2025-11-21

15. ソリトン vol.4

前回に引き続き(3+1)次元ソリトンの巻き数
\[    Q [g]  \, = \,    \frac{1}{24 \pi^2} \, \int d^3 x \, \ep_{ijk} \Tr ( g^{-1} \d_i g \, g^{-1} \d_j g \, g^{-1} \d_k g \, )     \tag{15.55} \]
について考える。

巻き数の一般共変性

 座標変換のもとでの巻き数 $Q[g]$ の変化を考える。座標変換 $x^l \rightarrow x^{\prime i}$ を
\[    M^l_i \, = \, \frac{\d x^l}{\d x^{\prime i}}    \tag{15.59} \]
で特定する。このとき、微分 $\d_l = \frac{\d}{\d x^l}$ は
\[    \frac{\d}{\d x^l} \, \rightarrow \, \frac{\d}{\d x^{\prime i}}     \, = \,  M^l_i \frac{\d}{\d x^{l}}    \tag{15.60} \]
と変換する。また、$d x^{\prime i} =  ( M^{-1} )^{i}_{l} d x^l$ なので、積分測度は
\[    d^3 x  \, \rightarrow \, d^3 x^{\prime} \, = \, ( \det M^{-1} ) d^3 x     \tag{15.61} \]
と変換する。ただし、$\det M^{-1}$ は座標変換のヤコビアンを表す。これより、$Q[g]$ の変化は
\[\begin{eqnarray}    Q [ g ]  & = &    \frac{1}{24 \pi^2}  \int d^3 x  \, \ep^{ijk} \Tr ( g^{-1} \d_i g \, g^{-1} \d_j g \, g^{-1} \d_k g  )    \nonumber \\    & \rightarrow &    \frac{1}{24 \pi^2}  \int ( \det M^{-1} ) d^3 x \,  \ep^{ijk} M^l_i M^m_j M^n_k \,    \Tr (  g^{-1} \d_l g \, g^{-1} \d_m g \, g^{-1} \d_n g   )    \nonumber \\    & = & Q [ g ]    \tag{15.62} \end{eqnarray}\]
と表せる。ただし、関係式 $\ep^{ijk} M^l_i M^m_j M^n_k = \det M \, \ep^{lmn}$, $\det M  \det M^{-1} = \det M M^{-1} = 1$ を用いた。したがって、$Q[g]$ は座標変換のもとで不変である。言い換えると、$Q[ g]$ は一般共変性あるいは微分同相写像 (diffeomorphism) である。また、$Q[g]$ は(3+1)次元空間の計量に依らないことにも注意しよう。よって、$Q[g]$ の値は一般に曲がった空間にも適用される。

静的なソリトン解とスキルミオン

 巻き数 $Q$ のソリトンの静的な解を議論するには、サイン-ゴルドン模型の場合と同様にハミルトニアンを定義する必要がある。静的なハミルトニアンとしてまず単純に空間微分 $\d_i$ について2次の形となる
\[\begin{eqnarray}  \H [ g ] & = &   - \al^2 \int  d^3 x \, \Tr ( g^{-1} \d_i g \,  g^{-1} \d_i g )    \nonumber \\    &=& \al^2 \int d^3 x \, \Tr ( \d_i g^\dag \, \d_i g )    \tag{15.63} \end{eqnarray}\]
を考えよう。ただし、$\al^2 $ は正の係数である。ある特定の関数 $g = \widetilde{g}$ に対してハミルトニアンをゼロでない値 $\H [ \widetilde{g} ] \ne 0$ に取れる。このときスケール変換
\[    x^i \, \rightarrow  \,  x^{\prime i} =  R \, x^i    \tag{15.64} \]
を考える。ただし、$R$ はゼロでない実数である。座標変換(15.59)を用いると、これは $M_l^i = \frac{1}{R} \del_l^i$ に対応するので $d^3 x^\prime = R^3 d^3 x$, $\frac{\d}{\d x^{\prime i}} = \frac{1}{R} \frac{\d}{\d x^i}$ となる。よって、スケール変換のもとでゼロでないハミルトニアン $\H [ \widetilde{g} ]$ は
\[\begin{eqnarray}    \H [ \widetilde{g} ]  & = &     \al^2  \int d^3 x \, \Tr    \left( \frac{\d}{\d x^i} \widetilde{g}^{\dag} \, \frac{\d}{\d x^i} \widetilde{g}  \right)    \nonumber \\    & \rightarrow &   \al^2 \int  R^3 d^3 x \, \Tr    \frac{1}{R^2} \left( \frac{\d}{\d x^i} \widetilde{g}^{\dag} \, \frac{\d}{\d x^i} \widetilde{g}   \right)    \, = \,   R \, \H [\widetilde{g} ]     \tag{15.65} \end{eqnarray}\]
と変化する。スケール変換(15.64)のもとでハミルトニアンは $R$ に比例する。これはハミルトニアンに極小値が存在しないことを意味する。よって、ハミルトニアン(15.63)から有限エネルギーをもつ解を求められない。式(15.65)を導くにあたり次元の数が重要であることに注意しよう。式(15.62)で示したように、巻き数 $Q[g]$ は被積分関数に3つの空間微分を含むので $Q[g]$ はスケール変換のもとで不変である。これはまた $Q[g]$ が共形不変量であることも意味する。

 物理モデルを構築するにはハミルトニアン(15.63)が極小値を持つように修正する必要がある。そのような修正は4次の項を追加してハミルトニアンを
\[   \H [ g ] \, = \,   \al^2 \int d^3 x \, \Tr ( \d_i g^\dag \, \d_i g )  \, + \,    \bt^2 \int d^3 x \, \Tr ( \d_i g^\dag \, \d_i g  )^2    \tag{15.66} \]
と書き換えると実現できる。ただし、$\bt^2$ は別の正の係数を表す。スケール変換(15.64)のもとで4次の追加項は $\frac{1}{R}$ に比例する。よって、上のハミルトニアンは $\H \sim \al^2 R + \frac{\bt^2}{R}$ と評価できる。したがって、ハミルトニアン(15.66)は極小値をもち、有限エネルギーの静的なソリトン解を与える。

 (3+1)次元ソリトンの例は、スカームによる先駆的な研究にちなんでスキルミオンと呼ばれる。スキルミオンはQCDにおけるカイラル対称性の自発的破れ $SU_L (3) \times SU_R (3) \rightarrow SU_V (3)$ の文脈で考案された。14.4節で議論したように、この自発的対称性の破れから擬スカラー・8重項メソンの低エネルギー有効ラグランジアン
\[\begin{eqnarray}     \L_{\rm eff} & = & - f^{2} \, \Tr ( U^\dag \d_\mu U \, U^\dag \d_\mu U )    \, = \, f^{2} \, \Tr ( \d_\mu U^\dag \d_\mu U )    \nonumber \\    &=& \frac{f^2}{2} \, \d_\mu \phi^a  \, \d_\mu \phi^a \, + \, \O (\phi^3 ) \tag{14.115} \end{eqnarray}\]
が導かれた。この有効ラグランジアンは基本的に静的なハミルトニアン(15.63)において $g \in SU (3)$ としたものと同じであることに注意しよう。修正されたハミルトニアン(15.66)で $g \in SU (3)$ とおくと、これは核子(バリオン)間の低エネルギー有効理論を与える。対応するソリトン解はスキルミオンと呼ばれ、バリオンの多くの特性を記述できる。また、関連する巻き数は $Q[g]$ はバリオン数に対応することが知られている。

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