol.3

1.4 対称性についての定理


ここでは対称性と保存則に関する一般的な定理と状態の縮退について定式化することで、前節の内容をもう少し系統的に議論する。ハミルトニアン$H$をもつ一般的な量子系を考える。$H$のユニタリー変換$U$を連続的なパラメータ$\theta$を用いて$U = \exp (i \theta \, G)$と定義する。ただし、$G$はあるエルミート演算子である。($G$は変換の生成子である。)ユニタリー変換で得られる新しいハミルトニアンは$H' = U^\dagger \, H \, U$となる。$\theta$は連続的なパラメータなので$\theta$が微小な場合を考えることもできる。この場合、
\[    H' = e^{-i \theta G} \, H \, e^{i \theta G}    \approx (1 - i \theta G) \, H \, ( 1+ i \theta G )    = H -i \theta \, [ G, H]   \tag{1.42}\]
と書ける。よって、ハミルトニアンの変化量は$\delta H = - i \theta \, [ G, H]$で与えられる。$\delta H = 0$、すなわち$[ G, H] =0$のとき我々は「$U$は対称性である」と言ったり「$G$は対称性を生成する」と言う。

つぎに、ハイゼンベルクの運動方程式から任意の演算子$G$に対して
\[    i {\partial G \over \partial t} = [G, H ] \tag{1.43}\]
が成り立つ。よって、もし$G$が連続な対称性を生成するなら($[G,H] =0$であるので)$G$は保存される。対称性が複数の場合、対応する連続バラメータ$\theta_i$、生成子$G_i$を考えればよいだけなので、明らかにこの結果は対称性の数に関係なく拡張できる。これはネーターの定理である。

定理1.2 (ネーターの定理) 量子系の連続対称性の各々について保存された観測量が存在し、その保存観測量は対称性変換の生成子に相当する。

この主張の逆は「もし保存量子数があるならばそれは量子系の対称性を生成する」となるが、これはある程度正しい。例外はトポロジカルな理由によりある量が保存される時であり、その場合、対称性は必ずしも得られるとは限らない。物理においてそのような保存量は実際に存在する。この問題については後にソリトンについて議論する際に再考する。

 対称性の解析を進めるにあたり、固有値$E_\alpha$をもつハミルトニアンの固有状態$\vert \alpha \ket$を考える。つまり、$H \, \vert \alpha \ket = E_\alpha \, \vert \alpha \ket$とおく。連続・非連続に関わらず$U$が対称性変換を表すなら$U^\dagger \, H \, U = H$あるいは$ H\, U = U\, H$と書ける。したがって、
\[H \, ( U \, \vert \alpha \ket ) = U\, H \, \vert \alpha \ket = E_\alpha \, (U \, \vert \alpha \ket )\tag{1.44}\]
となる。これより、$U \, \vert \alpha \ket$もハミルトニアンの固有状態であり同じエネルギーを持つことが分かる。よって、対称性変換によって互いに関係するすべての状態は同じエネルギーをもつ。言い換えると、それらは状態の縮退多重項を成す。そのような状態はいくつあるのか?それは変換に依存する。状態$U \, \vert \alpha \ket$は始状態$\vert \alpha \ket$と異なるかもしれないし、同じかもしれない。例えば、連続的な対称性の場合、パラメータ$\theta$の一つ一つに対応する$U$があるので、このような$U$は複数存在する。ある状態から始めて異なる状態だけを数え上げながら始状態と対称性変換により結び付けられるすべての状態を得ることを考えよう。このとき求まる状態の集合$\{ \vert \alpha_i\ket \}$は次の特性をもつ。まず、これら全ての状態は縮退しており$H$に対して同じ固有値をもつ。さらに、この集合の中の任意の状態にいかなる$U$を作用させてもその結果は同じ集合内の状態の線形結合で表せる。よって、この集合は$U$の作用のもとで閉じている。この状態集合に作用する$U$を行列表示すると$\bra \alpha_i \vert U \vert \alpha_j \ket$となる。以上をまとめると、縮退状態の集合は対称性変換の既約表現を与えることが分かる。$U$が連続的な場合、この結果を対称性の生成子(つまり$G$)を用いて表すこともできる。

定理1.3 量子系ハミルトニアンの固有状態は対称性変換の既約表現に分類される。それぞれの既約表現に含まれる(複数の)状態は縮退している。

同じ既約表現が多くのコピーを持つ場合もあることに留意されたい。この場合、縮退多重項は考えている対称性とは異なる何か別の量子数によって区別される。また、異なる2つの既約表現に含まれる状態が偶然に(上の定理とは無関係に)縮退している場合もある。一般に、そのような偶発的な縮退 (accidental degeneracy) は何かしら隠れている非自明な対称性に由来している。

    一例として、ハミルトニアン
\[    H = {p^2 \over 2 m} - {e^2 \over r}     \tag{1.45} \]
で与えられる水素原子を考える。このハミルトニアンは$p_i$と$x_i$の大きさにしか関与しないので回転のもとで自明な対称性をもつ。よって、回転の生成子つまり角運動量は$H$と交換する。さらに、エネルギー固有状態は角運動量代数の既約表現で分類される。ここでハミルトニアン(1.45)のエネルギー固有状態は$\vert n, l, m\ket$でラベルされることを思い出そう。ただし、$n = 1, 2, \cdots$は主量子数であり、$n$が与えられると角運動量量子数$l$は$0, 1, \cdots, (n-1)$の値をとる。さらに、磁気量子数$m$は$-l, -l +1, \cdots, l-1, l$の値をとり、各々の$l$に対して$2 l +1$通りの可能性がある。上の定理より、$n$と$l$が固定されているとき$m$でラベルされる$2 l +1$個の状態が縮退していることが分かる。実際、これは事実である。例えば、$n =2$のとき、エネルギー固有状態は
\[ \vert 2, 0, 0\ket, \hskip .2in \vert 2, 1, 1\ket, ~\vert 2, 1, 0\ket , ~ \vert 2, 1, -1\ket \nonumber \]
となる。定理1.3より、3つの固有値が等しいこと
\[ E_{2,1,1} = E_{2,1,0} = E_{2,1,-1} \tag{1.46} \]
は保証されるが、$E_{2,0,0}$は異なる可能性がある。ハミルトニアン(1.45)の場合、偶然にも$E_{2,0,0} = E_{2,1,1}$となる。これは偶発的な縮退の一例とみなせるが、その理由はハミルトニアン(1.45)が拡張された対称性をもつためである。これはルンゲ-レンツ・ベクトルに関係する対称性であり、次章で詳しく解説する。

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