これまでワインバーグ・サラム理論というタイトルで昔のノートをデジタル化してきましたがnote11からは標準模型のQCD部分を扱っているためタイトルを変更します。
QCD(量子色力学)は強い相互作用のゲージ理論である。ゲージ群は$SU(3)$で与えられ、クォークとはベクトルのように結合する。3はカラー(色)の数である。
(a) なぜ3つのカラーなのか?
1.ハイペロン(hyperon)のスピン統計から:$\Om^- \sim sss$ スピン$\frac{3}{2}$
2.中性パイオン崩壊$\pi^0 \rightarrow 2 \ga$の振幅は低エネルギー近似でABJアノマリーで計算できるがその振幅の値は実験値よりも3分の1小さい。(詳しくはCheng and Li, Gauge theory of elementary particle physics, pp182 参照のこと。)
3.実験によるカラー数$N_c$予測:$\frac{e^+ e^- \rightarrow q \bar{q}}{e^+ e^- \rightarrow \mu^+ \mu^-} \sim N_c \sum_f Q_f^2$(ただし、$Q_f$はフレーバー$f$のクォークの電荷。取りうる$f$の範囲は観測のエネルギーレベルに依存する。)
(b) クォークの束縛機構として可能なもの
繰り込み可能な相互作用として:スカラー場、ゲージ場によるものが挙げられるが、スカラー場は除外され、$U(1)$ゲージ群も漸近自由性から除外される。
(c) QCDラグランジアン
\[ \L = - \qu F_{\mu\nu}^a F_{\mu\nu}^a - \sum_i \bar{q}_i \ga \cdot ( \d + g A ) q_i + \sum_i m_i \bar{q}_i q_i \]
質量項を無視するとラグランジアンは$U(N_f )_L \times U(N_f )_R$のカイラル対称性をもつ。ただし、$N_f$はフレーバー(クォークの種類)の数。
このカイラル対称性には階層がある。クォークの質量差を無視できるエネルギースケールでは
\[ U (6)_L \times U (6)_R \]
とみなせるが、$1GeV$のQCDスケールでは$c, b, t$クォーク ($m_c \approx 1.27~ GeV$, $m_b \approx 4.18 ~GeV$, $m_t \approx 173 ~GeV$) によりこの対称性は
\[ U (3)_L \times U (3)_R \]
に自明的に破れる。これはQCDのフレーバーカイラル対称性と呼ばれる。$U(1)_L$, $U(1)_R$対称性はそれぞれ次のように作用する。
\[ \begin{eqnarray} U(1)_L &:& q_L \rightarrow e^{i\th} q_L ~~~~~~~~ q_R \rightarrow q_R \\ U(1)_R &:& q_L \rightarrow q_L ~~~~~~~~~~~~ q_R \rightarrow e^{i\al} q_R \end{eqnarray} \]
これより次のような$U(1)_V$, $U(1)_A$の組み合わせを取ることが出来る。
\[ \begin{eqnarray} U(1)_V &:& q_L \rightarrow e^{i\varphi} q_L ~~~~~~~~ q_R \rightarrow e^{i\varphi} q_R \\ U(1)_A &:& q_L \rightarrow e^{i\la} q_L ~~~~~~~~ q_R \rightarrow e^{- i\la} q_R \end{eqnarray} \]
これらはそれぞれベクトル対称性、軸性ベクトル対称性を与える。よって、QCDのフレーバーカイラル対称性は
\[ SU(3)_L \times SU(3)_L \times U(1)_V \times U(1)_A \]
と表せる。$U(1)_V$はバリオン数を与える。
この対称性は以下のような要因により階層的に破れる。
\[ U_L (3) \times U_R (3) \rightarrow U_{L+R}(3) \]
と自発的に破れる。また、グルーオンのアノマリーにより$U(1)_A$は離散的なインスタントン数に破れる。
\[ U(1)_A \rightarrow \mathbb{Z} \]
この破れはおよそ$500~MeV$のスケールで起きる。
2.クォークの質量($m_u \approx 2.16 ~MeV$, $m_d \approx 4.67 ~MeV$, $m_s \approx 93~MeV$)により自明的に破れる。
$m_u \approx m_d \approx m_s$とみなせるエネルギースケールでは
\[ U (3)_L \times U (3)_R \rightarrow U(3)_{L+R} \]
$m_u \approx m_d \ne m_s$とみなせるエネルギースケールでは
\[ U (3)_L \times U(3)_R \rightarrow U(2)_{L+R} \]
$m_u \ne m_d \ne m_s$とみなせるエネルギースケールでは
\[ U (3)_L \times U (3)_R \rightarrow U(1)_{L+R} \]
3. 弱い相互作用の効果($W^\pm , Z^0 , A $の相互作用)により自明的に破れる。
\[ U(3)_L \times U(3)_R \rightarrow SU(2)_L \times U(1)_Y \]
これは例えば$m_{\pi^\pm} \approx 142 ~MeV$と$m_{\pi^0} \approx 137 ~MeV$の質量差$5~MeV$よりも小さいエネルギースケールで破れる。さらに上記$m_u \ne m_d$のスケールでは$SU(2)_L$の破れ
\[ SU(2)_L \rightarrow U(1)_I \times U(1)_{\la^8} \]
が起きる。(アイソスピンの破れ)
4. 電弱ゲージ場のアノマリーによるバリオン数$U(1)_V$の破れ
\[ U (1)_V \rightarrow \mathbb{Z} \]
これは弱い相互作用による量子効果でありエネルギースケールは上記のものに比べて微小である。バリオン数は離散的な電弱インスタントン数に破れる。
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