前節までの結果を簡単にまとめると以下のようになる。
- 一般共変性あるいは微分同相写像の要請から反対称化した微分を用いる必要がある。
- 曲がった多様体に計量 $g_{\mu \nu} = e_\mu^a e_\nu^a$ を導入する。フレーム場 $e_\mu^a$ の局所回転(ローレンツ)変換は $e_{\mu}^{\prime a} = R^{ab} e_{\mu}^{b}$ と表せる。$R^{ab}$ は直交行列。
- フレーム場の微分の共変性から共変微分 $D_\mu e_\nu^a = \d_\mu e_\nu^a + \om_{\mu}^{ab} e_\nu^b $ が必要となる。スピン接続 $\om_{\mu}^{ab}$ の局所変換は $\om_{\mu}^{\prime ab} = ( R \om_\mu R^{-1} - \d_\mu R \, R^{-1} )^{ab}$ と表せる。$\om_{\mu}^{ab}$ は$(a, b)$について反対称。
- 1.からトーション $( D_\mu e_\nu - D_\nu e_\mu )^a = T_{\mu\nu}^{a}$ とリーマン曲率 $( D_\mu D_\nu \phi - D_\nu D_\mu \phi )^a = {\cal R}_{\mu \nu}^{ab} \phi^b$ を定義できる。$\phi^a$ はスカラー場。
8.3 リーマン多様体
前節の最後に触れたように、リーマン多様体は一般的な曲がった多様体にトーション・ゼロの条件
\[ T^{a}_{\mu \nu} \, = \, ( D_\mu e_\nu )^a - ( D_\nu e_\mu )^a \, = \, 0 \tag{8.28} \]
を課すことで定義できる。今節ではこの条件がどのような結果を導くのかを考え、リーマン多様体の特徴を明らかにする。(ただし、超重力理論や弦理論などゼロでないトーションを含む理論も存在することに注意。)
(8.28)から $( D_\mu e_\nu )^a$ は添え字$\mu$, $\nu$について対称であることはすぐに分かる。そこで、この量を $\Ga^{a}_{\mu\nu}$ とおく。フレーム場が可逆であることを用いると、$\Ga^{a}_{\mu\nu}$は $\Ga^{\la}_{\mu\nu} e^a_\la$ と表せる。すなわち、
\[ ( D_\mu e_\nu )^a \, = \, \d_\mu e_\nu^a + \om_{\mu}^{ab} e^b_\nu \, \equiv \, \Ga^{\la}_{\mu\nu} e^a_\la \tag{8.29} \]
とおける。ただし、$\Ga^{\la}_{\mu\nu}$ は$\mu$, $\nu$について対称である。これがどのように計量 $g_{\mu \nu} = e_\mu^a e_\nu^a$ に影響するかを見てみよう。そこで、計量$g_{\al \bt}$の微分を計算すると
\[\begin{eqnarray} \d_\mu g_{\al \bt} &=& ( \d_\mu e^a_\al ) e^a_\bt + e^a_\al ( \d_\mu e^a_\bt ) \nonumber \\ &=& ( \d_\mu e^a_\al + \om^{ab}_{\mu} e^b_\al ) e^a_\bt + e^a_\al ( \d_\mu e^a_\bt + \om^{ab}_{\mu} e^b_\bt ) - \underbrace{ \om^{ab}_{\mu} ( e^b_\al e^a_\bt + e^a_\al e^b_\bt)}_{=0} \nonumber \\ &=& \Ga^{\la}_{\mu \al} e_\la^a e_\bt^a + \Ga^{\la}_{\mu \bt} e_\al^a e_\la^a \nonumber \\ &=& \Ga^{\la}_{\mu \al} \, g_{\la \bt} + \Ga^{\la}_{\mu \bt} \, g_{\al \la} \tag{8.30} \end{eqnarray}\]
と表せる。ここで、$\om^{ab}_{\mu}$ が$a$, $b$について反対称であることを用いた。(8.30)において添え字の対称性を利用すると、関係式
\[ \d_\al g_{\mu \bt} + \d_\bt g_{\al \mu} - \d_\mu g_{\al\bt} \, = \, 2 \Ga^{\la}_{\al\bt} \, g_{\mu \la} \tag{8.31} \]
が求まる。つぎに、計量の逆テンソルを上付き添え字で表して、$g_{\al \bt} g^{\bt \la} = \del^{\la}_{\al}$ とおく。つまり、この表示法では $(g^{-1})^{\bt \la} = g^{\bt \la}$ となる。このとき、$\Ga^{\la}_{\al\bt}$ は計量を用いて
\[ \Ga^{\la}_{\al\bt} \, = \, \frac{1}{2} g^{\la \mu} \left( \d_\al g_{\mu \bt} + \d_\bt g_{\al \mu} - \d_\mu g_{\al\bt} \right) \tag{8.32} \]
と表せる。この $\Ga^{\la}_{\al\bt}$ はクリストッフェル記号 (Christoffel symbol) と呼ばれる。8.1節で考えたように(8-29)の局所座標変換を $\widetilde{D}_{\mu} \widetilde{e}_{\nu} = \widetilde{\Gamma}^{\la}_{\mu\nu} \widetilde{e}_{\la}$ と表す。ベクトル $A_\mu (x)$ の局所座標変換は
\[ \widetilde{A}_{\nu} (y) \, = \, A_\mu (x) \frac{\d x^\mu}{\d y^\nu} \tag{8.3} \]
で与えられた。また、この微分の局所座標変換は
\[ \frac{\d}{\d y^\al} \widetilde{A}_{\nu} (y) = \left[ \frac{\d}{\d x^\bt} A_\mu (x) \right] \frac{\d x^\bt}{\d y^\al} \frac{\d x^{\mu}}{\d y^\nu} + A_\mu (x) \frac{\d^2 x^\mu}{\d y^\al \d y^\nu} \tag{8.4} \]
となる。これらを用いると$\widetilde{D}_\mu \widetilde{e}_\nu $は
\[\begin{eqnarray} \widetilde{D}_\mu \widetilde{e}_\nu &=& \left( \frac{\d}{ \d y^\mu } + \om_\al (x) \frac{\d x^\al}{\d y^\mu} \right) \left[ e_\bt (x) \frac{\d x^\bt}{\d y^\nu} \right] \nonumber \\ &=& ( D_\al e_\bt ) \frac{\d x^\al}{\d y^\mu} \frac{\d x^\bt}{\d y^\nu} + e_\bt \frac{\d^2 x^\bt}{\d y^\mu \d y^\nu} \nonumber \\ &=& \left( \Gamma_{\al \bt }^{\la}\frac{\d x^\al}{\d y^\mu} \frac{\d x^\bt}{\d y^\nu} + \frac{\d^2 x^\la }{\d y^\mu \d y^\nu} \right) e_\la \tag{8.33} \end{eqnarray}\]
と計算できる。よって、$\Gamma^{\la}_{\mu\nu}$の局所座標変換は
\[ \widetilde{\Gamma}^{\la}_{\mu\nu} = \Gamma_{\al \bt }^{\si} \frac{\d x^\al}{\d y^\mu} \frac{\d x^\bt}{\d y^\nu} \frac{\d y^\la}{\d x^\si} + \frac{\d^2 x^\la }{\d y^\mu \d y^\nu} \frac{\d y^\la}{\d x^\si} \tag{8.34} \]
と表せる。これはクリストッフェル記号がテンソルとして振る舞わないことを明示している。
トーション・ゼロのもとでスピン接続 $\om_{\mu}^{ab}$ は $e^a_\mu$ と $\Ga^{\la}_{\mu\nu}$ で表せる。(8.29)から
\[ \d_\mu e_\nu^a (e^{-1} )^{b \nu} + \om_{\mu}^{ab} = \Gamma_{\mu \nu}^{\la} e_\la^a (e^{-1} )^{b \nu} \tag{8.35} \]
が分かる。ただし、計量の逆テンソルに倣って $e_\nu^b$ の逆関数を $(e^{-1} )^{b \nu} $ と表示した。ここで、$\Gamma_{\mu \nu}^{\la} = (\Gamma_\mu )_\nu^\la$ を $(\Gamma_\mu )$ の行列要素と考える。同様に、$e_\la^a = (e^a )_\la $ を列ベクトル $(e^a )$ の要素、$(e^{-1} )^{b \nu} $ を行ベクトル$(e^{-1} )^{b}$ の要素と見做すと、スピン接続は
\[\begin{eqnarray} \om_{\mu}^{ab} &=& e^a_\la \Ga^{\la}_{\mu\nu} (e^{-1})^{b \nu} - \d_\mu e_\nu^a (e^{-1})^{b \nu} \nonumber \\ &=& e^a \Ga_\mu (e^{-1})^b - \d_\mu e^a (e^{-1})^b \tag{8.36} \end{eqnarray}\]
と表せる。ただし、2行目では行列表示を用いた。上式は前回で導いた曲がった多様体の一般的な結果
\[ \om^\prime_\mu \, = \, R \om_\mu R^{-1} - \d_\mu R \, R^{-1} \tag{8.20} \]
と類似していることに注意しよう。関係式(8.36)から、$T^{a}_{\mu\nu} = 0$ となるリーマン多様体上ではスピン接続は計量 $g_{\mu\nu} = e_\mu^a e_\nu^a$ で完全に決定できることが分かる。
前回導いたリーマン曲率テンソル
\[ {\cal R}_{\mu \nu}^{ab} = \d_\mu \om_{\nu}^{ab} - \d_\nu \om_{\mu}^{ab} + \om_{\mu}^{ac} \om_{\nu}^{cb} - \om_{\nu}^{ac} \om_{\mu}^{cb} \tag{8.26} \]
についても同様に変形できる。行列表示では、これは
\[ {\cal R}_{\mu \nu} \, = \, \d_\mu \om_\nu - \d_\nu \om_\mu + [ \om_\mu , \om_\nu ] \tag{8.37} \]
と表せる。ここで、スピン接続を一般形
\[ \om_\mu \, = \, M \Om_\mu M^{-1} - \d_\mu M \, M^{-1} \tag{8.38} \]
で表そう。ただし、$M$, $\Om_\mu$は任意の$n \times n$行列であり、$M^{-1}$は$M$の逆行列である。(8.38)を $\d_\mu \om_\nu - \d_\nu \om_\mu$ に代入すると
\[\begin{eqnarray} \d_\mu \om_\nu - \d_\nu \om_\mu &=& M ( \d_\mu \Om_\nu - \d_\nu \Om_\mu ) M^{-1} + [ \d_\mu M \, M^{-1} , M \Om_\nu M^{-1} ] \nonumber \\ && + [ M \Om_\mu M^{-1} , \d_\nu M \, M^{-1} ] - [ \d_\mu M \, M^{-1} , \d_\nu M \, M^{-1} ] \tag{8.39} \end{eqnarray}\]
と変形できる。ただし、$\d_\mu M^{-1} = - M^{-1} \d_\mu M \, M^{-1}$ を用いた。また、交換関係 $\left[ \om_{\mu} , \om_{\nu} \right]$ は
\[\begin{eqnarray} \left[ \om_{\mu} , \om_{\nu} \right] &=& M [ \Om_\mu , \Om_\nu ] M^{-1} - [ M \Om_\mu M^{-1} , \d_\nu M \, M^{-1} ] \nonumber \\ && - [ \d_\mu M \, M^{-1} , M \Om_\nu M^{-1} ] + [ \d_\mu M \, M^{-1} , \d_\nu M \, M^{-1} ] \tag{8.40} \end{eqnarray}\]
と展開できる。よって、スピン接続(8.38)に対応するリーマン曲率テンソルは
\[ {\cal R}_{\mu \nu} \, = \, M \left( \d_\mu \Om_\nu - \d_\nu \Om_\mu + [ \Om_\mu , \Om_\nu ] \right) M^{-1} \tag{8.41} \]
と表せる。この関係式はその構成からリーマン多様体だけでなく一般の曲がった多様体で成り立つ。$(M, \Om_\mu )$ = $(R , \om_\mu )$ と選択すると、この関係式は以前に導出したリーマン曲率のローレンツ共変性
\[ {\cal R}^{\prime a d}_{\mu \nu} \, = \, R^{ab} \, {\cal R}^{bc}_{\mu \nu} \, ( R^{-1} )^{cd} \tag{8.27} \]
を証明する。ただし、$R$は局所回転変換の直交行列を表す。
式(8.36)と(8.38)を比較すると、リーマン多様体は $(M, \Om_\mu ) = ( e , \Ga_\mu )$ と選択することに対応する。よって、(8.41)の形から直接、リーマン多様体上のリーマン曲率を
\[ {\cal R}_{\mu \nu} = e \left( \d_\mu \Ga_\nu - \d_\nu \Ga_\mu + [\Ga_\mu , \Ga_\nu ] \right) e^{-1} \tag{8.42} \]
と行列表示できることが分かる。行列要素を明示的に書き出せば、その他のテンソル添え字も自動的に再現できる。すなわち、
\[\begin{eqnarray} {\cal R}^{ab}_{\mu \nu} &=& e^a_\la \, {\cal R}_{\mu \nu \al}^{\la} \, (e^{-1})^{ b \al } \tag{8.43}\\ {\cal R}^{\la}_{\mu \nu \al} &=& \d_{\mu} \Ga^{\la}_{\nu \al} - \d_{\nu} \Ga^{\la}_{\mu \al} + \Ga^{\la}_{\mu \bt}\Ga^{\bt}_{\nu \al} - \Ga^{\la}_{\nu \bt}\Ga^{\bt}_{\mu \al} \tag{8.44} \end{eqnarray}\]
となる。以上の導出からスピン接続$\om_\mu$を(8.38)と行列でパラメータ表示することが非常に有効であることが分かる。つまり、ある量の行列表示が求まれば、行列要素を書き出すことで全てのテンソル添え字を機械的に再現することができる。通常、テンソル解析に重点を置いた一般相対性理論の学習では、テンソルの添え字を追うのが煩雑になる。しかし、ここで示したようにゲージ理論の枠組みでゲージ場(スピン接続)の行列表示を用いるとクリストッフェル記号やリーマン曲率テンソルの計算の見通しが良くなる。(計算途中で添え字を追う必要はなく、行列表示の最後に添え字を辻褄の合うよう追記するだけでよい!)
まとめ
この章では、一般の曲がった多様体とその特定の場合に当たるリーマン多様体について考えた。まず、微分可能なトポロジカル多様体から始めて、計量を定義することで幾何学的な情報を追加した。計量テンソル $g_{\mu \nu}$ の対称性と非退化性から、これはフレーム場 $e_\mu^a$ の積として表現できる。スピン接続 $\om_{\mu}^{ab}$ はフレーム場に作用する共変微分の定義から自然に現れる。また、一般共変性の原理より共変微分を反対称化させる必要がある。この要請を考慮すると捩率(トーション)テンソル $T^{a}_{\mu \nu}$ とリーマン曲率テンソル ${\cal R}^{ab}_{\mu \nu}$ は $( e_\mu^a , \om_{\mu}^{ab} )$ から以下の形で求められる。
\[\begin{eqnarray} g_{\mu \nu} &=& e^a_\mu e^a_\nu \tag{8.45}\\ (D_\mu e_\nu )^a &=& \d_\mu e_\nu^a + \om_{\mu}^{ab} e^b_\nu \tag{8.46}\\ ( D_\mu e_\nu - D_\nu e_\mu )^a &=& T_{\mu \nu}^{a} \tag{8.47}\\ \left[ ( D_\mu D_\nu - D_\nu D_\mu ) \phi \right]^a &=& {\cal R}^{ab}_{\mu \nu } \phi^b \tag{8.48} \end{eqnarray}\]
ただし、$\phi^a$ は曲がった多様体上で定義されるスカラー関数である。
リーマン多様体はこれらの関係式にトーション・ゼロの条件を課すことで得られる。(8.47)からこの条件はフレーム場の共変微分 $D_\mu e_\nu^a$ が添え字$\mu$, $\nu$について対称であることを意味する。これより、クリストッフェル記号 $\Ga^{\la}_{\mu \nu}$ を導入するのが便利であり、これは計量の微分を用いて表せる。このとき、スピン接続 $\om_{\mu}^{ab}$ は $( e_\mu^a , \Ga^{\la}_{\mu \nu})$ の関数として与えられる。これに対応して、リーマン曲率 ${\cal R}^{ab}_{\mu \nu}$ も $( e_\mu^a , \Ga^{\la}_{\mu \nu})$ を用いて以下の形で求められる。
\[\begin{eqnarray} ( D_\mu e_\nu )^a &=& \Ga_{\mu \nu}^{\la} e^a_\la ~~~~~~ \mbox{($\mu , \nu$について対称)} \tag{8.49}\\ \Ga_{\mu\nu}^{\la} &=& \frac{1}{2} g^{\la \al} \left( \d_\mu g_{\nu \al} + \d_\nu g_{\mu \al} - \d_\al g_{\mu \nu} \right) \tag{8.50}\\ \om_{\mu}^{ab} &=& e^a_\la \, \Ga^{\la}_{\mu \nu} \, ( e^{-1} )^{b \nu } - \d_\mu e^a_\la \, (e^{-1})^{b \la } \tag{8.51}\\ {\cal R}^{ab}_{\mu \nu} &=& e^a_\la \, {\cal R}^{\la}_{\mu \nu \al} \, (e^{-1})^{b \al } \tag{8.52}\\ {\cal R}^{\la}_{\mu \nu \al} &=& \d_{\mu} \Ga^{\la}_{\nu \al} - \d_{\nu} \Ga^{\la}_{\mu \al} + \Ga^{\la}_{\mu \bt}\Ga^{\bt}_{\nu \al} - \Ga^{\la}_{\nu \bt}\Ga^{\bt}_{\mu \al} \tag{8.53} \end{eqnarray}\]
ここで重要な量 $( e_\mu^a , \om_{\mu}^{ab} , \Gamma_{\mu \nu}^{\la}, {\cal R}_{\mu \nu}^{ab}, {\cal R}_{\mu \nu \al}^{\la})$ はすべて計量テンソル $g_{\mu \nu}$ から導けることに注意しよう。この意味で、リーマン多様体の理論は「計量の理論」と理解できる。
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