前回に引き続いてアーベル型ボソン化の話を進めよう。
ボソン場とフェルミオン場の一対一対応
前回導いた関係式
\[ J_{-} (x) = \psi_1^\dag (x) \psi_1 (x) = \frac{1}{\sqrt{2 \pi}} \left( \frac{\d}{\d x^0} - \frac{\d}{\d x^1} \right) \phi (x) \tag{7.54} \]
はフェルミオン・カレント$J_- (x)$がボソンのスカラー場$\phi (x)$の関数として表せることを示している。フェルミオン場$\psi_1 (x)$についても同様に$\psi_1 (x)$をボソン場$\phi (x)$の関数として表せるだろうか?アーベル型の場合、これは可能であり、マンデルスタムによる次の関係式が知られている。
\[ \psi_1 (x) \, = \, A \, \exp \left( i \phi (x ) + i \pi \int_{x^1}^{\infty} \dot{\phi} (x^0, \tilde{x}^1 ) d \tilde{x}^1 \right) \equiv e^{ i \Phi_1 (x) } \tag{7.56} \]
ただし、$A$は規格化定数。上式を用いると$\psi_1^\dag (x)$と$\psi_1 (y)$の反交換関係を次のように確認できる。
\[\begin{eqnarray} \psi_1^\dag (x) \psi_1 (y) &=& A^2 e^{ - i \Psi_1 (x) } e^{i \Phi_1 (y)} \nonumber \\ &=& A^2 e^{ - i \Phi_1 (x)+ i \Phi_1 (y) } e^{\hf \left[ \Phi_1 (x) , \Phi_1 (y) \right] } \nonumber \\ &=& - \psi_1 (y) \psi_1^\dag (x) \tag{7.57} \end{eqnarray}\]
ただし、$\phi$の交換関係
\[ \left[ \phi ( x^0 , x^1 ) , \, \dot{\phi} ( x^0 , y^1 ) \right] = i \del ( x^1 - y^1 ) \tag{7.48} \]
を用いた。また、演算子$A$, $B$について
\[ e^A e^B = e^{A+B} e^{\hf [A, B] } \tag{7.58} \]
が成り立つことを用いた。ここで、$[A, B]$は$c$数である。因子$\exp \left( i \pi \int_{x^1}^{\infty} \dot{\phi} (x^0, \tilde{x}^1 ) d \tilde{x}^1 \right)$はクライン変換(7.8)で現れた因子$\exp \left( i \pi \sum_{k<i} N_k \right)$と類似した働きをすることに注意しよう。
反交換関係(7.57)の導出は関係式(7.56)を
\[ \psi_1 (x) \, = \, A \, \exp \left( i \sqrt{\pi} \phi (x ) + i \sqrt{\pi} \int_{x^1}^{\infty} \dot{\phi} (x^0, \tilde{x}^1 ) d \tilde{x}^1 \right) \tag{7.59} \]
と置き換えても変わらない。また、スピノールのカイラリティからもう一方のスピノール$\psi_2 (x)$を
\[ \psi_2 (x) \, = \, A \, \exp \left( - i \sqrt{\pi} \phi (x ) + i \sqrt{\pi} \int_{x^1}^{\infty} \dot{\phi} (x^0, \tilde{x}^1 ) d \tilde{x}^1 \right) \tag{7.60} \]
と定義できる。規格化因子$A$は、例えば
\[ \psi_1^\dag ( x + \ep ) \psi_1 ( y - \ep ) = \frac{i}{2 \pi} \frac{1}{(x^1 + \ep ) - ( y^1 - \ep )} \longrightarrow \frac{i}{2\pi} \frac{1}{2 \ep} ~~~~ ( x^1 \rightarrow y^1 ) \tag{7.44}\]
から決定でき、$A = \frac{1}{\sqrt{2 \pi (2 \ep ) }}$となることが分かる。これより、$\psi_1^\dag (x + \ep ) \psi_1 (x - \ep)$ を計算すると
\[\begin{eqnarray} \psi_1^\dag (x + \ep ) \psi_1 (x - \ep) &=& \frac{1}{2 \pi} \frac{1}{2 \ep} e^{- i \Phi_1 (x + \ep) } e^{ i \Phi_1 (x - \ep) } \nonumber \\ &=& \frac{i}{2 \pi} \frac{1}{2 \ep} e^{- i \left( \Phi_1 (x+ \ep) - \Phi_2 (x- \ep) \right)} \nonumber \\ &=& \frac{i}{2 \pi} \frac{1}{2 \ep} + \frac{1}{2 \pi} \frac{\d}{\d x^1} \Phi_1 (x^0 , x^1 ) + \O (\ep) \nonumber \\ &=& \frac{i}{2 \pi} \frac{1}{2 \ep} - \frac{1}{\sqrt{2}} J_{-} (x) + \O (\ep ) \tag{7.61} \end{eqnarray}\]
と求まる。ここで、$\Phi_1 (x) $は
\[ \Phi_1 (x) = \sqrt{\pi} \phi (x ) + \sqrt{\pi} \int_{x^1}^{\infty} \dot{\phi} (x^0, \tilde{x}^1 ) d \tilde{x}^1 \tag{7.62}\]
で与えられる。また、関係式(7.54)から
\[ \frac{\d}{\d x^1} \Phi_1 = \sqrt{\pi} \left( \frac{\d}{\d x^1} \phi - \frac{\d}{\d x^0} \phi \right) = - \sqrt{2} \pi J_{-} (x) \tag{7.63} \]
であることを用いた。同様に、関係式
\[ \psi_1 (x + \ep ) \psi_1^\dag (x - \ep) = \frac{i}{2 \pi} \frac{1}{2 \ep} + \frac{1}{\sqrt{2}} \psi_1^\dag (x + \ep ) \psi_1 (x - \ep) + \O (\ep ) \tag{7.64} \]
が得られる。これは、前回紹介した同時刻における関係式
\[ \psi_1 (x) \psi_1^\dag (y) = \frac{i}{2\pi} \frac{1}{ x^1 - y^1 } + f ( x^1 - y^1 ) \, \O \tag{7.43} \]
の具体的な表現である。(つまり、$\psi_1$を(7.59)で定義すると真空期待値がゼロとなる演算子$\O$は具体的に$\psi_1^\dag \psi_1 $と求まる。)
モード展開
つぎに、(7.49)と同様にボソン場$\Phi_1 (x)$のモード展開を考える。
\[ \Phi_1 ( x ) = \sum_{k \ge 1} \frac{1}{\sqrt{2 k_{0} L}} \left( a_{k} e^{-i k_{0} x^{0} - i k_1 x^1} + a_k^\dag e^{i k_{0} x^{0} + i k_1 x^1} \right) \tag{7.65} \]
ただし、ここではユークリッド計量を用いた。質量がゼロの場合$(m=0)$、$k_0 = \sqrt{k_1^2 + m^2 } = | k_1 | $ であり、$\Phi_1$はスケール不変な演算子となる。このとき、$\Phi_1 (x)$は
\[ \Phi_1 ( x ) = \frac{1}{\sqrt{2L}} \sum_{k \ge 1} \frac{1}{\sqrt{k}} \left( a_k e^{-ik ( x^0 + x^1)} + a_k^\dag e^{ik ( x^0 + x^1 )} \right) \tag{7.66} \]
と書ける。ここで、空間方向を円周上にコンパクト化 $0 \le x^1 \le 2 \pi$ ($L = 2 \pi$) して、$\Phi_1 (x)$に周期性を課すと、モード展開は一般に整数 $n \in {\bf Z}$ で展開できるので、
\[\begin{eqnarray} \Phi_1 ( x ) &=& \frac{1}{\sqrt{4 \pi}} \sum_{n < 0} \frac{1}{\sqrt{|n|}} \left( a_n e^{-i n ( x^0 + x^1) } + a_n^\dag e^{in( x^0 + x^1)} \right) \nonumber \\ && ~ + \frac{1}{\sqrt{4 \pi}} \sum_{n > 0} \frac{1}{\sqrt{n}} \left( a_n e^{-i n ( x^0 + x^1) } + a_n^\dag e^{in( x^0 + x^1)} \right) + \phi_0 \nonumber \\ &=& \frac{1}{\sqrt{ \pi}} \sum_{n > 0} \frac{1}{\sqrt{n}} \left( a_n e^{-i n ( x^0 + x^1) } + a_n^\dag e^{in( x^0 + x^1)} \right) + \phi_0 \tag{7.67} \end{eqnarray}\]
となる。ただし、$a_{-m} = a^\dag_m$, $a^{\dag}_{-m} = a_m $ ($m > 0$) を用いた。また、自由ボソン場$\Phi_1 $のゼロモード$\phi_0$も含めた。ゼロモード$\phi_0$の正準共役は $\pi_0 = \dot{\phi_0}$ で与えられ、正準交換関係
\[ [ \phi_0 , \pi_0 ] = i \tag{7.68} \]
を満たす。ゼロモードの時間発展は $\phi_0 + \pi_0 x^0$ で与えられる。以前議論したように$\psi_1 (x)$は
\[ \frac{ \d \psi_1}{\d x^0} - \frac{\d \psi_1}{\d x^1} = 0 \tag{7.17} \]
を満たすので、$\psi_1 (x)$は$(x^0 + x^1 )$の関数である。よって、関係式 $\psi_1 (x) = \psi_1 (x^0 + x^1 ) \sim \exp ( i \Phi_1 (x^0 + x^1 ) )$ から$\Phi_1 (x) $も$(x^0 + x^1 )$の関数である。このことに注意すると、 上式でのゼロモードによる寄与は正しくは $\phi_0 + \pi_0 (x^0 + x^1 )$ で与えられることが分かる。$\Phi_1 $のようにカイラル・フェルミオンと関係するボソンはカイラル・ボソンと呼ばれる。以上より、$\Phi_1 $のモード展開は
\[ \Phi_1 ( x^0 + x^1 ) = \sum_{n > 0} \frac{1}{\sqrt{n}} \left( a_n e^{-i n ( x^0 + x^1) } + a_n^\dag e^{in( x^0 + x^1)} \right) + \phi_0 + \pi_0 (x^0 + x^1 ) \tag{7.69} \]
と再定義できる。
前回言及したようにフェルミオン伝播関数$\bra 0 | \psi_1 \psi^\dag_1 | 0 \ket$はモード展開を利用して計算することもできる。ここでは上式を用いて伝播関数を計算する。通常用いられる手法は、上述の通り空間方向がコンパクト化されているとして複素変数
\[ z = e^{i (x^0 + x^1 ) } \tag{7.70} \]
を導入して、$z$についての場の理論を考えることである。(1+1)次元でのこのような手法は動径量子化と呼ばれる。このとき、モード展開は
\[ \Phi_1 ( z ) = \sum_{n > 0} \frac{1}{\sqrt{n}} \left( a_n z^{-n } + a_n^\dag z^{n} \right) + \phi_0 - i \pi_0 \log z \tag{7.71} \]
と表せる。(7.59)から$\psi_1 (z )$は $\psi_1 (z ) = \exp (i \Phi_1 (z) ) $ と定義できる。ただし、規格化定数は$\Phi_1$に吸収した。よって、$\psi_1^\dag (z) | 0 \ket$を計算すると
\[\begin{eqnarray} \psi_1^\dag (z) | 0 \ket &=& \exp \left( - i \sum_{n \ge 1} \frac{1}{\sqrt{n}}\left( a_n z^{-n } + a_n^\dag z^{n} \right) \right) e^{ - i \phi_0 - \pi_0 \log z } | 0 \ket \nonumber \\ &=& \exp \left( -i \sum_{n \ge 1} \frac{a_n^\dag z^n}{\sqrt{n}} \right) \exp \left( \hf \sum_{n \ge 1} \frac{1}{n} \right) e^{- i \phi_0 } z^{\hf} | 0 \ket \tag{7.72} \end{eqnarray}\]
となる。ただし、関係式(7.1), (7.58), (7.68)と真空状態の定義 $a_n | 0 \ket = \pi_0 | 0 \ket = 0$ を用いた。因子$\sum_{n \ge 1} \frac{1}{n} $は明らかに発散する。真空期待値として有限な物理量を$\psi_1 (z)$から得るには、$e^{i \Phi_1 (z) } $の正規順序積を用いて$\psi_1 (z)$を再定義する必要がある。つまり、
\[\begin{eqnarray} \psi_1 (z) &= & : e^{i \Phi_1 (z) } : \nonumber \\ & \equiv & \exp \left( i \sum_{n \ge 1} \frac{a_n^\dag z^n }{\sqrt{n}} \right) \exp \left( i \sum_{n \ge 1} \frac{a_n z^{-n} }{\sqrt{n}} \right) e^{i \phi_0} e^{\pi_0 \log z } \tag{7.73} \end{eqnarray}\]
と定義し直す。この演算子は2次元共形場理論におけるカイラル・ボソンの頂点演算子に対応している。これより、伝播関数$\bra 0 | \psi_1 \psi^\dag_1 | 0 \ket$の計算は次のように実行できる。
\[\begin{eqnarray} \bra 0 | \psi_1 (z) \psi^\dag_1 (w) | 0 \ket &=& \bra 0 | \exp \left( i \sum_{n \ge 1} \frac{a_n z^{-n} }{\sqrt{n}} \right) \exp \left( - i \sum_{m \ge 1} \frac{a_m^\dag z^{w} }{\sqrt{m}} \right) e^{\pi_0 \log z } e^{- i \phi_0 } | 0 \ket \nonumber \\ &=& \bra 0 | \exp \left( \sum_{n, m} \frac{z^{-n} w^m }{\sqrt{nm}} [ a_n , a_m^\dag ] \right) e^{ - i [ \pi_0 , \phi_0 ] \log z } | 0 \ket \nonumber \\ &=& \exp \left( \sum_{n \ge 1} \frac{1}{n} \left(\frac{w}{z} \right)^n \right) z^{-1} \nonumber \\ &=& e^{ - \log \left( 1 - \frac{w}{z} \right)} z^{-1} = \frac{1}{z - w} \tag{7.74} \end{eqnarray}\]
ただし、関係式
\[ e^A e^B = e^B e^A e^{[A, B]} \tag{7.75} \]
を用いた。$z = e^{i (x^0 + x^1 )}$ と $ w = e^{i (y^0 + y^1 )}$ を代入すると
\[ \frac{1}{z - w} = \frac{1}{e^{i (x^0 + x^1 )} - e^{i (y^0 + y^1 )}} \sim \frac{1}{ (x^0 - y^0 ) + (x^1 - y^1 ) } ~~~~( z \rightarrow w ) \tag{7.76} \]
となる。これは以前に導いた伝播関数
\[ S_{-} ( x, y ) = \frac{i}{2 \pi} \frac{1} { (x^0 - y^0 ) + ( x^1 - y^1 ) } \tag{7.37} \]
の結果と一致する。
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