10.3 FLRW計量と宇宙論的な解
この節では宇宙の計量として最も蓋然性の高いものとその解を考える。まず初めに、宇宙の計量に時間並進の不変性を課すことはできない。というのも、もしそうなら歴史は存在しないためである。そこで、宇宙について次の二つの原理を課す。
- 特別な原点を持たない一様宇宙(空間並進不変性)
- 特別な方向を持たない等方宇宙(空間回転不変性)
よって、宇宙の計量は空間並進と空間回転のキリング・ベクトルを持つと推測できる。そのような計量の試行関数はフリードマン・ルメートル・ロバートソン・ウォーカー計量 (FLRW計量)
\[ d s^2 \, = \, dt^2 - a^2 (t) \left( \frac{dr^2}{1 - k r^2} + r^2 d \th^2 + r^2 \sin^2 \th \, d \varphi^2 \right) \tag{10.32} \]
で与えらえる。ただし、$a(t)$は時間に依存するスカラー因子を表す。動径座標$r$の規格化は$a$に吸収されるので、$k$として3つの場合のみを考えればよい。すなわち、 $k = 0, + 1, -1$ である。$k = 0$ の場合、FLRW計量の空間部分は $ d r^2 + r^2 d \th^2 + r^2 \sin^2 \th \, \d \varphi^2 = dx^2 + dy^2 + dz^2$ と書けるので、計量は平坦な空間を表す。$k = +1$ の場合、FLRW計量の空間部分は
\[ \frac{d r^2}{1-r^2} + r^2 d \th^2 + r^2 \sin^2 \th \, d \varphi^2 \, = \, d \al^2 + \sin^2 \al \, ( d \th^2 + \sin^2 \th \, d \varphi^2 ) \tag{10.33} \]
となる。ただし、$r$を $r = \sin \al$ とパラメータ表示した。これは3次元曲面$S^3$の計量を与える。同様に、$k = -1$ の場合は $r = \sinh \al$ とパラメータ表示すると、負の曲率を持つ3次元双曲面(ロバチェフスキー多様体)の計量となる。よって、空間の幾何学は$k$によっては次のように分類できる。
\[ k \, = \, \left\{ \begin{array}{ll} 0 & \mbox{ユークリッド幾何学 (平坦空間)} \\ 1 & \mbox{曲率が正のリーマン幾何学 (3次元球面)} \\ -1 & \mbox{曲率が負のリーマン幾何学 (双曲幾何学)} \end{array} \right. \tag{10.34} \]
一様等方な宇宙を仮定すると宇宙は理想流体で満たされていると近似できる。このときアインシュタイン方程式は
\[ {\cal R}_{\mu\nu} \, - \, \frac{1}{2} g_{\mu\nu} {\cal R} \, - \, 8 \pi G \La \, g_{\mu\nu} \, = \, 8 \pi G \, T_{\mu\nu} \tag{10.35} \]
と書ける。ただし、$T_{\mu\nu} $は理想流体のエネルギー・運動量テンソル
\[ T_{\mu\nu} \, = \, ( \rho + P ) u_\mu u_\nu - P g_{\mu\nu} \tag{10.36} \]
で与えられる。ここで、$u_\mu$は流体の4元速度ベクトルであり、$\rho$と$P$はそれぞれ流体のエネルギー密度と圧力を表す。一様等方宇宙では空間成分の速度 $u_i$ をゼロとおける。つまり、静的な座標フレームを選ぶことができる。よって、$T_{\mu\nu}$のゼロでない成分は
\[ T_{00} = \rho \, , ~~ T_{11} = - P g_{11} \, , ~~T_{22} = - P g_{22} \, , ~~ T_{33} = - P g_{33} \tag{10.37} \]
となる。ただし、$u_0 u_0 = 1$ を用いた。つぎに、FLRW計量に対応するアインシュタイン方程式を求める。計量テンソルを書き下すと
\[\begin{eqnarray} && g_{00} = 1 , ~~ g_{11} = - \frac{a^2}{1 - k r^2} , ~~ g_{22} = - a^2 r^2 , ~~ g_{33} = - a^2 r^2 \sin^2 \th \nonumber \\ && g^{00} = 1 , ~~ g^{11} = - \frac{1 - k r^2}{a^2} , ~~ g^{22} = \frac{-1}{a^2 r^2} , ~~ g^{33} = \frac{-1}{a^2 r^2 \sin^2 \th} \nonumber \end{eqnarray}\]
となる。ゼロでないクリストッフェル記号の成分は以下で与えらえる。
\[\begin{eqnarray} && \Ga_{00}^{1} = \frac{a \dot{a}}{1 - k r^2} , ~~ \Ga_{11}^{1} = \frac{kr}{1 - k r^2} \nonumber \\ && \Ga_{22}^{0} = a \dot{a} r^2 , ~~ \Ga_{22}^{1} = - ( 1 - k r^2 )r ~~ \nonumber \\ && \Ga_{33}^{0} = a \dot{a} r^2 \sin^2 \th , ~~ \Ga_{33}^{1} = - ( 1 - k r^2 )r \sin^2 \th , ~~ \Ga_{33}^{2} = - \sin \th \cos \th \nonumber \\ && \Ga_{01}^{1} = \Ga_{02}^{2} = \Ga_{03}^{3} = \frac{\dot{a}}{a} , ~~ \Ga_{12}^{2} = \Ga_{13}^{3} = \frac{1}{r} , ~~ \Ga_{23}^{3} = \frac{\cos\th}{\sin \th} \nonumber \end{eqnarray}\]
必要となるリッチ・テンソルは
\[\begin{eqnarray} {\cal R}_{00} &=& -3 ( \d_0 + \Ga_{01}^{1} ) \Ga_{01}^{1} \, = \, - \frac{3 \ddot{a}}{a} \tag{10.38} \\ {\cal R}_{11} &=& ( \d_0 + \Ga_{01}^{1} ) \Ga_{11}^{0} - 2 \left( \d_1 + ( \Ga_{11}^{1} - \Ga_{12}^{2} ) \right) \Ga_{12}^{2} \nonumber \\ & = & \frac{1}{1 - k r^2 } ( 2 \dot{a}^2 + a \ddot{a} + 2 k ) \tag{10.39} \\ {\cal R}_{22} &=& ( \d_0 + \Ga_{02}^{2} ) \Ga_{22}^{0} + ( \d_1 + \Ga_{11}^{1} ) \Ga_{22}^{1} -( \d_2 + \Ga_{23}^{3} ) \Ga_{23}^{3} \nonumber \\ & = & r^2 ( 2 \dot{a}^2 + a \ddot{a} + 2 k ) \tag{10.40} \\ {\cal R}_{33} &=& ( \d_0 + \Ga_{03}^{3} ) \Ga_{33}^{0} + ( \d_1 + \Ga_{11}^{1} ) \Ga_{33}^{1} + ( \d_2 - \Ga_{23}^{3} ) \Ga_{33}^{2} \nonumber \\ & = & r^2 \sin^2 \th \, ( 2 \dot{a}^2 + a \ddot{a} + 2 k ) \tag{10.41} \end{eqnarray}\]
と計算できる。これより、スカラー曲率は
\[\begin{eqnarray} {\cal R} &=& {\cal R}_{00} g^{00} + {\cal R}_{11} g^{11} + {\cal R}_{22} g^{22} + {\cal R}_{33} g^{33} \nonumber \\ &=& - 6 \left( \frac{ \ddot{a}}{a} + \frac{ \dot{a}^2 }{a^2} - \frac{k}{a^2} \right) \tag{10.42} \end{eqnarray}\]
と求まる。よって、アインシュタイン方程式(10.35)は2つの方程式
\[\begin{eqnarray} 3 \left( \frac{\dot{a}^2}{a^2} + \frac{k}{a^2} \right) &=& 8 \pi G (\rho + \La ) \tag{10.43}\\ - \left( \frac{\dot{a}^2}{a^2} + \frac{2 \ddot{a}}{a} + \frac{k}{ a^2 } \right) &=& 8 \pi G ( P - \La ) \tag{10.44} \end{eqnarray}\]
に変形できる。(10.43)の時間微分を取ると
\[ 3 \frac{\dot{a}}{a} \left( \frac{2 \ddot{a}}{a} - \frac{2 \dot{a}^2 }{a^2} - \frac{2k}{a^2} \right) \, = \, 8 \pi G \frac{d \rho}{d t} \tag{10.45} \]
を得る。一方、(10.43)と(10.44)の和は
\[ - \left( \frac{2 \ddot{a}}{a} - \frac{2 \dot{a}^2 }{a^2} - \frac{2k}{a^2} \right) \, = \, 8 \pi G (\rho + P ) \tag{10.46} \]
と表せる。(10.45)と(10.46)から
\[ \dot{\rho} + \frac{3 \dot{a}}{a} ( \rho + P ) \, = \, 0 \tag{10.47} \]
と求まる。これはエネルギー・運動量の保存則 $\nabla_\mu T_{0}^{\mu} = 0$ あるいは連続方程式と考えられる。連続方程式であることは、$T_{00}$がエネルギー密度、$T_{0i}$がエネルギー・フラックスを表すことから分かる。実際、共変微分の定義(10.7)から $\nabla_\mu T_{0}^{\mu}$ は
\[\begin{eqnarray} \nabla_\mu T_{0}^{\mu} &=& \d_\mu T_{0}^{\mu} + \Ga_{\mu \la}^{\mu} T_{0}^{\la} - \Ga_{\mu 0}^{\la} T_{\la}^{\mu} \nonumber \\ &=& \d_0 T_{0}^{0} + \left( \Ga_{10}^{1} +\Ga_{30}^{3} +\Ga_{30}^{3} \right) T_{0}^{0} - \left( \Ga_{10}^{1} T_{1}^{1} + \Ga_{20}^{2} T_{2}^{2} + \Ga_{30}^{3} T_{3}^{3} \right) \nonumber \\ &=& \dot{\rho} + \frac{3 \dot{a}}{a} ( \rho + P ) \tag{10.48} \end{eqnarray}\]
と計算できる。よって、一様等方宇宙は2つの基本方程式
\[\begin{eqnarray} \frac{\dot{a}^2}{a^2} + \frac{k}{a^2} &=& \frac{8 \pi G}{3} (\rho + \La ) \tag{10.43}\\ \dot{\rho} + \frac{3 \dot{a}}{a} ( \rho + P ) & = & 0 \tag{10.47}\end{eqnarray}\]
で特徴づけられる。これらはフリードマン方程式と呼ばれる。宇宙論的な解はこのフリードマン方程式の解として求まる。次回ではこのアイデアに基づいて、一様等方宇宙を3つの時代に分類する。
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