さてタイトルからして自虐的ですが皆様の反面教師となればと思いご報告します。科研費の奨励研究とは研究機関に所属していない人でも申請できる研究費です。民間就職してすぐのころには研究会やセミナーにもお邪魔することがあったのですが、その時に科研費に「奨励研究」というのがあって、企業からでも応募できるので出してみるといいですよと殊勝にも励ましてくれる方々がいらしたので、2008年(平成21年度の申請)から奨励研究に応募しています。しかしながら、恥ずかしながら、まだ一度も採用に至っていません!これから企業や小中高校に所属しながら奨励研究に応募しようという研究熱心な方々への励みにも何にもならず、返ってディスカレッジするようで恐縮ですが、このエントリーでは備忘録としてこれまでの申請内容の一部を紹介します。賢明なる皆様はどうか私と同じ轍を踏まないよう参考にしてください。
去年から奨励研究の応募は電子化されました。それまでは、研究計画書(ワード)と応募カード(エクセル)を用意して、研究計画書については正本とコピーの2部をそれぞれ両面印刷して糊付けして、特定記録郵便で郵送していました。受付期間も例年12月の第1週に指定されていたので、いつも11月下旬に準備を始めてやっつけ仕事のようにササッと提出していました。去年も同様に11月末に準備を始めようと思ったところ、なんと電子申請の手続き期限が過ぎていたのでせっかく9年連続で申請し続けていた(不採択)記録が途絶えてしまいました。そこで今年は早めにサイトをチェックして先日申請しました。ファイルを印刷する必要もなく、糊付けしたり郵便局に行かずに好きな時に送信できるのでだいぶ手間が省けました。もっと早くから電子化して欲しかったくらいです。
初めのころは大学に所属してないとはいえPhDも取ったばかりだし、流行の論文もフォローしているし、書いた論文もまともなジャーナルに出しているので採択してくれるだろうと甘い考えでいましたが、研究課題が奨励研究としてふさわしくない場合もあったようで全くお話になりませんでした。審査結果が後日郵送されてくるのですがその中に「採択されなかった研究課題の中でのおおよその順位」という項目があり
A(上位20%)
B(20%~50%)
C(50%以下)
と分類してくれます。記録の残っている範囲で調べてみると、これまC判定1回、A判定2回で残りは全てB判定です。数年前からは採択されることはほぼ諦めて、研究計画書を無理やりにでも書くいい機会だととらえて応募を続けています。採択には至らなくとも自分でどこまではでき、どこまではできなかったを見直すのは有意義な作業ですし、今後の研究の方向を考えるうえでも定期的に自分のやりたいことを確認するのは大事です。というわけで、私にとって奨励研究への応募は個人的な確認作業のようなものになってしまい、その結果、審査する査読者にもアピールしきれないまま不採択になり続けるという悪循環に陥っているようです。単なる負け惜しみですが、採用されたとしても海外渡航のための旅費しか申請していないので不採択でも家族との時間が取れて良いのではないかと勝手に肯定的に解釈しています。それでは、以下に三回に分けてこれまでの申請内容の一部(研究目的・研究計画の項目)を紹介します。これらは不採択となった(悪)例ですので、くれぐれも真似なさらないようお願いします。
研究課題名:ヤン-ミルズ理論と重力理論を統一的に記述するトポロジカル場の理論の構成
●研究計画・過程
2008年10月から関連論文などを調査し、研究を進めている。上記のホロノミー演算子についての計算を2008年末までに終え、2009年3月までには発表したい。グラビトンの散乱振幅については、2005年に書いた関連論文(Y. Abe, Phys. Lett. B 623 (2005) 126, arXiv:hep-th/0504174v1)を発展解釈する形で理解する。今回の研究では、古典的な散乱振幅を導く生成汎関数を考え、量子(ループ)効果については具体的な計算は行わない。ヤン-ミルズ理論については、いわゆるCSW処方を導く生成汎関数を求めることに研究対象を絞る。また、重力理論については、組紐群の生成子(ヘッケ代数)に関するトレースの定義を与えることに重点を置く。
審査結果
記録が残っていませんがおそらく
採択されなかった研究課題の中でのおおよその順位:C(50%以下)
研究課題名:共形場の理論におけるアーベル型ホロノミー形式の初等整数論への応用
●研究目的
最近、スピノール運動量をもちいたグルーオンおよびグラビトンの散乱振幅の計算に飛躍的な進歩が見られた。これと関連してヤン-ミルズ理論と重力理論の関係性に注目が集まっている。特に、超重力理論が少なくとも摂動的には紫外発散を含まないということが明らかになっている。昨年、この科研費補助金(奨励研究)に応募した際に、研究目的として、「場の理論の立場から、グルーオンの散乱振幅とグラビトンの散乱振幅を導く統一的な記述を模索する。具体的には、ツイスター空間上のホロノミー演算子を定義し、それをもちいて、散乱振幅の生成汎関数を導くことをめざす。重力理論の場合、ヤン-ミルズ理論のカラー(チャン・パートン因子)に対応するものが、粒子の運動量で表される。このとき、カラーのトレースに対応するものがどのように計算されるかを明らかにすることで、重力理論とゲージ理論の対応関係について新たな理解を得たい。」と述べたが、この研究については、下記の発表論文 1, 2 に結実した。今回の応募では、このホロノミー形式の理解をさらに深める研究に焦点を当てたい。具体的には、ホロノミー形式の基礎づけとして、アーベル型の理論を考え、それを初等整数論に応用することを目指したい。このために、まず結び目と素数の関係性、リンク数と(初等整数論における)ルジャンドル記号の関係性、さらにはフーリエ展開と(初等整数論における)ガウス和の関係性などをホロノミー形式の言葉で理解することが必要となる。最終的には、数学の未解決問題の1つであるリーマン予想について物理的な解釈・理解が得られればと考えている。
●研究計画
2009年夏から初等整数論の基礎的事項、素数とリンク数の関係性およびリンク数の一般化について、数学・物理の文献を渉猟した。リーマン予想については以前から興味があったので基礎知識はあったが、理論物理の分野で最近どのような研究がなされているかを調査した。以上の準備を断続的に2009年の11月まで行った。現在、ラングランズ・プログラムと呼ばれる枠組みや3次元重力理論と数論の関係についての最近の論文を読み進めているが、ある程度の理解が得られ次第、いままでの調査・研究をまとめてみる予定である。具体的には、下記の発表論文 3 の結果を発展させて、アーベル型のホロノミー演算子が整数の素因数分解を与えるS行列汎関数になることを議論できればと考えている。執筆の予定としては、(会社の勤務日程にもよるが)2009年12月には執筆を開始し、未解決部分を解明しながら、来年3月ごろには発表したいと考えている。
今回応募する研究内容は、数学の未解決問題に物理の手法(場の量子論)を適用することで、新しい視点を探ろうという挑戦的なものであるため、その性格上、研究成果を具体的に示すことは難しい。しかし、そのような試みは、数理物理学の分野で今後活発になることが予想される。そのため、その研究意義は大きい。また、これまで、企業に勤めながら自主研究を継続しているが、その成果はすべて査読雑誌に掲載されている。今回の研究についても、中途半端に終わらさずに、徹底した研究を行う予定である。
発表論文
1. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 2: Hecke algebra, diffeomorphism, and graviton amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.268-302, arXiv:0906.2526 [hep-th].
2. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 1: bialgebra, supersymmetry, and gluon amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.242-267, arXiv:0906.2524 [hep-th].
3. Y. Abe, “On the deconfining limit in (2+1)-dimensional Yang-Mills theory,” accepted for publication in Nucl. Phys. B, arXiv:0804.3125 [hep-th].
審査結果
専門分野別 応募件数:53 採択件数:11
採択されなかった研究課題の中でのおおよその順位:B(20%~50%)
〇奨励研究としての適切性について
「奨励研究としてややふさわしくない点がある」又は「奨励研究としてふさわしくない」と評定した審査委員が2名中1名いました。
専門分野が「物理学」なのに数学をやろうとしていたので適切性についてふさわしくないと判断されたようです。
研究課題名:ツイスター空間上のホロノミー形式におけるループ計算手法の開発
●研究目的
最近、スピノール運動量をもちいたグルーオンおよびグラビトン(重力子)の散乱振幅の計算に注目が集まっている。これは、ツイスター空間上で定義されたスピノール運動量を用いると、これまで知られていたファインマン図による手法よりも一段と効率的に4次元の散乱振幅の計算が行えることが分かってきたためである。また、この発展と関連して、ヤン-ミルズ理論と重力理論の関係性に注目が集まっている。特に、この関係性を利用することによって、量子重力理論の構築に際して懸案であった4次元超重力理論の紫外発散の問題に解決が与えられつつある。これら一連の発展は、弦理論の進展とも相互に連携しつつも、基本的には、重力を含めた力の統一理論を4次元の場の量子論の立場から構築しようという意図に基づいており、現在、若手を中心に世界中の多くの研究者によって精力的に進められている。
申請者は、2009年にトポロジカルな場の理論を用いてこれらの散乱振幅をユニバーサルに理解する枠組みを提唱した(下記の発表論文1,2を参照)。これは2次元共形場理論で定義されるホロノミー演算子をスーパーツイスター空間上で適切に定義することによって、散乱振幅の生成汎関数を統一的に導くものである。論文1ではグルーオンの散乱振幅を、論文2ではグラビトンの散乱振幅を対象とした。また、2010年には後者が前者の2乗として理解できることを報告した(発表論文3を参照)。
これまでの研究では、散乱振幅は古典的なものだけに限られていた。そこで、今回の研究ではこのホロノミー演算子による枠組み(ホロノミー形式)をループ計算を含む量子的な散乱振幅の導出にまで拡張することを目指している。古典的な散乱振幅はMHV(Maximally Helicity Violating)と呼ばれるある種の振幅の組み合わせで記述できる。これはMHVルールと呼ばれ、一般にループ計算にも適用されると考えられている。実際、1ループのMHV散乱振幅においてMHVルールが成立することが解析的に示されている。しかし、MHV以外のタイプの散乱振幅では、その解析的な表現はユニタリー・カットの手法などから知られてはいるものの、MHVルールの適用性についてはまだ示されていない。ホロノミー形式はMHVルールに基づいて構成されているので、今回の研究の主な目的は、ホロノミー形式の枠組みで具体的にMHVタイプ以外の1ループ計算を実行し、その解析的な表現がこれまでに知られている結果と一致するかどうかを調査することにある。
●研究計画
2010年夏以降、N=4超対称ヤン-ミルズ理論のループ計算についての文献を広く調査しはじめた。2010年11月中旬までには調査をほぼ終了。これまでのループ計算の研究の背景や最近の結果などを理解した。現在、ホロノミー形式の枠組みでループ計算の新しい手法を開発している。
少し技術的になるが研究計画として、①ループ積分測度のオフシェル接続の導出、②6点の1ループMHV振幅の計算、③6点の1ループNMHV(Next-to MHV)振幅の計算、④一般のループ計算についての考察、を順次行っていく予定である。
これらについて成果があがり次第、論文の執筆を開始し、未解決部分を解明しながら2011年3月頃には論文として発表したいと考えている。
発表論文
1. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 3: Gravity as a square of N=4 theory,” Nucl. Phys. B 842 (2011) pp.475-500, arXiv:1008.2800 [hep-th].
2. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 2: Hecke algebra, diffeomorphism, and graviton amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.268-302, arXiv:0906.2526 [hep-th].
3. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 1: Bialgebra, supersymmetry, and gluon amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.242-267, arXiv:0906.2524 [hep-th].
審査結果
専門分野別 応募件数:45 採択件数:8
採択されなかった研究課題の中でのおおよその順位:B(20%~50%)
研究の適切性、研究費の妥当性については「特に問題はありませんでした。」とのことなので後は順位を上げていくだけなのだけど、どうやったら上がるのやら。
去年から奨励研究の応募は電子化されました。それまでは、研究計画書(ワード)と応募カード(エクセル)を用意して、研究計画書については正本とコピーの2部をそれぞれ両面印刷して糊付けして、特定記録郵便で郵送していました。受付期間も例年12月の第1週に指定されていたので、いつも11月下旬に準備を始めてやっつけ仕事のようにササッと提出していました。去年も同様に11月末に準備を始めようと思ったところ、なんと電子申請の手続き期限が過ぎていたのでせっかく9年連続で申請し続けていた(不採択)記録が途絶えてしまいました。そこで今年は早めにサイトをチェックして先日申請しました。ファイルを印刷する必要もなく、糊付けしたり郵便局に行かずに好きな時に送信できるのでだいぶ手間が省けました。もっと早くから電子化して欲しかったくらいです。
初めのころは大学に所属してないとはいえPhDも取ったばかりだし、流行の論文もフォローしているし、書いた論文もまともなジャーナルに出しているので採択してくれるだろうと甘い考えでいましたが、研究課題が奨励研究としてふさわしくない場合もあったようで全くお話になりませんでした。審査結果が後日郵送されてくるのですがその中に「採択されなかった研究課題の中でのおおよその順位」という項目があり
A(上位20%)
B(20%~50%)
C(50%以下)
と分類してくれます。記録の残っている範囲で調べてみると、これまC判定1回、A判定2回で残りは全てB判定です。数年前からは採択されることはほぼ諦めて、研究計画書を無理やりにでも書くいい機会だととらえて応募を続けています。採択には至らなくとも自分でどこまではでき、どこまではできなかったを見直すのは有意義な作業ですし、今後の研究の方向を考えるうえでも定期的に自分のやりたいことを確認するのは大事です。というわけで、私にとって奨励研究への応募は個人的な確認作業のようなものになってしまい、その結果、審査する査読者にもアピールしきれないまま不採択になり続けるという悪循環に陥っているようです。単なる負け惜しみですが、採用されたとしても海外渡航のための旅費しか申請していないので不採択でも家族との時間が取れて良いのではないかと勝手に肯定的に解釈しています。それでは、以下に三回に分けてこれまでの申請内容の一部(研究目的・研究計画の項目)を紹介します。これらは不採択となった(悪)例ですので、くれぐれも真似なさらないようお願いします。
平成21年度の応募(2008年作成)
研究課題名:ヤン-ミルズ理論と重力理論を統一的に記述するトポロジカル場の理論の構成
●研究目的
最近、スピノール運動量をもちいたグルーオンおよびグラビトンの散乱振幅の計算に飛躍的な進歩が見られた。これと関連してヤン-ミルズ理論と重力理論の関係性に注目が集まっている。特に、超重力理論が少なくとも摂動的には紫外発散を含まないということが明らかになりつつある。今回の研究では、場の理論の立場から、グルーオンの散乱振幅とグラビトンの散乱振幅を導く統一的な記述を模索する。具体的には、ツイスター空間上のホロノミー演算子を定義し、それをもちいて、散乱振幅の生成汎関数を導くことをめざす。重力理論の場合、ヤン-ミルズ理論のカラー(チャン・パートン因子)に対応するものが、粒子の運動量で表される。このとき、カラーのトレースに対応するものがどのように計算されるかを明らかにすることで、重力理論とゲージ理論の対応関係について新たな理解を得たい。●研究計画・過程
2008年10月から関連論文などを調査し、研究を進めている。上記のホロノミー演算子についての計算を2008年末までに終え、2009年3月までには発表したい。グラビトンの散乱振幅については、2005年に書いた関連論文(Y. Abe, Phys. Lett. B 623 (2005) 126, arXiv:hep-th/0504174v1)を発展解釈する形で理解する。今回の研究では、古典的な散乱振幅を導く生成汎関数を考え、量子(ループ)効果については具体的な計算は行わない。ヤン-ミルズ理論については、いわゆるCSW処方を導く生成汎関数を求めることに研究対象を絞る。また、重力理論については、組紐群の生成子(ヘッケ代数)に関するトレースの定義を与えることに重点を置く。
審査結果
記録が残っていませんがおそらく
採択されなかった研究課題の中でのおおよその順位:C(50%以下)
あるいはそれ以下(!?)だったと記憶しています。当初は楽観視していたので審査結果を知った時は相当へこみました。
平成22年度の応募(2009年作成)
研究課題名:共形場の理論におけるアーベル型ホロノミー形式の初等整数論への応用
●研究目的
最近、スピノール運動量をもちいたグルーオンおよびグラビトンの散乱振幅の計算に飛躍的な進歩が見られた。これと関連してヤン-ミルズ理論と重力理論の関係性に注目が集まっている。特に、超重力理論が少なくとも摂動的には紫外発散を含まないということが明らかになっている。昨年、この科研費補助金(奨励研究)に応募した際に、研究目的として、「場の理論の立場から、グルーオンの散乱振幅とグラビトンの散乱振幅を導く統一的な記述を模索する。具体的には、ツイスター空間上のホロノミー演算子を定義し、それをもちいて、散乱振幅の生成汎関数を導くことをめざす。重力理論の場合、ヤン-ミルズ理論のカラー(チャン・パートン因子)に対応するものが、粒子の運動量で表される。このとき、カラーのトレースに対応するものがどのように計算されるかを明らかにすることで、重力理論とゲージ理論の対応関係について新たな理解を得たい。」と述べたが、この研究については、下記の発表論文 1, 2 に結実した。今回の応募では、このホロノミー形式の理解をさらに深める研究に焦点を当てたい。具体的には、ホロノミー形式の基礎づけとして、アーベル型の理論を考え、それを初等整数論に応用することを目指したい。このために、まず結び目と素数の関係性、リンク数と(初等整数論における)ルジャンドル記号の関係性、さらにはフーリエ展開と(初等整数論における)ガウス和の関係性などをホロノミー形式の言葉で理解することが必要となる。最終的には、数学の未解決問題の1つであるリーマン予想について物理的な解釈・理解が得られればと考えている。
●研究計画
2009年夏から初等整数論の基礎的事項、素数とリンク数の関係性およびリンク数の一般化について、数学・物理の文献を渉猟した。リーマン予想については以前から興味があったので基礎知識はあったが、理論物理の分野で最近どのような研究がなされているかを調査した。以上の準備を断続的に2009年の11月まで行った。現在、ラングランズ・プログラムと呼ばれる枠組みや3次元重力理論と数論の関係についての最近の論文を読み進めているが、ある程度の理解が得られ次第、いままでの調査・研究をまとめてみる予定である。具体的には、下記の発表論文 3 の結果を発展させて、アーベル型のホロノミー演算子が整数の素因数分解を与えるS行列汎関数になることを議論できればと考えている。執筆の予定としては、(会社の勤務日程にもよるが)2009年12月には執筆を開始し、未解決部分を解明しながら、来年3月ごろには発表したいと考えている。
今回応募する研究内容は、数学の未解決問題に物理の手法(場の量子論)を適用することで、新しい視点を探ろうという挑戦的なものであるため、その性格上、研究成果を具体的に示すことは難しい。しかし、そのような試みは、数理物理学の分野で今後活発になることが予想される。そのため、その研究意義は大きい。また、これまで、企業に勤めながら自主研究を継続しているが、その成果はすべて査読雑誌に掲載されている。今回の研究についても、中途半端に終わらさずに、徹底した研究を行う予定である。
発表論文
1. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 2: Hecke algebra, diffeomorphism, and graviton amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.268-302, arXiv:0906.2526 [hep-th].
2. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 1: bialgebra, supersymmetry, and gluon amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.242-267, arXiv:0906.2524 [hep-th].
3. Y. Abe, “On the deconfining limit in (2+1)-dimensional Yang-Mills theory,” accepted for publication in Nucl. Phys. B, arXiv:0804.3125 [hep-th].
専門分野別 応募件数:53 採択件数:11
採択されなかった研究課題の中でのおおよその順位:B(20%~50%)
〇奨励研究としての適切性について
「奨励研究としてややふさわしくない点がある」又は「奨励研究としてふさわしくない」と評定した審査委員が2名中1名いました。
専門分野が「物理学」なのに数学をやろうとしていたので適切性についてふさわしくないと判断されたようです。
平成23年度の応募(2010年作成)
研究課題名:ツイスター空間上のホロノミー形式におけるループ計算手法の開発
●研究目的
最近、スピノール運動量をもちいたグルーオンおよびグラビトン(重力子)の散乱振幅の計算に注目が集まっている。これは、ツイスター空間上で定義されたスピノール運動量を用いると、これまで知られていたファインマン図による手法よりも一段と効率的に4次元の散乱振幅の計算が行えることが分かってきたためである。また、この発展と関連して、ヤン-ミルズ理論と重力理論の関係性に注目が集まっている。特に、この関係性を利用することによって、量子重力理論の構築に際して懸案であった4次元超重力理論の紫外発散の問題に解決が与えられつつある。これら一連の発展は、弦理論の進展とも相互に連携しつつも、基本的には、重力を含めた力の統一理論を4次元の場の量子論の立場から構築しようという意図に基づいており、現在、若手を中心に世界中の多くの研究者によって精力的に進められている。
申請者は、2009年にトポロジカルな場の理論を用いてこれらの散乱振幅をユニバーサルに理解する枠組みを提唱した(下記の発表論文1,2を参照)。これは2次元共形場理論で定義されるホロノミー演算子をスーパーツイスター空間上で適切に定義することによって、散乱振幅の生成汎関数を統一的に導くものである。論文1ではグルーオンの散乱振幅を、論文2ではグラビトンの散乱振幅を対象とした。また、2010年には後者が前者の2乗として理解できることを報告した(発表論文3を参照)。
これまでの研究では、散乱振幅は古典的なものだけに限られていた。そこで、今回の研究ではこのホロノミー演算子による枠組み(ホロノミー形式)をループ計算を含む量子的な散乱振幅の導出にまで拡張することを目指している。古典的な散乱振幅はMHV(Maximally Helicity Violating)と呼ばれるある種の振幅の組み合わせで記述できる。これはMHVルールと呼ばれ、一般にループ計算にも適用されると考えられている。実際、1ループのMHV散乱振幅においてMHVルールが成立することが解析的に示されている。しかし、MHV以外のタイプの散乱振幅では、その解析的な表現はユニタリー・カットの手法などから知られてはいるものの、MHVルールの適用性についてはまだ示されていない。ホロノミー形式はMHVルールに基づいて構成されているので、今回の研究の主な目的は、ホロノミー形式の枠組みで具体的にMHVタイプ以外の1ループ計算を実行し、その解析的な表現がこれまでに知られている結果と一致するかどうかを調査することにある。
●研究計画
2010年夏以降、N=4超対称ヤン-ミルズ理論のループ計算についての文献を広く調査しはじめた。2010年11月中旬までには調査をほぼ終了。これまでのループ計算の研究の背景や最近の結果などを理解した。現在、ホロノミー形式の枠組みでループ計算の新しい手法を開発している。
少し技術的になるが研究計画として、①ループ積分測度のオフシェル接続の導出、②6点の1ループMHV振幅の計算、③6点の1ループNMHV(Next-to MHV)振幅の計算、④一般のループ計算についての考察、を順次行っていく予定である。
これらについて成果があがり次第、論文の執筆を開始し、未解決部分を解明しながら2011年3月頃には論文として発表したいと考えている。
発表論文
1. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 3: Gravity as a square of N=4 theory,” Nucl. Phys. B 842 (2011) pp.475-500, arXiv:1008.2800 [hep-th].
2. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 2: Hecke algebra, diffeomorphism, and graviton amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.268-302, arXiv:0906.2526 [hep-th].
3. Y. Abe, “Holonomies of gauge fields in twistor space 1: Bialgebra, supersymmetry, and gluon amplitudes,” Nucl. Phys. B 825 (2010) pp.242-267, arXiv:0906.2524 [hep-th].
審査結果
専門分野別 応募件数:45 採択件数:8
採択されなかった研究課題の中でのおおよその順位:B(20%~50%)
研究の適切性、研究費の妥当性については「特に問題はありませんでした。」とのことなので後は順位を上げていくだけなのだけど、どうやったら上がるのやら。
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