13.2 ウィグナー-エッカルトの定理
リー群 G で対称性が記述される物理系において、あるテンソル演算子 Q^A に注目しよう。前節で解説したように状態は G の表現 R とその表現に属す特定のベクトル、例えば \al で指定できる。対称性のもとで状態 | R ,\al \ket の変換は群の要素 U(\th ) \in G を作用させることにより実行できる。ただし、\th は群のパラメータを表す。今節では、任意の階数をもつテンソル演算子 Q^A の行列要素を考える。一般にそのような行列要素は
\bra R^\prime , \al | Q^A | R , m \ket \, = \, \bra R^\prime , \al | U U^{-1} Q^{A} U U^{-1}| R , m \ket \tag{13.58}
と表せる。対称性のもとで Q^A の変換は Q^{\prime A } = U^{-1} Q^{A} U で与えられる。状態 U^{-1}| R , m \ket は同じ表現に属する状態の線形結合で表せることに注意する。定義より、これはウィグナー \D 関数を用いて
U^{-1} | R , m \ket \, = \, \sum_n \D^{(R)}_{mn} ( g ) | R, n \ket \tag{13.59}
と展開できる。
簡単な例として、回転のもとでの位置演算子 x^a (a = 1,2,3) を考えよう。対応する群は G = SO(3) であり、群の要素は U (\th ) = \exp ( i L^a \th^a ) で与えられる。ただし、L^a = \ep^{abc} x^b p^c は角運動量演算子である。2.1節で解説したように、L^a と x^b は交換関係
\left[ L^{a} , x^{b} \right] \, = \, i \ep^{abc} x^c \tag{13.60}
を満たす。これは、位置演算子 x^a が回転のもとでベクトルとして変換することを示す。実際、微小な \th^a において x^a は
\begin{eqnarray} U^{-1} (\th ) x^{a} U (\th ) & \approx & ( 1- i L^b \th^b ) x^a ( 1 + i L^c \th^c ) \nonumber \\ & \approx & x^a - i [ L^b , x^a ] \th^b \nonumber \\ &=& x^a + \ep^{bac} x^c \th^b \nonumber \\ &=& \left( \del^{ab} + i (-i \ep^{abc} )\th^c \right) x^b \nonumber \\ &=& \left( {\bf 1} + i T^c \th^c \right)^{ab} x^b \tag{13.61} \end{eqnarray}
と変換する。ただし、( T^c )^{ab} = - i \ep^{abc} である。よって、x^{\prime a } = U^{-1} x^{a} U は
x^{\prime a } \, = \, \D^{ab} ( g ) \, x^b \tag{13.62}
と表せる。ここで、\D^{ab} ( g) は随伴表現に属す SO(3) 群の要素である。
\D^{ab} ( g) \, = \, \exp \left[ i ( T^c )^{ab} \th^{c} \right] \tag{13.63}
これは 3 \times 3 行列で表せる SO(3) 群のスピン1表現でもある。
極座標を用いると座標 x^a は
(x^1, x^2 ,x^3 ) \, = \, ( r \sin \vartheta \cos \varphi , \, r \sin \vartheta \sin \varphi , \, r \cos \varphi ) \tag{13.64}
と書ける。位置演算子の球面基底 (spherical basis) は
x^{\pm } = \frac{1}{\sqrt{2}} ( \mp x^1 - i x^2 ) \, , ~~ x^3 \tag{13.65}
で与えられる。これらは球面調和関数 Y_l^m ( \vartheta , \varphi) で l = 1 を固定し m = 0, \pm 1 としたものに比例する。回転のもとで動径距離 r は不変なので、変換(13.62)は
x^m \, = \, r \, Y_1^m ( \vartheta , \varphi) \, \longrightarrow \, x^{m^\prime } \,= \, r \, \D^{m^\prime m} ( g ) \, Y_1^m ( \vartheta , \varphi ) \tag{13.66}
と表せる。ただし、\D^{m^\prime m} ( g ) は SO(3) 随伴表現の行列要素である。これは SO(3) スピン1表現のウィグナー \D 関数
\D^{m^\prime m} ( g ) \, = \, \D_{m^\prime m}^{(l = 1)} ( g ) \tag{13.67}
と同じである。
同様に、階数2の対称テンソル
T^{ab} = x^a x^b - \frac{1}{3} \del^{ab} x^2 \tag{13.68}
も球面調和関数 Y_l^m ( \vartheta , \varphi) で l = 2 と固定し、m = 0, \pm 1 , \pm 2 とおいたものに比例する。回転のもとで T^m = r^2 Y_2^m ( \vartheta , \varphi) の変換は
T^m \, = \, r^2 \, Y_2^m ( \vartheta , \varphi) \, \longrightarrow \, T^{m^\prime } \,= \, r^2 \, \D_{m^\prime m}^{(l = 2)} ( g ) \, Y_2^m ( \vartheta , \varphi ) \tag{13.69}
と表せる。ただし、\D_{m^\prime m}^{(l = 2)} ( g ) は SO(3) スピン2表現のウィグナー \D 関数である。
これらの例から、対称性のもとでテンソル QA は群 G の表現 R として変換することが分かる。具体的には、リー群 G のユニタリー既約表現を R とすると、R に属すテンソル演算子 Q^A の変換は
U^{-1} (\th ) \, Q^{A} \, U (\th ) \, = \, \D^{(R)}_{AB} ( g ) \, Q^B \tag{13.70}
と表せる。ただし、\D^{(R)}_{AB} ( g ) は群 G の表現 R に属すウィグナー \D 関数である。
ここで、冒頭(13.58)の行列要素 \bra R^\prime , \al | Q^A | R , m \ket に戻り、これをウィグナー \D 関数で表すことを考えよう。すでに(13.59)で状態 U^{-1}| R , m \ket はウィグナー \D 関数で展開できることを見た。この複素共役は
\bra R^\prime , \al | U (\th ) \, = \, \sum_{\bt} \bra R^\prime , \bt | \D^{(R^\prime )*}_{\al \bt} ( g ) \tag{13.71}
と表せる。 式(13.59), (13.70), (13.71)から行列要素(13.58)は
\bra R^\prime , \al | Q^A | R , m \ket \, = \, \sum_{\bt ,n } \D^{(R^\prime )*}_{\al \bt} (g ) \, \D^{(R^{\prime\prime})}_{AB} ( g ) \, \D^{(R)}_{mn} (g ) \, \bra R^\prime , \bt | Q^B | R , n \ket \tag{13.72}
と書ける。ただし、テンソル演算子 Q^A は表現 R^{\prime \prime} に属し、これは必ずしも R あるいは R^\prime に一致しないことに注意する。関係式(13.72)は全ての \th つまり任意の群の要素について成り立つので、
\begin{eqnarray} && \bra R^\prime , \al | Q^A | R , m \ket \nonumber \\ &=& \int d V (g) \sum_{\bt , n} \frac{\D^{(R^\prime )*}_{\al \bt}(g) \, \D^{(R^{\prime\prime})}_{AB} (g) \, \D^{(R)}_{mn} (g) }{(\mbox{$G$ の体積} )} \bra R^\prime , \bt | Q^B | R , n \ket \tag{13.73} \end{eqnarray}
と書き換えることができる。ここで、 \D^{(R^{\prime\prime})}_{AB} (g) \, \D^{(R)}_{mn} (g) の因子は
\begin{eqnarray} \D_{AB}^{(R^{\prime\prime})} (g) \, \D_{mn}^{(R)} (g) & = & \bra R^{\prime\prime} , A | \hat{g} | R^{\prime\prime} , B \ket \bra R , m | \hat{g} | R , n \ket \nonumber \\ &=& \sum_{\widetilde{R}, \la, \si} {C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si}}^* C^{R^{\prime\prime}R \widetilde{R}}_{Bn \la} \, \bra \widetilde{R} , \si | \hat{g} | \widetilde{R} , \la \ket \nonumber \\ &=& \sum_{\widetilde{R}, \la, \si} {C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si}}^* C^{R^{\prime\prime}R \widetilde{R}}_{Bn \la} \, \D_{\si\la}^{(\widetilde{R})} (g) \tag{13.74} \end{eqnarray}
と計算できる。ただし、C^{R^{\prime\prime}R \widetilde{R}}_{Bn \la} と C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si} はクレブシュ-ゴルダン係数であり、2状態の合成に関するクレブシュ-ゴルダンの定理(13.5)から次のように定義される。
\begin{eqnarray} | R^{\prime\prime} , B \ket \otimes | R ,n \ket &=& \sum_{\widetilde{R} , \la} C^{R^{\prime\prime}R \widetilde{R}}_{Bn \la} | \widetilde{R} , \la \ket \tag{13.75}\\ \bra R^{\prime \prime} , A | \otimes \bra R , m | &=& \sum_{\widetilde{R} , \si} {C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si}}^* \bra \widetilde{R} , \si | \tag{13.76} \end{eqnarray}
{C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si}}^* = \left( C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si} \right)^* = C^{R^{\prime\prime *} R^* \widetilde{R}^* }_{A m \si} は係数 C^{R^{\prime\prime} R \widetilde{R}}_{A m \si} の共役表現である。また、式(13.74)内の群の要素 \hat{g} は同じ表現 \widetilde{R} に属し、これらの合成も定義から同じ表現に属す。