2020-05-20

最近読んだ本:「フランクリンの凧」の一般化!

「フランクリンの凧」と聞いてピンとくる人は中学の時に平面幾何が好きだった人ですよね。今回はそんな人向けのエントリーです。私も中学生の時は平面幾何が好きで矢野健太郎先生の名著『幾何の有名な定理』


をよく読んだものです。今でも本棚に飾っています。平面幾何を深めていくと結局平面上の点を複素平面上で解析的に考えれば補助線などに頼らなくても機械的に平面幾何を理解できるということに気づきます。つまりガウス平面の導入です。ガウス平面は単に2次元上のデカルト座標$(x, y)$を虚数 $z= x + i y$ として考え、$x$ 座標、$y$ 座標をそれぞれ実軸、虚軸とみなすことで得られます。こうするとガウス平面上での点 $z$ を極座標表示 $z = r e^{i \th} = r ( \cos \th + i \sin \th )$ することが出来、角度 $\th$ の議論がしやすくなります。極座標表示を使うと単位円の場合($r = 1$)に $z^n = e^{i n \th } = ( \cos \th + i \sin \th )^n =  \cos n \th + i \sin n \th$ となることは容易にわかりますがこれはド・モアブルの定理と呼ばれています。この辺りの話は三角関数が出てくるので高校で習います。この頃には、三角関数の加法定理や余弦定理などを覚えることで忙しく平面幾何なんて算数だよなあなんて感じるかもしれませんが、中学生の時に知った九点円の話のようなシンプルだけどエレガントで美しい結果はやはり魅力的です。

そんな平面幾何の問題であれは何だったのだろうとたまに思い出すのが「フランクリンの凧」と呼ばれる解法で角度を求める問題です。有名な問題なので検索をかけてみると

http://ytsumura.cocolog-nifty.com/blog/2004/08/post_3.html

からの一連の投稿で昔の中学生たちが活発に議論しているのを興味深く読みました。また、こちらのサイト

https://tsujimotter.hatenablog.com/entry/langley-problem

を覗いてみるとなんと素晴らしいタイトルの本が紹介されていました。斉藤浩著『ラングレーの問題にトドメをさす!―4点の作る小宇宙完全ガイド』


です(税別2700円)。少しためらいましたがアマゾンで購入しました。本が配送されるまで著者のサイトで所謂ラングレー問題あるいは4点角問題について復習しました。こちら


の証明例8で「フランクリンの凧」という通称のもとになった証明が紹介されています。類似のラングレー問題一覧ページ

https://www.gensu.co.jp/saito/challenge/index.html

から一問を適当に選んで


中学生になった気分で手を出してみました。しかし、いくら考えても全く歯が立ちません。理論物理でPhDまで取得したのに中学生の問題が解けないのか~と己を奮い立たせて頑張りましたがダメでした。仕方なく解答を見ると



のとおり答えは$12$°です。これは大変!とてもじゃないけど解けないです。悔しいのでもう一度自力で解答をなぞってみましたがそれでも大変でした。問題一覧のページをみると似たような難問が36問も紹介されています。どうやら著者やこれらの問題群をシステマティックに生成・解答する手法を開発したのだなと予想は付きましたがどのようにやったのかなあと思いを巡らしているうちに本が届きました。

早速、ざっと見てみるとやはり4点角問題を類型化して4つの角度が整数(あるいは非整数の有理数)となる場合全てについてしらみつぶしに数え上げ、本の後半ではその解法の分類別一覧が紹介されています。ここでの解法は初等平面幾何を用いた解法を意味します。上の例でいうと背後に隠れている正三角形を明示化して(正三角形が出てこない場合も含めて)解法を分類しています。前半部では著者のこの問題への動機づけと解決に至った経緯が詳しく述べられていてその情熱に圧倒されました。私には全てフォローする気概はありませんでしたが、この4点角問題の背後にある代数的構造を知ることが出来たのは勉強になりました。特に結晶構造にも似た有限群のもつ対称性、具体的には立方八面体で表される対称性、があることが詳説されており興味深かったです。

また、この本の特設ページでは解法の分類別にどのように4点問題の図形が連続変化するかをアニメーションとして見ることが出来ます。本の内容を自分の目と手で確認できるので画期的な試みだと思います。もう10年以上前からあったのに全く知りませんでした。

こちらのページによると2015年10月にはこの本が刊行された当時まだ初等幾何では未解決であった一部の4点角問題(本書11.3節を参照)がとうとう解決されたそうです。これですべての4点角問題(ラングレー問題)が初等幾何を用いて解決されたそうです。これは純粋に貴重な成果・進展ではないでしょうか。このような事実に簡単にアクセスできるなんてありがたいことです。ひとえに著者の斉藤浩さんのおかげです。興味ある方は試しに上記のURL、例えば

https://www.gensu.co.jp/saito/challenge/index.html
https://www.gensu.co.jp/saito/challenge/langley.html
http://www.gensu.co.jp/saito/langley/

を覗いてみてはいかがでしょうか。

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