2024-04-03

7. ボソン化とカッツ-ムーディ代数 vol.5

7.3 ヴェス-ズミノ-ウィッテン作用


この節では非アーベル型ボソン化を議論した前節の最後に触れたヴェス-ズミノ-ウィッテン(WZW)作用について紹介し、その運動方程式を導く。WZW作用は
\[\begin{eqnarray} S &=& \frac{k}{8 \pi} \int d^2 x \, \Tr \left( \d_\mu g \, \d_\mu g^{-1}  \right)   + \Ga_{WZ} \tag{7.97} \\ \Ga_{WZ} &=&  \frac{k}{4\pi} \int_{0}^{1} d \la \int d^2 x \, \Tr \left( g^{-1} \d_\la  g \, g^{-1} \d_\mu g \, g^{-1} \d_\nu  g \right) \ep^{\mu \nu} \tag{7.98} \end{eqnarray}\]
で定義される。ただし、ここではミンコフスキー計量を用いる ($\mu, \nu = 0, 1$)。前節と同様に、$g = g(x)$は$SU(N)$群の要素を表し、$k \in \mathbb{N}$はレベル数である。第2項$\Ga_{WZ}$はヴェス-ズミノ(WZ)項と呼ばれる。WZ項において $g = g(x)$ は別の変数 $\la \in [0 ,1]$ にも依存する。つまり、$g= g(x, \la)$ であり、$g (x, \la )$は境界条件
\[ g( x , 0 ) = 1 \, , ~~ g ( x , 1 ) = g (x) = e^{i T^\al \phi^\al (x) } \tag{7.99} \]
を満たす。変数$\la$はコンパクトな(2+1)次元時空間の3つ目の座標と解釈することもできる。つまり、$\la = x^2$とおき、$( x , \la ) \rightarrow (x^0 , x^1 , x^2)$ と変換する。ただし、$0 \le x^2 \le 1$ を課す。本来の(1+1)次元時空間はステレオ射影の手法を用いると3次元球面に対応させることができる。条件(7.99)より、無限遠$| \vec{x} | \rightarrow \infty$ で $g = 1$ となることが保証される。$g ( x, \la )$は $S^3$ から $G= SU(N)$ への写像を与える。つまり、$g ( x, \la ): S^3 \rightarrow G$ となる。このとき、$\Ga_{WZ}$は
\[\begin{eqnarray} \Ga_{WZ} &=& \frac{k}{12 \pi} \int_{S^3}  d^3 x \, \Tr \left( g^{-1} \d_\la  g \, g^{-1} \d_\mu  g \, g^{-1} \d_\nu  g \right) \ep^{\mu \nu \la}   \nonumber \\   &=& - 2 \pi k Q [g]    \tag{7.100} \\    Q [g]  &=& - \frac{1}{24 \pi^2 } \int_{S^3}  d^3 x \,    \Tr \left( g^{-1} \d_\la g \, g^{-1} \d_\mu  g \, g^{-1} \d_\nu  g \right) \ep^{\mu \nu \la} \tag{7.101} \end{eqnarray}\]
と表せる。ただし、添え字は(2+1)次元座標を表す ($ \mu , \nu , \la  = 0,1,2$)。$Q [g]$の積分値は整数をとる。この値は写像 $g: S^3 \rightarrow G$ の巻き数 (winding number) として知られている。(この巻き数については第15章で詳しく解説する。)よって、$k \in \mathbb{N}$を考慮すると$\Ga_{WZ}$は$2 \pi$の整数倍で与えられることが分かる。理論は重み$\exp ( - i S )$を用いて汎関数積分を構成することで定義できるので、WZW模型は本来の(1+1)次元空間上で問題なく定義される。つまり、境界条件(7.97)が満たされている限り、WZW作用$S$は$g(x, \la)$における$\la$の内挿の仕方に依存しない。

 運動方程式を求めるためにまず$g (x)$の変分を考えよう。関係式 $g + \del g = e^{i T^\al ( \phi^\al + \del \phi^\al )}$ から
\[ \del g = g \xi \, , ~~~~ \del g^{-1} = - \xi g^{-1} \tag{7.102} \]
を得る。ただし、$\xi $ は 
\[   \xi = i T^\al \del \phi^\al = g^{-1} \del g \tag{7.103} \]
で定義される。作用(7.97)第1項の変分は
\[\begin{eqnarray} \del S^{(1)} &=& \frac{k}{8\pi} \int d^2 x \, \Tr \, \left[ \d_\mu ( g \xi  ) \d_\mu  g^{-1} - \d_\mu g \d_\mu (\xi g^{-1} ) \right] \nonumber \\ &=& \frac{k}{8\pi} \int d^2 x \, \Tr \, (\d_\mu \xi) \left[ g \d_\mu  g^{-1} - \d_\mu g \,  g^{-1} \right] \nonumber \\ &=& \frac{k}{4 \pi} \int d^2 x \, \Tr \,  \xi \d_\mu (\d_\mu g \, g^{-1} ) \nonumber \\ &=& \frac{k}{4 \pi} \int d^2 x \, \Tr \,  \xi \left[ \d_0 ( \d_0 g \, g^{-1} ) - \d_1 ( \d_1 g \, g^{-1} )\right] \tag{7.104} \end{eqnarray}\]
と表せる。また、WZ項の変分は
\[\begin{eqnarray} \del \Ga_{WZ} & = &   \frac{k}{4\pi} \int_{0}^{1} d \la \int d^2 x \,    \Tr \, \d_\la \left( \xi   \, g^{-1} \d_\mu g \, g^{-1} \d_\nu  g    \right) \ep^{\mu \nu}    \nonumber \\    &=& \frac{k}{4 \pi} \int d^2 x \, \Tr \, \xi \left( g^{-1} \d_0  g  \, g^{-1}\d_1 g -  g^{-1}  \d_1 g \, g^{-1}  \d_0 g \right)    \nonumber \\   &=& \frac{k}{4 \pi} \int d^2 x \, \Tr \,  \xi \left[ \d_0 ( \d_1 g \, g^{-1} ) - \d_1 ( \d_0 g \, g^{-1} )\right] \tag{7.105} \end{eqnarray}\]
と計算できる。これらより、運動方程式 $\del S = \del S^{(1)} + \del \Ga_{WZ} = 0 $ は
\[ \d_0 ( \d_0 g g^{-1} + \d_1 g g^{-1} ) - \d_1 ( \d_0 g g^{-1} + \d_1 g g^{-1} ) = 0    \tag{7.106} \]
となる。これは
\[   \d_{-} ( \d_{+} g \, g^{-1} ) = 0    \tag{7.107} \]
とも書ける。ただし、$\d_{\pm} = \d_0 \pm \d_1$ である。$\phi^\al$で表すとこれは $\d_{-} \d_{+} \phi^\al = 0$ と書ける。よって、(7.107)は自由場の運動方程式を行列表現へ一般化したものと見做せる。(7.107)の一般解は
\[ g (x) \, = \,  V (x_+ ) U (x_- ) \tag{7.108} \]
で与えられる。ただし、$V (x_+ )$ と $U ( x_- )$ はそれぞれ $x_+ = x^0 + x^1$ と $x_- = x^0 - x^1$ の任意関数である。アーベル型の場合、$g = e^{i \phi}$ であり、運動方程式(7.107)は $\d_{-} \d_{+} \phi= 0$ となる。この一般解は $\phi (x) = \phi_1 ( x_+ ) + \phi_2 ( x_- )$ で与えられる。解(7.108)はこの解の非アーベル型の場合に対応している。前節の最後で見たようにフェルミオン・カレント$J_{-}^{\al}$は $J_{-}^{\al} (x) = \frac{-i}{\sqrt{2 \pi}}  \d_{-} g  \, g^{-1}$ と定義できる。前節までの構成から、$J_{-}^{\al}$が非アーベル型カッツ-ムーディ代数
\[ [ J_{-}^{\al} (x^0 , x^1 ) , \, J_{-}^{\bt} (x^0 , y^1 ) ] = if^{\al \bt \ga} J_{-}^{\ga} (x^0 , x^1 ) \del ( x^1 - y^1 ) - \frac{i}{2 \pi} \del^{\al \bt} \frac{\d}{\d x^1} \del ( x^1 - y^1 ) \tag{7.87} \]
に従うのは明らかであろう。

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