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2024-12-23

13. ウィグナーの D 関数とその応用 vol.3

13.2 ウィグナー-エッカルトの定理


リー群 G で対称性が記述される物理系において、あるテンソル演算子 QA に注目しよう。前節で解説したように状態は G の表現 R とその表現に属す特定のベクトル、例えば α で指定できる。対称性のもとで状態 |R,α の変換は群の要素 U(θ)G を作用させることにより実行できる。ただし、θ は群のパラメータを表す。今節では、任意の階数をもつテンソル演算子 QA の行列要素を考える。一般にそのような行列要素は
R,α|QA|R,m=R,α|UU1QAUU1|R,m
と表せる。対称性のもとで QA の変換は QA=U1QAU で与えられる。状態 U1|R,m は同じ表現に属する状態の線形結合で表せることに注意する。定義より、これはウィグナー D 関数を用いて
U1|R,m=nD(R)mn(g)|R,n
と展開できる。

 簡単な例として、回転のもとでの位置演算子 xa (a=1,2,3) を考えよう。対応する群は G=SO(3) であり、群の要素は U(θ)=exp(iLaθa) で与えられる。ただし、La=ϵabcxbpc は角運動量演算子である。2.1節で解説したように、Laxb は交換関係
[La,xb]=iϵabcxc
を満たす。これは、位置演算子 xa が回転のもとでベクトルとして変換することを示す。実際、微小な θa において xa は
U1(θ)xaU(θ)(1iLbθb)xa(1+iLcθc)xai[Lb,xa]θb=xa+ϵbacxcθb=(δab+i(iϵabc)θc)xb=(1+iTcθc)abxb
と変換する。ただし、(Tc)ab=iϵabc である。よって、xa=U1xaU は
xa=Dab(g)xb
と表せる。ここで、Dab(g) は随伴表現に属す SO(3) 群の要素である。
Dab(g)=exp[i(Tc)abθc]
これは 3×3 行列で表せる SO(3) 群のスピン1表現でもある。

 極座標を用いると座標 xa は
(x1,x2,x3)=(rsinϑcosφ,rsinϑsinφ,rcosφ)
と書ける。位置演算子の球面基底 (spherical basis)
x±=12(x1ix2),  x3
で与えられる。これらは球面調和関数 Yml(ϑ,φ)l=1 を固定し m=0,±1 としたものに比例する。回転のもとで動径距離 r は不変なので、変換(13.62)は
xm=rYm1(ϑ,φ)xm=rDmm(g)Ym1(ϑ,φ)
と表せる。ただし、Dmm(g)SO(3) 随伴表現の行列要素である。これは SO(3) スピン1表現のウィグナー D 関数
Dmm(g)=D(l=1)mm(g)
と同じである。

 同様に、階数2の対称テンソル
Tab=xaxb13δabx2
も球面調和関数 Yml(ϑ,φ)l=2 と固定し、m=0,±1,±2 とおいたものに比例する。回転のもとで Tm=r2Ym2(ϑ,φ) の変換は
Tm=r2Ym2(ϑ,φ)Tm=r2D(l=2)mm(g)Ym2(ϑ,φ)
と表せる。ただし、D(l=2)mm(g)SO(3) スピン2表現のウィグナー D 関数である。

 これらの例から、対称性のもとでテンソル QA は群 G の表現 R として変換することが分かる。具体的には、リー群 G のユニタリー既約表現を R とすると、R に属すテンソル演算子 QA の変換は
U1(θ)QAU(θ)=D(R)AB(g)QB
と表せる。ただし、D(R)AB(g) は群 G の表現 R に属すウィグナー D 関数である。

 ここで、冒頭(13.58)の行列要素 R,α|QA|R,m に戻り、これをウィグナー D 関数で表すことを考えよう。すでに(13.59)で状態 U1|R,m はウィグナー D 関数で展開できることを見た。この複素共役は
R,α|U(θ)=βR,β|D(R)αβ(g)
と表せる。 式(13.59), (13.70), (13.71)から行列要素(13.58)は
R,α|QA|R,m=β,nD(R)αβ(g)D(R)AB(g)D(R)mn(g)R,β|QB|R,n
と書ける。ただし、テンソル演算子 QA は表現 R に属し、これは必ずしも R あるいは R に一致しないことに注意する。関係式(13.72)は全ての θ つまり任意の群の要素について成り立つので、
R,α|QA|R,m=dV(g)β,nD(R)αβ(g)D(R)AB(g)D(R)mn(g)(G の体積)R,β|QB|R,n
と書き換えることができる。ここで、 D(R)AB(g)D(R)mn(g) の因子は
D(R)AB(g)D(R)mn(g)=R,A|ˆg|R,BR,m|ˆg|R,n=˜R,λ,σCRR˜RAmσCRR˜RBnλ˜R,σ|ˆg|˜R,λ=˜R,λ,σCRR˜RAmσCRR˜RBnλD(˜R)σλ(g)
と計算できる。ただし、CRR˜RBnλCRR˜RAmσ はクレブシュ-ゴルダン係数であり、2状態の合成に関するクレブシュ-ゴルダンの定理(13.5)から次のように定義される。
|R,B|R,n=˜R,λCRR˜RBnλ|˜R,λR,A|R,m|=˜R,σCRR˜RAmσ˜R,σ|
CRR˜RAmσ=(CRR˜RAmσ)=CRR˜RAmσ は係数 CRR˜RAmσ の共役表現である。また、式(13.74)内の群の要素 ˆg は同じ表現 ˜R に属し、これらの合成も定義から同じ表現に属す。

2024-12-16

13. ウィグナーの D 関数とその応用 vol.2

ピーター-ワイルの定理

 前回のエントリーではリー群 G 上で定義されるウィグナーの D 関数
D(R)αβ(g)=[ei(Ta)θa]αβ=R,α|eiˆTaθa|R,β
を導入した。リー群上の関数について、ピーター-ワイルの定理と呼ばれる重要な定理が存在する。その主張は以下の通り。
コンパクトなリー群 G 上で定義される任意の関数 f(g) はウィグナー D 関数 D(R)αβ(g) を用いて展開できる。ただし、RG のユニタリー既約表現を表す。展開式は具体的にf(g)=Rα,βb(R)αβD(R)αβ(g)と表せる。ただし、b(R)αβ は展開係数である。
最も簡単な例は U(1) 群で与えられる。群の要素は g=eiθ (0θ2π) で与えられる。任意の表現に対して、この要素は gn=einθ (nZ) とパラメータ表示できる。これは gn(θ=0)=gn(θ=2π) が満たされることから分かる。ピーター-ワイルの定理を適用すると、θ についての任意の周期関数は
f(θ)=n=bneinθ
と展開できることが分かる。これは f(θ) のフーリエ展開に他ならない。よって、ピーター-ワイル展開(13.38)はフーリエ展開(13.39)の群論的な一般化と見做せる。フーリエ逆変換の存在から、(13.38)の逆変換を定義するには群の要素 g に関する積分が必要であることが分かる。

リー群要素の積分

 12.2節で解説したように、フレーム場1形式は
g1dg=itaEaαdθα
で定義される。フレーム場 Eaα を用いると、カルタン-キリング計量は
gαβ=EaαEaβ
と表せる。これらについて詳細は12.2節の(12.25)-(12.28)を参照されたい。正の行列式 detE>0 を仮定すると、(13.41)から |detg|=detE が分かる。よって、リー群 G の体積要素は
dV(g)=detEdθ1dθ2dθdimG
で与えられる。

 ここで、ある固定された群の要素 hG を用いて g の代わりに gh を変数として扱う。つまり、
(gh)1d(gh)=itaEaαdθαdV(gh)=detEdθ1dθ2dθdimG
とする。(13.43)の左辺は
h1(g1dg)h=h1(itaEaαdθα)h=Dab(h)(itbEaαdθα)
と計算できる。ただし、随伴表現
h1tah=Dab(h)tb
を導入した。(13.43)と(13.45)から
Ebα=Dab(h)Eaα
が分かる。これを行列方程式 Eαb=EαaDab(h) と解釈して、行列式を取ると
detE=detEdetD(h)
を得る。ただし、D(h)=exp(iTcθc) である。前回冒頭で解説したように、随伴表現の生成子は (Tc)ab=ifcab と構造定数で与えられる。これは添え字について反対称なので、TrTc=0 となる。つまり、任意のコンパクトなリー群の随伴表現に対して detD(h)=1 が常に成り立つ。したがって、detE=detE であり、体積要素の不変性
dV(gh)=dV(g)
が導かれる。これは、実変数の積分測度が、例えば d(x+h)=dx と書けるように、並進不変であることの群論的な類推であると解釈できる。

 別のフレーム場を ˜Eaα で表し、
dgg1=itb˜Ebαθα
と定義する。このとき、フレーム場1形式
g1dg=itaEaαdθα
は次のように変形できる。
g1dg=g1(dgg1)g=i(g1tbg)˜Ebαθα=iDba(g)ta˜Ebαθα
これより関係式
Eaα=Dba(g)˜Ebα
を得る。よって、上と同様に detE=det˜E が求まる。これは、g1dg で定義された(13.42)の体積要素 dV(g) が dgg1 で定義された体積要素と同じであることを意味する。言い換えると、体積要素は右作用、左作用に関わらず同じである。

大直交性定理

 体積要素 dV(g) を用いると、群の要素 g についての積分を定義できる。この積分が定義されれば、群の要素の様々な関数についての積分を考えられる。例えば、ウィグナー D 関数の直交関係は
dV(g) D(R)αβ(g)D(R)mn(g)=1(dimR)δαmδβnδRR
と表せる。ただし、dimR は表現 R の次元である。この関係式はコンパクトなリー群の行列表現一般に成り立ち、大直交性定理として知られている。この直交関係は次のように示される。
dV(gh) D(R)αβ(gh)D(R)mn(gh)=dV(g) D(R)αγ(g)D(R)γβ(h)D(R)mk(g)D(R)kn(h)=[dV(g) D(R)αγ(g)D(R)mk(g)]D(R)γβ(h)D(R)kn(h)=[dV(g) D(R)αγ(g)D(R)mk(g)]D(R)βγ(h)D(R)kn(h)
この方程式は h と独立に成り立つことに注意する。表現 R, R がユニタリーで既約なので、(13.54)から h 因子を除くには、角括弧の中の積分に δγkδRR が含まれることが要請される。同様に、ghhg に置き換えると
dV(hg) D(R)αβ(hg)D(R)mn(hg)=dV(g) D(R)αγ(h)D(R)γβ(g)D(R)mk(h)D(R)kn(g)=[dV(g) D(R)γβ(g)D(R)kn(g)]D(R)γα(h)D(R)mk(h)
となるので、上式の角括弧の中の積分は δγk に比例することが分かる。以上から、規格化を考慮するとウィグナー D 関数の大直交性定理(13.53)が得られる。

2024-12-12

13. ウィグナーの D 関数とその応用 vol.1

 13.1 ウィグナーの D 関数


随伴表現

 まず最初に SU(N) 群の随伴表現を考える。12.2節と同様に群の要素は g=exp(itaθa) (a=1,2,,N21) と表せる。ただし、taSU(N) 代数の生成子であり、N×N トレース・ゼロのエルミート行列で与えられる。規格化は(慣例として) Tr(tatb)=12δab と取る。生成子 ta を用いると SU(N) 代数は
[ta,tb]=ifabctc
と定義される。ここで、fabc は代数の構造定数 である。任意の N×N 行列 Φ は生成子 taN×N 恒等行列 1 で Φ=ϕata+ϕ01 と展開できる。ϕaϕ0 は N2 個の係数を表す。

 つぎに、随伴表現を導入するに当たり、行列 g1tag を考えよう。関係式 Tr(g1tag)=Tr(ta)=0 から、この行列は
g1tag=Dab(g)tb
とパラメータ表示できる。ただし、Dab(g) は展開係数を表す。この表示形式を用いると群の要素の合成 g1g2=g3 に対して、
Dab(g1)Dbc(g2)=Dac(g3)
が成り立つ。よって、Dab(g) をある行列の行列成分 (a,b) と解釈すると Dab(g) はSU(N) 群の表現を成す。この表現を随伴表現を呼ぶ。

 群の要素 g の無限小展開は微小の θa に対して g=exp(itaθa)1+itaθa と表せる。同様に、Dab(g)δab+i(Tc)abθc と書ける。ただし、(Tc)ab はリー代数の要素の随伴表現である。式(13.2)の無限小展開は
(1itbθb)ta(1+itcθc)=ta+i[ta,tc]θc+δabtb+i(ifcab)θctb
と計算できるので、(Tc)ab=ifcab が分かる。従って、リー代数の随伴表現は構造定数で与えられる。なお、構造定数のヤコビ律
fabdfcde+fbcdfade+fcadfbde=0
から (Tc)abSU(N) 代数に従うことが確認できる。

クレブシュ-ゴルダンの定理

 行列演算子が作用する状態はヒルベルト空間上で定義され、これは内積の定義される一種のベクトル空間である。それぞれの状態は |R,α と表示される。ただし、R は群の既約表現であり、α は表現 R に属すベクトルを指定する。これらの状態の直積は
|R,α|R,β=R,γCRRRαβγ|R,γ
と表せる。ここで、CRRRαβγ は展開係数であり、クレブシュ-ゴルダン係数と呼ばれる。クレブシュ-ゴルダンの定理によるとクレブシュ-ゴルダン係数は群の性質から完全に決定される。

SU(3) 群のクレブシュ-ゴルダン係数

 簡単な例として、SU(3) 群の 3 表現の直積を考えると12.3節で議論したように
33=63
であった。3 表現のテンソルをそれぞれ ϕiχj (i,j=1,2,3) とすると、これらの積は階数2のテンソル Vij=ϕiχj で表せる。以前同様、この合成テンソルは対称成分と反対称成分に分離できる。
Vij=V(ij)+V[ij]=12(δkiδlj+δliδkj)Vkl+12(δkiδljδliδkj)Vkl=12(δikδjl+δilδjk)Ψkl+12ϵijmΨm
ただし、関係式 δkiδljδliδkj=ϵijmϵklm と定義式 ΨmϵklmVkl を用いた。Ψij は表現 6 に属す階数 (2,0) のテンソル、Ψm は表現 3 に属す階数 (0,1) のテンソルをそれぞれ表す。SU(3) 群の既約表現とそのテンソル表示の一例は以下の通り。(12.3節から再掲)
(p,q)  (p,q)(1,0)3Ψi  (3,0)10Ψijk(0,1)3Ψi  (0,3)10Ψijk(2,0)6Ψij  (2,1)15Ψkij(0,2)6Ψij  (1,2)15Ψjki(1,1)8Ψji  (2,2)27Ψklij
今の場合、還元公式(13.5)は具体的に
|3,i|3,j=C336ij(kl)|6,klC333ijm|3,mC336ij(kl)=12(δikδjl+δilδjk)C333ijm=12ϵijm
と書ける。これらの共役表現は
33=63|3,i|3,j=C336ij(kl)|6,klC333ijm|3,mC336ij(kl)=12(δkiδlj+δliδkj)C333ijm=12ϵijm
と表せる。

 同様に、表現 3 のテンソルと表現 3 のテンソルの直積は
Vji=Ψji+13δjiTr(V)=δkiδjlΨlk+13δjiVkk
で与えられる。ただし、ΨjiVji のトレース・ゼロ成分 (Ψii=0) であり、上の表の随伴表現 8 に対応する。因子 13 は δii=3 のため必要となる。この式は5.3節の関係式
Tij=(Ttraceless)ij+13δijTkk
と同じである。SU(3) 群の既約表現を用いるとこれは
33=81
と表せる。このとき、還元公式(13.5)は
|3,i|3,j=C338ij(kl)|8,klC331ij(kk)|1,kkC338ij(kl)=δkiδjlC331ij(kk)=13δji
と書き下せる。

 つぎに、3 テンソルと 6 テンソルの直積も対称成分・反対称成分に分離して、
Vi(jk)=V(i(jk))+V[i(jk)]=14(Vijk+Vikj+Vjki+Vkji)+14(ϵijmΨmk+(jk))=14(δmiδnjδpk+δmiδnkδpj+δmjδnkδpi+δmkδnjδpi)Ψmnp+14(ϵijmδlk+ϵikmδlj)Ψml
と表せる。ただし、ΨmnpΨml はそれぞれ 10 表現と8 表現のテンソル表示である。対応する還元公式(13.5)とクレブシュ-ゴルダン係数は次のように表せる。
36=108|3,i|6,jk=C3610i(jk)(mnp)|10,mnpC368i(jk)(lm)|8,lmC3610i(jk)(mnp)=14(δmiδnjδpk+δmiδnkδpj+δmjδnkδpi+δmkδnjδpi)C368i(jk)(lm)=14(ϵijmδlk+ϵikmδlj)

 最後に、随伴表現 8 のテンソル、例えば ΨjiΦlk の直積を考える。定義からこれらはトレース・ゼロなので、その直積 Vjlik=ΨjiΦlk
Vjlik=Tjlik+13δliTjaak+13δjkTblib+19δliδjkTbaab
と分解できる。ただし、Tjlik はテンソル Vjlik のトレース・ゼロ成分である。SU(3) 既約表現のテンソル表示 Ψj1j2jqi1i2ip はトレース・ゼロであり、上下の添え字について完全対称なので、テンソル Vjlik は次のように変形できる。
Vjlik=V(jl)(ik)+V[jl](ik)+V(jl)[ik]+V[jl][ik]=Ψjlik+12ϵjlmΨikm+12ϵikmΨjlm+14ϵjlmϵiknΨnm+13δli14ϵjamϵaknΨnm+13δjk14ϵblmϵibnΨnm+19δliδjk14ϵbamϵabnΨnm=Ψjlik+12ϵjlmΨikm+12ϵikmΨjlm+14ϵjlmϵiknΨnm+112δliΨjk+112δjkΨli29δliδjkΨmm
ただし、関係式 ϵjamϵakn=(δjkδmnδjnδmk) と ϵbamϵabn=2δmn を用いた。随伴テンソル成分は
14ϵjlmϵiknΨnm+112δliΨjk+112δjkΨli=14(12ϵjlmϵikn+13δliδmkδjn)Ψnm+14((jk)(li))Ψnm
と書けることに注意しよう。以上より、対応する還元公式(13.5)とクレブシュ-ゴルダン係数は次のように表せる。
88=271010881|8,ij|8,kl=C8827(ij)(kl)(mnrs)|27,mnrsC8810(ij)(kl)(mrs)|10,mrsC8810(ij)(kl)(mrs)|10,mrsC888(ij)(kl)(mn)|8,mnC888(kl)(ij)(mn)|8,mnC881(kl)(ij)(mm)|1,mmC8827(ij)(kl)(mnrs)=14(δmiδnkδjrδls+δmkδniδjrδls                          +δmiδnkδlrδjs+δmkδniδlrδjs)C8810(ij)(kl)(mrs)=12ϵjlmδriδskC8810(ij)(kl)(mrs)=12ϵikmδjrδlsC888(ij)(kl)(mn)=14(12ϵjlmϵikn+13δliδmkδjn)C888(kl)(ij)(mn)=14(12ϵljmϵkin+13δjkδmiδln)C881(kl)(ij)(mm)=92δliδjk

2024-12-04

12. リー群の幾何学的側面 vol.5

コンパクト群

 前回のエントリーでは SU(N) 群の既約表現を求めるテンソル解析について解説した。既約表現を構成するこのテンソル解析はコンパクト群一般にも適用される。実際、ワイル (Weyl) による次の定理が存在する。
  1. コンパクト群の全てのユニタリー既約表現は有限次元である。これらの既約表現は定義表現のテンソル積を適切に還元して得られる。
  2. 非コンパクト群の全ての有限次元の表現は非ユニタリーである。また、非コンパクト群の全てのユニタリー表現は無限次元である。
ここで、コンパクト群は有限体積をもつリー群 G で定義される。12.2節で定義したカルタン-キリング計量は
ds2=2Tr(g1dgg1dg)=EaμEaνdθμdθν=gμνdθμdθν
であった。ただし、g1dg=itaEaμdθμG のフレーム場1形式である。ta (a=1,2,,dimG) はリー代数 G の基底(生成子)を成す行列で代数  [ta,tb]=iCabctc を満たす。Cabc は G の構造定数であり、規格化は Tr(tatb)=12δab で与えられる。ことのき、リー群 G の体積要素は
dV=|detg|dθ1dθ2dθdimG
で与えられる。ただし、detg は計量テンソル gμν=EaμEaν を行列表示した際の行列式を表す。以上より、コンパクト群は有限体積の条件式
GdV<
で定義される。12.1節の最後に紹介したように、カルタン-キリングによる半単純リー代数の分類で現れたリー群は、パラメータが実数のとき全てコンパクト群となる。一方、非コンパクト群の典型的な例はローレンツ群 SO(1,3) で与えられる。一般のローレンツ代数、すなわち SO(1,d+1) 代数の定義については11.3節を参照されたい。

リー代数のランクに関するワイルの定理

 リー代数 G のランク(階数)はその基底行列 ta のなかで同時対角化可能な行列の最大数で定義される。例えば、パウリ行列は唯一つの対角行列を持つので SU(2) 代数のランクは1である。同様に、1.5節で紹介したゲルマン行列(1.49)は2つの同時対角行列を持つので SU(3) 代数のランクは2である。

 リー代数 G の基底行列 ta で構成されるより大きな集合 {ta,tatb,tatbtc,} を考える。これには t2=δabtatb など添え字が縮約された要素も含まれる。行列 ta についての特性方程式(あるいはケイリー・ハミルトンの定理)を用いるとこれらの次数を下げることができる。しかし、一般にこれらの集合要素は元々の代数 G とは異なる代数を成す。というのも、t2 などの縮約された要素は必ずしも元の代数の要素に属さないためである。このように構成された(大きな)代数は G の包絡代数 (enveloping algebra) と呼ばれる。包絡代数には元となるリー代数の全ての要素と交換する要素が含まれる。例えば、角運動量代数において2次の演算子 J2[J2,Ja]=0 を満たすので角運動量代数の全ての要素 Ja (a=1,2,3) と交換する。このように元となるリー代数 G の全ての要素と交換する演算子をカシミール演算子と呼ぶ。この演算子は包絡代数の中心 (center) を成す。リー代数のランクに関してもワイルによる次の定理が存在する。
  1. リー代数 G において独立なカシミール演算子の数はそのリー代数のランクに等しい。
  2. リー群 G において独立な不変テンソルの数は対応するリー代数 G のランクに等しい。
SU(2) 代数のランクは1なので、カシミール演算子は J2 の1つだけであり、不変テンソルは唯一 ϵij で与えられる。前回で見たように、これらの事実から SU(2) 群の既約表現が求まる。

カシミール演算子: SU(3) とそれ以外

 以上より、コンパクト・リー群の既約表現を求めるにあたりカシミール演算子と不変テンソルが重要であることが分かった。以下では、SU(3) 代数のカシミール演算子を考えることでこの点の理解をさらに深める。SU(3) 代数のランクは2であるので、2つの不変テンソルと2つのカシミール演算子が存在する。不変テンソルは生成子 ta (a=1,2,,8) の多重項のトレースから得られる。というのも、そのようなトレースは変換 tah1tah のもとで不変なためである。ただし、hG=SU(3) である。ここで、SU(3) 群の要素 g=exp(itaθa)gh1gh=exp(ih1tahθa) と変換することに注意しよう。トレース Tr(tatb) の不変性は次のように直接確認できる。
Tr(tatb)Tr(h1tahh1tbh)=Tr(tatb)=12δab
不変テンソル δab に対応するカシミール演算子は δabtatb=tata=t2 で与えられる。

 もう一方のカシミール演算子は3次のオーダーのトレース Tr(tatbtc) から計算できる。このトレースは次にように対称成分と反対称成分に分離できる。
Tr(tatbtc)=Tr[ta(12[tb,tc]+12{tb,tc})]=12Tr[ta(iCbcktk)]+12Tr[ta{tb,tc}]=i4Cabc+14dabc
ただし、添え字について対称な記号
dabc2Tr[ta(tbtc+tctb)]
を導入した。リー代数 [ta,tb]=iCabktk を用いると、(12.62)の反対称成分は2次のトレース Tr(tatk) に還元される。よって、(12.62)から新しいカシミール演算子を求めるにはこの反対称部分は必要ない。言い換えると、2次のトレースと独立な3次のトレースは対称化されたトレース(12.63)で与えられる。この不変な対称テンソルに対応するカシミール演算子は dabctatbtc と表せる。SU(2) の場合は、ta=σa2 となり (tbtc+tctb)=12δbc1 が成り立つので、対称記号 dabc はゼロとなることに注意しよう。

 同様に、SU(N) (N4) のカシミール演算子も高次の対称化されたトレースから計算できる。上記の 14dabc=12Tr(tatbtc+tatctb) に対応する N 次の対称記号を κa1a2aN とすると、これは対称化されたトレースを用いて
κa1a2aN=1(N1)!σSN1Tr(ta1taσ2taσ3taσN)
と定義できる。ただし、σSN1 についての和は添え字 {2,3,,N} の置換 σ について取る。ここで、σσ=(2 3  Nσ2σ3σN) とラベルされる。不変な対称テンソル κa1a2aN に対応するカシミール演算子は κa1a2aNta1ta2taN で与えられる。

2024-12-03

12. リー群の幾何学的側面 vol.4

12.3 既約表現



この節ではリー群要素 gG の既約表現について考える。12.1節の初めに紹介した群の公理(合成則、結合則、単位元・逆元の存在)は群の要素を(可逆な)正則行列と見做しても成立する。実際、群の要素と行列の集合は準同型 (homomorphic) であることが知られている。12.2節の(12.16)で SU(2) 群の 2×2 行列表現 g(θ)=exp(iσa2θa) を導入した。これは SU(2) の定義表現と呼ばれる。この表現からさらに高次元の行列表現を構成できる。例えば、行列のブロック対角化
(g1(θ)00g1(θ))(g2(θ)00g2(θ))=(g1g200g1g2).
を用いると、4×4 行列による可約表現を得る。一方、既約表現は行列の相似変換 (similarity transformation) によってブロック対角化されない表現で定義される。ここで、相似変換は一般に正則行列を変換行列として定義される。例えば、(12.51)の相似変換は 4×4 特殊ユニタリー行列 U を用いて
U(g1(θ)00g1(θ))UU(g2(θ)00g2(θ))U=U(g1g200g1g2)U.
と表せる。

復習:テンソル解析

 5.3節で解説したように SU(3) 群の既約表現はテンソル解析によって構成できる。以下では一般のリー群についてテンソル解析を用いてどのように既約表現が構成できるかを見る。まず、N×N 行列はベクトル空間 V の線形変換を定義することに注意する。V の基底を ϕi (i=1,2,N) とおく。このとき ϕi の変換は
ϕi=gijϕi
と表せる。ただし、gij は対象となる群 G の要素 g(θ)=exp(itaθa) の行列成分である。ここで、gN×N 行列表現であり、ta (a=1,2,,N=dimG) はリー代数 G の生成子を表す。

 つぎに、2つの基底の直積 ΨijϕiχjVV を考える。χj は2つ目のベクトル空間 V の基底を表す。Ψij の変換は上と同様に
Ψij=gikgjlΨklGij,klΨkl
と書ける。このとき、Gij,kl は群の合成則 g(1)g(2)=g(3) を保存する。
G(1)ij,klG(2)kl,mn=g(1)ikg(2)kmg(1)jlg(2)ln=g(3)img(3)jn=G(3)ij,mn
この関係式は Gij,kl が2つの表現の合成表現であることを示している。一般に、このような合成表現は既約であり、対称成分と反対称成分を含む。任意の階数の合成表現から既約表現を得るには、次の還元則を適用する必要がある。
  1.  対称成分と反対称成分を分離する。5.3節の(5.21), (5.22)で見たように対称成分と反対称成分はそれぞれ独立に変換する。12(Ψij±Ψji)=12(gikgjlΨkl±gjkgilΨkl)=gikgjl12(Ψkl±Ψlk)この関係は群の構造に依らない。
  2. それぞれの群に応じて不変なテンソルが存在する。これらの不変テンソルを用いてテンソルの添え字を縮約できる。
定義表現 g(θ)=exp(itaθa) の複素共役は g(θ)=exp(itaθa) で与えられる。よって、変換(12.53)の複素共役は
χi=gijχj
と表せる。この共役表現は明らかに(12.53)と同じ合成則に従う。慣例として、共役表現の添え字は上付き添え字で表示される。つまり、テンソルの一般形は
Ψj1j2jqi1i2ip
と表せる。ただし、p, q は自然数である。注意として、SU(2) 群の場合、
g=exp(iσa2θa)=eiσ12θ1+iσ22θ2iσ32θ3σ2gσ2=σ2exp(iσa2θa)σ2=eiσ12θ1+iσ22θ2+iσ32θ3=g
が成り立つ。ただし、パウリ行列の関係式 (σ1)2=(σ2)2=(σ3)2=1σiσj=σjσi (ij) を用いた。SU(2) 群の要素の1つとして ˜g=exp(iσ22π)=iσ2 と表せるので、関係式(12.60)は ˜gg˜g=g と書ける。すなわち、SU(2) 群では共役表現を考える必要がない。この意味で関係式(12.60)は SU(2) 群の擬実数性と言及されることがある。

 ユニタリー表現の場合、gij=(g)ji=(g1)ji となるので、5.3節の(5.27)で解説したようにユニタリー性から δij が不変であることが導ける。
δij=gikgjlδkl=gikgjk=gjk(g)ki=(gg)ij=δij
また、特殊群の場合、群の要素を行列と見做すとその行列式は1となる。
detg=σSNsgn(σ)g1σ1g2σ2gNσN=1
ただし、σ は添え字{1,2,,N} あるいは対称群 SN の要素の置換を表す。置換の符号記号は階数 N のレビ-チビタ記号に他ならない。
sgn(σ)=ϵσ1σ2σN
つぎに、群の要素の行列表現において行のシャッフル g=(gij)gτ=(gτij) を考える。ただし、τ は要素 {1,2,,N} の別の置換を表す。このとき、gτ の行列式は
detgτ=σSNsgn(σ)gτ1σ1gτ2σ2gτNσN=σSNsgn(σ)g1(τ1σ)1g2(τ1σ)2gN(τ1σ)N=sgn(τ)ρSNsgn(ρ)g1ρ1g2ρ2gNρN=sgn(τ)detg=sgn(τ)
と表せる。ただし、ρ=τ1σ であり、関係式 sgn(σ)=sgn(τ)sgn(τ1σ) を用いた。ここで、σSN についての総和は ρSN についての総和と等しくなることに注意しよう。式(12.63)と(12.64)からレビ-チビタ記号の不変性が直ちに導かれる。
ϵi1i2iN=gi1σ1gi2σ2giNσNϵσ1σ2σN=ϵi1i2iNdetg=ϵi1i2iN
これは5.3節で示した SU(3) の場合
ϵijk=UiaUjbUkcϵabc=ϵijkdetU=ϵijk
の一般形である。反対称テンソル ϵi1i2iN あるいは ϵi1i2iN との縮約をとると、テンソル(12.58)の上付き添え字 (jj2 ... jqと下付き添え字 (i1 i... ipはそれぞれ完全対称であることが保証される。さらに、クロネッカーのデルタ δij との縮約からトレース・ゼロのテンソルのみが有効であることが分かる。

 SU(2) 群の場合、上述の通り、下付き添え字だけのテンソル Ψi1i2ip から既約表現を分類できる。ただし、添え字は1か2の値をとる。反対称テンソル ϵij との縮約を考えると、添え字は完全対称に取れる。よって、既約表現の次元は p+1 で与えられる。通常、既約表現は j=p/2 で特徴付けられるが、この値は SU(2) 代数の生成子 J3 の最大の固有値(スピン)に対応する。