2020年2月18日

最近のarXivから:2001.05040

前回に引き続き、先月連投されたナイアのもう1つの論文 "Landau-Hall States and Berezin-Toeplitz Quantization of Matrix Algebras"

https://arxiv.org/abs/2001.05040

も簡単に紹介します。Berezin-Toeplitz量子化については

https://arxiv.org/abs/1003.2523

にまとめられていますが、そのエッセンスはナイアの論文のイントロ部分で丁寧に紹介されています。その内容を表面上だけ追ってみます。ケーラー空間 ${\cal M}$ 上の複素関数 $A(z, \bz )$ をケーラー空間上で定義される演算子 $\hat{A}$(の行列要素$A_{ij}$)に対応させる枠組みをBerezin-Toeplitz(BT)量子化と呼ぶ。${\cal M}$上のコヒーレント状態の波動関数(で正則条件を満たしたもの)の完全系の要素を$\Psi_i$で表すと、$A(z, \bz )$と$A_{ij}$の関係は
\[
A_{ij} = \int_{\cal M} d V ~ \Psi^{*}_{i}  A(z, \bz ) \Psi_{j}
\tag{1}
\]
で与えられる。ただし、$dV$ は ${\cal M}$ の体積要素。反対に $A_{ij}$ から古典的な関数を導出する式は
\[
(A) = {\cal C} \sum_{k,l} \Psi_k A_{kl} \Psi^{*}_{l}
\tag{2}
\]
で定義される。ただし、${\cal C}$ は規格化定数。BT量子化において、$A(z, \bz )$,  $(A)$ はそれぞれ反変シンボル、共変シンボルと呼ばれ、量子化における重要な要素を成す。これらは互いに変換可能ではない、つまり$A(z, \bz)$が与えられたとして、$(1)$, $(2)$を用いて算出された $(A)$ は $A(z, \bz)$ とはならない。なお、これらが一致するのは行列要素 $A_{ij}$ が対角成分だけをもつ場合(対角化されたコヒーレント状態表現)に限られる。

この論文では ${\cal M}$ として具体的に $S^2$ と $\cp^2 = SU(3)/U(2)$ を取り上げ、$A(z, \bz )$ と $(A)$ のスター積をシステマティックに算出しています。前回同様ナイアが長年研究してきたファジイ空間を使った量子ホール系の解析手法を用いて、上記のコヒーレント状態を量子ホール問題の最低ランダウ準位とみなすことで、BT量子化を場の理論の問題として再定義し、数学的なスター積の記述に物理的な意味を与えています。

共変シンボルのスター積はナイアが以前に導出した量子ホール系の有効作用の計算と同様です。一方、反変シンボルのスター積については、関係式$(1)$に注目して、最低ランダウ準位に制限された1粒子系の量子ホール問題の解析と関連付けられることが示されており、崎田・レイの論文
https://arxiv.org/abs/hep-th/9304033

で与えられたスター積について現代的な解釈がなされている点が興味深かったです。

BT量子化については最近の論文

https://arxiv.org/abs/2002.02993
https://arxiv.org/abs/2002.05010

でも取り上げられており、もはや数学者だけの研究対象ではなくなってきたようです。

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