2022-11-01

最近読んだ本:奇才・香川宜子さん(徳島の誇大妄想おばちゃん)の2作品

1つ目は『アヴェ・マリアのヴァイオリン』(電子書籍)


です。著者の香川宜子(よしこ)さんは徳島市在住の内科医で娘さんのバイオリンを新調する際に出会ったバイオリンに感化されて物語を一気に書き上げたそうです。初めは自費出版だったそうですが、国内外で話題になり角川書店から商業出版されました。私は楽器演奏には全く興味なかったのですが、下の娘が3歳の時に妻がバイオリンを習わせたのでここ数年、子供のバイオリン教室(スズキメソード)への付き添いを不定期にしています。当初はユーモレスクぐらい弾けるようになれば辞めてもいいのではと思っていましたがまだまだ続けるみたいです。香川さんの娘さんもスズキメソードのようですし内科医というのも妻と同じなのでそのような方がバイオリンをテーマにどのような物語を紡ぐのか興味があり手に取りました。

お医者さんが初めて著した小説なので仕方のない部分もあるでしょうが、言いたいことが溢れすぎて時に飛び散り過ぎてまとまりにに欠ける印象でした。読書感想文の課題図書として読まされる高校生には読みづらかったのではないでしょうか?冒頭の徳島の女子高生の進路についての悩みから突然、第二次世界大戦中のドイツ、アウシュヴィッツへと話が移りそちらの悲惨な話がメインになりながら途中、第一次世界大戦時に徳島の板東で捕虜になったドイツ人音楽家のエピソードが入ってきて最後にまた現在に戻るという展開。状況的に我が家の娘も冒頭の徳島の女子高生と似たような経験をしそうなので私としてはそちらの話を深掘りして欲しかったのですが、まさかのアウシュヴィッツの話。心の準備が出来ていなかったので読み進めるのが大変でした。

以前こちらでも指摘したとおり他国の戦争を舞台にしたフィクションは史実と創作がない交ぜになり読者は作品を歴史として理解すればいいのかエンターテイメントとして楽しめばいいのか線引きが難しくなるので作家の方には史実と創作部分を「あとがき」にでもいいので明示してもらいたいと思います。とは言え、内容は中学生の時の宿題で読んだ『アンネの日記』に重なる部分があり、若い学生には是非知ってもらいたいものでした。ハリウッドで映画化の話が出たというのも当然でしょう。ただ、繰り返しになりますが、当事者による独白ではないのでどこまでが著者による創作なのか不明である点には注意が必要です。

個人的には編集者に標準語に直される前の徳島弁の部分を残してもらいたかったなぁと思いました。著者のインタビュー動画があるので興味ある方はまずこちらをご覧になることをお勧めします。


動画でも紹介されている通り阿波とユダヤ人の関係を調べて行くうちに色々と不思議なことに気付かれたそうです。以前こちらでも取り上げましたが、古事記・日本書紀の神話の舞台が阿波である可能性が長らく指摘されています。神話に関連する神社、地名、史跡が徳島に多いことから、第三者の客観的な視点からも信憑性が高いように感じます。私はこれまでに二度剣山地を訪れ、家族と三嶺、剣山に登りましたが、それも阿波古事記研究会の方々の研究成果に感化されたからでした。(古代史や日本人のルーツに興味のない家族には迷惑だったでしょうが。)香川さんも地元の研究者の方々からの情報提供を元に色々とリサーチなさったようです。その成果を虚心坦懐にまとめたものがこれ。


『ユダヤアークの秘密の蓋を開いて 日本から《あわストーリー》が始まります』(ヒカルランド、2016年)タイトルからして怪しさ満点で、出版社もトンデモ系のようなので購入するか迷いましたが買って正解でした。徳島の地図(グーグルマップ)を参照しながら興味深く読み進め、先日読了。国譲りの話や神武東征の話など神話の舞台がすべて阿波で完結しているのに改めて驚きました。学術的な裏付けには欠けるものの関連する地名、神社の具体名が出てくるのには説得力がありました。これまで知りたくても知りようの無かった事柄が多く記述されており興味深かったです。次回、徳島に行く機会があれば気延山、眉山、高越山に登ってみたいと思います。

通説とは異なる解釈なので賛否あるでしょうが専門家・学者の方の意見はどうなのでしょうか?例えば、本書では本居宣長の『古事記伝』が度々批判されていましたが、そのような批判は初めて目にするので新鮮でした。確かにフィールドワークもせずに文献渉猟だけで古事記が解読できるとは思えません。この他、著者の直観力には女性ならではの大胆さがあり、御主人が誇大妄想狂だよと言う気持ちも分かります。内科医として経済的にも十分自立し、子育ても終えられて時間に余裕もあるため何のしがらみもなく自由気ままに執筆されている様子が伺え読んでいてこちらも楽しくなりました。著者は使命感に導かれて本書を著したとのこと。奇特な本です。ただ、内容の真偽については読者自身で判断するしかなさそうですね。

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