2024-11-06

12. リー群の幾何学的側面 vol.2

12.2 リー群の幾何学的側面



前節ではリー群の概要について復習した。今節ではリー群を幾何学的な視点から考察する。まず、$SU(2)$ 群について調べ、その一般化を考える。結論として、リー群は一般にリーマン多様体と解釈できることを示す。

SU(2)群

 $SU(2)$ 群の要素は $2 \times 2$ 特殊ユニタリー行列
\[    u = e^{iH} \, ,  ~~~ {\rm det}u = 1    \tag{12.14} \]
で与えられる。ここで、$H$ は $2 \times 2$ トレースレス・エルミート行列である。一般に、$H$ はパウリ行列を用いて
\[    H = \frac{\si_i}{2} \th^i    ~~~~ (i = 1,2,3) \tag{12.15} \]
と表せる。よって、$SU(2)$ 群の要素は
\[    g ( \th ) = u = \exp \left( i \frac{\si_i}{2} \th^i \right)     \tag{12.16} \]
とパラメータ表示できる。これは1.2節の(1.38)と同じである。要素 $u$ の変分は(線形のオーダーで)次のように計算できる。
\[\begin{eqnarray}    u + du &=& \exp \left( i \frac{\si_k}{2} ( \th^k + d \th^k ) \right)    \nonumber \\    &=& 1 + i \frac{\si_k}{2} ( \th^k + d \th^k )    + \frac{i^2}{2!} \frac{\si_k}{2} \frac{\si_l}{2}    ( \th^k + d \th^k )( \th^l + d \th^l ) + \cdots    \nonumber \\    &=&    u + i \frac{\si_k}{2} d \th^k + \frac{i^2}{2!}    \left(    \frac{\si_k}{2} \frac{\si_l}{2} + \frac{\si_l}{2} \frac{\si_k}{2}    \right)    \th^k d \th^l + \cdots    \nonumber \\    &=&    u + i \frac{\si_k}{2} d \th^k + i \frac{\si_k}{2} \th^k  \, i \frac{\si_l}{2} d \th^l    + \frac{i^2}{2} \underbrace{ \left[ \frac{\si_l}{2} ,    \frac{\si_k}{2} \right]}_{ = \,  i \ep_{lkm} \frac{\si_m}{2} } \th^k d \th^l    + \cdots    \nonumber \\    &=&    u + \left( 1 + i \frac{\si_k}{2} \th^k \right)    \left[    i \frac{\si_l}{2} d \th^l - \frac{i}{2} \ep_{lkm} \frac{\si_m}{2} \th^k d \th^l    \right] + \cdots    \nonumber \\    & \equiv &    u + i u \frac{\si_m}{2} E^m_l (\th ) d \th^l    \tag{12.17} \end{eqnarray}\]
ただし、$E^m_l ( \th )$ は
\[    E^m_l ( \th ) \, \simeq \, \del^m_l - \hf  \ep^{m}_{~ \, lk} \, \th^k     \tag{12.18} \]
と表せる。すなわち、
\[    u^{-1} d u   \, = \, i \frac{\si_m}{2} E^m_l (\th ) \, d \th^l     \tag{12.19} \]
を得る。上式は前回求めた関係式
\[     g^{-1} d g \, = \, i T_k d \, \th^k      \tag{12.11} \]
の具体的な形を与える。リーの第1定理から$\exp \left( i \frac{\si_k}{2} ( \th^k + d \th^k ) \right)$ の級数展開とその収束が保証されていることに注意しよう。

 前節で議論したように $E^m_l ( \th )$ は微分演算子 $X_i = i ( E^{-1} )^k_i \frac{\d}{\d \th^k}$ の定義に必要な量であり、この微分演算子は対応するリー代数を成す。よって、 $E^m_l ( \th )$ はリー群の解析に非常に重要な量である。以下で見るように、$u$ の行列成分から $E^m_l ( \th )$ を直接計算することもできる。$u$ は $2\times 2$ ユニタリー行列で表せるので
\[    u \, = \, a {\bf 1} + b_i \si_i \, = \,    \left(      \begin{array}{cc}        a+ib_3 & ib_1 + b_2 \\        ib_1 - b_2 & a - i b_3 \\      \end{array}    \right)    \tag{12.20} \]
とパラメータ表示できる。ただし、$a$, $b_i$ $(i=1,2,3)$ は実数である。条件 ${\rm det} u = 1$ から
\[    a^2 + b_1^2 + b_2^2 + b_3^2 = 1     \tag{12.21} \]
が分かる。これより、簡単に $u^\dag u = {\bf 1}$ を確認できる。ただし、$u^\dag = u^{-1} = a {\bf 1} - i b_i \si_i$ である。関係式(12.21)は $SU(2)$ 群を3次元球面 $S^3$ と解釈できることを意味する。ここで、$a = \sqrt{ 1 - b \cdot b}$ を用いると、
\[    d u \, = \, d a + i d b \cdot \si    \, = \, - \frac{b \cdot d b}{a} + i db \cdot \si     \tag{12.22} \]
と書ける。ただし、恒等行列 ${\bf 1}$ を省略した(以下同様)。このとき、$u^{-1} d u $ は次のように計算できる。
\[\begin{eqnarray}    u^{-1} d u   &=&    ( a - i b \cdot \si )    \left[ - \frac{b \cdot d b}{a} + i db \cdot \si \right]    \nonumber \\    &=&     - b_i \, d b_i + i a \, db_i \, \si_i + i \frac{b_i b_j}{a} \si_i \, d b_j     +  b_i \, db_j \,  \si_i \si_j  \nonumber \\    &=&    i \si_i \left[ a \, d b_i + \frac{b_i b_k }{a} \, d b_k + \ep_{ijk} \, b_j \,  db_k \right] \nonumber \\  &\equiv&   i \frac{\si_i}{2} E^i_k (a, b) \,  d b_k  \tag{12.23}  \end{eqnarray}\] 
ただし、関係式 $\si_i \si_j =  \del_{ij} + i \ep_{ijk} \si_k$ を用いた。これより、興味ある量 $E^i_k (a, b) $ は
\[  E^i_k (a, b) \, = \, 2 \left(   \del^i_k \, a + \frac{b^i b_k }{a} + \ep^{i}_{\, jk} \, b_k     \right) \tag{12.24} \]
と求まる。

SU(2)群のカルタン-キリング計量

 $SU(2)$ 群の計量はカルタン-キリング計量
\[    ds^2 \, = \, -2 \Tr ( u^{-1} d u \, u^{-1} du )     \tag{12.25} \]
で定義される。この計量は多くのアイソメトリーを持つ。実際、そのようなアイソメトリーの集合は $SU(2)$ 代数を成す。関係式(12.23)を用いると、カルタン-キリング計量は
\[\begin{eqnarray}    ds^2 &=& -2 \Tr \left( i \frac{\si^a}{2} \right) \left( i \frac{\si^b}{2} \right)    E^a_\al E^b_\bt \, db^\al d b^\bt    \nonumber \\    &=&    E^a_\al  E^a_\bt \, db^\al d b^\bt    \tag{12.26}  \end{eqnarray}\]
と表せる。8.2節の(8.13)で議論したように曲がった多様体上の計量 $ds^2$ はフレーム場 $e_\mu^a$ を用いて $ds^2 = g_{\mu \nu} dx^\mu dx^\nu  = e_\mu^a e_\nu^a dx^\mu dx^\nu$ と定義される。したがって、$SU(2)$ 群を計量(12.26)をもつ曲がった多様体とみなすと、上式は $E^a_\al$ が $SU(2)$ 群のフレーム場を与えることを示す。この意味で $u^{-1} d u$ はフレーム場1形式と呼べる。

一般化とモーレー-カルタン恒等式

 以上 $SU(2)$ の場合を扱ったがこれらの結果はスムーズに一般化できる。リー群 $G$ の要素を $g ( \th )$ とすると、$G$ のカルタン-キリング計量 $ds^2$ はフレーム場1形式
\[   g^{-1} d g \, = \,  i t^a E^a_\al (\th ) \, d \th^\al     \tag{12.27} \]
を用いて
\[  ds^2 \, = \, -2 \Tr (  g^{-1} d g \, g^{-1} d g ) \, = \, E^a_\al \, E^a_\bt \, d \th^\al d \th^\bt    \tag{12.28}  \]
と定義される。ただし、$t^a$ ($a = 1,2, \cdots , {\rm dim}G$) はリー代数 $\mathfrak{G}$ の生成子の行列表現であり、規格化 $\Tr (t^a t^b ) = \hf \del^{ab}$ のもと、
\[    \left[ t^a , t^b \right] \, = \, i C^{abc} t^c    \tag{12.29} \]
を満たす。$C^{abc}$ はリー代数の構造定数である。(12.27)から次の量を定義できる。
\[    A_\al \, \equiv \, g^{-1} \frac{\d g}{\d \th^\al} \, = \, i t^a E^a_\al     \tag{12.30} \]
パラメータ $\th^\al$ による $A_\bt$ の微分は
\[\begin{eqnarray}    \frac{\d}{\d \th^\al} A_\bt    &=& \left( -g^{-1} \frac{\d g}{\d \th^\al} g^{-1} \right) \frac{\d g}{\d \th^\bt}    + g^{-1} \frac{\d^2 g}{\d \th^\al \d \th^\bt}    \nonumber \\    &=& - A_\al A_\bt +  g^{-1} \frac{\d^2 g}{\d \th^\al \d \th^\bt}    \tag{12.31} \end{eqnarray}\]
と計算できる。ただし、関係式 $\frac{\d g^{-1}}{\d \th^\al} = - g^{-1} \frac{\d g}{\d \th^\al} g^{-1}$ を用いた。この関係式は $\frac{\d}{\d \th^\al} (g g^{-1}) = 0$ から自明である。微分を反対称化させると恒等式
\[    \d_\al A_\bt - \d_\bt A_\al + [ A_\al , A_\bt ] \, = \, 0     \tag{12.32} \]
を得る。これはモーレー-カルタン恒等式と呼ばれる。フレーム場で表すとこの恒等式は
\[    \d_\al E^a_\bt - \d_\bt E^a_\al - C^{abc} E^b_\al E^c_\bt    \, = \, 0     \tag{12.33} \]
と書ける。$E^b_\al E^c_\bt$ の因子を反対称化させると、上式は
\[    \d_\al E_\bt^a - \d_\bt E_\al^a - \hf C^{abc} \left(    E^b_\al E^c_\bt - E^b_\bt E^c_\al    \right) \, = \, 0     \tag{12.34} \]
とも表せる。

 上式の左辺は8.2節の(8.22)で定義されたトーション $T^{a}_{\mu\nu}$ と類似していることに注意しよう。このトーション $T^{a}_{\mu\nu}$ を書き下すと
\[    T^{a}_{\mu\nu} \, = \,    \d_\mu e^a_\nu - \d_\nu e^a_\mu + \om^{ab}_{\mu} e^b_\nu - \om^{ab}_{\nu} e^b_\mu    \tag{12.35} \]
となる。ただし、$\om^{ab}_{\mu}$ はスピン接続である。モーレー-カルタン恒等式(12.34)とトーション・ゼロの条件式 $T^{a}_{\mu\nu} = 0$ には構造上の類似性がある。そこで、モーレー-カルタン恒等式(12.34)の解あるいは解釈を関係式(12.35)との比較で考えてみよう。

2024-11-02

WinEdt 11 で index 作成

長年 WinEdt を利用していますが、索引作成で戸惑ったので記録しておきます。

\usepackage{makeidx} 
\makeindex  
\printindex

で作成されるはずなのになぜか更新されません。WinShell で日本語の LaTeX を作成したときは索引も更新されていたはずなのに。LaTeX を走らせると idx ファイルは更新されるのだけど ind ファイルは古いままだったので色々試してみると、idx ファイル作成後にツールバーから 

TeX --> Make Index 

で ind ファイルが更新されました! そういえばそうだったか。完全に忘れていました。分かれば単純なことなのに1時間ぐらい Execution Modes などをいじって混乱してしまいました。今後は定期的にツールバーから make index しないとな。

2024-10-30

12. リー群の幾何学的側面 vol.1

リー群には2つの側面がある。1つは当然ながら代数的側面、もう1つは幾何学的側面である。この章ではリー群の基本について簡単に紹介した後、主に後者の側面について考察する。また、リー群の既約表現とその物理問題への応用についてもレビューする。

12.1 リー群入門


群の定義

 まず一般の群について考える。群 $G$ の要素の集合を $\{ a_i \}$ ($i = 1,2, \cdots , {\rm dim} G$) で表すと、群 $G$ は次の公理で定義される。
1. 合成則のもとで集合は閉じている: $a_i \cdot a_j \in G$
2. 単位元 ${\bf 1}$ の存在: $a_i \cdot {\bf 1} = {\bf 1} \cdot a_i = a_i$
3. 結合則が成り立つ: $a_i \cdot ( a_j \cdot a_k ) = ( a_i \cdot a_j ) \cdot a_k$
4. 逆元の存在: $a_i \cdot (a_{i}^{-1}) = {\bf 1} = (a_{i}^{-1}) \cdot a_i $
要素の数 ${\rm dim} G$ が有限の場合、$G$ は有限群と呼ばれる。また、要素が無限にある場合、群は無限群と呼ばれる。

 一般に、群は離散群と連続群(あるいは位相群)の2つに分類される。離散群の典型例は加法のもとでの整数の集合である。一方、連続群は群の要素をラベルするパラメターの連続的な集合で特徴付けられる。(例えば、加法のもとでの実数全体は連続群を成す。)そのようなパラメターがさらに微分可能である場合、連続群はリー群となる。

リー群の定義

 リー群 $G$ の要素を $g (\th ) \in G$ とする。$g (\th )$ はパラメータ $\th$ の関数であり、そのようなパラメータの数はリー群の要素の数 ${\rm dim}G$ に対応する。このとき合成則は
\[    g (\th ) \cdot g (\th^\prime ) \, = \, g \left( \bt( \th , \th^\prime ) \right)   \tag{12.1} \]
と表せる。この合成則のもとでリー群は次のように定義される。
1. $\bt ( \th , \th^\prime )$ は $\th$ と $\th^\prime$ の解析関数である。
2. $g (\th ) \cdot g (\al ) = {\bf 1}$ となるパラメータ $\al$ が存在する。このとき、パラメータ $\al$ も $\th$ の解析関数 $\al = \al (\th )$ で与えられる。

微分演算子

 ここで、群の要素の解析性を議論するために微分の概念を導入する。群の要素 $g = g(\th)$ の関数を $f(g)$ とおく。パラメータ $\th$ による $f$ の微分は $\frac{\d f}{ \d \th } = \frac{\d f}{\d g } \frac{\d g }{\d \th}$ と書ける。よって、解析性の要請から $g( \th + d \th)$ を考える必要がある。ただし、$d \th$ はパラメータ $\th$ の無限小変位を表す。群の合成則のもとで、これは無限小の合成則 
\[ g (\th ) \cdot g ( d \th ) = g \left( \bt (\th , d \th ) \right) \tag{12.2} \]
を用いて考察できる。ただし、$g( 0) = {\bf 1}$ とする。$\bt ( \th , d \th )$ を $d \th$ で展開すると
\[    \bt ( \th , d \th ) \, \simeq \,    \bt ( \th , 0 ) + \frac{\d \bt (\th , 0 )}{ \d \th} d \th    \, = \, \th + \frac{\d \bt}{\d \th} d \th    \tag{12.3} \]
を得る。パラメータの数を $N$ と仮定しすると、パラメータは $\th^i$ ($i = 1,2,\cdots , N$) とラベルできる。このとき、(12.3)は
\[    \bt^i \, \simeq \, \th^i + \frac{\d \bt^i}{\d \th^k} d \th^k     \tag{12.4} \]
と表せる。よって、無限小の合成則(12.2)のもとでパラメータ $\th^i$ の変位は(単に $\th^i \rightarrow \th^i + d \th^i $ ではなく)$\bt^i ( \th , 0) = \th^i \rightarrow \bt^i ( \th , d \th ) \simeq \th^i + E^{i}_{k} d \th^k$ で与えられる。ただし、
\[    E^i_k \, \equiv \, \frac{\d \bt^i}{\d \th^k}     \tag{12.5} \]
である。以上の考察から、微分演算子
\[    X_{i} \, = \, (E^{-1})^k_i \frac{\d}{\d \th^k}    \tag{12.6} \]
は群の要素の任意の関数上で無限小の合成則を生成することが分かる。これはリー群においてカギとなる概念である。微分演算子 $X_i$ の交換関係は次のように計算できる。
\[\begin{eqnarray}    \left[ X_i , X_j \right] &=&    \left[ (E^{-1})^k_i \frac{\d}{\d \th^k} , \, (E^{-1})^l_j \frac{\d}{\d \th^l}    \right]    \nonumber \\    &=&    \left[    (E^{-1})^k_i \frac{\d (E^{-1})^l_j }{\d \th^k}    - (E^{-1})^j_k \frac{\d (E^{-1})^l_i }{\d \th^k}    \right] \frac{\d}{\d \th^l}    \nonumber \\    &=&    \left[    (E^{-1})^k_i \frac{\d (E^{-1})^l_j }{\d \th^k}    - (E^{-1})^j_k \frac{\d (E^{-1})^l_i }{\d \th^k}    \right] E^m_l    \underbrace{(E^{-1})^n_m \frac{\d}{\d \th^n}}_{X_m}    \nonumber \\    & \equiv &    C_{ij}^{m} \, X_m    \tag{12.7} \end{eqnarray}\]
ただし、$C_{ij}^{m}$ は
\[    C_{ij}^{m} \, = \, E^m_l \left(    (E^{-1})^k_i \frac{\d (E^{-1})^l_j}{\d \th^k} -    (E^{-1})^k_j \frac{\d (E^{-1})^l_i}{\d \th^k}    \right)    \tag{12.8} \]
と定義される。一般に、$C_{ij}^{m}$ はパラメータ $\th^i$ の関数である。

リーの第1定理

 リーの第1定理の主張は以下の通り。
リー群において $C_{ij}^{m}$ は定数であり、パラメータ $\th^i$ に依らない。
これは $C_{ij}^{m}$ の値を評価するに当たり、$\th = 0$ の近傍を考えるだけでよいことを意味する。言い換えると、リー群の広域的な構造を局所的な解析から求めることができる。この意味で、リーの第1定理は複素解析のコーシーの積分定理と類似している。定数 $C_{ij}^{m}$ は構造定数と呼ばれる。

 リー群の解析の多くは原点 $\th = 0$ 近傍の展開式を用いて実行できる。例えば、単位元近傍の群の要素は $g (d \th) \simeq 1 + i T_k d \th^k$ とパラメータ表示できる。ただし、$T_k = T_k (\th) $ は一般に $\th^i$ の関数である。このとき、無限小の合成則(12.2)は
\[     g (\th ) \cdot g ( d \th ) \, \simeq \, g ( \th ) \left( 1 + i T_k d \th^k \right)     \tag{12.9} \]
と表せる。これを関係式
\[     g (\th ) \cdot g ( d \th ) \, = \, g \left( \bt (\th , d \th ) \right) \, \simeq \, g ( \th^i + E_k^i d \th^k ) \, = \, g + d g     \tag{12.10} \]
と比較すると、
\[     g^{-1} d g \, = \, i T_k d \, \th^k      \tag{12.11} \]
を得る。これより $T_k = - i E_k^i \frac{\d}{\d \bt^i} = - i \frac{\d}{\d \th^k}$ が分かるので微分演算子は $X_k = i (E^{-1} )_k^l T_l$ と表せる。次節では $SU(2)$ 群における $T_k (\th) $ の形を具体的に導出する。

リー代数

 一般に、代数はベクトル空間 $V$ を成す要素の集合 $\{ t_a \}$ で定義される。すなわち、$\{ t_a \} \in V$ $(a = 1,2, \cdots, \dim V )$, $\al t_a + \bt t_b \in V$ とおける。($\al$, $\bt$ は体の係数。)  そのような要素に対してブラケット演算子  $\{ t_a , t_b \}$ を考える。その典型例として、ポアソン括弧 $\{ t_a , t_b \} = C_{ab}^{c} t_c$ がある。ただし、$C_{ab}^{c}$ は定数。ブラケット演算子は一般に写像 $V \times V \rightarrow V$ を与える。リー代数はこの演算子に対して 
  (i) 反対称性 $\{ t_a , t_b \} = - \{ t_b , t_a \}$ と 
  (ii) ヤコビ律 $\{ t_a , \{ t_b , t_c \} \} + \{ t_b , \{ t_c , t_a \} \} + \{ t_c , \{ t_a , t_b \} \} = 0$ 
を課すことによって定義される。ポアソン括弧の定数 $C_{ab}^{c}$ を用いて言い換えると、リー代数は条件式
\[\begin{eqnarray}    C_{ab}^{c} + C_{ba}^{c} &=& 0     \tag{12.12} \\    C_{ab}^{d} C_{cd}^{e} + C_{bc}^{d} C_{ad}^{e} +C_{ca}^{d} C_{bd}^{e}    &=& 0     \tag{12.13} \end{eqnarray}\]
で定義される。ヤコビ律(12.13)は添え字 $(a, b, c)$ についての巡回和で表せることに注意しよう。

リーの第2定理

 リーの第2定理の主張は以下の通り。
微分演算子 $X_i = (E^{-1})^k_i \frac{\d}{\d \th^k}$ はリー代数の(基底)要素を成す。任意のリー群 $G$ に対して、対応するリー代数 $\mathfrak{G}$ が存在する。
言い換えると、微分演算子 $X_i$ と要素 $t_a$ の間に対応関係がある。この主張の逆は次のようになる。
任意のリー代数 $\mathfrak{G}$ に対して、対応するリー群 $\widetilde{G}$ を構成できる。(群の要素を $\widetilde{g} = \exp ( i t_a \th^a )$ とすればよい。)ただし、この $\widetilde{G}$ はユニークには決まらない。より正確には、$\widetilde{G}$ は単連結型の $G$($G$ は上記のリー群)であり、単連結普遍被覆群と呼ばれる。


2024-10-24

11. 共形対称性 vol.6

11.5 カッツ行列式とユニタリー・ミニマル模型


前回はビラソロ代数のユニタリー性の議論から特異ベクトルが存在する条件について解説した。これらの結果で重要なのは特異ベクトルが存在する場合、共形ウェイト $h$ が中心電荷 $c$ の関数として表される点にある。グラム行列 $M^{(N)}$ を用いるとレベル $N$ の特異ベクトルは固有値ゼロの固有ベクトルに相当する。よって、この $h$ と $c$ の関係は $\det M^{(N)} = 0$ を課すことでより簡単に導ける。行列式 $\det M^{(N)}$ はカッツ行列式と呼ばれる。

 $N = 1$ の場合、関係式
\[    \bra h | L_{1} L_{-1} | h \ket = 2 h     \tag{11.88} \]
から $\det M^{(1)} = 2h $ となる。$N= 2$ の場合、グラム行列は
\[    M^{(2)} =    \left(      \begin{array}{cc}        \bra h| L^{2}_{1}  L^{2}_{-1} | h \ket & \bra h| L^{2}_{1} L_{-2}| h  \ket \\        \bra h| L_{2}  L^{2}_{-1}  | h \ket  & \bra h| L_{2} L_{-2} | h \ket  \\      \end{array}    \right)    =    \left(      \begin{array}{cc}        4h ( 1 + 2h ) & 6h \\        6h  & 4h + \frac{c}{2} \\      \end{array}    \right)     \tag{11.110} \]
と書ける。ただし、ビラソロ代数
\[    \left[ L_m , L_n \right] \, = \, ( m - n ) L_{m+n} +    \frac{c}{12} ( m^3 - m ) \del_{m+n, 0}    \tag{11.76} \]
と最高ウェイト状態の条件式
\[    L_0 | h \ket = h | h \ket \, , ~~~~    L_n | h \ket = 0  ~~ ( n \ge 1 )    \tag{11.82} \]
を用いて、行列の各成分を導いた。
\[\begin{eqnarray}    \bra h | L_1^2 L_{-1}^{2} | h \ket &=& 2 \bra h | L_1 ( L_{-1} + 2 L_{-1} L_0 ) | h \ket = 4h (2 h+ 1)   \nonumber \\    \bra h| L^{2}_{1} L_{-2}| h  \ket &=& \bra h | L_1 [ L_1 , L_{-2} ] | h \ket = 6 h    \tag{11.111} \\    \bra h| L_{2} L_{-2} | h \ket &=& \bra h| [ L_{2} ,  L_{-2} ] | h \ket = 4h + \frac{c}{2}   \nonumber \end{eqnarray}\]
以上より、
\[    \det M^{(2)} = 4h \left[ 8h^2 + (c-5 ) h + \frac{c}{2} \right]     \tag{11.112} \]
が分かる。よって、$\det M^{(2)} = 0$ $(\det M^{(1)} \ne 0)$ はレベル2特異ベクトルが存在する条件式
\[    h = \frac{- (c-5) \pm \sqrt{(c-1)(c-25)}}{16}     \tag{11.101} \]
に帰着できる。

2024-10-20

柴又散策

今日は次女と一緒に初めて柴又に行きました。京成金町線で柴又駅から参道を通り帝釈天へ。以前、「土曜は寅さん」で男はつらいよ!シリーズをいくつか観ていたので子供も楽しめたようです。


2024-10-18

レベル3カッツ行列式の計算

2次元共形場理論で出てくるカッツ行列式の計算。2次元までは自明でどの教科書にも載っているのですが、3次元(正確にはレベル3)の場合は急に計算量が増えてややこしくなってしまいます。調べたけど出てこないので自分で計算することにしました。一般の場合の公式は既に証明されているのでレベル3の場合だけやって自分を納得させたいだけの話です。

まず、レベル3カッツ行列式は
\[ |M^{(3)} | = \left|      \begin{array}{ccc}        \bra h| L^{3}_{1}  L^{3}_{-1} | h \ket & \bra h| L^{3}_{1} L_{-1} L_{-2}| h  \ket & \bra h| L^{3}_{1} L_{-3}| h  \ket  \\       \bra h| L_{2} L_{1} L^{3}_{-1}  | h \ket  & \bra h| L_{2}L_{1} L_{-1}L_{-2} | h \ket  & \bra h| L_{2}L_{1} L_{-3} | h \ket  \\     \bra h| L_{3} L^{3}_{-1}  | h \ket  & \bra h| L_{3} L_{-1}L_{-2} | h \ket  & \bra h| L_{3} L_{-3} | h \ket  \\      \end{array}  \right|  \tag{1} \]
で与えられる。ここで、演算子 $L_{n}$ $(n \in \mathbb{Z} )$ はビラソロ代数
\[    \left[ L_m , L_n \right] \, = \, ( m - n ) L_{m+n} +    \frac{c}{12} ( m^3 - m ) \del_{m+n, 0}    \tag{2} \]
に従う。$c$ は中心電荷と呼ばれる定数である。状態 $| h \ket$ は最高ウェイト状態を表し条件式
\[   L_0 | h \ket = h | h \ket \, , ~~~~    L_n | h \ket = 0  ~~ ( n \ge 1 )   \tag{3} \]
を満たす。以上から行列の各成分を計算すると以下の結果を得る。

2024-10-12

ノーベル平和賞に日本被団協

これはビッグニュース。ノーベル平和賞はこれまでも核廃絶の運動に対して贈られてきました。2009年のオバマ大統領(当時)、2017年のICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)。オバマ大統領の時は核廃絶を口約束しただけの印象でしたが、2017年ではヒバクシャという言葉が国際的に浸透する良い契機になりました。今回、長年に渡り反核平和活動を展開してきた日本の団体(日本原水爆被害者団体協議会)が受賞したのは当然の流れとは言え、驚きました。これまで日本からの核廃絶イニシアチブは国際的に影響力がなかった印象なので今後はこれを契機にもっと自信と勇気をもって反核平和のメッセージを発信し続けることが日本外交に期待されているということでしょうか。現実的には難しそうですが。


2024-10-06

東京都美術館 田中一村 展

以前こちらで紹介した田中一村の大回顧展が東京都美術館で開催中。先日訪問しました。上野駅の公園口前の横断歩道がなくなったので公園施設へのアクセスが断然良くなりました。


東京で個展を開いて絵の決着をつけたいという一村の悲願成就。決着をつけるまでもないことは本人も分かっていたでしょうけど。でも、こうして多くの人々に素晴らしい作品が披露されることはありがたい。実物を観てただただ感動しました。途中で休憩を挟みながらマイペースで観覧。絵画作品だけでなく手紙や写真など貴重な資料、新出の作品も展示されていました。奄美大島まで行かないと再び観ることは叶わないだろうからと思い切ってカタログ購入。


解説文も丁寧で理解が深まりました。久しぶりに手元にある伝記と作品集を読み直しました。

2024-09-21

2024年9月 焼岳


久しぶりの上高地。マイカーでアクセスできる新中の湯登山口から焼岳までピストン。登山口にはトイレがないため道の駅「風穴の里」を利用しました。火山ということで念のためヘルメット持参。山頂付近では硫黄臭のする噴煙が絶え間なく湧いていました。山頂ではガスの切れ間から何度か絶景を望むことができました。

2024-09-09

カローラフィールダーのヘッドライト塗装

ヘッドライトの黄ばみが気になってきたのでDIYでキレイにしてみました。

1.中性洗剤で洗う
2.マスキング
3.耐水ペーパー800番で研磨
4.再度中性洗剤で洗ってから乾かす
5.前面のマスキング
6.ウレタンクリアで4から5度塗装

最後のところ本来は3度塗装で良かったみたいなのですが、せっかくのスプレー缶が余ってしまったので余計に塗装してしまいました。4度目でまた曇ってしまった(ゆず肌?)のでもう一度厚塗りして終わりにしました。

施工前