前回のnote15の続きです。(ノートはあと3つ!)今回はQCDの発展に歴史的に重要な深非弾性散乱を取り上げる。この実験によりクォーク(ファインマンはパートンと呼んでいたらしい)の存在が実証されQCDの研究が進んだ。ここでは例として電子eと陽子pの散乱について考える。
上記のように運動量を指定する。散乱後の陽子の状態をX、その運動量をPXとおく。基本的なローレンツ共役な変数はν=p⋅qとq2になる。ただし、q=k−k′とおく。相互作用のラグランジアンは
Lint=eAμJμ+eAμˉΨγμΨ
となる。ここで、Jμはハドロンの電磁カレント
Jμ=∑iQiˉqiγμqi
であり、iはフレーバーの指標である。
Qi=23 for qi=u, c, tQi=−13 for qi=d, s, b
散乱過程の振幅は(1)より
A=ie2√mEkVmE′kVMEpVˉuk′γμukδμνq2∫⟨X|Jν(x)|P⟩e−iqxd4x
とおける。Pは(4次元)運動量演算子なので
Jμ(x)=eiPxJμ(0)e−iPx
と表せる。よって、
∫d4x ⟨X|Jμ(x)|P⟩e−iqx=∫d4x e−i(p+q−PX)x⟨X|Jμ(0)|P⟩=(2π)4δ(p+q−PX)⟨X|Jμ(0)|P⟩
となる。
フラックスがF=1/Vとなる陽子の静止系(Ep=M)で考える。また、状態|X⟩にある粒子の波動関数因子(√mEVなど)は省略する。というのも、それらの因子はV→∞極限でローレンツ不変な形で位相因子に組み込まれるためである。式(3), (5)から散乱断面積は
dσ=∑k′,PX|A|2τF=V(2π)3d3k′∑Xe4VτmEkVmEk′V1V1q4τV(2π)4δ(p+q−PX) ×12∑s,s′(ˉusk′γμus′kˉus′kγνusk′)12∑P:偏極⟨X|Jμ(0)|P⟩⟨P|Jν(0)|X⟩=2πe4q4mEkmEk′[12∑s,s′(ˉusk′γμus′kˉus′kγνusk′)] ×[12∑P:偏極∑X(2π)3δ(4)(p+q−PX)⟨X|Jμ(0)|P⟩⟨P|Jν(0)|X⟩]d3k′(2π)3
ここで、
∑suskˉusk=k/+m2m
を用いると
2πe4q4mEkmEk′[12∑s,s′(ˉusk′γμus′kˉus′kγνusk′)]=2πe4q4mEkmEk′1212m⋅2mtr[(k′/+m)γμ(k/+m)γν]≃2πe4q4[kμk′ν+kνk′μ−δμνk⋅k′]2EkEk′
となる。ただしm=meは|→k|2あるいは|→k′|2に比べて充分小さいと仮定した。よって、散乱断面積は
dσ=2πe4q4[kμk′ν+kνk′μ−δμνk⋅k′]2EkEk′Wμνd3k′(2π)3
となる。ただし、Wμνは
Wμν=12∑P:偏極∑X(2π)3δ(4)(p+q−PX)⟨P|Jν(0)|X⟩⟨X|Jμ(0)|P⟩=12∑P:偏極∑X12π∫d4x e−i(p+q−PX)⟨P|Jν(0)|X⟩⟨X|Jμ(0)|P⟩=12∑P:偏極∑X12π∫d4x e−iq⟨P|Jν(x)|X⟩⟨X|Jμ(0)|P⟩=12∑P:偏極12π∫d4x e−iq⟨P|Jν(x)Jμ(0)|P⟩
で与えられる。これはさらに
Wμν=12∑P:偏極12π∫d4x e−iq⟨P|[Jν(x),Jμ(0)]|P⟩
と書き換えられる。交換子に出てくる余分な項 Jμ(0)Jν はデルタ関数 δ(4)(PX+q−p) を与えるが、これはWμνに寄与しない。というのも、このデルタ関数はPX0=M−q0を意味するが、実験室系ではq0=Ek−E′k>0なので、中間状態|X⟩のエネルギーはPX0=M−q0<Mとなるが、そのような状態は散乱過程に寄与しない。(つまり、陽子が崩壊するような状態は存在しない。)よって、q0が正となる状態|X⟩は存在しない。我々が関心を持つ現象はq0→∞の極限である。
qμWμν=qνWμν=0
を得る。これとWμνが運動量pμ, qμに依存するランク2のローレンツテンソルであることから、Wμνを次のように共変的に分解できる。
Wμν=W1(q2,ν)(δμν−qμqνq2)+W2(q2,ν)(pμ−p⋅qq2qμ)(pν−p⋅qq2qν)
ただし、W1, W2は冒頭に触れたように不変量q2, ν=p⋅qに依存するローレンツ不変な(標的原子核の)構造関数である。以下では式(7)を変形していく。以前と同様に電子質量を無視すると
k2=k′2≈0 , k2=|→k|2−E2k≈0 , |→k|≈Ek
q2=(k−k′)2≈−2kk′=−2(|→k||→k′|cosθ−EkEk′)≈2EkEk′(1−cosθ)=4EkEk′sin2θ2
[kμk′ν+kνk′μ−δμνk⋅k′](δμν−qμqνq2)=2kk′−4kk′−1q2(k⋅qk′⋅q+k⋅qk′⋅q−q2kk′)=−kk′−1q2(2k⋅qk′⋅q)≈−2kk′=q2よって、dσのうちW1による寄与は
dσ1=(e24π)2W12E2k1sin2θ2dEk′dΩ
となる。ただし、d3k′=E2k′dEk′dΩを用いた。
W2からの寄与は以下のように計算できる。
(kμk′ν+kνk′μ+q22δμν)(pμ−p⋅qq2qμ)(pν−p⋅qq2qν)=(kμk′ν+kνk′μ+q22δμν)(pμpν−p⋅qq2(pμqν+pνqμ)+(p⋅q)2q4qμqν)=2[k⋅pk′⋅p−p⋅qq2(q⋅kp⋅k′+p⋅kq⋅k′)+(p⋅q)2q4k⋅qk′⋅q]+q22p2−p⋅q2(2p⋅q)+(p⋅q)22q2
ここで、
pμ=(→0,iM) , k⋅p=−EkM , q⋅k=(k−k′)⋅k≈−k′⋅k , p⋅q=−M(Ek−Ek′)
k⋅pk′⋅p=EkEk′M2q⋅kp⋅k′+p⋅kq⋅k′≈k⋅k′(Ek′−Ek)M=k⋅k′p⋅q=−q22p⋅qk⋅qk′⋅q≈−k⋅k′k⋅k′=−q44
なので、
(kμk′ν+kνk′μ+q22δμν)(pμ−p⋅qq2qμ)(pν−p⋅qq2qν)=2[EkEk′M2−p⋅qq2(−q22p⋅q)+(p⋅q)2q4(−q44)]−q22M2−(p⋅q)2=2EkEk′M2(1−sin2θ2)+(p⋅q)2(1−12−12)=2EkEk′M2cos2θ2
となる。よって、
dσ2=(e24π)2M2W24E2kcos2θ2sin4θ2dEk′dΩ
式(11), (12)から全微分散乱断面積は
dσdEk′dΩ=α24E2ksin4θ2[2W1sin2θ2+M2W2cos2θ2]
で与えられる。ただし、α=e24πである。したがって、QCDの基本的な問いは式(8)で表されるWμνを如何にして計算するかということになる。
我々が関心があるのはz=q22p⋅qを一定に保ちながらq2とp⋅qを充分に大きくとる高エネルギー極限の現象である。これはx2が極小のときの[Jμ(x),Jν(0)]の振る舞いに注目するということを意味する。よって、式(8):
Wμν(p,q)=12∑P:偏極12π∫d4x e−iq⟨P|[Jν(x),Jμ(0)]|P⟩
を変形するのに以下の手法を用いる。
1.[Jμ(x),Jν(0)]を演算子積展開(OPE)を使って表す。この時、x=0での演算子Oi(0)とxの関数である係数Ci(x)を用いる。
2.Ci(x)のx-依存性あるいはq2-依存性は繰り込み群の方程式と⟨P|Oi(0)|P⟩のp-依存性を用いて評価される。
3.Ci(x)の繰り込み群方程式に現れる積分の初期値は、少なくともいくつかの特殊な場合において、自由場の計算から固定できる。
(以下の繰り込み群方程式の部分は天下り的な記述になっています。詳細に興味ある方は繰り込み群の教科書などを参照して下さい。)
演算子積展開(OPE)
A(x)B(0)=∑iCi(x,g,μ)Oi(0)
ここで、gは結合定数、μは繰り込み点 (reference point) を表す。n点グリーン関数にA,BおよびOiを挿入して以下のように表すこともできる。
G(n)AB=⟨0|T(A(x)B(0)n∏k=1ϕk(yk))|0⟩=∑iCi(x,g,μ)G(n)OiG(n)Oi=⟨0|T(Oi(0)n∏k=1ϕk(yk))|0⟩
qμ→λqμとスケール変換させるとグリーン関数は繰り込み群(RG)方程式
[(−∂∂lnλ+β(g)∂∂g+∑kγk)+(∑kdk−dA−dB)]G(n)AB=0
に従う。dA, dBは演算子A, Bの(質量単位での)次元である。G(0)Oiについても同様に
[−∂∂lnλ+β(g)∂∂g+∑k(γk+dk)−(γOi+dOi)]G(n)Oi=0
となる。これらより
[−∂∂lnλ+β(g)∂∂g+(dA+γA)+(dB+γB)−(γOi+dOi)]Ci=0
を得る。
A(x), B(0)の一般の場合を[Jμ(x),Jν(0)]の交換子に適用すると
[Jμ(x),Jν(0)]=∑n,i[−δμνyμ1yμ2⋯yμninC(n)1,i(y2,g,μ) +δμμ1δνμ2yμ3yμ4⋯yμnin−2C(n)2,i(y2,g,μ)]O(n)μ1μ2⋯μni(0)
と書ける。ここで、O(n)μ1μ2⋯μnは例えば
O(n)μ1μ2⋯μn=in−12n![ˉq(x)γμ1taDμ2Dμ3⋯Dμnq(x)+添え字の順列]
と表せる。O(n)の次元dimO(n)が共変微分のなめ添え字の数と共に増えるとすると、Ciのスケーリングを測る量は「ツイスト」
t(O(n))=dimO(n)−n
で与えられる。
式(8)を計算するには
12∑偏極⟨P|O(n)μ1μ2⋯μni(0)|P⟩=A(n)i(pμ1pμ2⋯pμn+δμ1μ2p2pμ3pμ4⋯pμn+⋯)
が必要となる。高次の項はx2≈0で無視できる。式(8), (16), (17)からWμνは
Wμν(p,q)=∑n,i∫d4x2π e−iq⋅x[δμν(x⋅p)nC(n)1,n(x2,g,μ)+pμpν(x⋅p)n−2C(n)2,i(x2,g,μ)]A(n)i=∑n,i[δμν2π(p⋅2q)n(∂∂q2)n∫C(n)1,n(x2,g,μ) e−iq⋅xd4x +12πpμpν(2p⋅q)n−2(∂∂q2)n−2∫C(n)2,i(x2,g,μ) e−iq⋅xd4x]A(n)i
と表せる。2p⋅q=q2/zとおくと、
Wμν(p,q)=∑n,i[δμν2πz−n[(q2)n(∂∂q2)n∫C(n)1,n(x2,g,μ) e−iq⋅xd4x]A(n)i +pμpν2πz−n+2[(q2)n−2(∂∂q2)n−2∫C(n)2,i(x2,g,μ) e−iq⋅xd4x]A(n)i] =12π∑n[δμνz−n(∑i˜C(n)1,iA(n)i)+pμpνz−n+12p⋅q(∑i˜C(n)2,iA(n)i)]
となる。ただし、
˜C(n)1,i=(q2)n(∂∂q2)n∫C(n)1,n(x2,g,μ) e−iq⋅xd4x˜C(n)2,i=(q2)n(∂∂q2)n−2∫C(n)2,i(x2,g,μ) e−iq⋅xd4x
である。˜C(n)1,i, ˜C(n)2,i共に 2−t(O(n))の次元を持つので、ツイストが2の演算子について対数的なq2-依存性しか持たない。式(18)はさらに
Wμν=δμνW1+pμpν2p⋅qW2W1=12π∑nz−n∑i˜C(n)1,iA(n)iW2=12π∑nz−n+1∑i˜C(n)2,iA(n)i
と書き換えられるが、これらは補正を受ける。補正項はδμνをδμν−qμqνq2=δμν−∂μ∂ν∂2と置き換えたり、pμ項について同様の置換をして得られる。式(19)から以下のことが分かる。
1.Wμνは高エネルギーでの近似的なスケール則を示す。これらはz=q22p⋅qの関数であり、q2とp⋅qに独立に依存しない。
2.˜Ciはq2に対して対数的に依存するのでこれらのスケール則はあくまで近似的なものである。したがって、スケール則に対する補正項は計算可能である。
もし˜Ciのq2-依存性が無視できる場合、クォークを自由場として扱うことに対応する。これはパートン模型近似と呼ばれる。˜Ciのq2-依存性は、q2が大きいとき走る結合定数αs(q2)は「小さい」ので、繰り込み群の改善された摂動論を用いて評価することが出来る。
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