前回からの続き。新しいタイプのフェルミ粒子がないとすると、フェルミ粒子の基本構成は
νeνμντeμτuctdsb
で与えられる。
第1世代 (νe,e,u,d) だけを使って、後知恵ではあるが、数学的に矛盾のないモデルを構成できることが知られている。
備考:
(a) もし新しいフェルミ粒子が導入されると別の可能性がある。例えば、O(3)→U(1)emとなるGeorgi-Glashow模型があるが、これは中性カレントの発見により除外された。
(b) sクォークをu,dクォークと同様に扱ってみることもできるが、ストレンジネス(sクォークのこと)が変化する中性カレントが存在しないことからその可能性は排除される。
まず1世代モデルを考えるが、この段階で既に、量子異常の問題を別にすると、レプトン・セクターを個別に扱えることが知られているので、ここでは νe と e を考える。
カイラルな組み合わせ: νeL=νL, eL, eR(質量ゼロを仮定してνR=0)
eL=1−γ52e, eR=1+γ52e
自由場のラグランジアン:L0=−[ˉeLγ⋅∂eL+ˉeRγ⋅∂eR+ˉνLγ⋅∂νL]
左巻きのレプトン場をlL=(νLeL)とまとめると
L0=−ˉlLγ⋅∂lL−ˉeRγ⋅∂eR
となる。ただし、ˉlL=l†Lγ0
対称性はU(2)L×U(1)Rとなる。というのも、U†U=1のとき l′L=UlL でラグランジアンは不変となり、e′R=(eiα)eRがU(1)Rを定義するため。U(2)L∼SU(2)L×U(1)Lなので対称性は
SU(2)L×U(1)L×U(1)R=SU(2)L×U(1)Y×U(1)l
U(1)L×U(1)Rの一つの組み合わせがレプトン数U(1)lに対応する。もしレプトン数をゲージ固定すると電弱相互作用の群GWはSU(2)L×U(1)Yの形になる。
ここでU(1)群は電荷QがU(1)生成子とSU(2)のt3の線形結合で表されるように選ばれる。
Q⋅lL=(000−1)(νLeL)=(0−1)
(Q−t3)lL=(−1200−12)lL=−12lL
ただし、SU(2)Lの生成子はta=σa2で与えられる。Y=2(Q−t3)を弱いハイパーチャージと呼ぶ。上記よりlLに施されるとYL=−1となる。また弱いアイソスピン一重項であるeRについては、QeR=−eRなのでYR=−2となる。したがって、U(1)Y=U(1)(L+2R)と書ける。
備考:電荷QをSU(2)Lに完全に埋め込むことはできない。つまり、余計なU(1)部分をゲージ変換させずにSU(2)Lに埋め込めない。もしそうなればeRの電荷がゼロとなってしまうためである。
SU(2)の生成子Iaについて (a=1,2,3):
基本表現: Ia=ta=σa2, [ta,tb]=iϵabctc
随伴表現: Ia=(Ta)kl=−i(ϵa)kl
まとめるとレプトン数を別にすると利用可能なゲージ群はSU(2)L×U(1)Yとなる。
それぞれの群について次のようにゲージ場を導入する。
SU(2)L: ゲージ場 baμ 結合定数 g
U(1)Y: ゲージ場 cμ 結合定数 g′
共変微分は
DμΨ=(∂μ−igbaμta−ig′CμY2)Ψ
となる。Ψはフェルミオン場であり、具体的には
DμlL=(∂μ−igσa2baμ+i12g′Cμ)lL
DμeR=(∂μ+ig′Cμ)eR
レプトン・セクターの自由場ラグランジアンは
L0=−ˉlLγ⋅(∂−igb⋅t+i12g′C)lL−ˉeRγ⋅(∂+ig′C)eR
と表せる。
次にbaμとCμの運動項を導入する。それぞれについて場の強さテンソルは
Faμν(b)=∂μbaν−∂νbaμ+gϵabcbbμbcν
Gaμν(C)=∂μCaν−∂νCaμ
となる。ゲージ場の運動項は
Lg=14Faμν(b)Faμν(b)−14Gaμν(C)Gaμν(C)
レプトンの場合と同様にuLとdLも二重項 qL=(uLdL)としてまとめられる。その理由はハドロンの荷電カレントがレプトンの荷電カレントと同じ構造を持つためである。ハイパーチャージの量子数はQ=t3+Y2から求まる。
QqL=(2300−13)qL → Y=13
QuR=23uR → Y=43
QdR=−13dR → Y=−23
よって、クォーク・セクターの運動項は
Lq=−ˉqLγμ(∂μ−igbaμta−ig′6Cμ)qL−ˉuRγμ(∂μ−i23g′Cμ)uR−ˉdRγ⋅(∂+i13g′C)dR
クォークはbμ,Cμに加えてグルーオン(強い相互作用のゲージ場)とも相互作用するが、ここでは省略する。
ヒッグス・ラグランジアン
ヒッグス・スカラー場 ϕ が必要な理由は (a) GW=SU(2)L×U(1)Yの対称性をU(1)emへと破るためと (b) フェルミ粒子に質量を与えるためである。原理的にはこれらの役割を果たす複数のスカラー場を導入できるが最小(ミニマル)スキームでは1つのスカラー場だけで充分である。
⟨ϕ⟩≠0SU(2)×U(1)⟶U(1)emfour gauge bosons baμ, Cμone gauge boson (photon)
ϕへの要請:
(a) 真空期待値が⟨ϕ0⟩≠0でU(1)em対称性をみたす中性な成分が必要。
(b)3つのゲージボソンが質量をを持つので少なくとも3つ以上の成分が必要。
ミニマルなモデルとして複素SU(2)L二重項 Φ=(ϕ+ϕ0) とハイパーチャージY(Φ)=1を選択できる。ただし、Y(Φ)=1となることは、ϕ0がU(1)emを保存することから導かれる。(詳しくは次回note04の冒頭も参照のこと。)このとき共変微分は
DμΦ=∂μΦ−igbμtΦ−ig′2CμΦ
となりヒッグス・ラグランジアンは
LΦ=−(DμΦ)†(DμΦ)−V(Φ)
V(Φ)=λ(Φ†Φ−v22)2
で与えられる。
湯川結合
スカラー粒子とフェルミ粒子との最も一般的なSU(2)×U(1)湯川結合は
Lyuk=f(e)ˉlLΦeR+f(u)ˉqL˜ΦuR+f(d)ˉqLΦdR+h.c.
ここでアイソ二重項˜Φ は ˜Φ=it2Φ∗で定義されハイパーチャージ Y(˜Φ)=−1 を持つ。
備考:
(1) ˉlLeRのような質量項はゲージ不変でない。よって、湯川結合のみが許され、対称性の破れの後に質量が獲得される。
(2) ΦはSU(2)の表現なので、SU(2)表現の持つ擬実数性を用いてY(˜Φ)=−1となる˜Φを定義でき、ヒッグス場を新たに追加しなくても良い。
(3) LyukはSU(2)L×U(1)Yのもとで対称でローレンツ・スカラーである。
(2)についての補足:g∈SU(2)とすると Φ′=gΦ, g=a+i→b⋅→σ (a2+b21+b22+b23=1)
Φ′∗=g∗Φ, g∗=a−ib1σT1+ib2σT2−ib3σT3
iσ2Φ′∗=iσ2g∗Φ∗=g(iσ2Φ∗) ∵) iσ2g∗=(a+i→b⋅→σ)(iσ2)
よって、
˜Φ′=g˜Φ
したがって、ˉqL˜ΦはSU(2)L不変となる。
以上、すべての項を足し合わせると1世代モデルのラグランジアンは次のようになる。
L=L0+Lg+Lq+LΦ+Lyuk=−14(Faμν)2−14(Gμν)2−ˉqLγμ(∂μ−igbaμta−ig′6Cμ)qL−ˉuRγμ(∂μ−i23g′Cμ)uR−ˉdRγμ(∂μ+i13g′Cμ)dR−ˉlLγμ(∂μ−igbaμta+i12g′Cμ)lL−ˉeRγμ(∂μ+ig′Cμ)eR−(DμΦ)†(DμΦ)−λ(Φ†Φ−v22)2+[f(e)ˉlLΦeR+f(u)ˉqL˜ΦuR+f(d)ˉqLΦdR+h.c.]
初めのエントリーで紹介したようにこれらはユークリッド計量による計算結果であることに注意されたい。通常のミンコフスキ計量gμν=diag(1,−1,−1,−1), γi=(0σi−σi0)などを使うと上記のラグランジアンは一部符号が変化し、次のようになる。
L=−14(Faμν)2−14(Gμν)2+iˉqLγμ(∂μ−igbaμta−ig′6Cμ)qL+iˉuRγμ(∂μ−i23g′Cμ)uR+iˉdRγμ(∂μ+i13g′Cμ)dR+iˉlLγμ(∂μ−igbaμta+i12g′Cμ)lL+iˉeRγμ(∂μ+ig′Cμ)eR+(DμΦ)†(DμΦ)−λ(Φ†Φ−v22)2+[f(e)ˉlLΦeR+f(u)ˉqL˜ΦuR+f(d)ˉqLΦdR+h.c.]
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