2018-10-13

科研費奨励研究への応募履歴あるいは応募して不採択になり続ける実例2:平成24年度から平成26年度

前回のエントリー「科研費奨励研究への応募履歴あるいは応募して不採択になり続ける実例1:平成21年度から平成23年度」の続きです。久しぶりに昔に書いた研究計画書を読んでみると懐かしいですね。そう言えばこんなこと考えていたな、少しは進歩したかななど古いアルバムを開くような気分です。さて、早速今回の本題に入って平成24年度から平成26年度の奨励研究への応募書類の一部(研究目的・研究計画の項目)を紹介します。繰り返しになりますが、不採択になったものですので反面教師として参考にしてください。


平成24年度の応募(2011年作成)


研究課題名:ツイスター空間上のホロノミー形式における質量生成機構の解明

●研究目的
素粒子物理学はいま転換点を迎えています。加速器による新しい実験データが蓄積され、これまでにない高エネルギー領域での物理が解明されつつあります。とくに、ヒッグス粒子の存在の有無(存在すればどれだけの質量を持つのか)や超対称性粒子の存在の有無について数年のうちに答えが出ると期待されています。これらの実験の進展に刺激され、理論研究の分野でも多くの現象論的モデルが考案されてきました。例えば、標準模型を超える枠組みとしての超対称性を組み込んだモデル、超弦理論にもとづいた余次元モデルなどが精力的に研究されています。
 一方、最近の観測的天文学の進展により宇宙には未知の暗黒物質・暗黒エネルギーが大量にあることが明らかになっています。この観測事実は物質の生成・消滅を研究する素粒子理論に一大転換(パラダイム・シフト)を要請しているように思われます。つまり、最小超対称標準模型、超弦理論、ループ量子重力理論などこれまでに提唱されてきた基礎理論に代わる新しい理論体系――これまで成功してきた場の量子論にもとづきながらも暗黒物質や暗黒エネルギーの存在を予測し、ヒッグス機構に類似した(あるいは類似しない)質量生成のメカニズムをもった理論的枠組み――が待ち望まれています。
 このような動機から、申請者は、2009年にトポロジカルな場の理論を用いてヤン-ミルズ理論と重力理論の散乱振幅をユニバーサルに理解する枠組みを提唱しました(下記の発表論文3,4参照)。これは2次元共形場理論で定義されるホロノミー演算子をスーパーツイスター空間上で適切に定義することによって、散乱振幅の生成汎関数を統一的に導くものです。この枠組み(ホロノミー形式)を使うと古典的な散乱振幅のレベルで重力理論がヤン-ミルズ理論の2乗として自然に理解できます(発表論文2参照)。また、最近の重要な結果として、ホロノミー形式がループ計算を含む量子的な散乱振幅の導出にまで拡張されることが分かった(発表論文1参照)。
 今回の研究の主な目的は、これまでの結果を踏まえて、ホロノミー形式の枠組みにおける質量生成のメカニズムを解明し、新しい現象論的モデルを構築することです。最新の実験結果に注目しながらもデータに惑わされないよう理論的な整合性を優先しながら研究を進めたいと考えています。

●研究計画
2011年夏以降、トポロジカルな場の理論におけるゲージ不変・ローレンツ不変な質量項についての文献を調査し始めた。とくに、最近研究が盛んなツイスター空間上の散乱振幅の計算において質量項がどのように導入されているかについて理解を進めた。また、平行して、ホロノミー形式における質量項の導入法についての研究を進めている。これらについて成果があがり次第、論文の執筆を開始し、未解決部分を解明しながら2012年3月頃には論文として発表したいと考えている。

発表論文
1. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 4: Functional MHV rules and one-loop amplitudes,” Nucl. Phys. B 854 (2012) pp.193-242, arXiv:1105.6146 [hep-th].
2. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 3: Gravity as a square of N=4 theory,” Nucl. Phys. B 842 (2011) pp.475-500, arXiv:1008.2800 [hep-th].
3. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 2: Hecke algebra, diffeomorphism, and graviton amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.268-302, arXiv:0906.2526 [hep-th].
4. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 1: Bialgebra, supersymmetry, and gluon amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.242-267, arXiv:0906.2524 [hep-th].

審査結果
専門分野別 応募件数:47 採択件数:8
採択されなかった研究課題の中でのおおよその順位:A(上位20%)

ようやく上位1/5に入りましたがまだまだ採択には届きません。この頃は結構頑張っていた(つもりだった)けど、ダメだったのでホントにガッカリしました。


平成25年度の応募(2012年作成)


研究課題名 ツイスター空間上のホロノミー形式による電弱モデルの構成

●研究目的
昨夏、欧州原子核研究機構(CERN)でヒッグス粒子とみられる質量をもつスカラー粒子の発見が報告された。今後、加速器による新しい実験データがさらに蓄積され、これまでにない高エネルギー領域での物理が明らかになると予想される。理論の分野でも、これら実験の進展に刺激され、多くの現象論的モデルが考えられてきた。例えば、近年では、超対称性を組み込んだゲージ理論や超弦理論に基づいた余次元モデルなどを用いて、素粒子物理学の標準模型を超える理論構築が進められている。ただ、これらの試みは未だ実験的に保証されてはおらず、標準模型においてインプット・パラメータとなる電子やクォークといった基本粒子の質量を理論的に予言することも不可能なままである。
また一方で、最近の観測的天文学の進展により宇宙には未知の暗黒物質・暗黒エネルギーが大量にあることが明らかになっている。この観測事実は標準模型では説明のつかないものであり、この観点からも、これまでの基礎理論に代わる新しい理論体系――これまで成功してきた場の量子論にもとづきながらも暗黒物質や暗黒エネルギーの存在を予測し、ヒッグス機構に類似した(あるいは類似しない)質量生成のメカニズムをもった理論的枠組み――が待ち望まれている。
 このような動機から、申請者は、2009年にトポロジカルな場の理論を用いてヤン-ミルズ理論と重力理論の散乱振幅をユニバーサルに理解する枠組みを提唱した(下記の発表論文5,6参照)。これは2次元共形場理論で定義されるホロノミー演算子をスーパーツイスター空間上で適切に定義することによって、無質量ゲージボソンの散乱振幅の生成汎関数を統一的に導くものである。この枠組み(ホロノミー形式)を使うと古典的な散乱振幅のレベルで重力理論がヤン-ミルズ理論の2乗として自然に理解できる(発表論文4参照)。また、ホロノミー形式がループ計算を含む量子的な散乱振幅の導出にまで拡張されることが分かった(発表論文3参照)。最近の研究成果として、質量を持つスカラー粒子とグルーオンの散乱振幅をホロノミー形式から導出できることが分かった(発表論文1参照)。
 今回の研究の主な目的は、これまでの結果を踏まえて、質量を持つフェルミ粒子さらには質量を持つゲージ粒子をホロノミー形式に組み込むことである。とくに、SU(2)×U(1)ゲージ群に注目し、既存の標準電弱理論を超える電弱モデルをホロノミー形式の枠組みで構成することを目指す。最新の実験結果に注目しながらもデータに惑わされないよう理論的な整合性を優先しながら研究を進めたいと考えている。

●研究計画
2012年5月に質量を持つスカラー粒子をホロノミー形式に組み込んだ論文を発表した(同年8月に学術誌に掲載決定、参考文献1)。その後、同様の手法を質量を持つフェルミ粒子に応用することを考え始めた。関連論文を調査し、ほぼ結論は出たが、ホロノミー形式におけるフェルミ粒子の定義に不安があるため、並行して、質量を持つゲージ粒子の生成機構についても(ホロノミー形式の枠組みで)研究を進めている。この研究は、標準電弱理論を新しく書き換えることを意味するため挑戦的な課題であるが、なにか一つでも新しい視点が得られれば、一区切りをつけ、論文として発表したい。前者の研究についてはフェルミ粒子の定義が確定し次第、論文を書ける状態なので、後者の進展次第であるが、2013年4月には論文として発表したいと考えている。

発表論文
1. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 5: Amplitudes of gluons and massive scalars,” Nucl. Phys. B 865 (2012) pp.238-267, arXiv:1205.4827 [hep-th].
2. Y. Abe, “Application of abelian holonomy formalism to the elementary theory of numbers,” J. Math. Phys. 53, 052303, 2012, J. Math. Phys. 53, 052303, 2012, arXiv:1005.4299 [hep-th].
3. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 4: Functional MHV rules and one-loop amplitudes,” Nucl. Phys. B 854 (2012) pp.193-242, arXiv:1105.6146 [hep-th].
4. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 3: Gravity as a square of N=4 theory,” Nucl. Phys. B 842 (2011) pp.475-500, arXiv:1008.2800 [hep-th].
5. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 2: Hecke algebra, diffeomorphism, and graviton amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.268-302, arXiv:0906.2526 [hep-th].
6. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 1: Bialgebra, supersymmetry, and gluon amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.242-267, arXiv:0906.2524 [hep-th].

審査結果
専門分野別 応募件数:44 採択件数:8
採択されなかった研究課題の中でのおおよその順位:B(20%~50%)
〇奨励研究としての適切性について
「奨励研究としてややふさわしくない点がある」又は「奨励研究としてふさわしくない」と評定した審査委員が2名中1名いました。
〇研究経費の妥当性について
「研究計画の内容から判断し、充足率を低くすることが望ましい」又は「研究経費の内容に問題がある」と評定した審査委員が2名中2名いました。

最後の「研究経費の妥当性について」の指摘は初めて受けるものだったので少し驚きました。これまではアメリカとヨーロッパへの渡航費・宿泊費を計上していましたが、次年度はアメリカだけにして金額も30万円以下に減らしました。


平成26年度の応募(2013年作成)


研究課題名:ツイスター空間上のホロノミー形式による標準模型を超える素粒子理論の構築

●研究目的
2012年夏に、欧州原子核研究機構(CERN)でヒッグス粒子とみられる質量をもつスカラー粒子の発見が報告された。今後、加速器による新しい実験データがさらに蓄積され、これまでにない高エネルギー領域での物理が明らかになると予想される。理論の分野でも、これら実験の進展に刺激され、多くの現象論的モデルが考えられてきた。例えば、近年では、超対称性を組み込んだゲージ理論や超弦理論に基づいた余次元モデルなどを用いて、素粒子物理学の標準模型を超える理論構築が進められている。ただ、これらの試みは未だ実験的に保証されてはおらず、標準模型においてインプット・パラメータとなる電子やクォークといった基本粒子の質量を理論的に予言することも不可能なままである。
また一方で、最近の観測的天文学の進展により宇宙には未知の暗黒物質・暗黒エネルギーが大量にあることが明らかになっている。この観測事実は標準模型では説明のつかないものであり、この観点からも、これまでの基礎理論に代わる新しい理論体系――これまで成功してきた場の量子論にもとづきながらも暗黒物質や暗黒エネルギーの存在を予測し、素粒子の質量についての予言能力を持った理論的枠組み――が待ち望まれている。
 このような動機から、申請者は、2009年にトポロジカルな場の理論を用いてヤン-ミルズ理論と重力理論の散乱振幅をユニバーサルに理解する枠組みを提唱した(下記の発表論文5,6参照)。これは2次元共形場理論で定義されるホロノミー演算子をスーパーツイスター空間上で適切に定義することによって、無質量ゲージボソンの散乱振幅の生成汎関数を統一的に導くものである。前年度の「研究計画書」で記したように、この枠組み(ホロノミー形式)に質量をもつフェルミ粒子と質量をもつゲージ粒子を組み込むことを平成25年度の研究目標とした。この研究成果はarXiv:1311. 2988[hep-th]とarXiv:1311.2992[hep-th]に結実した。(これらの論文は現在、学術誌で査読を受けている。)特に、後者の論文では新しい電弱モデルを提唱し、γ行列を使わずにZボソンのフェルミオン対への崩壊確率が計算できることを示した。
 今年度の研究の主な目的は、これらの結果を踏まえて、量子色力学(QCD)を組み込みさらに世代の起源についても研究して、最終的には、標準模型を超える理論の構築に励みたいと考えている。

●研究計画
関連論文の調査はほぼ終了しているので、今後は実際にQCDをホロノミー形式に組み込んで、これまで知られているモデルとの相違点を明らかにしたい。2014年4月にはこの作業を終え、さらに2014年夏までには素粒子の世代について数学的な理解が得られるかどうかはっきりさせ、研究結果を論文としてまとめたい。

発表論文
5. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 2: Hecke algebra, diffeomorphism, and graviton amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.268-302, arXiv:0906.2526 [hep-th].
6. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 1: Bialgebra, supersymmetry, and gluon amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.242-267, arXiv:0906.2524 [hep-th].

審査結果
専門分野別 応募件数:37 採択件数:7
採択されなかった研究課題の中でのおおよその順位:C(50%以下)
〇研究経費の妥当性について
「研究計画の内容から判断し、充足率を低くすることが望ましい」又は「研究経費の内容に問題がある」と評定した審査委員が2名中1名いました。

この年の申請は完全に手抜きで、研究目的の文面も前年度のものを流用し、まだ査読中の論文についても結果が出たようなことを言い、まだ基礎が固まっていないのに夢見心地で実現性の低い誇大妄想的な目標を立ててしまいました。研究経費については前年度までの86万円から26万円に大幅に減額しましたがその妥当性について再び疑義が呈されたのでどうすればいいかよく分からなくなりました。

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