2024-11-15

12. リー群の幾何学的側面 vol.4

12.3 既約表現



この節ではリー群要素 $g \in G$ の既約表現について考える。12.1節の初めに紹介した群の公理(合成則、結合則、単位元・逆元の存在)は群の要素を(可逆な)正則行列と見做しても成立する。実際、群の要素と行列の集合は準同型 (homomorphic) であることが知られている。12.2節の(12.16)で $SU(2)$ 群の $2 \times 2$ 行列表現 $g (\th ) = \exp \left( i \frac{\si^a}{2} \th^a \right)$ を導入した。これは $SU(2)$ の定義表現と呼ばれる。この表現からさらに高次元の行列表現を構成できる。例えば、行列のブロック対角化
\[    \left(      \begin{array}{cc}        g_1 (\th ) & 0 \\        0 & g_1 (\th ) \\      \end{array}    \right)    \left(      \begin{array}{cc}        g_2 (\th ) & 0 \\        0 & g_2 (\th ) \\      \end{array}    \right)    =    \left(      \begin{array}{cc}        g_1 g_2 & 0 \\        0 & g_1 g_2 \\      \end{array}    \right) .    \tag{12.51} \]
を用いると、$4 \times 4$ 行列による可約表現を得る。一方、既約表現は行列の相似変換 (similarity transformation) によってブロック対角化されない表現で定義される。ここで、相似変換は一般に正則行列を変換行列として定義される。例えば、(12.51)の相似変換は $4 \times 4$ 特殊ユニタリー行列 $U$ を用いて
\[    U^\dagger    \left(      \begin{array}{cc}        g_1 (\th ) & 0 \\        0 & g_1 (\th ) \\      \end{array}    \right)    U \,    U^\dagger    \left(      \begin{array}{cc}        g_2 (\th ) & 0 \\        0 & g_2 (\th ) \\      \end{array}    \right)    U    \, = \,    U^\dagger    \left(      \begin{array}{cc}        g_1 g_2 & 0 \\        0 & g_1 g_2 \\      \end{array}    \right)    U \, .    \tag{12.52} \]
と表せる。

復習:テンソル解析

 5.3節で解説したように $SU(3)$ 群の既約表現はテンソル解析によって構成できる。以下では一般のリー群についてテンソル解析を用いてどのように既約表現が構成できるかを見る。まず、$N \times N$ 行列はベクトル空間 $V$ の線形変換を定義することに注意する。$V$ の基底を $\phi_i$ $(i = 1,2, \cdots N)$ とおく。このとき $\phi_i$ の変換は
\[    \phi^\prime_i  \, = \, g_{ij} \, \phi_i    \tag{12.53} \]
と表せる。ただし、$g_{ij}$ は対象となる群の要素の行列表現である。同様に、直積空間 $V \otimes V$ の基底要素の集合である階数2のテンソル $\Psi_{ij} \equiv \phi_i \chi_j$ に注目し、その変換を考えよう。($\chi_i$ は2つ目のベクトル空間 $V$ の基底を表す。)
\[   \Psi^{\prime}_{ij} \, = \, g_{ik} \, g_{jl} \, \Psi_{kl}    \, \equiv \, G_{ij,kl} \,  \Psi_{kl}     \tag{12.54} \]
このとき、$G_{ij,kl}$ は群の合成則 $g^{(1)} \cdot g^{(2)} = g^{(3)}$ を保存する。
\[    G^{(1)}_{ij,kl} G^{(2)}_{kl,mn}    \, = \,    g^{(1)}_{ik} g^{(2)}_{km} \, g^{(1)}_{jl} g^{(2)}_{ln}    \, = \,    g^{(3)}_{im} g^{(3)}_{jn}    \, = \,    G^{(3)}_{ij,mn}   \tag{12.55} \]
この関係式は $G_{ij,kl}$ が2つの表現の合成表現であることを示している。一般に、このような合成表現は既約であり、対称成分と反対称成分を含む。任意の階数の合成表現から既約表現を得るには、次の還元則を適用する必要がある。
  1.  対称成分と反対称成分を分離する。5.3節の(5.21), (5.22)で見たように対称成分と反対称成分はそれぞれ独立に変換する。\[     \frac{1}{2} ( \Psi^{\prime}_{ij}  \pm \Psi^{\prime}_{ji} ) \,=\,   \frac{1}{2} ( g_{ik} \, g_{jl} \Psi_{kl} \pm g_{jk}\, g_{il} \Psi_{kl} )   \,  = \, g_{ik} \, g_{jl} \frac{1}{2}( \Psi_{kl} \pm \Psi_{lk} ) \tag{12.56} \]この関係は群の構造に依らない。よって、任意の階数をもつテンソルの添え字は \[ \Psi^{j_1 j_2 \cdots j_m}_{i_1 i_2 \cdots i_n}  \tag{12.57} \] とラベルできる。ただし、上付き添え字 $(j_1 j_2 \cdots j_m )$ は完全対称に、下付き添え字 $(i_1 i_2 \cdots i_n )$ は完全反対称に取れる。
  2. それぞれの群に応じて不変なテンソルが存在する。これらの不変テンソルを用いてテンソル(12.57)の添え字を縮約できる。
例えば、5.3節で解説したように $SU(3)$ 群の不変テンソルは $\del^{i}_{j}$ と $\ep_{ijk}$ で与えられる。反対称テンソル $\ep_{ijk}$ との縮約は添え字の分離(12.57)を保証する。また、クロネッカー・デルタ $\del^i_j$ との縮約はトレース・ゼロのテンソルのみがカウントされることを意味する。一方、$SU(2)$ 群の場合、不変テンソルは2階の反対称テンソル $\ep^{ij}$ だけである。$\ep^{ij}$ との縮約を繰り返すとテンソル(12.57)は $\Psi^{j_1 j_2 \cdots j_m}$ と上付き添え字のみで表せる。

 既約表現を構成するこのテンソル解析はコンパクト群一般に適用される。実際、ワイル (Weyl) による次の定理が存在する。
  1. コンパクト群の全てのユニタリー既約表現は有限次元であり、定義表現のテンソル積に上記の還元則を適用することで具体的に求められる。
  2. 非コンパクト群において全ての有限次元の表現は非ユニタリーであり、全てのユニタリー表現は無限次元となる。
ここで、コンパクト群は有限体積をもつリー群 $G$ で定義される。12.2節で定義したカルタン-キリング計量は
\[\begin{eqnarray}     ds^2 & = & - 2 \Tr ( g^{-1} d g \, g^{-1} dg ) \nonumber \\    & = &  E^a_\mu E^a_\nu \, d \th^\mu d \th^\nu \, = \, g_{\mu \nu} \, d \th^\mu d \th^\nu    \tag{12.58} \end{eqnarray}\]
であった。ただし、$g^{-1} d g = i t^a E_\mu^a \, d \th^\mu $ は $G$ のフレーム場1形式である。$t^a$ ($a = 1,2, \cdots, \dim G$) はリー代数 G の基底(生成子)を成す行列で代数  $[ t^a , t^b ]  =  i C^{abc} t^c$ を満たす。ここで、$C^{abc}$ は構造定数であり、規格化は $\Tr (t^a t^b ) = \hf \del^{ab}$ で与えられる。以上より、リー群 $G$ の体積要素は
\[    dV \, = \, \sqrt{|\det g |} \, d \th^1 d \th^2 \cdots d \th^{\dim G}    \tag{12.59} \]
で与えられる。ただし、$\det g$ は計量テンソル $g_{\mu \nu} = E^a_\mu E^a_\nu $ を行列表示した際の行列式を表す。よって、コンパクト群は有限体積の条件式
\[    \int_{G} d V \, < \, \infty     \tag{12.60} \]
で定義される。12.1節の最後に紹介したように、カルタン-キリングによる半単純リー代数の分類で現れたリー群は、パラメータが実数のとき全てコンパクト群となる。一方、非コンパクト群の典型的な例はローレンツ群で与えられる。

リー代数のランクに関するワイルの定理

 リー代数 G のランク(階数)はその基底行列 $t^a$ のなかで同時対角化可能な行列の最大数で定義される。例えば、パウリ行列は唯一つの対角行列を持つので $SU(2)$ 代数のランクは1である。同様に、1.5節で紹介したゲルマン行列(1.49)は2つの同時対角行列を持つので $SU(3)$ 代数のランクは2である。

 リー代数 G の基底行列 $t^a$ で構成されるより大きな集合 $\{ t^a , t^a t^b , t^a t^b t^c , \cdots \}$ を考えられる。これには $t^2 = \del^{ab} t^a t^b$ など添え字が縮約された要素も含まれる。行列 $t^a$ についての特性方程式(あるいはケイリー・ハミルトンの定理)を用いるとこれらの次数を下げることができる。しかし、一般にこれらの集合要素は元々の代数とは異なる代数を成す。というのも、$t^2$ などの縮約された要素は必ずしも元の代数の要素に属さないためである。このように構成された(大きな)代数は G の包絡代数 (enveloping algebra) と呼ばれる。包絡代数には元となるリー代数の全ての要素と交換する要素が含まれる。例えば、角運動量代数において2次の演算子 $J^2$ は $[ J^2 , J^a ] = 0$ を満たすので角運動量代数の全ての要素 $J^a$ $(a = 1,2,3)$ と交換する。このように元となるリー代数 G の全ての要素と交換する演算子をカシミール演算子と呼ぶ。この演算子は G の包絡代数の中心要素に対応する。リー代数のランクに関してワイルによる次の定理が存在する。
  1. リー代数において独立なカシミール演算子の数はそのリー代数のランクに等しい。
  2. リー群 $G$ において独立な不変テンソルの数は対応するリー代数 G のランクに等しい。
$SU(2)$ 代数のランクは1なので、カシミール演算子は $J^2$ の1つだけであり、不変テンソルは唯一 $\ep^{ij}$ で与えられる。上で見たように、これらの事実から $SU(2)$ 群の既約表現が求まる。

カシミール演算子: SU(3) とそれ以外

 以上より、コンパクト・リー群の既約表現を求めるにあたりカシミール演算子と不変テンソルが重要であることが分かった。以下では、$SU(3)$ 代数のカシミール演算子を考えることでこの点をもう少し深堀する。$SU(3)$ 代数のランクは2であるので、2つの不変テンソルと2つのカシミール演算子が存在する。不変テンソルは生成子 $t^a$ ($a = 1,2, \cdots , 8$) の多重項のトレースから得られる。というのも、そのようなトレースは変換 $t^a \rightarrow h^{-1} t^a h$ のもとで不変なためである。ただし、$h \in G=SU(3)$ である。$SU(3)$ 群の要素 $g = \exp ( i t^a \th^a )$ は $g \rightarrow h^{-1} g h = \exp ( i h^{-1} t^a h \th^a )$ と変換することに注意しよう。トレース $ \Tr (t^a t^b )$ の不変性は次のように直接確認できる。
\[    \Tr (t^a t^b ) \longrightarrow \Tr (h^{-1} t^a h h^{-1} t^b h )    \, = \, \Tr (t^a t^b ) \, = \, \frac{1}{2} \, \del^{ab}    \tag{12.61} \]
不変テンソル $\del^{ab}$ に対応するカシミール演算子は $\del^{ab} t^a t^b  =  t^a t^a = t^2$ で与えられる。

 もう一方のカシミール演算子は3次のオーダーのトレース $ \Tr (t^a t^b t^c)$ から計算できる。このトレースは次にように対称成分と反対称成分に分離できる。
\[\begin{eqnarray}    \Tr ( t^a t^b t^c ) &=& \Tr \left[ t^a \left( \frac{1}{2} [ t^b , t^c ] + \frac{1}{2}    \{ t^b , t^c \} \right) \right]    \nonumber \\    &=& \frac{1}{2} \Tr \left[ t^a \left( i C^{bck} t^k \right) \right]     + \frac{1}{2} \Tr \left[ t^a \{ t^b , t^c \}  \right]    \nonumber \\    &=& \frac{i}{4} C^{abc} + \frac{1}{4} d^{abc}    \tag{12.62} \end{eqnarray}\]
ただし、添え字について対称な記号
\[    d^{abc} \, \equiv \, 2 \Tr \left[ t^a (t^b t^c + t^c t^b ) \right]      \tag{12.63} \]
を導入した。リー代数 $[ t^a , t^b ] = i C^{abk} t^k$ を用いると、(12.62)の反対称成分は2次のトレース $\Tr ( t^a t^k )$ に還元される。よって、(12.62)から新しいカシミール演算子を求めるにはこの反対称部分は必要ない。言い換えると、2次のトレースと独立な3次のトレースは対称化されたトレース(12.63)で与えられる。この不変な対称テンソルに対応するカシミール演算子は $d^{abc} t^a t^b t^c$ と表せる。$SU(2)$ の場合は、$t^a = \frac{\si^a}{2}$ となり $(t^b t^c + t^c t^b) = \hf \del^{bc} {\bf 1}$ が成り立つので、対称記号 $d^{abc}$ はゼロとなることに注意しよう。

 同様に、$SU(n)$ $( n \ge 4) $ のカシミール演算子も高次の対称化されたトレースから計算できる。上記の $\frac{1}{4} d^{abc} = \frac{1}{2} \Tr (t^a t^b t^c + t^a  t^c t^b ) $ に対応する $n$ 次の対称記号を $\ka^{a_1  a_2 \cdots a_n}$ とすると、これは対称化されたトレースを用いて
\[    \ka^{a_1  a_2 \cdots a_n} \, = \, \frac{1}{(n-1)!} \sum_{\si \in \S_{n-1}}     \Tr ( t^{a_1} t^{a_{\si(2)}} t^{a_{\si(3)}} \cdots t^{a_{\si(n)}} )    \tag{12.64} \]
と定義できる。ただし、$\si \in \S_{n-1}$ についての和は集合 $\{ 2, 3, \cdots , n \}$ の置換 $\si$ について取る。ここで、$\si$ は $\si =\left( \begin{array}{c} 2 ~ 3 ~ \cdots ~ n  \\ \si_2 \si_3 \cdots \si_n \\ \end{array} \right)$ とラベルされる。不変な対称テンソル $\ka^{a_1  a_2 \cdots a_n}$ に対応するカシミール演算子は $\ka^{a_1  a_2 \cdots a_n} t^{a_1} t^{a_2} \cdots t^{a_n}$ で与えられる。

2024-11-08

12. リー群の幾何学的側面 vol.3

前回のエントリーではリー群についてカルタン-キリング計量を導入し、計量を定義するフレーム場が満たすモーレー-カルタン恒等式を求めた。この恒等式とトーション・ゼロの条件式との類推から、リー群をリーマン多様体と解釈できることが分かった。リー群の幾何学を考察するにあたり重要となる量はフレーム場1形式である。今回も引き続きこの視点からリー群の幾何学的な側面について考える。具体的にはリー群のコセット空間(商空間)として表せる2次元球面 $S^2 = SU(2) / U(1)$ の計量を導出する。

コセット空間 S2 = SU(2)/U(1) の計量

 ここで $SU(2)$ 群の場合に戻ると、$SU(2)$ 群の要素の一般形は
\[    g \, = \, \frac{1}{\sqrt{1 + z \bz }}    \left(    \begin{array}{cc}                  1 & z \\    - \bz & 1 \\    \end{array}  \right)     \left(    \begin{array}{cc}   e^{i \th /2} & 0 \\   0 & e^{-i \th /2} \\   \end{array}  \right)    \tag{12.40}\]
と表せる。ただし、$z = x + i y$ は複素変数である。実際、微小な $\th$, $|z|$ に対して、$g$ は恒等行列とパウリ行列 $\si_i$ で展開できる。
\[    g \, \approx \,  \left(  \begin{array}{cc}   1 + i \th /2  & x + i y \\   - x + iy & 1 - i \th /2 \\   \end{array}  \right)    \, = \,    {\bf 1} +  i \frac{\th}{2} \si_3  + i x \si_2  + i y \si_1   \tag{12.41} \]
つぎに、
\[ g (z, \th ) = v (z) h( \th ) \tag{12.42} \]
として変数分離を考える。
\[    v (z) = \frac{1}{\sqrt{1 + z \bz }}   \left(  \begin{array}{cc}    1 & z \\  - \bz & 1 \\    \end{array}   \right) , ~~~    h (\th ) =  \left(  \begin{array}{cc}      e^{i \th / 2} & 0 \\  0 & e^{-i \th / 2} \\   \end{array} \right)    \tag{12.43} \]
このとき、群の要素の規格化  $g^\dagger g = 1$ は $v^\dagger v = 1$ から簡単に確認できる。フレーム場1形式は
\[    g^{-1} d g \, = \, h^{-1} ( v^{-1} d v ) h +  h^{-1} d h    \tag{12.44} \]
と表せる。ただし、右辺の各項は次のように計算できる。
\[\begin{eqnarray}    v^{-1} d v &=&   \frac{1}{\sqrt{1 + z \bz }}  \left(            \begin{array}{cc}    1 & -z \\     \bz & 1 \\    \end{array}   \right)    \nonumber \\    && ~~~~~    \cdot  \left[   \frac{1}{\sqrt{1 + z \bz }}     \left(                \begin{array}{cc}   0 & d z \\    - d \bz & 0 \\    \end{array}  \right)   -              \left(  \begin{array}{cc}  1 & z \\  - \bz & 1 \\    \end{array}   \right)  \frac{\bz dz + z d \bz }{2(1 + z \bz )^{3/2}}    \right]    \nonumber \\    &=&    \frac{1}{1+ z \bz}  \left(  \begin{array}{cc}  z d \bz & d z \\   - d \bz & \bz d z \\            \end{array}  \right)  -  \frac{\bz dz + z d \bz }{2(1 + z \bz )}  {\bf 1}   \nonumber \\    &=&   \frac{1}{1+ z \bz}   \left(  \begin{array}{cc}                  (z d \bz - \bz dz )/2 & d z \\   - d \bz & - (z d \bz - \bz dz ) /2 \\                \end{array}  \right)   \nonumber \\    &=&    \frac{\si_1}{2}  \frac{d z -  d \bz }{1+ z\bz}  +  i \frac{\si_2}{2} \frac{ d z +  d \bz }{1+ z\bz}    +    \frac{\si_3}{2}  \frac{ z d \bz - \bz dz}{1+ z\bz}    \tag{12.45}\\    h^{-1} ( v^{-1} d v ) h    &=&    \left(  \begin{array}{cc}  ( z d \bz - \bz dz ) /2 & e^{-i \th} d z \\     - e^{i \th} d \bz & - ( z d \bz - \bz dz ) /2 \\   \end{array}    \right)     \frac{1}{1+ z \bz}    \nonumber \\    &=&    \frac{\si_1}{2} \frac{ e^{-i \th}  d z - e^{i \th} d \bz }{1+ z\bz}    +    i \frac{\si_2}{2} \frac{ e^{-i \th}  d z + e^{i \th} d \bz }{1+ z\bz}    +    \frac{\si_3}{2}  \frac{ z d \bz - \bz dz}{1+ z\bz}    \tag{12.46}\\    h^{-1} d h &=& \left(  \begin{array}{cc}    \frac{i}{2} d \th  & 0 \\   0 & - \frac{i}{2} d \th \\   \end{array}    \right) = \, i \frac{\si_3}{2} d \th     \tag{12.47} \end{eqnarray}\]

 式(12.45)-(12.47)を用いると、カルタン-キリング計量(12.44)は
\[\begin{eqnarray}    ds^2 &=& - 2 \Tr ( g^{-1} dg \, g^{-1} dg )    \nonumber \\    &=&    -2 \Tr \left[    (v^{-1} d v )^2 + 2 v^{-1} dv dh h^{-1} + ( h^{-1} dh)^2    \right]    \nonumber \\    &=&    - \left( \frac{ dz - d \bz }{1 + z \bz} \right)^2    + \left( \frac{ dz + d \bz }{1 + z \bz} \right)^2    - \left( \frac{ z d \bz - \bz d z }{1 + z \bz} \right)^2    \nonumber \\    && ~~    - i 2 \left( \frac{ z d \bz - \bz d z }{1 + z \bz} \right) d \th    + d \th^2    \nonumber \\    &=&    4 \frac{ dz d \bz}{(1+ z \bz )^2}    - \left( \frac{ z d \bz - \bz d z }{1 + z \bz} + i d \th \right)^2    \tag{12.48} \end{eqnarray}\]
と計算できる。上式の第1項は2次元球面 $S^2$ の計量に対応する。これはフビニ-スタディ計量と呼ばれる。実際、2次元球面のステレオ射影(立体射影)による座標
\[    x_1 = \frac{z + \bz }{1 + z\bz} \, , ~~~    x_2 = i \frac{z - \bz }{1 + z\bz} \, , ~~~    x_3 = \frac{1 - z \bz }{1 + z\bz}    \tag{12.49} \]
を用いると、これらは $x_1^2 + x_2^2 + x_3^2 = 1$ を満たし、その計量は
\[ ds^2 \, = \, dx_1^2 + dx_2^2 + dx_3^2 \, = \, 4 \frac{ dz d \bz}{(1+ z \bz )^2}   \tag{12.50} \]
と計算できる。よって、カルタン-キリング計量(12.48)は計量レベルでコセット関係 $S^2 = SU(2)/U(1)$ を明示していることが分かった。この計量は $SU(2)$ 対称性の自発的破れの解析に有用である。この自発的対称性の破れは、物理において強磁性体スピン波の動力学を記述する。第14章ではこのような現象についてより詳しく解説する。

2024-11-07

伊吹山ドライブウェイ値上がり直前に駆け込み登山

登山道の一部閉鎖で車でしかアクセスできなくなってしまった伊吹山山頂。ドライブウェイが値上がりする直前の文化の日に遥々都内から遠征しました。8時開門と同時にゲートに到着。ただ、すでに駐車場で待機している車がいたので順番待ちをして9時前に山頂到着。広々とした駐車場です。ドライブウェイは歩行禁止とのこと。途中、側溝にタイヤがハマっている初心者マークの車があったので注意してください。駐車場から山頂までは1時間ほどで往復できます。ヤマトタケル終焉の地。ほぼ独立峰で遠くからでも目立つその山容。関東の筑波山のように昔から信仰の対象となっていたようです。伊吹山固有の高山植物も多く貴重な植生が保全されているとのこと。駐車場につくと何かのオフ会があるらしく危うく誘導に従うところでした。






2024-11-06

12. リー群の幾何学的側面 vol.2

12.2 リー群の幾何学的側面



前節ではリー群の概要について復習した。今節ではリー群を幾何学的な視点から考察する。まず、$SU(2)$ 群について調べ、その一般化を考える。結論として、リー群は一般にリーマン多様体と解釈できることを示す。

SU(2)群

 $SU(2)$ 群の要素は $2 \times 2$ 特殊ユニタリー行列
\[    u = e^{iH} \, ,  ~~~ {\rm det}u = 1    \tag{12.14} \]
で与えられる。ここで、$H$ は $2 \times 2$ トレースレス・エルミート行列である。一般に、$H$ はパウリ行列を用いて
\[    H = \frac{\si_i}{2} \th^i    ~~~~ (i = 1,2,3) \tag{12.15} \]
と表せる。よって、$SU(2)$ 群の要素は
\[    g ( \th ) = u = \exp \left( i \frac{\si_i}{2} \th^i \right)     \tag{12.16} \]
とパラメータ表示できる。これは1.2節の(1.38)と同じである。要素 $u$ の変分は(線形のオーダーで)次のように計算できる。
\[\begin{eqnarray}    u + du &=& \exp \left( i \frac{\si_k}{2} ( \th^k + d \th^k ) \right)    \nonumber \\    &=& 1 + i \frac{\si_k}{2} ( \th^k + d \th^k )    + \frac{i^2}{2!} \frac{\si_k}{2} \frac{\si_l}{2}    ( \th^k + d \th^k )( \th^l + d \th^l ) + \cdots    \nonumber \\    &=&    u + i \frac{\si_k}{2} d \th^k + \frac{i^2}{2!}    \left(    \frac{\si_k}{2} \frac{\si_l}{2} + \frac{\si_l}{2} \frac{\si_k}{2}    \right)    \th^k d \th^l + \cdots    \nonumber \\    &=&    u + i \frac{\si_k}{2} d \th^k + i \frac{\si_k}{2} \th^k  \, i \frac{\si_l}{2} d \th^l    + \frac{i^2}{2} \underbrace{ \left[ \frac{\si_l}{2} ,    \frac{\si_k}{2} \right]}_{ = \,  i \ep_{lkm} \frac{\si_m}{2} } \th^k d \th^l    + \cdots    \nonumber \\    &=&    u + \left( 1 + i \frac{\si_k}{2} \th^k \right)    \left[    i \frac{\si_l}{2} d \th^l - \frac{i}{2} \ep_{lkm} \frac{\si_m}{2} \th^k d \th^l    \right] + \cdots    \nonumber \\    & \equiv &    u + i u \frac{\si_m}{2} E^m_l (\th ) d \th^l    \tag{12.17} \end{eqnarray}\]
ただし、$E^m_l ( \th )$ は
\[    E^m_l ( \th ) \, \simeq \, \del^m_l - \hf  \ep^{m}_{~ \, lk} \, \th^k     \tag{12.18} \]
と表せる。すなわち、
\[    u^{-1} d u   \, = \, i \frac{\si_m}{2} E^m_l (\th ) \, d \th^l     \tag{12.19} \]
を得る。上式は前回求めた関係式
\[     g^{-1} d g \, = \, i T_k d \, \th^k      \tag{12.11} \]
の具体的な形を与える。リーの第1定理から$\exp \left( i \frac{\si_k}{2} ( \th^k + d \th^k ) \right)$ の級数展開とその収束が保証されていることに注意しよう。

 前節で議論したように $E^m_l ( \th )$ は微分演算子 $X_i = i ( E^{-1} )^k_i \frac{\d}{\d \th^k}$ の定義に必要な量であり、この微分演算子は対応するリー代数を成す。よって、 $E^m_l ( \th )$ はリー群の解析に非常に重要な量である。以下で見るように、$u$ の行列成分から $E^m_l ( \th )$ を直接計算することもできる。$u$ は $2\times 2$ ユニタリー行列で表せるので
\[    u \, = \, a {\bf 1} + b_i \si_i \, = \,    \left(      \begin{array}{cc}        a+ib_3 & ib_1 + b_2 \\        ib_1 - b_2 & a - i b_3 \\      \end{array}    \right)    \tag{12.20} \]
とパラメータ表示できる。ただし、$a$, $b_i$ $(i=1,2,3)$ は実数である。条件 ${\rm det} u = 1$ から
\[    a^2 + b_1^2 + b_2^2 + b_3^2 = 1     \tag{12.21} \]
が分かる。これより、簡単に $u^\dag u = {\bf 1}$ を確認できる。ただし、$u^\dag = u^{-1} = a {\bf 1} - i b_i \si_i$ である。関係式(12.21)は $SU(2)$ 群を3次元球面 $S^3$ と解釈できることを意味する。ここで、$a = \sqrt{ 1 - b \cdot b}$ を用いると、
\[    d u \, = \, d a + i d b \cdot \si    \, = \, - \frac{b \cdot d b}{a} + i db \cdot \si     \tag{12.22} \]
と書ける。ただし、恒等行列 ${\bf 1}$ を省略した(以下同様)。このとき、$u^{-1} d u $ は次のように計算できる。
\[\begin{eqnarray}    u^{-1} d u   &=&    ( a - i b \cdot \si )    \left[ - \frac{b \cdot d b}{a} + i db \cdot \si \right]    \nonumber \\    &=&     - b_i \, d b_i + i a \, db_i \, \si_i + i \frac{b_i b_j}{a} \si_i \, d b_j     +  b_i \, db_j \,  \si_i \si_j  \nonumber \\    &=&    i \si_i \left[ a \, d b_i + \frac{b_i b_k }{a} \, d b_k + \ep_{ijk} \, b_j \,  db_k \right] \nonumber \\  &\equiv&   i \frac{\si_i}{2} E^i_k (a, b) \,  d b_k  \tag{12.23}  \end{eqnarray}\] 
ただし、関係式 $\si_i \si_j =  \del_{ij} + i \ep_{ijk} \si_k$ を用いた。これより、興味ある量 $E^i_k (a, b) $ は
\[  E^i_k (a, b) \, = \, 2 \left(   \del^i_k \, a + \frac{b^i b_k }{a} + \ep^{i}_{\, jk} \, b_k     \right) \tag{12.24} \]
と求まる。

SU(2)群のカルタン-キリング計量

 $SU(2)$ 群の計量はカルタン-キリング計量
\[    ds^2 \, = \, -2 \Tr ( u^{-1} d u \, u^{-1} du )     \tag{12.25} \]
で定義される。この計量は多くのアイソメトリーを持つ。実際、そのようなアイソメトリーの集合は $SU(2)$ 代数を成す。関係式(12.23)を用いると、カルタン-キリング計量は
\[\begin{eqnarray}    ds^2 &=& -2 \Tr \left( i \frac{\si^a}{2} \right) \left( i \frac{\si^b}{2} \right)    E^a_\al E^b_\bt \, db^\al d b^\bt    \nonumber \\    &=&    E^a_\al  E^a_\bt \, db^\al d b^\bt    \tag{12.26}  \end{eqnarray}\]
と表せる。8.2節の(8.13)で議論したように曲がった多様体上の計量 $ds^2$ はフレーム場 $e_\mu^a$ を用いて $ds^2 = g_{\mu \nu} dx^\mu dx^\nu  = e_\mu^a e_\nu^a dx^\mu dx^\nu$ と定義される。したがって、$SU(2)$ 群を計量(12.26)をもつ曲がった多様体とみなすと、上式は $E^a_\al$ が $SU(2)$ 群のフレーム場を与えることを示す。この意味で $u^{-1} d u$ はフレーム場1形式と呼べる。

一般化とモーレー-カルタン恒等式

 以上 $SU(2)$ の場合を扱ったがこれらの結果はスムーズに一般化できる。リー群 $G$ の要素を $g ( \th )$ とすると、$G$ のカルタン-キリング計量 $ds^2$ はフレーム場1形式
\[   g^{-1} d g \, = \,  i t^a E^a_\al (\th ) \, d \th^\al     \tag{12.27} \]
を用いて
\[  ds^2 \, = \, -2 \Tr (  g^{-1} d g \, g^{-1} d g ) \, = \, E^a_\al \, E^a_\bt \, d \th^\al d \th^\bt    \tag{12.28}  \]
と定義される。ただし、$t^a$ ($a = 1,2, \cdots , {\rm dim}G$) はリー代数 G の生成子の行列表現であり、規格化 $\Tr (t^a t^b ) = \hf \del^{ab}$ のもと、
\[    \left[ t^a , t^b \right] \, = \, i C^{abc} t^c    \tag{12.29} \]
を満たす。$C^{abc}$ はリー代数の構造定数である。(12.27)から次の量を定義できる。
\[    A_\al \, \equiv \, g^{-1} \frac{\d g}{\d \th^\al} \, = \, i t^a E^a_\al     \tag{12.30} \]
パラメータ $\th^\al$ による $A_\bt$ の微分は
\[\begin{eqnarray}    \frac{\d}{\d \th^\al} A_\bt    &=& \left( -g^{-1} \frac{\d g}{\d \th^\al} g^{-1} \right) \frac{\d g}{\d \th^\bt}    + g^{-1} \frac{\d^2 g}{\d \th^\al \d \th^\bt}    \nonumber \\    &=& - A_\al A_\bt +  g^{-1} \frac{\d^2 g}{\d \th^\al \d \th^\bt}    \tag{12.31} \end{eqnarray}\]
と計算できる。ただし、関係式 $\frac{\d g^{-1}}{\d \th^\al} = - g^{-1} \frac{\d g}{\d \th^\al} g^{-1}$ を用いた。この関係式は $\frac{\d}{\d \th^\al} (g g^{-1}) = 0$ から自明である。微分を反対称化させると恒等式
\[    \d_\al A_\bt - \d_\bt A_\al + [ A_\al , A_\bt ] \, = \, 0     \tag{12.32} \]
を得る。これはモーレー-カルタン恒等式と呼ばれる。フレーム場で表すとこの恒等式は
\[    \d_\al E^a_\bt - \d_\bt E^a_\al - C^{abc} E^b_\al E^c_\bt    \, = \, 0     \tag{12.33} \]
と書ける。$E^b_\al E^c_\bt$ の因子を反対称化させると、上式は
\[    \d_\al E_\bt^a - \d_\bt E_\al^a - \hf C^{abc} \left(    E^b_\al E^c_\bt - E^b_\bt E^c_\al    \right) \, = \, 0     \tag{12.34} \]
とも表せる。

 上式の左辺は8.2節の(8.22)で定義されたトーション $T^{a}_{\mu\nu}$ と類似していることに注意しよう。このトーション $T^{a}_{\mu\nu}$ を書き下すと
\[    T^{a}_{\mu\nu} \, = \,    \d_\mu e^a_\nu - \d_\nu e^a_\mu + \om^{ab}_{\mu} e^b_\nu - \om^{ab}_{\nu} e^b_\mu    \tag{12.35} \]
となる。ただし、$\om^{ab}_{\mu}$ はスピン接続である。モーレー-カルタン恒等式(12.34)とトーション・ゼロの条件式 $T^{a}_{\mu\nu} = 0$ には構造上の類似性がある。そこで、モーレー-カルタン恒等式(12.34)の解あるいは解釈を関係式(12.35)との比較で考えてみよう。

2024-11-02

WinEdt 11 で index 作成

長年 WinEdt を利用していますが、索引作成で戸惑ったので記録しておきます。

\usepackage{makeidx} 
\makeindex  
\printindex

で作成されるはずなのになぜか更新されません。WinShell で日本語の LaTeX を作成したときは索引も更新されていたはずなのに。LaTeX を走らせると idx ファイルは更新されるのだけど ind ファイルは古いままだったので色々試してみると、idx ファイル作成後にツールバーから 

TeX --> Make Index 

で ind ファイルが更新されました! そういえばそうだったか。完全に忘れていました。分かれば単純なことなのに1時間ぐらい Execution Modes などをいじって混乱してしまいました。今後は定期的にツールバーから make index しないとな。

2024-10-30

12. リー群の幾何学的側面 vol.1

リー群には2つの側面がある。1つは当然ながら代数的側面、もう1つは幾何学的側面である。この章ではリー群の基本について簡単に紹介した後、主に後者の側面について考察する。また、リー群の既約表現とその物理問題への応用についてもレビューする。

12.1 リー群入門


群の定義

 まず一般の群について考える。群 $G$ の要素の集合を $\{ a_i \}$ ($i = 1,2, \cdots , {\rm dim} G$) で表すと、群 $G$ は次の公理で定義される。
1. 合成則のもとで集合は閉じている: $a_i \cdot a_j \in G$
2. 単位元 ${\bf 1}$ の存在: $a_i \cdot {\bf 1} = {\bf 1} \cdot a_i = a_i$
3. 結合則が成り立つ: $a_i \cdot ( a_j \cdot a_k ) = ( a_i \cdot a_j ) \cdot a_k$
4. 逆元の存在: $a_i \cdot (a_{i}^{-1}) = {\bf 1} = (a_{i}^{-1}) \cdot a_i $
要素の数 ${\rm dim} G$ が有限の場合、$G$ は有限群と呼ばれる。また、要素が無限にある場合、群は無限群と呼ばれる。

 一般に、群は離散群と連続群(あるいは位相群)の2つに分類される。離散群の典型例は加法のもとでの整数の集合である。一方、連続群は群の要素をラベルするパラメターの連続的な集合で特徴付けられる。(例えば、加法のもとでの実数全体は連続群を成す。)そのようなパラメターがさらに微分可能である場合、連続群はリー群となる。

リー群の定義

 リー群 $G$ の要素を $g (\th ) \in G$ とする。$g (\th )$ はパラメータ $\th$ の関数であり、そのようなパラメータの数はリー群の要素の数 ${\rm dim}G$ に対応する。このとき合成則は
\[    g (\th ) \cdot g (\th^\prime ) \, = \, g \left( \bt( \th , \th^\prime ) \right)   \tag{12.1} \]
と表せる。この合成則のもとでリー群は次のように定義される。
1. $\bt ( \th , \th^\prime )$ は $\th$ と $\th^\prime$ の解析関数である。
2. $g (\th ) \cdot g (\al ) = {\bf 1}$ となるパラメータ $\al$ が存在する。このとき、パラメータ $\al$ も $\th$ の解析関数 $\al = \al (\th )$ で与えられる。

微分演算子

 ここで、群の要素の解析性を議論するために微分の概念を導入する。群の要素 $g = g(\th)$ の関数を $f(g)$ とおく。パラメータ $\th$ による $f$ の微分は $\frac{\d f}{ \d \th } = \frac{\d f}{\d g } \frac{\d g }{\d \th}$ と書ける。よって、解析性の要請から $g( \th + d \th)$ を考える必要がある。ただし、$d \th$ はパラメータ $\th$ の無限小変位を表す。群の合成則のもとで、これは無限小の合成則 
\[ g (\th ) \cdot g ( d \th ) = g \left( \bt (\th , d \th ) \right) \tag{12.2} \]
を用いて考察できる。ただし、$g( 0) = {\bf 1}$ とする。$\bt ( \th , d \th )$ を $d \th$ で展開すると
\[    \bt ( \th , d \th ) \, \simeq \,    \bt ( \th , 0 ) + \frac{\d \bt (\th , 0 )}{ \d \th} d \th    \, = \, \th + \frac{\d \bt}{\d \th} d \th    \tag{12.3} \]
を得る。パラメータの数を $N$ と仮定しすると、パラメータは $\th^i$ ($i = 1,2,\cdots , N$) とラベルできる。このとき、(12.3)は
\[    \bt^i \, \simeq \, \th^i + \frac{\d \bt^i}{\d \th^k} d \th^k     \tag{12.4} \]
と表せる。よって、無限小の合成則(12.2)のもとでパラメータ $\th^i$ の変位は(単に $\th^i \rightarrow \th^i + d \th^i $ ではなく)$\bt^i ( \th , 0) = \th^i \rightarrow \bt^i ( \th , d \th ) \simeq \th^i + E^{i}_{k} d \th^k$ で与えられる。ただし、
\[    E^i_k \, \equiv \, \frac{\d \bt^i}{\d \th^k}     \tag{12.5} \]
である。以上の考察から、微分演算子
\[    X_{i} \, = \, (E^{-1})^k_i \frac{\d}{\d \th^k}    \tag{12.6} \]
は群の要素の任意の関数上で無限小の合成則を生成することが分かる。これはリー群においてカギとなる概念である。微分演算子 $X_i$ の交換関係は次のように計算できる。
\[\begin{eqnarray}    \left[ X_i , X_j \right] &=&    \left[ (E^{-1})^k_i \frac{\d}{\d \th^k} , \, (E^{-1})^l_j \frac{\d}{\d \th^l}    \right]    \nonumber \\    &=&    \left[    (E^{-1})^k_i \frac{\d (E^{-1})^l_j }{\d \th^k}    - (E^{-1})^j_k \frac{\d (E^{-1})^l_i }{\d \th^k}    \right] \frac{\d}{\d \th^l}    \nonumber \\    &=&    \left[    (E^{-1})^k_i \frac{\d (E^{-1})^l_j }{\d \th^k}    - (E^{-1})^j_k \frac{\d (E^{-1})^l_i }{\d \th^k}    \right] E^m_l    \underbrace{(E^{-1})^n_m \frac{\d}{\d \th^n}}_{= \, X_m}    \nonumber \\    & \equiv &    C_{ij}^{m} \, X_m    \tag{12.7} \end{eqnarray}\]
ただし、$C_{ij}^{m}$ は
\[    C_{ij}^{m} \, = \, E^m_l \left(    (E^{-1})^k_i \frac{\d (E^{-1})^l_j}{\d \th^k} -    (E^{-1})^k_j \frac{\d (E^{-1})^l_i}{\d \th^k}    \right)    \tag{12.8} \]
と定義される。一般に、$C_{ij}^{m}$ はパラメータ $\th^i$ の関数である。

リーの第1定理

 リーの第1定理の主張は以下の通り。
リー群において $C_{ij}^{m}$ は定数であり、パラメータ $\th^i$ に依らない。
これは $C_{ij}^{m}$ の値を評価するに当たり、$\th = 0$ の近傍を考えるだけでよいことを意味する。言い換えると、リー群の広域的な構造を局所的な解析から求めることができる。この意味で、リーの第1定理は複素解析のコーシーの積分定理と類似している。定数 $C_{ij}^{m}$ は構造定数と呼ばれる。

 リー群の解析の多くは原点 $\th = 0$ 近傍の展開式を用いて実行できる。例えば、単位元近傍の群の要素は $g (d \th) \simeq 1 + i T_k d \th^k$ とパラメータ表示できる。ただし、$T_k = T_k (\th) $ は一般に $\th^i$ の関数である。このとき、無限小の合成則(12.2)は
\[     g (\th ) \cdot g ( d \th ) \, \simeq \, g ( \th ) \left( 1 + i T_k d \th^k \right)     \tag{12.9} \]
と表せる。これを関係式
\[     g (\th ) \cdot g ( d \th ) \, = \, g \left( \bt (\th , d \th ) \right) \, \simeq \, g ( \th^i + E_k^i d \th^k ) \, = \, g + d g     \tag{12.10} \]
と比較すると、
\[     g^{-1} d g \, = \, i T_k d \, \th^k      \tag{12.11} \]
を得る。これより $T_k = - i E_k^i \frac{\d}{\d \bt^i} = - i \frac{\d}{\d \th^k}$ が分かるので微分演算子は $X_k = i (E^{-1} )_k^l T_l$ と表せる。次節では $SU(2)$ 群における $T_k (\th) $ の形を具体的に導出する。

リー代数

 一般に、代数はベクトル空間 $V$ を成す要素の集合 $\{ t_a \}$ で定義される。すなわち、$\{ t_a \} \in V$ $(a = 1,2, \cdots, \dim V )$, $\al t_a + \bt t_b \in V$ とおける。($\al$, $\bt$ は体の係数。)  そのような要素に対してブラケット演算子  $\{ t_a , t_b \}$ を考える。その典型例として、ポアソン括弧 $\{ t_a , t_b \} = C_{ab}^{c} t_c$ がある。ただし、$C_{ab}^{c}$ は定数。ブラケット演算子は一般に写像 $V \times V \rightarrow V$ を与える。リー代数はこの演算子に対して 
  (i) 反対称性 $\{ t_a , t_b \} = - \{ t_b , t_a \}$ と 
  (ii) ヤコビ律 $\{ t_a , \{ t_b , t_c \} \} + \{ t_b , \{ t_c , t_a \} \} + \{ t_c , \{ t_a , t_b \} \} = 0$ 
を課すことによって定義される。ポアソン括弧の定数 $C_{ab}^{c}$ を用いて言い換えると、リー代数は条件式
\[\begin{eqnarray}    C_{ab}^{c} + C_{ba}^{c} &=& 0     \tag{12.12} \\    C_{ab}^{d} C_{cd}^{e} + C_{bc}^{d} C_{ad}^{e} +C_{ca}^{d} C_{bd}^{e}    &=& 0     \tag{12.13} \end{eqnarray}\]
で定義される。ヤコビ律(12.13)は添え字 $(a, b, c)$ についての巡回和で表せることに注意しよう。

リーの第2定理

 リーの第2定理の主張は以下の通り。
微分演算子 $X_i = (E^{-1})^k_i \frac{\d}{\d \th^k}$ はリー代数の(基底)要素を成す。任意のリー群 $G$ に対して、対応するリー代数 G が存在する。
言い換えると、微分演算子 $X_i$ と要素 $t_a$ の間に対応関係がある。この主張の逆は次のようになる。
任意のリー代数 G に対して、対応するリー群 $\widetilde{G}$ を構成できる。(群の要素を $\widetilde{g} = \exp ( i t_a \th^a )$ とすればよい。)ただし、この $\widetilde{G}$ はユニークには決まらない。より正確には、$\widetilde{G}$ は単連結型の $G$($G$ は上記のリー群)であり、単連結普遍被覆群と呼ばれる。


2024-10-24

11. 共形対称性 vol.6

11.5 カッツ行列式とユニタリー・ミニマル模型


前回はビラソロ代数のユニタリー性の議論から特異ベクトルが存在する条件について解説した。これらの結果で重要なのは特異ベクトルが存在する場合、共形ウェイト $h$ が中心電荷 $c$ の関数として表される点にある。グラム行列 $M^{(N)}$ を用いるとレベル $N$ の特異ベクトルは固有値ゼロの固有ベクトルに相当する。よって、この $h$ と $c$ の関係は $\det M^{(N)} = 0$ を課すことでより簡単に導ける。行列式 $\det M^{(N)}$ はカッツ行列式と呼ばれる。

 $N = 1$ の場合、関係式
\[    \bra h | L_{1} L_{-1} | h \ket = 2 h     \tag{11.88} \]
から $\det M^{(1)} = 2h $ となる。$N= 2$ の場合、グラム行列は
\[    M^{(2)} =    \left(      \begin{array}{cc}        \bra h| L^{2}_{1}  L^{2}_{-1} | h \ket & \bra h| L^{2}_{1} L_{-2}| h  \ket \\        \bra h| L_{2}  L^{2}_{-1}  | h \ket  & \bra h| L_{2} L_{-2} | h \ket  \\      \end{array}    \right)    =    \left(      \begin{array}{cc}        4h ( 1 + 2h ) & 6h \\        6h  & 4h + \frac{c}{2} \\      \end{array}    \right)     \tag{11.110} \]
と書ける。ただし、ビラソロ代数
\[    \left[ L_m , L_n \right] \, = \, ( m - n ) L_{m+n} +    \frac{c}{12} ( m^3 - m ) \del_{m+n, 0}    \tag{11.76} \]
と最高ウェイト状態の条件式
\[    L_0 | h \ket = h | h \ket \, , ~~~~    L_n | h \ket = 0  ~~ ( n \ge 1 )    \tag{11.82} \]
を用いて、行列の各成分を導いた。
\[\begin{eqnarray}    \bra h | L_1^2 L_{-1}^{2} | h \ket &=& 2 \bra h | L_1 ( L_{-1} + 2 L_{-1} L_0 ) | h \ket = 4h (2 h+ 1)   \nonumber \\    \bra h| L^{2}_{1} L_{-2}| h  \ket &=& \bra h | L_1 [ L_1 , L_{-2} ] | h \ket = 6 h    \tag{11.111} \\    \bra h| L_{2} L_{-2} | h \ket &=& \bra h| [ L_{2} ,  L_{-2} ] | h \ket = 4h + \frac{c}{2}   \nonumber \end{eqnarray}\]
以上より、
\[    \det M^{(2)} = 4h \left[ 8h^2 + (c-5 ) h + \frac{c}{2} \right]     \tag{11.112} \]
が分かる。よって、$\det M^{(2)} = 0$ $(\det M^{(1)} \ne 0)$ はレベル2特異ベクトルが存在する条件式
\[    h = \frac{- (c-5) \pm \sqrt{(c-1)(c-25)}}{16}     \tag{11.101} \]
に帰着できる。

2024-10-20

柴又散策

今日は次女と一緒に初めて柴又に行きました。京成金町線で柴又駅から参道を通り帝釈天へ。以前、「土曜は寅さん」で男はつらいよ!シリーズをいくつか観ていたので子供も楽しめたようです。


2024-10-18

レベル3カッツ行列式の計算

2次元共形場理論で出てくるカッツ行列式の計算。2次元までは自明でどの教科書にも載っているのですが、3次元(正確にはレベル3)の場合は急に計算量が増えてややこしくなってしまいます。調べたけど出てこないので自分で計算することにしました。一般の場合の公式は既に証明されているのでレベル3の場合だけやって自分を納得させたいだけの話です。

まず、レベル3カッツ行列式は
\[ |M^{(3)} | = \left|      \begin{array}{ccc}        \bra h| L^{3}_{1}  L^{3}_{-1} | h \ket & \bra h| L^{3}_{1} L_{-1} L_{-2}| h  \ket & \bra h| L^{3}_{1} L_{-3}| h  \ket  \\       \bra h| L_{2} L_{1} L^{3}_{-1}  | h \ket  & \bra h| L_{2}L_{1} L_{-1}L_{-2} | h \ket  & \bra h| L_{2}L_{1} L_{-3} | h \ket  \\     \bra h| L_{3} L^{3}_{-1}  | h \ket  & \bra h| L_{3} L_{-1}L_{-2} | h \ket  & \bra h| L_{3} L_{-3} | h \ket  \\      \end{array}  \right|  \tag{1} \]
で与えられる。ここで、演算子 $L_{n}$ $(n \in \mathbb{Z} )$ はビラソロ代数
\[    \left[ L_m , L_n \right] \, = \, ( m - n ) L_{m+n} +    \frac{c}{12} ( m^3 - m ) \del_{m+n, 0}    \tag{2} \]
に従う。$c$ は中心電荷と呼ばれる定数である。状態 $| h \ket$ は最高ウェイト状態を表し条件式
\[   L_0 | h \ket = h | h \ket \, , ~~~~    L_n | h \ket = 0  ~~ ( n \ge 1 )   \tag{3} \]
を満たす。以上から行列の各成分を計算すると以下の結果を得る。

2024-10-12

ノーベル平和賞に日本被団協

これはビッグニュース。ノーベル平和賞はこれまでも核廃絶の運動に対して贈られてきました。2009年のオバマ大統領(当時)、2017年のICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)。オバマ大統領の時は核廃絶を口約束しただけの印象でしたが、2017年ではヒバクシャという言葉が国際的に浸透する良い契機になりました。今回、長年に渡り反核平和活動を展開してきた日本の団体(日本原水爆被害者団体協議会)が受賞したのは当然の流れとは言え、驚きました。これまで日本からの核廃絶イニシアチブは国際的に影響力がなかった印象なので今後はこれを契機にもっと自信と勇気をもって反核平和のメッセージを発信し続けることが日本外交に期待されているということでしょうか。現実的には難しそうですが。