ワインバーグの訃報に接し開始した昔のノートのデジタル化ですが、ようやく最後のエントリーとなりました。電弱標準模型の話からだいぶ離れてしまいましたが、今回はsine-Gordon方程式を扱います。
\[ \begin{eqnarray} \L &=& \hf (\d \varphi )^2 - \frac{\mu^2}{\al^2} ( 1- \cos \al \varphi ) \\ V&=& \hf \left( \frac{\d \varphi}{ \d x} \right)^2 + \frac{\mu^2}{\al^2} ( 1- \cos \al \varphi ) \end{eqnarray} \tag{1} \]
ただし、$(\d \varphi )^2 = (\d_t \varphi )^2 - (\d_x \varphi )^2$である。真空では$V (\varphi ) = 0$ なのでその定常解を
\[ \varphi_0 (n) = \frac{2 \pi n}{\al} \]
とおく。$\varphi = \varphi_0 + \et$としてラグランジアンを展開すると
\[ \L = \hf (\d_t \et )^2 - \hf ( \d_x \et )^2 + \frac{\mu^2 \eta^2}{2} - \frac{\mu^2 \al^2}{4!} \et^4 + \cdots \]
有限エネルギー条件は$|\vec{x}| \rightarrow \infty$で$\varphi \rightarrow \varphi_0$となる。ラグランジアン(1)からsine-Gordon方程式は
\[ \left( \frac{\d^2}{\d t^2} - \frac{\d^2}{\d x^2} \right) \varphi + \frac{\mu^2}{\al} \sin \al \varphi = 0 \tag{2} \]
となる。伝播速度$v$ $(|v| < 1 $) をもつ波動を考えると sine-Gordon方程式は以下のソリトン解をもつ。
\[ \varphi_{sol} = \frac{4}{\al} \tan^{-1} \left[ \exp \left( \pm \frac{\al^2}{\mu} \frac{1}{\sqrt{1-v^2}} \Big( (x- x_0 ) - v ( t - t_0 ) \Big) \right) \right] \tag{3} \]
ただし、$|\vec{x}| \rightarrow \infty$のとき$\varphi \rightarrow \varphi_0$, $\d_x \varphi \rightarrow 0$ の境界条件と積分公式
\[ \frac{\al}{2} \int_{\varphi (x_0 )}^{\varphi (x) } \frac{ d \varphi}{ \sin \frac{\al}{2} \varphi} = \Bigg[ \ln \left( \tan \frac{\al}{4} \varphi \right) \Bigg]_{\varphi (x_0 )}^{\varphi (x) } \]
を用いた。この時、全空間のエネルギーは $U ( \varphi ) = \frac{\mu^2}{\al^2} ( 1- \cos \al \varphi ) $とおくと
\[ {\cal E} = \int_{- \infty}^{\infty} U ( \varphi ) dx = \frac{4 \mu}{\al^2} \sqrt{1 - v^2} \]
と有限になるので(3)はソリトン(孤立波)解である。
\[ u = e^{i \al \varphi} ~, ~~~ |u| = 1 ~, ~~~ u \in S^1 \]
と定義すると
\[ \L = \frac{1}{\al^2} \left[ \hf ( \d u \d u^\dagger ) - \frac{\mu^2}{2} \Big( (u + u^\dagger ) - 2 \Big)\right] \]
と書ける。これ以降
\[ \al = 1 \]
とおく。さらに、
\[ \tan \frac{\th}{4} = \exp \left( \frac{1}{\mu} \frac{1}{\sqrt{1-v^2}} \Big( (x- x_0 ) - v ( t - t_0 ) \Big) \right) \]
とすると式(3)のプラス符号の解は
\[ \tan \frac{ \varphi}{4} = \tan \frac{\th}{4} \tag{4} \]
と表せる。$\varphi$は写像 $e^{i \th} \rightarrow e^{i \varphi} $ を与える。$e^{i \th}$は$S^1$空間を表すので $\varphi ~: ~ S^1 \rightarrow S^1$ となる。以上より次のことが分かる。
1.解にラベルされる数$n$は$\varphi (\th)$の巻き数 (winding number)に相当する。
2.巻き数は
\[\begin{eqnarray} Q &=& \frac{1}{2 \pi} \int \frac{d \varphi}{d \th} d \th = \frac{1}{2 \pi} \int \frac{d \varphi}{d x} dx = \int J_0 dx \\ J_\mu &=& \frac{1}{2\pi} \ep_{\mu\nu} \d_\nu \varphi \end{eqnarray} \tag{5}\]
で与えられる。
3.$Q$は写像のホモトピー類を与える。
ホモトピー
標的空間を$\M$として写像 $f: M_x \rightarrow \M$ と $g: M_x \rightarrow \M$ を考える。このときある関数$F(x, t)$ ($0 \le t \le 1$) が $F(x, 0)= f(x)$, $F(x, 1)= g(x)$ を満たし、$F(x, t)$ が変数$(x, t)$について連続であるならば、$f(x)$と$g(x)$は互いにホモトピー同値(ホモトッピク)であるという。$M_x$として$S^n$を選び、全ての写像 $S^n \rightarrow \M$ を考える。ホモトピー同値を相殺すると、これはホモトピー群$\Pi_n (\M )$を与える。sine-Gorldon理論の場合は$\Pi_1 ( S^1 ) = \mathbb{Z}$に当たる。
境界条件の役割
$S^1$を得るには$\mathbb{R}^1$をコンパクト化する必要がある。これは $x \rightarrow \infty$ と $x \rightarrow - \infty$ で全ての観測量が同じ値を持つことを要請する。よって、$\varphi$ は観測量ではない。一方、$\d \varphi$ はOKとなる。また $\cos \varphi$, $e^{i \varphi}$ などもOKである。よって、$u = e^{i \varphi}$ は適切な変数であるとことが分かる。
連続性の役割
古典的にはソリトンは初期データとして扱われる。時間発展は$\varphi ( x, t)$と表せる。ただし、初期状態を$\varphi ( x ,0 ) = \varphi (x)$とする。時間発展が連続的なので$\varphi (x, t)$は$\varphi (x)$のホモトピックな変形である。したがって、古典的な時間発展のもとでホモトピー類は保存される。ソリトン数は「トポロジカルな量子数」を与える。
量子力学的な時間発展
量子論的には互いに異なるホモトピー類に属する$\varphi_i $と$\varphi_f$の間で量子的な遷移が起こることがアプリオリに可能である。そのような遷移の確率振幅は
\[ \bra \varphi_f | \varphi_i \ket = \lim_{t \rightarrow \infty\ \\ t' \rightarrow - \infty} \sum_{paths \\ (\varphi_{f} , \varphi_{i} ) } e^{i S (t , t' )} \tag{6} \]
で与えられる。和は配位空間(すべての$\varphi (x)$の空間)における時間$|t - t'|$での$\varphi_i$と$\varphi_f$の間の全ての経路に渡る。$S (t , t' )$は経路$\varphi (x, t)$の作用である。ユークリッド課すると$i S(t, t' )= - S_E (\tau , \tau' )$とおける。ただし、$\tau = i t$とおく。これより
\[ \bra \varphi_f | \varphi_i \ket = \left. \sum_{paths } e^{-S_E (\tau , \tau' )}\right|_{\tau = it } \tag{7} \]
と書ける。計算結果はミンコフスキー空間に接続できる。よって、以下の2つの可能性がある。
1.異なるホモトピー類に属する$\varphi_i$と$\varphi_f$に対して全ての$\varphi_i$と$\varphi_f$を結ぶ経路が$S_E = \infty$となる。この場合、遷移振幅はゼロとなり、ホモトピー類は量子力学的な時間発展のもとで保存される。
2.$S_E$が有限となる配位$\varphi ( x, t)$が存在する。この場合、ホモトピー類は量子的な遷移のもとで混合するため、状態を再対角化する必要がある。この時、巻き数は特別な意義を持たない。
sine-Gordon理論は上記1.の場合に当てはまる。すべての経路が無限大となるユークリッド作用を持つことは次のようにチェックできる。例えば、$\varphi = \et t + (1- t) \varphi_{sol}$ ($0 \le t \le 1$) とすると $\d_t \varphi$から$( - \varphi_{sol} )$が出てくるので
\[ \begin{eqnarray} S_E &=& \int \varphi_{sol}^{2} \, dx dt + \cdots \\ & \simeq & \int_0^1 \int_R^\infty 2 \pi dx dt = \infty \tag{8} \end{eqnarray} \]
となる。よって、巻き数は保存する。(The winding number is "superselected.")
保存カレントとコホモロジー
式(5)の保存カレント $J_\mu =\frac{1}{2\pi} \ep_{\mu\nu} \d_\nu \varphi = \ep_{\mu \nu} K_\nu$ を考える。このとき
\[ K_\mu = \frac{1}{2 \pi } \d_\mu \varphi ~ , ~~~~~ \d_{[ \nu }K_{\nu ]} = {\rm rot} K = 0 \tag{9} \]
を満たす。次元$n$の多様体上にある反対称テンソルを考える。縮約可能な多様体の場合、閉形式 $d \om = 0$ は完全形式 $\om = d \al$ を意味する。しかし、縮約可能でない場合、これは一般的に成り立たない。
式(9)から$K$は閉形式である($dK = 0$)。一方、$K_\mu \sim \d_\mu \varphi $であるが$\varphi (\th) $は$\th$の円周上で一意の値を取らないため$K_\mu$は大域的に定義された0-形式(あるいは関数)ではない。よって、$K$は閉形式であるが完全形式ではない。これは明らかに$S^1$が縮約可能でないことに由来する。多様体$M$上の閉$p$-形式の集合を$Z^p$とし、多様体$M$上の完全$p$-形式の集合を$C^p$とおくと、$M$の$p$次のコホモロジー群は
\[ H^p (M) = Z^p / C^p \tag{10} \]
で定義される。sine-Gordon理論の場合、$M = S^1$なので関連するコホモロジー群は$H^p ( S^1 ) = \mathbb{Z}$となる。
微分形式、ホモトピー、コホモロジーの基礎についてはナイアの教科書(発展編)14章を参照して下さい。
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