前回までの前半部では量子論における代数的な手法について議論したが今回からの後半部では物理学における幾何学的な手法について解説する。幾何学的な手法が重要となる代表例はアインシュタインの相対性理論である。この章ではその準備としてリーマン多様体について解説する。
8.1 曲がった多様体
まず、n次元の曲がった多様体Mを考える。大域的にMはn次元トポロジカル空間と見做すことができる。一方、局所的にはMはn次元の平坦な空間 Rn に近似できる。このような平坦空間の近傍では実数でパラメータ表示されるn個の局所座標を定義できる。多様体においてそのような近傍はパッチとも呼ばれ無数に存在する。2つの異なるパッチの重複部分では対応する2つの局所座標系を関係付ける推移関数 (transition function) が存在する。この関数は2つのパッチ間の一対一可逆写像を与える。これはまた連続関数でもある。連続関数とは無限に微分可能な関数、つまり C∞ 関数である。したがって、局所的な描像では曲がった多様体は微分可能な多様体とみなせる。これを簡単にスケッチすると以下のようになる。
曲がった空間上の一般的な関数f(x)は多様体Mの近傍の局所座標 x∈Rn から実数 R への写像で定義される。
f(x):{多様体Mの近傍の局所座標 x∈Rn}⟶R
同様に、ベクトルを初めとする高階テンソルも構成できる。座標基底を dxμ (μ=1,2,⋯,n) で表すと、ベクトルは
A=∑μAμ(x)dxμ
と定義できる。ただし、Aμ(x)はベクトル成分を表す。数学ではAを共変1形式と呼ぶ。これは局所基底の選び方に依らないはずなので、関係式 ∑μAμ(x)dxμ=∑ν˜Aν(y)dyν を要請できる。つまり、
˜Aν(y)=Aμ(x)∂xμ∂yν
が成り立つ。ただし、添え字の和については縮約表記した。
つぎに、Aμ(x)のx微分を考える。関数f(x)については問題なく微分∂f∂xμを定義できる。しかし、ベクトルの場合、微分∂Aμ∂xνは不変な意味を成さない。これは微分を
∂∂yα˜Aν(y)=[∂∂xβAμ(x)]∂xβ∂yα∂xμ∂yν+Aμ(x)∂2xμ∂yα∂yν
と書けば簡単に分かる。第2項を残すとこの微分を2階テンソルとして定義することが困難になる。そこで、∂yαと∂yνを反対称にとって第2項を除くと
∂∂yα˜Aν−∂∂yν˜Aα=∂∂xβAμ(∂xβ∂yα∂xμ∂yν−∂xβ∂yν∂xμ∂yα)=[∂∂xβAμ−∂∂xμAβ]∂xβ∂yα∂xμ∂yν
と表せる。これは左辺の反対称化された微分が斉次に変換することを意味する。よって、重要な物理量を記述するのに必須となるベクトルやテンソルを正しく定義するには、常に反対称化された微分を扱う必要がある。つまり、反対称化された共変テンソルと反対称化された微分を用いる必要がある。数学ではこれらは微分形式、外微分のことを指す。
物理的な視点でみると、この反対称化のルールは一般共変性原理の自然な要請である。一般共変性とは、座標変換のもとでの不変性あるいは微分同相写像 (diffeomorphism) のことである。次章で議論するように、これは弱い等価原理に関係している。
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