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2024-03-27

7. ボソン化とカッツ-ムーディ代数 vol.4

7.2 非アーベル型ボソン化

 
前節では、(1+1)次元フェルミ粒子系のアーベル型のボソン化を議論した。この節では、この議論をアーベル型の場合に拡張する。具体的には非アーベル型のカレントが成すカッツ-ムーディ代数を導出する。そのために、N個の自由フェルミ粒子を導入する。このとき、2成分のディラック・スピノールψ
ψ=(ψ1ψ2)(ψa1ψa2)    (a=1,2,,N)
と表せる。前節の J=ψ1ψ1 に対応するカレントは Jabψ1aψb1 と書ける。これらはN2個のエルミート演算子と見做すことができる。ここで、SU(N)対称性を導入し、N2個のカレントを次のように分類する。
{ψ1aψa1トレース成分のカレントψ1a(Tα)abψb1SU(N)カレント
ただし、Tα (α=1,2,,N21) はSU(N)群の生成子であり、トレース・ゼロのN×Nエルミート行列で表現される。SU(N)代数は
[Tα,Tβ]=ifαβγTγ
で与えられる。いつも通り、Tαの規格化を
Tr(TαTβ)=12δαβ
とする。アーベル型の場合、カレントJ(x)
J(x)=ψ1(x+ϵ)ψ1(xϵ)
と定義した。ただし、x=(x0,x1), x±ϵ=(x0,x1±ϵ)であり、計算の最後に ϵ0 の極限を取った。これとの類推から、非アーベル型のカレントを
Jα(x)=ψ1(x+ϵ)Tαψ1(xϵ)
と定義できる。

 これより、Jα(x)の同時刻交換関係は
[Jα(x0,x1),Jβ(x0,y1)]=[ψ1(x+ϵ)Tαψ1(xϵ),ψ1(y+ϵ)Tβψ1(yϵ)]=ψ1a(x+ϵ)(Tα)ab{ψb1(xϵ),ψ1c(y+ϵ)}(Tβ)cdψd1(yϵ)  ψ1a(y+ϵ)(Tβ)ab{ψb1(yϵ),ψ1c(x+ϵ)}(Tα)cdψd1(xϵ)=ψ1(x+ϵ)TαTβψ1(yϵ)δ(xy2ϵ)    ψ1(y+ϵ)TβTαψ1(xϵ)δ(xy+2ϵ)
と計算できる。ただし、スピノールの同時刻反交換関係
{ψa1(x0,x1),ψ1b(x0,y1)}=δabδ(x1y1)
を用いた。(7.82)は前節のアーベル型の関係式
[J(x),J(x)]=[ψ1(x+ϵ)ψ1(xϵ),ψ1(y+ϵ)ψ1(yϵ)]=ψ1(x+ϵ)ψ1(yϵ)δ(xy2ϵ)    ψ1(y+ϵ)ψ1(xϵ)δ(xy+2ϵ)
の非アーベル型の拡張になっており、以前と同様に
[Jα(x),Jβ(y)]=ifαβγJγ(x)δ(xy)i2πδαβxδ(xy)
と変形できる。ただし、SU(N)群の生成子Tαについての関係式(7.79), (7.80)を用いた。また、アーベル型の場合と同様に ψ1a(x+ϵ)ψb1(yϵ)ψ1a(y+ϵ)ψb1(xϵ)x1y1 での評価は
ψ1a(x+ϵ)ψb1(yϵ)i2π12ϵδab    (x1y1)ψ1a(y+ϵ)ψb1(xϵ)i2π12ϵδab    (x1y1)
で与えられることを用いた。交換関係(7.84)は非アーベル型のカッツ-ムーディ代数に対応する。この代数はカレント代数としても知られている。(7.84)の座標成分を明示的に書くと
[Jα(x0,x1),Jβ(x0,y1)]=ifαβγJγ(x0,x1)δ(x1y1)i2πδαβx1δ(x1y1)
となる。もう一方のフェルミオン・カレント Jα+(x)=ψ2(x+ϵ)Tαψ2(xϵ) の代数も同様に計算でき
[Jα+(x0,x1),Jβ+(x0,y1)]=ifαβγJγ+(x0,x1)δ(x1y1)+i2πδαβx1δ(x1y1)
と求まる。

 ここで、カレントJα(x)を用いて新しいカレントJαn
Jαn=Jαn(x0)=2πR0einx1RJα(x0,x1)dx1
とパラメータ表示しよう。ただし、nは整数である。このJαn(x0)を用いると、カレント代数の異なる表現を求めることができる。つまり、Jα(x)の代数(7.87)に exp(inx1R)exp(imy1R) を掛けて、半径Rの円周に沿ってx1y1の積分を取ると
[Jαn,Jβm]=ifαβγx1y1einx1R+imy1RJγ(x)δ(x1y1)dx1dy1i2πδαβx1y1einx1Rx1δ(x1y1)eimy1Rdx1dy1=ifαβγJγn+m+mδαβδn+m,0
を得る。ここで、第2項の導出に関係式
2πR0ei(n+m)x1Rdx1=2πRδn+m,0
を用いた。m=n=0 の場合、(7.90)は通常のSU(N)代数に帰着する。よって、非アーベル型のカッツ-ムーディ代数(7.90)は拡張されたSU(N)代数と解釈できる。

 数学の文献では、カレント代数に付随するレベル数kが存在し、これを含めると(7.90)は
[Jαn,Jβm]=ifαβγJγn+m+kmδαβδn+m,0
と表せる。カレント代数のレベル数kはユニタリー性の要請から整数であることが知られている。(7.90)はk=1の場合に相当する。実際、「k=1のカッツ-ムーディ代数はユニタリー既約表現を唯一つだけ持つ」という(カッツの)定理が存在し、これは代数(7.68)のユニタリー既約表現の唯一性を保証する。この意味でこの定理は1, 4, 6章で議論したハイゼンベルク代数のストーン-フォン・ノイマンの定理と類似している。

カレントのボソン表示

 上述の通り非アーベル型カッツ-ムーディ代数の導出は(1+1)次元フェルミオン・カレント Jα=ψ1Tαψ1 を用いて行われた。前節で見たようにアーベル型の場合、カレント J=ψ1ψ1 のボソン表示は
J(x)=ψ1(x)ψ1(x)=12π(x0x1)ϕ(x)
で実現される。これは
ψ1ψ1=J(x)=12πϕ(x)=i2π(g)g1g=g(x)=eiϕ(x)
と書き換えられる。ただし、=x0x1 であり、g(x)はアーベル群U(1)の要素とみなせる。この表現は非アーベル型へ自然に拡張できる。
ψTαψ=Jα(x)=12πϕα(x)=i2π(g)g1g=g(x)=eiTαϕα(x)
ここで、g(x)SU(N)群の要素である。関係式(7.95)は非アーベル型カレントJα(x)のボソン表示を与える。カレントJα(x)で表されるフェルミ粒子の物理系と等価な2次元物理系を記述するボソン場の作用が存在することが知られている。これは、非アーベル群の要素g(x)で表され、ヴェス-ズミノ-ウィッテン(WZW)作用と呼ばれる。次節ではこの作用の動力学について簡単に紹介する。

 ボソン化の表現(7.95)はフェルミオン・カレントJがボソン場ϕの関数として表せることを示している。前回(7.59), (7.60)で見たようにアーベル型の場合は、カイラル・フェルミオンψ1, ψ2をスカラーボソンϕの関数として表せる。
ψ1(x)=Aexp(iπϕ(x)+iπx1˙ϕ(x0,˜x1)d˜x1)ψ2(x)=Aexp(iπϕ(x)+iπx1˙ϕ(x0,˜x1)d˜x1)
つまり、アーベル型の場合はフェルミオン場とボソン場を一対一対応させることができる。しかし、このような関数の存在は非アーベル型の場合には知られていない。

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