2018年8月19日

青空と夕焼けに想う(2)ナイアのエッセイから

前回のエントリー「青空と夕焼けに想う(1)ナイアのエッセイから」の続きです。第2章に入る前に簡単に復習しよう。光の散乱過程は一般に電磁相互作用 $\int d^4 x J^\mu A_\mu$ で与えられる。ただし、$A_\mu$, $J^\mu$ はそれぞれ光子の4元ポテンシャルと4元カレントを表す。電気的に中性な大気中の原子や分子との散乱の場合、カレントの保存則から4元カレントは反対称テンソル $M_{\al \mu}$ ($\al = 1,2,3; \, \mu = 0,1,2,3$) をもちいて
\[
   J^\mu = \partial_\alpha M^{\alpha \mu }
  \tag{3}
\]
と書ける。(式番号は第1章のものを踏襲します。)反対称テンソル $M^{\alpha \mu }$ の成分は $M^{0 i} = p^i$, $M^{ij} = \epsilon^{ijk}m^k$ であり、ここで $p^i$, $m^k$ ($i,j,k = 1,2,3$) はそれぞれ電気双極子モーメント、磁気双極子モーメントの演算子を表す。この場合、電磁相互作用は
\[
 \int d^4 x J^\mu A_\mu = - \frac{1}{2} \int d^4 x F_{\mu\nu} M^{\mu\nu} = - \int d^4 x \left(
\vec{p} \cdot \vec{E} + \vec{m} \cdot \vec{B}
\right)
  \tag{4}
\]
となる。ここで、$F_{\mu\nu} = \partial_{\mu} A_\nu - \partial_{\nu} A_\mu$, $F_{i0} = E_i$, $F_{ij} = \epsilon_{ijk} B_k$ であり、$E_i$, $B_k$ はそれぞれ電場、磁場を表す。可視光に対応するエネルギー範囲の光子と原子との散乱では、電気双極子の項だけを残すのが適当であり、一次近似でこの散乱振幅は
\[
\A =  - \int  d^4 x d^4 y \, \langle f | T p^i (x) p^j (y) | i \rangle \, \omega \omega^\prime  \, \frac{\epsilon_i e^{-i k x}}{\sqrt{2 \omega V}} \frac{\epsilon^\prime_j e^{i k^\prime y}}{\sqrt{2 \omega^\prime  V}}
  \tag{6}
\]
となる。ここで、$\vec{k}$, $\epsilon_i$ はの入射光子の運動量と偏光ベクトルであり、$\vec{k}^\prime$, $\epsilon^\prime_i$ は散乱光子のそれである。$\om = \om_k = k_0$, $\om^\prime = \om_k^\prime = k_0^\prime$ は入射・散乱光子の角振動数(光子エネルギー)を示す。また、$| i \rangle $ は媒体の始状態、$| f \rangle $ は終状態を示す。


第1章ではこれらの準備から物理的な条件を考慮して、1原子による光子の散乱の断面積が
\[
\frac{d \si_{\rm atom}}{d \Om} \approx \frac{\om^4}{32 \pi^2}
 P_{ir} (k)  P_{js } (k^\prime )
\sum_{\al , \ga } c_\al  ( \M_{\al \ga }^{\dagger} )_{rs} ( \M_{\ga \al} )_{ij}
\tag{17}
\]
で表せることをが示された。ただし、
\[
 P_{ij } (k ) = \del_{ij} - \frac{k_i k_j}{\om^2}
\tag{13}
\]
であり、その他の記号など導出の詳細については前回のエントリーを参照してください。原子がランダムに分布する大気中での散乱では、全体の微分散乱断面積は
\[
d \si = S (\vec{k} - \vec{k}^\prime ) ~ d \si_{\rm atom}
\tag{15}
\]
となり、構造因子は
\[
S ( \vec{k} - \vec{k}^\prime ) =
\int d^3 x d^3 y ~ e^{i ( \vec{k} - \vec{k}^\prime ) \cdot ( \vec{x} - \vec{y} )} \Tr \left[
\rho N(x) N(y)
\right]
\tag{16}
\]
で与えられる。$N(x)$ は媒体の密度関数であり、$\rho$ は媒体の密度行列である。$N(x)$ が一定の場合、構造因子は$S(\vec{k} - \vec{k}^\prime ) \sim \del^{(3)} (\vec{k} - \vec{k}^\prime )$ となり散乱は起こらず、光子は媒体を通り抜けるだけになる。散乱が起きるのは密度に揺らぎがある場合であり、媒体中の占有数が少ない高温極限では、密度の相関関数は
\[
  \Tr \left[
\rho N(x) N(y)
\right] = \bra N (x)  N (y) \ket \approx
\bra N \ket   \del^{(3)} ( \vec{x} - \vec{y} )
\tag{19}
\]
と近似できる。体積$V$に分布する原子と光子の微分散乱断面積は
\[
d \si = \bra N \ket V \, d \si_{\rm atom}
\tag{20}
\]
と表せる。ただし、$\bra N \ket$ は媒体中にある原子の平均密度である。以上、ここまで復習。第2章の日本語訳は以下の通りです。


2 有効作用と不変性


低エネルギー弾性散乱の場合、電磁場についての有効作用をもちいることができる。相互作用項が式(4)で与えられるとき、有効作用は
\[
S_{\rm eff} =  - \qu \int d^4 x F_{\mu \nu} F^{\mu \nu} - \qu \int d^4 x d^4 y F_{\mu \nu} (x) F_{\al \bt } (y)  \bra M^{\mu\nu} (x)  M^{\al \bt} (y) \ket
  \tag{26}
\]
で与えられる。第2項に$F$が複数現れるのはゲージ不変性とカレント保存則に関係している。実際、式(3)を導くのにカレント保存則を用いたの思い出そう。均一な媒体では相関関数 $\bra M^{\mu\nu} (x)  M^{\al \bt} (y) \ket$ の一般的な性質を次のように決めることができる。等方向性と一様性を仮定すると、この相関関数のフーリエ変換はフーリエ変数 $k_\mu$ と媒体の4元速度 $u_\mu$ でのみ表すことができる。したがって、これらの4元ベクトルと計量テンソル $\eta_{\mu \nu}$ を用いて相関関数を分解することができる。波長の長い光子の場合、$k_\mu$ に比例する項は副次的 (subdominant) になる。よって、主要項は $\eta$ と $u_\mu$ で構成される。その場合、$M^{\mu \nu}$ の反対称を満たすようなテンソル構造は2つしかないので、相関関数は
\begin{eqnarray}
  \bra M^{\mu\nu} (x)  M^{\al \bt} (y) \ket
&=& \int \frac{d^4 k}{(2 \pi)^4} \, e^{- i k (x-y) }\bigg[ \hf
f(k^2, k \cdot  u ) ( \et^{\mu\al} \et^{\nu\bt} - \et^{\mu\bt} \et^{\nu\al} )
\\ && ~~~+
\hf h (k^2, k \cdot  u ) (
\et^{\mu \al} u^{\nu} u^{\bt} - \et^{\mu \bt} u^{\nu} u^{\al}
- \et^{\nu \al} u^{\mu} u^{\bt} + \et^{\nu \bt} u^{\mu} u^{\al}
) \bigg]
\tag{27}
\end{eqnarray}
と書ける。ここで、$f$ と $h$ は引数が示す通り不変量 $k^2$ と $k \cdot u$ の関数である。媒体の静止系では $u^0 = 1$, $\vec{u} = 0$ となるので有効作用(26)は
\begin{eqnarray}
S_{\rm eff} &=&   \hf \int d^4 x d^4 y  ~ E_i (x)
\left[
\del^{(4)} (x - y) + f(x-y) + h (x-y)
\right] E_i (y) \\
&& ~
- \hf \int d^4 x d^4 y  ~ B_i (x)
\left[
\del^{(4)} (x - y) + f(x-y)
\right] B_i (y)
  \tag{28}
\end{eqnarray}
と書ける。ただし、$f(x- y)$, $h(x-y)$ はそれぞれ $f(k^2, k \cdot  u )$, $h(k^2, k \cdot  u )$ のフーリエ変換である。これより、誘電率$\ep(k)$と透磁率$\mu (k)$を
\begin{eqnarray}
\ep(k)&=&   1 + f(k^2, k \cdot  u ) + h (k^2, k \cdot  u ) \\
\mu^{-1} (k) &= &  1 + f(k^2, k \cdot  u )
  \tag{29}
\end{eqnarray}
と特定できる。

これらの結果を使って散乱過程の計算ができる。一例として、小さな誘電体球と光子の散乱を考えよう。$ \hf E ( 1 - \ep )E$ を相互作用の項として扱えばよい。このとき散乱振幅は次のように簡単な形になる。
\begin{eqnarray}
\A &=&  i \int \frac{d^4 \tilde{k}}{(2 \pi)^4} \, [ \ep ( \tilde{k} ) -1 ]
\, e^{- i \tilde{k} (x-y) } \om \om^\prime \vec{\ep} \cdot \vec{\ep}^\prime
\frac{ - i kx + ik^\prime y }{ \sqrt{ 2 \om V 2 \om^\prime V}}
 \\
&=& i  [ \ep ( \tilde{k} ) -1 ] \om \om^\prime  \vec{\ep} \cdot \vec{\ep}^\prime
\frac{ 2 \pi \del ( \om - \om^\prime ) }{ \sqrt{ 2 \om V 2 \om^\prime V}}
\int_{\rm sphere} d^3 x \, e^{i (\vec{k} - \vec{k}^\prime ) \cdot \vec{x}}
  \tag{30}
\end{eqnarray}
運動量変位を $\vec{q} = \vec{k} - \vec{k}^\prime $ とおくと、半径$R$ の球体積分は直接評価できる。
\begin{eqnarray}
\int_{\rm sphere} d^3 x \, e^{i \vec{q} \cdot \vec{x}}
&=& \frac{4 \pi }{q^3} (\sin qR - qR \cos qR ) \, \equiv \, F_1 (\vec{q} )
\\
&\rightarrow & \frac{4 \pi R^3}{3} ~~~~ (q \rightarrow 0)
 \tag{31}
\end{eqnarray}
散乱振幅$\A$を2乗するといつも通りに微分散乱断面積を求められる。非偏光の入射光子の場合、
\[
 d \si_1 = \frac{| \ep ( k ) -1 |^2 }{ 32 \pi^2 } \om^4 | F_1 ( \vec{q} ) |^2
( 1 + \cos^2 \th ) d \Om
\tag{32}
\]
となる。ここで、$\th$ は $\vec{k} \cdot \vec{k}^\prime = \om^2 \cos \th$ で定義される散乱角である。($F_1$, $\si_1$ の添え字$1$は散乱体が1つであることを示す。)式(32)は誘電球との散乱を表す標準的なレイリー散乱の式である。$(\ep -1 )$の因子は誘電体球のもつ偏光性に関係している。より稠密な媒体では、クラウジウス・モソッティの関係 (Clausius-Mossotti relation) あるいは ローレンツ・ローレンツの式 (Lorentz-Lorenz equation) に従い、この$(\ep -1 )$-因子は $3 (\ep -1 ) / ( \ep + 2) $ に置き換えられる。以上の解析から $\om$-依存性がユニバーサル(普遍的)であることが分かる。突きつめていけば、これは低エネルギーにおいて有効作用が $F$ で表されるという事実に由来する。

導出の前半部 (式(28), (29)にあたる) ではローレンツ不変性を用いたが、これはそれほど重要ではない。というのも、散乱振幅を求めるにあたり、相互作用の項 $(\ep -1 ) E^2$ を要請しただけあるからだ。重要な点は、ここではベクトルポテンシャル $A_i$ ではなく、$E_i$ が使われていることであり、これはゲージ不変性のためである。電場 $E_i (x)$ の演算子を波動関数に置き換える際、$E_i \sim \om A_i$ となるので散乱振幅  $\A$ に $\om^2$ の因子が現れ、微分断面積 $d \si = | \A |^2$ に $\om^4$ が出てくる。

次に、複数の散乱体があるとして、それらの一つ一つが小さな誘電球体と近似できるとする。$\vec{a}_n$を$n$番目の球体の座標とすると、式(31)に対応する空間積分は
\begin{eqnarray}
F(\vec{q} ) &=&
\int d^3 x \, e^{i \vec{q} \cdot \vec{x}}
 = \sum_n e^{i \vec{q} \cdot \vec{a}_n } \int _{\rm sphere} d^3 \xi  ~e^{i \vec{q} \cdot \vec{\xi} }
\\
& = & \int d^3 x \, e^{i \vec{q} \cdot \vec{x}} N (x) F_1 ( \vec{q} )
 \tag{33}
\end{eqnarray}
となる。ただし、1章でみたように$N(x) = \sum_n \del^{(3)} ( \vec{x} - \vec{a}_n )$ は散乱体の密度関数で $\sum_n e^{i \vec{q} \cdot \vec{a}_n } =
\int d^3 x  e^{i \vec{q} \cdot \vec{x}} N (x) $ を満たす。これより微分断面積は
\[
d \si = d \si_1 \int  d^3 x d^3 y ~ e^{i (\vec{k}-\vec{k}^\prime ) \cdot
(\vec{x}-\vec{y}) } \bra N(x) N(y) \ket
\tag{34}
\]
となり、これは以前の計算結果、式(15)と同じである。

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