10.1 共変微分、アイソメトリー、キリング方程式
リーマン多様体上の共変微分
前章でリッチ・スカラーの変分を計算する際に共変微分
\[ \D_\mu V_\nu = \d_\mu V_\nu - \Ga_{\mu\nu}^{\la} V_\la \tag{9.24}\]
を導入した。この節では先ずこのリーマン多様体上の共変微分について復習する。$\phi^a$を一般の曲がった多様体上のスカラー関数とする。8章の(8.24)で見たように、$\phi^a$の共変微分は
\[ ( D_\mu \phi )^a \, = \, \d_\mu \phi^a + \om_{\mu}^{ab} \phi^b \tag{10.1} \]
と表せる。ただし、$\om_{\mu}^{ab}$ はスピン接続である。8章では局所ローレンツ変換 $\phi^a \rightarrow \phi^{\prime a} = R^{ab} \phi^b$ のもとで微分が共変であることの要請 $(D^\prime_\mu \phi^\prime )^a = R^{ab}( D_\mu \phi )^b$ からこの共変微分を導出した。
ここで、$\phi^a$をフレーム場で展開する。
\[ \phi^a \, = \, e^a_\al \, \phi^\al \tag{10.2}\]
すると、(10.1)は
\[\begin{eqnarray} ( D_\mu \phi )^a &=& ( \d_\mu e^a_\al + \om_{\mu}^{ab} e^b_\al ) \phi^\al + e^a_\al \d_\mu \phi^\al \nonumber \\ &=& e^a_\la \left( \d_\mu \phi^\la + \Ga^{\la}_{\mu \al} \phi^\al \right) \tag{10.3} \end{eqnarray}\]
と書ける。ただし、リーマン多様体の基本的な関係式
\[ \d_\mu e_\al^a + \om_{\mu}^{ab} e^b_\al = \Ga^{\la}_{\mu\al} e^a_\la \tag{8.29} \]
を用いた。(10.3)から $\d_\mu \phi^\la + \Ga^{la}_{\mu \al} \phi^\al$ は斉次テンソルであることが分かる。よって、リーマン多様体上の共変微分を
\[ \nabla_\mu \phi^\al \, = \, \d_\mu \phi^\al + \Ga^{\al}_{\mu \bt} \phi^\bt \tag{10.4} \]
と定義できる。これは前章で定義した共変微分
\[ \D_\mu V^\nu = \d_\mu V^\nu + \Ga_{\mu\al}^{\nu} V^\al \tag{9.26} \]
に他ならない。以下では、共変微分を$\D_\mu$ではなく$\nabla_\mu$で表示する。ここでは微分の反対称化を課していない。そのため、$\nabla_\mu$は対称共変微分とも呼べる。
つぎに、$\phi^\al \chi_\al$として添え字の縮約を考える。ただし、$\chi_\al$は別のスカラー関数を表す。(10.2)に対応する$\chi_\al$の展開式は
\[ \chi^a \, = \, ( e^{-1} )^{\al a} \chi_\al \tag{10.5} \]
と表せる。よって、$\chi_\al$の共変微分は
\[ \nabla_\mu \chi_\al \, = \, \d_\mu \chi_\al - \Ga^{\bt}_{\mu \al} \chi_\bt \tag{10.6} \]
と定義される。これは冒頭の定義式(9.24)に対応する。
一般形のテンソル $T^{\al_1 \al_2 \cdots \al_p}_{\bt_1 \bt_2 \cdots \bt_q}$ に対する共変微分は
\[\begin{eqnarray} \nabla_\mu T^{\al_1 \al_2 \cdots \al_p}_{\bt_1 \bt_2 \cdots \bt_q} &=& \d_\mu T^{\al_1 \cdots \al_p}_{\bt_1 \cdots \bt_q} + \Ga^{\al_1}_{\mu \al} T^{\al \al_2 \cdots \al_p}_{\bt_1 \cdots \bt_q} + \cdots + \Ga^{\al_p}_{\mu \al} T^{\al_1 \cdots \al_{p-1} \al }_{\bt_1 \cdots \bt_q} \nonumber \\ && ~~~~~~~~~~ - \Ga^{\bt}_{\mu \bt_1} T^{\al_1 \cdots \al_p}_{\bt \bt_2 \cdots \bt_q} - \cdots - \Ga^{\bt}_{\mu \bt_q} T^{\al_1 \cdots \al_p}_{\bt_1 \cdots \bt_{q-1} \bt} \tag{10.7} \end{eqnarray}\]
と表せる。特に、計量テンソル $g_{\mu\nu}$ の共変微分は
\[ \nabla_\al g_{\mu\nu} \, = \, \d_\al g_{\mu\nu} - \Ga^{\la}_{\mu \al} g_{\nu \la} - \Ga^{\la}_{\nu\al} g_{\mu\la} \, = \, 0 \tag{10.8} \]
で与えられる。ただし、関係式
\[ \d_\mu g_{\al \bt} = \Ga^{\la}_{\mu \al} \, g_{\la \bt} + \Ga^{\la}_{\mu \bt} \, g_{\al \la} \tag{8.30} \]
を用いた。これは共変微分が計量と互換性を持つことを意味する。つまり、$g_{\mu\nu}$は共変計量テンソルである。
アイソメトリーとキリング方程式
計量 $ds^2 = g_{\mu\nu} (x) dx^\mu dx^\nu$ を不変に保つ座標変換
\[ x^\mu \, \rightarrow \, x^\mu + \xi^\mu (x) \tag{10.9} \]
をアイソメトリーと呼ぶ。変換(10.9)のもとで$ds^2$の変化量は
\[\begin{eqnarray} ( d s^2 )_{x+\xi} - ( d s^2 )_{x} &=& \xi^\al \d_\al g_{\mu\nu} dx^\mu dx^\nu + g_{\mu\nu} \frac{\d \xi^\mu}{\d x^\al} d x^\al d x^\nu + g_{\mu\nu} d x^\mu \frac{\d x^\nu}{\d x^\al} d x^\al \nonumber \\ &=& \left[ \xi^\al \d_\al g_{\mu\nu} + g_{\al\nu}\frac{\d \xi^\al}{\d x^\mu} + g_{\mu\al} \frac{\d \xi^\al}{\d x^\nu} \right] dx^\mu dx^\nu \tag{10.10} \end{eqnarray}\]
と計算できる。よって、条件式
\[ \xi^\al \d_\al g_{\mu\nu} + g_{\al\nu}\frac{\d \xi^\al}{\d x^\mu} + g_{\mu\al} \frac{\d \xi^\al}{\d x^\nu} \, = \, 0 \tag{10.11} \]
が満たされるとき、$\xi^\mu$ はアイソメトリーである。この条件式はキリング方程式と呼ばれる。また、ベクトル $\xi^\mu$ はキリング・ベクトルと呼ばれる。計量 $g_{\mu\nu}$ が与えられると、(10.11)からキリング方程式を書き出すことができ、これを $\xi^\al$ について解くことでアイソメトリーが得られる。すなわち、アイソメトリーはキリング方程式の解である。
\[\begin{eqnarray} && \frac{\d}{\d x^\mu} \left( \xi^\al g_{\al\nu} \right) + \frac{\d}{\d x^\nu} \left( \xi^\al g_{\mu\al} \right) - \xi^\al \d_\mu g_{\al\nu} - \xi^\al \d_\nu g_{\mu\al} + \xi^\al \d_\al g_{\mu\nu} \nonumber \\ &=& \d_\mu \xi_\nu + \d_\nu \xi_\mu - \xi_\bt g^{\al\bt} ( \d_\mu g_{\al\nu} + \d_\nu g_{\mu\al} - \d_\al g_{\mu\nu} ) \nonumber \\ &=& \d_\mu \xi_\nu + \d_\nu \xi_\mu - 2 \xi_\bt \Ga^{\bt}_{\mu\nu} \nonumber \\ &=& ( \d_\mu \xi_\nu - \Ga^{\bt}_{\mu\nu} \xi_\bt ) + ( \d_\nu \xi_\mu - \Ga^{\bt}_{\nu \mu} \xi_\bt ) \, =\, 0 \tag{10.12} \end{eqnarray}\]
と変形できる。ただし、8章で出てきた関係式(8.31)、つまり
\[ \d_\mu g_{\al \nu} + \d_\nu g_{\mu\al} - \d_\al g_{\mu\nu} \, = \, 2 \, \Ga^{\la}_{\mu\nu} \, g_{\al \la} \tag{10.13} \]
を用いた。これより、(10.6)の共変微分$\nabla_\mu$を用いてキリング方程式は
\[ \nabla_\mu \xi_\nu + \nabla_\nu \xi_\mu = 0 \tag{10.14} \]
と表せることが分かる。
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