前回はハドロンのメソンとバリオンについて解説し、バリオンの質量公式を導いた。今回はメソンの質量公式について紹介し、メソンとバリオンの相互作用について議論する。
メソンの質量公式
スピン-0とスピン-1の最軽量メソン(中間子)の一覧
\[ \begin{array}{|c | c | c| c| c| c |} \hline &\mbox{スピン-0}&\mbox{質量}& \mbox{スピン-1}& \mbox{質量} & \mbox{クォーク構成}\\ && \mbox{(MeV)} && \mbox{(MeV)} &\\ \hline \mbox{1重項}& \eta^\prime & 958& \omega &783& (u {\bar u} + d {\bar d} + s {\bar s})/\sqrt{3} \\ \hline & \pi^0 & 135& \rho^0 &775& (u {\bar u} - d {\bar d} )/\sqrt{2} \\ & \pi^+ &140& \rho^+ &775& u {\bar d} \\ & \pi^- &140& \rho^- &775& d {\bar u} \\ \mbox{8重項} & K^+ &494& K^{*+} &892& u {\bar s} \\ & K^- &494& K^{*-} &892& s {\bar u} \\ & K^0 &498& K^{*0} &896& d {\bar s} \\ & {\bar K}^0 &498& {\bar K}^{*0} &896& s {\bar d} \\ & \eta &548& \varphi &1019& ( u {\bar u} + d {\bar d} - 2 \,s {\bar s})/\sqrt{6} \\ \hline \end{array} \]
これまで考えてきたメソンは上の表に示すように8重項の表現に属した。スピン-0の擬スカラー中間子の場合、その行列表現は8重項バリオンと同じように
\[ {\mathbf M} = \left( \begin{matrix} {\pi^0\over \sqrt{2}}+ {\eta\over \sqrt{6}}& \pi^+ & K^+\\ \pi^-& -{\pi^0\over \sqrt{2}}+ {\eta\over \sqrt{6}}& K^0\\ K^-& {\bar K}^0& -{2 \over \sqrt{6}} \eta\\ \end{matrix}\right) = \sum_{a=1}^{8} \phi^a \frac{\la^a}{\sqrt{2}} \tag{5.53} \]
と表せる。ただし、$\la^a$ ($a= 1,2, \cdots , 8$) は1.5節で紹介したゲルマン行列
\[\begin{eqnarray} && \la^1 = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right)~~~ \la^2 = \left( \begin{array}{ccc} 0 & -i & 0 \\ i & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right)~~~ \la^3 = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 0 \\ 0 & -1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right) \nonumber \\ && \la^4 = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \\ \end{array} \right)~~~ \la^5 = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & -i \\ 0 & 0 & 0 \\ i & 0 & 0 \\ \end{array} \right)~~~ \la^6 = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 \\ \end{array} \right) \nonumber \\ && \la^7 = \left( \begin{array}{ccc} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -i \\ 0 & i & 0 \\ \end{array} \right)~~~ \la^8 = \frac{1}{\sqrt{3}} \left( \begin{array}{ccc} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & -2 \\ \end{array} \right) \end{eqnarray} \tag{1.49} \]
である。擬スカラー中間子も8重項を成すので、8重項バリオンと類似した質量公式に従うと予想できる。擬スカラー中間子の有効ラグランジアンを考えると、質量項は質量に比例するのではなく質量の2乗に比例する。(これは複素スカラー粒子の自由ラグランジアンから類推できる。なお、擬スカラー中間子の有効ラグランジアンの詳細については、場の量子論の教科書(基礎編)12.10節を参照されたい。)よって、前回導出した8重項バリオンの質量公式
\[ 2 ( M_{p} + M_{\Xi^0} ) = M_{\Si^0} + 3 M_\La \tag{5.47} \]
の質量をメソンの(質量)$^2$としたものが擬スカラー中間子の質量公式として成り立つことが期待できる。つまり、
\[\begin{eqnarray} 2\, (M^2_K + M^2_{K^0}) &=& M^2_{\pi^0} + 3\, M^2_{\eta} \\ 2\, (M^2_{K^*} + M^2_{K^{0*}}) &=& M^2_{\rho^0} + 3\, M^2_{\varphi} \end{eqnarray} \tag{5.54} \]
と予想できる。ただし、対応する8重項ベクター中間子の関係式も追記した。質量の観測値と比べると、これらの公式は妥当な精度で成り立つことが確認できる。
ここで紹介した以外にも対称性による物理量の予測は数多くある。例えば、1961年には8重項バリオンの磁気モーメントを予測する関係式が導かれた。これは、コールマン-グラショウ関係式として知られている。
メソン・バリオン相互作用
対称性を用いると相互作用のパターンに制限を与えることもできる。例えば、8重項バリオンと擬スカラー中間子によるバリオン-バリオン-メソン相互作用を考えてみよう。$B$-$B$-$M$型の最も一般的な作用は、粒子別の結合を考える必要があるので単純計算すると$8^3$個の異なる相互作用項をもつ。
もちろん、電荷の保存やその他の原理のためすべての結合が許されるわけではないが、数多くの未知の相互作用項が含まれるはずである。(繰り返しになるが、これらは基礎理論から原則的には計算できるが、それは非常に困難である。ここでは、そのような計算をせず、対称性から何が言えるかを議論する。)フレーバー$SU(3)$対称性に基づくと、基本的に2つの結合だけが許され、$B$-$B$-$M$型の作用は
\[ S_{int} = \int d^4x~ \left[ g_1 \Tr ( {\mathbf {\bar B}}\,\gamma_5\, {\mathbf B} \, {\mathbf M}) + g_2 \Tr ( {\mathbf {\bar B}}\,\gamma_5\, {\mathbf M}\, {\mathbf B})\right] \tag{5.55} \]
で与えられる。ただし、${\mathbf B}$, ${\mathbf M}$は以前と同じく8重項バリオンと擬スカラー中間子の行列表現である。
\[ {\mathbf B} = \left( \begin{array}{ccc} \frac{\Si^0}{\sqrt{2}} + \frac{\La}{\sqrt{6}} & \Si^{+} & p \\ \Si^{-} & - \frac{\Si^0}{\sqrt{2}} + \frac{\La}{\sqrt{6}} & n \\ \Xi^{-} & \Xi^{0} & - \sqrt{\frac{2}{3}} \La \end{array} \right) = \sum_{a = 1}^{8} \psi^{a} \frac{\la^a}{\sqrt{2}} \tag{5.37} \]
\[ {\mathbf M} = \left( \begin{matrix} {\pi^0\over \sqrt{2}}+ {\eta\over \sqrt{6}}& \pi^+ & K^+\\ \pi^-& -{\pi^0\over \sqrt{2}}+ {\eta\over \sqrt{6}}& K^0\\ K^-& {\bar K}^0& -{2 \over \sqrt{6}} \eta\\ \end{matrix}\right) = \sum_{a=1}^{8} \phi^a \frac{\la^a}{\sqrt{2}} \tag{5.53} \]
作用(5.55)の$\gamma_5$はディラックの$\gamma_5$行列である。これはメソンが擬スカラーであることと強い相互作用でパリティが保存することから必要である。作用(5.55)には2つの結合定数しかないので、この作用を用いて散乱振幅や崩壊幅を計算することで、数多くの物理過程における崩壊率や散乱振幅を関係付けることができる。(この手法は、遷移行列の要素をウィグナー・エッカートの定理を利用して関係付ける方法と類似している。ここで遷移行列は、例えば、異なる角運動量状態の原子において光子が吸収・放出する物理過程を表す。)
作用(5.55)において、$\pi$中間子と核子の相互作用に関わるセクターを書き出してみる。興味深いことに、$\pi$中間子と陽子$p$と中性子$n$が関与する項のみを残すと
\[ S_{int} = g_2 \int d^4x~ \left[ {\pi^0\over \sqrt{2}}\bigl( {\bar p}\gamma_5 \,p - {\bar n}\, \gamma_5n\bigr) + {\bar n}\,\gamma_5 p\, \pi^- + {\bar p}\,\gamma_5 n \,\pi^+ \right] \tag{5.56} \]
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