2021-10-07

ロシア歌謡「カチューシャ」解読

日本語訳付

ダンス
(さすがバレエの本場!)

以下のロシア語歌詞はWebサイト『世界の民謡・童謡』から引用。タイトルの Катюша は Екатерина / Катя (エカテリーナ/カーチャ) の愛称とのこと。

Расцветали яблони и груши,
Поплыли туманы над рекой;
Выходила на берег Катюша,
На высокий берег, на крутой.

Выходила, песню заводила
Про степного, сизого орла,
Про того, которого любила,
Про того, чьи письма берегла.

Ой, ты песня, песенка девичья,
Ты лети за ясным солнцем вслед,
И бойцу на дальнем пограничье
От Катюши передай привет.

Пусть он вспомнит девушку простую,
Пусть услышит, как она поёт,
Пусть он землю бережёт родную,
А любовь Катюша сбережёт.

Расцветали яблони и груши,
Поплыли туманы над рекой;
Выходила на берег Катюша,
На высокий берег, на крутой.

有名な曲ですが、日本語訳が無いと何を言っているのか全く意味不明です!検索しましたが歌詞の解説文が無かったので自分で調べることにしました。以下では、学習を兼ねて一行ずつ単語の意味を調べて行きます。手元のロシア基本語辞典に載っていない単語や活用ははwiktionaryで調べました。発音もカタカナでルビを振りました。母音の(ヰ、ヱ)についてはこちらを参照してください。アクセントの表示はこちらを参考にしました。全てではありませんがカタカナで伸ばしているところはアクセントに対応しています。

Расцвета́ли я́блони и гру́ши,
ラスツヴィターリ ヤーブラニ イ グルーシ
Расцветали: расцветать (咲く, bloom, 不完了体)過去形(複数)
яблони: яблоня (リンゴ属の花)複数形
и: (and)
груши: грушa (梨) 複数形(正書法により грушы → груши)

Поплы́ли тума́ны над реко́й;
パプルーリ トゥマーヌ ナド リコイ
Поплыли: Поплыть (流れ始める、完了体) 過去形(複数)
現在形は不規則変化: поплыву, поплывёшь, поплывёт, поплывём, поплывёте, поплывут 
туманы:туман (霧、カスミ、もや) 複数形
над ~(造格): ~(造格)の上の方に
рекой: река (川、河)の造格

Выходи́ла на бе́рег Катю́ша,
ハヂーラ ナ ベリク カチューシャ
Выходила: Выходить (出て行く、出てくる、不完了体) 過去形(女性)
на~(対格): ~(対格)のほうへ、のほうに(運動の方向)
берег: 岸、陸(単数男性、不活動体、主格=対格)

На высо́кий бе́рег на круто́й.
ナーヴソーキ リク ナ クルトーイ
высокий: 高い(軟変化、男性、主格=対格)
крутой: 急な、険しい(硬変化Ⅱ、男性、主格=対格)

Выходи́ла, пе́сню заводи́ла
ハヂーラ ピスニュ ザヴァヂーラ
заводила: заводить (~(対格)を始める)過去形(女性) 
песню: песня (ピースニャ、歌、単数女性)の対格

Про степно́го си́зого орла́,
プラ スチプノーヴァ シーザヴァ アルラー
Про~(対格): ~(対格)について
степного: степной (ステップの、草原の、硬変化Ⅱ)の生格=対格(活動体(鷲)にかかる場合)
сизого: сизый (青灰色の、硬変化Ⅰ)の生格=対格(活動体(鷲)にかかる場合)
орла: орёл (オリョール、鷲、単数主格)の対格
主、生、与、対、造、前:(単数)орёл, орла, орлу, орла, орлом, орле
主、生、与、対、造、前:(複数)орлы, орлов, орлам, орлов, орлами, орлах

Про того́, кото́рого люби́ла,
プラータヴォー カトーラヴァ リュビーラ
того: тот (それ、その、指示代名詞、男性)の生格=対格(活動体(恋人)の場合)
которого: которвы (who, which, 関係代名詞)の生格=対格(活動体(恋人)の場合)
любила: любить (愛する、好む) 過去形(女性)

Про того́, чьи пи́сьма берегла́.
プラータヴォ チィ ピーシィマ ビリグラー
чьи: чей (whose, 所有関係代名詞)の複数形 (вы「あなた」に対応)
男、中、女、複: чей, чьё, чья, чьи
письма: письмо (ピシモー、手紙、中性名詞)の複数形(ピーシィマ)アクセント移動、不活動体(手紙)の場合、単数女性形(-а, -я)以外は主格=対格
берегла: беречь (ビリーチ、~(対格)を大事にする、大切にする、不完了体) 過去形(女性)
不規則変化(現在形): берегу, бережёшь, бережёт, бережём, бережёте, берегут 
不規則変化(過去形): берёг, берегла, берегло, берегли (アクセント語尾)
берегла と берег が韻を踏んでいるのが詩的

Ой, ты, пе́сня, пе́сенка деви́чья,
オイ テ ピースニャ ピーセンカ ヂヴィーチャ
Ой: 感嘆詞(基本語辞典には載ってませんでしたがこちらに解説あり。ここでは「呼びかけ」の意味か。)
песня: 歌(女性名詞【既出】)
песенка: 小唄 (песня + ка)
девичья: девичья (乙女、娘)という名詞があるが、ここでは形容詞 девичий (乙女の、娘の, maiden, girlish) の主格単数女性形で песенка にかかる。девичийのアクセントは先頭にあるのですが歌では и が強調されているようです。

Ты, лети́ за я́сным со́лнцем вслед,
 リチーザ ヤスヌム ソンツェム フスリ
лети: лететь (リテーチ、飛んで行く、飛行する、不完了体、定動詞)の命令形、対応する不定動詞は летать (リターチ、飛び回る、飛んで往復する、不完了体)
不規則変化: лечу, летишь, летит, летим, летите, летят 
2人称単数形から命令形は лети となる。(小唄よ飛んでけ~)
вслед за ~(造格): ~(造格)のすぐ後に、~(造格)に続いて
ясным: ясный (はっきりした、明白な、晴れ渡った、硬変化Ⅰ)の造格
солнцем: солнце (ソンツェ、太陽、中性名詞)の造格、2番目の л は発音しない。単語の先頭、末尾を除いて子音が3つ連続するとき、その中にある"д, в, л, т"は発音されないというルールがあるようです(黙字)。

И бойцу́ на да́льнем пограни́чье
イーバイツーナ ダーリニム パグラニーチ
И: そして(接続詞)、まさに、確かに(助詞)
бойцу: боец (バヱッツ、兵士、兵隊、男性名詞)の与格
主、生、与、対、造、前:(単数) боец, бойца, бойцу, бойца, бойцо м, бойце
передавать (渡す、届ける)が「~(与格)に~(対格)を届ける」と与格を取る動詞であることに注意。与格を取る動詞の例:звонить~(与格): ~(与格)に電話をする
на~(前置格):~(前置格)において、~(前置格)にいる
дальнем: дальний (ダールニィー、遠い、遠く離れた、軟変化)の男・中性単数前置格
пограничье: пограничье (国境付近の領土、中性名詞)の前置格
主、生、与、対、造、前:(単数) пограничье, пограничья, пограничью, пограничье, пограничьм, пограничье

От Катю́ши переда́й приве́т.
アット カチューシ ピリダイ プリヴート
От~(生格): ~(生格)から離れて、из~(生格)も from の意味で「~(生格)出身」の場合は из を用いる。
Катюши: Катюша の生格 (Катюшы → Катюши)
передай: передавать (渡す、届ける, -аваты動詞)の命令形、~(与格)に~(対格)を届ける、渡す、伝える
-аваты動詞活用: передаю, передаёшь, передаёт, передаём, передаёте, передают 
現在形語幹が母音で終わるので й を付けて命令形にする。
привет: あいさつ(男性名詞、対格=主格)

Пусть он вспо́мнит де́вушку просту́ю,
プスチ オン フスポーム二ト ヴシク プラストゥーユ
Пусть: ~させよ、~せしめよ(助詞)
он: 彼
вспомнит: вспомиты (フスポームニチ、~(対格)を思い出す、回想する、完了体)の3人称単数。対応する不完了体は вспоминаты (フスパミナーチ)。ここでは、完了体の現在変化なので未来の動作を表すことに注意。「(小唄が届いて)純朴な娘のことを思い出させてあげて」
девушку: девушка (娘)の対格
простую: простой (プラストーイ、簡単な、素朴な、純朴な、硬変化Ⅱ)の女性形対格(単数女性名詞(-а, -я)にかかる形容詞の対格は主格と異なる。(主)простая → (対)простую)

Пусть услы́шит, как она поёт,
プスチ ウスルーシト カク アナ パヨット
услышит: услышать (ウスリーシャチ、~(対格)を聞く、聞こえる、耳にする、完了体)の3人称単数。対応する不完了体は слышать (スリーシャチ)。 вспомнитと同様、完了体の現在変化なので未来形。
不規則変化(現在形): услышу, услышишь, услышит, услышим, услышите, услышат 
正書法により -шю → -шу, -шя  → -ша となることに注意。
как: どのように(how)
она: 彼女
поёт: петь (ピーチ、歌う、不完了体) 3人称単数
不規則変化(現在形): пою, поёшь, поёт, поём, поёте, поют  

Пусть он зе́млю бережёт родну́ю,
プスチ オン ゼームリュ ビリジョト ラドヌーユ
землю: земля (ゼムリャー、地球、大地、土地、女性名詞)の対格
бережёт: беречь (ビリヱーチ、~(対格)を大事にする、大切にする、不完了体【既出】)の3人称単数現在形
родную: родной (ラドノーイ、故郷の、親しい、硬変化Ⅱ)の女性形対格 (主)родная → (対)родную

А любо́вь Катю́ша сбережёт.
ア リュボーフ カチューシャ スビリジョト
А: その一方、そして
любовь: 愛、恋人(女性名詞)単数女性名詞だが語尾が -b なので対格=主格
сбережёт: сберечь (ズビリーチ、~(対格)を大事にする、大切にする、完了体)の3人称単数現在形。対応する不完了体は(берегと韻を踏んでいる)既出の беречь (ビリヱーチ) 。вспомнитと同様、完了体の現在変化なので未来のことを表す。Катюша は主格なので(対格なら Катюшу) любовь (愛、恋人)が対格。文法的には男性(兵士)を女性名詞で表してもいのですが、ネイティブはどう理解するのか気になります。とはいえ、любовь を「愛・愛情」と理解しても意味は変わらないですが。ここでは、「カチューシャが将来、恋人を大切にしようと思う(完了体)」となるので、兵士がカチューシャのもとに無事に帰ってくること(ハッピーエンド)が示唆されていて表現の奥ゆかしさに感心しました。бережёт を сбережёт とするだけで、時制も意味も変わってくるとはなかなか凝ってますね。
最後のブロックは最初と同じです。

Расцвета́ли я́блони и гру́ши,
Поплы́ли тума́ны над реко́й;
Выходи́ла на бе́рег Катю́ша,
На высо́кий бе́рег на круто́й.

ラスツヴィターリ ヤーブラニ イ グルーシ
パプルーリ トゥマーヌ ナド リコイ
ハヂーラ ナ ベリク カチューシャ
ナーヴソーキ リク ナ クルトーイ

やはり「ヰ、ヱ」の発音があるとロシア語の特徴がよく出でている気がします。各ブロックで最後の2行は繰り返すようです。今回、逐語的に調べて気付いたのは、歌に出てくるような親しみやすい言葉には不規則変化をする単語が多いということです。調べるのは大変ですが、ネイティブにとっては不規則変化の言葉の方が馴染み深く心に響くものがあるのでしょう。文法的には最後に触れた完了体・不完了体の違いだけでなく名詞・形容詞の格変化、活動体・不活動体、不規則動詞の活用、動詞の時制、定動詞・不定動詞の違い、関係代名詞、命令法など色々なトピックを学ぶことが出来ました。ロシア語はじめて数週間なので大変でしたが、これからは単語別の細かい文法は気にせず頻出フレーズのパターンやリズム・抑揚を覚えて少しは話せるようになりたいと思います。その前にまずカチューシャ歌えるようにしといた方がいいかな。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

助かる〜