7.1 アーベル型ボソン化
空間1次元、時間1次元の(1+1)次元においてフェルミ粒子の物理系はボース粒子の物理系と等価である。つまり、ボソンとフェルミオンは(1+1)次元では区別できない。この章の主な目的はこの等価性を代数的に理解することである。
(d+1)次元における粒子のスピンの概念はd次元の空間回転に起因し、これらは角運動量代数 [Ji,Jj]=iϵijkJk (i,j,k=1,2,⋯,d) で記述される。よく知られているように、d=3 の角運動量代数Jの表現はスピンの値 s=0,12,1,32,⋯ で特徴づけられる。この場合、スピン統計定理より「整数スピンをもつ粒子はボソンであり、半奇数のスピンをもつ粒子はフェルミオンでなければならない」ことが分かる。しかし、d=2 の場合はスピンの値にこのような制限はない。すなわち、(2+1)次元ではsは分数の値をとることができる。このとき、スピン統計定理は「分数スピンsをもつ粒子は分数統計に従う」と言い換えられる。このような粒子はしばしばエニオンと呼ばれる。(分数統計やエニオンについては分数量子ホール効果の正孔の動力学について解説した4.3節も参照のこと。)この章で議論する d=1 の場合、スピンの概念は存在しない。つまり、(1+1)次元では粒子の統計に制約はかからない。以下では、(1+1)次元においてボソンとフェルミオンが等価であることがどのように実現されるのかを見ていく。
クライン変換
一般に、ボソンは代数
[ak,al]=0, [ak,a†l]=δkl, [a†k,a†l]=0
で記述される。ただし、ここではボソンを1次元の長さLの線分上で考えているので、ラベルkは k=2πnL で与えられる。nは自然数 n∈Z であり、モード数(あるいは自由度の数)を表す。
このとき、数演算子は
Nk=a†kak
で定義され、交換関係
[Nk,ak]=−ak, [Nk,a†k]=a†k
を満たす。ベイカー-キャンベル-ハウスドルフの公式
eABe−A=B+[A,B]+12[A,[A,B]]+⋯
eABe−A=B+[A,B]+12[A,[A,B]]+⋯
を用いると、関係式
eiαNae−iαN=a+iα[N,a]+(iα)22![N,[N,a]]+(iα)33![N,[N,[N,a]]]+⋯=a−iαa+(iα)22!a+(iα)33!(−a)+⋯=e−iαa
が得られる。ただし、簡単のためラベルkを省略した。αは定数である。ラベルを追加すると上の結果は
akeiαNk=eiαeiαNkak
と表せる。同様に関係式
a†keiαNk=e−iαeiαNka†k
が得られる。
つぎに演算子
Ci=exp(iπ∑k<iNk)aiCj=exp(iπ∑k<jNk)aj (i<j)
を導入する。ただし、1≤i<j≤nとしても一般性は失われない。(7.6)を用いるとCiCj, CjCiは次のように計算できる。
CiCj=exp(iπ∑k<iNk)aiexp(iπ∑k<jNk)aj=exp(iπ∑k<iNk)exp(iπ∑k<jNk)eiπaiajCjCi=exp(iπ∑k<jNk)ajexp(iπ∑k<iNk)ai=exp(iπ∑k<jNk)exp(iπ∑k<iNk)ajai
aiとexp(iπ∑k<jNk)を入れ替えると(7.6)から因子eiπが現れることに注意しよう。一方、ajとexp(iπ∑k<iNk)の入れ替えからは新たな因子は生じない。これより、演算子Cについての反交換関係
CiCj+CjCi=exp(iπ∑k<iNk)exp(iπ∑k<jNk)(−aiaj+ajai)=0
が得られる。これは、(7.8)と(7.9)で与えられる演算子の変換を実行すると、ボソン代数からフェルミオン代数が得られることを示している。このような変換はクライン変換と呼ばれる。
ボソン化:代数的アプローチ
つぎに上の議論の逆を考える。つまり、(1+1)次元のフェルミオンから始めてそれがボソン表現と等しいことを示す。この過程は一般にボソン化と呼ばれる。ボソン化には基本的に2つの手法がある。これは物理系の量子論が2つの方法で定義されることに基づく。1つ目の方法は観測量代数のユニタリー既約表現によるものであり、もう一方は対象となる粒子の相関関数によるものである。言い換えると、ボソン化の実行は (a) フェルミオンの観測量代数にボソン表示が存在することを示すこと、あるいは (b) フェルミオンの相関関数とボソンの相関関数が等価であることを示すこと、のどちらかによって成される。ここでは (a) の方法を採用する。
{γi,γj}=2ηij1
と定義される。ただし、i,j=0,1 であり、ηはミンコフスキー計量 η=(+,−) を表す。また、1 は(2×2)恒等行列である。ガンマ行列γ0, γ1は(2×2)パウリ行列を用いて
γ0=σ1=(0110), γ2=iσ2=(01−10)
と定義できる。よって、ディラック方程式は
iσ1∂ψ∂x0+i(iσ2)∂ψ∂x1=0
で与えられる。ただし、ψ=(ψ1ψ2) は2成分のディラック・スピノールである。ここで、(−iσ1)×(7.15)から
1∂ψ∂x0−σ3∂ψ∂x1=0
が分かる。これは
∂ψ1∂x0−∂ψ1∂x1=0, ∂ψ2∂x0+∂ψ2∂x1=0
と書き下せる。この解が ψ1=ψ1(x0+x1), ψ2=ψ2(x0−x1) となるのは明らかである。運動量空間で表示するとψ1, ψ2はそれぞれ右方向、左方向に動く波動関数に対応する。あるいは、これらはそれぞれ右・左のカイラリティを持つスピノールと見做すこともできる。
フェルミ粒子のディラック理論では観測量は単一の場ψではなくψ†ψやˉψψのような双積 (biproduct) の形で与えられる。(1+1)次元の場合、ˉψは
ˉψ=ψ†σ1
と定義される。よって、フェルミ粒子のカレントは
ˉψγψ=ψ†σ1(σ1ψiσ2ψ)=(ψ†ψ−ψ†σ3ψ)=(ψ†1ψ1+ψ†2ψ2−ψ†1ψ1+ψ†2ψ2)≡(J0J1)
と定義できる。ここで、J±を
ψ†1ψ1=J0−J12 ≡ J−ψ†2ψ2=J0+J12 ≡ J+
と定義し、これらの観測量の代数を考える。前述の通り、このようなフェルミオン観測量代数のボソン表示を求めることがここでの議論の方針である。
ディラック・スピノールはフェルミオンなのでこれらは同時刻反交換関係
ψ(x0,x1)ψ(x0,y1)+ψ(x0,y1)ψ(x0,x1)=0ψ†(x0,x1)ψ†(x0,y1)+ψ†(x0,y1)ψ†(x0,x1)=0ψ(x0,x1)ψ†(x0,y1)+ψ†(x0,y1)ψ(x0,x1)=δ(x1−y1)1
に従う。ここで、スピノールのラベルは明示していない。恒等行列1の要素はこれらのラベルに対応している。反交換関係(7.22)を用いると、観測量の同時刻交換関係を素朴に計算することができる。例えば、J−の交換関係は
[J−(x0,x1),J−(x0,y1)]=[ψ†1(x0,x1)ψ1(x0,x1),ψ†1(x0,y1)ψ1(x0,y1)]=ψ†1(x0,x1){ψ1(x0,x1),ψ†1(x0,y1)}ψ1(x0,y1) −ψ†1(x0,y1){ψ1(x0,y1),ψ†1(x0,x1)}ψ1(x0,x1)=ψ†1(x0,x1)δ(x1−y1)ψ1(x0,y1)−ψ†1(x0,y1)δ(x1−y1)ψ1(x0,x1)
となる。一見、この量はx1, y1の全範囲でゼロとなりそうだが、実際にはx1とy1が同じになる x1=y1 で特異点をもつ。よって、この点の周りでは注意深く扱う必要がある。そこで、J−を
J−(x)=ψ†1(x+ϵ)ψ1(x−ϵ)
と書き換える。ただし、複合記号 x=(x0,x1) と x±ϵ=(x0,x1±ϵ) を用いた。最終的には、計算の最後に ϵ→0 の極限をとる。このとき、交換関係(7.23)は
[J−(x),J−(x)]=[ψ†1(x+ϵ)ψ1(x−ϵ),ψ†1(y+ϵ)ψ1(y−ϵ)]=ψ†1(x+ϵ)ψ1(y−ϵ)δ(x−y−2ϵ) −ψ†1(y+ϵ)ψ1(x−ϵ)δ(x−y+2ϵ)
と表せる。ここで、δ(x−y±2ϵ)は次のように展開できる。
δ(x−y±2ϵ)=δ(x−y)±2ϵ∂∂xδ(x−y)+O(ϵ2)
よって、(7.25)がゼロとならないためには x→y の極限で関係式
ψ†1(x+ϵ)ψ1(y−ϵ)∼1ϵ (x→y)
を要請する必要がある。上式は場の理論で典型的に見られる振る舞いを表す。次のエントリーでは、まずこの関係式を示してから交換関係(7.25)の計算を進めていく。
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