2024-01-31

3. ランダウ問題と量子ホール効果 vol.2

3.2 整数量子ホール効果


この節ではすべての状態が電子で充填されているランダウ準位を考える。ゼーマン分裂など、電子のスピンの効果は無視する。(強磁場のもとではすべての電子はスピン偏極状態にあるのでスピン自由度の動力学は「凍結」する。よって、ここでの議論ではスピン自由度による効果は無視できる。)前節で述べたように量子ホール効果はホール伝導率$\si_{ij}$ ($i, j = 1,2$) の量子化によって実現される。ここで、ホール伝導率は
\[ \bra J_i \ket = \si_{ij} E_j \tag{3.25} \]
で定義される。ただし、$\bra J_i \ket$は電流$J_i$の期待値であり、その値は多数の電子で充填されているランダウ準位を用いて計算される。この節の主な目的は前節最後に紹介したランダウ準位の準古典的な分析を用いて期待値$\bra J_i \ket$を計算し、ホール伝導率$\si_{ij}$が量子化されているか調べることである。

 前節の式(3.24)より、単位面積当たりの縮退状態の全電荷量、すなわち電荷密度は$\frac{e^2 B}{2 \pi}$で与えれられることが分かる。いま$\nu$個のランダウ準位 ($\nu$は自然数) が電子で充填されているとすると、状態の総電荷密度は
\[\bra J_0 \ket = \bra \psi^{(0)} | J_0 | \psi^{(0)} \ket = \nu \frac{e^2 B}{2 \pi} \tag{3.26} \]
となる。ただし、$\psi^{(0)}$は充填されたランダウ準位の波動関数である。ここでは$\nu$を自然数としているが、一般に$\nu$は充填率 (filling fraction) と呼ばれる。(より一般に、$\nu$が必ずしも整数でない場合にも式(3.26)に類似した公式が成り立つことが知られている。次章で扱う分数量子ホール効果はその一例である。)

 ここで磁場の微小変化$A_i \rightarrow A_i + \del A_i$による摂動を考えよう。電磁相互作用項は$A_i J_i \rightarrow A_i J_i + \del A_i J_i$となるので電子のハミルトニアンの摂動$H \rightarrow H+ H_{int}$は
\[ H_{int} = \int d^2 y \del A_i (y) J_i (y) \tag{3.27} \]
で与えられる。標準的なレイリー-シュレーディンガー (Rayleigh-Schrödinger) 摂動論に従うと、波動関数の摂動は$\del A_i $について1次の近似で
\[ | \psi^{(0)} \ket \longrightarrow | \psi^{(0)} \ket + \frac{1}{E^{(0)} -H} H_{int} | \psi^{(0)} \ket + \cdots \tag{3.28} \]
と表せる。ただし、$E^{(0)}$は$| \psi^{(0)} \ket$のエネルギー固有値であり、$ H | \psi^{(0)} \ket = E^{(0)} | \psi^{(0)} \ket $を満たす。この摂動状態で電荷密度(3.26)を評価すると
\[\begin{eqnarray} && \!\!\!\!\! \left( \bra \psi^{(0)} | + \int  \bra \psi^{(0)} | \del A_i J_i \frac{1}{E^{(0)} -H} + \cdots \right) J_0 \left( | \psi^{(0)} \ket + \frac{1}{E^{(0)} -H} \int \del A_i J_i | \psi^{(0)} \ket + \cdots \right) \nonumber \\ &=& \bra J_0 \ket + \int d^2 y \del A_i (y) \bra \psi^{(0)} | \left( J_i (y) \frac{1}{E^{(0)} -H} J_0 (x) + J_0 (x)  \frac{1}{E^{(0)} -H} J_i (y) \right) | \psi^{(0)} \ket + \cdots  \nonumber \\ \tag{3.29} \end{eqnarray}\]
となる。ただし、1行目では積分変数$d^2 y$を省略した。よって、$\del \bra J_0 (x) \ket $は$\del A_i $について1次の摂動で
\[\begin{eqnarray} \del \bra J_0 (x) \ket  &=&  \int d^2 y ~\del A_i (y) F_{i} (x, y) \tag{3.30}\\ F_{i} (x, y)  &=&  \bra \psi^{(0)} | \left( J_i (y) \frac{1}{E^{(0)} -H} J_0 (x) + J_0 (x)  \frac{1}{E^{(0)} -H} J_i (y) \right) |  \psi^{(0)} \ket \tag{3.31} \end{eqnarray}\]
と表せる。同様に、$A_0 \rightarrow A_0 + \del A_0$の摂動を考えると
\[\begin{eqnarray} H_{int}   &=&  \int d^2 y J_0 (y) \del A_0 (y) \tag{3.32} \\ \del \bra J_i (x) \ket  &=&  \int d^2 y \del A_0 (y) \bra \psi^{(0)} | \left( J_0 (y) \frac{1}{E^{(0)} -H} J_i (x) + J_i (x)  \frac{1}{E^{(0)} -H} J_0 (y) \right) | \psi^{(0)} \ket \nonumber \\  &=&  \int d^2 y \del A_0 (y) F_{i} (y, x) \tag{3.33} \end{eqnarray}\]
を得る。ただし、$\del \bra J_i (x) \ket $は$\del A_0 $について1次の摂動で近似した。ここで、式(3.26)を書き換えると
\[ \bra J_0 (x) \ket  =   \nu \frac{e^2}{2 \pi} ( \d_1 A_2 - \d_2 A_1 ) \tag{3.34} \]
となる。これより
\[\begin{eqnarray} \del \bra J_0 (x) \ket  &=&  \nu \frac{e^2}{2 \pi} ( \d_1 \del A_2 - \d_2 \del A_1 ) \nonumber \\  &=&  \nu \frac{e^2}{2 \pi} \int d^2 y \left[ \frac{\d}{\d x_1} \del^{(2)} (x-y) \del A_2 (y) - \frac{\d}{\d x_2} \del^{(2)} (x-y) \del A_1 (y) \right] \nonumber \\ \tag{3.35} \end{eqnarray}\]
と表せる。よって、式(3.30)と式(3.35)を比較すると$F_i (x,y)$は
\[ F_i (x, y) = - \frac{\nu e^2}{2 \pi} \ep_{ij} \frac{\d}{\d x_j} \del^{(2)} (x- y) \tag{3.36} \]
と同定できる。これを式(3.33)に代入すると$\del \bra J_i (x) \ket$は
\[\begin{eqnarray} \del \bra J_i (x) \ket &=& \int d^2 y \del A_0 (y)  \left( - \frac{\nu e^2}{2 \pi} \right) \ep_{ij} \frac{\d}{\d y_j} \del^{(2)} (y - x) \nonumber \\ &=& \frac{\nu e^2}{ 2 \pi} \ep_{ij} \frac{\d}{\d x_j}  \del A_0 (x) \tag{3.37} \end{eqnarray}\]
と表せる。ただし、最後の等式で部分積分を用いた。したがって、$\bra J_i (x) \ket$は
\[ \bra J_i (x) \ket = \frac{\nu e^2}{2 \pi} \ep_{ij} \frac{\d A_0}{\d x_j} = - \frac{\nu e^2}{2 \pi} \ep_{ij} E_j \tag{3.38} \]
と書ける。ただし、$\frac{\d A_0}{\d x_j} = - E_j$を用いた。これは静電ポテンシャル$\phi = A_0$の関係式$\vec{E} = - \nabla \phi$に他ならない。式(3.38)はホール伝導率$\si_{ij}$の定義式$\bra J_i \ket = \si_{ij} E_j$と同じ形をしている。よって、以上よりホール伝導率が量子化されていることが導かれた。
\[ \si_{ij} = \nu\, \frac{ e^2}{2 \pi} \ep_{ij} \tag{3.39} \]
伝導率は${e^2}/{2 \pi}$の単位で離散的な値をとり、量子化は充填率$\nu$で与えられる。

2024-01-29

3. ランダウ問題と量子ホール効果 vol.1

3.1 量子ホール効果とは


物理において一様磁場における荷電粒子の動力学に関する問題を一般にランダウ問題と呼ぶ。ランダウ問題の現実的で重要な例として量子ホール効果がある。これは低温における伝導体内の電子の振る舞いに観測される。次の2章では準古典的な近似を用いて量子ホール効果の代数的な解析を行う。

 まず量子ホール効果について基本的なことから始めよう。観測設定の略図は以下の通り。


伝導体を流れる電流$J_1$に対して垂直方向に磁場$B$をかけた時、電流と磁場に垂直な方向に電流$J_2$が生じる(ホール効果)。ここで、ホール電流$J_2$が伝導体内の電場$E_1$とどう関係しているのかを考える。一般に、オームの法則から$J_i = \si_{ij} E_j$ $(i,j = 1,2)$とおける。ただし、$\si_{ij}$は伝導率テンソルである。よって、いまの場合
\[\begin{eqnarray} J_1 &=& \si_{11} E_1 ~~~ \mbox{$J_{1}$: 通常電流} \tag{3.1} \\ J_2 &=& \si_{21} E_1 ~~~ \mbox{$J_{2}$: ホール電流} \tag{3.2} \end{eqnarray}\]
と書ける。ホール電流は電場に沿って動く荷電粒子を偏向させるローレンツ力に依るので、ホール伝導率$\si_{21}$は$B$に依存する。よって、古典的にはホール電流は$B$に比例する ($\sigma_{21} \sim B$) と考えられる。$\sigma_{21}$と$B$のグラフで表すと下図(左側)のようになる。


一方、低温ではホール伝導率$\sigma_{21}$がある領域の$B$において一定となり、さらに$B$が大きくなると$\sigma_{21}$の値がジャンプして一定となり、さらに$B$が大きくなるとジャンプするという挙動を繰り返す。$\sigma_{21}$-$B$グラフで図示すると上図(右側)のようになる。$\sigma_{21}$の値が平坦となる領域をプラトーと呼ぶ。プラトーでの$\sigma_{21}$の値が量子化されているため、この低温での現象は量子ホール効果と呼ばれる。整数量子ホール効果はプラトー値が$e^2 /2\pi$の単位のもと整数値で量子化される現象をさす。ただし、$e$は電子の素電荷である。プラトー値が分数で量子化される場合もあり、分数量子ホール効果と呼ばれる。分数量子ホール効果については次章で取り上げる。

 今節では、つぎの2つの近似を用いて量子ホール効果を分析する。
  1. 垂直方向($x_3$軸)に沿った電子の動力学は無関係とする。これは最初の図で示したとおり量子ホール効果の物理系は$(x_1, x_2)$平面の2次元面で有効的に記述できるためである。
  2. 伝導体内のエッジ・ポテンシャルは2次元調和振動子ポテンシャルで近似できる。
これより、物理系の1粒子ハミルトニアンは
\[\begin{eqnarray} H &=& \frac{(p_1 -e A_1 )^2 + ( p_2 - e A_2 )^2 }{2m} + \frac{m \om^2}{2} ( x_{1}^{2} + x_{2}^{2} ) \tag{3.3} \\ A_1 &=& - \frac{B x_2}{2} \, , ~~~ A_2 \, = \, \frac{B x_1}{2}  \tag{3.4}\\ B_3 &=& \d_1 A_2 - \d_2 A_1 \, = \, B \tag{3.5} \end{eqnarray}\]
で与えられる。ただし、$m$は偏流する電子の有効質量を表し、$\d_i$ $(i = 1,2)$ は$x_i$の偏微分を表す。(有効質量は通常$m^*$で示されるが、記号の繁雑さを避けるため単に$m$とする。)ここで、演算子
\[ \Pi_i = p_i - e A_i  \tag{3.6} \]
を定義する。この演算子の交換関係は
\[\begin{eqnarray} [ \Pi_i , \Pi_j ] &=& [ p_i - e A_i , p_j - e A_j ] \nonumber \\ &=& ie ( \d_i A_j - \d_j A_i ) \, = \, ie B\, \ep_{ij} \tag{3.7} \end{eqnarray}\]
となる。ただし、$\ep_{ij}$は2階のレビ-チビタテンソル ($\ep_{12}=1$, $\ep_{21} = -1 $, $\ep_{11} = \ep_{22} = 0$) である。つぎに、ハミルトニアンを新しい演算子
\[ \A = \frac{\Pi_1 + i \Pi_2}{\sqrt{2eB}} \, , ~~ \A^\dag = \frac{\Pi_1 - i \Pi_2}{\sqrt{2eB}} \tag{3.8} \]
で表すことを考える。これらの演算子は
\[\begin{eqnarray} [ \A , \A^\dag ] &=& \frac{1}{2eB} [ \Pi_1 + i \Pi_2 , \Pi_1 - i \Pi_2 ] \, = \, \frac{-i2}{2eB} [ \Pi_1 , \Pi_2 ] \, = \, 1 \, , \tag{3.9} \\ \A^\dag \A &=& \frac{1}{2eB} ( \Pi_1 - i \Pi_2 ) (\Pi_1 + i \Pi_2 ) \nonumber \\ &=& \frac{1}{2eB} ( \Pi_{1}^{2} + \Pi_{2}^{2} + i [ \Pi_1 , \Pi_2 ] ) \, = \,  \frac{ \Pi_{1}^{2} + \Pi_{2}^{2}}{2eB} - \hf \tag{3.10} \end{eqnarray}\]
を満たす。よって、ハミルトニアン(3.3)は
\[\begin{eqnarray} H &=& \frac{1}{2m} ( \Pi_{1}^{2} + \Pi_{2}^{2} ) + \frac{m \om^2}{2} ( x_{1}^{2} + x_{2}^{2} ) \nonumber \\ &=& \underbrace{\frac{eB}{m} \left( \A^\dag \A + \hf \right)}_{\equiv H_0} + \frac{m \om^2}{2} ( x_{1}^{2} + x_{2}^{2} ) \tag{3.11} \end{eqnarray}\]
と書き換えられる。

 まず、調和振動子ポテンシャルを無視して$H_0$の固有状態を考えよう。ポテンシャルエネルギー${\half} m \omega^2 (x_1^2 + x_2^2)$の効果は3.3節で取り上げる。ハミルトニアン$H_0$に対して、基底状態$\GS$は
\[ \A \GS = 0 \tag{3.12} \]
と定義される。よって、物理状態は$\GS$に$\A^\dag$を作用させることで構成できる。
\[ \A^\dag \GS \, , \frac{(\A^\dag )^2}{\sqrt{2}} \GS \, , \cdots \cdots , \frac{(\A^\dag )^n}{\sqrt{n !}} \GS \tag{3.13} \]
対応するエネルギーは
\[ E_n = \frac{eB}{m} \left( n + \hf \right) \tag{3.14} \]
で与えられる。ただし、$n = 0, 1,2, \cdots$である。これらのエネルギー準位はランダウ準位と呼ばれる。$n = 0$の場合は最低ランダウ準位 (LLL, lowest Landau level) に対応し、ゼロ点エネルギー
\[ E_0 = \frac{eB}{2m} \equiv \om_L \tag{3.15} \]
をもつ。ここで、$\om_L$はラーモア振動数 (Larmor frequency) と呼ばれる。式(3.14)で与えられるエネルギー準位は$2 \om_L$を単位とする離散的な値をとる。

磁気並進演算子

つぎに新しい演算子
\[ \widetilde{\Pi}_i = p_i + eA_i \tag{3.16} \]
を導入する。ただし、$A_i$はこれまでと同様に$A_i = - {\half} B x_j \ep_{ij}$である。$\Pi_i$と$\widetilde{\Pi}_j$の交換関係は
\[\begin{eqnarray} [ \Pi_i , \widetilde{\Pi}_j ] &=& [ p_i - e A_i , p_j + e A_j ] \nonumber \\ &=& -ie \d_i A_j - i e \d_j A_i \, = \, -ie ( \ep_{ji} + \ep_{ij} ) \frac{B}{2} \, = \, 0 \tag{3.17} \end{eqnarray}\]
と計算できる。これより、ただちに$[ \widetilde{\Pi}_i, H_0 ] = 0$が分かる。よって、任意の物理状態への$\widetilde{\Pi}_i$の作用は縮退状態を導く(振動子ポテンシャルがない場合)。演算子$\widetilde{\Pi}_i$の交換関係は
\[ [ \widetilde{\Pi}_i , \widetilde{\Pi}_j ] = [ p_i + e A_i , p_j + e A_j ] = -ie B\, \ep_{ij} \tag{3.18} \]
となる。この演算子$\widetilde{\Pi}_i$は磁気並進演算子 (magnetic translation operator) と呼ばれる。上述の通り$[ \widetilde{\Pi}_i, H_0 ] = 0$なので、ランダウ準位の縮退度はこの演算子で記述される。これを粒子の古典的な描像で理解してみよう。古典的には荷電粒子は磁力線の周りに円を描き、その軌道は次の形に表せる。
\[\begin{eqnarray}   x_1 - {\tilde x}_1 &=& -{\sqrt{2m E}\over e B} \, \cos \frac{e B t}{m} \, , \nonumber\\   x_2 - {\tilde x}_2 &=& {\sqrt{2m E}\over e B} \, \sin \frac{e B t}{m} \, , \nonumber\\   (x_1 - {\tilde x}_1 )^2 + (x_2 - {\tilde x}_2)^2 &=& {2 m E \over e^2 B^2}     \tag{3.19} \end{eqnarray}\]
ここで、$({\tilde x}_1, {\tilde x}_2)$は積分定数である。この軌道は$({\tilde x}_1, {\tilde x}_2)$を中心とした円であり、その半径はエネルギー$E$と磁場$B$で与えられる。磁場は一様なのでこの問題は並進対称性をもつ。これは$(x_1, x_2)$-平面上の軌道配置、つまり中心$({\tilde x}_1, {\tilde x}_2)$の選択、が任意であるという事実に反映されている。磁気並進演算子の作用はこの中心の位置を移動させることに対応する。

 動的変数の視点から見ると、我々はここで$( x_i , p_i )$の代わりに新しい2つの正準変数のペア$\left( \frac{ \Pi_1 }{\sqrt{eB}}, \frac{\Pi_2 }{\sqrt{eB} } \right)$, $\left( \frac{ \widetilde\Pi_1 }{\sqrt{eB}}, \frac{\widetilde\Pi_2}{\sqrt{eB}}\right)$を導入した。ハミルトニアンは一方の正準変数$\left( \frac{ \Pi_1 }{\sqrt{eB}}, \frac{\Pi_2 }{\sqrt{eB} } \right)$に依存し、もう一方の正準変数$\left( \frac{ \widetilde\Pi_1 }{\sqrt{eB}}, \frac{\widetilde\Pi_2}{\sqrt{eB}}\right)$は物理系の対称性を構成する。よって、一般的な対称性についての定理に従うと、ランダウ準位の縮退は演算子$\widetilde\Pi_i$の表現によって与えられる。これは演算子レベルで行えるが、電子が大量にある物理系ではほとんどの場合、準古典的な分析で十分である。以下では、この準古典的な議論を行う。

2024-01-26

2. 水素原子の束縛状態と散乱状態 vol.3

2.3 散乱状態


この節では前節と同様に代数
\[  \left\{ \begin{eqnarray} \left[ L_i , L_j \right] &=& i \ep_{ijk} L_k  \\ \left[ L_i , R_j \right] &=& i \ep_{ijk} R_k \\ \left[ R_i , R_j \right] &=& i \ep_{ijk} \left( - \frac{2H}{m} \right) L_k  \\ \left[ L_i , H \right] &=& \left[ R_i , H \right] \, = \, 0 \\ \end{eqnarray}  \right.  \tag{2.29} \]
において$H > 0$となる場合を考える。これは水素電子の散乱状態に対応する。このときルンゲ-レンツ・ベクトルは
\[ N_i = \sqrt{\frac{m}{2H}} R_i \tag{2.44} \]
と規格化される。代数(2.29)は
\[    \left\{    \begin{array}{rcl} \left[ L_i , L_j \right] &=& i \ep_{ijk} L_k \\ \left[ L_i , N_j \right] &=& i \ep_{ijk} N_k \\ \left[ N_i , N_j \right] &=& - i \ep_{ijk} L_k \\   \end{array}   \right.   \tag{2.45} \]
と表せる。これは$O(3,1)$代数を成す。$O(3,1)$群は、$x^2 + y^2 + z^2 - t^2$の値が不変となるような$x$, $y$, $z$, $t$の直交線形変換によって表せる群である。よって、$O(3,1)$代数はローレンツ代数とも呼ばれる。

 $N_i$に関する代数は
\[    \begin{array}{rcl} \left[ L_i , iN_j \right] &=& i \ep_{ijk} (i N_k ) \\ \left[ iN_i , iN_j \right] &=& i \ep_{ijk} L_k  \\   \end{array}    \tag{2.46} \]
とも書ける。ただし、$i N_i = \sqrt{-1} \,N_i$である。よって、前節と同様に次の2つの演算子
\[ S_{i}^{(1)} = \frac{L_i + i N_i }{2} \, , ~~~ S_{i}^{(2)} = \frac{L_i - i N_i }{2} \tag{2.47} \]
($i = 1,2,3$) は$SU(2)$代数の2つのコピーを与えることが分かる。しかしながら、これらの演算子はエルミートではない。$L_i$と$N_i$で生成される変換$S$の要素は実パラメータ$\th^i$, $\alpha^i$を用いて、
\[    S =  \exp\left( i \th^i L_i + i \alpha^i N_i\right)     \tag{2.48} \]
とパラメータ表示できる。代数(2.45)は特に$L_i = {1\over 2} \sigma_i$, $N_i = -{i \over 2}\sigma_i$の場合に成り立つので、
\[    S = \exp\left( i \th^i \frac{\sigma_i }{2} + \alpha^i \frac{\sigma_i }{2 } \right)    = \exp \left( i ( \th^i - i \alpha^i) \frac{ \sigma_i }{ 2 } \right)      \tag{2.49} \]
と表せる。これは代数(2.45)で生成される変換が複素数のパラメータを用いた$SU(2)$変換とみなせることを示している。この複素化された$SU(2)$群は$SL(2, {\mathbb C})$と呼ばれる。

 前節の式(2.37)と同様にハミルトニアンは
\[ H = \frac{m \ka}{2} \frac{1}{N^2 - L^2 -1} \tag{2.50} \]
と表せる。ここで、$S_{\pm}^{(1)} = S_{1}^{(1)} \pm i S_{2}^{(1)}$を導入して$S_{i}^{(1)}$の代数を$S_{\pm}^{(1)}$と$S_{3}^{(1)} = (L_3 + i N_3)/2$で表すことを考えよう。このとき「最低」状態$| \Om \ket$を
\[ S_{-}^{(1)} | \Om \ket = 0 \tag{2.51} \]
で定義する。状態$| \Om \ket$への$S_{3}^{(1)}$の作用は
\[ S_{3}^{(1)} | \Om \ket = ( a + ib ) | \Om \ket \tag{2.52} \]
と書ける。ただし、$a, \, b$は実数であり、それぞれ最低状態に作用する演算子$L_3$と$N_3$の量子数に対応する。関係式(2.46)から分かるように$[N_i, N_j]$は$L_k$を与えるので、ゼロでない$L_k$に対して$b$をゼロとすることはできない。(もし$L_i$と$N_i$が最低状態でともにゼロとなるなら、すべての変換のもとでこの状態は不変となり表現は自明となる。)よって、以下では$b \ne 0$とし、ゼロの場合は極限として$b \rightarrow 0$考える。$S_{i}^{(1)}$の2次カシミール演算子は
\[ S_{i}^{(1)} S_{i}^{(1)} = S_{+}^{(1)} S_{-}^{(1)} + {S_{3}^{(1)}}^2 - S_{3}^{(1)} \tag{2.53} \]
と計算できる。これより、関係式
\[ {S^{(1)}}^2 | \Om \ket = [ (a + ib)^2 - (a+ ib) ] | \Om \ket \tag{2.54} \]
が求まる。同様に$S_{3}^{(2)}$についても
\[\begin{eqnarray} S_{3}^{(2)} | \Om \ket &=& ( a - ib ) | \Om \ket \tag{2.55}\\ {S^{(2)}}^2 | \Om \ket &=& [ (a - ib)^2 - (a - ib) ] | \Om \ket \tag{2.56} \end{eqnarray}\]
と求まる。さらに、運動量ベクトルとルンゲ-レンツ・ベクトルが直交することから$L \cdot N = N \cdot L = 0$が分かる。よって、定義式(2.47)から
\[ {S^{(1)}}^2 = {S^{(2)}}^2 = \frac{L^2 - N^2}{4} \tag{2.57} \]
を得る。${S^{(1)}}^2$と${S^{(2)}}^2$の固有値が等しいので、(2.54)と(2.56)から$a$, $b$について解くと
\[\begin{eqnarray} (a + ib)^2 - (a+ ib)  &=& (a - ib)^2 - (a - ib) \nonumber \\ 2ib(2a-1) &=& 0 \nonumber \\ \Longrightarrow ~ a &=& \hf \, ~(b \ne 0) \tag{2.58} \end{eqnarray}\]
となる。$b= 0$の場合は上で議論した自明な解となる。この結果を(2.54)あるいは(2.56)に代入すると
\[ N^2 - L^2 = 4 b^2 + 1 \tag{2.59} \]
となる。よって、ハミルトニアン(2.50)は
\[ H = \frac{m \ka}{2} \frac{1}{(2b)^2} \, > \, 0 \tag{2.60} \]
と表せる。ここで、$b$にはいかなる制限も掛からないことに注意しよう。つまり、$b$は連続的であり、ゼロでない任意の実数値$- \infty < b < \infty$ ($b \ne 0$) を取ることができる。

2024-01-25

2. 水素原子の束縛状態と散乱状態 vol.2

2.2 束縛状態


この節では前節で導いた代数
\[  \left\{ \begin{eqnarray} \left[ L_i , L_j \right] &=& i \ep_{ijk} L_k  \\ \left[ L_i , R_j \right] &=& i \ep_{ijk} R_k \\ \left[ R_i , R_j \right] &=& i \ep_{ijk} \left( - \frac{2H}{m} \right) L_k  \\ \left[ L_i , H \right] &=& \left[ R_i , H \right] \, = \, 0 \\ \end{eqnarray}  \right.  \tag{2.29} \]
において$H \le 0$の場合を考える。これは水素電子の束縛状態に対応する。はじめにルンゲ-レンツ・ベクトルを
\[M_i = \sqrt{\frac{-m}{2H}} R_i \tag{2.30}\]
と規格化すると、(2.29)は
\[ \left\{ \begin{eqnarray} \left[ L_i , L_j \right] &=& i \ep_{ijk} L_k  \\ \left[ L_i , M_j \right] &=& i \ep_{ijk} M_k  \\ \left[ M_i , M_j \right] &=& i \ep_{ijk} L_k  \\   \end{eqnarray}  \right.  \tag{2.31} \]
となる。これは$O(4)$代数であり、4次元回転の生成子に対応する。この代数を
\[ S_i = \frac{L_i + M_i}{2} \, , ~~ T_i = \frac{L_i - M_i}{2} \tag{2.32}\]
で表すと
\[\begin{eqnarray} \left[ S_i , T_j \right] &=& \frac{1}{4} \left[ L_i + M_i , L_j - M_j \right] \nonumber \\ &=& \frac{i}{4} \ep_{ijk} ( L_k - M_k + M_k - L_k ) \, = \, 0 \tag{2.33} \\ \left[ S_i , S_j \right] &=& \frac{1}{4} \left[ L_i + M_i , L_j + M_j \right] \nonumber \\ &=& \frac{i}{4} \ep_{ijk} ( L_k + M_k + M_k + L_k ) \, = \, i \ep_{ijk} S_k \tag{2.34} \\ \left[ T_i , T_j \right] &=& \frac{1}{4} \left[ L_i - M_i , L_j - M_j \right] \nonumber \\ &=& \frac{i}{4} \ep_{ijk} ( L_k + L_k - M_k - M_k ) \, = \, i \ep_{ijk} T_k \tag{2.35} \end{eqnarray}\]
となる。よって、$O(4)$代数は2つの独立な(互いに可換な)角運動量代数$S_i$, $T_i$で表せる。

 水素原子のエネルギー・スペクトルを理解するためにハミルトニアンを$S_i$と$T_i$で表す必要がある。そのためにまず$R^2$を計算する。
\[\begin{eqnarray} R^2 &=& \left( \frac{1}{m} \ep_{ijk} p_j L_k - \frac{i}{m}p_i - \ka \hat{x}_i \right) \left( \frac{1}{m} \ep_{iab} p_a L_b - \frac{i}{m}p_i - \ka \hat{x}_i \right) \nonumber \\ &=& \left[ \frac{1}{m^2} p_j L_k ( p_j L_k - p_k L_j ) - \frac{i}{m^2} \ep_{ijk} p_j L_k p_i -\frac{\ka}{m} \ep_{ijk} p_j L_k \hat{x}_i \right. \nonumber \\&&~~~~~~~~~~~~~~~~~ \left. + \frac{i \ka}{m} p\cdot \hat{x} - \frac{\ka}{m} \ep_{iab} \hat{x}_i p_a L_b + \frac{i \ka}{m} \hat{x} \cdot p + \ka^2 - \frac{p^2}{m^2} \right] \nonumber \\ &=& \frac{1}{m^2} p^2 L^2 + \frac{2 p^2}{m^2} - \frac{2 \ka}{m r} L^2 + \frac{i \ka}{m} ( \hat{x} \cdot p - p \cdot \hat{x} ) + \ka^2 - \frac{p^2}{m^2} \nonumber \\ &=& \frac{p^2}{m^2} ( L^2 + 1) - \frac{2 \ka}{mr} L^2 - \frac{2 \ka}{mr}  + \ka^2 \nonumber \\ &=& \left( \frac{p^2}{m^2} - \frac{2 \ka}{m r} \right) ( L^2 + 1) + \ka^2 \nonumber \\ &=& \frac{2}{m} H (L^2 + 1) + \ka^2 \tag{2.36}\end{eqnarray}\]
ただし、$(\hat{x} \cdot p - p \cdot \hat{x} )$の因子を変形するのに前節で導いた関係式
\[ \begin{eqnarray} \hat{x} \cdot p - p \cdot \hat{x} &=& \frac{x_i}{r} p_i - p_i \frac{x_i}{r}  \nonumber \\ &=& \frac{x_i}{r} p_i - i \frac{\d}{\d x^i} \left( \frac{x_i}{r} \right) -\frac{x_i}{r} p_i \nonumber \\ &=&  \left( \frac{3}{r} - \frac{x_i}{r^2} \frac{x_i}{r} \right) \, = \, \frac{i2}{r} \tag{2.28} \end{eqnarray} \]
を用いた。(2.30), (2.36)からハミルトニアンは
\[H = - \frac{m \ka^2}{2} \frac{1}{M^2 + L^2 +1 }\tag{2.37}\]
と表せる。式(2.32)に戻ると
\[S^2 = \frac{1}{4}( L^2 + M^2 + L \cdot M + M \cdot L)\tag{2.38}\]
が分かる。ここで、$L \cdot M$ and $M \cdot L$の因子はゼロになる。これは
\[\begin{eqnarray}R \cdot L &=& \frac{1}{m} \ep_{ijk} p_j L_k L_i = \frac{1}{m} \ep_{ijk}p_j \frac{L_k L_i - L_i L_k}{2} \nonumber \\&=& \frac{i}{2m} \ep_{ijk} p_j \ep_{ki m} L_m \, = \, 0 \tag{2.39}\end{eqnarray}\]
からすぐに分かる。あるいは、$\vec{L}$と$\vec{R}$が直交していることから自明である。


これより、
\[S^2 + T^2 = \frac{ L^2 + M^2 }{2}\tag{2.40}\]
($S^2 = T^2$) が分かる。よって、ハミルトニアンは
\[ H = - \frac{m \ka^2}{ 2 } \frac{1}{ 2 ( S^2 + T^2 ) + 1 } \tag{2.41}\]
と表せる。$S_i$は角運動量代数に従うので、$S^2 + T^2$ as $S^2 + T^2 = 2 S^2 = 2 s(s+1)$と書ける。ただし、$s= {1\over 2}{q}$ ($q = 0, 1,2, \cdots$) である。すなわち、
\[S^2 + T^2 \, = \, q \left( \frac{q}{2} + 1 \right) \tag{2.42}\]
となる。よって、ハミルトニアンは
\[H = - \frac{m \ka^2}{ 2 }\frac{1}{  n^2 } \,  ~~~~~~( n \equiv q+1 = 1,2, 3, \cdots )\tag{2.43}\]
と書き換えられる。この結果は$H$の固有値であり、正しい水素原子のエネルギー・スペクトルに対応する。これはボーア理論と同じ結果であり、シュレディンガー方程式から得られる結果とも一致する。上式の$n$は主量子数に相当することが分かる。

2024-01-24

2. 水素原子の束縛状態と散乱状態 vol.1

2.1 水素原子


水素原子の問題の解、つまり水素原子のエネルギー・スペクトルの量子力学的導出は、よく知られているシュレーディンガー方程式による解が得られる以前、1926年にパウリによって初めて与えれれた。この問題は数学的にはケプラー問題、つまり惑星軌道の問題と同じである。どちらの問題も同じ形のハミルトニアン
\[    H = \frac{p^2}{2m} - \frac{\ka}{r}    \tag{2.1}\]
を持つ。ただし、$\vec{p}$は惑星(あるいは電子)の運動量である($p^2 = \vec{p}^2$)。$r$は太陽(あるいは原子核)からの動径距離、$m$は惑星(あるいは電子)の質量を表す。$\ka$はそれぞれの場合について
\[    \ka = \left\{ \begin{array}{ll}    Z e^2 ~ &~\mbox{クーロンポテンシャル}\\    G M m ~&~ \mbox{重力ポテンシャル}    \end{array}\right.    \tag{2.2}\]
と表せる。もちろんこれは理想化された水素原子であり、実際の原子では、原子核の運動、相対論的補正、スピン軌道相互作用、さらには場の量子論から計算できる電磁波の放射補正など様々な補正を考慮する必要がある。しかしながら、(2.1)は非常に良い第一近似を与える。

古典力学ではケプラー問題は可解である。これに関して、ベルトランの定理という興味深い定理がある。これは「3次元空間において、すべての束縛軌道が閉曲線となる中心力ポテンシャルは調和振動子ポテンシャル$V = {1\over 2} \om r^2$とクーロン(あるいは重力)ポテンシャルの2つに限られる。」という定理である。すでに調和振動子については考察したので、次のステップとして水素原子を取り上げるのはこの意味でも自然なことである。

 ハミルトニアン(2.1)は明らかに球対称(回転不変)であるので、角運動量$L_i$ ($i =1, 2, 3$) が保存する。さらに、惑星軌道についての古典的なケプラー問題では軌道の歳差運動は生じない。これは軌道平面上で惑星運行の軌道配置が保存すること、あるいは、原点(楕円軌道の焦点)から近日点 (perihelion) へ向かうベクトルが保存することを意味する。このベクトルはラプラスによって既知であったが、ルンゲとレンツによってより詳しく解析されたため、ルンゲ-レンツ・ベクトル (Runge-Lenz vector)と呼ばれる。ルンゲ-レンツ・ベクトル$R_i$と角運動量ベクトル$L_i$はこの問題の保存ベクトルである。(もちろん、ハミルトニアン$H$もスカラー保存量である。)古典ケプラー問題におけるこれらのベクトルを図示すると次のようになる。


古典的なルンゲ-レンツ・ベクトルは通常
\[    R_i = \frac{1}{m} \ep_{ijk} p_j L_k  - \ka \hat{x}_i    \tag{2.3}\]
と定義される。ここで、運動量$p_i$と座標$x_i$は物理系の基本的な相空間変数である。角運動量$L_i$は$L_i = \ep_{ijk}x_j p_k$と定義され、$\hat{x}_i$は単位ベクトル$\hat{x}_i = \frac{x_{i}}{r}$を表す。一般に、$p_i$と$L_i$は互いに交換しないので、式(2.3)の$R_i$はエルミートでない。よって、式(2.3)の$p_j$と$L_k$を対称化させて、量子的なルンゲ-レンツ・ベクトル
\[    R_i = \frac{1}{2 m}  \ep_{ijk} ( p_j L_k + L_k p_j) - \ka \hat{x}_i     \tag{2.4}\]
を定義する。これは明らかにエルミートである。

 以下では、$L_i$, $R_i$, $H$が成す代数を考える。$L_i$の定義と交換関係$[ x_i , p_j ] = i \del_{ij}$から
\[\begin{eqnarray}    \left[ L_{i} , H \right] &=& 0 \, , \tag{2.5} \\    \left[ L_{i} , x_{j} \right] &=& i \ep_{ijk} x_k \, ,  \tag{2.6} \\    \left[ L_{i} , p_{j} \right] &=& i \ep_{ijk} p_k   \tag{2.7}\end{eqnarray}\]
が分かる。最後の2つの式から$x_i$と$p_i$は回転のもとでベクトルとして変換するとみなせる。関係式$\ep_{ijk} \ep_{kjl} = - \ep_{ijk} \ep_{ljk} = -2 \del_{il}$から定義式(2.4)は
\[\begin{eqnarray}    R_i &=& \frac{1}{2 m}  \ep_{ijk} ( p_j L_k  + i \ep_{kjl} p_l + p_j L_k  )    - \ka \hat{x}_i \nonumber \\    &=& \frac{1}{m} \ep_{ijk} p_j L_k - \frac{i}{m} p_i - \ka \hat{x}_i     \tag{2.8}\end{eqnarray}\]
と変形できる。相変数とハミルトニアンの交換関係は
\[\begin{eqnarray}    \left[ p_{i} , H \right] &=& \left[ - i \frac{\d}{\d x^i} , - \frac{\ka}{r} \right]    = i \ka \frac{\d}{\d x^i} \frac{1}{r} = - \frac{i \ka}{r^2} \frac{x_i}{r}    = - \frac{i \ka \hat{x}_i }{r^2} \, ,  \tag{2.9} \\    \left[ \hat{x}_{i} , H \right] &=& \left[ \frac{x_i}{r}, \frac{p^2}{2m}\right]    = \left[ \frac{\nabla^2}{2m} , \frac{x_i}{r} \right]     \tag{2.10}\end{eqnarray}\]
と計算できる。(2.10)を計算するには、次の関係式が必要となる。
\[\begin{eqnarray}    \nabla_j \left( \frac{x_i}{r} \right)    &=& \frac{\del_{ij}}{r} - \frac{x_i}{r^2} \frac{x_j}{r}    = \frac{\del_{ij} - \hat{x}_{i}\hat{x}_{j}}{r} \, ,    \tag{2.11}\\    \nabla_j \nabla_j \left( \frac{x_i}{r} \right)    &=&  - \frac{1}{r^2} (\del_{ij} - \hat{x}_{i}\hat{x}_{j}) \hat{x}_j    - \frac{1}{r}\frac{ \del_{ij} - \hat{x}_{i}\hat{x}_{j}}{r} \hat{x}_j    - \frac{1}{r} \hat{x}_i \frac{ \del_{jj} - \hat{x}_{j}\hat{x}_{j}}{r} \nonumber \\    &=& -2 \frac{\hat{x}_i}{r^2}    \tag{2.12}\end{eqnarray}\]
ただし、$\del_{jj} = 3$, $\hat{x}_j \hat{x}_j = 1$を用いた。これより(2.10)は
\[\begin{eqnarray}    \left[ \hat{x}_{i} , H \right] \psi &=&    \frac{\nabla^2}{2 m} \left( \frac{x_i}{r} \psi \right) - \frac{x_i}{r}    \frac{\nabla^2 \psi}{2m} \nonumber\\    &=& \frac{\nabla_j}{2m} \left[ ( \nabla_j \hat{x}_i ) \psi + \hat{x}_i \nabla_j \psi \right]    - \hat{x}_i \frac{\nabla^2}{2m} \psi \nonumber \\    &=& - \frac{1}{m r^2} \hat{x}_i \psi + \frac{1}{m} ( \nabla_j \hat{x}_i ) \nabla_j \psi    \nonumber \\    &=& - \frac{\hat{x}_i}{m r^2} \psi + \frac{1}{m} \frac{\del_{ij} - \hat{x}_{i}\hat{x}_{j}}{r}    \, i p_j \, \psi    \tag{2.13}\end{eqnarray}\]
と計算できる。ただし、ここでは便宜上、波動関数$\psi$を入れた。よって、交換関係(2.10)は
\[    \left[ \hat{x}_{i} , H \right]    = - \frac{\hat{x}_i}{m r^2} + \frac{i}{m r} ( p_i - \hat{x}_i \hat{x} \cdot p )   \tag{2.14}\]
と書ける。これらの結果より、ルンゲ-レンツ・ベクトル$R_i$とハミルトニアン$H$の交換関係を計算できる。
\[\begin{eqnarray}    \left[ R_{i} , H \right] &=& \frac{1}{m} \ep_{ijk} [ p_j , H ] L_k    - \frac{i}{m} [ p_i , H ] - \ka [ \hat{x}_i , H ] \nonumber \\    &=& - \frac{1}{m} \ep_{ijk} \left( - \frac{i \ka}{r^2} \hat{x}_j \right) L_k    - \frac{i}{m} \left( - \frac{i \ka}{r^2} \hat{x}_i \right)    + \frac{\ka}{m r^2} \hat{x}_i - \frac{i \ka}{m r} ( p_i - \hat{x}_i \hat{x} \cdot p )    \nonumber \\    &=& - \frac{i \ka}{m r^2} \ep_{ijk} \hat{x}_j \ep_{kmn} x_m p_n    - \frac{i \ka}{m r} ( p_i - \hat{x}_i \hat{x} \cdot p ) \nonumber \\    &=& - \frac{i \ka}{m r^2} \hat{x}_j x_m p_n ( \del_{im} \del_{jn} - \del_{in} \del_{jm})    - \frac{i \ka}{m r} ( p_i - \hat{x}_i \hat{x} \cdot p ) \nonumber \\    &=& - \frac{i \ka}{m r^2} ( \hat{x}_j x_i p_j - \hat{x}_j x_j p_i )    - \frac{i \ka}{m r} ( p_i - \hat{x}_i \hat{x} \cdot p ) \nonumber \\    &=& 0     \tag{2.15}\end{eqnarray}\]
よって、ルンゲ-レンツ・ベクトルとハミルトニアンが可換であることが直接確認できた。

2024-01-22

1. 調和振動子と$SU(N)$代数 vol.4

1.5 高次元調和振動子


前節までの解析を3次元調和振動子に拡張するのは比較的容易である。3次元振動子のハミルトニアンは
\[    H = \om \left(     a^\dagger_{1} a_1 + a^\dagger_{2} a_2 + a^\dagger_{3} a_3 + \frac{3}{2}    \right)    = \om \left(    a^\dagger_{i} a_i + \frac{3}{2}    \right)    \tag{1.47}\]
で与えられる。ただし、$i = 1,2,3$である。数演算子の和は$n = n_1 + n_2 + n_3 = a^\dagger_{i} a_i$で表される。$n$を定数とすると、縮退度は${1\over 2} (n+1)(n+2)$となる。縮退状態をつなぐ演算子には下の画像で示された$a^\dagger_2 a_1$, $a^\dagger_3 a_1$, $a^\dagger_3 a_2$とこれらに共役な$a^\dagger_1 a_2$, $a^\dagger_1 a_3$, $a^\dagger_2 a_3$が含まれる。


 演算子による閉じた代数をつくるにはこれら6つの演算子にさらに他の演算子を追加する必要がある。6つのうち2つの演算子の交換関係を計算すると
\[\begin{eqnarray}    [ a^\dagger_1 a_2 , a^\dagger_2 a_1 ] &=& a^\dagger_1 [ a_2 , a^\dagger_2 a_1 ] +    [ a^\dagger_1 , a^\dagger_2 a_1 ] a_2 \nonumber \\    &=& a^\dagger_1 a_1  - a^\dagger_2 a_2 \nonumber \\    &=& n_1  -  n_2     \tag{1.48}\end{eqnarray}\]
となる。よって、演算子のリストに$n_1 - n_2$を含めなければならない。同様に$( n_2 - n_3 )$と$( n_3 - n_1 )$も必要になる。2つ目の演算子は$( n_3 - n_1 ) = -( n_1 - n_2 ) - ( n_2 - n_3 )$と表せる。よって、閉じた演算子代数をつくるには2つの演算子を追加する必要がある。計8個の演算子が成す代数は$SU(3)$代数となる。以下では、この点を明らかにしていく。


SU(3)の表現

 $SU(2)$の場合と同様に、$SU(3)$群の要素は$g = e^{i t}$とパラメータ表示される。ただし、$t$はトレースがゼロの$(3 \times 3)$エルミート行列である。$3\times 3$行列は9つの独立な行列要素をもつがトレースゼロとなる条件があるので、8つの独立パラメータで$SU(3)$の要素を表せると予測できる。よって、行列$t$は$t = t^a \th^a $ ($a=1,2, \cdots , 8)$とパラメータ表示できる。ただし、$t^a$はトレースゼロのエルミート行列の基底を表し、$\th^a$は実パラメータである。(また、演算子$a^\dagger_i a_j$ $(i\neq j)$のパラメータとして3つの複素数、対角成分の生成子に対応するパラメータとして2つの実数が必要となるのでこれらを用いて$t$をパラメータ表示することもできる。)慣例として、この基底$t^a$は以下で与えられるゲルマン行列$\la^a$を用いて$t^a = \frac{\la^a}{2}$と表される。
\[\begin{eqnarray}    &&    \la^1 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 1 & 0 \\        1 & 0 & 0 \\        0 & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^2 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & -i & 0 \\        i & 0 & 0 \\        0 & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^3 =    \left(      \begin{array}{ccc}        1 & 0 & 0 \\        0 & -1 & 0 \\        0 & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)    \nonumber \\    &&    \la^4 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 0 & 1 \\        0 & 0 & 0 \\        1 & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^5 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 0 & -i \\        0 & 0 & 0 \\        i & 0 & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^6 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 0 & 0 \\        0 & 0 & 1 \\        0 & 1 & 0 \\      \end{array}    \right)    \nonumber \\    &&    \la^7 =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 0 & 0 \\        0 & 0 & -i \\        0 & i & 0 \\      \end{array}    \right)~~~    \la^8 = \frac{1}{\sqrt{3}}    \left(      \begin{array}{ccc}        1 & 0 & 0 \\        0 & 1 & 0 \\        0 & 0 & -2 \\      \end{array}    \right)    \tag{1.49} \end{eqnarray} \]
基底$t^a = \frac{\la^a}{2}$は$\Tr (t^a t^b ) = \hf \del^{ab}$と規格化されている。交換子$[ t^a , t^b ]$は反エルミートである。よって、交換子は$i \times \mbox{(エルミート行列)}$で表せる。交換子もトレースゼロとなるので$t^a$で展開することができ、次のように書ける。
\[    [ t^a , t^b ] = i f^{abc} t^c     \tag{1.50} \]
$f^{abc}$は構造定数と呼ばれる。構造定数は定数の集合であり、その具体的な値は今のところ必要ない。交換関係(1.50)は$SU(3)$のリー代数をなす。

 ここで、演算子
\[    \hat{T}^a = a^\dagger_i t_{ij}^{a} a_j  = a^\dagger t^{a} a    \tag{1.51}\]
を考えよう。ただし、$t_{ij}^{a}$は$( 3\times 3)$行列$t^a$ $(i,j = 1,2,3; a= 1,2,\cdots , 8)$の行列成分を表す。以下では、これらの演算子が3次元調和振動子の縮退状態をつなぐ演算子に対応していることを見ていく。まず、$\hat{T}^a$はエルミートである。これは関係式
\[\begin{eqnarray}    ( \hat{T}^a )^\dagger &= & a^\dagger_j \left( t^a \right)_{ij}^{*} a_i    \nonumber \\    & = & a^\dagger_j  t^{a}_{ji} a_i = \hat{T}^a    \tag{1.52}\end{eqnarray}\]
から分かる。ただし、$t^a$のエルミート性$\left( t^a \right)_{ij}^{*} = t^{a}_{ji}$を用いた。つぎに、$\hat{T}^a$は$SU(3)$代数に従う。実際に
\[\begin{eqnarray}    [ \hat{T}^a , \hat{T}^b ] &=& [ a^\dagger_i t^{a}_{ij} a_j , a^\dagger_k t_{kl}^{b} a_l ]    \nonumber \\    &=& a^\dagger_i t_{ij}^{a} [ a_j ,  a^\dagger_k t_{kl}^{b} a_l ] +    [ a^\dagger_i  , a^\dagger_k t_{kl}^{b} a_l ] t^{a}_{ij} a_j    \nonumber \\    &=& a^\dagger_i t_{ij}^{a} \del_{jk} t_{kl}^{b} a_l  - \del_{il} a^\dagger_k t_{kl}^{b} t^{a}_{ij} a_j    \nonumber \\    &=& a^\dagger_i t_{ij}^{a} t_{jl}^{b} a_l -  a^\dagger_k t_{ki}^{b} t^{a}_{ij} a_j    \nonumber \\    &=& a^\dagger_i \left(  t_{ij}^{a} t_{jl}^{b} - t_{ij}^{b} t^{a}_{jl} \right) a_l    \nonumber \\    &=& a^\dagger [ t^a , t^b ] a = i f^{abc} a^\dagger t^c a = i f^{abc} \hat{T}^c     \tag{1.53}\end{eqnarray}\]
と確認できる。最後に、$[ \hat{T}^a , a^\dagger_i a_i ]$はゼロとなる。
\[    [ \hat{T}^a , a^\dagger {\bf 1} a ] = a^\dagger [ t^a , {\bf 1} ] a = 0    \tag{1.54}\]
ただし、${\bf 1}$は$(3 \times 3)$単位行列を表す。式(1.54)より明らかに$[ \hat{T}^a  , H ] = 0$となる。これは総数$n = n_1 + n_2 + n_3 = a^\dagger_i a_i$は$\hat{T}^a$の作用のもとで不変であることを意味する。言い換えると、演算子$\hat{T}^a$の作用によって物理系が縮退状態の外部に持ち出されることはない。

 これらの議論から、3次元等方調和振動子の縮退状態は$SU(3)$表現を成すことが分かった。この縮退状態を$| \al \ket$で表示する。ただし、$\al = 1, 2, \cdots , N={1\over 2}(n+1)(n+2)$である。$| \al \ket$の一般形は
\[{(a^\dagger_1 )^{n_1}\over \sqrt{n_1!}}\,{(a^\dagger_2 )^{n_2}\over \sqrt{n_2!}}\, {(a^\dagger_3 )^{n_3}\over \sqrt{n_3!}}~ | 0 \ket, \hskip .3in n_1 + n_2 + n_3 = n \tag{1.55}\]
と書けることに注意しよう。これより、$(N \times N)$行列$\bra \al | \hat{T}^a | \bt \ket$を考えることができ、これらは$SU(3)$代数に従う。よって、$\bra \al | \hat{T}^a | \bt \ket$は$SU(3)$代数の具体的な行列表現を与える。

 この章で紹介した形式化はより一般に$SU(N)$代数にもそのまま適用できる。その構成の概略は以下の通り。まず、$T^{a} = a^\dagger t^{a} a$の形の演算子を考える。ここで、$t^a$ ($a = 1,2, \cdots , N^2 -1$)はトレースがゼロの$(N \times N )$エルミート行列の基底を成す。また、$a^\dagger_i$と$a_i$ ($i = 1,2, \cdots N$)は$N$次元調和振動子の生成・消滅演算子にあたる。$N$次元調和振動子における縮退状態の遷移は演算子$T^{a} = a^\dagger t^{a} a$によって記述され、これらの演算子は$SU(N)$代数に従う。

 最後に、この形式化によって$SU(N)$ ($N \ge 3$) のすべてのユニタリー既約表現が得られる訳ではないことに留意する必要がある。縮退状態の構成からすぐに分かるように、ここで得られる表現は対称表現にすぎない。$SU(2)$の場合は、すべての表現が対称表現であるので調和振動子の解析により$SU(2)$代数のすべてのユニタリー既約表現を求めることができるが、これはどちらかといえば例外的なケースである。$N \ge 3$の場合、この手法によって構成できるのは$SU(N)$代数の対称表現だけである。

2024-01-20

1. 調和振動子と$SU(N)$代数 vol.3

1.4 対称性についての定理


ここでは対称性と保存則に関する一般的な定理と状態の縮退について定式化することで、前節の内容をもう少し系統的に議論する。ハミルトニアン$H$をもつ一般的な量子系を考える。$H$のユニタリー変換$U$を連続的なパラメータ$\theta$を用いて$U = \exp (i \theta \, G)$と定義する。ただし、$G$はあるエルミート演算子である。($G$は変換の生成子である。)ユニタリー変換で得られる新しいハミルトニアンは$H' = U^\dagger \, H \, U$となる。$\theta$は連続的なパラメータなので$\theta$が微小な場合を考えることもできる。この場合、
\[    H' = e^{-i \theta G} \, H \, e^{i \theta G}    \approx (1 - i \theta G) \, H \, ( 1+ i \theta G )    = H -i \theta \, [ G, H]   \tag{1.42}\]
と書ける。よって、ハミルトニアンの変化量は$\delta H = - i \theta \, [ G, H]$で与えられる。$\delta H = 0$、すなわち$[ G, H] =0$のとき我々は「$U$は対称性である」と言ったり「$G$は対称性を生成する」と言う。

つぎに、ハイゼンベルクの運動方程式から任意の演算子$G$に対して
\[    i {\partial G \over \partial t} = [G, H ] \tag{1.43}\]
が成り立つ。よって、もし$G$が連続な対称性を生成するなら($[G,H] =0$であるので)$G$は保存される。対称性が複数の場合、対応する連続バラメータ$\theta_i$、生成子$G_i$を考えればよいだけなので、明らかにこの結果は対称性の数に関係なく拡張できる。これはネーターの定理である。

定理1.2 (ネーターの定理) 量子系の連続対称性の各々について保存された観測量が存在し、その保存観測量は対称性変換の生成子に相当する。

この主張の逆は「もし保存量子数があるならばそれは量子系の対称性を生成する」となるが、これはある程度正しい。例外はトポロジカルな理由によりある量が保存される時であり、その場合、対称性は必ずしも得られるとは限らない。物理においてそのような保存量は実際に存在する。この問題については後にソリトンについて議論する際に再考する。

 対称性の解析を進めるにあたり、固有値$E_\alpha$をもつハミルトニアンの固有状態$\vert \alpha \ket$を考える。つまり、$H \, \vert \alpha \ket = E_\alpha \, \vert \alpha \ket$とおく。連続・非連続に関わらず$U$が対称性変換を表すなら$U^\dagger \, H \, U = H$あるいは$ H\, U = U\, H$と書ける。したがって、
\[H \, ( U \, \vert \alpha \ket ) = U\, H \, \vert \alpha \ket = E_\alpha \, (U \, \vert \alpha \ket )\tag{1.44}\]
となる。これより、$U \, \vert \alpha \ket$もハミルトニアンの固有状態であり同じエネルギーを持つことが分かる。よって、対称性変換によって互いに関係するすべての状態は同じエネルギーをもつ。言い換えると、それらは状態の縮退多重項を成す。そのような状態はいくつあるのか?それは変換に依存する。状態$U \, \vert \alpha \ket$は始状態$\vert \alpha \ket$と異なるかもしれないし、同じかもしれない。例えば、連続的な対称性の場合、パラメータ$\theta$の一つ一つに対応する$U$があるので、このような$U$は複数存在する。ある状態から始めて異なる状態だけを数え上げながら始状態と対称性変換により結び付けられるすべての状態を得ることを考えよう。このとき求まる状態の集合$\{ \vert \alpha_i\ket \}$は次の特性をもつ。まず、これら全ての状態は縮退しており$H$に対して同じ固有値をもつ。さらに、この集合の中の任意の状態にいかなる$U$を作用させてもその結果は同じ集合内の状態の線形結合で表せる。よって、この集合は$U$の作用のもとで閉じている。この状態集合に作用する$U$を行列表示すると$\bra \alpha_i \vert U \vert \alpha_j \ket$となる。以上をまとめると、縮退状態の集合は対称性変換の既約表現を与えることが分かる。$U$が連続的な場合、この結果を対称性の生成子(つまり$G$)を用いて表すこともできる。

定理1.3 量子系ハミルトニアンの固有状態は対称性変換の既約表現に分類される。それぞれの既約表現に含まれる(複数の)状態は縮退している。

同じ既約表現が多くのコピーを持つ場合もあることに留意されたい。この場合、縮退多重項は考えている対称性とは異なる何か別の量子数によって区別される。また、異なる2つの既約表現に含まれる状態が偶然に(上の定理とは無関係に)縮退している場合もある。一般に、そのような偶発的な縮退 (accidental degeneracy) は何かしら隠れている非自明な対称性に由来している。

2024-01-19

1. 調和振動子と$SU(N)$代数 vol.2

1.3 二次元調和振動子


前節と同様の解析を2次元振動子に応用する。この時、例えば$x$, $y$方向に対応する添え字$i=1,2$が演算子$p$, $q$, $a$, $a^\dagger$にラベルされる。ここでは等方な振動子を考えるので角振動数は両方向で等しいとする。($\om \equiv \om_1 = \om_2$) $a_i$と$a^\dagger_j$の代数は
\[    [ a_i , a^\dagger_j ] \, = \, \del_{ij} \, , \hskip .2in    [ a_i, a_j ] \, =\, 0 \, , \hskip .2in [ a^\dagger_i, a^\dagger_j ] \, =\, 0    \tag{1.18} \]
と表せる。これはハイゼンベルク代数(1.5)の2つのコピーと解釈できる。振動子のハミルトニアンは
\[\begin{eqnarray}    H &=& \om ( a^\dagger_1 a_1 + a^\dagger_2 a_2 + 1 ) \nonumber \\    & = & \om ( n_1 + n_2 + 1 )    \tag{1.19} \end{eqnarray}\]
で与えられる。ただし、$n_i$は数演算子$n_i = a^\dagger_i a_i$ ($i = 1,2$)である。基底状態$| 0 \ket$は
\[    a_1 | 0 \ket = a_2 | 0 \ket = 0     \tag{1.20}\]
と定義される。よって、第一励起状態は$a^\dagger_1 | 0 \ket$あるいは$a^\dagger_2 | 0 \ket$で与えられる。異なる方向の演算子は互いに可換であることを用いると、$n = n_1 + n_2$を$a^\dagger_i | 0 \ket$に作用させると$ 1 \cdot | 0 \ket$になることが分かる。これは第一励起状態がエネルギー$ \om$の縮退状態(縮退度2)であることを意味する。数演算子$n_1$, $n_2$の固有状態を$| n_1, n_2 \ket$で表すとこれらの状態は$| 1, 0\ket$, $|0, 1\ket$と表記できる。高次の励起状態も類似的に構成することができる。$n = n_1 + n_2 > 1$の場合、縮退状態は、正規化を除くと、次のように書きだせる。
\[    ( a^\dagger_1 )^n | 0 \ket \, , ~ ( a^\dagger_1 )^{n-1} a^\dagger_2 | 0 \ket \, , ~ \cdots    \, , ~ ( a^\dagger_2 )^n | 0 \ket     \tag{1.21} \]
これらの状態はすべて同じエネルギーをもつので縮退度は$n+1$となる。これらの状態は一般に
\[    | n_1, n_2 \ket = \frac{(a^\dagger_{1} )^{n_1}}{\sqrt{n_1!}} \frac{(a^\dagger_{2} )^{n_2}}{\sqrt{n_2!}}\, | 0 \ket    \tag{1.22} \]
と表記される。これらのエネルギー固有値は$E_{n_1, n_2}  = \om (n_1 + n_2 + 1) = \om (n + 1)$で与えられる。

 基本的な(生成・消滅)演算子$a_i$, $a^\dagger_i$をこれらの状態に作用させると
\[ \begin{eqnarray}   a_1 ~ \vert n_1, \,n_2 \ket &=& \sqrt{n_1}~\vert n_1 -1, \, n_2\ket \, ,   \\    a_2 ~ \vert n_1, \,n_2 \ket &=& \sqrt{n_2}~\vert n_1, \, n_2 -1\ket \, ,    \\    a^\dagger_1 ~ \vert n_1, \,n_2 \ket &=& \sqrt{n_1+1}~\vert n_1 +1, \, n_2\ket \, ,   \\    a^\dagger_2 ~ \vert n_1, \,n_2 \ket &=& \sqrt{n_2+1}~\vert n_1, \, n_2 +1\ket    \end{eqnarray} \tag{1.23} \]
となる。よって、ベクトル$\vert n_1, \, n_2\ket$で張られるベクトル空間上の2次元ハイゼンベルク代数の表現が得られた。

 状態についての議論に戻ると、(1.21)の縮退状態のうち2つ目の状態に注目するとこれは最初の状態がら一つの$a^\dagger_1$を$a^\dagger_2$で置き換えたものになっている。つまり、最初の状態に演算子$a^\dagger_2 a_1$を施せばよい。より一般に、$n = n_1+ n_2$を固定した縮退状態$\vert n_1 , n_2 \ket$同士を結ぶ演算子は
\[    K_{-} = a^\dagger_2 a_1 \, , ~~ K_{+} = a^\dagger_1 a_2   \tag{1.24}\]
で与えられる。これらの演算子による作用を明示すると次のようになる。
\[\begin{eqnarray} & \xrightarrow{a^\dagger_2 a_1} & & \xrightarrow{a^\dagger_2 a_1} & & \xrightarrow{a^\dagger_2 a_1} & \nonumber \\  ( a^\dagger_{1} )^{n} | 0 \ket &  &  ( a^\dagger_{1} )^{n-1} a^\dagger_{2} | 0 \ket &  &  ( a^\dagger_{1} )^{n-2} ( a^\dagger_2 )^{2} | 0 \ket &  &  \cdots   \nonumber \\  & \xleftarrow[a^\dagger_1 a_2]{} & & \xleftarrow[a^\dagger_1 a_2]{} & &  \xleftarrow[a^\dagger_1 a_2]{} & \nonumber \end{eqnarray}\]
また、$K_+$と$K_-$の交換関係を計算すると
\[    [ K_+ , K_- ] = a^\dagger_1 a_1 - a^\dagger_2 a_2 \equiv 2 K_3 \tag{1.25} \]
を得る。ただし、$K_3 = {1\over 2} (n_1 - n_2)$と定義した。$K_3$が次の交換関係を満たすことはすぐに確認できる。
\[    [ K_3 , K_+ ] = K_+  ~ ,~~ [ K_3 , K_- ] = - K_-     \tag{1.26} \]
縮退状態を表すのに必要な演算子は$K_\pm$と$K_3$だけである。これらの演算子が成す代数は3次元角運動量代数あるいは$O(3)$代数と呼ばれる。ここでは2次元振動子を考えているので角運動量の物理的な描像は現れていないことに注意されたい。複数の縮退状態を連結させる代数から同じ数学的な構造が浮かび上がってきただけである。後述するようにこの角運動量代数は$SU(2)$代数と同じ(数学的には同型)である。縮退状態のうち$K_3 = {1\over 2}( a^\dagger_1 a_1 - a^\dagger_2 a_2 ) $の最大値は$ n / 2 \equiv j$で与えられる。角運動量の理論を思い出すと$K_\pm$,$K_3$と可換なカシミール演算子$ K^2 = K_{3}^{2} + \hf ( K_+ K_-  +  K_- K_+ ) $が存在することが分かる。$j$を使うとこの2次のカシミール演算子は
\[    K^2 = K_{3}^{2} + \hf ( K_+ K_-  +  K_- K_+ ) = j(j+1)    \tag{1.27}\]
と表せる。$K_{\pm}$はエルミート演算子ではないが、互いにエルミート共役であることに注意しよう。エルミートな組み合わせは
\[    K_1 = \frac{K_+ + K_- }{2} \, , ~~~ K_2 = \frac{K_+ - K_- }{2 i} \tag{1.28}\]
とすると得られる。$K_{i}$ $(i = 1,2,3)$を用いると代数はより知られた形
\[    [ K_i , K_j ] = i \ep_{ijk} K_k \ \tag{1.29} \]
で書ける。

 次に角運動量代数(1.29)の行列表現を考えよう。最も簡単な縮退状態は$n = 1$、縮退度2の時である。対応する2状態は$ a^\dagger_1 | 0 \ket \equiv |1 \ket$, $ a^\dagger_2 | 0 \ket \equiv |2 \ket$とラベルできる。これらを使うと演算子$K_+ = a^\dagger_1 a_2$の行列要素は
\[    \left(      \begin{array}{cc}        \bra 1 | K_+  | 1 \ket  & \bra 1 | K_+  | 2 \ket \\        \bra 2 | K_+  | 1 \ket & \bra 2 | K_+  | 2 \ket \\      \end{array}   \right)     =    \left(      \begin{array}{cc}        0  & \bra 1 | 1 \ket \\        0 & \bra 2 | 1 \ket \\      \end{array}    \right)     =    \left(      \begin{array}{cc}        0  & 1 \\        0 & 0 \\      \end{array}    \right)     = K_+     \tag{1.30}\]
と表せる。ただし、関係式
\[\begin{eqnarray}    K_+ | 1 \ket \! &=& \! a^\dagger_1 a_2 a^\dagger_1 | 0 \ket = 0 \, , \nonumber \\   K_+ | 2 \ket \! &=& \! a^\dagger_1 a_2 a^\dagger_2 | 0 \ket = a^\dagger_1 | 0 \ket = | 1 \ket    \tag{1.31} \end{eqnarray}\]
と2状態の直行性$\bra 1 | 2 \ket = \bra 2 | 1 \ket = 0$を用いた。同様に
\[    K_- \, = \,    \left(      \begin{array}{cc}        0  & 0 \\        1 & 0 \\      \end{array}    \right) ~ , ~~    K_3 \, = \,    \left(      \begin{array}{cc}        \hf  & 0 \\        0 & -\hf \\      \end{array}    \right)     \tag{1.32}\]
が得られる。これより$n = 1$の場合、$K_i$ ($i = 1,2,3$)の行列表現は本質的にパウリ行列$\si_i$で与えられることが分かる。つまり、$K_i = \frac{1}{2} {\si_i}$は代数(1.29)に従う。

 次に$n = 2$の場合は3つの縮退状態がありそれらは
\[    | 1 \ket \equiv \frac{( a^\dagger_1 )^2}{\sqrt{2}} | 0 \ket  , ~~    | 2 \ket \equiv a^\dagger_1 a^\dagger_2 | 0 \ket  , ~~    | 3 \ket \equiv \frac{( a^\dagger_2 )^2}{\sqrt{2}} | 0 \ket     \tag{1.33}\]
で与えられる。これらの状態を用いると$n =1$の場合と同様に$K_i$を$(3 \times 3)$行列として計算できる。結果は
\[    K_+ =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & \sqrt{2} & 0 \\        0 & 0 & \sqrt{2} \\        0 & 0 & 0 \\      \end{array}    \right) ,  \, ~    K_- =    \left(      \begin{array}{ccc}        0 & 0 & 0 \\        \sqrt{2} & 0 & 0 \\        0 & \sqrt{2} & 0 \\      \end{array}    \right) , \, ~    K_3 =    \left(      \begin{array}{ccc}        1 & 0 & 0 \\        0 & 0 & 0 \\        0 & 0 & -1 \\      \end{array}    \right)    \tag{1.34}\]
となる。よく知られているように、これらは角運動量代数の($3 \times 3$)行列表現となっている。

より一般に$n$番目の準位の2次元等方振動子は$n+1$の縮退度を持ち、この場合$K_i$は角運動量代数
\[    [ K_{i} , K_{j} ] =  i \ep_{ijk} K_k     \tag{1.35}\]
を満たす$(n+1) \times (n+1)$行列で表せる。あるいは代数(1.35)から始めるとする。これを抽象的な代数${\cal A}$とみなすと$K_i$は必ずしも行列である必要はない。この代数${\cal A}$は多くの行列表示を持ち、その次元は$(n+1)$ ($n = 0, 1, 2, \ldots$) で与えられる。$K_i$は$(n+1) \times (n+1)$行列であった。よって、$K_i$により生成される変換は$\exp (i K_i \theta^i )$の形で与えられこれらはユニタリー行列である。したがって、上で得られた行列表現は代数${\cal A}$のユニタリー表現であると言える。

以上をまとめると、2次元調和振動子の縮退状態は角運動量代数のユニタリー表現を成すことが分かる。言い換えると、これらの縮退状態は代数(1.35)のユニタリー表現を与えることが分かった。

2024-01-17

1. 調和振動子と$SU(N)$代数 vol.1

1.1 量子論における代数的手法の概要


前半部では代数的に解ける問題について考える。この手法においてカギとなるのはあらゆる物理系の量子論は観測量のなす代数のユニタリー既約表現とみなせるという考察である。以下では様々な例を通してこのユニタリー性と既約性の意味について調べ解明していく。ここではある特定の場合から始めてより一般的な理解を目指すというボトムアップ的なアプローチを採用するが、その前に全般的な考察をいくつか行うことも有用であろう。観測量の演算子のなす代数はどのような代数でも良いという訳ではない。代数の演算子あるいは要素(元)を実験室で観測できる実数と結びつける必要がある。したがって、代数のノルム(長さ)という概念が必要となる。また、演算子にエルミート性を与えるためには共役の概念も必要である。よって最低限の要件として観測量を$C^*$-代数で特徴付けなければならない。(ポアンカレ不変性などその他の要件は相対論的に不変な場の理論の文脈で必要となる。)

 ここで議論を補完するために$C^*$-代数の定義について簡単に触れる。まず、代数${\cal A}$は線形ベクトル空間とみなせることを思い出そう。これは体の係数を用いて代数の要素を追加できるという意味であった。ただし、我々に興味のある体は複素数である。したがって、$A, \, B\in {\cal A}$であれば$\lambda_1 \, A + \lambda_2 \, B \in {\cal A}$ ($\lambda_1, \, \lambda_2 \in {\mathbb C}$) となる。 さらに、代数要素のノルム$\vert\vert A \vert\vert$の存在が必要があり、このノルムに関して完全性を課すことを考える。また、代数要素に積の結合則を要請するとシュワルツ不等式$\vert \vert A\, B \vert \vert \leq \vert \vert A \vert \vert \, \vert \vert B \vert \vert $が成り立ち、このとき${\cal A}$はバナッハ代数となる。最後に${\cal A}$をバナッハ$*$-代数とするために$*$-演算を定義する必要がある。これは以下の条件を満たす。
\[ \begin{eqnarray}(A + B)^* &=& A^* + B^* \\(\lambda A)^* &=& {\bar \lambda} \, A^* \\ (A \,B )^* &=& B^* \, A^* \\ (A^*)^* &=& A \end{eqnarray} \]
ただし、$A, \, B\in {\cal A}$, $\lambda \in {\mathbb C}$である。(行列の随伴作用はこの$*$-演算の一例である。)

 バナッハ$*$-代数に条件$\vert\vert A^*\, A \vert \vert = \vert \vert A \vert \vert^2$を課すと$C^*$-代数になる。ゲルファント-ナイマルクの定理より$C^*$-代数はヒルベルト空間上の随伴をもつ演算子からなるバナッハ代数と等しいことが知られている。

 以上、代数について一般的な事柄を述べたが以下ではこれらについてあまり触れることはない。代数的に可解なモデルの具体例をとりあげて一般的な枠組みについての理解を深めることを目指す。まずは非常に初歩的な例である量子力学の調和振動子から始めよう。

1.2 一次元調和振動子


最初に角振動数$\om$で表せる1次元調和振動子を取り上げる。この振動子のハミルトニアンは
\[    H = \frac{1}{2} \left(    \hat{p}^2 + \om^2 \hat{q}^2    \right)    \tag{1.1} \]
で与えられる。演算子は位置(あるいは座標)$\hat{q}$と運動量$\hat{p}$に対応し、よく知られているハイゼンベルク代数
\[     [ \hat{q}, \hat{p} ] =  i    \tag{1.2} \]
を満たす。(ここでは$\hbar = 1$となる単位系を使用する。)これらの演算子を変数変換し次のようにパラメータ表示する。
\[    \hat{q} = \sqrt{\frac{1}{2\om}} (a^\dagger + a) \, , ~~~ \hat{p} = i \sqrt{\frac{\om}{2}} (a^\dagger - a)     \tag{1.3} \]
新しい演算子$a^\dagger$, $a$はそれぞれ生成演算子、消滅演算子として知られている。上の関係式から$a^\dagger$と$a$は
\[    a = \sqrt{\frac{\om}{2}} q + i \frac{p}{\sqrt{2 \om}} \, , ~~~ a^\dagger = \sqrt{\frac{\om}{2}} q - i \frac{p}{\sqrt{2 \om}}     \tag{1.4} \]
と表せる。これ以降、上に倣って演算子を表すハットは省略する。交換関係(1.2)より
\[    [a , a^\dagger ] = 1  \tag{1.5} \]
が分かる。これはハイゼンベルク代数の別の表現とみなせる。式(1.4)より直ちに
\[ \begin{eqnarray}    a^\dagger a &=& \frac{\om}{2} q^2 + \frac{p^2}{2 \om} - \hf \, ,    \tag{1.6} \\    H &=& \om \left( a^{\dagger} a  + \hf \right)   \tag{1.7} \end{eqnarray}\]
が得られる。演算子$a^\dagger a$が正であることは関係式
\[   \bra \al | a^\dagger a | \al \ket = \sum_{\la} \bra \al | a^\dagger | \la \ket   \bra \la | a | \al \ket   = \sum_\lambda \vert C_{\lambda \alpha}\vert^2 \ge 0    \tag{1.8} \]
から分かる。ただし、$| \al \ket$と$| \la \ket$は任意の状態を表し、$C_{\lambda \alpha} = \bra \la | a | \al \ket$, $C^*_{\lambda \alpha} = \bra \al | a^\dagger | \la \ket$である。また、完全性の関係式$\sum_\lambda | \la \ket \bra \la | = {\mathbb 1}$を用いた。基底状態は$a^\dagger a$の期待値を最小化することで得られる。式(1.8)から可能な最小値はゼロとなるので任意の$|\la \ket$に対して$C_{\lambda 0} = \bra \la | a | 0\ket = 0$が必要となる。したがって、次のように指定することで基底状態$| 0 \ket$を定義できる。
\[    a | 0 \ket = 0 \, , ~~~ H | 0 \ket = \frac{\om}{2} | 0 \ket   \tag{1.9} \]
しかし、まだこのような状態が存在することを示す必要がある。$x$-対角化された基底ではこの方程式は$\bra x | a | 0\ket = 0$と書ける。式(1.4)の$a$の表現を使うと、この式は
\[   \left( \sqrt{\frac{\om}{2}} x +  \frac{1}{\sqrt{2 \om}} \frac{\d}{\d x} \right)    \bra x | 0 \ket = 0    \tag{1.10} \]
と書ける。この式の解は
\[ \bra x | 0 \ket = C \exp \left( - \om \,\frac{x^2}{2} \right) \tag{1.11} \]
で与えられる。ここで、$C$は規格化定数である。基底状態について規格化可能な波動関数が得られたので、基底状態$| 0 \ket$が存在することが保証された。

2024-01-16

MathJaxではtabularが使えない、表作成はarrayで

LaTeXのtabular機能をWeb表示することが出来なくて困っていましたが、こちらを見てすんなり解決。数式表示にバグが出ているものとばかり思っていたのでなかなか気付きませんでした。

2024-01-05

アマゾンアソシエイトの画像が表示されなくなった件

ブログで表示されていたアマゾン商品の画像が見られなくなったので調べたところ今年から画像リンクが廃止されたとのこと。(2023年11月10日付けで発表されていたらしい。)これまで本の紹介などで多用していたので困りました。どうしようもないので商品画像のURLを取得して復旧することにしました。URLがない場合はテキストリンクに変更します。参考にしたサイトはこちら。量が多いので気長にやるか~。

2024-01-02

2023年末 伊勢、熊野

 下の子がお伊勢参りに行きたいというので冬休みを利用して母と3人で伊勢神宮へ。外宮参拝後に伊勢うどんで腹ごしらえしてから内宮へ。