2.2 束縛状態
この節では前節で導いた代数
{ [Li,Lj]=iϵijkLk[Li,Rj]=iϵijkRk[Ri,Rj]=iϵijk(−2Hm)Lk[Li,H]=[Ri,H]=0
においてH≤0の場合を考える。これは水素電子の束縛状態に対応する。はじめにルンゲ-レンツ・ベクトルを
Mi=√−m2HRi
と規格化すると、(2.29)は
{[Li,Lj]=iϵijkLk[Li,Mj]=iϵijkMk[Mi,Mj]=iϵijkLk
となる。これはO(4)代数であり、4次元回転の生成子に対応する。この代数を
Si=Li+Mi2, Ti=Li−Mi2
で表すと
[Si,Tj]=14[Li+Mi,Lj−Mj]=i4ϵijk(Lk−Mk+Mk−Lk)=0[Si,Sj]=14[Li+Mi,Lj+Mj]=i4ϵijk(Lk+Mk+Mk+Lk)=iϵijkSk[Ti,Tj]=14[Li−Mi,Lj−Mj]=i4ϵijk(Lk+Lk−Mk−Mk)=iϵijkTk
となる。よって、O(4)代数は2つの独立な(互いに可換な)角運動量代数Si, Tiで表せる。
水素原子のエネルギー・スペクトルを理解するためにハミルトニアンをSiとTiで表す必要がある。そのためにまずR2を計算する。
R2=(1mϵijkpjLk−impi−κˆxi)(1mϵiabpaLb−impi−κˆxi)=[1m2pjLk(pjLk−pkLj)−im2ϵijkpjLkpi−κmϵijkpjLkˆxi +iκmp⋅ˆx−κmϵiabˆxipaLb+iκmˆx⋅p+κ2−p2m2]=1m2p2L2+2p2m2−2κmrL2+iκm(ˆx⋅p−p⋅ˆx)+κ2−p2m2=p2m2(L2+1)−2κmrL2−2κmr+κ2=(p2m2−2κmr)(L2+1)+κ2=2mH(L2+1)+κ2
ただし、(ˆx⋅p−p⋅ˆx)の因子を変形するのに前節で導いた関係式
ˆx⋅p−p⋅ˆx=xirpi−pixir=xirpi−i∂∂xi(xir)−xirpi=(3r−xir2xir)=i2r
を用いた。(2.30), (2.36)からハミルトニアンは
H=−mκ221M2+L2+1
と表せる。式(2.32)に戻ると
S2=14(L2+M2+L⋅M+M⋅L)
が分かる。ここで、L⋅M and M⋅Lの因子はゼロになる。これは
R⋅L=1mϵijkpjLkLi=1mϵijkpjLkLi−LiLk2=i2mϵijkpjϵkimLm=0
からすぐに分かる。あるいは、→Lと→Rが直交していることから自明である。
これより、
S2+T2=L2+M22
(S2=T2) が分かる。よって、ハミルトニアンは
H=−mκ2212(S2+T2)+1
と表せる。Siは角運動量代数に従うので、S2+T2 as S2+T2=2S2=2s(s+1)と書ける。ただし、s=12q (q=0,1,2,⋯) である。すなわち、
S2+T2=q(q2+1)
となる。よって、ハミルトニアンは
H=−mκ221n2 (n≡q+1=1,2,3,⋯)
と書き換えられる。この結果はHの固有値であり、正しい水素原子のエネルギー・スペクトルに対応する。これはボーア理論と同じ結果であり、シュレディンガー方程式から得られる結果とも一致する。上式のnは主量子数に相当することが分かる。
縮退度
角運動量演算子がLi=Si+Tiと書けるので、SiとTiを用いて固有状態の縮退度を数えることができる。よって、固有状態は|s,ms,t,mt⟩とラベルできる。ここで、s=tであり、ms,mt=s,s−1,⋯,−sとおける。こりより縮退状態の数は(2s+1)2=(q+1)2=n2と数えられ、量子力学の結果と同じである。Liの量子数はl=0,1,2,⋯,q=n−1(=2s)の値をとる。よって、水素原子のエネルギー・スペクトルの縮退度もシュレーディンガー方程式から得られる結果と同じになる。
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