2019-09-05

Mathematical Review 103: higher spin theory 雑感

久しぶりにMathematical Reviewsへ寄稿しました。これまでのレビューリストはこちら。今回の寄稿内容はこちら。これまで話だけは聞いていたスピンの数が大きい粒子(higher spin あるいは infinite spin と呼ばれる粒子、以下では「高階スピン粒子」と呼ぶ)の理論についてです。この論文では質量ゼロの高階スピン粒子をツイスター変数で記述することによって、高階スピン粒子の場の方程式を具体的に書き出し、これらの場が以前から知られている高階スピン粒子の${\cal N}=1$超対称代数の表現を与えることが示されています。

4次元上の質量ゼロの粒子はツイスター空間上で定義されるツイスター変数を用いると2次元のワイル・スピノールで表現できるため、スピン1のグルーオンやスピン2のグラビトン(重力子)の散乱振幅を計算を飛躍的に簡素化できることが知られています。(その背景や詳しいことはこちらを参照ください。)この論文ではそれらの発展に刺激されて無質量の高階スピン粒子のダイナミクスをツイスター変数で記述・解析したものです。高階スピン粒子については全く専門外で良く知りませんでしたが、ツイスター変数を用いた散乱振幅についてはいくつか論文を書いていたため私に寄稿依頼が回ってきたようです。式だけ追っていてはなかなか全体像が分かりませんでしたが、とりあえず関連論文も参照しながらレビューしました。

この論文の結果は数学的には興味深いものですが、そもそもスピンが2より大きい高階スピン粒子は自然界に(これまでの観測では)実在しないので物理的なモチベーションには欠けます。高階スピン粒子の場あるいは波動関数が議論されていますが、個人的にはこれはグルーオンの多粒子系の状態関数と関係づければもう少し面白くなるのではと思いました。グルーオンの多粒子系ではそのような状態関数は(古典レベルでは)共形性をもつので2次元の共形場理論の情報から4次元のゲージ理論を解析できるという面白い関係性がありますが、高階スピン粒子の理論では共形性はどうなっているのでしょうか?高階スピン粒子を定義する拘束式の形からは共形性は見て取れませんでした。調べてみると共形性をとりこんだ高階スピン理論(Conformal higher-spin theories)というのが既にあるそうです。ただ、これも数学的には興味深いでしょうが、物理理論としては抽象的すぎる気がします。

(2024年4月追記) 難解な分野ですが、最近発刊された教科書


に日本語の詳しい解説があるので興味のある方は参考にしてみてはいかがでしょうか。

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