前回、真空のアインシュタイン方程式を導出する際に、Rαβgαβ が共変微分の全微分として表せることを用いた。以下では、まずこの点を明らかにする。
共変微分とリッチ・テンソルの変分
ベクトルVνの共変微分DμVνは
DμVν=∂μVν−ΓλμνVλ
で定義される。ただし、Vνをフレーム場eaν(x)を用いて Vν(x)=eaν(x)Va と展開した。Vaはxに依存しない係数と解釈できる。リーマン多様体を解説した8.3節の結果、Dμ=∂μ+ωμ, ωμ=eΓμe−1−∂μee−1, (Dμeν)a=Γλμνeaλ を用いると、(Dμeν)a=(∂μeν−eλΓλμν)a を得る。よって、(9.24)の共変微分Dμは8.3節で紹介したリーマン多様体の共変微分Dμと同じであることが分かる。行列表示をすると Dμ=e(∂μ−Γμ)e−1 と書ける。これは共変微分Dμが微分 (∂μ−Γμ) の局所ローレンツ変換として表せることを示している。
同様に、逆ベクトルVν=(e−1)νa(x)Vaの共変微分も定義することができる。すなわち、関係式
Dμ(e−1)νa=∂μ(e−1)νa−(e−1)νbωabμ
を用いると、DμVνは
DμVν=∂μVν+ΓνμαVα
と表せる。
共変微分Dμのもとで、計量テンソルは定数である。つまり、Dαgμν=0 となる。この意味で共変微分Dμは非常に有用である。具体的に書き出すと、
Dαgμν=Dα(eaμeaν)=∂αgμν−Γλαμgλν−Γλανgμλ=0
となる。ここで、クリストッフェル記号の定義式(8.30)を用いた。言い換えると、Γλμνは関係式 Dαgμν=0 で定義されると解釈することもできる。Γλμνはその局所座標変換
˜Γλμν=Γσαβ∂xα∂yμ∂xβ∂yν∂yλ∂xσ+∂2xλ∂yμ∂yν∂yλ∂xσ
から分かるようにテンソル量ではなかった。しかし、(8.34)から明らかなように、変分δΓλμνはテンソルとなる。よって、δΓλμνの共変微分をとることに問題はない。(9.24)と(9.26)から、DμδΓλναは
DμδΓλνα=∂μδΓλνα−ΓσμνδΓλσα−ΓτμαδΓλντ+ΓλμρδΓρνα
と計算できる。リーマン曲率テンソル
Rλμνα=∂μΓλνα−∂νΓλμα+ΓλμβΓβνα−ΓλνβΓβμα
の変分は
δRλμνα=∂μδΓλνα−∂νδΓλμα+δΓλμβΓβνα+ΓλμβδΓβνα−δΓλνβΓβμα−ΓλνβδΓβμα=(DμδΓν−DνδΓμ)λα
と表せる。ただし、Γσμν=Γσνμ を用いた。よって、リッチ・テンソルの変分は
δRνα=δRλλνα=DλδΓλνα−DνδΓλλα
で与えられる。これより、δRαβgαβ は
δRαβgαβ=Dλ(δΓλαβgαβ−δΓααβgλβ)
と求まる。
アインシュタイン方程式
上式より、(9.23)の最後の項の被積分関数は表面積分となり積分は無視できる。よって、変分原理により計量の運動方程式は
Rαβ−12gαβR−8πGΛgαβ=0
となる。これは真空のアインシュタイン方程式と呼ばれる。
つぎに、自由場の作用
S=−∫d4x√−detg[116πGR−Λ]
に物質の源(ソース)を追加する。Smを物質場の作用
Sm=∫d4x√−detgLm
とする。計量について変分をとると物質場の作用は
δSmδgμν=12Tμν
と定義される。ただし、Tμνはエネルギー・運動量テンソルである。この定義は
δSm=∫d4x√−detg(12Tμνδgμν)
とも表せる。エネルギー・運動量テンソルは物理的に重要である。その(0,0)成分 T00 はエネルギー密度を与え、T0i (i=1,2,3) はxi方向のエネルギー・フラックスを表す。電磁場(→E,→B)の場合、T00=E2+B22, T0i=(→E×→B)i となる。後者はポインティング・ベクトルと呼ばれる。δSmを
δS=−∫d4x√−detg[−12gαβ(116πGR−Λ)+116πGRαβ]δgαβ
に追加すると、対応する運動方程式は物質場も含めたアインシュタイン方程式
Rαβ−12gαβR−8πGΛgαβ=8πGTαβ
となる。
Λ=0 の場合、Rαβ−12gαβR=8πGTαβ となる。両辺に gαβ を施すと、関係式
R=−8πGT
を得る。ただし、gαβgαβ=δαα=4 を用いた。Tはエネルギー・運動量テンソルのトレースであり、
T=gαβTαβ
と定義される。これより、宇宙定数項の無いアインシュタイン方程式は
Rαβ=8πG(Tαβ−12gαβT)
とも表せる。
ニュートン重力への回帰
つぎに、非相対論的な近似を考えてアインシュタイン方程式に現れるGがニュートン定数と同定できることを見てみよう。重力ポテンシャル Φ=−GMr のもとで非相対論的な点粒子の運動は9.1節で議論したように作用
S=−m∫√gμνdxμdxν=−m∫√g00−v2dt≃∫dt(−m+12mv2−mΦ)
で記述される。ただし、gij=−δij (i,j=1,2,3) を用いた。ここで、非相対論的な極限 (v≪c=1) では、計量テンソルの(0,0)成分は
g00≃1+2Φ=1−2GMr
と近似できることに注意する。また、非相対論的な極限では測地線方程式(9.12)は
d2xidt2≃−Γi00
と近似できる。クリストッフェル記号の定義(9.15)から、Γi00成分は
Γi00=∂iΦ
と計算できる。よって、方程式(9.42)は
d2xidt2≃−∂iΦ
となる。これはニュートン重力の運動方程式である。
つぎに、Λ=0としてアインシュタイン方程式(9.36)に非相対論的な近似を適用する。エネルギー・運動量テンソル Tμν の非自明な成分はエネルギー密度の成分 T00=ρ=Mδ(3)(x) で与えられる。このとき、エネルギー・運動量テンソルのトレースTは
T=g00T00=(1+2Φ)−1ρ
と計算できる。よって、アインシュタイン方程式(9.39)は
R00=4πGρ
と書ける。リッチ・テンソルR00は非相対論的な計量 g00=1+2Φ, g11=g22=g33=−1 から素朴に計算できる。ゼロでないクリストッフェル記号の成分は
Γi00=∂iΦ, Γ00i=(1+2Φ)−1∂iΦ
で与えられる。リッチ・テンソルの定義
Rνα=∂λΓλνα−∂νΓλλα+ΓλλβΓβνα−ΓλνβΓβλα
から R00 は
R00=∂iΓi00−Γ00iΓi00=∇2Φ−(1+2Φ)−1(∂iΦ)2
と求まる。ただし、ラプラシアン∂i(∂iΦ)を∇2Φと表記した。R00をΦの1次のオーダーで近似するすると、アインシュタイン方程式(9.46)は重力ポテンシャルのポアソン方程式
∇2Φ≃4πGρ
となる。これより、アインシュタイン方程式の定数Gはニュートン定数と同定できることが分かる。
アインシュタイン方程式の非相対論的な解析からGがニュートン定数であることが分かった。一方、宇宙定数Λに類似するものはニュートン重力には存在しない。作用(9.18)から、Λは真空のエネルギー密度と解釈できる。観測データによると宇宙は正の加速度で膨張している。この事実を宇宙定数で表すと Λ>0 となる。しかしながら、理論的にはΛの符号を決めることはできない。つまり、一般相対性理論では Λ=0(宇宙の等速度膨張)あるいは Λ<0(収縮宇宙)の可能性を否定できない。
最後に、R2, RναRναなどで表せる曲率の高次の項について考える。
S=−∫d4x√−detg116πG[R+16πG(Λ+c1R2+c2RναRνα+⋯)]+Sm
ここで、c1,c2,⋯は定数である。曲率について高次の項は(1次までの項と比較して)比例因子 GR を持つ。非相対論的な計量(9.41)を用いると、(9.48)から分かるようにリッチ・スカラーRは計量の2次の微分 R∼∇2g00 で評価できる。曲率について高次の項も同様に計量の高次微分を含む。2次の微分でRを評価すると Rは R∼∂2∂r2Φ∼GMr3 と概算できる。よって、因子GRは
GR∼GGMr3∼G2(密度)≪1
と評価できる。これは周期表にある任意の元素に適用できる。自然界に存在する最も高密度の元素はオスミウム (Os) であり、その密度は (密度)Os=2.59g/cm3 で与えられる。自然単位系 (c=ℏ=1) では、1g=5.6×1023GeV, 1cm−1=1.24×10−13GeV, G=6.71×10−39GeV−2 であるので、Osについて G2(密度) を計算すると
G2(密度)Os=1.25×10−91≪1
となる。したがって、一般相対性理論においてR2, RναRναなどの高次の微分項は殆どの場合、無視できる。高エネルギーあるいは短距離極限ではこれらの高次の微分項は重要となるが、低エネルギーあるいは長距離極限では微分の数を最小化することで重力の有効理論を導くことができる。
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