リー群には2つの側面がある。1つは当然ながら代数的側面、もう1つは幾何学的側面である。この章ではリー群の基本について簡単に紹介した後、主に後者の側面について考察する。また、リー群の既約表現とその物理問題への応用についてもレビューする。
12.1 リー群入門
群の定義
まず一般の群について考える。群 G の要素の集合を \{ a_i \} (i = 1,2, \cdots , {\rm dim} G) で表すと、群 G は次の公理で定義される。
1. 合成則のもとで集合は閉じている: a_i \cdot a_j \in G2. 単位元 {\bf 1} の存在: a_i \cdot {\bf 1} = {\bf 1} \cdot a_i = a_i3. 結合則が成り立つ: a_i \cdot ( a_j \cdot a_k ) = ( a_i \cdot a_j ) \cdot a_k4. 逆元の存在: a_i \cdot (a_{i}^{-1}) = {\bf 1} = (a_{i}^{-1}) \cdot a_i
要素の数 {\rm dim} G が有限の場合、G は有限群と呼ばれる。また、要素が無限にある場合、群は無限群と呼ばれる。
一般に、群は離散群と連続群(あるいは位相群)の2つに分類される。離散群の典型例は加法のもとでの整数の集合である。一方、連続群は群の要素をラベルするパラメターの連続的な集合で特徴付けられる。(例えば、加法のもとでの実数全体は連続群を成す。)そのようなパラメターがさらに微分可能である場合、連続群はリー群となる。
リー群の定義
リー群 G の要素を g (\th ) \in G とする。g (\th ) はパラメータ \th の関数であり、そのようなパラメータの数はリー群の要素の数 {\rm dim}G に対応する。このとき合成則は
g (\th ) \cdot g (\th^\prime ) \, = \, g \left( \bt( \th , \th^\prime ) \right) \tag{12.1}
と表せる。この合成則のもとでリー群は次のように定義される。
1. \bt ( \th , \th^\prime ) は \th と \th^\prime の解析関数である。2. g (\th ) \cdot g (\al ) = {\bf 1} となるパラメータ \al が存在する。このとき、パラメータ \al も \th の解析関数 \al = \al (\th ) で与えられる。
微分演算子
ここで、群の要素の解析性を議論するために微分の概念を導入する。群の要素 g = g(\th) の関数を f(g) とおく。パラメータ \th による f の微分は \frac{\d f}{ \d \th } = \frac{\d f}{\d g } \frac{\d g }{\d \th} と書ける。よって、解析性の要請から g( \th + d \th) を考える必要がある。ただし、d \th はパラメータ \th の無限小変位を表す。群の合成則のもとで、これは無限小の合成則
g (\th ) \cdot g ( d \th ) = g \left( \bt (\th , d \th ) \right) \tag{12.2}
を用いて考察できる。ただし、g( 0) = {\bf 1} とする。\bt ( \th , d \th ) を d \th で展開すると
\bt ( \th , d \th ) \, \simeq \, \bt ( \th , 0 ) + \frac{\d \bt (\th , 0 )}{ \d \th} d \th \, = \, \th + \frac{\d \bt}{\d \th} d \th \tag{12.3}
を得る。パラメータの数を N と仮定しすると、パラメータは \th^i (i = 1,2,\cdots , N) とラベルできる。このとき、(12.3)は
\bt^i \, \simeq \, \th^i + \frac{\d \bt^i}{\d \th^k} d \th^k \tag{12.4}
と表せる。よって、無限小の合成則(12.2)のもとでパラメータ \th^i の変位は(単に \th^i \rightarrow \th^i + d \th^i ではなく)\bt^i ( \th , 0) = \th^i \rightarrow \bt^i ( \th , d \th ) \simeq \th^i + E^{i}_{k} d \th^k で与えられる。ただし、
E^i_k \, \equiv \, \frac{\d \bt^i}{\d \th^k} \tag{12.5}
である。以上の考察から、微分演算子
X_{i} \, = \, (E^{-1})^k_i \frac{\d}{\d \th^k} \tag{12.6}
は群の要素の任意の関数上で無限小の合成則を生成することが分かる。これはリー群においてカギとなる概念である。微分演算子 X_i の交換関係は次のように計算できる。
\begin{eqnarray} \left[ X_i , X_j \right] &=& \left[ (E^{-1})^k_i \frac{\d}{\d \th^k} , \, (E^{-1})^l_j \frac{\d}{\d \th^l} \right] \nonumber \\ &=& \left[ (E^{-1})^k_i \frac{\d (E^{-1})^l_j }{\d \th^k} - (E^{-1})^j_k \frac{\d (E^{-1})^l_i }{\d \th^k} \right] \frac{\d}{\d \th^l} \nonumber \\ &=& \left[ (E^{-1})^k_i \frac{\d (E^{-1})^l_j }{\d \th^k} - (E^{-1})^j_k \frac{\d (E^{-1})^l_i }{\d \th^k} \right] E^m_l \underbrace{(E^{-1})^n_m \frac{\d}{\d \th^n}}_{= \, X_m} \nonumber \\ & \equiv & C_{ij}^{m} \, X_m \tag{12.7} \end{eqnarray}
ただし、C_{ij}^{m} は
C_{ij}^{m} \, = \, E^m_l \left( (E^{-1})^k_i \frac{\d (E^{-1})^l_j}{\d \th^k} - (E^{-1})^k_j \frac{\d (E^{-1})^l_i}{\d \th^k} \right) \tag{12.8}
と定義される。一般に、C_{ij}^{m} はパラメータ \th^i の関数である。
リーの第1定理
リーの第1定理の主張は以下の通り。
リー群において C_{ij}^{m} は定数であり、パラメータ \th^i に依らない。
これは C_{ij}^{m} の値を評価するに当たり、\th = 0 の近傍を考えるだけでよいことを意味する。言い換えると、リー群の広域的な構造を局所的な解析から求めることができる。この意味で、リーの第1定理は複素解析のコーシーの積分定理と類似している。定数 C_{ij}^{m} は構造定数と呼ばれる。
リー群の解析の多くは原点 \th = 0 近傍の展開式を用いて実行できる。例えば、単位元近傍の群の要素は g (d \th) \simeq 1 + i T_k d \th^k とパラメータ表示できる。ただし、T_k = T_k (\th) は一般に \th^i の関数である。このとき、無限小の合成則(12.2)は
g (\th ) \cdot g ( d \th ) \, \simeq \, g ( \th ) \left( 1 + i T_k d \th^k \right) \tag{12.9}
と表せる。これを関係式
g (\th ) \cdot g ( d \th ) \, = \, g \left( \bt (\th , d \th ) \right) \, \simeq \, g ( \th^i + E_k^i d \th^k ) \, = \, g + d g \tag{12.10}
と比較すると、
g^{-1} d g \, = \, i T_k d \, \th^k \tag{12.11}
を得る。これより T_k = - i E_k^i \frac{\d}{\d \bt^i} = - i \frac{\d}{\d \th^k} が分かるので微分演算子は X_k = i (E^{-1} )_k^l T_l と表せる。次節では SU(2) 群における T_k (\th) の形を具体的に導出する。
リー代数
一般に、代数はベクトル空間 V を成す要素の集合 \{ t_a \} で定義される。すなわち、\{ t_a \} \in V (a = 1,2, \cdots, \dim V ), \al t_a + \bt t_b \in V とおける。(\al, \bt は体の係数。) そのような要素に対してブラケット演算子 \{ t_a , t_b \} を考える。その典型例として、ポアソン括弧 \{ t_a , t_b \} = C_{ab}^{c} t_c がある。ただし、C_{ab}^{c} は定数。ブラケット演算子は一般に写像 V \times V \rightarrow V を与える。リー代数はこの演算子に対して
(i) 反対称性 \{ t_a , t_b \} = - \{ t_b , t_a \} と
(ii) ヤコビ律 \{ t_a , \{ t_b , t_c \} \} + \{ t_b , \{ t_c , t_a \} \} + \{ t_c , \{ t_a , t_b \} \} = 0
を課すことによって定義される。ポアソン括弧の定数 C_{ab}^{c} を用いて言い換えると、リー代数は条件式
\begin{eqnarray} C_{ab}^{c} + C_{ba}^{c} &=& 0 \tag{12.12} \\ C_{ab}^{d} C_{cd}^{e} + C_{bc}^{d} C_{ad}^{e} +C_{ca}^{d} C_{bd}^{e} &=& 0 \tag{12.13} \end{eqnarray}
で定義される。ヤコビ律(12.13)は添え字 (a, b, c) についての巡回和で表せることに注意しよう。
リーの第2定理
リーの第2定理の主張は以下の通り。
微分演算子 X_i = (E^{-1})^k_i \frac{\d}{\d \th^k} はリー代数の(基底)要素を成す。任意のリー群 G に対して、対応するリー代数 G が存在する。
言い換えると、微分演算子 X_i と要素 t_a の間に対応関係がある。この主張の逆は次のようになる。
任意のリー代数 G に対して、対応するリー群 \widetilde{G} を構成できる。(群の要素を \widetilde{g} = \exp ( i t_a \th^a ) とすればよい。)ただし、この \widetilde{G} はユニークには決まらない。より正確には、\widetilde{G} は単連結型の G(G は上記のリー群)であり、単連結普遍被覆群と呼ばれる。