Processing math: 100%

2024-03-27

7. ボソン化とカッツ-ムーディ代数 vol.4

7.2 非アーベル型ボソン化

 
前節では、(1+1)次元フェルミ粒子系のアーベル型のボソン化を議論した。この節では、この議論をアーベル型の場合に拡張する。具体的には非アーベル型のカレントが成すカッツ-ムーディ代数を導出する。そのために、N個の自由フェルミ粒子を導入する。このとき、2成分のディラック・スピノールψ
ψ=(ψ1ψ2)(ψa1ψa2)    (a=1,2,,N)
と表せる。前節の J=ψ1ψ1 に対応するカレントは Jabψ1aψb1 と書ける。これらはN2個のエルミート演算子と見做すことができる。ここで、SU(N)対称性を導入し、N2個のカレントを次のように分類する。
{ψ1aψa1トレース成分のカレントψ1a(Tα)abψb1SU(N)カレント
ただし、Tα (α=1,2,,N21) はSU(N)群の生成子であり、トレース・ゼロのN×Nエルミート行列で表現される。SU(N)代数は
[Tα,Tβ]=ifαβγTγ
で与えられる。いつも通り、Tαの規格化を
Tr(TαTβ)=12δαβ
とする。アーベル型の場合、カレントJ(x)
J(x)=ψ1(x+ϵ)ψ1(xϵ)
と定義した。ただし、x=(x0,x1), x±ϵ=(x0,x1±ϵ)であり、計算の最後に ϵ0 の極限を取った。これとの類推から、非アーベル型のカレントを
Jα(x)=ψ1(x+ϵ)Tαψ1(xϵ)
と定義できる。

 これより、Jα(x)の同時刻交換関係は
[Jα(x0,x1),Jβ(x0,y1)]=[ψ1(x+ϵ)Tαψ1(xϵ),ψ1(y+ϵ)Tβψ1(yϵ)]=ψ1a(x+ϵ)(Tα)ab{ψb1(xϵ),ψ1c(y+ϵ)}(Tβ)cdψd1(yϵ)  ψ1a(y+ϵ)(Tβ)ab{ψb1(yϵ),ψ1c(x+ϵ)}(Tα)cdψd1(xϵ)=ψ1(x+ϵ)TαTβψ1(yϵ)δ(xy2ϵ)    ψ1(y+ϵ)TβTαψ1(xϵ)δ(xy+2ϵ)
と計算できる。ただし、スピノールの同時刻反交換関係
{ψa1(x0,x1),ψ1b(x0,y1)}=δabδ(x1y1)
を用いた。(7.82)は前節のアーベル型の関係式
[J(x),J(x)]=[ψ1(x+ϵ)ψ1(xϵ),ψ1(y+ϵ)ψ1(yϵ)]=ψ1(x+ϵ)ψ1(yϵ)δ(xy2ϵ)    ψ1(y+ϵ)ψ1(xϵ)δ(xy+2ϵ)
の非アーベル型の拡張になっており、以前と同様に
[Jα(x),Jβ(y)]=ifαβγJγ(x)δ(xy)i2πδαβxδ(xy)
と変形できる。ただし、SU(N)群の生成子Tαについての関係式(7.79), (7.80)を用いた。また、アーベル型の場合と同様に ψ1a(x+ϵ)ψb1(yϵ)ψ1a(y+ϵ)ψb1(xϵ)x1y1 での評価は
ψ1a(x+ϵ)ψb1(yϵ)i2π12ϵδab    (x1y1)ψ1a(y+ϵ)ψb1(xϵ)i2π12ϵδab    (x1y1)
で与えられることを用いた。交換関係(7.84)は非アーベル型のカッツ-ムーディ代数に対応する。この代数はカレント代数としても知られている。(7.84)の座標成分を明示的に書くと
[Jα(x0,x1),Jβ(x0,y1)]=ifαβγJγ(x0,x1)δ(x1y1)i2πδαβx1δ(x1y1)
となる。もう一方のフェルミオン・カレント Jα+(x)=ψ2(x+ϵ)Tαψ2(xϵ) の代数も同様に計算でき
[Jα+(x0,x1),Jβ+(x0,y1)]=ifαβγJγ+(x0,x1)δ(x1y1)+i2πδαβx1δ(x1y1)
と求まる。

 ここで、カレントJα(x)を用いて新しいカレントJαn
Jαn=Jαn(x0)=2πR0einx1RJα(x0,x1)dx1
とパラメータ表示しよう。ただし、nは整数である。このJαn(x0)を用いると、カレント代数の異なる表現を求めることができる。つまり、Jα(x)の代数(7.87)に exp(inx1R)exp(imy1R) を掛けて、半径Rの円周に沿ってx1y1の積分を取ると
[Jαn,Jβm]=ifαβγx1y1einx1R+imy1RJγ(x)δ(x1y1)dx1dy1i2πδαβx1y1einx1Rx1δ(x1y1)eimy1Rdx1dy1=ifαβγJγn+m+mδαβδn+m,0
を得る。ここで、第2項の導出に関係式
2πR0ei(n+m)x1Rdx1=2πRδn+m,0
を用いた。m=n=0 の場合、(7.90)は通常のSU(N)代数に帰着する。よって、非アーベル型のカッツ-ムーディ代数(7.90)は拡張されたSU(N)代数と解釈できる。

 数学の文献では、カレント代数に付随するレベル数kが存在し、これを含めると(7.90)は
[Jαn,Jβm]=ifαβγJγn+m+kmδαβδn+m,0
と表せる。カレント代数のレベル数kはユニタリー性の要請から整数であることが知られている。(7.90)はk=1の場合に相当する。実際、「k=1のカッツ-ムーディ代数はユニタリー既約表現を唯一つだけ持つ」という(カッツの)定理が存在し、これは代数(7.68)のユニタリー既約表現の唯一性を保証する。この意味でこの定理は1, 4, 6章で議論したハイゼンベルク代数のストーン-フォン・ノイマンの定理と類似している。

2024-03-26

7. ボソン化とカッツ-ムーディ代数 vol.3

前回に引き続いてアーベル型ボソン化の話を進めよう。

ボソン場とフェルミオン場の一対一対応

前回導いた関係式
J(x)=ψ1(x)ψ1(x)=12π(x0x1)ϕ(x)
はフェルミオン・カレントJ(x)がボソンのスカラー場ϕ(x)の関数として表せることを示している。フェルミオン場ψ1(x)についても同様にψ1(x)をボソン場ϕ(x)の関数として表せるだろうか?アーベル型の場合、これは可能であり、マンデルスタムによる次の関係式が知られている。
ψ1(x)=Aexp(iϕ(x)+iπx1˙ϕ(x0,˜x1)d˜x1)eiΦ1(x)
ただし、Aは規格化定数。上式を用いるとψ1(x)ψ1(y)の反交換関係を次のように確認できる。
ψ1(x)ψ1(y)=A2eiΨ1(x)eiΦ1(y)=A2eiΦ1(x)+iΦ1(y)e12[Φ1(x),Φ1(y)]=ψ1(y)ψ1(x)
ただし、ϕの交換関係
[ϕ(x0,x1),˙ϕ(x0,y1)]=iδ(x1y1)
を用いた。また、演算子A, Bについて
eAeB=eA+Be12[A,B]
が成り立つことを用いた。ここで、[A,B]c数である。因子exp(iπx1˙ϕ(x0,˜x1)d˜x1)はクライン変換(7.8)で現れた因子exp(iπk<iNk)と類似した働きをすることに注意しよう。

 反交換関係(7.57)の導出は関係式(7.56)を
ψ1(x)=Aexp(iπϕ(x)+iπx1˙ϕ(x0,˜x1)d˜x1)
と置き換えても変わらない。また、スピノールのカイラリティからもう一方のスピノールψ2(x)
ψ2(x)=Aexp(iπϕ(x)+iπx1˙ϕ(x0,˜x1)d˜x1)
と定義できる。規格化因子Aは、例えば
ψ1(x+ϵ)ψ1(yϵ)=i2π1(x1+ϵ)(y1ϵ)i2π12ϵ    (x1y1)
から決定でき、A=12π(2ϵ)となることが分かる。これより、ψ1(x+ϵ)ψ1(xϵ) を計算すると
ψ1(x+ϵ)ψ1(xϵ)=12π12ϵeiΦ1(x+ϵ)eiΦ1(xϵ)=i2π12ϵei(Φ1(x+ϵ)Φ2(xϵ))=i2π12ϵ+12πx1Φ1(x0,x1)+O(ϵ)=i2π12ϵ12J(x)+O(ϵ)
と求まる。ここで、Φ1(x)
Φ1(x)=πϕ(x)+πx1˙ϕ(x0,˜x1)d˜x1
で与えられる。また、関係式(7.54)から
x1Φ1=π(x1ϕx0ϕ)=2πJ(x)
であることを用いた。同様に、関係式
ψ1(x+ϵ)ψ1(xϵ)=i2π12ϵ+12ψ1(x+ϵ)ψ1(xϵ)+O(ϵ)
が得られる。これは、前回紹介した同時刻における関係式
ψ1(x)ψ1(y)=i2π1x1y1+f(x1y1)O
の具体的な表現である。(つまり、ψ1を(7.59)で定義すると真空期待値がゼロとなる演算子Oは具体的にψ1ψ1と求まる。)

モード展開

 つぎに、(7.49)と同様にボソン場Φ1(x)のモード展開を考える。
Φ1(x)=k112k0L(akeik0x0ik1x1+akeik0x0+ik1x1)
ただし、ここではユークリッド計量を用いた。質量がゼロの場合(m=0)k0=k21+m2=|k1| であり、Φ1はスケール不変な演算子となる。このとき、Φ1(x)
Φ1(x)=12Lk11k(akeik(x0+x1)+akeik(x0+x1))
と書ける。ここで、空間方向を円周上にコンパクト化 0x12π (L=2π) して、Φ1(x)に周期性を課すと、モード展開は一般に整数 nZ で展開できるので、
Φ1(x)=14πn<01|n|(anein(x0+x1)+anein(x0+x1)) +14πn>01n(anein(x0+x1)+anein(x0+x1))+ϕ0=1πn>01n(anein(x0+x1)+anein(x0+x1))+ϕ0
となる。ただし、am=am, am=am (m>0) を用いた。また、自由ボソン場Φ1のゼロモードϕ0も含めた。ゼロモードϕ0の正準共役は π0=˙ϕ0 で与えられ、正準交換関係
[ϕ0,π0]=i
を満たす。ゼロモードの時間発展は ϕ0+π0x0 で与えられる。以前議論したようにψ1(x)
ψ1x0ψ1x1=0
を満たすので、ψ1(x)(x0+x1)の関数である。よって、関係式 ψ1(x)=ψ1(x0+x1)exp(iΦ1(x0+x1)) からΦ1(x)(x0+x1)の関数である。このことに注意すると、 上式でのゼロモードによる寄与は正しくは ϕ0+π0(x0+x1) で与えられることが分かる。Φ1のようにカイラル・フェルミオンと関係するボソンはカイラル・ボソンと呼ばれる。以上より、Φ1のモード展開は
Φ1(x0+x1)=n>01n(anein(x0+x1)+anein(x0+x1))+ϕ0+π0(x0+x1)
と再定義できる。

2024-03-18

7. ボソン化とカッツ-ムーディ代数 vol.2

前回に引き続いてアーベル型のボソン化を考える。(1+1)次元のフェルミオン場 ψ=(ψ1ψ2) はディラック方程式
ψ1x0ψ1x1=0,    ψ2x0+ψ2x1=0
に従う。フェルミオンのカレント J=ˉψγψ
J=ˉψγψ=(ψ1ψ1+ψ2ψ2ψ1ψ1+ψ2ψ2)(J0J1)
と計算できた。ここで、カレントJ±
ψ1ψ1=J0J12  Jψ2ψ2=J0+J12  J+
で定義し、これらのカレントの代数を考える。J
J(x)=ψ1(x+ϵ)ψ1(xϵ)
とおき、特異点の振る舞いに注意して計算の最後に ϵ0 の極限をとることにする。x, x±ϵは複合記号であり、それぞれx=(x0,x1), x±ϵ=(x0,x1±ϵ) を表す。このとき、J(x)の交換関係はフェルミオン場の同時刻反交換関係
ψ(x0,x1)ψ(x0,y1)+ψ(x0,y1)ψ(x0,x1)=0ψ(x0,x1)ψ(x0,y1)+ψ(x0,y1)ψ(x0,x1)=0ψ(x0,x1)ψ(x0,y1)+ψ(x0,y1)ψ(x0,x1)=δ(x1y1)1
を用いると
[J(x),J(x)]=[ψ1(x+ϵ)ψ1(xϵ),ψ1(y+ϵ)ψ1(yϵ)]=ψ1(x+ϵ)ψ1(yϵ)δ(xy2ϵ)    ψ1(y+ϵ)ψ1(xϵ)δ(xy+2ϵ)
と計算きる。ここで、δ(xy±2ϵ)
δ(xy±2ϵ)=δ(xy)±2ϵxδ(xy)+O(ϵ2)
と展開できるので、ϵ0 の極限で(7.25)がゼロとならないためには関係式
ψ1(x+ϵ)ψ1(yϵ)1ϵ    (xy)
を要請する必要がある。

(1+1)次元のフェルミオン伝播関数

上式のψ1(x+ϵ)ψ1(yϵ) を評価するには2通りの方法がある。1つはモード展開を利用するもので、もう1つはフェルミオンの伝播関数を用いるものである。ここでは、後者のアプローチを採用する。フェルミオンψ1の伝播関数は
 S(x,y)=0|ψ1(x0,x1)ψ1(y0,y1)|0θ(x0y0)          0|ψ1(y0,y1)ψ1(x0,x1)|0θ(y0x0) =0|[ψ1(x)ψ1(y)θ(x0y0)ψ1(y)ψ1(x)θ(y0x0)]|0 
と定義される。ここで、θ(x0y0)ヘヴィサイドのステップ関数
θ(x0y0)={ 1 (x0>y0)0  (x0<y0)
である。(7.28)の負号はx0=y0におけるディラック場ψ1の同時刻反交換関係に由来する。(7.17)で示したように、ψ1はディラック方程式
(x0x1)ψ1=0
に従う。つぎに、この方程式を用いてS(x,y)の微分を計算すると
x0S(x,y)=0|[θ(x0y0)ψ1(x)x0ψ1(y)θ(y0x0)ψ1(y)ψ1(x)x0]|0+0|[δ(x0y0)ψ1(x)ψ1(y)+δ(y0x0)ψ1(y)ψ1(x)]|0=δ(x0y0)0|{ψ1(x),ψ1(y)}|0=δ(x0y0)δ(x1y1)x1S(x,y)=0|[θ(x0y0)ψ1(x)x1ψ1(y)θ(y0x0)ψ1(y)ψ1(x)x1]|0
となる。ただし、関係式
x0θ(x0y0)=δ(x0y0)
を用いた。(7.31)と(7.32)から
(x0x1)S(x,y)=δ(x0y0)δ(x1y1)
となることが分かる。この解は
S(x,y)=d2p(2π)2ieip0(x0y0)+ip1(x1y1)p20p21(p0p1)=i(0+1)dp02πdp12πieip0(x0y0)+ip1(x1y1)p20p21G(x,y)
で与えられる。積分G(x,y)は、下図に示すようにp1からpE=ip1への解析接続を行うと、2次元ラプラス方程式のグリーン関数に変形できる。

p1からpEへのウィック回転

G(x,y)=dp02πdpE2πeip0(x0y0)ipE(i(x1y1))p20+p2E=14πlog((x0y0)2(x1y1)2)
ただし、解析接続を適切に行うには被積分関数の分母を (pE+ip0η)(pEip0+η) と理解しなければならない。ここで、ηは正の微小量であり、最終的に η0 の極限をとる。このような実軸から虚軸への回転はウィック回転と呼ばれる。

 (7.35), (7.36)から、S(x,y)
S(x,y)=i2π1(x0y0)+(x1y1)
と求まる。J+=ψ2ψ2 の場合も同様に
S+(x,y)=i2π1(x0y0)(x1y1)
が得られる。係数i2πは次のように確認することもできる。定数cを用いてS(x,y)
S(x,y)=c(x0y0)+(x1y1)=c(x0y0)(x1y1)(x0y0)2(x1y1)2+ϵ2
と表し、伝番関数の満たす方程式(7.34)からcを決定する。(7.34)は (01)S(x,y)=δ(2)(xy) を意味するので、両辺の積分をとると
c(01)dx0dx1x0x1(x0)2(x1)2+ϵ2=1
となる。左辺は次のように計算できる。
2cdx0dx1ϵ2[(x0)2(x1)2+ϵ2]2=i2cdx0dxEϵ2[(x0)2+(xE)2+ϵ2]2=i2c0πdr2ϵ2(r2+ϵ2)2=i2πc
ただし、x1からxE=ix1へのウィック回転を用いた。(7.40), (7.41)から(7.37)の係数i2πが正しいことが確認できる。

 伝播関数S(x,y)を同時刻 x0y0 (x0>y0) で評価すると
0|ψ1(x)ψ1(y)|0=i2π1(x1y1)
を得る。これは冒頭で要請した関係式
ψ1(x+ϵ)ψ1(yϵ)1ϵ    (xy)
に他ならない。

2024-03-15

7. ボソン化とカッツ-ムーディ代数 vol.1

7.1 アーベル型ボソン化


空間1次元、時間1次元の(1+1)次元においてフェルミ粒子の物理系はボース粒子の物理系と等価である。つまり、ボソンとフェルミオンは(1+1)次元では区別できない。この章の主な目的はこの等価性を代数的に理解することである。

 (d+1)次元における粒子のスピンの概念はd次元の空間回転に起因し、これらは角運動量代数 [Ji,Jj]=iϵijkJk (i,j,k=1,2,,d) で記述される。よく知られているように、d=3 の角運動量代数Jの表現はスピンの値 s=0,12,1,32, で特徴づけられる。この場合、スピン統計定理より「整数スピンをもつ粒子はボソンであり、半奇数のスピンをもつ粒子はフェルミオンでなければならない」ことが分かる。しかし、d=2 の場合はスピンの値にこのような制限はない。すなわち、(2+1)次元ではsは分数の値をとることができる。このとき、スピン統計定理は「分数スピンsをもつ粒子は分数統計に従う」と言い換えられる。このような粒子はしばしばエニオンと呼ばれる。(分数統計やエニオンについては分数量子ホール効果の正孔の動力学について解説した4.3節も参照のこと。)この章で議論する d=1 の場合、スピンの概念は存在しない。つまり、(1+1)次元では粒子の統計に制約はかからない。以下では、(1+1)次元においてボソンとフェルミオンが等価であることがどのように実現されるのかを見ていく。

クライン変換

 一般に、ボソンは代数
[ak,al]=0,   [ak,al]=δkl,   [ak,al]=0 
で記述される。ただし、ここではボソンを1次元の長さLの線分上で考えているので、ラベルkk=2πnL で与えられる。nは自然数 nZ であり、モード数(あるいは自由度の数)を表す。

 このとき、数演算子は
Nk=akak
で定義され、交換関係
[Nk,ak]=ak,   [Nk,ak]=ak
を満たす。ベイカー-キャンベル-ハウスドルフの公式
eABeA=B+[A,B]+12[A,[A,B]]+
を用いると、関係式
eiαNaeiαN=a+iα[N,a]+(iα)22![N,[N,a]]+(iα)33![N,[N,[N,a]]]+=aiαa+(iα)22!a+(iα)33!(a)+=eiαa
が得られる。ただし、簡単のためラベルkを省略した。αは定数である。ラベルを追加すると上の結果は
akeiαNk=eiαeiαNkak
と表せる。同様に関係式
akeiαNk=eiαeiαNkak
が得られる。

 つぎに演算子
Ci=exp(iπk<iNk)aiCj=exp(iπk<jNk)aj    (i<j)
を導入する。ただし、1i<jnとしても一般性は失われない。(7.6)を用いるとCiCj, CjCiは次のように計算できる。
CiCj=exp(iπk<iNk)aiexp(iπk<jNk)aj=exp(iπk<iNk)exp(iπk<jNk)eiπaiajCjCi=exp(iπk<jNk)ajexp(iπk<iNk)ai=exp(iπk<jNk)exp(iπk<iNk)ajai
aiexp(iπk<jNk)を入れ替えると(7.6)から因子eiπが現れることに注意しよう。一方、ajexp(iπk<iNk)の入れ替えからは新たな因子は生じない。これより、演算子Cについての反交換関係
CiCj+CjCi=exp(iπk<iNk)exp(iπk<jNk)(aiaj+ajai)=0
が得られる。これは、(7.8)と(7.9)で与えられる演算子の変換を実行すると、ボソン代数からフェルミオン代数が得られることを示している。このような変換はクライン変換と呼ばれる。

ボソン化:代数的アプローチ

 つぎに上の議論の逆を考える。つまり、(1+1)次元のフェルミオンから始めてそれがボソン表現と等しいことを示す。この過程は一般にボソン化と呼ばれる。ボソン化には基本的に2つの手法がある。これは物理系の量子論が2つの方法で定義されることに基づく。1つ目の方法は観測量代数のユニタリー既約表現によるものであり、もう一方は対象となる粒子の相関関数によるものである。言い換えると、ボソン化の実行は (a) フェルミオンの観測量代数にボソン表示が存在することを示すこと、あるいは (b) フェルミオンの相関関数とボソンの相関関数が等価であることを示すこと、のどちらかによって成される。ここでは (a) の方法を採用する。

2024-03-14

Mathematical Review 121: 高階スピン自己双対ヤン-ミルズ理論

質量ゼロの高いスピンを持つ粒子をツイスター空間上で記述する話題は以前にこちらでレビューしました。今回はより具体的に、最近提案された高階スピン自己双対ヤン-ミルズ理論の作用からMHV散乱振幅を計算し、さらに自己双対ヤン-ミルズ理論の可積分性から一般の高階スピン・ヤン-ミルズ理論のMHV散乱振幅も古典レベルで導出できるという話でした。レビューはこちら。自己双対ヤン-ミルズ理論はインスタントンとの関連で長年研究されている分野です。1990年には自己双対ヤン-ミルズ理論をトポロジカルなゲージ理論として構成できるというモデルがナイアによって提唱されました。これはケーラー-チャーン-サイモン理論あるいはドナルドソン-ナイア-シッフ理論として知られています。高階スピンへの拡張もこの文脈で考えるとツイスター空間への埋め込みも自然に理解できるはずです。というか、MHV散乱振幅をWZW模型の相関関数として理解する方向から高階スピン理論へ拡張すればいいのになんて思いました。それにしても高階スピンのゲージ理論の話が私に回ってくるのはどういうことでしょう?特に興味ないのに。高階スピン理論の祖バシリエフ先生の学生さんが皆エネルギッシュで論文量産するので仕方ないか。

2024-03-12

BCS理論の転移温度の計算に出てくる積分

前回のエントリーで出てきた積分
 
0logxcosh2xdx=logπ4γ0.81878

ただし、γオイラーの定数。これが分からなくて2、3日使ってしまいました。子供の小学校の保護者会に出席したときも気になってしまいメモする始末。結局、自力では無理だったので色々調べました。MathematicaのWebバージョンWolframAlphaが正しい数値結果を出してくれましたが、解析的に計算してくれないと納得いきません。Google Chromeで「integral from 0 to infinity log(x) sech^2 (x) dx」と検索を掛けると Math Stack Exchange がドンピシャのサイトを見つけてくれました! Microsoft Edgeではヒットしなかったので驚きました。解法を見て、これは自力では無理だなあと納得しました。双曲線関数の積分なんて忘れていました。学部の時にやったけど使う機会がないとダメですね。当時は公式集があれば何とかかなるだろうと思っていましたが、何ともならなかったです。双曲線関数の出てくる積分についてネットで調べてみたらインド人の学生向けにいろいろな積分が解説されていて興味深かったです。今では動画で複素積分の勉強ができるみたいですね。今後、積分に詰まったらまずChromeで検索かな。

2024-03-11

6. 超伝導とBCS理論 vol.5

6.4 転移温度


この節ではBSC理論を用いて超伝導の転移温度を推定する。6.2節では相互作用ハミルトニアンHintを次のように変形した。
Hint=kkVkk[αkβk(Nk+˜Nk1)+(α2kBkAkβ2kAkBk)]×[αkβk(Nk+˜Nk1)+(α2kAkBkβ2kBkAk)]kkVkkαkβkαkβk2kkVkkαkβkαkβk(Nk+˜Nk)kkVkkαkβk(α2kβ2k)(AkBk+BkAk) + (4)
ここでは、AkBkとその共役に関わる項の係数として現れる数演算子Nk, ˜Nkを残して、Hint
Hint=kkVkk[αkβk(Nk+˜Nk1)(α2kAkBkβ2kBkAk)]+kkVkk[(α2kBkAkβ2kAkBk)αkβk(Nk+˜Nk1)]+
と変形する。絶対零度ではNk˜Nkはゼロとなる。絶対温度がゼロでないときこれらは熱的な占有数Nk, ˜Nkに近似できる。このとき、6.2節と同様に計算するとギャップ方程式は
ΔV02kΔϵ2k+Δ2(1Nk˜Nk)=0
となる。また、6.3節で導いたBCS理論のハミルトニアン
H = G0ωDω2D+Δ2 + kϵ2k+Δ2 (Nk+˜Nk) +
から分かるように、1粒子の励起エネルギーはϵ2k+Δ2で与えられる。よって、占有数はフェルミ-ディラック分布から
Nk=˜Nk=1eEk/T+1,Ek=ϵ2k+Δ2
と表せる。これより、ギャップ方程式は
Δ[1V0G02dϵ1ϵ2+Δ2tanh(ϵ2+Δ2/2T)]=0
となる。6.2節と同様に、Δ=0は1つの解である。ギャップがゼロでない非自明な解は
1V0G02dϵ1ϵ2+Δ2tanh(ϵ2+Δ2/2T)=0
から得られる。低温ではtanh(ϵ2+Δ2/2T)1と近似できるので、ギャップ方程式は以前に導いた方程式
Δ [1 V0G0sinh1(ωD/Δ)]=0
に戻る。

2024-03-07

6. 超伝導とBCS理論 vol.4

6.3 BCS基底状態


前節に引き続きBCS理論のハミルトニアン
H=k2ϵkβ2kV0kkαkβkαkβk+k[ϵk(α2kβ2k)+2V0kαkβkαkβk](Nk+˜Nk)+
を考える。ただし、省略した項はボゴリューボフ変換
Ak=αkckβkbkBk=αkbk+βkckAk=αkckβkbkBk=αkbk+βkck
で定義した新しい生成・消滅演算子について4次のオーダーの項を表す。変数αk,βk
αk=sinθk,βk=cosθk
で与えられ、数演算子Nk,˜Nk
Nk=AkAk,˜Nk=BkBk
で定義される。以下では、ハミルトニアン(6.61)をさらに変形してしていく。前節でギャップ方程式を導出した(6.58)-(6.60)と同じ近似を用いると、
k2ϵkβ2kV0kkαkβkαkβk=k(2ϵkcos2θkΔ2sin2θk)=dϵ G(ϵ) [ϵϵ2ϵ2+Δ212Δ2ϵ2+Δ2]=G0[12ϵϵ2+Δ2]ωDωD=G0ωDω2D+Δ2
と表せる。ただし、
sin2θk=Δϵ2k+Δ2,cos2θk=ϵkϵ2k+Δ2
Δ=V0kαkβk
を用いた。また、
ϵk(α2kβ2k)+2V0kαkβkαkβk=ϵ2k+Δ2
と書ける。よって、ハミルトニアン(6.61)は
H = G0ωDω2D+Δ2 + kϵ2k+Δ2 (Nk+˜Nk) +
と表せる。4次の項を無視する近似で、基底状態|G
Ak |G=Bk |G=0
と定義できる。よって、基底状態|Gのエネルギーは
EΔ=G0ωDω2D+Δ2
と求まる。これをΔ=0でのエネルギーと比較すると、その差分は
EΔEΔ=0=G0ωD[ω2D+Δ2ωD]12G0Δ2
となる。よって、確かにギャップ方程式の非自明な解のほうが(自明な解Δ=0に比べて)基底エネルギーを極小化する点から好ましい。

 また、(6.64)から理論のエネルギー・スペクトルはエネルギー量子ϵ2k+Δ2で構成されることが分かる。Δ=0となる通常の相では、エネルギー固有値は任意の微小量をとる。つまり、フェルミエネルギー近傍に自由に近づくことができる。しかし、Δがゼロでなければ、1粒子エネルギーはΔに等しいエネルギーギャップをもつ。(これが前節の式(6.58)がギャップ方程式と呼ばれる所以である。)

ギャップΔについての関係式
Δ = ωD 1sinh(1/V0G0)  2 ωD exp(1V0G0)
とエネルギー増加の関係式(6.67)は超伝導における「同位体効果」を示している。デバイ振動数は原子核の質量とM12nucの関係で比例している。これは、超伝導物質が同じ化学組成ではあるが異なる同位体を原子核に持つ場合、電子のエネルギーギャップがわずかながら変化することを意味する。この同位体効果は転移温度にも同様に適用される。

2024-03-05

6. 超伝導とBCS理論 vol.3

6.2 BCS理論


前節では電子間で働くペアリング相互作用
Hint=k,kVkkCkCkCkCkVkk=(e2q2+a2F2|Dq|22ω2q)|q=kk
を導出した。Vkkの第1項はクーロン相互作用、第2項は電子-フォノン相互作用を表す。前者は電子間の斥力、後者は引力に対応する。引力が優勢になりボーズ粒子として振る舞う電子対(クーパー対)が生成され、ボーズ・アインシュタイン凝縮により超電導現象が誘発されるという描像がBCS理論の基礎付けである。よって、ここでは Vkk<0 が要請される。自由ハミルトニアンH0を含めるとBCSハミルトニアンは
H=H0+HintH0=k,σϵkCkσCkσ,     σ=(,)Hint=k,kVkkCkCkCkCk
で与えられる。以下では、表示の混乱を避けるため異なるスピンに対応する演算子を次のように別の記号で表す。
bk=Ck,bk=Ckck=Ck,ck=Ck 
ハミルトニアン(6.41)-(6.43)は
H=H0 + HintH0=kϵk[bkbk + ckck]Hint=k,kVkkbkckckbk
と書き換えられる。このハミルトニアンを近似的に対角化するため演算子の組み合わせ
Ak=αkckβkbkBk=αkbk+βkckAk=αkckβkbkBk=αkbk+βkck
を考える。ただし、αk,βkkの関数であり対角化の要請から決まる。ここでの基本的なアイデアは、これらの新しい演算子を「準粒子」の生成・消滅演算子と解釈することにある。これらの準粒子は少なくともいま計算している近似の範囲で新しい固有状態を形成する。ここで、新しい演算子も元の演算子と同じ反交換関係に従うことを要請する。つまり、反交換関係
AkAl+AlAk=0BkBl+BlBk=0AkAl+AlAk=δklBkBl+BlBk=δklAkAl+AlAk=0BkBl+BlBk=0
を課す。これらの関係式は
α2k+β2k=1
となるときに成り立つことが簡単に分かる。よって、
αk=sinθk,βk=cosθk
と書ける。条件(6.48)を伴う変換(6.46)のように、正準演算子の変換により得られる新しい演算子が元の演算子と同じ交換関係を満たすことが保証される場合がある。このような変換はボゴリューボフ変換として知られている。ボゴリューボフ変換(6.46)の逆変換は
bk=αkBkβkAkck=αkAk+βkBkbk=αkBkβkAkck=αkAk+βkBk
となることが分かる。これらの関係式を(6.45)に代入して、H0Ak,Ak,Bk,Bkで表すと
H0=kϵk[2β2k + (α2kβ2k)(Nk+˜Nk)2αkβk(AkBk+BkAk)]
となる。ただし、Nk,˜Nkは新しい生成・消滅演算子に対応する数演算子であり、
Nk=AkAk,˜Nk=BkBk
で与えられる。つぎに、Hintを変形する。基底状態を見つけることが当面の目的であるので、新しい生成・消滅演算子について高々2次の項のみを残して考える。つまり、NkAkBkなどの4次の項は無視する。また、Vkkk,kについて対称であることから、Hint
Hint=kkVkk[αkβk(Nk+˜Nk1)+(α2kBkAkβ2kAkBk)]×[αkβk(Nk+˜Nk1)+(α2kAkBkβ2kBkAk)]kkVkkαkβkαkβk2kkVkkαkβkαkβk(Nk+˜Nk)kkVkkαkβk(α2kβ2k)(AkBk+BkAk) + (4)
と変形できる。以下では、(AkBk+BkAk)-項の係数をゼロとおくことでハミルトニアンの対角化を進める。この場合、全ハミルトニアンは数演算子Nk,˜Nkだけに依存し、簡単に対角化できる。というのも、Nk,˜Nkの対角基底は自明であり簡単に構成できるからである。(6.51), (6.53)より、(AkBk+BkAk)-項の係数をゼロにする条件は
2ϵkαkβk+(α2kβ2k) kVkkαkβk=0
で与えられる。(6.49)を用いると、これは
ϵksin2θk+Δkcos2θk=0
と表せる。ただし、Δk
Δk=kVkkαkβk=12kVkksin2θk
と定義した。フェルミエネルギー近傍の状態を考えているので、k, kがその狭い範囲に限られているとすると、Vkkk, kに依らないと近似できる。よって、Vkk=V0 (V0>0) とおける。したがって、(6.56)で定義されるΔkkとは独立にとれるので、今後はこれをΔで表す。このとき、式(6.55)から
sin2θk=Δϵ2k+Δ2,cos2θk=ϵkϵ2k+Δ2
が得られる。これらをΔkの定義式、つまり(6.56)に代入すると、Δについての方程式
Δ=V02kΔϵ2k+Δ2V02dϵ G(ϵ) Δϵ2+Δ2
が得られる。ただし、運動量についての和を積分で近似した。ここでは、さらに d3kdϵG(ϵ) としてk-積分をエネルギー積分に変換した。G(ϵ)は状態密度を表す。式(6.58)は次節で明らかになる理由からギャップ方程式と呼ばれる。引力相互作用はフェルミ準位付近のわずかなエネルギー範囲だけで有効となる。エネルギーはフェルミ準位からの差異で測定されることを思い出すと、このエネルギー範囲は ωDϵωD と取れる。ただし、ωDはデバイ振動数である。(6.58)の積分範囲はこのエネルギー範囲に限定される。(Δは、ある微小範囲内で定数の値をとりその範囲を外れると突然ゼロになるという意味で、kに依存する量と解釈することもできる。)このエネルギー範囲で状態密度G(ϵ)は定数と近似できるのでG(ϵ)をフェルミ準位での値 G0=G(0) と置き換えて積分を近似できる。よって、ギャップ方程式は
Δ [1 V0G0sinh1(ωD/Δ)]=0
と変形できる。この方程式は2つの解をもつ。1つは自明な解 Δ=0 であり、もう一つは非自明な解
Δ=ωD 1sinh(1/V0G0)2 ωD exp(1V0G0)
である。最後の項の導出では、V0G0の値が一般に微小量となることを用いた。この解は本質的に非摂動的な特性をもつことに注意しよう。V0は結合定数あるいは相互作用の強さを表すので、摂動展開はV0の級数展開で与えられる。上式では、Δは基本的に V0=0 で特異点を持つので、この点のまわりで級数展開することはできない。次節で示すように、ギャップ方程式の2つの解のうち基底状態のエネルギーを極小化するのは非自明な解(6.60)のほうである。

2024-03-01

6. 超伝導とBCS理論 vol.2

前回のエントリーでは超電導現象の入門として結晶中の電子とフォノンの相互作用を考え、場の量子論の摂動計算から電子-フォノン相互作用の具体的な形
Sint = eω01ϵ1ϵ0 d4xd3y ψψ(x) G(xy) ϕ(y)
を導いた。以下では、この相互作用を使ってBCS理論の基礎となるペアリング相互作用を導出する。

ペアリング相互作用

 相互作用(6.26)において、電子場ψψはそれぞれ電子の消滅・生成演算子を表す。(正確には(6.29)で定義するようにψ, ψはフェルミオン演算子Ck, Ckのモード展開で表せる。)また、ϕ はフォノン場を表す。フォノン場の伝播関数は2点関数
χ(x)χ(y)=d3q(2π)3|Dq|22ωq[θ(x0y0)eiωq(x0y0)+iq(xy)+θ(y0x0)eiωq(x0y0)iq(xy)]
で与えられる。ただし、χ(x)=d3yG(x,y)ϕ(y) である。また、ここでは|Dq|2=1/q2とおける。しかし、結晶構造を考慮すると|Dq|21/q2とは異なる可能性がある。よって、基本的に|Dq|2は物質ごとに特定される関数として扱われる。

 指数eiSintχ(x)について展開し、2次のオーダーでウィック縮約を実行すると、フォノン交換による有効作用
Γ=iF22d4xd4yψψ(x) ψψ(y) χ(x)χ(y)
が(2次のオーダーで)得られる。ただし、前回と同じく
F=eω01ϵ1ϵ0
である。ここで、電子場の演算子のモード展開
ψ(x)=1VlCleiElx0+ilx,ψ(x)=1VkCkeiEkx0ikx
を導入する。ただし、Ck, Ckはそれぞれ電子の消滅・生成演算子である。(これらフェルミオン演算子については前回のエントリーで解説した。)このモード展開を(6.28)に代入すると、x0>y0となる項は
Γ(1)=iF22q|Dq|22ωql,rCkClCpCrδp,rqδk,l+q2πδ(Ek+EpElEr)i(EpEr+ωqiϵ)=F22q|Dq|22ωql,rdtCl+q(t)Cl(t)Crq(t)Cr(t)(ErqEr+ωqiϵ)
と計算できる。ただし、Cp(t)=CpeiEpx0 などの関係式を用いた。エネルギー保存のデルタ関数はt-積分で書き換えられている。同様に、運動量の入れ替えに注意するとy0>x0となる項も
Γ(2)=F22q|Dq|22ωql,rdtCl+q(t)Cl(t)Crq(t)Cr(t)(ErqErωq+iϵ)
と計算できる。ただし、変数の変換 qq を用いた。これら2つの項の和をとると
Γ=F22q|Dq|22ωql,rdtCl+q(t)Cl(t)Crq(t)Cr(t)×[1(ErqEr+ωqiϵ)1(ErqErωq+iϵ)]
となる。この式の実部は、極限 iϵ0 のもとで、
Γ=F22q|Dq|2dt l,rCl+q(t)Cl(t)Crq(t)Cr(t)[ω2q(ErErq)2]
と書ける。これは作用においてポテンシャル・エネルギーのように扱えるので、ハミルトニアンの補正項は
˜H=F22q|Dq|2l,rCl+qClCrqCr[ω2q(ErErq)2]
とおける。電子間に働く遮蔽されたクーロン斥力に加えてこの相互作用項も足さなければならない。つまり、4電子の相互作用項の総和は
Hint=ql,rCl+qClCrqCr(e2q2+a2F2|Dq|22[ω2q(ErErq)2])
で与えられる。ただし、a1はクーロン相互作用の遮蔽距離を表す。電子-フォノン相互作用の強さに応じて、(6.35)の第2項はクーロン斥力より優勢になり、(ErErq)2<ω2q の場合、電子間に引力相互作用を引き起こす。