2024-04-23

9. アインシュタイン方程式の現代的な導出 vol.2

9.2 アインシュタイン方程式の現代的な導出


前節では点粒子の運動方程式を計量がローレンツ不変であることから導出できることを見た。今節では計量の運動方程式、すなわちアインシュタイン方程式を対称性に基づいて考える。以前触れたように、計量は物質の分布から動力学的に決定できる。アインシュタイン方程式を求めるにあたり、まず望まれる全ての対称性のもとで不変な作用を書き出すことから始めよう。リーマン多様体上でそのような作用は
\[    \S \, = \, - \int d^4 x \sqrt{- \det g} ~  \Bigl( \mbox{不変な項} \Bigr)    \tag{9.13}\]
と表せる。ここで、積分測度 $d^4 x \sqrt{- \det g}$ は座標変換のもとで不変である。ミンコフスキー空間上で座標変換のヤコビアンは $\sqrt{- \det g}$ の因子によって相殺される。ここでは詳細は省略するが、例えば、平坦な計量 $ds^2 = dt^2 - dx^2 - dy^2 -dz^2 = g_{\mu\nu} d x^\mu d x^\nu$ から球面の計量 $ds^2 = dt^2 -dr^2 - r^2 d\th^2 - r^2 \sin \th^2 d \varphi^2 = \tilde{g}_{\mu\nu} d \tilde{x}^\mu d \tilde{x}^\nu$ への座標変換を考えると、積分測度は $ d^4 x \sqrt{- \det g} = dt d x dy dz \rightarrow r^2 \sin \th \, dt dr d \th d \varphi =  d^4 \tilde{x} \sqrt{- \det \tilde{g}}$ と変換するので、$\int d^4 x \sqrt{- \det g}$ が不変量であることはすぐに確認できる。

 定数を除くと、(9.13)の不変な項はリーマン曲率テンソル ${\cal R}^{\la}_{\mu \nu \al} $ で表せると予測できる。これは8.3節で計算したように ${\cal R}^{\la}_{\mu \nu \al} $ がローレンツ共変であることから分かる。(8.44)で定義したようにリーマン曲率テンソルは
\[    {\cal R}^{\la}_{\mu \nu \al}    \, = \,    \d_{\mu} \Ga^{\la}_{\nu \al} -  \d_{\nu} \Ga^{\la}_{\mu \al}    + \Ga^{\la}_{\mu \bt}\Ga^{\bt}_{\nu \al}    - \Ga^{\la}_{\nu \bt}\Ga^{\bt}_{\mu \al}    \tag{9.14}\]
で定義される。ただし、クリストッフェル記号 $\Ga^{\la}_{\al\bt}$ は
\[    \Ga^{\la}_{\al\bt} \, = \,    \frac{1}{2} g^{\la\mu}    \left(    \d_\al g_{\mu \bt}    + \d_\bt g_{\mu \al}    -  \d_\mu g_{\al\bt}    \right)     \tag{9.15}\]
で与えられる。${\cal R}^{\la}_{\mu \nu \al}$ から不変量を求めるには、添え字の縮約を考えるのが便利である。つまり、${\cal R}^{\la}_{\mu \nu \al}  \rightarrow {\cal R}^{\la}_{\la \nu \al} \equiv  {\cal R}_{\nu \al}$ とおく。具体的に、${\cal R}_{\nu \al}$ は
\[    {\cal R}_{\nu \al} =    \d_{\la} \Ga^{\la}_{\nu \al} -  \d_{\nu} \Ga^{\la}_{\la \al}    + \Ga^{\la}_{\la \bt}\Ga^{\bt}_{\nu \al}    - \Ga^{\la}_{\nu \bt}\Ga^{\bt}_{\la \al}     \tag{9.16} \]
と表せる。${\cal R}_{\nu \al}$ はリッチ・テンソルと呼ばれる。$\Ga^{\la}_{\nu \al}$ は$\nu$, $\al$について対称であったので、$\d_\nu \Ga^{\la}_{\la \al}$ が$\nu$, $\al$について対称であれば、${\cal R}_{\nu \al}$ も$\nu$, $\al$について対称であることがすぐに分かる。この対称性は次のように確認できる。(9.15)から $\Ga_{\la \al}^{\la} = \hf g^{\la \mu} ( \d_\al g_{\mu \la} )$ である。よって、$\d_\nu \Ga^{\la}_{\la \al} = (\d_\nu g^{\la\mu} )( \d_\al g_{\mu\la} ) + g^{\la \mu} (\d_\nu \d_\la g_{\mu \la}) = - \Tr ( \d_\nu g \, g^{-1} \d_\al g \, g^{-1}) + g^{\la \mu} (\d_\nu \d_\la g_{\mu \la})$ と計算でき、これは $\d_\nu \Ga^{\la}_{\la \al}$ が$\nu$, $\al$について対称であることを明示している。

 ここで、計量テンソル $g_{\mu \nu}$ も添え字について対称なので、非自明なスカラー量
\[    {\cal R} \, = \, g^{\nu \al} {\cal R}_{\nu \al}     \tag{9.17}\]
を求めることができる。これはリッチ・スカラーあるいはスカラー曲率と呼ばれる。半径$r$の球面のスカラー曲率は$r^{-2}$に比例することが知られている。

 対称性の原理から、不変な作用(9.13)は形式的に
\[\begin{eqnarray}    \S &=&  - \int d^4 x \sqrt{- \det g }    ~  \Bigl[ \mbox{(定数)} + c \, {\cal R} + \bigl(    {\cal R}^2 , \,  {\cal R}_{\nu\al}{\cal R}^{\nu\al} , \, {\cal R}^{\la}_{\mu\nu\al}{\cal R}^{\mu\nu\al}_{\la},    \, \cdots    \bigr)\Bigr]    \nonumber \\    &=&   -  \int d^4 x \sqrt{- \det g }    \left[    \frac{1}{16\pi G} {\cal R} + \La    \right] \, + \, \cdots    \tag{9.18} \end{eqnarray}\]
と書ける。ただし、$c$ は比例係数である。ここでは、後の便宜上 $c$ を $\frac{1}{16\pi G}$ と固定した。$G$はニュートンの重力定数である。$\La$は宇宙定数と呼ばれる定数を表す。$G$は非相対論的な極限を考えると同定できる。この点については次回に後述する。上式2行目ではスカラー曲率 ${\cal R}$、リッチ・テンソル ${\cal R}_{\nu\al}$、リーマン曲率テンソル ${\cal R}^{\la}_{\mu\nu\al}$ に関する2次以上の項を省略した。

 つぎに、作用(9.18)の変分を考える。スカラー曲率 ${\cal R} = {\cal R}_{\al\bt} g^{\al\bt}$ の変分は
\[    \del {\cal R} \, = \, \del {\cal R}_{\al\bt}\, g^{\al\bt} \, + \, {\cal R}_{\al\bt} \del g^{\al\bt}        \tag{9.19} \]
で与えられる。また、$\sqrt{- \det g }$ の変分は次のように求まる。$M$を可逆な行列とすると、恒等式
\[    \log \det M \, = \, \Tr \log M     \tag{9.20} \]
から、関係式
\[    \del ( \log \det M )    \, = \,    \frac{\del ( \det M ) }{ \det M }    \, = \,    \Tr M^{-1} \del M \, = \, - \Tr M \del M^{-1}     \tag{9.21} \]
が分かる。よって、$\sqrt{- \det g }$の変分は
\[    \del \sqrt{- \det g }    \, = \,    - \frac{1}{2} \sqrt{- \det g } \, g_{\al\bt} \del g^{\al \bt}    \tag{9.22} \]
と計算できる。よって、曲率の2次以上の項を無視すると(9.18), (9.19), (9.22)から
\[\begin{eqnarray}    \del \S &=&  - \int d^4 x \sqrt{- \det g}    \left[    - \frac{1}{2} g_{\al\bt} \left(    \frac{1}{16 \pi G} {\cal R} + \La    \right) + \frac{1}{16 \pi G} {\cal R}_{\al\bt}    \right] \del g^{\al\bt}    \nonumber \\    &&    - \int d^4 x \sqrt{- \det g} \,    \frac{1}{16 \pi G} \del {\cal R}_{\al\bt} g^{\al \bt}     \tag{9.23} \end{eqnarray}\]
と求まる。

2024-04-15

9. アインシュタイン方程式の現代的な導出 vol.1

前節で解説したリーマン多様体は物理において非常に重要である。実際、次の仮説を立てることができる。
  1. この世界はミンコフスキー符号$(+ ---)$を持ったリーマン多様体で記述できる。
  2. 計量テンソル $g_{\mu\nu}$ は物質分布によって動力学的に決定される。
2番目の主張は $g_{\mu \nu}$ の運動方程式を導く。この方程式のことをアインシュタイン方程式と呼ぶ。この章の主要目標はリーマン幾何学と望ましい対称性を用いてアインシュタイン方程式を導出することである。

 これらの仮説は等価原理と深く関係している。等価性のレベルに応じて歴史的に以下2つの等価原理が存在する。
  1. 慣性質量は重力質量と等しい。(弱い等価原理)
  2. 重量との相互作用は通常の微分を共形微分で置き換えることで実現される。(強い等価原理
$m_I$を慣性質量、$m_{G}$を重力質量とすると、ニュートン力学 $m_{I} \frac{d^2 x}{dt} = - \frac{G M_{G} }{r^2} m_{G}$ の枠組みで、弱い等価原理 $m_{I} = m_{G}$ は、$\frac{d^2 x}{dt} = - \frac{GM_{G} }{r^2} $ となる。これは、任意の加速度系が重力場と等価であることを意味する。光あるいは質量ゼロの光子の軌跡を考えると、この等価性は重力の効果が曲がった空間で実現されることを示唆する。というのも、最小作用の原理から光の曲がりを説明するには、曲がった空間を考えるのが最も自然であるからである。よって、重力場は曲がった多様体、より特定すれば、曲率が物理的な役割を果たすリーマン多様体から創発される。この考えから、上述の最初の仮説「世界はリーマン多様体で記述される」が導かれる。この弱い等価原理は1ミリメートル以上のスケールにおいて検証されている。強い等価原理についても原理とはいえ完全ではない。これはスピンを持たない点粒子について成立する。しかし、スピンを持つ粒子については、以下で議論するように、強い等価原理は一般に適用できない。

9.1 点粒子の運動


この節ではラグランジアン形式で点粒子の運動方程式を求めて、対称性が如何に有用であるかを例証する。点粒子は最も簡単な物質分布である。8.2節で紹介した通り、平坦なミンコフスキー空間の計量は
\[    ds^2 \, = \, g_{\mu\nu} dx^\mu dx^\nu \, = \, dt^2 - dx^2 - dy^2 - dz^2    \tag{9.1} \]
で与えられる。定義よりこの量はローレンツ不変である。よって、相対論的に不変な作用として
\[    \S \, = \, -m \int ds    \, = \, -m \int \sqrt{g_{\mu\nu} dx^\mu dx^\nu}    \tag{9.2} \]
を選ぶことができる。係数$-m$の意味は非相対論的な近似
\[\begin{eqnarray}    \S &=& -m \int dt \sqrt{1 - v^2}    \nonumber \\    &\approx&  \int dt    \left( -m + \frac{mv^2}{2} \right)    \tag{9.3} \end{eqnarray}\]
を考えると理解できる。ここで、$v$は光速 $c=1$ の単位系での粒子の速度である($| v | \ll 1$)。作用(9.2)は計量 $g_{\mu\nu}$ にのみ依存する。これは作用に課されたローレンツ不変性に起因する。リーマン曲率テンソル ${\cal R}_{\mu \nu}^{ab}$ はローレンツ共変なので原理的には ${\cal R}_{\mu \nu}^{ab}$ からローレンツ不変な項を構成することができる。例えば、${\cal R}_{\mu \nu}^{ab}$ はスピンの情報を持つので、スピンを持つ粒子に対して ${\cal R}_{\mu\nu}^{ab} S_{\mu \nu}$ のような項を追加できる。ただし、$S_{\mu \nu}$ はローレンツ変換の生成子におけるスピンの寄与を表す。上で触れたようにこのような追加項が存在すると強い等価原理は適用できない。しかし、スピン・ゼロの粒子には強い等価原理は有効であり、作用(9.2)をもちいて点粒子を解析することができる。この作用は曲がった空間の固有距離 $ds$ の積分として解釈できる。その拡張として、曲がった空間の固有面積 $ds^2$ に渡る積分を考えることも興味深い。これは南部-後藤作用として知られており、弦理論の基礎付けを与える。

2024-04-12

8. 曲がった多様体、計量、リーマン多様体 vol.3








前節までの結果を簡単にまとめると以下のようになる。
  1. 一般共変性あるいは微分同相写像の要請から反対称化した微分を用いる必要がある。
  2. 曲がった多様体に計量 $g_{\mu \nu} = e_\mu^a  e_\nu^a$ を導入する。フレーム場 $e_\mu^a$ の局所回転(ローレンツ)変換は $e_{\mu}^{\prime a} = R^{ab} e_{\mu}^{b}$ と表せる。$R^{ab}$ は直交行列。
  3. フレーム場の微分の共変性から共変微分 $D_\mu e_\nu^a = \d_\mu e_\nu^a + \om_{\mu}^{ab} e_\nu^b $ が必要となる。スピン接続 $\om_{\mu}^{ab}$ の局所変換は $\om_{\mu}^{\prime ab} = ( R \om_\mu R^{-1} - \d_\mu R \, R^{-1} )^{ab}$ と表せる。$\om_{\mu}^{ab}$ は$(a, b)$について反対称。
  4. 1.からトーション $( D_\mu e_\nu - D_\nu e_\mu )^a  = T_{\mu\nu}^{a}$ とリーマン曲率 $( D_\mu D_\nu \phi  -  D_\nu  D_\mu \phi )^a   = {\cal R}_{\mu \nu}^{ab} \phi^b$ を定義できる。$\phi^a$ はスカラー場。

8.3 リーマン多様体


前節の最後に触れたように、リーマン多様体は一般的な曲がった多様体にトーション・ゼロの条件
\[     T^{a}_{\mu \nu} \, = \, ( D_\mu e_\nu )^a - ( D_\nu e_\mu )^a   \, = \, 0    \tag{8.28} \]
を課すことで定義できる。今節ではこの条件がどのような結果を導くのかを考え、リーマン多様体の特徴を明らかにする。(ただし、超重力理論や弦理論などゼロでないトーションを含む理論も存在することに注意。)

 (8.28)から $( D_\mu e_\nu )^a$ は添え字$\mu$, $\nu$について対称であることはすぐに分かる。そこで、この量を $\Ga^{a}_{\mu\nu}$ とおく。フレーム場が可逆であることを用いると、$\Ga^{a}_{\mu\nu}$は $\Ga^{\la}_{\mu\nu} e^a_\la$ と表せる。すなわち、
\[    ( D_\mu e_\nu )^a \, = \,    \d_\mu e_\nu^a + \om_{\mu}^{ab} e^b_\nu    \, \equiv \,    \Ga^{\la}_{\mu\nu} e^a_\la   \tag{8.29} \]
とおける。ただし、$\Ga^{\la}_{\mu\nu}$ は$\mu$, $\nu$について対称である。これがどのように計量 $g_{\mu \nu} = e_\mu^a  e_\nu^a$ に影響するかを見てみよう。そこで、計量$g_{\al \bt}$の微分を計算すると
\[\begin{eqnarray}    \d_\mu g_{\al \bt}    &=& ( \d_\mu e^a_\al ) e^a_\bt + e^a_\al ( \d_\mu e^a_\bt )    \nonumber \\    &=&    ( \d_\mu e^a_\al + \om^{ab}_{\mu} e^b_\al ) e^a_\bt    + e^a_\al ( \d_\mu e^a_\bt + \om^{ab}_{\mu} e^b_\bt )    -   \underbrace{ \om^{ab}_{\mu} ( e^b_\al e^a_\bt + e^a_\al e^b_\bt)}_{=0}    \nonumber \\    &=&    \Ga^{\la}_{\mu \al}  e_\la^a  e_\bt^a +  \Ga^{\la}_{\mu \bt} e_\al^a  e_\la^a    \nonumber \\    &=&    \Ga^{\la}_{\mu \al} \, g_{\la \bt} +  \Ga^{\la}_{\mu \bt} \, g_{\al \la}    \tag{8.30} \end{eqnarray}\]
と表せる。ここで、$\om^{ab}_{\mu}$ が$a$, $b$について反対称であることを用いた。(8.30)において添え字の対称性を利用すると、関係式
\[    \d_\al g_{\mu \bt} + \d_\bt g_{\al \mu} - \d_\mu g_{\al\bt}    \, = \,    2  \Ga^{\la}_{\al\bt} \, g_{\mu \la}     \tag{8.31} \]
が求まる。つぎに、計量の逆テンソルを上付き添え字で表して、$g_{\al \bt} g^{\bt \la} = \del^{\la}_{\al}$ とおく。つまり、この表示法では $(g^{-1})^{\bt \la} = g^{\bt \la}$ となる。このとき、$\Ga^{\la}_{\al\bt}$ は計量を用いて
\[    \Ga^{\la}_{\al\bt} \, = \,    \frac{1}{2} g^{\la \mu} \left(    \d_\al g_{\mu \bt} + \d_\bt g_{\al \mu} - \d_\mu g_{\al\bt}    \right)    \tag{8.32} \]
と表せる。この $\Ga^{\la}_{\al\bt}$ はクリストッフェル記号 (Christoffel symbol) 呼ばれる。8.1節で考えたように(8-29)の局所座標変換を $\widetilde{D}_{\mu} \widetilde{e}_{\nu} = \widetilde{\Gamma}^{\la}_{\mu\nu} \widetilde{e}_{\la}$ と表す。ベクトル $A_\mu (x)$ の局所座標変換は
\[ \widetilde{A}_{\nu} (y) \, = \, A_\mu (x) \frac{\d x^\mu}{\d y^\nu} \tag{8.3} \]
で与えられた。また、この微分の局所座標変換は
\[ \frac{\d}{\d y^\al} \widetilde{A}_{\nu} (y) = \left[ \frac{\d}{\d x^\bt} A_\mu (x) \right] \frac{\d x^\bt}{\d y^\al} \frac{\d x^{\mu}}{\d y^\nu} + A_\mu (x) \frac{\d^2 x^\mu}{\d y^\al \d y^\nu} \tag{8.4} \]
となる。これらを用いると$\widetilde{D}_\mu \widetilde{e}_\nu $は
\[\begin{eqnarray}   \widetilde{D}_\mu \widetilde{e}_\nu &=&    \left( \frac{\d}{ \d y^\mu } + \om_\al (x) \frac{\d x^\al}{\d y^\mu} \right)    \left[ e_\bt (x)  \frac{\d x^\bt}{\d y^\nu} \right] \nonumber \\   &=& ( D_\al e_\bt ) \frac{\d x^\al}{\d y^\mu} \frac{\d x^\bt}{\d y^\nu} + e_\bt \frac{\d^2 x^\bt}{\d y^\mu \d y^\nu}   \nonumber \\   &=& \left( \Gamma_{\al \bt }^{\la}\frac{\d x^\al}{\d y^\mu} \frac{\d x^\bt}{\d y^\nu}    +  \frac{\d^2 x^\la }{\d y^\mu \d y^\nu} \right) e_\la    \tag{8.33} \end{eqnarray}\]
と計算できる。よって、$\Gamma^{\la}_{\mu\nu}$の局所座標変換は
\[   \widetilde{\Gamma}^{\la}_{\mu\nu} = \Gamma_{\al \bt }^{\si}    \frac{\d x^\al}{\d y^\mu} \frac{\d x^\bt}{\d y^\nu} \frac{\d y^\la}{\d x^\si}   +  \frac{\d^2 x^\la }{\d y^\mu \d y^\nu}  \frac{\d y^\la}{\d x^\si}    \tag{8.34} \]
と表せる。これはクリストッフェル記号がテンソルとして振る舞わないことを明示している。

 トーション・ゼロのもとでスピン接続 $\om_{\mu}^{ab}$ は $e^a_\mu$ と $\Ga^{\la}_{\mu\nu}$ で表せる。(8.29)から
\[    \d_\mu e_\nu^a (e^{-1} )^{b \nu} + \om_{\mu}^{ab} = \Gamma_{\mu \nu}^{\la} e_\la^a (e^{-1} )^{b \nu}     \tag{8.35} \]
が分かる。ただし、計量の逆テンソルに倣って $e_\nu^b$ の逆関数を $(e^{-1} )^{b \nu} $ と表示した。ここで、$\Gamma_{\mu \nu}^{\la} = (\Gamma_\mu )_\nu^\la$ を $(\Gamma_\mu )$ の行列要素と考える。同様に、$e_\la^a = (e^a )_\la $ を列ベクトル $(e^a )$ の要素、$(e^{-1} )^{b \nu} $ を行ベクトル$(e^{-1} )^{b}$ の要素と見做すと、スピン接続は
\[\begin{eqnarray}    \om_{\mu}^{ab} &=& e^a_\la \Ga^{\la}_{\mu\nu} (e^{-1})^{b \nu}    - \d_\mu e_\nu^a (e^{-1})^{b \nu} \nonumber \\    &=&    e^a \Ga_\mu (e^{-1})^b  -  \d_\mu e^a (e^{-1})^b    \tag{8.36} \end{eqnarray}\]
と表せる。ただし、2行目では行列表示を用いた。上式は前回で導いた曲がった多様体の一般的な結果
\[    \om^\prime_\mu \, = \, R \om_\mu R^{-1} - \d_\mu R \, R^{-1}     \tag{8.20} \]
と類似していることに注意しよう。関係式(8.36)から、$T^{a}_{\mu\nu} = 0$ となるリーマン多様体上ではスピン接続は計量 $g_{\mu\nu} = e_\mu^a e_\nu^a$ で完全に決定できることが分かる。

 前回導いたリーマン曲率テンソル
\[ {\cal R}_{\mu \nu}^{ab}   =    \d_\mu \om_{\nu}^{ab} - \d_\nu \om_{\mu}^{ab}    + \om_{\mu}^{ac} \om_{\nu}^{cb} - \om_{\nu}^{ac} \om_{\mu}^{cb}     \tag{8.26} \]
についても同様に変形できる。行列表示では、これは
\[    {\cal R}_{\mu \nu} \, = \, \d_\mu \om_\nu - \d_\nu \om_\mu    + [ \om_\mu , \om_\nu ]    \tag{8.37} \]
と表せる。ここで、スピン接続を一般形
\[    \om_\mu \, = \, M \Om_\mu M^{-1} - \d_\mu M \, M^{-1}    \tag{8.38} \]
で表そう。ただし、$M$, $\Om_\mu$は任意の$n \times n$行列であり、$M^{-1}$は$M$の逆行列である。(8.38)を $\d_\mu \om_\nu - \d_\nu \om_\mu$ に代入すると
\[\begin{eqnarray}    \d_\mu \om_\nu - \d_\nu \om_\mu    &=&    M ( \d_\mu \Om_\nu - \d_\nu \Om_\mu ) M^{-1}    + [ \d_\mu M \, M^{-1} , M \Om_\nu M^{-1} ]    \nonumber \\    &&    +  [ M \Om_\mu M^{-1} , \d_\nu M \, M^{-1} ]    - [ \d_\mu M \, M^{-1} , \d_\nu M \, M^{-1} ]     \tag{8.39} \end{eqnarray}\]
と変形できる。ただし、$\d_\mu M^{-1} = - M^{-1} \d_\mu M \, M^{-1}$ を用いた。また、交換関係 $\left[ \om_{\mu} , \om_{\nu} \right]$ は
\[\begin{eqnarray}    \left[ \om_{\mu} , \om_{\nu} \right]    &=&    M [ \Om_\mu , \Om_\nu ] M^{-1}    - [ M \Om_\mu M^{-1} , \d_\nu M \, M^{-1} ]    \nonumber \\    &&    - [ \d_\mu M \, M^{-1} , M \Om_\nu M^{-1} ]    + [ \d_\mu M \, M^{-1} , \d_\nu M \, M^{-1} ]     \tag{8.40} \end{eqnarray}\]
と展開できる。よって、スピン接続(8.38)に対応するリーマン曲率テンソルは
\[    {\cal R}_{\mu \nu} \, = \, M \left( \d_\mu \Om_\nu - \d_\nu \Om_\mu    + [ \Om_\mu , \Om_\nu ] \right) M^{-1}     \tag{8.41} \]
と表せる。この関係式はその構成からリーマン多様体だけでなく一般の曲がった多様体で成り立つ。$(M, \Om_\mu )$ = $(R , \om_\mu )$ と選択すると、この関係式は以前に導出したリーマン曲率のローレンツ共変性
\[    {\cal R}^{\prime a d}_{\mu \nu} \, = \, R^{ab} \, {\cal R}^{bc}_{\mu \nu} \, ( R^{-1} )^{cd}       \tag{8.27} \]
を証明する。ただし、$R$は局所回転変換の直交行列を表す。

 式(8.36)と(8.38)を比較すると、リーマン多様体は $(M, \Om_\mu ) = ( e ,  \Ga_\mu )$ と選択することに対応する。よって、(8.41)の形から直接、リーマン多様体上のリーマン曲率を
\[    {\cal R}_{\mu \nu} = e \left(  \d_\mu \Ga_\nu - \d_\nu \Ga_\mu + [\Ga_\mu , \Ga_\nu ] \right) e^{-1}     \tag{8.42} \]
と行列表示できることが分かる。行列要素を明示的に書き出せば、その他のテンソル添え字も自動的に再現できる。すなわち、
\[\begin{eqnarray}    {\cal R}^{ab}_{\mu \nu} &=& e^a_\la \, {\cal R}_{\mu \nu \al}^{\la} \, (e^{-1})^{ b \al }       \tag{8.43}\\    {\cal R}^{\la}_{\mu \nu \al} &=&    \d_{\mu} \Ga^{\la}_{\nu \al} -  \d_{\nu} \Ga^{\la}_{\mu \al}    + \Ga^{\la}_{\mu \bt}\Ga^{\bt}_{\nu \al}    - \Ga^{\la}_{\nu \bt}\Ga^{\bt}_{\mu \al}       \tag{8.44} \end{eqnarray}\]
となる。以上の導出からスピン接続$\om_\mu$を(8.38)と行列でパラメータ表示することが非常に有効であることが分かる。つまり、ある量の行列表示が求まれば、行列要素を書き出すことで全てのテンソル添え字を機械的に再現することができる。通常、テンソル解析に重点を置いた一般相対性理論の学習では、テンソルの添え字を追うのが煩雑になる。しかし、ここで示したようにゲージ理論の枠組みでゲージ場(スピン接続)の行列表示を用いるとクリストッフェル記号やリーマン曲率テンソルの計算の見通しが良くなる。(計算途中で添え字を追う必要はなく、行列表示の最後に添え字を辻褄の合うよう追記するだけでよい!)

2024-04-10

8. 曲がった多様体、計量、リーマン多様体 vol.2

8.2 計量


 $n$次元多様体の局所座標を $x^\mu$ ($\mu = 1,2, \cdots , n$) とする。このとき、計量 (metric) は
\[    ds^2 \, = \, g_{\mu\nu}(x) dx^\mu dx^\nu    \tag{8.6} \]
で定義される。ただし、$g_{\mu\nu}(x)$は計量テンソルである。3次元の平坦空間では計量は
\[\begin{eqnarray}    ds^2    &=& dx^2 + dy^2 + dz^2    \nonumber \\    &=&    dr^2 + r^2 d \th^2 + r^2 \sin^2 \th d \phi^2    \tag{8.7} \end{eqnarray}\]
と書ける。ここでは通常の球面座標 $(x^1 , x^2 , x^3 ) = ( r, \th , \phi )$ を用いた。球面座標に対して計量テンソルのゼロでない成分は $g_{11} = 1$, $g_{22} = r^2$, $g_{33} = r^2 \sin^2 \th$ で与えられる。

 つぎに、$y^\mu$を別の局所座標系とすると、(8.6)から $ds^2 = g_{\mu\nu}(x) dx^\mu dx^\nu = \tilde{g}_{\mu \nu} (y) dy^\mu dy^\nu$ が分かる。すなわち、
\[    \tilde{g}_{\mu \nu} (y) \, = \, g_{\al\bt}(x) \frac{\d x^\al}{\d y^\mu}    \frac{\d x^\bt}{\d y^\nu}  \tag{8.8} \]
である。したがって、計量テンソル$g_{\mu \nu}$は2階の対称テンソルである。

 $n$次元の場合、$g_{\mu \nu}$は非退化な$n \times n$対称行列で表せる。対称行列は常に直交行列で対角化可能で、固有値は$n$個の実数 $\la_i \in \mathbb{R}$ ($i = 1,2, \cdots , n$) で与えられる。非退化な行列とは行列式がゼロでないことを意味するので、これらの固有値は非特異 $\la_i \ne 0$ である。ただし、座標特異点が存在することには注意しよう。例えば、(8.7)の場合、座標特異点は $r=0$, $\th = 0, \pi$ に現れる。しかし、これは特定の座標にのみ生じるものであり、$g_{\mu\nu}$の非退化性は一般に成り立つ。したがって、固有値$\la_i$は正か負の値をとる。多くの場合、すべての固有値を正にそろえると便利である。しかし、特殊相対性理論では光の伝播はローレンツ変換のもとで不変なので関係式
\[    dt^2 - dx^2 - dy^2 - dz^2 \, = \,    d {t'}^{2} - d {x'}^{2} - d{y'}^{2} - d{z'}^{2}    \tag{8.9} \]
を要請する必要がある。ここで、ダッシュのついている変数はローレンツ変換後の変数を表す。この場合、時間成分が空間座標とは異なる符号をもつ。特殊相対性理論は現代の理論体系には欠かせないので、物理ではこれら固有値の符号は重要な意味をもつ。これらは計量の符号 (signature) としてラベルされ、例えば、$(++ \cdots +)$, $(-++ \cdots +)$ などと表示される。高エネルギー理論では慣習としてミンコフスキー符号 $(+-- \cdots -)$ が選ばれる。

 行列表現を用いると、計量テンソルの対角化は
\[    g \, = \, S^{T}  g_{\rm diag} S    \, = \, e^{T} e    \tag{8.10} \]
と表せる。ただし、$g_{\rm diag} = \diag ( \la_1 , \la_2 , \cdots , \la_n )$, $e = \diag ( \sqrt{\la_1 } , \sqrt{\la_2 } , \cdots , \sqrt{\la_n} ) S$ である。上述の通り、$S$は直交行列 $S^{T} = S^{-1}$ である。$S$と$g_{\rm diag}$は一般に$x$に依存するので、$e$も$x$の関数である。行列要素で表すと、(8.10)は
\[\begin{eqnarray}    g_{\mu \nu} & = & e^{a}_{\mu} e^{a}_{\nu}    ~ = ~ e^{a}_{\mu} \eta^{ab} e^{b}_{\nu}    \tag{8.11}\\    \eta^{ab} &=& (+ -- \cdots -)    \tag{8.12} \end{eqnarray}\]
と書ける。ここで、$a,b = 1,2, \cdots , n$ である。$e^a_\mu$はフレーム場と呼ばれる。$n=4$ の場合、フレーム場は4脚場 (vierbein) あるいはテトラッド (tetrad) とも呼ばれる。また、$\eta^{ab}$はミンコフスキー符号とした。これらを用いると、計量(8.6)は
\[\begin{eqnarray}    ds^2 & = & g_{\mu \nu} d x^\mu d x^\nu    \, = \, e_{\mu}^{a} e_{\nu}^{a} d x^\mu d x^\nu    \nonumber \\    &=& \xi^a \xi^a \, = \, \xi^a \xi^b \eta^{ab}    \tag{8.13} \end{eqnarray}\]
と表せる。ただし、$\xi^a = e^{a}_{\mu} dx^{\mu}$ は局所直交座標系の無限小長さの基底である。


フレーム場、共変微分、スピン接続

 つぎに、フレーム場の局所変換
\[    e_\mu^a (x) \, \longrightarrow \, {e}_{\mu}^{\prime a} (x) \, = \, R^{ab} (x) e^b_\mu (x)    \tag{8.14} \]
を考える。これに伴い、計量テンソルは
\[    g_{\mu \nu} = e^a_\mu e^a_\nu \, \longrightarrow \,    g_{\mu \nu}^{\prime} = R^{ab} e^b_\mu R^{ac} e^c_\nu     \tag{8.15} \]
と変換する。どのようなフレーム場を選択するかは物理的な測定には影響しないので、$g_{\mu \nu} = g_{\mu \nu}^{\prime}$ を要請できる。つまり、
\[    ( R^T R )^{bc} \, = \, \del^{bc}    \tag{8.16} \]
が成り立つ。これは、$R^{ab} (x)$が直交行列であることを意味する。よって、(8.14)はフレーム場の局所回転変換と見做せる。$R^{ab} (x)$が直交行列であれば、フレーム場は物理的な測定に関与しない。言い換えると、物理現象はフレーム場の局所回転に依存しない。また、(8.12)のミンコフスキー符号$\eta$は対角化されているので
\[    R^T \eta R \, = \, \eta    \tag{8.17} \]
となり、局所回転変換のもとで不変である。よって、この局所回転が局所ローレンツ変換を定義すると解釈できる。

 物理モデルを構築するには、少なくとも2階の微分を定義する必要がある。そこで、まずフレーム場の微分とそのローレンツ変換を考えよう。(8.14)を用いると $\d_\mu {e'}^a_\nu = ( \d_\mu R^{ab} ) e_\nu^b + R^{ab} \d_\mu e_\nu^b$ が分かる。明らかにこの微分は共変性を持ち合わせない。この問題を回避するために微分
\[    D_\mu e_\nu^a = \d_\mu e_\nu^a + \om_{\mu}^{ab} e_\nu^b     \tag{8.18} \]
を導入する。ローマ字の添え字を省略すると、これは $D_\mu e_\nu =  \d_\mu e_\nu + \om_{\mu} e_\nu$ とも表せる。$\om_\mu$を行列、$e_\nu$をベクトルと解釈すると、省略した添え字はいつでも復元できる。同様に、$\d_\mu e^{\prime a}_{\nu}$ は $\d_\mu e_{\nu}^{\prime} = ( \d_\mu R ) e_\nu + R \d_\mu e_\nu$ と書ける。以下では、簡単のためこれらの表記法を随時用いる。

 つぎに、局所ローレンツ変換(8.14)のもとで(8.18)がどのように変換するか考える。これは
\[\begin{eqnarray}    D_\mu^\prime e_\nu^\prime    &=&    \d_\mu e_\nu^\prime + {\om'}_{\mu} e_{\nu}^{\prime}    \nonumber \\    &=&    ( \d_\mu R ) e_\nu + R \d_\mu e_\nu + \om_\mu^\prime R e_\nu    \nonumber \\    &=&    R  ( \d_\mu e_\nu + \om_\mu e_\nu )    ~ = ~ R ( D_\mu e_\nu )    \tag{8.19} \end{eqnarray}\]
と表せる。ただし、$\om_\mu$の局所変換を
\[    \om^\prime_\mu \, = \, R \om_\mu R^{-1} - \d_\mu R \, R^{-1}     \tag{8.20} \]
と選んだ。ここで、$\d_\mu R \, R^{-1}$は反対称行列と見做せることに注意しよう。これは次のように確認できる。恒等式 $\d_\mu (R^{T} R) = 0$ から、関係式 ${R^{-1}}^T \d_\mu R^T + \d_\mu R \, R^{-1}  = 0$ が分かるので、行列要素を書き出すと $(R^{-1} \d_\mu R)^{ba} + (\d_\mu R \, R^{-1})^{ab} = 0$ となり、$(\d_\mu R \, R^{-1})^{T} = - \d_\mu R \, R^{-1}$ と求まる。よって、変換(8.20)を正しく定義するには、$\om_{\mu}^{ab}$が添え字 $a$, $b$ について反対称であることを要請すればよい。そのような$\om_{\mu}^{ab}$はスピン接続と呼ばれる。スピン接続を用いると、微分(8.18)は(8.19)に示したように共変性をもつ。この微分$D_\mu$を共変微分と呼ぶ。これらの結果は素粒子物理学におけるゲージ理論の標準的な手法に沿って導出された。


微分同相写像、トーション、リーマン曲率

 以上の考察からフレーム場に作用する微分として共変微分のみを用いるべきであることが強く示唆される。さらに、前節(8.5)で議論したように、微分同相写像(あるいは一般共変性)の要請からフレーム場の微分を反対称化させる必要がある。ただし、このとき(8.3)に対応するフレーム場の座標変換は
\[    e^a_\mu (x) \, \longrightarrow \, e^{\prime a}_{\mu} ( x^\prime )    \, = \, e^{a}_{\nu} ( x ) \frac{\d x^{\nu} }{\d x^{\prime \mu} }     \tag{8.21} \]
で与えられる。以上より、反対称化された共変微分
\[    T^{a}_{\mu \nu} \, = \, ( D_\mu e_\nu )^a - ( D_\nu e_\mu )^a    \tag{8.22} \]
を定義するのが自然である。実際に$T^{a}_{\mu \nu}$は局所ローレンツ変換(8.14)と座標変換(8.21)のもとで斉次に変換することが分かる。
\[    ( D^\prime_\mu e^\prime_\nu - D^\prime_\nu e^\prime_\mu )^a    \, = \,    R^{ab}  ( D_\al e_\bt - D_\bt e_\al )^b    \frac{\d x^\al}{\d x^{\prime \mu} } \frac{\d x^\bt}{\d x^{\prime \nu} }     \tag{8.23} \]
(8.22)で定義した反対称2階テンソル$T^{a}_{\mu \nu}$は捩率テンソル (torsion tensor) あるいは単にトーションと呼ばれる。

2024-04-09

とても良かった初めての川越

都内からは一般道では遠すぎるし、高速に乗っちゃえば近すぎるという理由から未だに行ってなかった川越に4/7日曜日に行ってきました。子供たちは友達と遊ぶ予定があるので自由にしていいとのこと。川越水上公園のテニスに午後から参加することにして、午前中は川越氷川神社へ。大泉から関越乗ってしまえばスグでした。


氷川神社の裏の川沿いの駐車場に止めました。桜の季節で素晴らしい景色でした。駐車場はハイシーズン料金で30分200円。

2024-04-08

8. 曲がった多様体、計量、リーマン多様体 vol.1

前回までの前半部では量子論における代数的な手法について議論したが今回からの後半部では物理学における幾何学的な手法について解説する。幾何学的な手法が重要となる代表例はアインシュタインの相対性理論である。この章ではその準備としてリーマン多様体について解説する。

8.1 曲がった多様体


まず、$n$次元の曲がった多様体$\M$を考える。大域的に$\M$は$n$次元トポロジカル空間と見做すことができる。一方、局所的には$\M$は$n$次元の平坦な空間 $\mathbb{R}^n$ に近似できる。このような平坦空間の近傍では実数でパラメータ表示される$n$個の局所座標を定義できる。多様体においてそのような近傍はパッチとも呼ばれ無数に存在する。2つの異なるパッチの重複部分では対応する2つの局所座標系を関係付ける推移関数 (transition function) が存在する。この関数は2つのパッチ間の一対一可逆写像を与える。これはまた連続関数でもある。連続関数とは無限に微分可能な関数、つまり $C^\infty$ 関数である。したがって、局所的な描像では曲がった多様体は微分可能な多様体とみなせる。これを簡単にスケッチすると以下のようになる。


 曲がった空間上の一般的な関数$f(x )$は多様体$\M$の近傍の局所座標 $x \in \mathbb{R}^n$ から実数 $\mathbb{R}$ への写像で定義される。
\[ f(x ) : \, \left\{ \mbox{多様体$\M$の近傍の局所座標 $x \in \mathbb{R}^n$} \right\} \, \longrightarrow \mathbb{R} \tag{8.1}\]
同様に、ベクトルを初めとする高階テンソルも構成できる。座標基底を $d x^\mu$ ($\mu = 1,2, \cdots , n$) で表すと、ベクトルは
\[ A = \sum_{\mu} A_{\mu} (x) d x^\mu \tag{8.2} \]
と定義できる。ただし、$A_\mu (x)$はベクトル成分を表す。数学では$A$を共変1形式と呼ぶ。これは局所基底の選び方に依らないはずなので、関係式 $\sum_{\mu} A_{\mu} (x) d x^\mu = \sum_{\nu} \widetilde{A}_{\nu} (y) d y^\nu$ を要請できる。つまり、
\[ \widetilde{A}_{\nu} (y) \, = \, A_\mu (x) \frac{\d x^\mu}{\d y^\nu} \tag{8.3} \]
が成り立つ。ただし、添え字の和については縮約表記した。

 つぎに、$A_\mu (x)$の$x$微分を考える。関数$f(x)$については問題なく微分$\frac{\d f}{\d x^\mu}$を定義できる。しかし、ベクトルの場合、微分$\frac{\d A_\mu}{\d x^\nu}$は不変な意味を成さない。これは微分を
\[ \frac{\d}{\d y^\al} \widetilde{A}_{\nu} (y) = \left[ \frac{\d}{\d x^\bt} A_\mu (x) \right] \frac{\d x^\bt}{\d y^\al} \frac{\d x^{\mu}}{\d y^\nu} + A_\mu (x) \frac{\d^2 x^\mu}{\d y^\al \d y^\nu} \tag{8.4} \]
と書けば簡単に分かる。第2項を残すとこの微分を2階テンソルとして定義することが困難になる。そこで、$\d y^\al$と$\d y^\nu$を反対称にとって第2項を除くと
\[\begin{eqnarray} \frac{\d}{\d y^\al} \widetilde{A}_\nu - \frac{\d}{\d y^\nu} \widetilde{A}_\al &=& \frac{\d}{\d x^\bt} A_\mu \left( \frac{\d x^\bt}{\d y^\al} \frac{\d x^\mu}{\d y^\nu} - \frac{\d x^\bt}{\d y^\nu} \frac{\d x^\mu}{\d y^\al} \right) \nonumber \\ &=& \left[ \frac{\d}{\d x^\bt} A_\mu - \frac{\d}{\d x^\mu} A_\bt \right] \frac{\d x^\bt}{\d y^\al}\frac{\d x^\mu}{\d y^\nu} \tag{8.5} \end{eqnarray}\]
と表せる。これは左辺の反対称化された微分が斉次に変換することを意味する。よって、重要な物理量を記述するのに必須となるベクトルやテンソルを正しく定義するには、常に反対称化された微分を扱う必要がある。つまり、反対称化された共変テンソルと反対称化された微分を用いる必要がある。数学ではこれらは微分形式、外微分のことを指す。

 物理的な視点でみると、この反対称化のルールは一般共変性原理の自然な要請である。一般共変性とは、座標変換のもとでの不変性あるいは微分同相写像 (diffeomorphism) のことである。次章で議論するように、これは弱い等価原理に関係している。

2024-04-06

最近読んだ本:書いてはいけない

電子書籍で一気に読みました。森永卓郎著『書いてはいけない』


言論人として文字通り命を懸けた勇気のある告発です。ジャニーズ、財務省の話は何となくそうだろうなと思っていましたが、日航123便の話については知らないことも書かれていて驚きました。JALが持っているというフライトレコーダーを公開すれば良いだけなので、何とかして公開してもらいたいものです。誰かが裁判にかけるしかないのかな。それともメディアが健全なジャーナリズムを取り戻して世論の力で何とかしてくれないか。私ができることはブログで取り上げるくらいです。興味ある方は著者本人が動画で宣伝してくれているのでご覧になってはいかがでしょうか。

2024-04-04

Mathematical Review 122: チャーン-サイモン理論と量子群

前回までヘビーなレビューが続いたので背景知識を理解するのに数日掛かりましたが、今回は比較的軽かったので簡単に済ませました。(レビューはこちら。)Chern-Simons理論のウィルソン線演算子の結合法則を量子群に出てくる co-product (余積) で表現できるという話でした。量子群については昔にこちら


で勉強しましたが、結局使わずじまいだったような。量子群とはいえ量子論とは特に関係ない形で$\hbar$が入ってくるので注意が必要です。量子群は組紐群とも関連しており興味深いのですが、個人的にはWZW模型からKZ方程式に進み組紐群との関係を議論するという流れが好きです。

2024-04-03

7. ボソン化とカッツ-ムーディ代数 vol.5

7.3 ヴェス-ズミノ-ウィッテン作用


この節では非アーベル型ボソン化を議論した前節の最後に触れたヴェス-ズミノ-ウィッテン(WZW)作用について紹介し、その運動方程式を導く。WZW作用は
\[\begin{eqnarray} S &=& \frac{k}{8 \pi} \int d^2 x \, \Tr \left( \d_\mu g \, \d_\mu g^{-1}  \right)   + \Ga_{WZ} \tag{7.97} \\ \Ga_{WZ} &=&  \frac{k}{4\pi} \int_{0}^{1} d \la \int d^2 x \, \Tr \left( g^{-1} \d_\la  g \, g^{-1} \d_\mu g \, g^{-1} \d_\nu  g \right) \ep^{\mu \nu} \tag{7.98} \end{eqnarray}\]
で定義される。ただし、ここではミンコフスキー計量を用いる ($\mu, \nu = 0, 1$)。前節と同様に、$g = g(x)$は$SU(N)$群の要素を表し、$k \in \mathbb{N}$はレベル数である。第2項$\Ga_{WZ}$はヴェス-ズミノ(WZ)項と呼ばれる。WZ項において $g = g(x)$ は別の変数 $\la \in [0 ,1]$ にも依存する。つまり、$g= g(x, \la)$ であり、$g (x, \la )$は境界条件
\[ g( x , 0 ) = 1 \, , ~~ g ( x , 1 ) = g (x) = e^{i T^\al \phi^\al (x) } \tag{7.99} \]
を満たす。変数$\la$はコンパクトな(2+1)次元時空間の3つ目の座標と解釈することもできる。つまり、$\la = x^2$とおき、$( x , \la ) \rightarrow (x^0 , x^1 , x^2)$ と変換する。ただし、$0 \le x^2 \le 1$ を課す。本来の(1+1)次元時空間はステレオ射影の手法を用いると3次元球面に対応させることができる。条件(7.99)より、無限遠$| \vec{x} | \rightarrow \infty$ で $g = 1$ となることが保証される。$g ( x, \la )$は $S^3$ から $G= SU(N)$ への写像を与える。つまり、$g ( x, \la ): S^3 \rightarrow G$ となる。このとき、$\Ga_{WZ}$は
\[\begin{eqnarray} \Ga_{WZ} &=& \frac{k}{12 \pi} \int_{S^3}  d^3 x \, \Tr \left( g^{-1} \d_\la  g \, g^{-1} \d_\mu  g \, g^{-1} \d_\nu  g \right) \ep^{\mu \nu \la}   \nonumber \\   &=& - 2 \pi k Q [g]    \tag{7.100} \\    Q [g]  &=& - \frac{1}{24 \pi^2 } \int_{S^3}  d^3 x \,    \Tr \left( g^{-1} \d_\la g \, g^{-1} \d_\mu  g \, g^{-1} \d_\nu  g \right) \ep^{\mu \nu \la} \tag{7.101} \end{eqnarray}\]
と表せる。ただし、添え字は(2+1)次元座標を表す ($ \mu , \nu , \la  = 0,1,2$)。$Q [g]$の積分値は整数をとる。この値は写像 $g: S^3 \rightarrow G$ の巻き数 (winding number) として知られている。(この巻き数については第15章で詳しく解説する。)よって、$k \in \mathbb{N}$を考慮すると$\Ga_{WZ}$は$2 \pi$の整数倍で与えられることが分かる。理論は重み$\exp ( - i S )$を用いて汎関数積分を構成することで定義できるので、WZW模型は本来の(1+1)次元空間上で問題なく定義される。つまり、境界条件(7.97)が満たされている限り、WZW作用$S$は$g(x, \la)$における$\la$の内挿の仕方に依存しない。

 運動方程式を求めるためにまず$g (x)$の変分を考えよう。関係式 $g + \del g = e^{i T^\al ( \phi^\al + \del \phi^\al )}$ から
\[ \del g = g \xi \, , ~~~~ \del g^{-1} = - \xi g^{-1} \tag{7.102} \]
を得る。ただし、$\xi $ は 
\[   \xi = i T^\al \del \phi^\al = g^{-1} \del g \tag{7.103} \]
で定義される。作用(7.97)第1項の変分は
\[\begin{eqnarray} \del S^{(1)} &=& \frac{k}{8\pi} \int d^2 x \, \Tr \, \left[ \d_\mu ( g \xi  ) \d_\mu  g^{-1} - \d_\mu g \d_\mu (\xi g^{-1} ) \right] \nonumber \\ &=& \frac{k}{8\pi} \int d^2 x \, \Tr \, (\d_\mu \xi) \left[ g \d_\mu  g^{-1} - \d_\mu g \,  g^{-1} \right] \nonumber \\ &=& \frac{k}{4 \pi} \int d^2 x \, \Tr \,  \xi \d_\mu (\d_\mu g \, g^{-1} ) \nonumber \\ &=& \frac{k}{4 \pi} \int d^2 x \, \Tr \,  \xi \left[ \d_0 ( \d_0 g \, g^{-1} ) - \d_1 ( \d_1 g \, g^{-1} )\right] \tag{7.104} \end{eqnarray}\]
と表せる。また、WZ項の変分は
\[\begin{eqnarray} \del \Ga_{WZ} & = &   \frac{k}{4\pi} \int_{0}^{1} d \la \int d^2 x \,    \Tr \, \d_\la \left( \xi   \, g^{-1} \d_\mu g \, g^{-1} \d_\nu  g    \right) \ep^{\mu \nu}    \nonumber \\    &=& \frac{k}{4 \pi} \int d^2 x \, \Tr \, \xi \left( g^{-1} \d_0  g  \, g^{-1}\d_1 g -  g^{-1}  \d_1 g \, g^{-1}  \d_0 g \right)    \nonumber \\   &=& \frac{k}{4 \pi} \int d^2 x \, \Tr \,  \xi \left[ \d_0 ( \d_1 g \, g^{-1} ) - \d_1 ( \d_0 g \, g^{-1} )\right] \tag{7.105} \end{eqnarray}\]