2024-05-09

9. アインシュタイン方程式の現代的な導出 vol.3

前回、真空のアインシュタイン方程式を導出する際に、${\cal R}_{\al\bt} g^{\al \bt}$ が共変微分の全微分として表せることを用いた。以下では、まずこの点を明らかにする。

共変微分とリッチ・テンソルの変分

 ベクトル$V_\nu$の共変微分$\D_\mu V_\nu$は
\[    \D_\mu V_\nu = \d_\mu V_\nu - \Ga_{\mu\nu}^{\la} V_\la    \tag{9.24}\]
で定義される。ただし、$V_\nu$をフレーム場$e^a_\nu (x )$を用いて $V_\nu (x) = e^a_\nu (x ) V^a$ と展開した。$V^a$は$x$に依存しない係数と解釈できる。リーマン多様体を解説した8.3節の結果、$D_\mu = \d_\mu + \om_\mu$, $\om_\mu = e \Ga_\mu e^{-1} - \d_\mu e \, e^{-1}$, $( D_\mu e_\nu )^a = \Ga_{\mu \nu}^{\la} e_\la^a$ を用いると、$( \D_\mu e_\nu )^a  = ( \d_\mu e_\nu - e_\la \Ga_{\mu \nu }^{\la} )^{a}$ を得る。よって、(9.24)の共変微分$\D_\mu$は8.3節で紹介したリーマン多様体の共変微分$D_\mu$と同じであることが分かる。行列表示をすると $\D_\mu = e ( \d_\mu - \Ga_\mu ) e^{-1}$ と書ける。これは共変微分$\D_\mu$が微分 $( \d_\mu - \Ga_\mu )$ の局所ローレンツ変換として表せることを示している。

 同様に、逆ベクトル$V^\nu = (e^{-1})^{\nu a} (x) V^a$の共変微分も定義することができる。すなわち、関係式
\[    D_\mu (e^{-1})^{\nu a} = \d_\mu (e^{-1})^{\nu a} - (e^{-1})^{\nu b} \om_{\mu}^{ab}     \tag{9.25} \]
を用いると、$\D_\mu V^\nu$は
\[    \D_\mu V^\nu = \d_\mu V^\nu + \Ga_{\mu\al}^{\nu} V^\al     \tag{9.26} \]
と表せる。

 共変微分$\D_\mu$のもとで、計量テンソルは定数である。つまり、$\D_\al g_{\mu \nu} = 0$ となる。この意味で共変微分$\D_\mu$は非常に有用である。具体的に書き出すと、
\[\begin{eqnarray}    \D_\al g_{\mu \nu} &=& \D_\al ( e_\mu^a  e_\nu^a ) \nonumber \\    &=& \d_{\al} g_{\mu \nu} - \Ga_{\al \mu}^{\la} g_{\la \nu} - \Ga_{\al \nu}^{\la} g_{\mu \la}    \, = \, 0     \tag{9.27} \end{eqnarray}\]
となる。ここで、クリストッフェル記号の定義式(8.30)を用いた。言い換えると、$\Ga_{\mu \nu}^{\la}$は関係式 $\D_\al g_{\mu \nu} = 0$ で定義されると解釈することもできる。$\Ga_{\mu \nu}^{\la}$はその局所座標変換
\[   \widetilde{\Gamma}^{\la}_{\mu\nu} = \Gamma_{\al \bt }^{\si}    \frac{\d x^\al}{\d y^\mu} \frac{\d x^\bt}{\d y^\nu} \frac{\d y^\la}{\d x^\si}   +  \frac{\d^2 x^\la }{\d y^\mu \d y^\nu}  \frac{\d y^\la}{\d x^\si}    \tag{8.34} \]
から分かるようにテンソル量ではなかった。しかし、(8.34)から明らかなように、変分$\del \Ga_{\mu \nu}^{\la}$はテンソルとなる。よって、$\del \Ga_{\mu \nu}^{\la}$の共変微分をとることに問題はない。(9.24)と(9.26)から、$\D_\mu \del \Ga_{ \nu \al}^{\la}$は
\[    \D_\mu \del \Ga_{ \nu \al}^{\la} = \d_\mu \del \Ga_{ \nu \al}^{\la}    - \Ga_{\mu \nu}^{\si} \del \Ga_{ \si \al}^{\la} - \Ga_{\mu \al}^{\tau} \del \Ga_{ \nu \tau}^{\la}    + \Ga_{\mu \rho}^{\la} \del \Ga_{\nu \al}^{\rho}     \tag{9.28} \]
と計算できる。リーマン曲率テンソル
\[    {\cal R}^{\la}_{\mu \nu \al}    \, = \,    \d_{\mu} \Ga^{\la}_{\nu \al} -  \d_{\nu} \Ga^{\la}_{\mu \al}    + \Ga^{\la}_{\mu \bt}\Ga^{\bt}_{\nu \al}    - \Ga^{\la}_{\nu \bt}\Ga^{\bt}_{\mu \al}    \tag{9.14}\]
の変分は
\[\begin{eqnarray}    \del {\cal R}^{\la}_{\mu \nu \al} & = &    \d_{\mu} \del \Ga^{\la}_{\nu \al} -  \d_{\nu} \del \Ga^{\la}_{\mu \al}    + \del \Ga^{\la}_{\mu \bt}\Ga^{\bt}_{\nu \al} + \Ga^{\la}_{\mu \bt} \del \Ga^{\bt}_{\nu \al}    - \del \Ga^{\la}_{\nu \bt}\Ga^{\bt}_{\mu \al}- \Ga^{\la}_{\nu \bt} \del \Ga^{\bt}_{\mu \al}    \nonumber \\    &=&  \left( \D_\mu \del \Ga_\nu - \D_\nu \del \Ga_\mu \right)_\al^\la    \tag{9.29} \end{eqnarray}\]
と表せる。ただし、$\Ga_{\mu \nu}^{\si} = \Ga_{\nu \mu}^{\si}$ を用いた。よって、リッチ・テンソルの変分は
\[    \del {\cal R}_{\nu \al} = \del {\cal R}^{\la}_{\la \nu \al} =     \D_\la \del \Ga_{\nu \al}^{\la} - \D_\nu \del \Ga_{\la \al}^{\la}     \tag{9.30} \]
で与えられる。これより、$\del {\cal R}_{\al\bt} g^{\al \bt}$ は
\[    \del {\cal R}_{\al\bt} g^{\al \bt} = \D_\la \left(     \del \Ga_{\al \bt}^{\la} g^{\al\bt} - \del \Ga_{\al \bt}^{\al} g^{\la \bt}    \right)     \tag{9.31} \]
と求まる。

アインシュタイン方程式

上式より、(9.23)の最後の項の被積分関数は表面積分となり積分は無視できる。よって、変分原理により計量の運動方程式は
\[    {\cal R}_{\al\bt} \, - \, \frac{1}{2} g_{\al\bt} {\cal R}    \, - \, 8 \pi G \La \, g_{\al\bt} \, = \, 0     \tag{9.32} \]
となる。これは真空のアインシュタイン方程式と呼ばれる。

 つぎに、自由場の作用
\[   \S = -   \int d^4 x \sqrt{- \det g }    \left[    \frac{1}{16\pi G} {\cal R} - \La    \right]    \tag{9.18} \]
に物質の源(ソース)を追加する。$\S_{\rm m}$を物質場の作用
\[    \S_{\rm m} \, = \, \int d^4 x \sqrt{- \det g} \, \L_{\rm m}     \tag{9.33} \]
とする。計量について変分をとると物質場の作用は
\[    \frac{\del \S_{\rm m}}{ \del g^{\mu \nu} }    \, = \,    \frac{1}{2} T_{\mu\nu}    \tag{9.34} \]
と定義される。ただし、$T_{\mu \nu}$はエネルギー・運動量テンソルである。この定義は
\[    \del \S_{\rm m} \, = \,    \int d^4 x \sqrt{- \det g} \, \left(    \frac{1}{2} T_{\mu\nu} \del g^{\mu \nu}    \right)     \tag{9.35} \]
とも表せる。エネルギー・運動量テンソルは物理的に重要である。その$(0,0)$成分 $T_{00}$ はエネルギー密度を与え、$T_{0i}$ ($i=1,2,3$) は$x_i$方向のエネルギー・フラックスを表す。電磁場$( \vec{E} , \vec{B} )$の場合、$T_{00} = \frac{E^2 + B^2}{2}$, $T_{0i} = ( \vec{E} \times \vec{B} )_i $ となる。後者はポインティング・ベクトルと呼ばれる。$\del \S_{\rm m} $を
\[   \del \S =  - \int d^4 x \sqrt{- \det g}    \left[    - \frac{1}{2} g_{\al\bt} \left(    \frac{1}{16 \pi G} {\cal R} - \La    \right) + \frac{1}{16 \pi G} {\cal R}_{\al\bt}    \right] \del g^{\al\bt}      \tag{9.23} \]
に追加すると、対応する運動方程式は物質場も含めたアインシュタイン方程式
\[    {\cal R}_{\al\bt} \, - \, \frac{1}{2} g_{\al\bt} {\cal R}    \, - \, 8 \pi G \La \, g_{\al\bt} \, = \,  8 \pi G \, T_{\al\bt}     \tag{9.36} \]
となる。

 $\La = 0$ の場合、${\cal R}_{\al\bt}  -  \frac{1}{2} g_{\al\bt} {\cal R} =  8 \pi G \, T_{\al\bt}$ となる。両辺に $g^{\al \bt}$ を施すと、関係式
\[    {\cal R} \, =  \, - 8 \pi G T    \tag{9.37}\]
を得る。ただし、$g^{\al \bt} g_{\al \bt} = \del^{\al}_{\al} =4$ を用いた。$T$はエネルギー・運動量テンソルのトレースであり、
\[    T \, = \, g^{\al \bt} T_{\al\bt}    \tag{9.38}\]
と定義される。これより、宇宙定数項の無いアインシュタイン方程式は
\[    {\cal R}_{\al\bt} \, = \,  8 \pi G \left( T_{\al\bt} - \frac{1}{2} g_{\al \bt} T \right)      \tag{9.39} \]
とも表せる。

ニュートン重力への回帰

 つぎに、非相対論的な近似を考えてアインシュタイン方程式に現れる$G$がニュートン定数と同定できることを見てみよう。重力ポテンシャル $\Phi = - \frac{GM}{r}$ のもとで非相対論的な点粒子の運動は9.1節で議論したように作用
\[\begin{eqnarray}    \S &=& - m \int \sqrt{ g_{\mu\nu} d x^\mu d x^\nu }    \nonumber \\    &=& -m \int \sqrt{ g_{00} -v^2 } dt    \nonumber \\    &\simeq & \int dt \left( - m + \hf m v^2 - m \Phi \right)     \tag{9.40} \end{eqnarray}\]
で記述される。ただし、$g_{ij} = - \del_{ij}$ $(i,j = 1,2,3)$ を用いた。ここで、非相対論的な極限 $( v \ll c = 1 )$ では、計量テンソルの$(0,0)$成分は
\[    g_{00} \, \simeq \, 1 + 2 \Phi \, = \, 1 - \frac{2GM}{r}     \tag{9.41} \]
と近似できることに注意する。また、非相対論的な極限では測地線方程式(9.12)は
\[    \frac{d^2 x^i}{ d t^2} \simeq - \Ga_{00}^{i}     \tag{9.42} \]
と近似できる。クリストッフェル記号の定義(9.15)から、$\Ga_{00}^{i}$成分は
\[    \Ga_{00}^{i}  = \d_i \Phi    \tag{9.43} \]
と計算できる。よって、方程式(9.42)は
\[    \frac{d^2 x^i}{ d t^2} \simeq - \d_i \Phi     \tag{9.44} \]
となる。これはニュートン重力の運動方程式である。

 つぎに、$\La = 0$としてアインシュタイン方程式(9.36)に非相対論的な近似を適用する。エネルギー・運動量テンソル $T_{\mu\nu}$ の非自明な成分はエネルギー密度の成分 $T_{00} = \rho = M \del^{(3)} (x)$ で与えられる。このとき、エネルギー・運動量テンソルのトレース$T$は
\[    T  = g^{00} T_{00} = ( 1 + 2 \Phi )^{-1} \rho     \tag{9.45}\]
と計算できる。よって、アインシュタイン方程式(9.39)は
\[    {\cal R}_{00} \, = \,  4 \pi G \rho     \tag{9.46}\]
と書ける。リッチ・テンソル${\cal R}_{00}$は非相対論的な計量 $g_{00} = 1 + 2 \Phi $, $g_{11} = g_{22} =g_{33} = -1$ から素朴に計算できる。ゼロでないクリストッフェル記号の成分は
\[    \Ga_{00}^{i} = \d_i \Phi \, , ~~~~ \Ga_{0i}^{0} = ( 1 + 2 \Phi )^{-1} \d_i \Phi    \tag{9.47}\]
で与えられる。リッチ・テンソルの定義
\[    {\cal R}_{\nu \al} =    \d_{\la} \Ga^{\la}_{\nu \al} -  \d_{\nu} \Ga^{\la}_{\la \al}    + \Ga^{\la}_{\la \bt}\Ga^{\bt}_{\nu \al}    - \Ga^{\la}_{\nu \bt}\Ga^{\bt}_{\la \al}     \tag{9.16} \]
から ${\cal R}_{00}$ は
\[\begin{eqnarray}    {\cal R}_{00} &=&  \d_i \Ga_{00}^{i} - \Ga_{0i}^{0} \Ga_{00}^{i} \nonumber \\    &=&  \nabla^2 \Phi - (1+ 2 \Phi )^{-1} ( \d_i \Phi )^2     \tag{9.48} \end{eqnarray}\]
と求まる。ただし、ラプラシアン$\d_i (\d_i \Phi )$を$\nabla^2 \Phi$と表記した。${\cal R}_{00}$を$\Phi$の1次のオーダーで近似するすると、アインシュタイン方程式(9.46)は重力ポテンシャルのポアソン方程式
\[    \nabla^2 \Phi \, \simeq \, 4 \pi G \rho     \tag{9.49} \]
となる。これより、アインシュタイン方程式の定数$G$はニュートン定数と同定できることが分かる。

宇宙定数と高次の微分項

 アインシュタイン方程式の非相対論的な解析から$G$がニュートン定数であることが分かった。一方、宇宙定数$\La$に類似するものはニュートン重力には存在しない。作用(9.18)から、$\La$は真空のエネルギー密度と解釈できる。観測データによると宇宙は正の加速度で膨張している。この事実を宇宙定数で表すと $\La > 0$ となる。しかしながら、理論的には$\La$の符号を決めることはできない。つまり、一般相対性理論では $\La = 0$(宇宙の等速度膨張)あるいは $\La < 0$(収縮宇宙)の可能性を否定できない。

 最後に、${\cal R}^2$, ${\cal R}_{\nu\al}{\cal R}^{\nu\al}$などで表せる曲率の高次の項について考える。
\[    \S =  - \int d^4 x \sqrt{- \det g}    \frac{1}{16 \pi G}    \Bigl[    {\cal R} + 16\pi G \bigl( \La + c_1 {\cal R}^2 + c_2    {\cal R}_{\nu\al}{\cal R}^{\nu\al} + \cdots  \bigr)    \Bigr]    + \S_{\rm m}    \tag{9.50} \]
ここで、$c_1 , c_2 , \cdots$は定数である。曲率について高次の項は(1次までの項と比較して)比例因子 $G {\cal R}$ を持つ。非相対論的な計量(9.41)を用いると、(9.48)から分かるようにリッチ・スカラー${\cal R}$は計量の2次の微分 ${\cal R} \sim \nabla^2 g_{00}$ で評価できる。曲率について高次の項も同様に計量の高次微分を含む。2次の微分で${\cal R}$を評価すると ${\cal R}$は ${\cal R} \sim  \frac{\d^2}{\d r^2} \Phi \sim \frac{ GM}{r^3}$ と概算できる。よって、因子$G {\cal R}$は
\[    G {\cal R}  \sim  G \frac{GM}{r^3}  \sim    G^2 {\rm (密度)} \ll 1    \tag{9.51} \]
と評価できる。これは周期表にある任意の元素に適用できる。自然界に存在する最も高密度の元素はオスミウム (Os) であり、その密度は ${\rm (密度)}_{\rm Os} = 2.59 \, {\rm g/ cm^3}$ で与えられる。自然単位系 $(c= \hbar = 1)$ では、$1 {\rm g} = 5.6 \times 10^{23} \, {\rm GeV}$, $1 {\rm cm}^{-1} = 1.24 \times 10^{-13} \,{\rm GeV}$, $G = 6.71 \times 10^{-39} \, {\rm GeV}^{-2} $ であるので、Osについて $G^2 {\rm (密度)}$ を計算すると
\[    G^2 {\rm (密度)}_{\rm Os} = 1.25 \times 10^{-91}  \ll 1   \tag{9.52} \]
となる。したがって、一般相対性理論において${\cal R}^2$, ${\cal R}_{\nu\al}{\cal R}^{\nu\al}$などの高次の微分項は殆どの場合、無視できる。高エネルギーあるいは短距離極限ではこれらの高次の微分項は重要となるが、低エネルギーあるいは長距離極限では微分の数を最小化することで重力の有効理論を導くことができる。

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