以前のエントリーで日本国内での国際リニアコライダー(ILC)の誘致には否定的な意見を述べましたが、加速器の建設自体には私は賛成です。ヨーロッパでの次世代加速器計画についての詳細が報告されたようなので興味深く読みました。
https://home.cern/news/press-release/accelerators/international-collaboration-publishes-concept-design-post-lhc
https://home.cern/news/press-release/accelerators/international-collaboration-publishes-concept-design-post-lhc
ヒッグス粒子検出で沸いたLHC(Large Hadron Collider)をさらに大型にして(1周100km)これまで以上のエネルギースケール(100TeV)を目指すそうです。予算は 9-billion-euro (およそ1兆円)なので、ILCと同程度です。21年先の2040年から運用予定だそうです。21年後にはいろいろと状況が変わっているでしょうから計画通りにはいかないと思いますが、夢のある話です。人類がコントロールできるエネルギースケールを上げることは高エネルギー物理学が当然目指すべき方向性ではないでしょうか。未知の領域を探索することでこれまでにない物理現象が見つかるかもしれません、あるいは見つからないかもしれません。実際に実験してみないと分からないことなので物理学者の本音としては、「どうなるか約束できないけど面白そうなので実験させて」という感じでしょう。そのようなプロジェクトに1兆円の予算をつけられるかという政治的な話になってしまいますが、私はヨーロッパ各国が協力することを考えると安いと思います。先日、ラジオで聞いたのですが日本のメーカーが海外で原発プラントを建設する費用がおよそ1兆円になるそうです。(福島の事故以前は半額だったそうですが、あれ以後規制が強まり費用が倍増し、結局日本のメーカーは海外での原発プラント建設から実質撤退することになったようです。)原発プラントを建設する費用で自然界の真理を探究できる人類初の実験装置を手に入れることができると考えればお得ではないでしょうか。ぜひ欧州各国には次世代LHCを推進してもらいたいと思います。
しかし、ヨーロッパには私のように考えていない人もいるようです。大型加速器はその役割を終えたのではという意見
もあるようです。これは悲観的すぎるなと感じていましたが、なんと著者Sabine Hossenfelderさんの意見がNew York Timesにも取り上げられているのに驚きました。
要点をざっくり簡約すると、旧態依然の大型加速器をアップグレードしたって煮詰まっている素粒子物理はどうにもならないのだから別の方法を考えようよという内容です。素粒子物理の現状を悲観的にとらえる著者らしい論評ですが、関係者からすると暴論のように聞こえます。私が長年フォローしているLuboš Motlさんのブログではこれに過激に反論しています。
過激すぎて一般紙では掲載できないような内容も一部にありますが、Hossenfelderさんの意見を引用しながら丁寧に反論していて説得力があります。私はMotlさんの意見に大筋賛成です。特に前半部にある段落
First of all, scientists didn't "promise" any discoveries. Scientists aren't politicians. Their job isn't to give promises to the laymen such as Ms Hossenfelder. Their job – and, when it works correctly, their passion – is to increase their knowledge and understanding of Nature. Some people including many people who are not paid for doing scientific research are interested in more detailed facts about the laws of physics, some people are not. The funding for the LHC was obtained to satisfy the curiosity of those who wanted to have the answers.
にMotlさんの基本的な視点が表明されていて共感しました。詳しい反論については省略しますが、欧州でもこのように将来の大型加速器建設に意見が分かれているようです。個人的にはこれまで素晴らしい成果のあったLHCの大型化は高エネルギー物理学が目指すべき当然の方向性であり、1兆円程度の建設費用は(原発プラント建設と比較しても)決して高くはないので是非計画を前倒しするぐらいの勢いで推進してもらいたいです。既に実績のある研究所が開発・建設を本気で進めれば21年後とはいわず10年後にでも運用開始できるのではないでしょうか。外野からではありますが陰ながら応援しています。
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