さて昨日から固唾を飲んで見守っていた日本政府によるILC(国際リニアコライダー)誘致の意思表明がスケジュール通り行われました。今後の日本の科学行政を左右する事案なので発表された内容は早速ネットで配信されています。
次世代加速器「国際リニアコライダー」誘致 文科省が結論先送り(毎日新聞3/7付)
次世代加速器ILC 誘致検討へ米欧と意見交換 文科省が見解発表(産経新聞 3/7付)
文科省としても意見を取りまとめるには話が大きくなりすぎたのかもしれません。ILC建設推進議員連盟の方々は「ILCを国家プロジェクトと位置づける」とまで提言しているのだから、文部科学大臣の一存で決められるような事案ではなくなっています。内閣が鶴の一声で「推進」と言えば済むのですが、どうなのでしょう。ほぼ頓挫した海外への原発プラントの輸出を国家プロジェクトして押し進めるよりは、国内に国際的な素粒子加速器施設の建設を推進する方がよっぽど国民の支持を得られると思います。ただ、その内閣の特別機関の日本学術会議がILC誘致に否定的だから話がややこしくなっています。上記の政府見解においても学術会議の意見・役割には充分に配慮しているのが伺えます。柴山文部科学大臣は、そのあたりのことも考慮して直前までILC誘致の可否について明言は避けていました。以下の会見(平成31年3月5日)の冒頭部分をご覧ください。
これが政治と言ってしまえばそうなのでしょうが、あまりにも長期間結論を先送りしていると国際協力に積極的な研究者も業を煮やすことになるでしょう。研究者は基本的に誠実で理性的なので、交渉相手としては(通商や軍事に関わる難しい外交交渉とは違い)比較的議論しやすい人たちだと思います。しかし、だからといって「仏の顔も三度まで」と言う諺があるように優柔不断な態度を取り続けていると相手にしてもらえなくなります。個人的にはそれが不安でなりません。科学者はあいまいで政治的なやりとりは嫌いですからね。この件については、12月のエントリーに
現在日本が持っている掘削技術の発展には目覚ましいものがあります。大深度地下を走る高速道路(例えば、首都高環状線、現在工事中の東京外環道)、その他最近のトンネル工事の進捗の早さを考えれば、建設費用もこれまでの計画より軽減できる気がします。学術会議がいくら机上で議論したところで、実際に施設を建設するのは産業界の人達です。線形加速器そのものの建設についても日本の企業しか持ち合わせていない特殊技術があると聞いています。せっかく経済・産業界からの支援が得られたのだから、政府には日本主導でのILCの建設・運営を推進するべく意見のとりまとめを早急に行ってもらいたいです。日本が建設・運営の主導権を得れるのであれば予算負担率で多少(根拠はないですが75%ぐらいまで)譲歩してもいいのではないでしょうか。将来、平和で国際的な科学技術立国を目指す日本にとってこれほど魅力的なプロジェクトはないはずです。
次世代加速器「国際リニアコライダー」誘致 文科省が結論先送り(毎日新聞3/7付)
次世代加速器ILC 誘致検討へ米欧と意見交換 文科省が見解発表(産経新聞 3/7付)
「国際的な意見交換継続」 次世代加速器ILCの政府見解全文(産経新聞 3/7付)
誘致へ一歩、費用など難題も 次世代加速器ILC(産経新聞 3/7付)
ILC 議論継続へ(岩手日報号外 3/7付)
次世代加速器「現時点で誘致せず」=関心持ち、意見交換継続-文科省(岩手日日新聞 3/7付)
三番目の記事に政府見解全文が紹介されています。長くなりますがその全文を以下に引用します。
本日のリニアコライダー国際推進委員会開催にあたり、本レターを送付できることは大変光栄です。
国際リニアコライダー(ILC)計画は、国際的な研究者組織において検討が進められてきた素粒子物理学分野における学術の大型プロジェクトであると承知しています。
これまで我が国においては、ILC計画について、我が国の科学コミュニティの代表機関である日本学術会議における「国際リニアコライダー計画に関する所見(2013年9月)」を契機として、文部科学省において「国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議」を設置し、科学的意義、コスト及び技術的成立性、人材の確保・育成方策、体制及びマネジメントの在り方等の観点から、検証を進めてきました。
2017年11月には、ILCに関する国際的な研究者組織において、欧州CERNにおけるLHC実験を踏まえて、ILCの衝突エネルギーを500ギガ電子ボルトから250ギガ電子ボルトとする見直し案(250ギガ電子ボルトILC計画)が公表されました。
これを受けて、有識者会議においてILC計画について改めて検証を行い、2018年7月に「ILC計画の見直しを受けたこれまでの議論のまとめ」を取りまとめ、計画の全体像を可能な限り明確に示した上で、日本学術会議に対して、ILC計画について改めて審議を依頼しました。
2018年12月には、日本学術会議より文部科学省への回答として「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する所見」が取りまとめられ、「政府における、ILCの日本誘致の意思表明に関する判断は慎重になされるべきであると考える」とされました。
文部科学省においては、同所見の内容を精査しつつ、ILCに関する意義や効果について、学術的な観点のみならず、関係省庁とも連絡を密にして意見を聴取し、検討を行いました。
ここに現時点のILC計画に関する見解を述べます。
国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議による「ILC計画の見直しを受けたこれまでの議論のまとめ」を受け、日本学術会議が審議を行い公表した「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する所見」において、「現状で提示されている計画内容や準備状況から判断して、250ギガ電子ボルトILC計画を日本に誘致することを日本学術会議として支持するには至らない」「大型計画について学術会議として更に検討するとすれば、マスタープランの枠組みで行うのが適切」とされたことを踏まえ、ILC計画については、現時点で日本誘致の表明には至らないが、国内の科学コミュニティの理解・支持を得られるかどうかも含め、正式な学術プロセス(日本学術会議が策定するマスタープラン等)で議論することが必要であると考えます。
学術会議の提言を受け政府はやはり誘致には消極的でもしかしたら誘致断念の発表もあり得ると予想していましたが、昨日のエントリーで紹介したように経済界からの全面的な支援が得られたのだから、技術的・財政的な懸念材料は以前より軽減されるはずなので、誘致推進に向けて様々な意見を集約できるのではとも期待していました。結局、経済三団体の共同声明が2/20と遅すぎたきらいもあり、文科省としては意見のとりまとめを行う時間的余裕がなかったということでしょう。内情を知らない部外者から見れば、3ヵ月も待ってもらったのに、行政側のリーダシップが発揮されずガッカリとの印象を受けますが、(誘致断念へ傾いていた)政府としてはギリギリの判断だったのではないでしょうか。とにかく今日でILC誘致へ国としても一歩踏み出したと言えるのではないでしょうか。繰り返しになりますが経済・産業界からの後押し(推進要望の共同声明)が大きかった気がします。併せて、国外においても、欧州素粒子物理戦略等における議論の進捗(しんちょく)を注視することとします。
また、ILC計画については、日本学術会議の所見において、諸分野の学術コミュニティとの対話の不足、成果が経費に見合うか、技術的課題の克服、実験施設の巨大化を前提とする研究スタイルの持続性といった懸念が指摘されている一方、素粒子物理学におけるヒッグス粒子の精密測定の重要性に関する一定の学術的意義を有するとともに、ILC計画がもたらす技術的研究の推進や立地地域への効果の可能性に鑑み、文部科学省はILC計画に関心を持って国際的な意見交換を継続します。
文科省としても意見を取りまとめるには話が大きくなりすぎたのかもしれません。ILC建設推進議員連盟の方々は「ILCを国家プロジェクトと位置づける」とまで提言しているのだから、文部科学大臣の一存で決められるような事案ではなくなっています。内閣が鶴の一声で「推進」と言えば済むのですが、どうなのでしょう。ほぼ頓挫した海外への原発プラントの輸出を国家プロジェクトして押し進めるよりは、国内に国際的な素粒子加速器施設の建設を推進する方がよっぽど国民の支持を得られると思います。ただ、その内閣の特別機関の日本学術会議がILC誘致に否定的だから話がややこしくなっています。上記の政府見解においても学術会議の意見・役割には充分に配慮しているのが伺えます。柴山文部科学大臣は、そのあたりのことも考慮して直前までILC誘致の可否について明言は避けていました。以下の会見(平成31年3月5日)の冒頭部分をご覧ください。
これが政治と言ってしまえばそうなのでしょうが、あまりにも長期間結論を先送りしていると国際協力に積極的な研究者も業を煮やすことになるでしょう。研究者は基本的に誠実で理性的なので、交渉相手としては(通商や軍事に関わる難しい外交交渉とは違い)比較的議論しやすい人たちだと思います。しかし、だからといって「仏の顔も三度まで」と言う諺があるように優柔不断な態度を取り続けていると相手にしてもらえなくなります。個人的にはそれが不安でなりません。科学者はあいまいで政治的なやりとりは嫌いですからね。この件については、12月のエントリーに
と書きましたが、今も同じ気持ちです。大事なのはハッキリと日本の意思表明をすることです。最悪なのは、日本国内の意見を取りまとめることができず、欧米の代表者にあいまいな回答ばかりして不信感を持たれることです。そうなると将来日本の研究者は信頼できないと思われてしまいかねません。いまのエライ人たちはいいですが被害をこうむるのは将来のある若い人たちです。3月まであっというまです。その間、責任ある方にはどうかリーダーシップを発揮してもらって意見をとりまとめて欲しいです。
現在日本が持っている掘削技術の発展には目覚ましいものがあります。大深度地下を走る高速道路(例えば、首都高環状線、現在工事中の東京外環道)、その他最近のトンネル工事の進捗の早さを考えれば、建設費用もこれまでの計画より軽減できる気がします。学術会議がいくら机上で議論したところで、実際に施設を建設するのは産業界の人達です。線形加速器そのものの建設についても日本の企業しか持ち合わせていない特殊技術があると聞いています。せっかく経済・産業界からの支援が得られたのだから、政府には日本主導でのILCの建設・運営を推進するべく意見のとりまとめを早急に行ってもらいたいです。日本が建設・運営の主導権を得れるのであれば予算負担率で多少(根拠はないですが75%ぐらいまで)譲歩してもいいのではないでしょうか。将来、平和で国際的な科学技術立国を目指す日本にとってこれほど魅力的なプロジェクトはないはずです。
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