2022-02-17

最近立ち読みした本:荻村伊智朗エッセイ集

 今日は3回目のワクチン接種のため市内の体育館に行きました。待ち時間を有効活用しようと物理の論文を持参したのですが、地下の体育館入口に三鷹出身の伝説の卓球選手、荻村伊知朗さんを紹介するコーナーがありました。1956年に世界選手権で優勝してその後も数々のタイトルを獲得、1987年から62歳という若さで亡くなられる1994年まで国際卓球連盟の会長だったそうです。恥ずかしながら私は全く存じ上げませんでした。展示品の中に誰でも手に取れるよう著書が陳列してあったので一番おもしろそうな『笑いを忘れた日 ― 伝説の卓球人・荻村伊知朗自伝』


を手に取りました。冒頭から興味深くワクチン接種や論文のことは忘れて読み入ってしまいました。接種後の待ち時間15分もあっという間に過ぎ、本を返却して帰ろうと思いましたが、折角なので飛ばし飛ばしですが最後まで読み切りました。冒頭で紹介された戦後の卓球ブームの熱烈さ、スポーツに賭ける若者の気持ち、当時の吉祥寺、都立大あたりの様子などの話だけでなく、特に荻村選手が如何にして自分で考えて考え抜いて世界的な選手になっていったかが技術面・精神面・体力面など総合的に率直にそして誠実に語られているのに感動しました。ここにはどんなスポーツにも通用する上達の極意が述べられています。特に同じラケットスポーツのテニスとは共通点が多いので納得することが多かったです。例えば、一人でやる練習が大事という点、強い選手は一人で1時間サーブ練習をやり続けることが出来るだとか、よく分かります。またサーブは足を決めると安定するという格言、足が決まると大事な場面でもサーブが安定するとのこと、競技は違いますが最近私もテニスで気付いたことです。また、勝負事なので勝ち負けにこだわるのは当然だとしても自分本位に陥らないこと、対戦相手への敬意を失わず、対戦前と後でしっかり相手の目を見て握手できる選手になろうという言葉。「スポーツは自己表現」というエッセイにも頷くばかりでした。

スポーツをやるからには知識だけ詰め込んだ評論家になるのではなく、体で表現できなければならない。技術を体得する難しさ苦しさを知った評論家たれ。「天才はいるのですか?天才は君だ!」など示唆に富んだ言葉の数々。自分の感覚、感性を大切にし常に考え続けた荻村さんの人間性の深さ、大きさに感服しました。世界中の卓球人に支持されて国際卓球連盟の会長になられたのも納得です。テニスとの関連で興味深かったのは、荻村さんが一度テニスの国際機関のトップの人に聞いたところテニスでは卓球のようにスピンの多寡によって勝敗が左右するようなことはできるだけ少なくする方針だとのことです。昔、スピンが良くかかるラケットとストリングが開発されたそうですがその方針に従ってルール違反にされたそうです。確かに卓球では(不正)ラバーが問題になることがありますが、テニスで不正ストリングなんて話は聞いたことがありません。今後もしスピンのかかりやすいボールやストリングが出てきたらテニスの戦術ももっと卓球っぽくなるのでしょうか?あまり想像できませんがネット前での突っつきやアンダーサーブが有効になるかもしれません。反対にスピード合戦で昔のウィンブルドンのようにサーブだけでほとんどのポイントが決まるのもどうかと思います。テニス協会の偉い人には道具の進化に応じて各要素(ボール、ストリング、ラケット)の基準を適切に(ゲーム性を失わないように)設定してもらいたいと思います。

話がずれました。最後に個人的な卓球についての思い出。小学生の頃、家に何故か両面ラバーのペンのラケットがありました。昔、母が使っていたようでそのラケットかどうか知りませんが卓球でインターハイに出場したそうです。母の兄弟も卓球部だったらしく小さいころから教えてもらっていたそうです。1960年代、荻村さんの全盛期を少し過ぎた頃でしょうか。父の海外赴任で1970年代にスペインのバルセロナに行った際、母が近くのスポーツセンターでスペイン代表の方と対戦したけどそれほど強くなかったそうです。それほど当時の日本卓球のレベルは高かったのでしょう。とはいえ、帰国後母は卓球をやめてテニスばかりしていました。私は2000年代にニューヨークで博士課程の学生だった頃、後輩の中国人とよくリフレッシュで卓球をしました。ティータイムに使われる集会場のような部屋に卓球台がありそこが空いていると週に2回ぐらい対戦しました。いつもは穏やかな彼が卓球になると絶対負けないという感じでガンガン来るので毎回楽しかったです。(大抵、負かされていたのでいつもお願いして対戦してもらいました。)あれ以降は真剣に卓球をやったことがありません。ただ、家族旅行の際に宿に卓球台があると子供を誘って遊んだことはあります。京都嵯峨野と鹿児島指宿のホテルでした。今度は何時できるかな。

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