ピーター-ワイルの定理
前回のエントリーではリー群 $G$ 上で定義されるウィグナーの $\D$ 関数
\[\begin{eqnarray} \D_{\al\bt}^{(R)} (g ) &=& \left[ e^{i (T^a ) \th^a} \right]_{\al \bt} \nonumber \\ &=& \bra R , \al | e^{i \hat{T}^a \th^a } | R , \bt \ket \tag{13.36} \end{eqnarray}\]
を導入した。リー群上の関数について、ピーター-ワイルの定理と呼ばれる重要な定理が存在する。その主張は以下の通り。
コンパクトなリー群 $G$ 上で定義される任意の関数 $f(g)$ はウィグナー $\D$ 関数 $\D_{\al\bt}^{(R)} (g)$ を用いて展開できる。ただし、$R$ は $G$ のユニタリー既約表現を表す。展開式は具体的に\[ f(g) \, = \, \sum_{R} \sum_{\al , \bt} b_{\al\bt}^{(R)} \, \D_{\al\bt}^{(R)} (g) \tag{13.38} \]と表せる。ただし、$b^{(R)}_{\al\bt}$ は展開係数である。
最も簡単な例は $U(1)$ 群で与えられる。群の要素は $g = e^{i \th}$ $( 0 \le \th \le 2 \pi )$ で与えられる。任意の表現に対して、この要素は $g_n = e^{in \th}$ $( n \in \mathbb{Z} )$ とパラメータ表示できる。これは $g_n ( \th = 0 ) = g_n ( \th = 2 \pi )$ が満たされることから分かる。ピーター-ワイルの定理を適用すると、$\th$ についての任意の周期関数は
\[ f (\th ) \, = \, \sum_{n = -\infty}^{\infty} b_n e^{in \th} \tag{13.39} \]
と展開できることが分かる。これは $f (\th )$ のフーリエ展開に他ならない。よって、ピーター-ワイル展開(13.38)はフーリエ展開(13.39)の群論的な一般化と見做せる。フーリエ逆変換の存在から、(13.38)の逆変換を定義するには群の要素 $g$ に関する積分が必要であることが分かる。
リー群要素の積分
12.2節で解説したように、フレーム場1形式は
\[ g^{-1} d g \, = \, i t^a E^a_\al d \th^\al \tag{13.40} \]
で定義される。フレーム場 $E^a_\al$ を用いると、カルタン-キリング計量は
\[ g_{\al \bt} \, = \, E^a_\al E^a_\bt \tag{13.41} \]
と表せる。これらについて詳細は12.2節の(12.25)-(12.28)を参照されたい。正の行列式 $\det E > 0$ を仮定すると、(13.41)から $\sqrt{| \det g |} = \det E$ が分かる。よって、リー群 $G$ の体積要素は
\[ d V (g) \, = \, \det E \, d \th^1 d \th^2 \cdots d \th^{{\rm dim}G} \tag{13.42} \]
で与えられる。
ここで、ある固定された群の要素 $h \in G$ を用いて $g$ の代わりに $gh$ を変数として扱う。つまり、
\[\begin{eqnarray} ( gh )^{-1} d (gh) &=& i t^a E^{\prime a}_{\al} d \th^\al \tag{13.43}\\ d V (gh ) &=& \det E^\prime \, d \th^1 d \th^2 \cdots d \th^{{\rm dim}G} \tag{13.44} \end{eqnarray}\]
とする。(13.43)の左辺は
\[ h^{-1} ( g^{-1} d g ) h \, = \, h^{-1} ( i t^a E^a_\al d \th^\al ) h \, = \, \D^{ab} (h) ( i t^b E^a_\al d \th^\al ) \tag{13.45} \]
と計算できる。ただし、随伴表現
\[ h^{-1} t^a h \, = \, \D^{ab} (h ) t^b \tag{13.46} \]
を導入した。(13.43)と(13.45)から
\[ E^{\prime b}_{\al} \, = \, \D^{ab} (h ) E^a_\al \tag{13.47} \]
が分かる。これを行列方程式 $E^{\prime}_{\al b} = E_{\al a} \D_{ab}(h)$ と解釈して、行列式を取ると
\[ \det E^\prime \, = \, \det E \, \det \D (h) \tag{13.48} \]
を得る。ただし、$\D (h) = \exp ( i T^c \th^c )$ である。前回冒頭で解説したように、随伴表現の生成子は $(T^c )_{ab} = - i f^{c}_{ab}$ と構造定数で与えられる。これは添え字について反対称なので、$\Tr T^c = 0$ となる。つまり、任意のコンパクトなリー群の随伴表現に対して $\det \D (h ) = 1$ が常に成り立つ。したがって、$\det E^\prime = \det E$ であり、体積要素の不変性
\[ d V ( gh ) \, = \, d V (g ) \tag{13.49} \]
が導かれる。これは、実変数の積分測度が、例えば $d (x+ h) = dx$ と書けるように、並進不変であることの群論的な類推であると解釈できる。
別のフレーム場を $\widetilde{E}^a_\al$ で表し、
\[ dg \, g^{-1} \, = \, i t^b \widetilde{E}^b_\al \th^\al \tag{13.50} \]
と定義する。このとき、フレーム場1形式
\[ g^{-1} d g \, = \, i t^a E^a_\al d \th^\al \tag{13.40} \]
は次のように変形できる。
\[\begin{eqnarray} g^{-1} d g \, = \, g^{-1} ( dg \, g^{-1} ) g &=& i (g^{-1} t^b g ) \, \widetilde{E}^b_\al \th^\al \nonumber \\ &=& i \D^{ba} (g) t^a \, \widetilde{E}^b_\al \th^\al \tag{13.51} \end{eqnarray}\]
これより関係式
\[ E_\al^a \, = \, \D^{ba} (g) \, \widetilde{E}^b_\al \tag{13.52} \]
を得る。よって、上と同様に $\det E = \det \widetilde{E}$ が求まる。これは、$g^{-1} d g$ で定義された(13.42)の体積要素 $d V (g)$ が $dg \, g^{-1}$ で定義された体積要素と同じであることを意味する。言い換えると、体積要素は右作用、左作用に関わらず同じである。
大直交性定理
体積要素 $d V (g)$ を用いると、群の要素 $g$ についての積分を定義できる。この積分が定義されれば、群の要素の様々な関数についての積分を考えられる。例えば、ウィグナー $\D$ 関数の直交関係は
\[ \int d V (g) ~ \D^{(R)*}_{\al \bt } (g ) \D^{(R^\prime )}_{mn} ( g) \, = \, \frac{1}{ ({\rm dim} R) } \del_{\al m} \del_{\bt n} \del^{R R^\prime} \tag{13.53} \]
と表せる。ただし、${\rm dim} R$ は表現 $R$ の次元である。この関係式はコンパクトなリー群の行列表現一般に成り立ち、大直交性定理として知られている。この直交関係は次のように示される。
\[\begin{eqnarray} && \int dV (gh)~ \D_{\al \bt}^{(R)*} (gh ) \D_{mn}^{( R^\prime ) } ( gh ) \nonumber \\ &=& \int d V (g) ~\D_{\al \ga}^{(R)*} (g) \D_{\ga \bt}^{(R)*} (h) \D_{mk}^{( R^\prime )}(g) \D_{kn}^{(R^\prime )}(h) \nonumber \\ &=& \left[ \int d V(g)~\D_{\al \ga}^{(R)*} (g) \D_{mk}^{( R^\prime ) } ( g ) \right] \, \D_{\ga \bt}^{(R)*} (h) \D_{kn}^{(R^\prime )}(h) \nonumber \\ &=& \left[ \int d V(g) ~ \D_{\al \ga}^{(R)*} (g) \D_{mk}^{( R^\prime ) } ( g ) \right] \, \D_{ \bt \ga}^{(R)} (h^\dag ) \D_{kn}^{(R^\prime )}(h) \tag{13.54} \end{eqnarray}\]
この方程式は $h$ と独立に成り立つことに注意する。表現 $R$, $R^\prime$ がユニタリーで既約なので、(13.54)から $h$ 因子を除くには、角括弧の中の積分に $\del_{\ga k}$ と $\del^{R R^\prime}$ が含まれることが要請される。同様に、$gh$ を $hg$ に置き換えると
\[\begin{eqnarray} && \int dV (hg )~ \D_{\al \bt}^{(R)*} (hg ) \D_{mn}^{( R^\prime ) } ( hg ) \nonumber \\ &=& \int d V (g) ~ \D_{\al \ga}^{(R)*}(h) \D_{\ga \bt}^{(R)*} (g) \D_{mk}^{( R^\prime )}(h) \D_{kn}^{(R^\prime )}(g) \nonumber \\ &=& \left[ \int d V(g) ~ \D_{\ga \bt}^{(R)*} (g) \D_{kn}^{(R^\prime )}(g) \right] \, \D_{\ga \al }^{(R)}(h^\dag) \D_{mk}^{( R^\prime )}(h) \tag{13.55} \end{eqnarray}\]
となるので、上式の角括弧の中の積分は $\del_{\ga k}$ に比例することが分かる。以上から、規格化を考慮するとウィグナー $\D$ 関数の大直交性定理(13.53)が得られる。