3.2 整数量子ホール効果
この節ではすべての状態が電子で充填されているランダウ準位を考える。ゼーマン分裂など、電子のスピンの効果は無視する。(強磁場のもとではすべての電子はスピン偏極状態にあるのでスピン自由度の動力学は「凍結」する。よって、ここでの議論ではスピン自由度による効果は無視できる。)前節で述べたように量子ホール効果はホール伝導率\si_{ij} (i, j = 1,2) の量子化によって実現される。ここで、ホール伝導率は
\bra J_i \ket = \si_{ij} E_j \tag{3.25}
で定義される。ただし、\bra J_i \ketは電流J_iの期待値であり、その値は多数の電子で充填されているランダウ準位を用いて計算される。この節の主な目的は前節最後に紹介したランダウ準位の準古典的な分析を用いて期待値\bra J_i \ketを計算し、ホール伝導率\si_{ij}が量子化されているか調べることである。
前節の式(3.24)より、単位面積当たりの縮退状態の全電荷量、すなわち電荷密度は\frac{e^2 B}{2 \pi}で与えれられることが分かる。いま\nu個のランダウ準位 (\nuは自然数) が電子で充填されているとすると、状態の総電荷密度は
\bra J_0 \ket = \bra \psi^{(0)} | J_0 | \psi^{(0)} \ket = \nu \frac{e^2 B}{2 \pi} \tag{3.26}
となる。ただし、\psi^{(0)}は充填されたランダウ準位の波動関数である。ここでは\nuを自然数としているが、一般に\nuは充填率 (filling fraction) と呼ばれる。(より一般に、\nuが必ずしも整数でない場合にも式(3.26)に類似した公式が成り立つことが知られている。次章で扱う分数量子ホール効果はその一例である。)
ここで磁場の微小変化A_i \rightarrow A_i + \del A_iによる摂動を考えよう。電磁相互作用項はA_i J_i \rightarrow A_i J_i + \del A_i J_iとなるので電子のハミルトニアンの摂動H \rightarrow H+ H_{int}は
H_{int} = \int d^2 y \del A_i (y) J_i (y) \tag{3.27}
で与えられる。標準的なレイリー-シュレーディンガー (Rayleigh-Schrödinger) 摂動論に従うと、波動関数の摂動は\del A_i について1次の近似で
| \psi^{(0)} \ket \longrightarrow | \psi^{(0)} \ket + \frac{1}{E^{(0)} -H} H_{int} | \psi^{(0)} \ket + \cdots \tag{3.28}
と表せる。ただし、E^{(0)}は| \psi^{(0)} \ketのエネルギー固有値であり、 H | \psi^{(0)} \ket = E^{(0)} | \psi^{(0)} \ket を満たす。この摂動状態で電荷密度(3.26)を評価すると
\begin{eqnarray} && \!\!\!\!\! \left( \bra \psi^{(0)} | + \int \bra \psi^{(0)} | \del A_i J_i \frac{1}{E^{(0)} -H} + \cdots \right) J_0 \left( | \psi^{(0)} \ket + \frac{1}{E^{(0)} -H} \int \del A_i J_i | \psi^{(0)} \ket + \cdots \right) \nonumber \\ &=& \bra J_0 \ket + \int d^2 y \del A_i (y) \bra \psi^{(0)} | \left( J_i (y) \frac{1}{E^{(0)} -H} J_0 (x) + J_0 (x) \frac{1}{E^{(0)} -H} J_i (y) \right) | \psi^{(0)} \ket + \cdots \nonumber \\ \tag{3.29} \end{eqnarray}
となる。ただし、1行目では積分変数d^2 yを省略した。よって、\del \bra J_0 (x) \ket は\del A_i について1次の摂動で
\begin{eqnarray} \del \bra J_0 (x) \ket &=& \int d^2 y ~\del A_i (y) F_{i} (x, y) \tag{3.30}\\ F_{i} (x, y) &=& \bra \psi^{(0)} | \left( J_i (y) \frac{1}{E^{(0)} -H} J_0 (x) + J_0 (x) \frac{1}{E^{(0)} -H} J_i (y) \right) | \psi^{(0)} \ket \tag{3.31} \end{eqnarray}
と表せる。同様に、A_0 \rightarrow A_0 + \del A_0の摂動を考えると
\begin{eqnarray} H_{int} &=& \int d^2 y J_0 (y) \del A_0 (y) \tag{3.32} \\ \del \bra J_i (x) \ket &=& \int d^2 y \del A_0 (y) \bra \psi^{(0)} | \left( J_0 (y) \frac{1}{E^{(0)} -H} J_i (x) + J_i (x) \frac{1}{E^{(0)} -H} J_0 (y) \right) | \psi^{(0)} \ket \nonumber \\ &=& \int d^2 y \del A_0 (y) F_{i} (y, x) \tag{3.33} \end{eqnarray}
を得る。ただし、\del \bra J_i (x) \ket は\del A_0 について1次の摂動で近似した。ここで、式(3.26)を書き換えると
\bra J_0 (x) \ket = \nu \frac{e^2}{2 \pi} ( \d_1 A_2 - \d_2 A_1 ) \tag{3.34}
となる。これより
\begin{eqnarray} \del \bra J_0 (x) \ket &=& \nu \frac{e^2}{2 \pi} ( \d_1 \del A_2 - \d_2 \del A_1 ) \nonumber \\ &=& \nu \frac{e^2}{2 \pi} \int d^2 y \left[ \frac{\d}{\d x_1} \del^{(2)} (x-y) \del A_2 (y) - \frac{\d}{\d x_2} \del^{(2)} (x-y) \del A_1 (y) \right] \nonumber \\ \tag{3.35} \end{eqnarray}
と表せる。よって、式(3.30)と式(3.35)を比較するとF_i (x,y)は
F_i (x, y) = - \frac{\nu e^2}{2 \pi} \ep_{ij} \frac{\d}{\d x_j} \del^{(2)} (x- y) \tag{3.36}
と同定できる。これを式(3.33)に代入すると\del \bra J_i (x) \ketは
\begin{eqnarray} \del \bra J_i (x) \ket &=& \int d^2 y \del A_0 (y) \left( - \frac{\nu e^2}{2 \pi} \right) \ep_{ij} \frac{\d}{\d y_j} \del^{(2)} (y - x) \nonumber \\ &=& \frac{\nu e^2}{ 2 \pi} \ep_{ij} \frac{\d}{\d x_j} \del A_0 (x) \tag{3.37} \end{eqnarray}
と表せる。ただし、最後の等式で部分積分を用いた。したがって、\bra J_i (x) \ketは
\bra J_i (x) \ket = \frac{\nu e^2}{2 \pi} \ep_{ij} \frac{\d A_0}{\d x_j} = - \frac{\nu e^2}{2 \pi} \ep_{ij} E_j \tag{3.38}
と書ける。ただし、\frac{\d A_0}{\d x_j} = - E_jを用いた。これは静電ポテンシャル\phi = A_0の関係式\vec{E} = - \nabla \phiに他ならない。式(3.38)はホール伝導率\si_{ij}の定義式\bra J_i \ket = \si_{ij} E_jと同じ形をしている。よって、以上よりホール伝導率が量子化されていることが導かれた。
\si_{ij} = \nu\, \frac{ e^2}{2 \pi} \ep_{ij} \tag{3.39}
伝導率は{e^2}/{2 \pi}の単位で離散的な値をとり、量子化は充填率\nuで与えられる。