2019年7月23日

最近読んだ本:日本国紀、夏の騎士、サマータイム、青年時代、少年時代

春の関西日帰り旅行の際に長女が『フォルトゥナの瞳』という本を読んでいたので気になって覗いてみると作者は百田尚樹さんでした。『フォルトゥナの瞳』以外にも『永遠の0』という小説が映画化され、『カエルの楽園』が話題となったベストセラー作家ですが、映画化されるような人気作家の作品にはあまり興味がなく敬遠していました。ところが、最近ネットメディア(ツイッターや虎ノ門ニュース)での積極的な発信に接し、気さくな関西弁で言いにくいことをズバズバと発言する人柄に触れることができ、今は亡き勝谷誠彦さんを彷彿とさせるようで、毀誉褒貶はあるでしょうが、個人的には好感を持ちました。そこで、最近話題になっている近刊2冊を読んでみました。


以前のエントリー

https://yasuabe.blogspot.com/2018/08/blog-post_9.html
https://yasuabe.blogspot.com/2018/08/blog-post_10.html
https://yasuabe.blogspot.com/2019/01/blog-post_17.html

でも紹介したとおり最近は日本の古代史に興味を持っていたので、日本の歴史を古代から現代まで通史としてまとめられているこの本は個人的にはタイムリーなものでした。文系の方で大学受験で日本史を学んだ(暗記した)人には知っていることばかりだったかもしれませんが、これまでこのような本が無かったこと自体が不思議です。確かに、近現代史のなかには事実確認が取れないものも多分にあるでしょうが、状況証拠などから専門家や職業作家が著作として自分の意見を問うのは全く問題ないはずです。むしろ、一般人には渉猟する時間も手段もない文献を読み込んだ筆者によるこのような通史が(その筆者の思想に関わらず)これからも活発に出版されれば、国内で歴史観についての議論も活発になり、海外に行っても信頼される日本人が育つと思います。本書では、戦後のメディア特に朝日新聞について痛烈に批判していますが、朝日新聞側からハッキリした反論がなされないのは不思議です。黙殺するつもりなのでしょうか?ただ、一般読者としては、本書だけでは判断しきれない部分もあるので一つの歴史認識(百田史観)として本書をとらえるのが妥当だと思います。今後は例えば磯田道史さんや呉座勇一さんといった歴史の専門家による日本通史が著されることを期待します。

日本の近現代史はやはりアメリカの占領政策の分析を抜きには語れないと思います。私がニューヨークに住んでいたころ同居していた中国人の留学生とその友達がアメリカ陸軍士官学校があるWest Pointに行きたいというので、レンタカーでWest Pointまで紅葉を見に行ったことがあります。West Pointの紅葉は有名で私は以前にも行ったことがあったので運転手役として頑張りました。というのも、私以外は皆中国人(男2人女2人)でどうしても中国語で盛り上がってしまうので道中私は蚊帳の外気味だったからです。そんな中、私に気遣ってくれたルームメイトによると中国の学生の間ではWest Pointは人気の観光スポットなので来れて良かったとのことでした。中国の若者にはWest Pointがアメリカの豊かさの象徴として映ったのかもしれません。広大な敷地に風光明媚な環境、充実した施設。こんな所で学ぶことができれば立派な軍人になるだろうと容易に想像がつきました。マッカーサーもここ出身なんだなと思いながら資料館を見学していると第二次世界大戦で日本が調印した降伏文書が展示してあり当時全権大使の重光葵外相の署名が目に飛び込んできました。英文の中にドーンと毛筆の漢字で書かれていて、あぁ負けたんだなというのが教科書の歴史としてではなく実感として受け止めることができました。マンハッタンでミュージカルを楽しむのももちろんいいですが、日本人なら一度ぜひWest Pointを訪れてみてください。アメリカの強さ、豊かさが感じられると思います。

その数年前、確か2001年頃に親しくしていた別の中国人のルームメイトがメリーランド大学に移動するというので観光がてら付いて行ったことがあります。そのときメリーランド大学に居た知り合いに図書館に入れてもらったのですが資料の圧倒的な多さに驚愕しました。文書だけでなく古い日本の映画を含めた映像資料も大量に保管・公開されていました。また、当時ちょうど閲覧可能となった戦後の対日政策などを含めた外交資料も公開されていました。日本の学者・ジャーナリストにとってはとても貴重な資料であるはずです。これらの資料から戦後アメリカの対日政策を分析することは、今後の自立的かつ互恵的な日米関係を構築する上でもとても重要だと思います。それにしても、これらの機密資料を保管して、一定期間後に一般公開するというアメリカの度量の広さには感服します。日本では戦後、占領前に官僚たちは内部資料を一斉に焼却処分したそうですが折角作成した資料を燃やす官僚たちは無念ではなかったのでしょうか?それとも、保身から処分せざるを得なかったのでしょうか?公文書に対する彼我の意識の違いからも国力・文化力の差を感じざるを得ません。

百田さんの最新刊は打って変わって小学6年生の一夏を描いた自伝的なライトノベルです。


小学校のころに流行った『ズッコケ三人組』シリーズを想起させるテンポの良さで、主人公と同時代に同じ阪神間で小6だった私にとってはとても懐かしい読み物でした。以前のエントリー

https://yasuabe.blogspot.com/2018/08/blog-post_8.html

でも一部紹介したとおり、私の育った神戸が舞台の子供たちの物語には『火垂るの墓 』『兎の眼』『星の降る町』などがありますが、私にはどれも言葉がすうっと入ってきて忘れられない小説です。『夏の騎士』の舞台は神戸よりも大阪よりなので少し言葉がキツイ印象はありましたが、町田康さん以来久しぶりに関西弁の小説を楽しみました。ただ、物語的には軽い感じで、途中、試験勉強のくだりは少し冗長な気がしました。また、悪態をついていた女の子が急に天才少女になる所は非現実的でそれこそ「ありえへんやろ~」と突っ込みました。小説好きの読者には軽すぎて物足りなかったかもしれません。ちなみに、私の小学校の時のエピソードは

https://yasuabe.blogspot.com/2018/09/blog-post.html
https://yasuabe.blogspot.com/2018/12/blog-post_10.html

に記録しています。また、小学校6年生の時の受験勉強に関するエピソードは

https://yasuabe.blogspot.com/2018/12/blog-post_18.html

で簡単に触れています。

自伝的な少年時代の小説は色々あるでしょうが、私がこれまで読んだ中で最も良かったのは J・M・クッツェーの『サマータイム、青年時代、少年時代──辺境からの三つの〈自伝〉』


です。アメリカに居る時に『少年時代』(Boyhood)の原書を手に取って読み進めていたのですが、何しろ行ったことのない国(南アフリカ)の話であるし、アフリカーンスを耳にしたこともないので何となく理解不能になって途中で止めてしまっていました。ところが、なんとクッツェーの自伝的小説三部作が日本語に翻訳されているというので数年前に購入し、一気に読みました。おそらく英語では読めなかったし、文化的背景にも不案内であったので翻訳者のくぼたのぞみさん(ブログはこちら)には感謝しかありません。内容はだいぶ忘れてしまいましたが、ラテンアメリカ文学よりは西洋寄り――理知的で精神的――な内容で南アフリカという日本の反対側から世界がどう見えているかを初めて知ることのできた本でした。おそらくこの本を読まなければ知らなかったことばかりでしたが、クッツェーのストイックで理系的というか男性的・反抗的な記述には共感することが多かったです。その後は不勉強でノーベル賞級の世界的な作家の作品を読まずにいますがまた機会を見つけて挑戦したいと思います。

ちなみに、クッツェー(Coetzee)といえば往年の女子テニスプレイヤーで南ア出身のアマンダ・クッツァー (Amanda Coetzer)を思い出すのは私だけではないでしょう。(クッツァー/クッツェーという苗字は私の知る限りみんな南ア出身です。)小柄ながらに強気でガッツ溢れるテニスは観ていて爽快でした。最後、なぜか全く関係ない話になりました。今回のエントリーはこの辺にしておきます。

0 件のコメント: