2024-04-23

9. アインシュタイン方程式の現代的な導出 vol.2

9.2 アインシュタイン方程式の現代的な導出


前節では点粒子の運動方程式を計量がローレンツ不変であることから導出できることを見た。今節では計量の運動方程式、すなわちアインシュタイン方程式を対称性に基づいて考える。以前触れたように、計量は物質の分布から動力学的に決定できる。アインシュタイン方程式を求めるにあたり、まず望まれる全ての対称性のもとで不変な作用を書き出すことから始めよう。リーマン多様体上でそのような作用は
S=d4xdetg (不変な項)S=d4xdetg ()(9.13)
と表せる。ここで、積分測度 d4xdetgd4xdetg は座標変換のもとで不変である。ミンコフスキー空間上で座標変換のヤコビアンは detgdetg の因子によって相殺される。ここでは詳細は省略するが、例えば、平坦な計量 ds2=dt2dx2dy2dz2=gμνdxμdxνds2=dt2dx2dy2dz2=gμνdxμdxν から球面の計量 ds2=dt2dr2r2dθ2r2sinθ2dφ2=˜gμνd˜xμd˜xνds2=dt2dr2r2dθ2r2sinθ2dφ2=~gμνd~xμd~xν への座標変換を考えると、積分測度は d4xdetg=dtdxdydzr2sinθdtdrdθdφ=d4˜xdet˜gd4xdetg=dtdxdydzr2sinθdtdrdθdφ=d4~xdet~g と変換するので、d4xdetgd4xdetg が不変量であることはすぐに確認できる。

 定数を除くと、(9.13)の不変な項はリーマン曲率テンソル RλμναRλμνα で表せると予測できる。これは8.3節で計算したように RλμναRλμνα がローレンツ共変であることから分かる。(8.44)で定義したようにリーマン曲率テンソルは
Rλμνα=μΓλνανΓλμα+ΓλμβΓβναΓλνβΓβμαRλμνα=μΓλνανΓλμα+ΓλμβΓβναΓλνβΓβμα(9.14)
で定義される。ただし、クリストッフェル記号 ΓλαβΓλαβ
Γλαβ=12gλμ(αgμβ+βgμαμgαβ)Γλαβ=12gλμ(αgμβ+βgμαμgαβ)(9.15)
で与えられる。RλμναRλμνα から不変量を求めるには、添え字の縮約を考えるのが便利である。つまり、RλμναRλλναRναRλμναRλλναRνα とおく。具体的に、RναRνα
Rνα=λΓλνανΓλλα+ΓλλβΓβναΓλνβΓβλαRνα=λΓλνανΓλλα+ΓλλβΓβναΓλνβΓβλα(9.16)
と表せる。RναRναリッチ・テンソルと呼ばれる。ΓλναΓλνανν, ααについて対称であったので、νΓλλανΓλλανν, ααについて対称であれば、RναRνανν, ααについて対称であることがすぐに分かる。この対称性は次のように確認できる。(9.15)から Γλλα=12gλμ(αgμλ)Γλλα=12gλμ(αgμλ) である。よって、νΓλλα=(νgλμ)(αgμλ)+gλμ(νλgμλ)=Tr(νgg1αgg1)+gλμ(νλgμλ)νΓλλα=(νgλμ)(αgμλ)+gλμ(νλgμλ)=Tr(νgg1αgg1)+gλμ(νλgμλ) と計算でき、これは νΓλλανΓλλανν, ααについて対称であることを明示している。

 ここで、計量テンソル gμνgμν も添え字について対称なので、非自明なスカラー量
R=gναRναR=gναRνα(9.17)
を求めることができる。これはリッチ・スカラーあるいはスカラー曲率と呼ばれる。半径rrの球面のスカラー曲率はr2r2に比例することが知られている。

 対称性の原理から、不変な作用(9.13)は形式的に
S=d4xdetg [(定数)+cR+(R2,RναRνα,RλμναRμναλ,)]=d4xdetg[116πGR+Λ]+S=d4xdetg [()+cR+(R2,RναRνα,RλμναRμναλ,)]=d4xdetg[116πGR+Λ]+(9.18)
と書ける。ただし、cc は比例係数である。ここでは、後の便宜上 c116πG と固定した。Gはニュートンの重力定数である。Λ宇宙定数と呼ばれる定数を表す。Gは非相対論的な極限を考えると同定できる。この点については次回に後述する。上式2行目ではスカラー曲率 R、リッチ・テンソル Rνα、リーマン曲率テンソル Rλμνα に関する2次以上の項を省略した。

 つぎに、作用(9.18)の変分を考える。スカラー曲率 R=Rαβgαβ の変分は
δR=δRαβgαβ+Rαβδgαβ
で与えられる。また、detg の変分は次のように求まる。Mを可逆な行列とすると、恒等式
logdetM=TrlogM
から、関係式
δ(logdetM)=δ(detM)detM=TrM1δM=TrMδM1
が分かる。よって、detgの変分は
δdetg=12detggαβδgαβ
と計算できる。よって、曲率の2次以上の項を無視すると(9.18), (9.19), (9.22)から
δS=d4xdetg[12gαβ(116πGR+Λ)+116πGRαβ]δgαβd4xdetg116πGδRαβgαβ
と求まる。

 次回に解説するように上式最後の被積分関数は共変微分の全微分となるので、この積分は表面積分となり無視できる。よって、変分原理より運動方程式
Rαβ12gαβR8πGΛgαβ=0
を得る。これは真空のアインシュタイン方程式と呼ばれる。

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