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2021-09-09

QCD 量子色力学 note16: ハドロンとレプトンの深非弾性散乱

前回のnote15の続きです。(ノートはあと3つ!)今回はQCDの発展に歴史的に重要な深非弾性散乱を取り上げる。この実験によりクォーク(ファインマンはパートンと呼んでいたらしい)の存在が実証されQCDの研究が進んだ。ここでは例として電子eと陽子pの散乱について考える。
 

上記のように運動量を指定する。散乱後の陽子の状態をX、その運動量をPXとおく。基本的なローレンツ共役な変数はν=pqq2になる。ただし、q=kkとおく。相互作用のラグランジアンは
Lint=eAμJμ+eAμˉΨγμΨ
となる。ここで、Jμはハドロンの電磁カレント
Jμ=iQiˉqiγμqi
であり、iはフレーバーの指標である。
Qi=23  for  qi=u, c, tQi=13  for  qi=d, s, b
散乱過程の振幅は(1)より
A=ie2mEkVmEkVMEpVˉukγμukδμνq2X|Jν(x)|Peiqxd4x
とおける。Pは(4次元)運動量演算子なので
Jμ(x)=eiPxJμ(0)eiPx
と表せる。よって、
d4x X|Jμ(x)|Peiqx=d4x ei(p+qPX)xX|Jμ(0)|P=(2π)4δ(p+qPX)X|Jμ(0)|P
となる。

フラックスがF=1/Vとなる陽子の静止系(Ep=M)で考える。また、状態|Xにある粒子の波動関数因子(mEVなど)は省略する。というのも、それらの因子はV極限でローレンツ不変な形で位相因子に組み込まれるためである。式(3), (5)から散乱断面積は
dσ=k,PX|A|2τF=V(2π)3d3kXe4VτmEkVmEkV1V1q4τV(2π)4δ(p+qPX)                          ×12s,s(ˉuskγμuskˉuskγνusk)12P:偏極X|Jμ(0)|PP|Jν(0)|X=2πe4q4mEkmEk[12s,s(ˉuskγμuskˉuskγνusk)]  ×[12P:偏極X(2π)3δ(4)(p+qPX)X|Jμ(0)|PP|Jν(0)|X]d3k(2π)3
ここで、
suskˉusk=k/+m2m
を用いると
2πe4q4mEkmEk[12s,s(ˉuskγμuskˉuskγνusk)]=2πe4q4mEkmEk1212m2mtr[(k/+m)γμ(k/+m)γν]2πe4q4[kμkν+kνkμδμνkk]2EkEk
となる。ただしm=me|k|2あるいは|k|2に比べて充分小さいと仮定した。よって、散乱断面積は
dσ=2πe4q4[kμkν+kνkμδμνkk]2EkEkWμνd3k(2π)3
となる。ただし、Wμν
Wμν=12P:偏極X(2π)3δ(4)(p+qPX)P|Jν(0)|XX|Jμ(0)|P=12P:偏極X12πd4x ei(p+qPX)P|Jν(0)|XX|Jμ(0)|P=12P:偏極X12πd4x eiqP|Jν(x)|XX|Jμ(0)|P=12P:偏極12πd4x eiqP|Jν(x)Jμ(0)|P
で与えられる。これはさらに
Wμν=12P:偏極12πd4x eiqP|[Jν(x),Jμ(0)]|P
と書き換えられる。交換子に出てくる余分な項 Jμ(0)Jν はデルタ関数 δ(4)(PX+qp) を与えるが、これはWμνに寄与しない。というのも、このデルタ関数はPX0=Mq0を意味するが、実験室系ではq0=EkEk>0なので、中間状態|XのエネルギーはPX0=Mq0<Mとなるが、そのような状態は散乱過程に寄与しない。(つまり、陽子が崩壊するような状態は存在しない。)よって、q0が正となる状態|Xは存在しない。我々が関心を持つ現象はq0の極限である。

カレント保存則μJμ(x)=0より
qμWμν=qνWμν=0
を得る。これとWμνが運動量pμ, qμに依存するランク2のローレンツテンソルであることから、Wμνを次のように共変的に分解できる。
Wμν=W1(q2,ν)(δμνqμqνq2)+W2(q2,ν)(pμpqq2qμ)(pνpqq2qν)
ただし、W1, W2は冒頭に触れたように不変量q2, ν=pqに依存するローレンツ不変な(標的原子核の)構造関数である。以下では式(7)を変形していく。以前と同様に電子質量を無視すると
k2=k20 ,  k2=|k|2E2k0 ,  |k|Ek
q2=(kk)22kk=2(|k||k|cosθEkEk)2EkEk(1cosθ)=4EkEksin2θ2
[kμkν+kνkμδμνkk](δμνqμqνq2)=2kk4kk1q2(kqkq+kqkqq2kk)=kk1q2(2kqkq)2kk=q2
よって、dσのうちW1による寄与は
dσ1=(e24π)2W12E2k1sin2θ2dEkdΩ
となる。ただし、d3k=E2kdEkdΩを用いた。
W2からの寄与は以下のように計算できる。
(kμkν+kνkμ+q22δμν)(pμpqq2qμ)(pνpqq2qν)=(kμkν+kνkμ+q22δμν)(pμpνpqq2(pμqν+pνqμ)+(pq)2q4qμqν)=2[kpkppqq2(qkpk+pkqk)+(pq)2q4kqkq]+q22p2pq2(2pq)+(pq)22q2
ここで、
pμ=(0,iM) ,  kp=EkM ,  qk=(kk)kkk ,  pq=M(EkEk)
kpkp=EkEkM2qkpk+pkqkkk(EkEk)M=kkpq=q22pqkqkqkkkk=q44
なので、
(kμkν+kνkμ+q22δμν)(pμpqq2qμ)(pνpqq2qν)=2[EkEkM2pqq2(q22pq)+(pq)2q4(q44)]q22M2(pq)2=2EkEkM2(1sin2θ2)+(pq)2(11212)=2EkEkM2cos2θ2
となる。よって、
dσ2=(e24π)2M2W24E2kcos2θ2sin4θ2dEkdΩ
式(11), (12)から全微分散乱断面積は
dσdEkdΩ=α24E2ksin4θ2[2W1sin2θ2+M2W2cos2θ2]
で与えられる。ただし、α=e24πである。したがって、QCDの基本的な問いは式(8)で表されるWμνを如何にして計算するかということになる。

我々が関心があるのはz=q22pqを一定に保ちながらq2pqを充分に大きくとる高エネルギー極限の現象である。これはx2が極小のときの[Jμ(x),Jν(0)]の振る舞いに注目するということを意味する。よって、式(8):
Wμν(p,q)=12P:偏極12πd4x eiqP|[Jν(x),Jμ(0)]|P
を変形するのに以下の手法を用いる。

1.[Jμ(x),Jν(0)]を演算子積展開(OPE)を使って表す。この時、x=0での演算子Oi(0)xの関数である係数Ci(x)を用いる。
2.Ci(x)x-依存性あるいはq2-依存性は繰り込み群の方程式とP|Oi(0)|Pp-依存性を用いて評価される。
3.Ci(x)の繰り込み群方程式に現れる積分の初期値は、少なくともいくつかの特殊な場合において、自由場の計算から固定できる。

(以下の繰り込み群方程式の部分は天下り的な記述になっています。詳細に興味ある方は繰り込み群の教科書などを参照して下さい。)

演算子積展開(OPE)
A(x)B(0)=iCi(x,g,μ)Oi(0)
ここで、gは結合定数、μは繰り込み点 (reference point) を表す。n点グリーン関数にA,BおよびOiを挿入して以下のように表すこともできる。
G(n)AB=0|T(A(x)B(0)nk=1ϕk(yk))|0=iCi(x,g,μ)G(n)OiG(n)Oi=0|T(Oi(0)nk=1ϕk(yk))|0
qμλqμとスケール変換させるとグリーン関数は繰り込み群(RG)方程式
[(lnλ+β(g)g+kγk)+(kdkdAdB)]G(n)AB=0
に従う。dA, dBは演算子A, Bの(質量単位での)次元である。G(0)Oiについても同様に
[lnλ+β(g)g+k(γk+dk)(γOi+dOi)]G(n)Oi=0
となる。これらより
[lnλ+β(g)g+(dA+γA)+(dB+γB)(γOi+dOi)]Ci=0
を得る。

A(x), B(0)の一般の場合を[Jμ(x),Jν(0)]の交換子に適用すると
[Jμ(x),Jν(0)]=n,i[δμνyμ1yμ2yμninC(n)1,i(y2,g,μ)     +δμμ1δνμ2yμ3yμ4yμnin2C(n)2,i(y2,g,μ)]O(n)μ1μ2μni(0)
と書ける。ここで、O(n)μ1μ2μnは例えば
O(n)μ1μ2μn=in12n![ˉq(x)γμ1taDμ2Dμ3Dμnq(x)+添え字の順列]
と表せる。O(n)の次元dimO(n)が共変微分のなめ添え字の数と共に増えるとすると、Ciのスケーリングを測る量は「ツイスト」
t(O(n))=dimO(n)n
で与えられる。

式(8)を計算するには
12偏極P|O(n)μ1μ2μni(0)|P=A(n)i(pμ1pμ2pμn+δμ1μ2p2pμ3pμ4pμn+)
が必要となる。高次の項はx20で無視できる。式(8), (16), (17)からWμν
Wμν(p,q)=n,id4x2π eiqx[δμν(xp)nC(n)1,n(x2,g,μ)+pμpν(xp)n2C(n)2,i(x2,g,μ)]A(n)i=n,i[δμν2π(p2q)n(q2)nC(n)1,n(x2,g,μ) eiqxd4x         +12πpμpν(2pq)n2(q2)n2C(n)2,i(x2,g,μ) eiqxd4x]A(n)i
と表せる。2pq=q2/zとおくと、
Wμν(p,q)=n,i[δμν2πzn[(q2)n(q2)nC(n)1,n(x2,g,μ) eiqxd4x]A(n)i         +pμpν2πzn+2[(q2)n2(q2)n2C(n)2,i(x2,g,μ) eiqxd4x]A(n)i] =12πn[δμνzn(i˜C(n)1,iA(n)i)+pμpνzn+12pq(i˜C(n)2,iA(n)i)]
となる。ただし、
˜C(n)1,i=(q2)n(q2)nC(n)1,n(x2,g,μ) eiqxd4x˜C(n)2,i=(q2)n(q2)n2C(n)2,i(x2,g,μ) eiqxd4x
である。˜C(n)1,i, ˜C(n)2,i共に 2t(O(n))の次元を持つので、ツイストが2の演算子について対数的なq2-依存性しか持たない。式(18)はさらに
Wμν=δμνW1+pμpν2pqW2W1=12πnzni˜C(n)1,iA(n)iW2=12πnzn+1i˜C(n)2,iA(n)i
と書き換えられるが、これらは補正を受ける。補正項はδμνδμνqμqνq2=δμνμν2と置き換えたり、pμ項について同様の置換をして得られる。式(19)から以下のことが分かる。

1.Wμνは高エネルギーでの近似的なスケール則を示す。これらはz=q22pqの関数であり、q2pqに独立に依存しない。
2.˜Ciq2に対して対数的に依存するのでこれらのスケール則はあくまで近似的なものである。したがって、スケール則に対する補正項は計算可能である。

もし˜Ciq2-依存性が無視できる場合、クォークを自由場として扱うことに対応する。これはパートン模型近似と呼ばれる。˜Ciq2-依存性は、q2が大きいとき走る結合定数αs(q2)は「小さい」ので、繰り込み群の改善された摂動論を用いて評価することが出来る。

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