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2024-02-02

3. ランダウ問題と量子ホール効果 vol.3

3.3 整数量子ホール効果のラフリン波動関数


前節ではハミルトニアンの調和振動子ポテンシャルの効果を無視した。この節では調和振動子ポテンシャルを回復させて、最低ランダウ準位 (LLL) の波動関数ΨLLLの具体的な形を求める。さらに、ΨLLLを用いて整数量子ホール効果の多電子波動関数を求めることを目指す。

 3.1節で導いた量子ホール効果の1粒子ハミルトニアンは
H=12m(Π21+Π22)+mω22(x21+x22)=eBm(AA+12)H0+mω22(x21+x22)
であった。ただし、A, Aは演算子
A=Π1+iΠ22eB,  A=Π1iΠ22eB
で与えられる。ここでは、まずハミルトニアン(3.11)を複素変数
z=eB2(x1+ix2),  ˉz=eB2(x1ix2)
で書き換えることを考える。演算子A
A=Π1+iΠ22eB=(p1+eB2x2)+i(p2eB2x1)2eB=i2eB(x1+ix2)i2eB2(x1+ix2)=i(ˉz+z2)
と表せる。ただし、関係式
(x1+ix2)ˉz=(x1+ix2)(x1ix2)eB2=2eB
から微分ˉzを定義した。同様に、共役演算子A
A=i(zˉz2)
と表せる。

 つぎに、調和振動子ポテンシャルの効果を解析するために4つの新しい演算子を定義する。
C=Aiα2z=i(ˉz+1+α2z)C=A+iα2ˉz=i(z1+α2ˉz)T=A+iz+iα2z=i(ˉz1+α2z)T=Aiˉziα2ˉz=i(z+1+α2ˉz)
ただし、αは定数である。演算子T, T3.1節で導入した磁気並進演算子と類似していることに注意しよう。演算子C, Cでハミルトニアンを表すと
H=2ωL[(Ciα2ˉz)(C+iα2z)+12]+ω22ωLˉzz=2ωL[CCiαˉz2C+iα2Cz+α24ˉzz+12]+ω22ωLˉzz
となる。ただし、ωLはラーモア振動数ωL=eB2mである。式(3.45)と式(3.47)から、iCzの因子は次のように変形できる。
iCz=(zˉz2α2ˉz)z=1+zz1+α2ˉzz=1+z(z+1+α2ˉz(1+α)ˉz)=1+izT(1+α)ˉzz
よって、ハミルトニアン(3.48)は
H=2ωL[(CCiαˉz2C)+α2(1+izT(1+α)ˉzz)+α24ˉzz+12]+ω22ωLˉzz
と書ける。上式でˉzzに比例する項がゼロとなる条件は
ωLα(1+α)+α22ωL+ω22ωL=0    α=ωL±ω2L+ω2ωL
である。調和振動子ポテンシャルがない極限ω0α0と要請できるので、αの値は一意に決められる。
α=ωL+ω2L+ω2ωL
この場合、ハミルトニアン(3.50)は
H=2ωL(CCiαˉz2C)+(1+α)ωL+αωLz(z+1+α2ˉz)
となる。最後の項は磁化並進タイプの演算子Tで表せる。上式より最低ランダウ準位の状態|LLL
C|LLL=0
で定義できる。よって、最低ランダウ準位の波動関数ΨLLL
(ˉz+1+α2z)ΨLLL=0
を満たす。これより、ΨLLL
ΨLLL=exp(1+α2ˉzz)f(z)
と解ける。ここで、f(z)は任意の正則関数である。上式より関係式
(z+1+α2ˉz)ΨLLL=exp(1+α2ˉzz)f(z)z
が得られる。よって、シュレーディンガー方程式HΨLLL=EΨLLL
HΨLLL=e1+α2ˉzz[(1+α)ωL+αωLzz]f(z)=e1+α2ˉzzEf(z)
と表せる。これより、f(z)の方程式
(1+α)ωLf(z)+αωLzzf(z)=Ef(z)
が得られる。この方程式はつぎの解をもつ。
f(z)=zk,E=Ek=(1+α)ωL+kαωL  (k=0,1,2,)
パラメータα
α=ωL+ω2L+ω2ωL
で与えられるので、エネルギー固有値Ekωの大小によって次のようの振る舞う。
EkωL    (ω0)Ek(k+1)ω    (ωωL)
振動子ポテンシャルωが無視できるほど小さいとき、すべての固有状態は縮退状態となる。一方、ωがラーモア振動数ωLに比べて十分大きいとき、固有状態は2次元調和振動子の固有状態に近似できる。よって、この解は整合性をもつ。振動子のポテンシャルによって期待通り縮退状態の固有エネルギーが持ち上げられた。これは電子が伝導体内に閉じ込められている描像と合っている。ここで重要なのは、波動関数がベキ因子を除いてzの正則関数f(z)で表せることである。以下では、このことを用いて多電子の波動関数を構成する。

ラフリン波動関数

 (3.60)から最低ランダウ準位はk=0,1,2,の値に対応する複数のエネルギー準位をもつことが分かる。よって、これらのエネルギー状態のうちN個の最低状態がN個の電子で満たされている状況を考えることができる。ただし、ここではスピンの効果を無視するので、パウリの排他原理から1つの状態につき1つの電子しか許されない。多電子の波動関数は2つの電子の交換のもとで反対称なので、スレイター行列式で表せる。つまり、多電子の波動関数はつぎの形で与えられる。
Ψ=|ψ1(x1)ψ2(x1)ψN(x1)ψ1(x2)ψ2(x2)ψN(x2)ψ1(xN)ψ2(xN)ψN(xN)|
ただし、ψk(xi)i番目の粒子がkでラベルされる状態にある1粒子の波動関数であることを示す。いまの場合、ψk (k=0,1,2,,N1)
f(z)=1,z,z2,,zN1
で与えられる。よって、2電子の場合は対応する行列式は
|1z11z2|=z2z1
で与えられる。ただし、規格化因子は無視した。同様に、3電子の場合は
|1z1z211z2z221z3z23|=(z1z2)(z2z3)(z3z1)
となる。N個の電子の場合も同様に一般化可能で、行列式は
|1z1z21zN111z2z22zN121zNz2NzN1N|=i>j(zizj)=(1)N(N1)2i<j(zizj)
で与えられる。これはヴァンデルモンド行列式と呼ばれる。この行列式は基底状態の波動関数の正則部分に対応する。1粒子波動関数のベキ因子を含めると、ランダウ準位が充填された多電子の波動関数は
Ψ=Nexp(1+α2Ni=1ˉzizi)1i<jN(zizj)
と置ける。ただし、Nは規格化定数である。この波動関数は整数量子ホール効果のラフリン波動関数として知られている。

 最高準位の1粒子状態の波動関数はe1+α2ˉzzzN1に比例する。よって、この2乗は
|(最高準位の1粒子状態)|2e(1+α)ˉzz(ˉzz)N1
で与えられる。この値は
(1+α)ˉzz+(N1)=0
のとき極大となる。z, ˉzの定義式
z=eB2(x1+ix2),  ˉz=eB2(x1ix2)
より、ˉzz=eB2r2が分かる。ただし、rは最低ランダウ準位内で局在状態となる電子が成すドロップレット (droplet) の半径を表す。これより、上式は
N1=(1+α)eB2π(πr2)=(1+α)eB2π(面積)
となる。因子αは振動子ポテンシャルωに依存する定数
α=ωL+ω2L+ω2ωL
であった。ただし、ωLはラーモア振動数ωL=eB2mである。関係式(3.69)は3.1節で準古典的な議論を用いて導いた結果
(状態数)eB2πdx1dx2
のより厳密な導出を与える。実際、準古典的的な議論が許容される極限では、つまりω0かつNが十分に大きいとき、関係式(3.69)は(3.24)の結果
NeB2π(面積)
を再現する。

 (3.60)で議論したように、調和振動子ポテンシャルの効果は縮退状態がどのように「持ち上げ」られるかで示される。実際の物理系では、伝導体の両端に近くない限り伝導体内のポテンシャルの平均はゼロと置ける。よって、伝導体内のポテンシャルを振動子ポテンシャルのモデルで近似する場合、対応するωの値は微小となる。したがって、(3.70)の結果はかなり簡単に理解できる。

 以上の議論では電子間の相互作用は無視してきた。整数量子ホール効果の場合、電子間相互作用の効果は大きく寄与しない。とは言え、無視できるというわけではない。むしろ、すべての状態が電子で充填され排他律により電子の自由運動が抑えられているので、電子の動力学において静電斥力の影響が重要でないと解釈できる。最終的には、これはランダウ軌道のサイズとクーロン相互作用のレンジの問題になる。(後者は、イオントーマス・フェルミ近似により固体内で有限な遮蔽距離をもつ。)それぞれのランダウ波動関数が重なり合うほど十分に広がっている場合は、クーロン力が大きくなり、すべての状態が電子で充填されない状況になる可能性がある。(下図ではドロップレット間の平均距離をlで表している。磁場の強度Bが変わると、lはクーロン相互作用の遮蔽距離と同じオーダーになりクーロン斥力の効果が重要になる。)次章で扱う分数量子ホール効果はこの場合に相当する。

整数量子ホール効果のドロップレット:
ドロップレット間の距離lがドロップレット自体の大きさに比べて
十分に長いのでクーロン相互作用の効果は無視できる。

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