6.2 BCS理論
前節では電子間で働くペアリング相互作用
Hint=∑k,k′Vkk′C†−k′↓C†k′↑Ck↑C−k↓Vkk′=(e2q2+a2−F2|Dq|22ω2q)|q=k′−k
を導出した。Vkk′の第1項はクーロン相互作用、第2項は電子-フォノン相互作用を表す。前者は電子間の斥力、後者は引力に対応する。引力が優勢になりボーズ粒子として振る舞う電子対(クーパー対)が生成され、ボーズ・アインシュタイン凝縮により超電導現象が誘発されるという描像がBCS理論の基礎付けである。よって、ここでは Vkk′<0 が要請される。自由ハミルトニアンH0を含めるとBCSハミルトニアンは
H=H0+HintH0=∑k,σϵkC†kσCkσ, σ=(↑,↓)Hint=∑k,k′Vkk′C†−k′↓C†k′↑Ck↑C−k↓
で与えられる。以下では、表示の混乱を避けるため異なるスピンに対応する演算子を次のように別の記号で表す。
bk=Ck↑,b†k=C†k↑c−k=C−k↓,c†−k=C†−k↓
ハミルトニアン(6.41)-(6.43)は
H=H0 + HintH0=∑kϵk[b†kbk + c†kck]Hint=∑k,k′Vkk′b†k′c†−k′c−kbk
と書き換えられる。このハミルトニアンを近似的に対角化するため演算子の組み合わせ
Ak=αkc−k−βkb†kB−k=αkbk+βkc†−kA†k=αkc†−k−βkbkB†−k=αkb†k+βkc−k
を考える。ただし、αk,βkはkの関数であり対角化の要請から決まる。ここでの基本的なアイデアは、これらの新しい演算子を「準粒子」の生成・消滅演算子と解釈することにある。これらの準粒子は少なくともいま計算している近似の範囲で新しい固有状態を形成する。ここで、新しい演算子も元の演算子と同じ反交換関係に従うことを要請する。つまり、反交換関係
AkAl+AlAk=0B−kB−l+B−lB−k=0AkA†l+A†lAk=δklB−kB†−l+B†−lB−k=δklA†kA†l+A†lA†k=0B†−kB†−l+B†−lB†−k=0
を課す。これらの関係式は
α2k+β2k=1
となるときに成り立つことが簡単に分かる。よって、
αk=sinθk,βk=cosθk
と書ける。条件(6.48)を伴う変換(6.46)のように、正準演算子の変換により得られる新しい演算子が元の演算子と同じ交換関係を満たすことが保証される場合がある。このような変換はボゴリューボフ変換として知られている。ボゴリューボフ変換(6.46)の逆変換は
bk=αkB−k−βkA†kc−k=αkAk+βkB†−kb†k=αkB†−k−βkAkc†−k=αkA†k+βkB−k
となることが分かる。これらの関係式を(6.45)に代入して、H0をAk,A†k,B−k,B†−kで表すと
H0=∑kϵk[2β2k + (α2k−β2k)(Nk+˜Nk)−2αkβk(AkB−k+B†−kA†k)]
となる。ただし、Nk,˜Nkは新しい生成・消滅演算子に対応する数演算子であり、
Nk=A†kAk,˜Nk=B†−kB−k
で与えられる。つぎに、Hintを変形する。基底状態を見つけることが当面の目的であるので、新しい生成・消滅演算子について高々2次の項のみを残して考える。つまり、Nk′AkB−kなどの4次の項は無視する。また、Vkk′がk,k′について対称であることから、Hintは
Hint=∑kk′Vkk′[αk′βk′(Nk′+˜Nk′−1)+(α2k′B†−k′A†k′−β2k′Ak′B−k′)]×[αkβk(Nk+˜Nk−1)+(α2kAkB−k−β2kB†−kA†k)]≈∑kk′Vkk′αk′βk′αkβk−2∑kk′Vkk′αk′βk′αkβk(Nk+˜Nk)−∑kk′Vkk′αk′βk′(α2k−β2k)(AkB−k+B†−kA†k) + (4次の項)
と変形できる。以下では、(AkB−k+B†−kA†k)-項の係数をゼロとおくことでハミルトニアンの対角化を進める。この場合、全ハミルトニアンは数演算子Nk,˜Nkだけに依存し、簡単に対角化できる。というのも、Nk,˜Nkの対角基底は自明であり簡単に構成できるからである。(6.51), (6.53)より、(AkB−k+B†−kA†k)-項の係数をゼロにする条件は
2ϵkαkβk+(α2k−β2k) ∑k′Vkk′αk′βk′=0
で与えられる。(6.49)を用いると、これは
ϵksin2θk+Δkcos2θk=0
と表せる。ただし、Δkは
Δk=−∑k′Vkk′αk′βk′=−12∑k′Vkk′sin2θk′
と定義した。フェルミエネルギー近傍の状態を考えているので、k, k′がその狭い範囲に限られているとすると、Vkk′はk, k′に依らないと近似できる。よって、Vkk′=−V0 (V0>0) とおける。したがって、(6.56)で定義されるΔkはkとは独立にとれるので、今後はこれをΔで表す。このとき、式(6.55)から
sin2θk=Δ√ϵ2k+Δ2,cos2θk=−ϵk√ϵ2k+Δ2
が得られる。これらをΔkの定義式、つまり(6.56)に代入すると、Δについての方程式
Δ=V02∑kΔ√ϵ2k+Δ2≈V02∫dϵ G(ϵ) Δ√ϵ2+Δ2
が得られる。ただし、運動量についての和を積分で近似した。ここでは、さらに d3k→dϵG(ϵ) としてk-積分をエネルギー積分に変換した。G(ϵ)は状態密度を表す。式(6.58)は次節で明らかになる理由からギャップ方程式と呼ばれる。引力相互作用はフェルミ準位付近のわずかなエネルギー範囲だけで有効となる。エネルギーはフェルミ準位からの差異で測定されることを思い出すと、このエネルギー範囲は −ωD≤ϵ≤ωD と取れる。ただし、ωDはデバイ振動数である。(6.58)の積分範囲はこのエネルギー範囲に限定される。(Δは、ある微小範囲内で定数の値をとりその範囲を外れると突然ゼロになるという意味で、kに依存する量と解釈することもできる。)このエネルギー範囲で状態密度G(ϵ)は定数と近似できるのでG(ϵ)をフェルミ準位での値 G0=G(0) と置き換えて積分を近似できる。よって、ギャップ方程式は
Δ [1− V0G0sinh−1(ωD/Δ)]=0
と変形できる。この方程式は2つの解をもつ。1つは自明な解 Δ=0 であり、もう一つは非自明な解
Δ=ωD 1sinh(1/V0G0)≈2 ωD exp(−1V0G0)
である。最後の項の導出では、V0G0の値が一般に微小量となることを用いた。この解は本質的に非摂動的な特性をもつことに注意しよう。V0は結合定数あるいは相互作用の強さを表すので、摂動展開はV0の級数展開で与えられる。上式では、Δは基本的に V0=0 で特異点を持つので、この点のまわりで級数展開することはできない。次節で示すように、ギャップ方程式の2つの解のうち基底状態のエネルギーを極小化するのは非自明な解(6.60)のほうである。
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