2019-08-30

最近読んだ本:多摩エリアが舞台のミステリー

先週、久しぶりに駅前の本屋に寄ったところ高村薫の新刊


が平積みになっていました。2017年の夏から1年間の新聞連載小説をまとめたものということで、分量もあり時間がかかりそうなので一旦敬遠しましたが、小説の舞台がなじみ深い野川公園およびその周辺の多摩エリアだったので気になってしまい、後日、駅前のオオゼキでの買い物の前に購入しました。三鷹市のテニスの団体戦や市民大会が調布飛行場脇の大沢総合グラウンドで開催されるので野川公園へは定期的に訪問しています。特に、テニスコート裏の壁打ち場はよく利用しています。野川公園はもともと近くのICUのゴルフ場だったため正門がゴルフのクラブハウスへの入り口のような格好になっています。公園内もゴルフ場の名残がありフェアウェイのように見晴らしのいい部分とそうでない部分が織り交ざっており公園としては不思議な印象です。春に桜が満開になるととても奇麗です。

2013年3月30日の野川公園


小学校入学直前の長女







テニスコートの近くにはBBQ広場があります。

2013年10月13日 保育園のお友達家族とBBQ


小説で設定されている事件現場は東八道路を越えた北地区の野川に掛かる橋の近くだそうですが、あの辺りの風景も良く知っています。というのも、7,8年前に市民駅伝の練習のため休日の早朝に野川公園の北門(武蔵野公園の隣)近くに集合してクロカンコースを黙々と走るということをやっていたからです。トライアスロンをやっているというパパ友にウッドチップの上を走るといい練習になると教えてもらい高校の野球部に戻った気分で練習していましたがさすがに辛かったです。その時、西武多摩川線の車両を初めてみました。いまだに乗車したことはありませんが、多摩駅付近は府中小柳町のテニスコートに行く際に車でよく通るので小説の描写はすぐに頭に描くことができ楽しかったです。小説で何度となく描かれた野川公園から人見街道へ抜ける坂道なんてさすがに地元の人しか通らない気がしますが、私は偶然前回の運転免許の更新で府中の試験場から三鷹に帰る際に東八道路を東に行かずに野川公園・多摩川線の脇を北上して人見街道まで自転車で登ったことがあったので、あぁあの辺りかと見当が付きました。崖を登るとすぐに密集住宅街になりその様相はアメリカンスクール側の野川公園付近の様子とは確かに違います。

登場人物の一人が勤務しているという桜町病院が出てきたのには驚きました。上の子が保育園年長さんの時に一年間お教室に通っていたのですが、そこが桜町病院のすぐ近くだったので病院のコインパーキングを利用したことがあります。多摩湖自転車道で花小金井駅や小平駅にも何度か足を伸ばしたことがあったのでその辺りのことも描かれていて楽しかったです。という訳で、小説の主な舞台がほとんど私の生活圏と一致していたので、作者は今は大阪に住んでいるはずなのに実際に歩いたか自転車に乗ったのではと感じられるほどよくリサーチしたなぁと感心しました。ミステリーの内容よりもこの武蔵野エリアへの作者の思い入れが四季折々の丁寧な描写に表れていてとても印象深かったです。

私にとって武蔵野・多摩というエリアを感じるのは中央線から北西にそびえる秩父の山々が良く見えるときです。2年前の甲子園で東海大菅生高校がベスト4まで勝ち上がりましたが勝つたびに流れる校歌「北に秩父の山波を/南高尾の霊峰を/清き流れに育まる/これわが母校わが母校」に多摩エリアの特長がよく表れているなあと感じ入ったものです。校歌と言えばわが母校目黒十中の校歌と応援歌「大原台」も戦後のあの辺り(駒沢公園、旧国立第二病院付近)の様子を想起させる貴重なものなのでこれからも歌い継がれて欲しいです。私が中学生だった頃も晴れていれば校舎から富士山が見えていましたが、昔は校舎のある高台から見渡すと遥か大山、丹沢の奥にある富士山がよく望めたことでしょう。

小説の話からだいぶ逸れてしまいました。今回読んでみて新鮮だったのが会話文のカギ括弧が無く、すべて地の文に埋め込まれていたことです。文章のリズム感や言葉の使い方だけから話者が誰か全て分かるように書かれており通常の小説よりも冗長でなく良かったです。高村薫の小説はこれまでいくつか読んできましたが、とうとうこのようなスタイルに到達したのかと感慨深く読みました。登場人物の心象描写もリズム感・言葉づかいから誰を主語にしているのか(あるいはしていないのか)がすぐに分かるようになっており、自由自在に時間と場所を転換できる筆力には圧倒されました。ただ、終盤「一方その頃」など神視点のマジックワードが多用されていて少し食傷気味になりました。また、ADHDの登場人物の脳内をゲーム用語を使って表現している部分は、ドラクエをしたことのない私にはチンプンカンプンで、唯一分かったのがベホイミという呪文の言葉だけでした。合田元刑事にもモンストをやらせているなど作者の人気ゲームへの傾倒振りには驚くとともに呆れてしまいましたが、そこまでしないと今の若者の気持ちは理解できないのかもしれません。(個人的にはゲームはテニスだけで充分です。)最後に、今回の読書で女子中高生の内面に触れることができたので、同じ多摩エリアで育つ2人の娘をもつ父親として言動には注意しなければと心を新たにしました。

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