2022-02-23

最近読んだ本:理系男子ならきっと共感する『ジェノサイド』

先日受けたワクチン接種、前回の経験から副反応が予想されたので横になりながら読める本を事前に決めていました。これまでのノーベル化学賞を全て解説するというありがたい動画


で紹介されていた高野和明著『ジェノサイド』


です。エンタメ系の小説は高村薫以外はあまり読まないので苦手意識がありましたが、さすがヨビノリたくみ君が紹介しているだけあって理系心をくすぐる奇特なエンタメ小説でした。出版された2011年当時の生化学・薬学・創薬の最先端の話を中心にITや理数系の話題にも触れられています。とくに創薬に関する話はほとんど知らなかったので興味深かったです。専門家の方々への取材や文献の渉猟を通して著者がこの分野について知ったことを読者と共有したいという気持ちが存分に伝わってきました。著者のこの姿勢は理系分野に限らず、政治・歴史・時事問題にも及び、いくつかの点に関して「ん?それいる?」となる部分はありました。また、終盤にかけてあまりに非現実的な話――例えば、大事な薬を建物7階から落として(しっかり)キャッチするとか、戦闘機が4機墜落した理由がメタンハイドレートだったとか――に少し白けた部分がありました。他にもフランス外人部隊にいた日本人傭兵の話が尻切れトンボになっているなど主要な登場人物が描き切れていないとか細かいことを探せば色々あるかもしれません。しかし枝葉末節にこだわらなければ全体的な構想・アイデアはとても興味深く壮大で誰もが楽しめる読み物だと思います。

冒頭でブッシュ Jr. 大統領をモデルにした人物が出てきますが、私は1998年から2006年までアメリカにいたのでブッシュ Jr. の大統領就任から911、イラク攻撃までの流れは良く覚えています。大統領が何か重大発表をする際、夜にテレビで国民に向けて演説するのですが、そのとき何とも言えない含み笑いをするのでこんな人物が大統領でホント大丈夫か?なんて思ったものです。ルームメイトの中国人もそのことを指摘していて、お互いにこいつは信用できない(というか、あまり賢くない)ということで意見が一致していました。ブッシュ政権の周りを固めていたネオコンと呼ばれるチェイニー、ラムズフェルドのなんとも言えない上から目線の態度、そして彼らと対照的で唯一信頼できたコリン・パウエル(CCNYの先輩です)のことなどを思い出してしまいました。当時大統領選で何故ジョン・マケインが選ばれなかったのか、外野の私には不思議でしょうがありませんでした。あの時、共和党がマケインを指名していればブッシュ、オバマ、トランプ、バイデンという流れにはならなかった気がします。私がアメリカにいて肌感覚として感じたのはアメリカは戦争し続けないと成り立たない国だということです。日本も結局その枠組みに組み込まれちゃっているので平和憲法を盾に日本はあくまでも「戦争をしないと決めた国」と小説の主人公の一人である純粋な理系学生が強弁してみたところで説得力に欠けますが、私はこの言葉に人類の将来への唯一の希望を感じました。

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