7.2 非アーベル型ボソン化
前節では、(1+1)次元フェルミ粒子系のアーベル型のボソン化を議論した。この節では、この議論をアーベル型の場合に拡張する。具体的には非アーベル型のカレントが成すカッツ-ムーディ代数を導出する。そのために、N個の自由フェルミ粒子を導入する。このとき、2成分のディラック・スピノールψは
ψ=(ψ1ψ2)→(ψa1ψa2) (a=1,2,⋯,N)
と表せる。前節の J−=ψ†1ψ1 に対応するカレントは Jab−∼ψ†1a⋅ψb1 と書ける。これらはN2個のエルミート演算子と見做すことができる。ここで、SU(N)対称性を導入し、N2個のカレントを次のように分類する。
{ψ†1aψa1トレース成分のカレントψ†1a(Tα)abψb1SU(N)カレント
ただし、Tα (α=1,2,⋯,N2−1) はSU(N)群の生成子であり、トレース・ゼロのN×Nエルミート行列で表現される。SU(N)代数は
[Tα,Tβ]=ifαβγTγ
で与えられる。いつも通り、Tαの規格化を
Tr(TαTβ)=12δαβ
とする。アーベル型の場合、カレントJ−(x)を
J−(x)=ψ†1(x+ϵ)ψ1(x−ϵ)
と定義した。ただし、x=(x0,x1), x±ϵ=(x0,x1±ϵ)であり、計算の最後に ϵ→0 の極限を取った。これとの類推から、非アーベル型のカレントを
Jα−(x)=ψ†1(x+ϵ)Tαψ1(x−ϵ)
と定義できる。
これより、Jα−(x)の同時刻交換関係は
[Jα−(x0,x1),Jβ−(x0,y1)]=[ψ†1(x+ϵ)Tαψ1(x−ϵ),ψ†1(y+ϵ)Tβψ1(y−ϵ)]=ψ†1a(x+ϵ)(Tα)ab{ψb1(x−ϵ),ψ†1c(y+ϵ)}(Tβ)cdψd1(y−ϵ) −ψ†1a(y+ϵ)(Tβ)ab{ψb1(y−ϵ),ψ†1c(x+ϵ)}(Tα)cdψd1(x−ϵ)=ψ†1(x+ϵ)TαTβψ1(y−ϵ)δ(x−y−2ϵ) −ψ†1(y+ϵ)TβTαψ1(x−ϵ)δ(x−y+2ϵ)
と計算できる。ただし、スピノールの同時刻反交換関係
{ψa1(x0,x1),ψ†1b(x0,y1)}=δabδ(x1−y1)
を用いた。(7.82)は前節のアーベル型の関係式
[J−(x),J−(x)]=[ψ†1(x+ϵ)ψ1(x−ϵ),ψ†1(y+ϵ)ψ1(y−ϵ)]=ψ†1(x+ϵ)ψ1(y−ϵ)δ(x−y−2ϵ) −ψ†1(y+ϵ)ψ1(x−ϵ)δ(x−y+2ϵ)
の非アーベル型の拡張になっており、以前と同様に
[Jα−(x),Jβ−(y)]=ifαβγJγ−(x)δ(x−y)−i2πδαβ∂∂xδ(x−y)
と変形できる。ただし、SU(N)群の生成子Tαについての関係式(7.79), (7.80)を用いた。また、アーベル型の場合と同様に ψ†1a(x+ϵ)ψb1(y−ϵ) と ψ†1a(y+ϵ)ψb1(x−ϵ) の x1→y1 での評価は
ψ†1a(x+ϵ)ψb1(y−ϵ)⟶i2π12ϵδab (x1→y1)ψ†1a(y+ϵ)ψb1(x−ϵ)⟶i2π12ϵδab (x1→y1)
で与えられることを用いた。交換関係(7.84)は非アーベル型のカッツ-ムーディ代数に対応する。この代数はカレント代数としても知られている。(7.84)の座標成分を明示的に書くと
[Jα−(x0,x1),Jβ−(x0,y1)]=ifαβγJγ−(x0,x1)δ(x1−y1)−i2πδαβ∂∂x1δ(x1−y1)
となる。もう一方のフェルミオン・カレント Jα+(x)=ψ†2(x+ϵ)Tαψ2(x−ϵ) の代数も同様に計算でき
[Jα+(x0,x1),Jβ+(x0,y1)]=ifαβγJγ+(x0,x1)δ(x1−y1)+i2πδαβ∂∂x1δ(x1−y1)
と求まる。
ここで、カレントJα−(x)を用いて新しいカレントJαnを
Jαn=Jαn(x0)=∫2πR0einx1RJα−(x0,x1)dx1
とパラメータ表示しよう。ただし、nは整数である。このJαn(x0)を用いると、カレント代数の異なる表現を求めることができる。つまり、Jα−(x)の代数(7.87)に exp(inx1R)exp(imy1R) を掛けて、半径Rの円周に沿ってx1とy1の積分を取ると
[Jαn,Jβm]=ifαβγ∫x1∫y1einx1R+imy1RJγ(x)δ(x1−y1)dx1dy1−i2πδαβ∫x1∫y1einx1R∂∂x1δ(x1−y1)eimy1Rdx1dy1=ifαβγJγn+m+mδαβδn+m,0
を得る。ここで、第2項の導出に関係式
∫2πR0ei(n+m)x1Rdx1=2πRδn+m,0
を用いた。m=n=0 の場合、(7.90)は通常のSU(N)代数に帰着する。よって、非アーベル型のカッツ-ムーディ代数(7.90)は拡張されたSU(N)代数と解釈できる。
数学の文献では、カレント代数に付随するレベル数kが存在し、これを含めると(7.90)は
[Jαn,Jβm]=ifαβγJγn+m+kmδαβδn+m,0
と表せる。カレント代数のレベル数kはユニタリー性の要請から整数であることが知られている。(7.90)はk=1の場合に相当する。実際、「k=1のカッツ-ムーディ代数はユニタリー既約表現を唯一つだけ持つ」という(カッツの)定理が存在し、これは代数(7.68)のユニタリー既約表現の唯一性を保証する。この意味でこの定理は1, 4, 6章で議論したハイゼンベルク代数のストーン-フォン・ノイマンの定理と類似している。